法令・告示・通達

「感染性廃棄物の処理において有効であることの確認方法について」の一部改正について

公布日:平成16年03月16日
環廃対発040316001・環廃産発040316002

(各都道府県・各保健所設置市廃棄物行政主管部(局)長あて環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課長・環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長)
 感染性廃棄物の処理における有効性の確認方法については、「感染性廃棄物の処理方法について」(平成一〇年一二月九日付け衛環第九七号厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長通知)別紙「感染性廃棄物の処理において有効であることの確認方法について」において具体的な手順を示したところであるが、昨今の知見等を踏まえ、この確認方法を別紙のとおり一部改正したので通知する。
 貴職におかれましては、改正された確認方法を関係者に周知し、感染性廃棄物の適正な処理の確保について指導の徹底に努められたい。

<別紙>
  感染性廃棄物の処理において有効であることの確認方法について

1 感染性廃棄物の処理において有効であることの確認について

 感染性廃棄物の中間処理において感染性を失わせることの有効性は、不活化確認試験により、2に示す細菌芽胞等滅菌抵抗性の強い生物指標に対して、処理前の微生物数と比べて処理後の微生物数が確実に10-4以下に減少すること、すなわち99.99%以上減少することが必要であり、安全性を考慮して、10-6以下に減少すること、すなわち99.9999%以上減少することを確認することが望ましい。


 【解説】 感染性廃棄物の感染性を失わせることの確認においては、全ての病原性微生物種に対する不活化能力を確認することが望ましいが、用いる生物指標の有無や検査の容易さ、病原性微生物を検査に利用する危険性を考慮して、2に示す生物指標を利用することとする。10-4又は10-6の確認の方法は3に示す。
    感染性廃棄物処理において問題となる代表的な病原性微生物種であるHIV、HBV及び結核菌を含めた多くの病原微生物は2に規定した生物指標と比較して滅菌抵抗性が遥かに低いため、その感染性はBacillus属細菌芽胞を10-4以下に減少させる条件下での不活化処理により完全に破壊される。ただし、Clostridium属細菌(破傷風菌・ガス壊疽菌群)および炭疽菌(Bacillus anthracis)等の芽胞形成病原細菌は2に示した生物指標と同等の滅菌抵抗性を持つ。これらの病原微生物に汚染された又は汚染された可能性のある感染性廃棄物を処理する場合は、安全性を考慮して、2に示した生物指標を10-6以下に減少させる条件下において行うことが望ましい。
    なお、定期的に2に記載したBacillus属細菌芽胞等を使用して不活化の確認を行うことが望ましい。

2 代表的な生物指標

(1) 次の細菌芽胞と同等あるいはそれ以上の抵抗性を示す生物指標を使用して、感染性微生物の不活化を確認する。

  1.  a 熱処理(高周波によるものを含む。)による不活化判定:Bacillus stearothermophilus(ATCC 7953)及びBacillus subtilis var. niger(ATCC 9372)
  2.  b γ線及び電子線等の照射処理による不活化判定:Bacillus pumilus(ATCC 27142)
  3.  c その他の処理による不活化判定:各処理に関し最も妥当と考えられる生物指標


 【解説】 通例、日本薬局方及び国際標準化機構(ISO)の基準に従って、各処理機構による微生物不活化を判定するために最も適した生物指標を1種選択して使用する。例えば、加熱処理の場合、高圧蒸気滅菌に準じた処理法の生物指標としてはB.stearothermophilus芽胞を、赤外線照射処理、解放系での高周波照射処理等ではB.subtilis芽胞を使用して微生物不活化能力を判定する。ガンマ線及び電子線照射処理では、日本薬局方に従ってB.pumilus芽胞を使用して判定する他、ISO規格に準じて、生物指標を使用することなく、照射した放射線量から微生物の不活化度を理論的に求めても良い。また、酸化剤、過酸化物、アルカリ剤及び各種消毒剤等による化学処理の場合、B.subtilis芽胞を利用して不活化の確認を行う。
    なお、処理前の廃棄物に存在する生菌数と種類が明らかな場合は、その微生物種の中で適用使用とする不活化機構に対して最も抵抗性を示す微生物種を生物指標とすることもできる。
    また、これらの生物指標は、処理工程の有効性を証明する物理的又は化学的な監視と常に組み合わせて用いられることが適当である。生物指標の挙動は使用前の保存状態、使用方法又は暴露後の処理技術によって影響されるため、標準的な保存及び使用方法を厳守し、処理終了後直ちに回収し、標準的な方法に従って不活化確認試験に供することが重要である。
    さらに、実際の感染性廃棄物の処理においては、微生物の死滅速度に影響を与える有機化合物又は液体廃棄物等が混在するため、試験に使用する生物指標の担体(微生物を負荷する容器等)にも有機化合物、無機化合物又は液体等を人工的に添加して条件の異なる数種類の試験を行うことが望ましい。生物指標菌を使用して微生物不活化試験を行う場合、指標菌を封入する容器(あるいは担体)は、やむを得ない場合を除き密封容器の使用を避けること。

