自然環境・生物多様性

自然再生基本方針(第2回見直し(平成26年11月))

目次

1 自然再生の推進に関する基本的方向
  1. (1) わが国の自然環境を取り巻く状況
  2. (2) 自然再生の方向性
    1. ア 自然再生事業の対象
    2. イ 地域の多様な主体の参加と連携
    3. ウ 科学的知見に基づく実施
    4. エ 順応的な進め方
    5. オ 自然環境学習の推進
    6. カ 地域の産業と連携した取組
    7. キ 自然再生の継続実施
    8. ク 自然再生後の自然環境の扱い
    9. ケ 自然再生における希少種の保全及び外来種対策
    10. コ 東日本大震災の経験を踏まえた自然再生
    11. サ 自然再生の役割
    12. シ その他自然再生の実施に必要な事項
2 自然再生協議会に関する基本的事項
  1. (1) 協議会の組織化
  2. (2) 協議会の運営
3 自然再生全体構想及び自然再生事業実施計画の作成に関する基本的事項
  1. (1) 科学的な調査及びその評価の方法
  2. (2) 全体構想の内容
  3. (3) 実施計画の内容
  4. (4) 情報の公開
  5. (5) 全体構想及び実施計画の見直し
4 自然再生に関して行われる自然環境学習の推進に関する基本的事項
  1. (1) 自然環境学習プログラムの整備
  2. (2) 人材の育成
  3. (3) 情報の共有と提供
5 その他自然再生の推進に関する重要事項
  1. (1) 自然再生推進会議・自然再生専門家会議
  2. (2) 調査研究の推進
  3. (3) 情報の収集と提供
  4. (4) 普及啓発
  5. (5) 協議会の支援
  6. (6) 全国的、広域的な視点に基づく取組の推進
  7. (7) 小さな自然再生の推進

1 自然再生の推進に関する基本的方向

(1) わが国の自然環境を取り巻く状況

 自然環境は、生物多様性と自然の物質循環を基礎とし、生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っています。そして、自然環境は、地球温暖化の防止、水環境の保全、大気環境の保全、野生生物の生息環境としての役割などの機能を有しており、現在及び将来の人間の生存に欠かすことのできない基盤となっています。また、自然環境は、社会、経済、科学、教育、文化、芸術、レクリエーションなど様々な観点から人間にとって有用な価値を有しています。
 しかし、これまで人間が行ってきた自然の再生産能力を超えた自然資源の過度な利用などの行為により、自然環境の悪化が進んできました。その結果、生物多様性は減少し、人間生存の基盤である有限な自然環境が損なわれ、生態系は衰弱しつつあります。
 わが国は、その地史や気候等を背景として、多様で豊かな自然環境を有しており、私たちは様々な恩恵を享受しています。一方、私たちは、地震、台風、豪雨などによる自然災害への備えを怠ることはできません。
 戦後、高度経済成長期を経て自然災害に対する安全性や物質的な生活水準は向上してきましたが、大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済活動の増大に伴い、自然環境に大きな負荷を与えてきました。この中で急激な工業化とそれに伴う開発により、農地や林地の都市的土地利用への転換や沿岸域の埋立などの土地利用の変化が進んだ結果、国土の自然の質が低下し、多くの野生生物の生息・生育地が減少してきました。
 また、薪炭材や落葉の利用、採草などの人為の働きかけによって二次的な自然環境が維持されてきた里地里山等においてもエネルギー源の化石燃料へのシフト、生活・生産様式の変化に伴う生物由来の資源の利用の低下、過疎化・高齢化の進行など、社会経済状況の変化が進みました。その結果、人為の働きかけが縮小撤退し、不適切な農薬・化学肥料の使用や経済性・効率性を優先した基盤整備の進行とあいまって、人と自然の相互作用により形成されてきた特有の生態系の質が変化してきました。
加えて、国境を越えた人や物の流れの増大などに伴い、野生生物の本来の移動能力を超えて人為的に導入された外来種が増加し、地域固有の生物相や生態系に対して大きな脅威を与えています。
 このように、直接間接を問わず、様々な人間活動、人為の影響等によって、自然海岸や干潟、湿原などが減少しているほか、人工林や二次林の手入れ不足、耕作放棄地の拡大等により、わが国の生態系の質の劣化が進んでおり、多くの野生生物の生息・生育環境の悪化や個体数の減少がみられ、メダカに代表される身近な野生生物の絶滅のおそれが高まるなど、わが国の自然環境は大きく変化しています。
 これらに加えて、温室効果ガスの人為的な増加によって、気候変動による生態系への深刻な影響が懸念されており、わが国においても、気候変動による影響の可能性も指摘されているさまざまな事例が観察されています。
 平成20年6月に施行された生物多様性基本法に基づき、平成24年9月に生物多様性国家戦略2012-2020が策定され、生物多様性条約第10回締約国会議において採択された愛知目標(以下「愛知目標」という。)の達成に向けたわが国のロードマップが示されるとともに、平成23年3月に発生した東日本大震災の経験を踏まえた今後の自然共生社会のあり方が示され、自然共生社会の構築や愛知目標の達成のための施策を推進することとなりました。
 自然再生の実施に際しては、これらを基本として取り組んでいく必要があります。

