自然環境・生物多様性

指定動物の選定に係る作業方針

平成18年4月

 「国立・国定公園特別地域内において捕獲等を規制する動物の選定要領」(平成18年4月決定、以下「選定要領」という。)に基づく具体的な規制対象動物の選定作業は以下により実施するものとする。

1.選定作業を進める上での基本的な考え方

 自然公園法第13条第3項第11号の規定により、捕獲等を規制する動物として環境大臣が指定するもの(以下「指定動物」という。)を選定するに際して、選定要領に基づき指定動物の候補となりうる動物全てについて、必要な情報を収集し、その指定の適否を検討し、その結果が出揃うのを待って指定作業を行おうとする場合、実際の指定までにさらに時間を要することとなる。このため、優先的に保護対策を講じていくことが必要と考えられるものから、必要な情報を収集し、段階的に指定の適否を判断していくことが、国立・国定公園における動物保護対策として効果的であると考えられる。
 従って、当面の指定に際しては「国立・国定公園において保全対策を緊急に講じる必要性が高い動物であって、生息地保全などの他の施策と相まって、捕獲規制を実施することによる保護上の効果が高いと考えられるもの」を検討対象とする。
 なお、指定動物の詳細な選定要件については2.のとおり定める。

2.指定のための詳細選定要件

 上記の基本的な考え方を踏まえ、当面の指定に際しては、次の詳細要件を満たすものを対象とする。

(1) 指定対象となる分類群は、爬虫類、両生類又は昆虫類であること。

 個体として識別が容易な大きさ及び形態を有する動物として、目視による識別が可能な動物に限るものとし、脊椎動物及び昆虫類を今回の指定対象とする。
 ただし、鳥獣保護法において全国で捕獲規制と生息地保全が実施されている哺乳類及び鳥類、自然公園法施行規則の規定により捕獲規制の対象外とされている魚介類については、今回の指定作業では検討対象外とする。

(2) 環境省作成のレッドリスト掲載種であること。

 選定要領の2.選定要件において、「絶滅するおそれのある」、又は「当該地域において個体群の存続に支障をきたすおそれのある」動物であることが要件とされていることから、環境省作成のレッドリストに掲載されている種又は亜種の中から選定を行うこととする。
 具体的には「絶滅のおそれのある」動物として、レッドリストの絶滅危惧I類(CR+EN)及び絶滅危惧II類(VU)、「当該地域において個体群の存続に支障をきたすおそれのある」動物として、レッドリストの準絶滅危惧(NT)及び付属資料・絶滅のおそれのある地域個体群(LP)の中から選定する。
 なお、レッドリストでは、いわゆる外来種については選定されていない(外国由来の外来種だけでなく、国内由来の外来種についても、本来の生息地に生息するもの以外は選定されていない)ため、レッドリスト掲載種を対象とする範囲においては、選定要領の2.選定要件の留意事項アについても充足することとなる。

(3) 国立・国定公園として緊急に保全対策を講じる必要性があるものとして、次の3つのいずれかに該当するものであること。

[1] 環境省レッドリストの絶滅危惧I類(CR+EN)掲載種であって、特別地域がその主要な生息地又は繁殖地となっている動物であること。

 全国的にみても絶滅のおそれが非常に高い動物であって、国立・国定公園の特別地域がその主要な生息地又は繁殖地であるものについては、特別地域内において保全対策を講じることで種の保存施策にも寄与することができる。このことは平成14年の自然公園法改正で国等の責務として盛り込まれた生物多様性の保全にも通じる。今回の選定では、特に絶滅危惧I類(CR+EN)に属するものから優先的に選定していくこととする。

[2] 我が国においてごく限られた国立・国定公園の特別地域を主要な生息地とすることが判明している動物であること。

 分布域が極めて限られる動物であって、特定の国立・国定公園の特別地域を主要な生息地とする動物については、当該動物の生息環境を適切に維持し、その保護を行っていくことは国立・国定公園の役割として重要である。

[3] 当該動物を見るために国立・国定公園に多くの利用者が訪れている、又は当該動物の生息地若しくは繁殖地であるということが当該地域の景観に特別な意味をもたらしていると認められる動物であること。

 当該動物を見るために国立・国定公園に多くの利用者が訪れている、又は当該動物の生息地・繁殖地であるということが当該地域の景観に特別な意味をもたらしていると認められる動物については、国立・国定公園の景観資源として特に重要であり、その保護を図っていくことが必要である。

(4) 捕獲圧が主要な減少要因の一つと考えられるもの又は今後、捕獲圧が主要な減少要因の一つになるおそれがあるものであること。

 過去又は現在において、捕獲圧が当該動物の主要な減少要因の一つとなっているもの、又は、今後、捕獲圧が増大し、当該動物の主要な減少要因の一つになるおそれがあると予測されるものを対象とする。これらの判断にあたっては、類似の特徴を持つ種や近縁種の事例、市場での流通状況等も加味して総合的に判断する。

