環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成25年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部>第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用~豊かな自然共生社会の実現に向けて>第1節 失われゆく野生生物

第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用~豊かな自然共生社会の実現に向けて

 第2章では、我が国の生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取組について記述します。はじめに、平成24年8月及び25年2月に公表した第4次レッドリストの内容を中心に野生生物の現状についてふれ、続いて、平成24年9月に閣議決定された生物多様性国家戦略の5つの基本戦略に沿って、それぞれに関連する取組を報告します。また、東日本大震災からの復興・再生に向けた自然共生社会づくりの取組について記述します。

第1節 失われゆく野生生物

 地球上には500万~3,000万種とも言われるほどの多くの生物が存在します。そしてそれらは生態系という一つの環のなかで深くかかわり合い、つながりあって生きており、二酸化炭素の吸収、気温湿度の調整、土壌の形成などさまざまな働きを通して、人間にとって欠くことのできない生存基盤を提供しています。しかし現在では、その多くが人間の活動によって生存を脅かされており、かつて無いスピードで多くの生きものが絶滅しつつあります。

1 世界の野生生物の現状

 世界で確認されている生物の種の総数は約175万種であり、まだ知られていない生物も含めた地球上の総種数を500万~3,000万種とすれば、6~35%しか確認されておらず、世界の野生生物は依然として未知の部分が大きいと言えるでしょう。

 世界の野生生物の絶滅のおそれの現状を把握するため、IUCN(国際自然保護連合)ではレッドリストを作成しています。レッドリストとは、個々の種の絶滅の危険度を評価して、絶滅のおそれのある種(絶滅危惧種)を選定し、リストにまとめためものです。平成24年2月に公表されたIUCNのレッドリストでは、既知の約175万種のうち、65,518種について評価されており、その割合は約4%と少ないですが、そのうちの約3割が絶滅危惧種として選定されています。哺乳類、鳥類、両生類については、既知の種のほぼ全てが評価されており、哺乳類の2割、鳥類の1割、両生類の3割が絶滅危惧種に選定されています。また絶滅したと判断された種は、795種(動物705種、植物90種)となっています(図2-1-1)。国連で平成13~17年に実施されたミレニアム生態系評価では化石から当時の絶滅のスピードを計算しており、100年間で100万種あたり10~100種が絶滅していたとしています。過去100年間で記録のある哺乳類、鳥類、両生類で絶滅したと評価されたのは2万種中100種であり、これを100万種あたりの絶滅種数とすると5,000種となるため、過去と比較して絶滅のスピードが増していることが分かります。


図2-1-1 世界自然保護連合(IUCN)による絶滅危惧種の評価状況

2 日本の野生生物の現状

 日本で確認されている生物の種の総数は約9万種であり、まだ知られていない生物も含めると30万種を越えると推定されており、約3,800万haという狭い国土面積(陸域)に多様な生物が生息しています。また、陸生哺乳類、維管束植物の約4割、爬虫類の約6割、両生類の約8割が日本のみに生息する生物(日本固有種)であり、その割合が高いことも特徴です。

3 第4次レッドリスト

 環境省では日本の野生生物の現状を把握するため、平成3年に「日本の絶滅のおそれのある野生生物」を発行して以降、定期的にレッドリストの見直しを実施してきました。

 平成24年8月及び25年2月に第4次レッドリストを公表しました。絶滅のおそれのある種として第4次レッドリストに掲載された種数は、10分類群合計で3,597種であり、平成18~19年度に公表した第3次レッドリストから442種増加しました(表2-1-1)。


表2-1-1 日本の絶滅のおそれのある野生生物の種数

 今回の見直しから干潟の貝類を初めて評価の対象に加えたという事情はありますが、我が国の野生生物が置かれている状況は依然として厳しいことが明らかになりました。

 今回、新たに絶滅と判断された種が、哺乳類で3種、鳥類で1種、昆虫類で1種、貝類で1種、植物I(維管束植物)で2種ありました。(絶滅種一覧表参照)一方で、これまで絶滅したと思われていた種が再発見される等により、絶滅ではなくなった種が、魚類で1種(クニマス)、貝類で4種(ヒラセヤマキサゴ、ハゲヨシワラヤマキサゴ、キバオカチグサ、ナカタエンザガイ)、植物I(維管束植物)で3種(シビイタチシダ、ハイミミガタシダ、タイヨウシダ)、植物II(維管束植物以外)で4種(ヒカリゼニゴケ、チュウゼンジフラスコモ、コバノシロツノゴケ、ヒュウガハンチクキン)ありました(表2-1-2)。なおレッドリスト関連資料は環境省ホームページからダウンロード可能です。


