法令・告示・通達

ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針の運用の考え方等について

公布日:平成2年06月14日
環水土84号

(各都道府県環境行政担当部局長あて環境庁水質保全局土壌農薬課長通知)

 かねてから当課業務の推進に当たり格別の御協力を賜わり厚く御礼申し上げます。さて、今般、平成二年五月二四日付け環水土第七七号環境庁水質保全局長通知をもって、ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針が通達されたところでありますが、その運用等に当たっては、左記のように考えておりますので参考に供されるとともに、別紙様式に記入の上ご報告をいただきたく御協力方よろしくお願い申し上げます。

一 指針設定の経緯、趣旨

  最近、ゴルフ場で使用される農薬の流出によって下流の水道水源等の水質が汚染されるのではないかとの論議があり、環境庁としてはかねてから都道府県に対しゴルフ場周辺の水質等の実態把握に努めるよう依頼してきたところ、これまでの報告によれば、大部分の地点では農薬は検出されていないものの、一部で極く微量の農薬が検出される場合があり、これに関して、ゴルフ場の指導に当たって注意を要するレベルか否かを判断できる目安を示すよう強く要請を受けてきたこと。
  このような要請を受け、環境庁としては、ゴルフ場の立地条件や構造等の態様が多様であり、また、ゴルフ場で使用される農薬の挙動や水質への影響の機作等について必ずしも十分な知見が得られていない状況にはあるものの、当面の情勢に鑑み、現状の知見からみて可能な範囲で水質汚濁の未然防止に資する対処の方策を早急に明らかにする必要があると考えられたことから、地方公共団体が水質保全の面からゴルフ場を指導する際の参考となるよう、当面の措置として指針を定めたものであること。

二 指針の対象、性格

 (一) 指針の対象

   指針の対象はゴルフ場に限っていること。これは、ゴルフ場ではこれまで農耕地に比べて農薬使用等に関する調査、指導が必ずしも徹底されていなかった実情があり、今後早急に関係者の所要の取組を助長する必要があると考えられたことによること。
   なお、この指針を農耕地に適用するか否かについては、一般の農耕地では、農薬は、多様な営農形態の下に多数の農業者によって圃場毎に個々に使用され、かつ、広大な面積に複雑な用排水系統や多様な利水、排水施設が錯綜して存在しているため、農薬流出の継続的な監視や流出原因の特定、具体的な対応の方策等について引き続き知見の集積に努めつつ今後とも検討する必要があり、このような状況の下で、この指針を農耕地にまで拡大して適用することは適切ではないと考えていること。

 (二) 指針の性格

   指針は、都道府県がゴルフ場使用農薬に係る水質実態を的確に把握し、水質保全の面からゴルフ場を指導する際の参考となるものとして定めたものであり、法律に基づくような義務や規制を伴うものではないが、この指針の適切な運用により、現地の実情に即して、必要に応じ、具体的な改善措置が講ぜられることを期待しているものであること。
   また、指針は、現在得られている知見等を基に、医学、薬学、公衆衛生学等の専門家の意見も聞いて定めたものであるが、今後、関係する知見の集積や現地での指針の適用状況、実態把握の進捗等によっては、将来、対象農薬の追加、指導内容の改善等の改定がありうるという意味で「暫定」指導指針としたこと。

三 指針の運用に当たっての留意事項

 (一) 推進体制

   調査、指導の円滑、的確な実施には、関係部局間の一体となった取組が不可欠であり、このため、特に、農林部局、衛生部局、河川管理部局等との連携を密にし、各部局がその所掌事務に基づき相互に協力分担して対処し得る体制を整える必要があること。

 (二) 対象ゴルフ場

   当面の情勢に鑑み、この指針の適用が開始され次第、できれば一年以内に、管内の全てのゴルフ場を対象として、調査、指導が行われることが望ましいこと。なお、調査労力、分析体制の制約等からこれが困難な場合には、立地条件等からみて緊急性の高いゴルフ場から順次計画的に実施し、なるべく早期に全てのゴルフ場について調査、指導が一巡するよう努められたいこと。全てのゴルフ場に対する調査、指導が一巡した後は、その調査、指導の結果やゴルフ場の立地条件、農薬使用や水質保全に関する管理体制等を勘案して、対象とするゴルフ場毎に調査、指導の内容を重点化する等これらの効率的な実施に努められたいこと。
   また、ゴルフ場関係者の自主的な調査、点検の実施等についての指導、助言に努められたいこと。この場合、都道府県はこの自主的な調査、点検の結果についてゴルフ場関係者から報告を求めるとともに、クロスチェックを行う等により、その報告の信頼性の確保について必要な措置を講ずること。

 (三) 調査地点

   一般に一つのゴルフ場には排水口が複数以上ある場合が多いが、調査地点は、その中から、集排水系統、排水処理施設の能力、構造や、農薬使用に関する実態調査、既往の水質調査の結果等を踏まえ、かつ、下流の利水状況等を総合的に勘案して、実態の把握と下流水域への影響の未然防止の確保に必要な地点を選定すること。

 (四) 調査時期、回数

   調査時期、回数については一律に示し難いが、現地の実情に即し、農薬使用や水質保全に関する専門的技術者等の協議により、排出水中の農薬濃度が高い状態になると見込まれる時に行われるよう適切に設定すること。また、指針値を上回る状況が明らかになった場合には、調査の地点や時期、回数を増加する等により原因の究明とこれに基づく改善指導に当たること。