(2) 自然再生の方向性

 現在、自然と共生する社会の実現と地球環境の保全が重要な課題となっています。人間も生態系の一部であり、自然の恵みがあることではじめて暮らしていくことができ、また、私たちが地域ごとに有している食文化、工芸、郷土芸能などの多様な文化は、各地の豊かな自然環境に根ざしたものといえます。このような認識に立って、自然環境の価値を再認識し、長い歴史の中で育まれた地域固有の動植物や生態系その他の自然環境について、生態系の保全や生物種の保護のための取組を推進すべきことはもちろん、過去に損なわれた自然環境を積極的に取り戻す自然再生によって地域の自然環境を蘇らせ、自然の恵みを享受できる地域社会を創りあげていくことが必要となっています。
 日本の国土は、南北に長く、モンスーン地帯に位置することなどから、豊かな生物相を有するとともに、変化に富んだ美しい自然を有しています。同時に、狭い国土面積に稠密な人口を抱え、その地形、地質、気象などの条件から自然災害を受けやすいという特性があるほか、土地利用の転換圧力が強い都市地域、農林水産業等を通じ二次的な自然を維持形成してきた農山漁村地域など、地域によって、自然を取り巻く状況に大きな違いがあります。海域についても、黒潮、親潮などの海流と南北に長く連なる列島があいまって、多様な環境が形成されています。特に沿岸域には長く複雑な海岸線や砂浜、磯、干潟、藻場、サンゴ礁など多様な生態系がみられ、陸域と同様に豊かな生物相を有しています。その一方で、沿岸に人口や産業が集中したことから、浅海域や内湾を中心に埋立や汚濁負荷の流入などの影響を受けてきました。このため、わが国での自然再生を考える際には、地域の自然環境の特性や社会経済活動等、地域における自然を取り巻く状況をよく踏まえるとともに、これらの社会経済活動等と地域における自然再生とが相互に十分な連携を保って進められることが必要です。
 さらに、森林、草原、農地、都市、河川、湿原、沿岸、海洋等の生態系は、流域の水循環、物質循環等を介して密接な関係を有していることや、広い範囲を移動する野生生物の生態学的特性を踏まえ、地域の自然再生を進めるに当たっては、周辺地域とのつながりや流域単位の視点などの広域性を考慮した生態系ネットワークの考え方を踏まえる必要があります。
 また、気候変動をはじめとする地球環境の変化は、生態系に深刻な影響を及ぼすおそれがあることから、環境の変動に対する適応力の高い、地域に固有の健全な生態系を確保することが重要であるとともに、生物の多様性の保全及び持続可能な利用は地球温暖化の防止等に資することを踏まえて、自然再生に取り組む必要があります。
 持続可能な社会を目指すためには、自然共生社会、低炭素社会、循環型社会の3つの社会づくりに統合的に取り組んでいく必要があること、また、今後、人口減少や国土利用の再編が進む中で長期的視点に立って人と自然のより良いバランスを回復し、海洋を含む国土全体にわたって自然の質を向上させていく必要があること、さらには、生物多様性に関する科学と政策のつながりを強化し、科学を政策に反映させる必要性が国際的にも強調されてきていること、こうした認識のもとに地域の将来像を検討し、その実現に向けた広範な取組と連携しつつ、戦略的に自然再生を進めていくことが大切です。
 これらの考え方に加え、生物多様性基本法の基本原則を踏まえ、自然再生の視点として、次の4つを掲げます。

  1. [1] 過去の社会経済活動等により損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻すことを目的とし、健全で恵み豊かな自然が将来世代にわたって維持されるとともに、地域に固有の生物多様性の確保を通じて、その恵沢を将来にわたって享受できる自然と共生する社会の実現を図り、あわせて地球環境の保全に寄与することを旨とすべきこと。
  2. [2] 地域に固有の生態系その他の自然環境の再生を目指す観点から、地域の自主性を尊重し、透明性を確保しつつ、地域の多様な主体の参加・連携により進めていくべきこと。
  3. [3] 複雑で絶えず変化する生態系その他の自然環境を対象とすることを十分に認識し、科学的知見に基づいて、長期的な視点で順応的に取り組むべきこと。
  4. [4] 残された自然の保全を優先するとともに、自然生態系の劣化の根本的な要因を取り除くことが重要であり、当面の局所的な絶滅を防ぐなどの短期的な対策と併せて、劣化要因とその複合的作用の結果として生じる劣化状況を把握した上で対策の検討、実施に取り組むよう留意すべきこと。