表2-1-2 脊椎動物及び維管束植物の絶滅種一覧

4 今後の絶滅危惧種の保全のための取組

 人間にとって欠くことのできない生存基盤を提供している野生生物の保全は、大変重要な取組です。環境省では、まずは新たなレッドリストについて広く普及を図ることで、多くの方に日本の絶滅危惧種の現状及びその保全への理解を深めるとともに、各種事業計画の実施に当たって配慮等を一層促していきます。

 また、レッドリストの掲載種の中で特に保護の優先度が高い種については、生息状況等に関する詳細な調査の実施等により更なる情報収集を行い、その結果及び生息・生育地域の自然的・社会的状況に応じて絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号。以下「種の保存法」という。)に基づく国内希少野生動植物種に指定する等、必要な保護措置を講じていきます。

 平成25年3月には、中央環境審議会より、「絶滅のおそれのある野生生物の保全につき、今後講ずべき措置について」の答申を得、第183回国会に罰則の強化等を図る種の保存法の改正案を提出しました。

ニホンウナギが新たに絶滅危惧種に選定されました

 環境省では、平成25年2月に汽水・淡水魚類の新しいレッドリストを公表し、これまで生態に関して不明な部分が多いことから情報不足(DD)としていたニホンウナギを、初めて絶滅危惧IB類に選定しました。

 ニホンウナギは、マリアナ諸島の西海域で産卵し、孵化した後、日本、台湾、中国などの河口部にシラスウナギとして到達。河川を遡上して親ウナギに成長します。養殖ウナギとは、シラスウナギを捕獲し、人工的に育てたもので、養殖とは言っても、天然のものに依存している状況です。

 レッドリスト自体には捕獲禁止などの法的な拘束力はなく、選定されたことにより直ちに食べられなくなるということはありませんが、その保全を進めていくことは大切です。ニホンウナギの保全については、国による国際的な資源管理の枠組みの構築や、県による漁獲調整、研究者による生態調査や養殖技術の開発など、さまざまな主体により進められています。

 日本人にとって身近な生きものであるニホンウナギにも絶滅のおそれが高まっている状況から、私たちは改めて生物多様性という自然の恵みの中で生きており、身近な自然を守り、共存していくことが重要であることを認識しなければなりません。


ウナギ

ニホンカワウソ(本州以南亜種)の絶滅

 ニホンカワウソは河川の中下流部・海岸部に生息し、主として魚や甲殻類を食べるイタチ科の哺乳類です。明治時代以前には、全国各地の河川や湿地で普通に見られていた動物であり、明治元(1868)年には東京の荒川でも記録が残っています。また、カッパのモデルになった動物のひとつとされていることなどからも、人間のごく身近に生息していた生きものであることが分かります。しかし、明治時代にニホンカワウソの毛皮を目的とした過度な捕獲が行われたことにより、日本各地からその姿は急速に消えていきました。1928年にようやくニホンカワウソの捕獲が禁止されましたが、本州で生き残ったわずかなニホンカワウソは、1959年に富山県朝日町で報告されたのを最後に記録はありません。

 一方、四国でも愛媛県や高知県を中心に1960年代まで、年間10頭程度の記録がありましたが、高度経済成長による水質悪化や周辺域の開発など、生活環境の変化も要因のひとつとなっていて、減少に追い打ちをかけました。そして1979年、高知県須崎市の新荘川での目撃が最後の生息記録となっています。

 その後、当時の環境庁や高知県などがたびたび生息調査を実施してきましたが、確かな生息情報を得ることができていません。このような生息確認調査等の結果から、ニホンカワウソのような中型の哺乳類が人目につかないまま長期間生息し続けていることは考えにくいため、環境省第4次レッドリストでは、ニホンカワウソが絶滅したものと判断しました。


ニホンカワウソ