自然環境・生物多様性

国立公園における動物の保護に関する基本方針について

 国立・国定公園の特別地域においてその捕獲や殺傷行為を規制する動物として環境大臣が指定したもの(以下、指定動物という。)の選定を行うにあたり、国立公園における動物の保護対策についての基本的な方針を定め、これを前提として、指定動物の選定を含む動物の保護対策の検討を行うこととする。また、都道府県がその管理を担う国定公園においても、本基本方針を参考として適切な動物の保護対策が検討されることが望ましい。

国立公園における動物の保護に関する基本方針

・国立公園の役割

 平成14年3月に策定された「新・生物多様性国家戦略」において、国立公園等の自然公園は我が国の生物多様性保全の屋台骨であると位置づけられ、同年4月の自然公園法改正において生物多様性の確保が国等の責務として追加された。国立公園等の自然公園はこれまで以上に生物多様性の確保の観点から積極的な役割を果たすことが求められている。
 国立公園は、特別保護地区及び特別地域において各種の開発行為が規制されるとともに自然環境の保全・再生のための各種事業が実施されることにより、動物の重要な生息地・繁殖地を保全する役割を担ってきている。また、従来より特別保護地区において動物の捕獲等が規制されているが、平成14年の自然公園法改正により、新たに特別地域においても環境大臣が指定した動物の捕獲等の行為が規制できるようになり、より広範な地域で動物の保護を行うことが可能となった。生息地等の保全のための各種取組をより一層進めるとともに、本制度を有効に活用することによって国立公園における動物の保護を的確に図っていくことが重要である。

・動物保護の重要性

 野生動物は、植物とともに、特定の種に限らず動物全体が生物多様性の重要な構成要素であり、私たちの豊かな生活に欠かすことのできない存在である。このため、動物を含むすべての生物の保護とその適正な管理を実施することにより、良好な自然環境を保全し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することが必要である。また、国立公園における野生動物の中には、公園利用者の目を楽しませる景観資源として重要な役割を果たしているものもある。
 しかし、現実には、様々な要因により、我が国においても多くの野生動物が絶滅の危機に瀕している。主な要因としては、各種改変行為による生息地等の縮小、分断、消失や人為的管理の放棄による二次的自然環境の変質、外来生物による影響などが考えられるが、特に個体数が少ない種や生息基盤の脆弱な種の中には、捕獲の圧力が加わることによって、個体群の存続が危ぶまれているものもある。このような中、生息地等の縮小、分断、消失をはじめとする各種の影響に対して効果的な対策を講じることが可能な地域が、国立公園であると言える。このような地域において必要に応じて捕獲規制を含む適切な施策を実施することが、動物保護の観点から重要である。

・保護施策の考え方

 以上のような認識に立ち、国立公園において動物の保護施策を推進するに当たっての基本的な考え方を以下のとおりとする。

[1] 生息地・繁殖地の保全

 国立公園における動物の保護は生息地・繁殖地の保全を基本とする。
 特別保護地区及び特別地域における工作物の新築や土地の形状変更などの各種開発行為の規制に加え、環境大臣が指定する区域への車馬等の乗入れ規制や、平成14年の法改正により新たに追加された環境大臣が指定する区域への人の立入り規制などを活用し、野生動物の生息地等の保全を図っていく必要がある。また、特別地域において環境大臣が指定する植物の採取等の規制を行う制度を活用して、野生動物の食草等として特に重要な植物の保護を実施していくことも必要である。
 加えて、特に著しい減少が見られる草原性のチョウ類など、人為により維持されてきた里地里山等の二次的自然環境に依存する動物については、風景地保護協定や自然再生事業等の実施による管理的手法を積極的に活用することにより、その生息地等の保全・再生を推進することが必要である。また、国立公園にとって重要な動物の生息に深刻な悪影響を与える外来種については、適切な防除の実施が重要である。
 なお、これらの施策を展開する際には、新・生物多様性国家戦略においても基本理念の一つとして掲げられているエコシステムアプローチ(予防的順応的態度)の考え方を踏まえるものとする。特に管理的手法の導入に当たっては、的確なモニタリングを実施するとともに、その情報を広く関係者と共有し、必要に応じて見直しを行うものとする。

[2] 指定動物の選定及び保護

 指定動物の選定に当たっては、「国立・国定公園特別地域内において捕獲等を規制する動物の選定要領」に基づき選定のための作業方針を策定し、同方針に基づいて段階的に選定作業を実施していくものとする。
 また、指定動物については、単に動物の捕獲規制等を行うのみならず、指定動物を含む生態系全体を保全する観点から、各種手法を用いた総合的な保護施策を実施することが必要である。
 特に、生息数の減少が著しい種や極めて狭域に分布している種など、捕獲等によって個体群の衰退又は消失の危険性の高いものについては、巡視体制の強化など管理体制の充実に努めるものとする。

[3] 調査研究・情報収集の推進

 国立公園における野生動物の保護に係る施策を適切に実施するため、動物の生息状況等にかかる調査研究・情報収集の推進を図るものとする。さらに、動物の生息情報等は、研究機関の研究者のみならず、多くのアマチュア研究者等によって得られている状況に鑑み、幅広くこれらの研究者等と連携を図りながら、情報収集に努め、総合的な動物保護施策を推進するものとする。

[4] 普及啓発の推進

 国立公園における動物の保護の必要性や、規制区域、規制内容等について、環境省及び関係機関のホームページ、マスメディア等を通じた普及啓発・広報を行うほか、現場においてパンフレット、看板等を活用して適切な周知を図るものとする。

環境省 自然環境局 国立公園課
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