(5) 指定動物に指定し、規制を行うことにより直接的又は間接的に当該動物の保護上の効果があると見込まれるものであること。

 現に捕獲圧のある動物の特別地域内での捕獲を規制することで捕獲圧の低減に直接的に、効果があるもの、又は今後生じうる捕獲圧に対し規制を実施することで予防措置を講じるとともに、指定動物に指定することにより地域社会における保護意識が向上し、当該動物又はその生息地への環境負荷が大きく低減されるなどにより、間接的に保護上の効果があると見込まれるものであること。

(6) 目視又は簡易な器具による生息状況の定期的なモニタリングが技術的に可能であり、かつ、実際にモニタリングを実施できる見込みがあるものであること。

 指定動物を指定した後、捕獲規制だけでなく、必要な保護対策を講じていくためには、指定動物のモニタリングが重要である。比較的簡易な方法によるモニタリングが技術的に実施可能であり、かつ、指定後1年以内を目処として指定された国立・国定公園においてモニタリングを実施できる見込みがあること。

(7) 指定後、当該指定動物の保護のため、次に掲げる要件が満たされているものであること。ただし、分類群や生物の特性により、これらの要件を必須としない場合は、この限りでない。

[1] 指定時において、国立・国定公園の特別地域以外にも隣接して主要な生息地又は繁殖地がある場合には、当該生息地等の大部分が特別保護地区等として指定され、その環境保全が担保されていること。

 一まとまりの生息地又は繁殖地が、国立・国定公園の特別地域とそれ以外の場所にまたがって存在する場合は、指定時において特別地域以外の生息地の大部分が国立・国定公園の特別保護地区や自然環境保全地域等他の保護地域として指定されており、一体的な生息地保全が可能になっていること。

[2] 二次的な自然環境に依存して生息している動物については、当該自然環境を維持・再生するための取組が現に実施され、又は指定後、実施される見込みがあること。

 二次草原に生育する植物を食草とするチョウなど二次的な自然環境に依存して生息している動物については、二次的自然環境を維持管理する人間活動が全国的に縮小する傾向にある中、当該自然環境を維持することが生息地保全の観点から重要である。当該自然環境を維持するための人間活動が指定時に現に行われ、今後も継続される見込みがある、又は当該自然環境を維持・再生するための活動が指定後1年以内を目処として実施される見込みがあること。

[3] 特殊な自然環境や特殊な餌資源を保全・再生する必要がある動物については、当該自然環境や餌資源を保全・再生することが技術的に可能であり、かつ、実際に保全・再生を実施できる見込みがあること。

 湿原など特殊な自然環境や特殊な餌資源(食草)に依存して生息する動物については、指定後、当該自然環境が変質し、又は当該餌資源が枯渇してしまえば、十分な保護の効果は期待できない。このため、これらの自然環境や餌資源の保全・再生が技術的に可能であり、かつ、指定後1年以内を目処として又は保全・再生が必要と判断された時点で速やかに、指定された国立・国定公園においてこれらの取組を実施できる見込みがあること。

[4] 国立・国定公園の特別地域での捕獲規制を実施することにより、特別地域に指定されていない主要な生息地又は繁殖地において捕獲圧が著しく高まり、当該地域における個体群の存続に支障をきたすおそれがある場合は、これらの地域における保全対策が講じられる見込みがあること。

 国立・国定公園の特別地域以外にも主要な生息地又は繁殖地が存在している動物について、特別地域での規制を行うことにより、特別地域外の生息地等での著しい捕獲圧をもたらし、当該地域における個体群の存続に支障をきたすことは、種の保存施策としては憂慮しなければならない。国立・国定公園の特別地域や特別保護地区以外にも主要な生息地等が存在している場合であって、当該地域での著しい捕獲圧の発生が予見される場合は、他法令等に基づき当該地域での保護施策が実施される、当該地域における監視体制が整備されるなど、指定後、速やかに必要な対策が講じられる見込みがあるものであることを必要とする。

3.追加の指定作業と指定の見直しについて

 今回の指定の実施後、追加指定に向けて生息情報などの情報収集及び指定後に講じるべき保護管理体制についての検討を行う。次回の選定作業は、平成18年度中に策定される改訂版レッドリストの完成を待って実施することとする。
 また、指定した動物については、永久に指定を継続するのではなく、保護の効果を見て指定の解除を実施することもありえる。このため、指定動物の生息状況等について定期的にモニタリングを実施し、その結果も踏まえ、各国立・国定公園の公園計画の点検等の際に指定の解除について検討を行うものとする。

環境省 自然環境局 国立公園課
〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎5号館 TEL:03-3581-3351(代表)

著作権・リンクについて