第17回ICRI総会

セイシェル共和国の国旗
セイシェル総会
2005年4月25日~28日に、インド洋の島嶼国であるセイシェル共和国においてICRI総会が 開催されました。ICRI総会がこの地域で開催されるのは、2001年にモザンビークのマプートで 開催された総会以来のことで、この地域では2回目になります。一方、1995年にICRIがスタートした後に、各地域で相次いでICRIワークショップが開催されましたが、その時、東アフリカ・西インド洋地域でのワークショップが1996年にセイシェルで開催されています。セイシェル総会への参加者は75名で、2004年7月の沖縄での総会(78名)に次ぐ規模となりました。総会の議題をセイシェル総会の議題に掲載しています。
総会では、3日間に渡り多くの話題が議論されましたが、もっとも注目されてたのは「議題6.0: 南アジアにおけるサンゴ礁と関連生態系の現状報告」と「議題14.0: インド洋津波被害に対するICRIの対応」です。ここでは、被災国のサンゴ礁被害状況が報告され、今後の復興支援や協力、調査のあり方などが議論されました。また、「議題16.0: ICRI10周年」も重要な議題でした。2005年はICRIの基本理念を記した「行動の呼びかけ [PDF 20KB]」の採択から10周年に当ったため、10年間の成果や今後の展開について議論されました。我が国に最も関係の深い議題としては、「議題3.4: 2005~2007年事務局(日本-パラオ共和国)の体制および計画」です。ここでは、日本とパラオから、次期事務局の体制や計画の概要を発表し、次回の総会をパラオで2005年10月31日~11月3日に開催することを提案しました(日本-パラオ提出文書 [PDF 142KB])。この総会は、日本とパラオがICRI事務局を引き継ぐ直前の総会ということもあり、日本とパラオ両国からの代表団は、事務局準備のため、総会の合間をぬって各国や各機関と様々な打ち合わせを行いました。
セイシェルおよび会場
セイシェル情報
セイシェル共和国は、アフリカ大陸の東方、マダガスカルの北方のインド洋上に点在する大小115の島々からなる島嶼国です。セイシェルは、ガラパゴス島にも匹敵すると言われるほどの豊かな自然と生物に恵まれたところで、ヴァレドメ国立公園とアルダブラ環礁の2ヶ所がユネスコの世界自然遺産に指定されています。島々はサンゴ礁によって囲まれ、ダイビングやシュノーケリングも盛んです。
場所
セイシェル総会の議題
25日(月)
時間 | 議題 | 議事内容 | 発表者 |
---|---|---|---|
8:30 | 受付開始 | ||
9:00 | 1.0 | 開会 | |
1.1 | 総会開催の挨拶 | Ronny Jumeau (大臣) | |
1.2 | 議題の採択 | ||
2.0 | 新規加入メンバーおよびオブザーバーの紹介 | ||
10:15 | 3.0 | 事務局関係事項 | |
3.1 | 事務局の2004年7月以降の活動 | UNEP-WCMC | |
3.2 | 「ICRIの組織と運営方法」文書の改正案 | Robert Baldi | |
3.3 | The role of the ICRI Focal Point | Robert Baldi | |
3.4 | 2005~2007年事務局(日本-パラオ共和国)の体制および計画(日本-パラオ提出文書 [PDF 142KB]) | 高橋啓介、Andrew Bauman、Fabian Iyar | |
3.5 | 予算関係-USカウンターパート・ファンドのICRIへの貢献について | Stefan Hain | |
3.6 | コミュニケーション- ICRIニュースレター、ICRIパンフレットの作成 | Francis Staub | |
11:45 | 4.0 | 他の関係枠組み・会合などとの関わり | |
4.1 | IUCN保全会議 | IUCN | |
4.2 | 第23回UNEP運営審議会 | Stefan Hain | |
4.3 | ITMEMS 3 | Richard Kenchington | |
4.4 | PIANCワーキンググループ-サンゴ礁周辺域における埋立・港湾開発建設についての議論 | IADC/CEDA/CRU | |
4.5 | 生物多様性条約(CBD)/SBSTTA | Marjo Vierros | |
4.6 | 地域海計画会合(Regional Seas - Seas to Seas meeting) | Stefan Hain | |
13:00 | 昼食 | ||
14:15 | 5.0 | ワーキンググループからの報告 | |
5.1 | 海洋保護区ワーキンググループ | Robert Cudney | |
5.2 | 冷水性サンゴワーキンググループ | Mai Britt Knoph | |
