法令・告示・通達

廃棄物焼却施設における飛灰処理薬剤による二硫化炭素の発生について

公布日:平成14年02月18日
環廃対143号

(各都道府県・政令市廃棄物行政主管部(局)長あて環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課長・産業廃棄物課長)

 標記について、今般、厚生労働省において「飛灰処理剤による二硫化炭素発生の検証実験報告書概要」を取りまとめ、別添のとおり、当省に対し、対策方協力依頼があったところである。
 ついては、別添の内容について御了知いただくとともに、貴下の廃棄物焼却施設設置者に対して周知願いたい。

別表
基安化発第〇二一八〇〇一号
平成一四年二月一八日
  関係事業者団体の長 殿
厚生労働省労働基準局安全衛生部
化学物質調査課長

   廃棄物焼却施設における飛灰処理薬剤による二硫化炭素の発生について

 廃棄物焼却施設においては、焼却に伴い発生する飛灰中の重金属の溶出を防ぐため、飛灰処理剤として主にキレート剤(注:金属イオンと結合してキレート化合物を形成する処理剤)が用いられているところですが、今般、廃棄物焼却施設の飛灰の処理過程でキレート剤の分解生成物とみられる二硫化炭素が検出された事案が報告されたところです。
 廃棄物焼却施設において飛灰処理を行う労働者について二硫化炭素による健康障害の発生は確認されていませんが、これを未然に防止する観点から、厚生労働省では、独立行政法人産業医学総合研究所に検証実験を依頼したところであり、その結果、別添のとおり試料とした飛灰処理剤のほとんどから二硫化炭素が発生することが認められたところです。
 つきましては、これらを踏まえ、廃棄物焼却施設における労働者の飛灰処理に係る二硫化炭素によるばく露を防止する観点から、貴団体の会員に対し、当該飛灰処理剤による二硫化炭素の発生について注意を喚起するとともに、二硫化炭素により汚染されるおそれがある作業場について空気中の二硫化炭素の濃度測定を行い、二硫化炭素の発生が認められる作業場においては、左記の対策を講じるよう、周知していただきたく、お願い申し上げます。

  1. 一 以下の対策を講ずることにより、作業場における二硫化炭素による関係労働者のばく露の低減化を図ること。
    1.  (一) 飛灰処理剤については、二硫化炭素が発生しにくいものに代替すること。
    2.  (二) 二硫化炭素の発生が認められる廃棄物焼却施設の作業場については、密閉化する又は局所排気装置等を設け、作業場への発散を抑制すること。また、密閉化した設備、局所排気装置等については、点検及び定期自主検査を励行すること等により、有効に機能させること。
    3.  (三) 適正な作業管理を行うための作業標準を作成し、これに基づく作業管理を行わせること。特に飛灰処理剤を直接取り扱う作業又は設備の開閉作業等、労働者が二硫化炭素にばく露するおそれのある作業を行う場合には、有機ガス用防毒マスク等の有効な呼吸用保護具の使用を徹底させること。
  2. 二 定期的に空気中の二硫化炭素の濃度を測定し、該当する作業場の作業環境の把握に努めるとともに、一〇ppmを管理濃度に準じた値として評価を行い、必要に応じて作業環境の改善を図ること。
  3. 三 関係労働者が容易に知ることができるよう、見やすい場所に二硫化炭素の人体に及ぼす作用、飛灰処理剤の取扱い上の注意事項及び中毒が発生した場合の応急処置等についての掲示を行うこと。
  4. 四 設備の密閉化が困難で、二硫化炭素にばく露するおそれのある作業に常時従事する労働者に対しては、有機溶剤中毒予防規則第二九条に定める項目について、六ケ月に一回、健康診断を実施するよう努めること。
  5. 五 関係労働者に対して、二硫化炭素による中毒の予防に関し、必要な教育を実施すること。

    基安化発第〇二一八〇〇一号の二
    平成一四年二月一八日
      都道府県労働局労働基準部
          労働衛生主務課長 殿
    厚生労働省労働基準局安全衛生部
    化学物質調査課長
    (契印省略)

   廃棄物焼却施設における飛灰処理薬剤による二硫化炭素の発生について

 廃棄物焼却施設においては、焼却に伴い発生する飛灰中の重金属の溶出を防ぐため、飛灰処理剤として主にキレート剤(注:金属イオンと結合してキレート化合物を形成する処理剤)が用いられているところであるが、今般、廃棄物焼却施設の飛灰の処理過程でキレート剤の分解生成物とみられる二硫化炭素が検出された事案が報告されたところである。
 廃棄物焼却施設において飛灰処理を行う労働者について二硫化炭素による健康障害の発生は確認されていないが、これを未然に防止する観点から、厚生労働省では、独立行政法人産業医学総合研究所に検証実験を依頼したところであり、その結果、別添のとおり試料としたキレート剤のほとんどから二硫化炭素が発生することが認められたところである。
 ついては、これらを踏まえ、廃棄物焼却施設における労働者の飛灰処理に係る二硫化炭素によるばく露を防止する観点から、関係事業者団体に対し、別紙一のとおり要請したところであるので了知されたい。
 なお、環境省廃棄物対策課長、産業廃棄物課長には、別紙二のとおり通知していることを申し添える。

  飛灰処理剤による二硫化炭素発生の検証実験報告書概要
独立行政法人産業医学総合研究所
作業環境計測研究部

1 趣旨、目的

  廃棄物焼却施設において使用されている飛灰処理剤(キレート剤)を用いて、飛灰を処理する作業を行う際に、二硫化炭素の発生があるかどうかについて、検証実験を行ったものである。