 これらの視点を踏まえた上で、自然再生の推進に関する基本的方向を次のとおり示します。

ア 自然再生事業の対象
   自然再生を目的として実施される事業(以下「自然再生事業」という。)は、今後重視すべき先の4つの視点を明確にした新たな取組であり、開発行為等に伴い損なわれる環境と同種のものをその近くに創出する代償措置としてではなく、過去に行われた事業や人間活動等によって損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻すことを目的として行われるものです。陸域の森林、草原、里地里山、陸水域の河川、湖沼、湿原、海域の砂浜、干潟、藻場、サンゴ礁など、多様な生態系が事業の対象となります。
 このような自然再生事業には、良好な自然環境が現存している場所においてその状態を積極的に維持する行為としての「保全」、人間活動や開発等により自然環境が損なわれた地域、あるいは自然資源の利用や維持管理を通じた自然に対する人間の働きかけの減少により二次的な自然環境が劣化した地域において、それらの自然環境を取り戻す行為としての「再生」、大都市など自然環境がほとんど失われた地域において大規模な緑の空間の造成などにより、その地域の自然生態系を取り戻す行為としての「創出」、再生された自然環境の状況をモニタリングし、その状態を長期間にわたって維持するために必要な管理を行う行為としての「維持管理」を含みます。
イ 地域の多様な主体の参加と連携
   自然再生事業は、それぞれの地域に固有の生態系その他の自然環境の再生を目指すものです。このため、どのような自然環境を取り戻すのかという目標やどのように取り戻すのかという手法の検討等については、それぞれの地域の自主性・主体性が尊重されるべきです。
 自然再生事業の実施に当たっては、当該自然再生事業の構想策定や調査設計など、初期の段階から事業実施、実施後の維持管理に至るまで、関係行政機関、関係地方公共団体、地域住民、特定非営利活動法人その他の民間団体(以下「NPO等」という。)、自然環境に関し専門的知識を有する者、土地の所有者等地域の多様な主体が参加・連携し、相互に情報を共有するとともに、透明性を確保しつつ、自主的かつ積極的に取り組むことが重要です。
ウ 科学的知見に基づく実施
   自然再生事業は、科学的知見に基づいて実施するべきであり、地域における自然環境の特性や生態系に関する知見を活用し、自然環境が損なわれた原因の全体像を社会経済活動等との関係を含めて科学的に明らかにするなど、科学的知見の十分な集積を基礎としながら、自然再生の必要性の検証を行うとともに、自然再生の目標や目標達成に必要な方法を定め、実行し、それを検証するという過程に沿って実施することが必要です。
 この場合、自然再生の目標については、持続的に良好な状態を維持することが技術的にも社会経済的にも可能な自然環境を目標として設定し、その中で、自然の復元力やサイクルを踏まえた持続可能性を考慮して、長期及び短期の目標を設定することが重要です。その際、自然の変動やかく乱が生ずることで本来の生態系が維持される仕組みがあることを理解することも大切です。目標は、わかりやすく、出来る限り具体的なものとする必要があり、その設定に当たっては、自然再生事業の対象地の自然環境の変遷の分析を踏まえて検討を行い、過去の特定の時期の状況を目標とする、あるいは地域の特徴的な種や生態系の状態に着目して目標を設定するなどの方法が考えられます。
 自然再生を行う方法については、自然の復元力及び生態系の微妙な均衡を踏まえて行うことが重要であり、工事等を行うことを前提とせず自然の復元力に委ねる方法も考慮し、再生された自然環境が自律的に存続できるような方法を含め、十分検討すべきです。また、自然再生の取組による自然環境の再生状況について評価することも大切であり、必要に応じて有識者などの協力を得て自然環境の質的な変化を評価することに加え、自然再生に取り組む組織の成果や発展過程を明らかにしていくことも重要です。
 また、わが国では、間伐材や粗(そ)朶(だ)などの地域の自然資源を用いたり、人力を十分に活用した作業を行うなど伝統的な手法を行ってきたことを踏まえ、このような手法のうち自然と調和したきめ細かで丁寧な手法について、地域における経験と実績に基づく知見の把握に努めるとともに、特に、地域によっては、火入れや池さらいなどの実施が自然のかく乱の代替として生物多様性の維持に必須であるなど、その有効性を確認しつつ、自然再生の手法として用いていくことも必要です。
エ 順応的な進め方
   自然再生事業は、複雑で絶えず変化する生態系その他の自然環境を対象とした事業であることから、地域の自然環境に関し専門的知識を有する者の協力を得て、自然環境に関する事前の十分な調査を行い、事業着手後も自然環境の再生状況をモニタリングし、その結果を科学的に評価し、これを当該自然再生事業に反映させる順応的な方法により実施することが必要です。
 これを進めていくため、自然再生の実施者は、成功・失敗にかかわらず順応的な取組の情報を可能な限り公開することに努め、国は、順応的な取組の参考となる事例を集約し広く情報発信することに努める必要があります。
 また、自然再生において、自然の復元力が十分に発揮されるよう条件を整えることにより回復の過程に導く場合や、その回復の過程の中で補助的に人の手を加える場合がありますが、生態系の健全性の回復には一般に長い期間が必要であることを十分に認識すべきです。
 このため、自然再生事業の実施に当たっては、自然再生の目標とする生態系その他の自然環境の機能を損なうことのないよう、自然環境が再生していく状況を長期的・継続的にモニタリングし、必要に応じ自然再生事業の中止や中止した場合に周辺環境へ影響が及ばないようにすることを含め、計画や事業の内容を見直していく順応的な進め方によることが重要です。
オ 自然環境学習の推進
   (自然環境学習への活用の重要性)
   環境保全の推進のためには、課題を発見・解決する力やコミュニケーション能力などの「未来を創る力」、環境の変化に気付く力や自然環境の不可逆性を理解する力などの「環境保全のための力」を有する人材を育む環境教育が必要であり、その実施に当たっては、地域を教材として実感を伴った学びの機会を提供すること、双方向型のコミュニケーションにより気付きを「引き出す」ことなどが重要です。
