自然環境・生物多様性

第65次南極地域観測隊同行日記9

第9回:自然保護官(レンジャー)、魚を釣る

2024年2月9日(金)


みなさまこんにちは。お元気にしていますか?
私は今、魚釣りをしています。


12月のある日、私は氷の上にいました。ここは昭和基地の北、北の浦と呼ばれる海の上です。
ここで魚調査チームに同行しているのです。



           <北の浦とだいたらぽじー。遠くに南極観測船しらせが見える>

魚調査チームは、ここで主に魚に発信機をつけて行動を調べているそうです。また採取した魚の何匹かは日本に持ち帰り、詳しく調査したり水族館で飼育・展示も予定しているとのことでした。

氷に掘った縦穴に釣り糸を垂らし、しばらくして巻き上げるとハゼのような魚がかかっていました。これはショウワギスという魚で、昭和基地周辺では最も一般的な魚のひとつです。
私も今回、釣ったり譲り受けたりしながら、サンプルとして数匹確保しました。



                   <釣れたショウワギス>

さて恒例の疑問ですが、環境省は何のサンプルにするのでしょうか。
それは同行日記4で示した活動のその5「日常的に行われている活動による環境への影響をモニタリング」に関係してきます。

南極条約を踏まえてわが国では、南極という特殊な環境を守るため様々な取り決めを行っています。しかし人間が活動する以上、どうしても影響をゼロにはできません。
そこで、南極地域観測隊の活動の中でも特に人間活動による影響が出る可能性のあるものに絞って、実際にどの程度影響があるかを調べているのです。
その対象のひとつに、夏の間の生活排水の影響調査があります。実は二年ほど前に排水処理のために新しい処理装置が導入されたものの、その年の調査結果では実力が発揮できていなかったという経緯があり、今年はそのリベンジという面もあります。

今回釣った魚はその調査のひとつとして、身体の中の成分を調べるサンプルになります。他にも、いくつかの地点で水を採ったり、水の透明度を測ったりもしています。



                    <水を採る様子>

ちなみに、魚釣りは12月では終わりませんでした。サンプルは北の浦のほかに、西の浦と呼ばれる海でも釣らなければならないのです。
この西の浦、氷に覆われて海面が開きません。
南極出発前は12月中、遅くとも1月前半には釣りができるだろうと予想していました。
しかし年が明けても海は開けず、野外調査が明けても海は開けず、そのうち白夜も終わって日が沈むようになり、文字どおり明けても暮れても「西の浦が開かない……」と眺める日々でした。

そして2月に入り昭和基地から離れる日が指折りとなったころ、やっと西の浦が開け釣りができるようになったのです。



                   <海が開けた西の浦>
                 

……が、私は釣りがへたくそなので、しかけを投げるものの一向に釣れる気配がありません。
既にトラップで数匹確保したので、釣らなくても良いは良いのですが、やはり釣れないと悔しいものです。

せめて一匹……一匹くらいは釣りたい……ッ!!

私の思いもむなしく、この日は海の中に針と糸を放り込むだけになりました。



                 <釣りのようなことをする自然保護官>


 

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