(2) 適用する生物指標は市販品及び自家調製品のいずれを使用してもよい。ただし、自家調製品を使用する場合は、市販の生物指標と同等あるいはそれ以上の性能を有することを確認する。


 【解説】 2の(1)に記載したBacillus属細菌の芽胞を封入した生物指標は各種市販されている。使用する処理方法と目的に従い、最も妥当な菌種、濃度及び形態の生物指標を選択して定期的に処理方法の不活化の確認を行う。市販品の他、自家調製品を使用しても問題はないが、その場合は市販の生物指標と同じ微生物あるいはそれ以上の滅菌抵抗性を示す微生物を使用し、さらに作成した生物指標が市販品と同等あるいはそれ以上の性能を持つことを各ロット毎に確認する必要がある。

3 感染性微生物の不活化効力の確認方法

(1) 感染性微生物の不活化の指数は、処理の前後の生存指標菌数の対数の差として次式により、「log10kill」として示される。

          log10kill=log10I-log10R
  log10kill:感染性微生物の不活化効力
  I:試料に添加した生物指標菌数(処理前の廃棄物1g当たりの集落形成単位)
  R:処理後の試料から回収された生存指標菌数(処理前の廃棄物1g相当量当たりの集落形成単位)


 【解説】 処理による微生物の減数曲線は、横軸に処理時間、縦軸に微生物数の対数値をとってグラフ化すると不活化の開始初期を除きほぼ直線になるため、通例、微生物不活化の度合いは対数値(log10)として表される。例えば、初期菌数1×107個の指標菌を用い、処理後、1×101個の指標菌を回収したときの微生物の不活化の指数は本項の計算式により、6log10(あるいは単に6)となる。これは微生物数の10-6又は99.9999%の減少と同義である。また、3の(3)のように生物指標担体の完全性を維持できない処理装置で微生物不活化の定量を行うために実際の廃棄物あるいは模擬廃棄物に直接指標菌を負荷し、処理過程中に破砕処理等が施されて廃棄物の原形がなくなる場合は、廃棄物1g当たりの微生物数に換算して試験を行う。処理の前後で廃棄物の重量に差が生じる場合(例:高周波処理で水分蒸発により多少減少)は、処理前の廃棄物1gに相当する量の処理物中に残存する指標菌数を検討する。

(2) アンプルあるいは紙片等を適用する生物指標担体の完全性を維持できる処理方式の場合、適切な菌株及び菌数の生物指標を使用して感染性廃棄物の不活化効力を示すことができる。

  具体的には、実際の感染性廃棄物あるいは標準的な模擬廃棄物に生物指標を挿入し、処理後、回収した生物指標菌の増殖の有無によって不活化効力を確認する。ここで、標準的な模擬廃棄物とは実際の廃棄物処理における処理対象廃棄物の性状に近似させた種類及び量の非感染性廃棄物(未使用医療用具)等であり、次のようなものが挙げられる。なお、本試験を行う場合は、可能な限り実際の使用条件に準じて試験を行うものとする。
  1.   a 固形状のもの:注射筒、透析器具、手術用手袋、ガーゼ、脱脂綿、包帯、試験器具、寒天培地等
  2.   b 鋭利なもの:注射針、手術用器具等
  3.   c 液体又は泥状のもの:人工血液、牛胎児血清、液体培地、半流動寒天液等


 【解説】 アンプルあるいは紙片等の生物指標担体を設置又は挿入する場所は、各処理において不活化の効率の最も悪い位置とする。初期濃度1×106個の指標菌を含有するアンプルや紙片等の生物指標担体を被処理物と共に処理し、処理後に回収した生物指標担体を培養して指標菌の増殖が認められなかった場合、同処理の微生物不活化効力は6log10以上となる。アンプルや紙片等の担体を使用せず、指標菌を直接被処理物に負荷し、処理後に指標菌を回収して平板混釈法又は平板塗抹法等により微生物不活化判定を行ってもよい。また、処理過程に破砕工程がある装置でも、破砕工程後の実際の不活化の工程時に生物指標を導入することができる場合は、アンプルや紙片等の生物指標担体を用いて微生物不活化の確認を行ってもよい。
   (注) 試験の結果においては、2の(1)に記載したBacillus属細菌等の芽胞を含む各種微生物に体する滅菌効力について検討し、1で規定された値以上の感染性微生物の不活化の効力を持つことを明らかにする。なお、当該試験結果と併せて、試験方法、計算手順等も明らかにされていることが必要である(別添1参照)。