 また、特に自然環境学習は、自然環境に対する関心を喚起し、共通の理解を深め、意識を向上させるとともに、希薄化した自然と人間との関係を再構築する上で重要であり、地域における自然環境の特性を踏まえ、科学的知見に基づいて実施される自然再生は、自然環境学習の対象として適切なものです。
 このため、家庭、学校、地域、職場などにおける生涯にわたる質の高い環境教育・学習の機会の多様化を図るために、自然再生事業を実施している地域が自然環境学習に積極的に活用されることが大切であり、自然再生事業の実施に当たっては、学校教育機関や研究機関、博物館及び公民館等の社会教育施設、ビジターセンターなどの自然環境学習施設など、地域の関係機関との協力と連携を強化する必要があります。その際、過剰な利用により自然再生に悪影響が及ばないようなルール作りを併せて行うことも重要です。また、自然再生事業を実施している地域が、大学・大学院等の高等教育においても、環境及び環境教育の研究と人材養成を行う場となり得ることを認識することも重要です。
   (自然環境学習の実施に当たっての配慮事項)
   自然環境学習を効果的に行うためには、単なる知識の伝達にとどまらず、「五感で感じる」原体験としての自然体験や保全活動への参画なども必要であり、また、そのための自然とふれあえる空間作りも重要です。このため、自然再生事業を実施している地域の自然環境学習への活用に当たっては、その地域の自然環境の特性、自然再生の技術及び自然の回復過程等自然環境に関する知識を実地に学ぶ場となるよう十分に配慮する必要があります。
 また、自然再生事業は防災・減災や持続可能な社会づくりにも資するものであるため、自然環境学習の実施に当たっては、自然が豊かな恵みをもたらす一方で災害リスクも有することを踏まえた防災・減災の観点や、ものごとを主体的に考え行動できるような持続可能な社会づくりの担い手を育てる「持続可能な開発のための教育(ESD)」の観点を取り入れていくことも重要です。
 さらに、学校と連携した自然環境学習の実施に当たっては、学校側と十分に調整を図り、学校側のニーズや指導計画を踏まえた学習プログラムを作成し提示することなどが効果的であり、計画的・継続的な活動にもつながることを認識しながら取り組むことが重要です。
カ 地域の産業と連携した取組
   自然再生を持続的かつ効果的に進めるためには、地域の産業と連携しつつ対応することが必要です。特に農林水産業は自然の物質循環機能に依存した持続可能な生産活動であり、田園地域・里地里山等の二次的自然の形成に大きく寄与してきました。このことを踏まえ、自然再生事業に関連して、関係者の合意を得ながら、農薬や化学肥料などの削減等による環境に配慮した農業生産活動、水と生態系のネットワークの保全に配慮した水路、ため池、水田のあぜ等の持続的な維持管理活動や基盤整備の実施、生物多様性に配慮した森林施業の実施、漁場環境の再生状況に応じた漁具の選定や漁期の設定など、地域の環境と調和のとれた取組を推進することが必要です。これらの地域では、長年にわたる人の営みと自然の相互作用によって特有の生態系や文化が形成されてきたことを踏まえ、農林漁業者をはじめとする地域の知見を尊重し、生物多様性の維持にとって重要な伝統的維持管理の手法を活用しながら自然再生を進めるとともに、地域の産業や社会経済活動と自然再生を関連づけ、自然資源の循環利用やエコツーリズムなど自然資源を生かした観光の促進などにより、地域社会の活性化につなげることにより、持続可能な取組としていくことが重要です。
 また、企業と連携して自然再生を進めることも重要です。自然再生の実施者にとっては、資材や労力の面で支援を受けることにつながり、企業にとっては、社会貢献活動の効果的な情報発信や社員等への福利厚生に加え、活動で生じたバイオマスを燃料として利用することによる地球温暖化対策への貢献など様々な取組につながる可能性があります。このように、自然再生の実施者と企業の双方に利益をもたらし得るため、両者が積極的な情報交換を行い、連携を図ることが重要です。
キ 自然再生の継続実施
   自然再生の実施には長期間を必要とすることから、綿密な維持管理を行う箇所と自然の遷移や復元力に委ねる箇所をゾーニングすることなどにより維持管理作業の省力化について検討することが重要です。また、再生された自然環境は、次世代も享受するものとなるため、自然環境の将来計画の検討や自然環境調査などを行う際は、地域の子供たちの参加を促し、次世代の実施を見据え、担い手の育成を図りながら、目指すべき自然環境の目標を共に考えていくことも重要です。
 さらに、新たな実施者や協力者の獲得を図るためには、雑誌やインターネット等のツールを活用して若者や女性等に対しても情報発信を積極的に行うことや、地域住民の関心の高い取組と連携すること、大学等の学術機関との連携を図り研究者や学生の自然再生への参加を促すことが重要です。
ク 自然再生後の自然環境の扱い
   工事実施中のみならず工事完了後においても、継続的なモニタリングを実施することにより自然環境を監視し、自然環境が再び劣化した場合には、必要に応じて科学的知見をもとに対応を行うことにより、自然環境が安定するまで適切な措置を講ずることが必要です。
 また、再生されつつある自然環境を再び劣化させないためには、豊かな自然の適切な利用に関するルール作りなどの検討を行うことや希少動植物の捕獲・採取を防止するための知識の普及を行うことが重要です。
ケ 自然再生における希少種の保全及び外来種対策
   今日、様々な人間活動による圧迫に起因し、多くの種が絶滅し、また、絶滅のおそれのある種が数多く生じており、現在と将来の人類の豊かな生活を確保するために、絶滅危惧種の保全の一層の促進が必要です。自然再生の取組は、絶滅危惧種の生息地の確保につながるものであり、平成26年4月に策定された絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略を踏まえ、絶滅危惧種に関する情報及び知見を参考としながら、国内希少野生動植物種等の指定状況も考慮して行うことが重要です。