15:00- 18:00 | 6.0 | 南アジアにおけるサンゴ礁と関連生態系の現状報告-インド洋津波被害活動報告とICRIの役割について(被災地域からの報告、サンゴ礁における早期被災調査とモニタリングのためのガイドライン) |
26日(火)
時間 | 議題 | 議事内容 | 発表者 |
---|---|---|---|
9:00 | 7.0 | 政策・体制に関連する問題 | |
7.1 | 各国報告 | ||
7.2 | ICRIスコアカードの利用 | ||
8.0 | 新たな問題事項 | ||
8.1 | サンゴ礁の評価 | Toby Roxbrugh | |
8.2 | 水族館へのICRI のプロモーション | Andrew McLeod | |
8.3 | インド洋における白化現象に対するサンゴの回復力と適応力 | Charles Sheppard | |
8.4 | サンゴ礁生態系への侵入生物種の影響 | IUCN | |
8.5 | サンゴ礁関連の教育と普及啓発 | Seychelles/ NGO TBC | |
13:00 | 昼食 | ||
14:00 | 9.0 | メンバーからの報告 | |
9.1 | フランスサンゴ礁イニシアティブ(IFRECOR)レポートおよび第2期(2006-2010年)計画 | ||
9.2 | フランス南太平洋イニシアティブ(AFD-CRISP) | ||
9.3 | ノルウェー2004年レポート | ||
10.0 | イギリス・小規模融資プロジェクトレポート | ||
10.1 | ジャマイカ | ||
10.2- | フィリピン | ||
10.3 | ボネアー | ||
11.0 | ICRI オペレーショナルネットワーク | ||
11.1 | ICRAN | Kristian Teleki | |
11.2 | GCRMN | Clive Wilkinson | |
11.3 | CORDIO | Olof Linden | |
17:00-18:00 | 12.0 | 小島嶼開発途上国(SIDS )会合の紹介。モーリシャス会合、ICRIサイドイベントの結果報告 | Rolph Payet |
27日(水)
時間 | 議題 | 議事内容 | 発表者 |
---|---|---|---|
9:00- 12:30 | 13.0 | ICRIとSIDS /小島嶼国の生物多様性 (SIDS諸国のサンゴ礁の現況、島嶼の生物多様性に関する活動プログラム、ICRIによるSIDSに関する声明の採択) | Rolph Payet |
13:00 | 昼食 | ||
14:00 | 14.0 | インド洋津波被害に対するICRIの対応 | |
16:00 | 15.0 | 再審議必要事項、その他決議 | |
17:00 | 16.0 | ICRI10周年にあたって-今後10年間における地球規模ビジョン(これまでの成果と将来課題) | |
17:30 | 17.0 | 次期事務局への引継(ICRIの旗の引継) | イギリス-セイシェル事務局、日本-パラオ事務局 |
17:45 | 18.0 | その他議題 | |
18:00 | 終了 |
セイシェル総会結果概要
セイシェル総会が無事終了しました。セイシェルには、日本から環境省の高橋専門官、(財)自然環境研究センターの木村研究員、日比野研究員の3名が参加し ました。ここでは、総会の会議の様子や結果だけでなく、会場の様子や短期間の滞在ではありましたが、セイシェルの感想も含めてレポートします。
セイシェル気候風土
セイシェルはとても熱く、かつ湿度の高いところでした。パラオからの代表団も、口々に、パラオの方がよっぽど過しやすいと言っていました。外に一旦出ると汗が噴出し、逆に屋内に入ると窓が結露するぐらい冷房が効きすぎていて、体温調節が大変でした。陸地は起伏が激しく、石灰岩の岩肌がいたるところに露呈していました。その一方で植生は概して豊かで、市街地以外はほとんどが「ジャングル」で覆われているようでした。 セイシェルはヨーロッパのリゾート地として、観光収入が大きいため、比較的豊かな国ですが、点在するリゾートホテルとその外とでは、やはり世界が違い、一般の人々の生活はごく質素なもののようでした。
会場/ホテル
会場とホテルは同じ場所で、「セイシェル、プランテーション・クラブ・リゾート&カジノ」というリゾートホテルでICRI総会は開催されました。空港には現地スタッフが、このイベントのためにつくったおそろいの「ICRITシャツ」を着て出迎えてくれ、セイシェル環境省の車でホテルまで連れて行ってくれました。ホテルまでは空港から約1時間でしたが、ほぼ島(国)を北東端から南西端まで縦断した感じでした。それぐらいセイシェルは小さな国です。ホテルは、名前のとおり、いわゆるリゾートホテルで、目の前はプライベートビーチ(写真1)、背後には丘が迫っていて、隔離された広大な敷地の中にコテージ風の棟が連なっていました(写真2)。ホテルでは、ICRI総会のために入り口に横断幕を掲げ、貸切とは言わないまでも、ICRI総会のための配慮が各所でなされていました(写真3、4)。


