総合環境政策

(参考)環境報告書の記載事項等の策定について

一.趣旨、目的及び背景

 今日の環境問題に的確に対応し、環境と経済が好循環する持続可能な社会を構築していくためには、事業者の自主的・積極的な環境配慮の取組が極めて重要となっている。こうした中、我が国では、環境報告書の作成・公表や環境マネジメントシステムの構築等、様々な手段を通じて、自ら進んで環境配慮を事業活動に組み込む事業者が増加しつつある。
 様々な環境配慮の手段の中でも、環境報告書は、事業者が、社会に対して自ら開いた窓というべきものであり、事業者と様々な利害関係者との間のコミュニケーション手段として重要な役割を担うものである。環境報告書の普及によって、積極的に環境保全に取り組む事業者が関係者の理解や協力を得やすくなり、環境配慮の取組の促進に大きく寄与すると考えられる。事業者による自主的・積極的な環境配慮の取組を広めていくためには、環境報告書について、その信頼性、比較可能性の向上を図り、また、環境報告書の取組の裾野の拡大を推進するための制度的枠組みが必要となっている。
 このような情勢にかんがみ、政府の規制改革推進3か年計画でも取り組むこととされている環境報告書の普及及び信頼性の確保のための措置を講じ、特定の公的事業を行う者に対して環境報告書の作成・公表を義務づけること等により、環境に配慮した事業活動の促進を図るため、「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律」が平成16年5月に成立した。
 本法においては、事業者による環境報告書の作成・公表を促進するため、環境報告書に記載し、又は記録すべき事項及びその記載又は記録の方法(以下「記載事項等」という。)を定めることとされている。具体的には、事業者、学識経験者、あるいはこうした方々によって組織された団体等からのご意見も踏まえて、平成17年3月に策定、告示された。
 この記載事項等の取扱いは、一定の要件を満たした公的な法人である特定事業者(*)においては、記載事項等に従って環境報告書を作成・公表するように努めることとされている(法第9条第2項)ほか、民間の大企業者においても、記載事項等に留意して環境報告書を作成するように努めることとされている(法第11条第1項)。今後は、記載事項等が環境報告書の基礎として、幅広い事業者において活用されていくことが期待されている。

(*)特定事業者とは、本法第2条第4項の規定に基づき、特別の法律によって設立された法人であって、その事業の運営のために必要な経費に関する国の交付金又は補助金の交付の状況その他からみたその事業の国の事務又は事業との関連性の程度、協同組織であるかどうかその他のその組織の態様、その事業活動に伴う環境への負荷の程度、その事業活動の規模その他の事情を勘案して政令で定めるものをいう。

二.環境報告書の記載事項等についての考え方

 記載事項等は、これから初めて環境報告書の作成・公表に取り組む事業者、あるいは環境報告書に取り組んで間もない事業者を対象として、環境報告書に最低限記載すべきと考えられる事項を掲げたものである。しかしながら、事業活動の実情に応じて事業者が主体的に環境報告書の記載内容を充実させていくことが求められていることはいうまでもない。このため、環境報告書を作成・公表する各事業者においては、以下の事項についても留意が必要である。

(1)環境報告書の活用意義

 環境報告書は、事業者が社会に対して開いた窓であり、環境情報を共有し、環境コミュニケーションを図るための重要なツールである。
 利害関係者は環境報告書を通して、その事業者が環境問題についてどのように考え、どのように対応しようとしているのかを知ることができ、一方で、事業者は環境報告書に対する反応から、利害関係者が事業者に何を求め、事業者の取組をどのように評価しているかを知ることができるものである。

(2)創意工夫による記載内容の充実

 環境報告書の意義に照らせば、記載事項等に掲げられていない項目についても、どのような情報が主たる利用者の判断に資する有用な情報であるかを考慮しながら事業活動の実情に応じて事業者が創意工夫を凝らし、可能な範囲で段階的に環境報告書の記載内容を充実させていくべきものである。
 すでに国内外で発行されている環境報告書に関するガイドライン等を参考にしつつ、さらに利害関係者との積極的なコミュニケーションを通じて、今後、一層の自主的かつ積極的な発展が期待される。

(3)環境報告書の記載事項等の内容

 環境報告書の記載事項等として提示された七項目の具体的な内容については、事業者が自主的に決定して記載するものであるが、それぞれの項目の記載に当たって参考となるような事項を以下に掲げる。