 (五) 指針値の根拠

   指針値は、前記のとおり、現在得られている知見等を基に、人の健康の保護に関する視点を考慮して、ゴルフ場からの農薬の排出に起因する水質の汚濁を未然に防止するため、医学、薬学、公衆衛生学等の専門家の意見も聴いて、ゴルフ場排水口における農薬の濃度として設定したものであること。
   また、厚生省の生活環境審議会水道部会水質専門委員会から「ゴルフ場使用農薬に係る水道水の暫定水質目標」が報告されているが、排水口における農薬の濃度がこの指針値を超えない場合には、一般的な条件の下では、当該水道水の暫定水質目標を超えないものと考えられること。
   なお、同報告では、万一、一時的にこの水道水の水質目標値をある程度超える状況があったにしても直ちに健康上の問題に結びつくものではない等とされているところであるが、この指針値は、このことも念頭において水質汚濁の未然防止を図るという観点から、排出水の農薬濃度が指針値を一時的にしても超えた場合には、現地の実情に即したより詳細な調査や具体的な指導を開始する契機となるものとして、いわば適切な調査、指導のための手掛りとして、活用されるものとして設定したところであること。

 (六) 指針値の上乗せによる指導

   指針値は一般的な条件のもとで適用されるものとして設定しているが、ゴルフ場の立地条件や下流の利水状況等からみて、この値に基づく指導では下流の水道水源等の水質の保全に懸念を生ずると認められる場合には、都道府県において地域の実情に応じ、いわゆる上乗せによる指導ができることとしていること。この場合の上乗せは、地域毎又はゴルフ場毎に適宜行われるものと考えていること。
   なお上乗せによる指導を行おうとする場合には、その旨予め当課に御連絡願いたいこと。

 (七) 農薬の適正使用と使用量の削減

   病害虫や雑草の防除の際には、周辺環境にも配慮して所定の方法に基づく農薬の適正使用が図られる必要があることは当然であるが、水質汚濁の未然防止を図る観点からは、防除効果を勘案しつつも可能な範囲で、使用場所、使用回数の低減とともに、使用量自体を削減する努力が求められること、特に、排出水の農薬濃度が指針値を上回る状況が明らかになった場合には流出農薬濃度の低減のための具体的措置が講ぜられるよう指導すること。
   なお、この点に関し、このような使用量の削減も、適正使用の範囲に入るとの論議もあるが、適正使用の用語が幅広い意味合いで理解される場合もあることから、以上のような考え方を念頭に置いて使用量を削減する努力の必要性を確認するためにも、その旨書き分けたものであること。

 (八) 施設・構造の改修

   ゴルフ場の施設・構造はその立地条件や開設の年代によっても異なっているのが実情であり、その態様によって場外への農薬の流出の状況は異なると考えられるので、その実態の把握に努めるとともに、排出水の農薬濃度が指針値を上回る状況が明らかになった場合等には、農薬使用の改善と併せ、現地の実情に即し、場内の排水系統の変更や調整池の容量増等により農薬の流出を抑制し得るものとなるよう指導すること。

四 分析方法

  1.  (一) 農薬によっては、複数の検出器で分析を行うことが可能であるが、指針においては、最も容易に分析を行うことができると考えられる検出器を用いる方法を標準分析方法として示したものであること。この分析方法に係る留意事項は次のとおりである。
    1.   ア ガスクロマトグラフについては、現段階で一般的なパックドカラムを優先的に採用し、吸着等により明らかにパックドカラムでは不都合が生じるものについては、ワイドボア(メガボア)のキャピラリーカラムを用いる方法となっていること。
    2.   イ 比較的分析上の夾雑物が少ない水試料を対象として標準分析法を作成したので、選択性が高く多少の夾雑物の存在下でも分析に支障がない炎光光度型検出器付きガスクロマトグラフを用いて測定する農薬については、分析操作の簡略化のため、カラムクロマトグラフィーが省略されていること。他の検出器で分析する農薬についても、洗浄溶出の操作を省略するとともに、吸着剤の吸着力の差による分析エラーが少なくなるよう配慮されていること。したがって、逆に、夾雑物が多く、本分析方法では分析は困難な場合は、カラムクロマトグラフィーや洗浄溶出の操作を付け加えることが必要となる場合があること。
    3.   ウ カラムクロマトグラフィーに用いる吸着剤は銘柄やロットにより吸着力に差があり、目的物質の溶出に必要な溶媒の量が変わることがあること。このため、分析前に、使用する吸着剤について、目的物質を既知量加えて、目的物質が確実に溶出するかどうかの確認を行い、実際の分析を行う必要があること。
  2.  (二) 指針に示された分析方法は、各農薬を個別に分析する方法であるが、分析検査の効率化のため複数の農薬を同時に分析する等、別の方法による場合には、排出口の試料について各農薬の指針値より一桁程度低い濃度の定量が可能となるように留意されたいこと。

別表

 かねてからゴルフ場周辺の水質等の実態に関する調査結果の御報告をいただいてきたところですが、今般暫定指導指針が通知されたことを受け、今後は下記について御留意の上、ひきつづき御報告いただきますようよろしくお願いいたします。

  1. 一 当課あての報告に当たっては調査結果を別紙様式一から三により取りまとめ願いたいこと。
  2. 二 様式二については、調査実施主体毎に、都道府県・市町村、ゴルフ場、その他別に記入するとともに、全体を総括したものを作成すること。
      なお、ゴルフ場の自主的な調査結果については、都道府県の指導に基づき指針に即した方法で行われ、かつ信頼し得る機関により採水・分析が行われている等都道府県において十分な信頼性が確保されていると判断できるものについて報告されたいこと。
  3. 三 報告は、当分の間、毎年三月末日までの調査結果について、四月末日までに当課あて送付願いたいこと。なお、各都道府県において調査結果を公表された場合には、その公表資料も併せて送付願いたいこと。
  4. 四 当課において、全国的な状況を取りまとめた結果については、公表を求められる場合があり得るので、その旨御了承をいただきたいこと。