 また、自然再生を実施している地域に絶滅危惧種等が生息しており、緊急的な措置を講じないと種の存続が危ぶまれる場合、自然再生の取組と併せて、生物を自然の生息・生育地の外において保全する「生息域外保全」の考え方を取り入れることも重要であり、必要に応じて、動植物園、水族館、自然系博物館など生息域外保全を行うことが可能な組織と連携を図りながら自然再生を進めることが重要です。
 これに加えて、地域に固有の生態系その他の自然環境の再生のため、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の規制の対象である特定外来生物だけでなく、国内由来の外来種、更には他地域に生息・生育し遺伝的形質の異なる同種の生物導入による遺伝的かく乱により、問題が発生する可能性があることも考慮して、外来種の意図的な導入又は非意図的な侵入を未然に防ぐよう努めることが重要です。また、自然再生の対象となる区域に外来種の侵入や拡散が認められた場合、国や地方公共団体等が提供する外来種に関する情報や知見を参考としながら迅速に対応することが重要です。
コ 東日本大震災の経験を踏まえた自然再生
   東日本大震災の発生により、豊かな恵みをもたらす自然は、時として大きな脅威となって災害をもたらすものであり、私たちはそうした両面性を持つ自然とともに生きていることを、改めて意識させられました。私たち日本人は、自然と対立するのではなく、自然に対する畏敬の念を持ち、自然に順応し自然と共生する知恵や自然観を培ってきたことを踏まえ、自然再生の取組を進めることが重要です。
 自然再生事業の実施に当たっては、地震や津波の影響を受けた干潟や藻場等の生態系について、生き残った動植物個体や植物の栄養体、埋土種子などが生態系の回復に大きく貢献するといった自然の回復力を評価できるようモニタリングを実施し、その回復状況や地域の復興状況・意向を踏まえて、自然再生の手法や体制を検討していくことが重要です。
 また、東日本大震災からの復興に当たっては、地域の暮らしを支える自然環境や森・里・川・海のつながりなどの重要性を多くの人に理解してもらうための取組や、自然環境の再生を通して森・里・川・海のつながりを再生していくことが必要です。また、自然生態系は、津波などの災害が発生した際に、地域を災害から守り、被害を軽減・緩衝する効果を有しており、このような自然生態系が有する防災・減災機能を踏まえて自然再生に取り組んでいくことが重要です。
サ 自然再生の役割
   わが国が有する文化は、自然環境と密接な関係を持ち、国土全体にわたる豊かな自然は元より、地域が有する独特の自然環境の影響も色濃く受けて育まれているものです。例えば、小動物や草花を楽しみ季節を読みとる感性である「花鳥風月」や、花見、蛍狩り、月見、紅葉狩り、雪見などの文化、野焼きなどの維持管理手法、ふなずしなどの伝統的食文化は、地域の豊かな自然環境とともにあり、情緒豊かな心を育む源となるものです。
 また、自然再生の取組は、地域住民とともに行うものであり、地域独特の自然や文化と密接な関わりを持つものであることから、地域コミュニティーの維持・再生につながるものです。このため、地方公共団体等は、地域コミュニティーの保全・再生に資する自然再生の取組に対して、必要な支援に努めることが重要です。
 さらに、自然再生の取組は、自然環境を保全・再生していくものであると同時に、豊かな景観の保全・再生につながるものです。人間の活動の影響を受けることなく原生の状態を維持している原生的自然や農村の人々や生業などによって形成される田園地域や里地里山のような二次的自然など自然環境が織りなす美しい景観は、地域固有の資産であり、地方公共団体等は、その方向性を明らかにし、地域と一体となって、美しい景観を形成し、国民への提供に努めることが重要です。
シ その他自然再生の実施に必要な事項
   自然再生を将来にわたって効果的に推進するため、国及び地方公共団体は、調査研究の推進と科学技術の振興を図るとともに、全国的な事例などの情報提供に努める必要があります。
 自然再生に関する施策の実効を期するためには、地域住民等の理解と協力が不可欠であり、自然再生の取組に際しては、地域の協議会での話合いを通じて合意の形成を図るとともに、自然再生の対象となる区域において一定の権原を持つ土地の所有者等の理解と協力を得ながら進めることが不可欠です。地域の民間団体や地域住民などの参加、協働という形をより一層活発化させていくため、民間団体などが民有地も含めて活動を展開していくことを地域全体で支えていくことが重要です。また、民間団体が主導する自然再生事業は、早期の事業実施や効果発現につながることが期待できるものであるため、国や地方公共団体は、民間団体が主導する自然再生事業が円滑に進むよう必要な情報を提供するとともに、活動の支援に努めることが重要です。
 さらに、再生された自然とふれあい、その恵沢を享受する国民ひとりひとりにおいても、自然再生の取組が生態系サービスを提供するものであることを理解し、協力するよう努めることも重要です。国及び地方公共団体は、自然再生の重要性に関する理解を促進し、地域をはじめ、広く国民全体の自覚を高めるために、自然環境学習の効果的な実施を含め、普及啓発活動を積極的に推進する必要があります。
 また、再生された自然環境が将来にわたって適切に維持されるよう、自然再生の実施に際しては、地域の実状に応じて、周辺地域も含む土地利用や自然環境の保全に関する様々な施策との広範な連携や必要な財政上の措置を講ずるよう努めることも必要です。
 さらに、自然再生に当たっては、地球環境保全に寄与する観点から、地域の実情に応じて、地球規模で移動する野生動物の生息地・中継地の保全・再生など、国際的な生態系ネットワーク形成への配慮が必要です。また、多自然川づくり、干潟の再生、都市公園の整備等の社会資本整備と併せた生物の生息・生育環境の確保の取組や緑地の保全及び緑化の推進のための施策によって、自然環境の保全・再生・創出・維持管理を行い、生態系ネットワークの形成を進めていくことも重要です。そのほか、多くの炭素を樹木や土壌に固定している森林の適正な管理、泥炭や土壌に炭素を貯蔵している湿原、草原等の適正な保全、また、人工林の間伐、里山林の管理、二次草原における採草などの生態系の適切な管理によって生じる草木質系バイオマスの利用や、温室効果ガスの排出を低減した工法の採用等を通じた地球温暖化対策への配慮が必要です。

