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環境省ホーム政策分野・行政活動政策分野一覧自然環境・生物多様性生物多様性の観点から重要度の高い海域海域の抽出 > 科学的データの解析手法

科学的データの解析手法

「生物多様性の観点から重要度の高い海域」の抽出は、主に下図のプロセスで進められました。原則1,及び2を踏まえて、まずは解析を行うための精度(グリッド)や範囲(区分)を決定し(①解析の範囲、精度の決定)、次に抽出基準に合致する場所を特定するため、抽出基準の「適用例」から具体的な活用データをそれぞれの基準ごとに特定し、さまざまなGISデータを解析の精度に沿ってインプットしました(②GISデータ等のインプット)。インプットしたデータは、より抽出基準に合致する場所あるいは、非代替性が高い場所を抽出する手法(③解析)を用いて、抽出基準ごとに情報図を作成しました(④抽出基準別の情報図の作成)。その際、抽出基準が合致する度合いをみるため各グリッドを基本的に5段階で評価し1~5までのスコアを付しました。この評価スコアを使って、各基準がもっとも高く評価された場所及び基準横断的に非代替性が高い場所を抽出する解析の二つの手法を用いて8つの情報図を統合し(⑤抽出基準別情報図の統合)、解析結果図を作成しました(⑥最終解析結果)。

各段階①~⑥の詳しい内容は以下の通りです。

 

1.解析の範囲、精度の決定 2.GISデータ等のインプット 3.解析 4.抽出基準別の情報図の作成 5.抽出基準別情報図の統合 6.最終解析結果 7.解析結果図

 

 

①解析の範囲(区分)、精度(グリッド)の決定

海洋の生態系は三次元的特性を有していることを踏まえ、「生物多様性の観点から重要度の高い海域」の評価に際しては、これらを区分し解析を行う必要がありました。そこで、データが多い沿岸域(領海かつ水深200m以浅の場所)と沖合域を区分し、さらに沖合域は沖合表層と沖合海底を区分して解析を行うこととしました。沿岸域では5kmグリッド(約5×5km)、沖合域(表層、海底)においては30分グリッド(約55×45km;緯度により異なる)を解析の単位(ユニット)として用いました。

 

②GISデータ等のインプット

海洋環境情報である海底地形や海流などの物理環境データ、生物の分布データやハビタットの分布情報、その他重要な生態系の選定・抽出事例(例:重要湿地500、IBA, Marine-IBA、WWF重要サンゴ礁群落、昆虫類の多様性保全のための重要地域など)、さらに政府・国際機関・学術論文・民間団体による調査研究データも含めて、GISデータとして利用可能なデータは可能な限り活用しました。これらのデータは、原則2. を踏まえて、抽出基準ごとに設定した適用例を参照して、抽出基準ごとにインプットしました。なお、利用データには様々なデータ形式(緯度経度データ、ポリゴンデータ、メッシュデータ、ラインデータなど)がありますが、これらを全て、沿岸域においては5kmグリッド(約5×5km)、沖合域においては30分グリッド(約55×45km)に解析ユニットを統一して解析しました。また、利用したデータには様々な性質があるため、種の分布情報、サンゴ礁や藻場などの生態系の場の情報、天然記念物などの件数の情報を区別し、それぞれに解析を行いました。

 

③解析

それぞれの抽出基準ごとにどの場所がより各抽出基準に合致するかを表す「抽出基準別情報図」を作成するため、二つのデータ解析手法を用いました。一つは、種(あるいは生態系)の重なりを評価するもので、より抽出基準に合致する要素(種や生態系など)が重なる場所を特定する手法で、もう一つは、最小限のグリッドで最大限の種(あるいは生態系)の組成をカバーできるよう、組成が重ならないグリッドのセットを選ぶという相補性解析の手法です。相補性解析を行うにあたってはMARXAN外部サイト(生物多様性保全上優先度の高い場所や海洋保護区の候補地を科学的に選定するためのアルゴリズム)を用いました。

また、抽出基準によっては上記以外の解析手法を用いました。例えば、抽出基準5(生産性)については、グリッド内における藻場やサンゴ礁の面積割合やクロロフィルa濃度による生産性の高さを解析しました。抽出基準6(生物多様性)については、Hurlbert’s Index(種の多様度期待種数)解析を用いました。抽出基準7(自然性)については、自然性が高い場所に生息する種(指標種)を特定し、それら指標種の生育箇所の重なり度合いや、グリッド内における自然海岸/自然植生(自然環境保全基礎調査)の割合を解析に用いました。

これらの手法により、各グリッドは基本的に5段階で評価され、1〜5までのスコアが付されました。

 

④抽出基準別の情報図の作成

③の作業に付されたスコアを活用し、抽出基準別情報図を作成する作業を行いました。③において、二つの解析手法を用いた場合は、より高いスコアを採用して、そのグリッドの評価とし、二つの解析結果を統合しました。

こうして、解析区分の範囲(沿岸域、沖合表層域及び沖合海底域)ごとに、抽出基準別情報図を作成しました。ただし、データの不足によって作図ができなかったものもありました。

 

⑤抽出基準別情報図の統合

それぞれの抽出基準別に作成された「抽出基準別情報図」を1つの図に統合する作業を行いました。情報図の統合にあたっては、抽出基準別情報図で各グリッドに付与されたスコアを活用し、二つの方法を用いて行いました。一つはMARXANによる相補性解析を行い、優先度の高いグリッドを抽出する解析方法、もう一つは、各抽出基準別情報図において最も高いスコアを「ハイスコア」と称し、ハイスコアのグリッドを全て重要であるとして抽出する方法です。これらの方法により抽出されたグリッドを重ね合わせました。

 

⑥最終解析結果

⑤で行ったハイスコアのグリッドまたは、MARXANの相補性解析で優先度が高いとされたグリッドのいずれかに該当するグリッドを「生物多様性の観点から重要度の高い海域」に相当するものとして抽出しました。そしてこれを解析結果図としました。