写真2.ホテルの宿泊棟の風景(右)


写真4.ホテルの入り口にはICRI総会の横断幕が掲げられていました(右)
会議の様子
総会は、ホテルの会議室で行われました。今回の総会への参会者は、合計75名、その他に、オブザーバーや現地の人たちも聴講しておりましたので、80~90名ぐらいになりました(写真5、6)。
初日は、まず最初にセイシェルの環境大臣が開会の挨拶を行い、次いで、セイシェルの小中学校で行われた「環境・歌コンテスト」の優秀校のメンバーが次々に歌を披露し、表彰式を行うという演出がありました。これは、学校での環境教育の一環で、国として環境保全に力を入れていることが伺えました。
その後、議題の採択があり、次いでICRIの新規メンバーの参加表明と承認決議が行われました(議題2.0)。今回は、3団体(The Nature Conservancy (TNC)、Coral Cay Conservation (CCC)、SPC (Secretariat of the Pacific Community))で、いずれも、まず参加表明のスピーチを行い、その後ICRIメンバーの承認決議を得て、晴れてICRIのメンバーに加盟することができます。新メンバーのスピーチでは、ICRIの基本政策と理念が記された「新・行動の呼びかけ [PDF 35KB]」と「行動の枠組み [PDF 36KB]」の趣旨に賛同し、それに沿って活動を行うことを「誓う」ことになっています。


写真6.パラオ代表団。左から、David Orrukem (MoE), Andrew bauman (OERC), Fabian Iyar (PICRC), Lolita Gibbons (PICRC) (右)
結果概要
主要な議題で議論された内容および議論の結果を以下に記します。
25日(月)
議題 | 結果概要 |
---|---|
3.2 | 「ICRIの組織と運営方法」文書の改正 2003年に決定された、「ICRIの組織と運営方法」決議文書の見直しが行われました。事務局より見直し個所の説明があったのち、ワーキンググループ(英、米、日、UNEP)で細かい点について議論が行われ、修正が加えられました。その後ICRIフォーラム上で回覧・修正された後、最終的に決議されました。 |
3.4 | ICRIスコアカード 世界銀行が開発したICRIスコアカード(ICRIがその目的をどれぐらい達成しているか、あるいは参加国がICRIの活動をどの程度実施しているかを評価するための採点票)を、参加国や機関がICRIにそれぞれの活動をレポートするために活用すべきとの提案が事務局から出され、各国・各機関がそれに向けて努力することになりました。 |
3.5 | 2005~2007年事務局(日本-パラオ共和国)の体制および計画 日本・パラオから次期事務局の構成や活動概要について発表を行いました(日本-パラオ提出文書)。次回のICRI総会を10月31日~11月2日にパラオで開催することが決議された。パラオ総会の直後には、米国サンゴ礁タスクフォース(USCRTF)会合をICRI総会と連動する形で開催することも決まっており、多くのアメリカの関係者がICRI総会に参加することが期待されています。 |
4.7 | 国際海洋保護区会議(IMPAC) オーストラリア代表より、2005年10月23日から28日までオーストラリアにジーロングで開催される国際海洋保護区会議(IMPAC)について説明が行われました。現在、500名(16ヶ国)から参加登録があり、発表の申込みは約150あるとのことでした。IMPACはパラオ総会の直前に行われるため、IMPAC参加者が地理的に近いパラオにも足を運ぶことが期待されています。 |
4.8 | 第3回国際熱帯海洋生態系管理シンポジウム(ITMEMS 3) 4年に一度、ICRIが中心となって開催している国際熱帯海洋生態系管理シンポジウム(ITMEMS)について、次期(第3回)シンポジウムを2006年に開催することがICRANより提案されました。また、メキシコがコスメル市で開催したい旨を発表いたしました。その後ワーキンググループ(ICRAN、メキシコ、日、パラオ)により議論が行われ、2006年10月にITMEMSをメキシコで開催する方向で準備を進めることなどが提案され、了承されました。 |
6.0 | 南アジア津波によるサンゴ礁及び関連する生態系の被害状況 2005年12月の津波による被害状況について被災国、援助機関等から発表が行われました。日本からは、東アジアの被災報告や取り組みと日本と取り組みについて、木村氏より発表がありました。ICRIとしてどのように対応していくかについて議論が行われ、GCRMNが中心になって、今回の津波の総合的な影響評価を行うことが決定されました。また、次期総会おいても、引き続きこの議題について議論していく必要性が指摘されました。 |
会議初日の晩には、パラオ環境大臣主催のレセプションが開催されました。(写真7,8)