2 自然再生協議会に関する基本的事項

 地域における自然再生の推進に際しては、自然再生事業を実施しようとする者(以下「実施者」という。)が、地域住民、NPO等、自然環境に関し専門的知識を有する者、土地の所有者等その他の自然再生事業又はこれに関連する活動に参加しようとする者、関係行政機関及び関係地方公共団体により構成される自然再生協議会(以下「協議会」という。)を組織し、協議会において、自然再生全体構想の作成、自然再生事業実施計画の案の協議、自然再生事業の実施に係る様々な連絡調整が適切になされることが必要です。この際、自然再生が、地域の自然的社会的状況に応じて、国土の保全その他の公益との調整に留意して実施されるよう、協議会において十分検討することが必要です。
 協議会の組織化及び運営は、実施者及び協議会が責任を持って行うことになりますが、その際、次の事項に留意するものとします。

(1) 協議会の組織化

ア 実施者は、その実施しようとする自然再生事業の目的や内容等を明示して協議会を組織する旨を広く公表し、NPO等地域において自然再生事業に関する活動に参加しようとする者に対し、幅広くかつ公平な参加の機会を確保すること。

イ 自然再生は、地域の多様な主体が連携し実施されるものであり、協議会にはできるだけ、自然再生に参加する地域の多様な主体が参加するよう努めること。
 この場合、協議会において科学的な知見に基づいた協議等が行われることが重要であることを踏まえ、地域の自然環境に関し専門的知識を有する者の協議会への参加を確保することが特に重要であること。
 また、自然再生事業を円滑に推進する観点から、土地の所有者等の関係者についても自然再生の趣旨を理解し自然再生に参加する者として協議会への参加を得ることが重要であること。

ウ 関係行政機関が実施者の相談に的確に応じるなど、関係行政機関及び関係地方公共団体は、協議会の組織化に係る必要な協力を行うとともに、その構成員として協議会に参加し、自然再生を推進するための措置を講ずるよう努めること。

(2) 協議会の運営

ア 協議会の運営に際しては、自然再生事業の対象となる区域における自然再生に関する合意の形成を基本とし、協議会における総意の下、公正かつ適正な運営を図ること。

イ 協議会においては、地域の自然環境に関し専門的知識を有する者の協力を得て客観的かつ科学的なデータに基づいた協議等がなされるよう、地域の実状に応じた体制を整えることが重要であること。

ウ 協議会は、希少種の保全上又は個人情報の保護上支障のある場合等を除き、原則公開とし、協議会の運営に係る透明性を確保すること。また、協議会の運営に当たっては、必要に応じ外部からの意見聴取も行うこと。

エ 協議会は、自然再生事業の実施に係る連絡調整の継続的な実施のための方法や当該自然再生事業のモニタリングの結果の評価及び評価結果の事業への適切な反映のための方法について協議すること。

