自然環境・生物多様性

第65次南極地域観測隊同行日記10

第10回:自然保護官(レンジャー)、歴史を見る

2024年2月15日(木)

みなさまこんにちは。お元気にしていますか?
私は今、遺跡発掘現場にいます。





1月も終盤に差し掛かったある日、私は昭和基地のある場所にいました。今回の調査は同行日記4で触れたその6「過去に行われた活動の影響をモニタリング」で、第9回の魚と同じように、成分を調べるため土や水をサンプリングするものでした。
 
さてこの「過去に行われた活動」とは、具体的に言うとゴミの埋め立てです。
 
南極地域観測隊の活動で発生したゴミはすべて、灰すらも持ち帰って日本で処分しています。
しかし遥か昔、南極観測が始まってしばらくの間、ゴミはそのほとんどが昭和基地付近に埋め立てられていました。
それは当時の世界的な意識としてそれが一般的な方法でしたし、南極観測にかかる船の容量や昭和基地の設備など技術的な問題からそれが精一杯の処理でもあったのだろうと推測されます。
 
しかし今は違います。南極地域観測隊は前述のとおり出たゴミは持ち帰っていますし、過去には同じような積年のゴミ山を撤去したと聞いています。またこの埋立地も同様に、国立極地研究所によっておよそ10年かけて撤去する計画が進んでいます。
今年は、その準備も兼ねて一部掘削を行うそうです。
 
重機によって埋立地の掘削が始まると、出るわ出るわ。これは昔のエンジンとコンクリートミキサーでしょうか。



トランプカードが当時のまま出てきました。



これはスケートブーツですね。



他にも金属のケーブルや鉄骨のようなものなど多種多様な出土品は続き、保管用に用意したコンテナがすぐに一杯になってしまいました。
保管した出土品は今後、本格掘削の際にまとめて持ち帰ることになります。
 
ただ、事前にそれなりに聞いておりましたので、ここまではまだ予想の範疇でした。
ここまでは、「噂のとおり雪上車も見つかるかな?」と遺跡探索の気持ちでいました。
 
予想を超えてきたのはここからです。



この写真、白い四角いものは高野豆腐です。高野豆腐。高野豆腐が土から生えています。高野豆腐の他にも春巻きの皮やらマーマレードやら……。
そうです。つまりここには生ゴミもあるのです。
 
この埋立地は第25次南極地域観測隊まで使用され、第27次南極地域観測隊で埋め立てされたと聞きますので、単純計算で40年以上前の高野豆腐たちです。
 
寒冷地では、微生物や菌などの活動が少ないため有機物が十分に分解されずいつまでも残っていることがあります。冷凍マンモスなどが良い例ですが、悪い例では日本でも高山地帯などで心無い登山者のゴミや排泄物が同じようにいつまでも分解されず問題になることがあります。南極のこのゴミたちも腐敗すら十分にできずそのまま凍ってしまったようです。
 
掘り起こしたことで、氷によって封されていた生ゴミの臭いが漂います。この時ばかりは過去を慮る気持ちも横に置かれ、20世紀の貝塚を前に「昔の人せめて生ゴミだけは何とかしておいてくれ……」と頭を抱えたのでした。
なお今回発掘回収された生ゴミは、その後現代の昭和基地の設備によってちゃんと処分されました。
 
今回の作業は3日間であり、南極地域観測隊の活動日数からすれば微々たるものです。それに撤去は今あるものをゼロに戻すだけで、何か新しい成果を生むものではありません。
それでも、自然保護官(レンジャー)は思うのです。この埋立地掘削は重要な一歩であり、今回の南極地域観測隊において最も価値ある活動のひとつであったと。



         <雪解け水がしみ込まないようにブルーシートが敷かれた埋立地>

 

 

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