写真8.レセプションの中で、セイシェル環境省から、次期事務局の日本・パラオに対し、記念品が贈呈されました。記念品は、セイシェルの象徴とも言える、ココヤシの一種の「Coco de Mer」の置物です。これは、日本とパラオがもらえるわけではなく、次の事務局に引き継いでいくことが求められています。イギリス・セイシェルの共同議長から置物を手渡される環境省の高橋氏(左から3人目)とパラオのDavid Orrukem氏(右下)(右)
26日(火)
議題 | 結果概要 |
---|---|
7.2 | 地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN) GCRMNから「2004年版 世界のサンゴ礁現況報告」が昨年12月に出版されたことが報告されました。また、フランスとの共同プロジェクトとして、サンゴ礁モニタリングデータベース(COREMOIII)の開発を進めることが発表されました。 |
7.4 | リーフチェック リーフチェック本部より活動について近況報告がありました。現状のボランティアベースの活動方法では限界があるので、民間部門と提携していく構想が発表されました。リーフチェックを認定制にして、ダイビング事業者が販売出来るような教材・カリキュラム等を提供するといった、ビジネスモデルを開発中とのことです。 |
9.3 | ラムサール条約からの報告 ラムサール条約事務局から、サンゴ礁のラムサール登録地について、2003年に38カ所だったサンゴ礁を含むサイトが、現在54カ所に増加した旨の報告がなされた。日本から、現在ラムサールのサイトの登録向け作業中であり、その中にサンゴ礁を含むサイトも含まれていることが発表されました。 |
11.6 | サンゴ礁再生手法に関する科学的及び財政的評価の必要性に関する決議 サンゴ礁の再生手法に関する見解と、再生を試みる際に専門家の意見を聞くよう奨励する提案が、リーフチェック、GCRMN、ICRANなどから提起されました。ワーキンググループ(リーフチェック、GCRMN、ICRAN、日、米等)で議論した後、改訂の決議案が了承されましたが、これも、ICRIフォーラム上で回覧・議論されて最終的に議決されます。 |
27日(水)
議題 | 結果概要 |
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13.0 | ICRI と小島嶼開発途上国及び島嶼生物多様性 セイシェルが中心になって、小島嶼開発途上国(SIDS)の行動計画文書を発表されました。しかし、事前に回覧が行われなかったため、今後ICRIフォーラム上で時間をかけて議論を継続していき、次期総会に再度提出することになりました。 |
16.0 | ICRI10周年にあたって-今後10年間における地球規模ビジョン 本年がICRIの「行動の呼びかけ」と「行動の枠組み」が採択されてから10周年に当たるため、これまでの成果を振り返り、今後の方向性を決定する目的で、事務局から「ICRI:グローバルビジョン、ローカルアクション」という文書が提案されました。今後10年間の方向性を決定する重要な課題であるため、文書の内容については多くの意見が出され、今後継続して議論していくことになりました。 |
17.0 | 次期事務局への引継 現イギリス・セイシェル事務局から、次期事務局を担当する日本・パラオに対してエールが送られ、ICRIの旗が引き継がれました(写真9)。それに対し、日本とパラオ代表から、謝意と現事務局の労を称える意が述べられました。そして、日本とパラオから、現事務局に対して記念品(日本とパラオの伝統工芸品など)が贈呈されました(写真10)。 |


写真10.ICRIの旗を引き継ぐにあたって、挨拶に当たるパラオ(左:Fabian Iyar)と日本(中央下:高橋氏)の代表。この後、日本とパラオから現事務局に対して記念品が贈呈されました(右)
フィールドトリップ
3日間の総会の議論が終了した後、最後の28日には、事務局がフィールドトリップを企画いたしました。これは、参加者にセイシェルのサンゴ礁の現状や保全活動の現場を実際に見てもらうねらいがあります。フィールド・トリップは、島内を環境保護区などをバスで回るバス・ツアーと、サンゴ礁でシュノーケリングするシュノーケリング・ツアーに分かれました。シュノーケリング・ツアーでは、セイシェルの海洋研究を行っている研究施設と海中公園の一つに案内されました(写真11)。
セイシェルは1998年の大規模白化現象で大きなダメージを受けたため、サンゴ礁の状態はあまり良くはありませんでしたが、現在回復途上にあるとのことです。セイシェルはアフリカ大陸のすぐ近くですが、太平洋とつながっているインド洋であるためか、サンゴや魚の種類は、沖縄などで見られるものと同じものが多く、海中景観は沖縄本島辺りとあまり変わりありませんでした。フィールド・ツアー中には、総会に参加していたリーフチェック(ReefCheck)のGregor Hodgson代表が、地元の人々を対象に、リーフチェックの講習会をビーチで行っていました(写真12)。


写真12.フィールド・トリップの最中に、リーフチェックのGregor Hodgson代表が、地元の人々を対象に、リーフチェックの講習会を行っている様子(右)
セイシェル総会公式議事録と決議
セイシェル総会のICRI公式議事録(概要)と、総会中に採択された決議がイギリス・セイシェル事務局より提出されました。
セイシェル総会公式議事録(概要)
セイシェル総会で採択された決議
組織体制と運営方法に関するICRI決議(議題3.2)