  1. 事業活動に係る環境配慮の方針等について
     事業者が環境配慮の取組を推進していくためには、代表者が環境配慮の取組の必要性や環境への負荷の程度、環境配慮等の状況に関する計画等や現在の状況について、十分な認識を持つことが必要不可欠であることから、「緒言」には、事業活動に係る環境配慮について、社会に対するコミットメントとして、代表者自らの認識又は見解を記載することが望ましい。
  2. 主要な事業内容、対象とする事業年度等について
     事業者の事業活動の状況を把握し、環境報告書に記載された情報を正しく理解するためには、事業者の基礎的な情報や環境報告書の前提となる情報が記載されることが望ましい。環境報告書の記載対象とする「組織の範囲」については、環境報告書全体の記載対象とする組織の範囲と個別の環境配慮の取組の状況の記載対象とした組織の範囲とが異なる場合には、それぞれの対象とする範囲を記載することが望ましい。
  3. 事業活動に係る環境配慮の計画について
     環境配慮の計画には、具体的な目標と目標達成のための取組が含まれ、数値を活用して記載することが望ましいが、事業者の取組の状況によっては、数値を用いることが困難な場合もあるため、そのような場合には定性的な記述によることも可能である。
  4. 事業活動に係る環境配慮の取組の体制等について
     環境配慮についての目標を達成するためには、そのための取組を行う体制や運営についてのルールが必要不可欠である。しかし、必要となる体制や運営方法は事業者によって様々であるため、例えば、組織横断的な委員会の設置やISO14001の認証を受けている事業者であればその状況を記載するなど、事業者それぞれの実情に応じた内容を記載することが望ましい。
  5. 事業活動に係る環境配慮の取組の状況等について
     環境への負荷の程度を示す数値の記載又は記録にあたっては、環境報告書の記載内容を充実させる観点から、著しい影響をもつか又はもちうる環境への負荷に配慮し、重要な環境への負荷の程度を示す数値を選択すべきである。このように、環境への負荷の程度を示す数値の種類は、事業活動の内容や事業環境によって異なり、一律に決定されうるものではない。
     一方で、環境報告書に取り組んで間もない事業者に対して、事業活動の特性を加味した環境配慮の取組等の例を示すことは有用であるので、以下に参考として掲げる。
    • 物品等の調達規模の大きな事業者:
      グリーン購入・調達の状況(割合など)
    • 事業活動に伴うエネルギー利用規模の大きな事業者:
      エネルギーの投入量(各エネルギーを熱量に換算するなど)
    • 事業活動への資源の投入規模の大きな事業者:
      資源の投入量(重量など)
    • 事業活動への水資源の投入規模の大きな事業者:
      水の使用量又は利用量
    • 事業活動からの環境負荷物質の排出規模の大きな事業者:
      温室効果ガスの排出量(二酸化炭素重量に換算するなど)
      その他の排出規制物質の排出量
      土壌汚染の状況
    • 特定の有害物質を大量に取り扱う事業者:
      化学物質排出量及び移動量(重量)
    • 廃棄物等が大量に発生する事業者:
      廃棄物等の排出量(重量又は体積)
    • 事業活動に伴う物流規模の大きな事業者:
      輸送量(運搬重量と距離の積など)
    • 事業活動に伴う潜在的な環境リスクが大きな事業者:
      環境リスク対策の状況
  6. 製品等に係る環境配慮の情報について
     環境への負荷の低減に資する製品その他の物又は役務(調査、研究及び教育を含む)を製造、提供等している場合には、それらを購入又は利用しようとする他の事業者や消費者等への情報提供の観点から、環境への負荷の低減に関して、その主要な内容(環境への負荷の低減に寄与する機能、期待される効果、環境への負荷の程度及び低減の実績など)を記載することが望ましい。
  7. その他について
     事業者においては、事業者を取り巻く多様な利害関係者と環境情報を共有し、コミュニケーションを図ることが望ましい。このため、環境報告書の作成・公表にとどまらず、報告書の利用者等との交流を深めるために行った取組(アンケートの実施、対話集会の開催など)があれば、その概要を記載することが望ましい。環境関係法令に基づく規制について行った対応等の概要には、法令違反、環境関係の訴訟事件の状況、事業所周辺の住民等による苦情の状況、環境に影響を及ぼす構内災害や事故などのうち重要なものがあれば、組織にとって不利益をもたらす可能性のある情報についても、今後の改善や再発防止等の対策を含めて記載することが望ましい。

(4)環境報告書の公表方法

 環境報告書の公表方法としては、より多くの利害関係者の目に触れる機会を作ることが望ましい。具体的な方法としては様々なものが考えられるが、例えば、環境報告書として冊子を作成して配布する方法、インターネット上の事業者自身のホームページ(ウェブページ)に環境報告書として必要な情報を掲載する方法、組織の事業報告書等の一部分に環境報告書の記載事項を含めて必要な情報を掲載する方法などが考えられる。どのような方法で環境報告書を公表するかは、環境報告書の利用者の利便性を考慮し、事業者が自ら有効な媒体と判断した方法によることが望ましい。

(注)本参考資料は、平成16年12月に実施した公開草案に対する意見募集の際に、「環境報告書の記載事項等(案)」の理解を促すために添付された参考資料「環境報告書の記載事項等(案)の策定について」を元に、環境省総合環境政策局環境経済課で作成したものです。