オ 協議会の運営等の事務の担い手は、協議会の合意のもと、協議会に参加する者から選任することとし、協議会に参加する者は積極的に運営に協力すること。

3 自然再生全体構想及び自然再生事業実施計画の作成に関する基本的事項

 自然再生事業の実施に当たっては、自然再生全体構想(以下「全体構想」という。)及び自然再生事業実施計画(以下「実施計画」という。)を作成することが必要です。  全体構想は、自然再生基本方針に即して、自然再生の対象となる区域、自然再生の目標、協議会に参加する者の名称又は氏名及びその役割分担、その他自然の再生の推進に必要な事項を定めることとし、地域の自然再生の全体的な方向性を定めます。また、実施計画は、自然再生基本方針に基づき、個々の自然再生事業の対象となる区域及びその内容、当該区域の周辺地域の自然環境との関係並びに自然環境の保全上の意義及び効果、その他自然再生事業の実施に関し必要な事項を定めることとし、全体構想の下、個々の自然再生事業の内容を明らかにするものです。
 全体構想及び実施計画の作成に当たっては、次の事項に留意するものとします。

(1) 科学的な調査及びその評価の方法

 全体構想及び実施計画の作成に当たっては、協議会において、必要に応じて分科会、小委員会等の設置を行うことなどを通じて、地域の自然環境に関し専門的知識を有する者の協力を得つつ、事前の調査とその結果の評価を科学的な知見に基づいて行うこと。
 その際、実行可能なより良い技術や方法が取り入れられているか否かの検討等を通じて、全体構想及び実施計画の妥当性を検証し、これらの検討の経過を明らかにできるように整理する必要があること。

(2) 全体構想の内容

ア 全体構想の作成に当たっては、事前に地域の自然環境に係る客観的かつ科学的なデータの収集や社会的状況に関する調査を実施し、その結果を基に協議会において十分な協議を行うこと。

イ 全体構想は、地域の自然再生の対象となる区域における自然再生の全体的な方向性を定めることとし、当該地域で複数の実施計画が進められる場合には、個々の実施計画を束ねる内容とすること。

ウ 全体構想においては、自然再生の対象となる区域やその区域における自然再生の目標について、地域における客観的かつ科学的なデータを基礎として、できる限り具体的に設定するとともに、その目標達成のために必要な自然再生事業の種類及び概要、協議会に参加する者による役割分担等を定めること。

(3) 実施計画の内容

ア 実施者は、実施計画の作成に当たっては、全体構想、地域の自然環境及び社会的状況に関する最新のデータに基づき、協議会における十分な協議の結果を踏まえて行うこと。

イ 自然再生事業の対象となる区域及びその内容については、地域の自然環境に関し専門的知識を有する者の協力を得て、事前に地域の自然環境に係る客観的かつ科学的なデータを収集するとともに、必要に応じて詳細な現地調査を実施し、その結果を基に、地域における自然環境の特性に応じた適正なものとなるよう十分検討すること。その際、事業の対象となる区域とその周辺地域との関係を分析した上で、周辺地域における様々な取組との連携の必要性について検討を行うこと。

ウ 実施計画には、自然再生事業の対象となる区域とその周辺における自然環境及び社会的状況に関する事前調査の実施並びに自然再生事業の実施期間中及び実施後の自然再生の状況のモニタリングに関して、その時期、頻度等具体的な計画を記載することとし、その内容については、協議会において協議すること。また、自然再生の状況のモニタリングの結果を科学的に評価し、これを当該自然再生事業に反映させるなど、順応的な進め方についても協議すること。

エ 自然再生事業の実施に関連して、自然再生事業の対象となる地域に生息・生育していない動植物が導入されることなどにより地域の生物多様性に悪影響を与えることのないよう十分配慮すること。

オ 全体構想の下、複数の実施計画が作成される場合には、各実施者は、協議会における情報交換等を通じて、自然再生に係る情報を互いに共有し、自然再生の効果が全体として発揮されるよう配慮すること。

(4) 情報の公開

 全体構想及び実施計画の作成に当たっては、その作成過程における案の内容に係る情報を原則公開とし、透明性を確保すること。

(5) 全体構想及び実施計画の見直し

 実施者は、自然再生事業の実施期間中又は実施後のモニタリングの結果について、地域の自然環境に関し専門的知識を有する者の協力を得つつ科学的に評価した上で、必要に応じ自然再生事業を中止することを含め、当該自然再生事業への反映について柔軟な対応を行うとともに、必要に応じて、全体構想については協議会が、実施計画については実施者が、それぞれ主体となって柔軟に見直すこと。この場合、実施計画の見直しについては、協議会での十分な協議の結果を踏まえて行うこと。

4 自然再生に関して行われる自然環境学習の推進に関する基本的事項

 自然再生の対象となる区域を自然の回復過程等自然環境に関する知識を実地に学ぶ場とすることは有意義であることから、自然再生事業が実施されている地域を積極的に自然環境学習に活用・提供するものとします。また、全体構想の対象となる区域において自然環境学習を実施しようとする者は、自然環境学習の推進に関して、次の事項に留意するものとします。

