野生復帰したトキ(野生絶滅)
野生復帰したトキ(野生絶滅)
トキはかつて日本全国に生息していましたが、明治から乱獲で減少し、1981年を最後に日本の自然から姿を消しました。しかし、生息域外保全により飼育・増殖技術を開発した後、2004年から佐渡トキ保護センターを中心に野生復帰に取り組んでいます。


トキの野生復帰のための生息地整備の作業風景(新潟県佐渡市)
トキの野生復帰のための生息地整備の作業風景(新潟県佐渡市)
現在、野生復帰の取り組みをしているトキのために、餌となる生きものが多く住めるような生息地の整備をおこなっています。



野生復帰したコウノトリ(絶滅危惧ⅠA類)の繁殖
野生復帰したコウノトリの繁殖
兵庫県豊岡市にあるコウノトリの郷公園では、日本でもいち早く野生復帰に取り組んできました。現在は、野生復帰した個体が繁殖する状況になってきています。



ナゴヤダルマガエル(個体)
ナゴヤダルマガエル


コシガヤホシクサの野生復帰モニタリング調査(茨城県下妻市)
ナゴヤダルマガエルの野生復帰場所の整備(広島県世羅町)
広島県立安佐動物公園を中心に、地元農家や研究者の協力を得て、人工的に本種の住みよい環境を整備しています。
ステップ4 生息域への野生復帰
施設で育てた生きものを生息地に戻す取り組みです。
ただし、現地の自然環境に大きな影響を与えるので、必ずしもおこなうステップ
ではありません。



 施設の中で育てた個体を再び生息地へ戻して、個体数を回復させる取り組みを「野生復帰」といいます。野生に戻した個体が本来の生息地で子孫を残して数を増やしていけば、絶滅回避に向けた大きな成果となります。

野生復帰の慎重な判断

 野生復帰は大きな成果が期待される一方で、餌となる生きものを減少させたり、気付かずに病原体や寄生虫を持ち込んで感染させたりするなど、他の生きものに悪い影響を及ぼすおそれもあります。
 このため野生復帰では、考えられる良い影響と悪い影響を比較して、専門家のもとで慎重に判断をする必要があります。もとの生息環境の改善だけでも効果があると判断される場合などには、必ずしもおこなわなければならないステップではありません。
 なお、野生復帰をおこなうと判断した場合には、事前に詳細な計画を立ることが重要です。

野生復帰の準備

 野生復帰をおこなう前には、それぞれの生きものの特性や生息環境、減少の原因などに合わせて、以下の2つのポイントに注意した入念な準備が必要です。

ポイント1 野生復帰させる個体の準備
 生きものの特性や生息地の広さに合わせて、最も生存に適した成長段階の個体を、適切な時期に必要な数だけ準備します。例えば、鳥類の場合は成鳥や卵、植物では株や種子などです。さらに、野生復帰をおこなう生息地で悪い影響を与えないように、病原体や寄生虫のチェックや自然の状態に近い遺伝的多様性を保っているかの確認が必要です。

ポイント2 野生復帰させる生息地の環境の整備
 せっかく個体を生息地に戻しても、生息地にその生きものが生存できるような環境が整っていないと生き残れないため、十分な環境改善を事前におこなう必要があります。また、農村地域など人間が活動する地域に近い場合は、地元住民の理解や協力を得ておくことが必要になります。


個体を生息地へ戻す方法と注意点

 野生に戻す方法は生きものによって大きく異なり、適切な方法をとる必要があります。例えば、哺乳類や鳥類の場合、事前に生息地を再現した場所で野外の環境に慣れさせたり、餌を採れるようにするなどの訓練が必要です。また、魚類や昆虫類などの小動物の場合は、天敵に食べられる可能性が高いので、多くの個体を生息地に戻す必要があります。
 季節や時間帯、当日の天候も重要な要素です。例えば、山などの急な斜面が野生復帰の場所である場合、植物の種子をまいても大雨で流されてしまっては効果が薄いといえます。

個体を生息地へ戻す方法と注意点

 野生復帰は、個体を生息地に放って終わりではありません。生息地での個体の生存や繁殖を長期的に監視する調査(モニタリング調査)が必要です。もし、生息地で安定して個体数が増えているようであれば、その推移を見守ることになります。 逆に、うまく増えていないようであれば、その原因を調べて個体を追加するかどうかを検討したり、生息地の環境改善を図ったりといった方法をとることも考えられます。
 また、これらのモニタリング調査では、科学データの収集をあわせておこない、別の地域や似た生きもので応用して、保全に役立てることもできます。



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