日時
平成21年7月21日(火)14:00~16:30
場所
農林水産省第2特別会議室(本館4階 ドア番号:467)
出席者
- 委員
- 池谷 奉文 財団法人日本生態系協会会長
近藤 健雄 日本大学理工学部海洋建築工学科教授
進士 五十八 東京農業大学地域環境科学部造園科学科教授
鈴木 和夫 独立行政法人森林総合研究所理事長
辻井 達一 財団法人北海道環境財団理事長
辻本 哲郎 名古屋大学大学院工学研究科教授
広田 純一 岩手大学農学部共生環境課程教授
吉田 正人 江戸川大学社会学部ライフデザイン学科教授
鷲谷 いづみ 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 - 主務省
- 環境省、農林水産省、国土交通省、文部科学省から関係課長等出席
議事
会議は公開で行われた。(傍聴者約10名)
議題1 自然再生事業の推進に向けた取組状況について
環境省より、資料1に基づいて説明。
議題2 自然再生事業実施計画について
農水省より資料2、上サロベツ自然再生協議会より資料3-1及び3-2、阿蘇自然再生協議会より資料4-1及び4-2、久保川イーハトーブ自然再生協議会より資料5-1及び5-2、環境省より資料6-1、6-2及び6-3に基づいて、それぞれ説明。
委員からの主な質問及び意見は以下のとおり。
上サロベツ自然再生事業実施計画
- 先に作成された農地における自然再生事業実施計画との関係はどうなっているのか。また、泥炭採掘事業者が撤退した理由及びその事業者に湿地の修復の義務は課せられないのか。
→ 上サロベツでは、湿原と農地の間に緩衝帯を設け、湿原から農地への水の流出を防ぐ実施計画が既に作成されている。今回の実施計画は、湿原側で、堰止めによる水抜き水路からの地下水流出防止や、道路側溝への水の流出を防ぐことを目的としている。 → 泥炭採掘業は、輸入物の方が価格が安く、採算がとれなくなったために撤退し、その後採掘地が国立公園区域に移管されたものであり、修復義務は無い。 - 現在、およそ管轄支庁の違いでペンケ沼を境界として北と南とにわけ、北の方を上サロベツと呼んで自然再生事業を行っているが、本来自然再生とは、行政区画で限定せず、まとめて考えるべきもの。
- 自然再生にあたっては、農地造成や都市化、河川の直線化といった過去を踏まえて、今後そういった土地をどのように戻すか等、土地利用についてきちんと議論すべき。
阿蘇草原自然再生事業実施計画
- 樹林帯除去のメリットは省力化とのことだが、もともと目的があって栽植がなされたのであり、樹林帯を最大限に生かせるよう、例えば切る時期等の検討はなされたのか。
→ 樹齢はヒノキの45年生であり、切る時期を迎えていた。今後樹林帯除去後は、燃えにくいクヌギ等の広葉樹を植えるか、草原の維持をするか等、検討して取り組みたい。 - 草地の維持には、畜産業の活性化が不可欠との説明がない。日本の里地里山や放牧地では、営農活動があってはじめて、生物多様性の保全や環境学習、グリーンツーリズムが行われる。関係省庁が連携するという自然再生推進法の思想を汲み、いくつかの観点が重なって日本の自然再生事業は進んでいるという典型的な事例となって欲しい。
→ 農水省としても、適切に農林水産業が営まれることにより生態系の維持・増進が図られると認識しており、省及び国の生物多様性戦略の中にも明記している。
また、バイオマス分野では、地元では色々な方の創意工夫により新たな取り組みが生まれているところであり、伝統的な草地資源等の利活用についても、地域に密着した形で推進していきたいと考えている。 → 農政局からも、中山間地直接支払い制度により牧野の維持・管理のために必要な費用の支援を得ており、関係省庁協力して取り組んでいるところ。 - 阿蘇グリーンストックのような公園管理団体の存在が特徴的であると考える。今後、牧野組合の高齢化に伴い、草原維持に係る公園管理団体の担う役割は大きくなるのか。また、その場合の課題はあるか。
→ 今後も牧野組合から草地管理の依頼は増える見込みであるが、グリーンストックは募金で運営されており、これ以上の拡大は難しいため、協議会でも基金をつくり、支援者を募っているところ。 - 食料政策における阿蘇草原の重要性はどのようなものか。また、生物多様性の評価方法、モニタリングにより人為圧がかかるほど生物多様性の種数が多くなることを示しているが、絶対的な指標として適切であるといえるか。
→ 阿蘇をはじめ、今後のわが国の畜産業については、今まさに新たな食料・農業・農村基本計画の策定にあたり、議論がなされているところである。
また、生物多様性の評価手法については、農業を営むことにより形成されてきた生物多様性を評価すべきとの議論もあり、生物多様性保全に貢献する方法により生産された農林水産物であることを示す「生きものマーク」の活用を検討するとともに、生物多様性と農業との関係を表す指標の開発に着手したところである。 - 今後、牧畜にかかわる人間が減少する一方で、グリーンストックのように自然再生を担う人々の数が増えていくと考えられる。農業と自然再生のバランスについては、目標の設定等を含め、議論がなされなければならない。
- 自然再生とは自然環境を取り戻すだけの取り組みではなく、炭酸ガスやエネルギーの問題等、産業構造とも結びつけて考えるべき。また、阿蘇のバイオマスのプラントも、ただ操業しているだけでは採算が合わなくなる。積極的に新しい技術等の再投資をすべき。
- 阿蘇のような貴重な2次的自然においては、経済的な競争力はなくとも、国土景観や生物の多様性の保全を兼ねた環境保全型畜産業に対して支援すべきではないか。農業を活性化した上で、高齢化や担い手の減少による不足部分を都市部の人間が応援するという構図にすべき。
- イギリスの国立公園は、環境保全的な畜産業に補助を行うなど、EUの環境直接支払いをベースに草地景観の保全に取り組んでいる。日本でも自然再生地区で試験的に導入してはどうか。また、多様な主体をまとめあげる協議会事務局とすべく、人件費が確保されるような仕組みが必要ではないか。
久保川イーハトーブ自然再生事業実施計画
- 非常に主観的に生物多様性保全に取り組んでいるが、モニタリングや目標設定にあたり、生物多様性をどのように評価していくのか。
→ 実施計画の中では主観的な表現になっているが、日本の里地里山、ため池の指標生物種リストを対象にモニタリングを行い、現状を把握する。また、淡水生態系に影響の大きい侵略的外来種を負の指標として、その侵入状況と生物相の相関をもとに、望ましい生物相の回復状況をモニタリングすることも可能。加えて、自然と人の共生は重要なテーマであることから、自然とふれあう子供の姿や都心からの訪問者の数等、人の変化についても調査を行うことが必要と考えられる。
森吉山麓高原自然再生事業実施計画(変更)
- 変更後の実施計画を見ると、ブナやブナ苗を植えたという記述になっている。全国的にブナの価値が見直され、注目が集まってはいるが、他の樹種も入れるべきではないか。
→ 現在は試験段階であるためブナが主体であるが、将来的には多様な樹種を植えることとしている。
-以上-