2 キレート剤主成分物質の一般的な合成反応式

  キレート剤の主成分と考えられるジチオカルバミン酸系化合物は、一般的に以下のような合成反応式により合成されているが、このジチオカルバミン酸系化合物は、不安定で、加熱又は酸の添加により逆反応が起こり、二硫化炭素が発生する可能性があることが知られている。
図:アミン系化合物 二硫化炭素 ジチオカルバミン酸系化合物
アミン系化合物 二硫化炭素 ジチオカルバミン酸系化合物

3 試料

  実験に用いた試料は、以下のとおりである。

  •    ・飛灰処理剤(キレート剤) 11種
  •    ・飛灰
  •    ・セメント(市販品)

  なお、11種の飛灰処理剤は、それぞれどのような構造を有しているかについては不明である。

4 実験方法

  各キレート剤を密閉栓付ガラスバイアル(ガラス容器)(容量40ml)に分取し、温度、飛灰及びセメントの混入量の条件を設定し、それぞれの場合の二硫化炭素の濃度を測定した。

 (実験1)二硫化炭素濃度の温度による経時的変化
   ガラスバイアルに精製水で8分の1に希釈したキレート剤(F)3mlを分取し、35度、50度、70度で経時的にガラスバイアル内の二硫化炭素濃度を測定した。
   その結果、二硫化炭素の濃度は、(図1)のような経時的変化をした。

 (実験2)二硫化炭素濃度の飛灰の量による経時的変化
   ガラスバイアルに精製水で8分の1に希釈したキレート剤(F)3mlを分取し、それに飛灰+セメント+水(100:15:20)を加え、50度に加温し、経時的にガラスバイアル内の二硫化炭素濃度を測定した。
   その結果、二硫化炭素の濃度は、(図2)のような経時的変化をした。

 (実験3)11種のキレート剤に係る二硫化炭素濃度の測定
   11種のキレート剤について、以下のような実験を行った。

  1.   ① ガラスバイアルにキレート剤3mlを分取し、室温に放置して1日後ガラスバイアル内の二硫化炭素濃度を測定した。
  2.   ② ガラスバイアルにキレート剤0.3ml、精製水3mlを加え、室温で3時間保った後に、ガラスバイアル内の二硫化炭素濃度を測定した。
  3.   ③ ガラスバイアルにキレート剤0.3ml、精製水3mlを加え、飛灰+セメント+水(100:15:20)3gを加え、50度に加温したまま3時間保った後に、ガラスバイアル内の二硫化炭素濃度を測定した。

  その結果、二硫化炭素の濃度は、(表1)のとおりとなった。

5 結果

 (実験1)
   図1から以下の結果が得られた。

  •    ・キレート剤は、希釈しただけで二硫化炭素が発生する。
  •    ・キレート剤から発生する二硫化炭素濃度は、ほぼ時間に比例して増加する。
  •    ・二硫化炭素濃度の上昇速度は、温度が高いほど速くなる。

 (実験2)
   図2から以下の結果が得られた。

   ・飛灰+セメントを加えるとその量の増加とともに二硫化炭素濃度の上昇速度が速くなる。

 (実験3)
   図3から以下の結果が得られた。

  •    ・キレート剤Ⅰを除く10種で二硫化炭素の発生が確認された。
  •    ・飛灰+セメント+水を添加し、50度に加温した場合のガラスバイアル中の二硫化炭素は、1000ppmを超える製品が5種(B、D、E、F、H)あり、一番濃度が高いDでは12000ppmであった。(但し、これは、ガラスバイアル中という密閉された中での濃度であるため、作業環境中の濃度ではこれより相当低くなる。)

6 結論

  1.  ① 試料としたキレート剤の殆どから二硫化炭素が発生することが確認された。
  2.  ② ジチオカルバミン酸系のキレート剤は、程度の差はあるが、何も操作を加えない状態でも二硫化炭素が発生し、水で希釈すると発生が顕著になる製品もあるため混練以外の場所でも取扱いに注意する必要がある。

グラフ:キレート剤 F図1
  (図1)
グラフ:キレート剤 F図2
  (図2)

表1 ガラスバイアル中の二硫化炭素濃度およびpH
 
純品
希釈品
コード
 
希釈品+水
希釈品+水+飛灰+セメント
pH
 
ppm
ppm
ppm
 
A
6.0
8.7
29.2
10.6
B
278.8
176.8
3300.1
10.7
C
3.0
8.9
36.7
10.8
D
36.8
22.3
12173.9
11.1
E
39.2
85.3
7191.0
10.3
F
5.1
0.5
2705.3
11.5
G
610.4
207.5
882.7
11.0
H
3.0
5.0
3341.6
12.5
I
0.0
0.1
6.7
12.2
J
11.2
5.7
360.9
11.9
K
1.3
1.5
977.3
12.3


 注:

  1.   ① 純品:ガラスバイアルにキレート剤3mlを分取し、室温に放置して1日後ガラスバイアル内の二硫化炭素濃度を測定した結果
  2.   ② 希釈品+水:ガラスバイアルにキレート剤0.3ml、精製水3mlを加え、室温で3時間保った後に、ガラスバイアル内の二硫化炭素濃度を測定した結果
  3.   ③ 希釈品+水+飛灰+セメント:ガラスバイアルにキレート剤0.3ml、精製水3mlを加え、飛灰+セメント+水(100:15:20)3gを加え、50度に加温したまま3時間保った後に、ガラスバイアル内の二硫化炭素濃度を測定した結果
  4.   ④ Iは非常に濃度が低く、二硫化炭素が発生しているのではなく、測定誤差の可能性があること。
  5.   ⑤ 本測定結果は、ガラスバイアル(容積40ml)中に累積した二硫化炭素の濃度であり、換気、排気を行っていて容積が大きい作業環境の濃度の測定結果とは、異なるものであることに留意すること。