(1) 自然環境学習プログラムの整備

 自然環境学習を含めた自然環境の活用について十分検討し、実施計画において、対象となる区域における具体的な自然環境学習プログラムを整備するよう努めること。

(2) 人材の育成

 自然環境学習の円滑な推進のため、NPOやボランティア等との連携を図りつつ、地域ごとに自然環境学習を担う人材の育成に努めること。

(3) 情報の共有と提供

 自然環境学習の場、機会、人材、プログラム等に係る情報を地域の中で広く共有するよう努めるとともに、関連施策と連携することを含め、情報提供機能の充実に努めること。

5 その他自然再生の推進に関する重要事項

 その他、自然再生の推進に当たっては、次の重要事項に留意するものとします。

(1) 自然再生推進会議・自然再生専門家会議

 環境省、農林水産省、国土交通省は、自然再生を率先して進める観点から、自然再生推進会議での連絡調整などを通じて、その他の関係行政機関を含めた連携の一層の強化を図ること。
 また、自然再生推進会議及び自然再生専門家会議については、原則公開とし、これらの会議の運営に係る透明性を確保すること。この観点から、その構成、事務局など、これらの会議の設置に関する事項は、それぞれの会議の設置の際に別途定め、公開すること。

(2) 調査研究の推進

 国及び地方公共団体は、地域の自然環境データを長期的・継続的に把握し適切に提供するとともに、気候変動等による自然環境への影響評価を行い、自然再生事業の実施と連携しつつ、自然再生に関する技術の研究開発に努めること。

(3) 情報の収集と提供

 国及び地方公共団体は、海外又は国内における自然再生に関する事業や活動の実例など、自然再生に関する情報を収集し、海外を含めて広く提供を行うこと。その際、国は、全国における多様な実施者により実施されている自然再生事業について、その概要と進捗状況を網羅的に紹介するホームページの作成など、効率的かつ効果的な情報の収集と提供がなされるよう手法の検討と体制整備に努めること。

(4) 普及啓発

 国及び地方公共団体は、自然環境の現状やその保全・再生の重要性について、地域住民、NPO等のほか一般国民においてもその理解を促進し、自覚を高めるため、普及啓発活動を積極的に行うこと。

(5) 協議会の支援

 実施者は、協議会を組織したとき、または、全体構想、実施計画を作成したときは、主務大臣及び当該自然再生事業の対象となる区域の所在地を管轄する都道府県知事にその旨を報告するとともに、関連する資料を送付し、技術的支援その他の必要な協力を求めることができること。
 国は、協議会等に対する技術的支援を行うため必要に応じて自然再生専門家会議を開催するほか、協議会の設立や協議会間の情報交換、地域住民・民間団体等が行う自然再生活動等への支援を行うとともに、地方公共団体と協力して自然再生の推進に努めること。また、自然再生協議会の設立を検討している団体に対して、自然再生に活用できる事業制度や協議会の継続的取組に資する資金確保などの各種手法についての情報を提供するなど必要な措置を講じること。

(6) 全国的、広域的な視点に基づく取組の推進

 国は、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国際的取組の動向を踏まえつつ、わが国の自然的社会的状況に応じた自然再生の取組の推進に努めること。また、各地域の特性を活かした取組とともに、わが国の生物多様性は海や空を介して周辺の各国とつながっているといった国際的な視点も含め、生物多様性から見た国土のグランドデザインを考慮し、国土レベルの生物多様性の総合評価や生態系ネットワーク構想の具体的な進展も踏まえ、自然再生の必要性の高い地域を明らかにするための検討を進めるなど、全国的、広域的な視点に立った取組の計画的な推進に努めること。
 このため、生物多様性の現状や危機の状況等を空間的に評価した地図化作業を進めていくことや地域における自然環境の現状や将来の姿を明確にすることが重要であり、国は地図化やそれを全国的に進めていくためマニュアル作成に努め、地方公共団体は地域の生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的な計画である生物多様性地域戦略の策定を進めるなど自然環境の現状や将来の姿を明確にするよう努めること。
 また、大都市圏等、一つの地方公共団体の範囲を越えるような広範囲の地域において自然環境が減少又は劣化している場合には、国及び地方公共団体は、当該地域の多様な主体の参加を得て、生息範囲が広範な高次消費者等を指標種とすることや技術情報の共有などにより生態系のネットワーク化の必要性など広域的な観点からの共通の認識を形成し、計画的に自然再生に取り組むことが重要であること。

(7) 小さな自然再生の推進

 地域住民等が行う小さな自然再生は、全国各地で展開されることにより、広域的な自然環境の保全・再生につながることが期待できるものであるため、国や地方公共団体は取組の参考となる事例の整理・情報発信に努めること。
 小さな自然再生の実施に当たっては、地方公共団体が定める生物多様性地域戦略で示される地域の自然環境が目指す方向や内容を参考とするとともに地域の遺伝的特性に適合した種を用いることや外来種を持ち込むことのないよう努める必要があるため、必要に応じて国や地方公共団体、地域の自然環境の情報や知識を豊富に有する自然系博物館などに相談することも重要であること。
 また、小さな自然再生の推進に当たり、広範囲かつ多様な主体で連携して行うことが効果的なものについては、協議会を設立するなどにより発展的に取り組むことが重要であること。