自然環境・生物多様性

なぜそこら中に? まだ大丈夫なところもあります!

導入・拡散経緯と分布状況 <ポイント>

  • アメリカザリガニは現在、本州から沖縄までの都市部から里山の水田、用水路、ため池、河川緩流域、湖沼などの水辺に広く定着し、北海道でも温水が入り込むような水域で定着している。
  • 意図的な放流により日本各地に定着したとされる。
  • 一方で、生息情報のない水域もかなり残されており、安易に近隣の水域に逃がすのは厳禁。
 

 導入・拡散経緯と分布状況概要

導入・拡散経緯と分布状況概要版 2021.3.23改訂


1. 国内における拡散過程

【拡散初期】

  • アメリカザリガニはウシガエルの餌として利用する目的で神奈川県大船町(現、鎌倉市大船)に輸入された。1927年に米国ニューオリンズ市より送られた100匹のうち、その多くは輸送の途中で死亡したとされ、実際に国内へ輸入されたのは27匹(20匹との説もある)だった。
  • ウシガエル養殖場はその後閉鎖され、アメリカザリガニが附近に逃げ、最初は大船町附近の河川や、水田およびその灌排水溝で繁殖する。その後1930年代に、東京、埼玉、千葉方面へと伝播していったものとされる。また、自然分散のほか飛び石状に分布を拡大している地域もあり、これは人による持ち運びがあったものと想定されている。
  • 東京、埼玉、千葉に定着したアメリカザリガニが荒川や元荒川、古利根川を移動経路とし、埼玉県南部から群馬県南部へと順次拡散。関東平野北部まで達するのにおよそ30年の歳月を要している。

【全国への拡散】

  • 1960年代には北海道を除く国内都府県へ伝搬していたとされる。特に第二次世界大戦前後において拡散が著しい。この原因は、おそらく人為的な移入がより頻繁になったためと考えられている。

アメリカザリガニの全国への拡散を示す地図

アメリカザリガニの全国への拡散(宮下1963より作図)

2. 拡散要因

【人為的要因】

 ⑴ ペット等の飼育個体
  • ペットショップや夜店で売られていた個体、野外から採集された個体が飼育後、捨てられたり、逃げ出したりする例があることがアンケートで分かっており、そうした個体が野外で繁殖し思いもよらない場所に定着する場合がある。
  • 学校教育現場での身近な生物の観察・採集・飼育の対象としてアメリカザリガニが飼育されるケースが約3割を占めることが教職員向けアンケートで分かっている。そうした個体についても処理に困り、また心情的な配慮から放流された例があると考えられる。
 ⑵ その他
  • 水辺の生き物として親しまれており、元々生息しない地域にも拡げることが肯定的にとらえられ、意図して放流したケースもあると報告されている。
  • 釣り用の活き餌として流通していることから、釣りを終えた後に遺棄される恐れがある。
  • 北海道内の温泉跡地では、1970年代に温泉施設の敷地に温泉排水を引き入れてアメリカザリガニの養殖を試みていたが、温泉施設の廃業にともないそのまま放置され自然繁殖を続けていた事例が報告されている。

【自然分散】

 ⑴ 出水

  • 関東平野での戦前の拡散の大きな要因として大洪水があったためと考えられている。
  • アメリカザリガニが分布する地域としない地域を結んでいる河川が氾濫すると、分布していない別水系への伝搬が著しく促進される。
 ⑵ 水路を通じた分散
  • 兵庫県神戸市のため池群で行われたアメリカザリガニの生息調査から、水路を通じた分散が推測されている。
  • 一方で、アメリカザリガニの生息していないため池もあり、アメリカザリガニの拡大進行中に水田の耕作放棄がなされ、上流域のため池にアメリカザリガニの分布が拡大する前に乾燥化が進み水路が分断された様子も観察されている。
 ⑶ 陸上の移動
  • 岩手県では、当初4箇所のため池で確認されていたアメリカザリガニが、数百メートル離れた周辺部のため池で確認されるようになったとされ、陸上を移動し分散したものと考えられている。
  • 雨の夜などに路上を歩く個体を見かけることがあり、水路・水系によらない自発的な拡散があるとされる。
  • 池干しなどで水を抜いた際、泥の中に潜む個体はとりきれずに池から歩いて逃げることから、水域からの拡散を助長する事例が見られる。
     

3. 現在の分布状況

【全ての都道府県で確認】

  • アメリカザリガニの分布に関係する情報を、電子媒体のデータベース、学術論文や報告書、市民参加型調査による生き物マップ、SNSやブログなどから、分布は全都道府県で確認されている。

       ※確認情報がない場所にも、生息している可能性はあることに注意。

 

既往調査記録に基づくアメリカザリガニ確認地点

既往調査記録に基づくアメリカザリガニ確認地点

 

【未侵入地域について】

  • アメリカザリガニが生息可能な環境条件においても、未だ侵入していない地域も存在していることから、新たな放流を控え拡散を防ぐことが重要であるといえる。
  • 分布が広がっている関東平野においても、多摩丘陵や奥多摩などでは アメリカザリガニが侵入していない場所もあるとされる。
  • ​兵庫県神戸市に多数分布する放棄ため池のうち54箇所で2000年夏季と2001年冬季に水生生物調査を行った結果、17箇所でアメリカザリガニを確認し、それ以外のため池では確認されていないことが報告されている。
  • 石川県珠洲市はため池が多数存在するが、その中でアメリカザリガニが定着している水域は一部のみとされ、周辺部のため池では在来の水生昆虫相が保たれている場所が多いとされる。
  • 首都圏でも、神奈川県三浦半島ではかがみ田(横須賀市野比に自然状態で残る最大規模の谷戸田)のように、アメリカザリガニが侵入していない箇所がある。
  • 水田地帯からかなり離れているため池。特に、内陸部あるいはやや標高の高い地域の里山に残っている傾向がある。
  • このため、都市部であっても、安易にアメリカザリガニを水辺に放さないようにする必要がある。