(3) 生物指標担体の完全性を維持できない処理方式の場合、感染性廃棄物の不活化効力の確認は「対照試験」及び「本試験」の2つの試験(別添2参照)によって行う必要がある。対照試験の目的は、希釈又は物理的に捕えられて回収不能となった生物指標菌数の減少を明らかにすることである。


 【解説】 処理過程に破砕工程等があり、かつ、実際の不活化の工程時にアンプルあるいは紙片等の生物指標担体を導入できない装置等に適用する。生物指標菌は被処理物に直接負荷し、別添2に記載した方法により微生物不活化の判定を行う。

別表

  1.  1 処理方法の感染性微生物の不活化効力を確認するための試験方法は、求められている不活化を担保するものであり、可能であれば既存の標準的な試験手順と一致していることが望ましい。試験の実施に当たっては、日本水道協会編「上水試験方法・解説」、日本薬学会編「衛生試験法・注解/微生物試験法」及び厚生労働省編「日本薬局方/微生物限度試験法、無菌試験法、滅菌法及び無菌操作法並びに超ろ過法」等の既に認知された標準的手順を適宜取り入れるものとする。
  2.  2 不活化効力の確認のための試験の実施に当たっては、使用する処理方式に応じて、次の事項を考慮して適宜試験条件を定め、その試験結果を取りまとめておくこととする。
    1.   ① 実際に処理する廃棄物の組成
    2.   ② 当該処理方法に不適当な廃棄物の種類
    3.   ③ 既存装置あるいは技術に対する処理有効性の比較
    4.   ④ 日常管理あるいは装置稼働性能試験に供する標準的な模擬廃棄物組成並びにその選定理由
    5.   ⑤ 処理時間、温度、圧力、照射量、化学薬品濃度、pH、湿度、負荷密度、負荷体積等実際の装置稼働時の各種パラメータ条件
    6.   ⑥ アンプルあるいは紙片等の生物指標担体が処理方式によって破損等人工的に影響され得る可能性
    7.   ⑦ 適切な生物指標の種類、負荷量及び負荷方法
    8.   ⑧ 生物指標の生存率(生存能力)に影響しない薬液の希釈及び中和方法
    9.   ⑨ 微生物間の増殖競合の回避、至適培地及び培養時間の選択等に関する適切な微生物培養方法と判定方法

 1 対照試験

  1.   ① この試験では、試験終了時に本文1で規定した対数減少を示すのに必要な生物指標菌数が確実に回収され得る所定量の微生物負荷数を使用する。
  2.   ② 本文3の(2)で規定した標準的な模擬廃棄物に①の微生物負荷数と同量の生物指標を添加する。
  3.   ③ 水に浸潤又は粉砕等、不活化の工程を除く処理を行った後、試料を取り出し洗浄して、試料内の生物指標を回収する。
  4.   ④ 回収した生物指標菌を培養し、その微生物回収を定量化する。回収された生存指標菌数は、薬剤等によって処理した廃棄物からの指標菌回収数と比較する基線量に用いられ、次式によって示される。
          log10RC=log10IC-log10NR>規定値
       (注) 本文1で規定した対数減少は10-4又は10-6以下であるため、この規定値は4又は6となる。
        RC:未処理の廃棄物残渣から回収した生存指標菌数(廃棄物1gあたりの集落形成単位)
        IC:模擬廃棄物に添加した生物指標菌数(廃棄物1gあたりの集落形成単位)
        NR:未処理廃棄物の残渣から回収されなかった指標菌数(廃棄物1gあたりの集落形成単位)で、微生物減少を説明する係数

 2 本試験

  1.   ① 対照試験で使用した標準的な模擬廃棄物に対照試験と同量の生物指標を添加する。
  2.   ② 全ての処理を行った後、試料を取り出して洗浄して、試料内の生物指標菌を回収する。
  3.   ③ 回収した生物指標菌を培養し、微生物回収を定量化する。
  4.   ④ 対照試験及び本試験の成績から、次式により感染性の不活化効力が算出される。
               log10kill=log10IT-log10NR-log10RT
        log10kill:感染性微生物の不活化効力
        IT:模擬廃棄物に添加した生物指標菌数(廃棄物1gあたりの集落形成単位)
           log10IT=log10IC
        NR:未処理廃棄物の残渣から回収されなかった生物指標菌数(廃棄物1gあたりの集落形成単位)
        RT:処理済廃棄物の残渣から回収された生物指標菌数(廃棄物1gあたりの集落形成単位)