法令・告示・通達

特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法の施行について

公布日:平成6年07月14日
環水管147号

(各都道府県知事あて環境事務次官通達)

 特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法(平成六年法律第九号。以下「法」という。)については、平成六年二月二五日に成立し、同年三月四日に公布され、同年五月一〇日から施行された(特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法の施行期日を定める政令(平成六年政令第一三九号))。また、特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法施行令(平成六年政令第一四〇号。以下「令」という。)及び特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法施行規則(平成六年総理府令第二五号。以下「規則」という。)は、同年五月九日に公布され、いずれも法の施行の日から施行された。
 法は、浄水処理に伴い副次的に生成する人の健康に被害を生ずるおそれのある物質による水道利水障害を防止する上で水道水源水域の水質の保全を図ることが重要であることにかんがみ、国民の健康を保護するため、水道水源水域において水質の保全に関する施策を総合的かつ計画的に講ずることを内容とするものであり、貴職におかれては、左記事項に留意の上、本法の円滑かつ適切な施行に万全を期されるようお願いする。
 以上命により通達する。

 

 一 法制定の趣旨

   近年、水道原水の浄水処理に伴い副次的に生成する物質であって発ガン性を有すること等が疑われている有機ハロゲン化合物が水道水から検出され、このうちトリハロメタンについては、水道水質基準を満たさないおそれがあるという問題が生じている。
   法は、こうした状況を踏まえ、水道原水の浄水処理に伴い副次的に生成する人の健康に被害を生ずるおそれのある物質による水道利水障害を防止する上で水道水源水域の水質の保全を図ることが重要であることにかんがみ、水道水源水域の水質の保全に関する基本方針を定めるとともに、水道事業者の講ずる措置を踏まえ、特定水道利水障害の防止のための対策を実施しなければならない水道水源水域について、水質保全計画を策定し、水質保全に資する事業、水質の汚濁の防止のための規制その他の措置を総合的かつ計画的に講ずることにより、水道水源水域の水質の保全を図り、もって国民の健康を保護しようとするものである。 二 特定水道利水障害及び特定項目

  (一) 特定水道利水障害

    法において、「特定水道利水障害」とは、水道水が、水道原水の浄水処理に伴い副次的に生成する物質であって人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定める物質に係る水道法(昭和三二年法律第一七七号)第四条第一項第三号に基づく水道水質基準を満たさないこととされている。令においては、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン及びブロモホルムが定められているが、これら四物質(以下「トリハロメタン」という。)各々に係る水道水質基準だけでなく、これら四物質の濃度の総和である総トリハロメタンに係る水道水質基準が満たされない場合についても特定水道利水障害となるものである(法第二条第一項、令第一条)。

  (二) 特定項目

    特定水道利水障害の防止を図るために水道水源水域(その水が水道原水として取水施設により取り入れられる公共用水域及びこれにその水が流入する公共用水域(法第二条第四項))において対策を実施する際の指標である「特定項目」については、トリハロメタンの生成の原因となる物質による水の汚染状態の程度を示す項目として政令で定めることとされている(法第二条第二項)。令では、特定項目として「トリハロメタン生成能」が定められている(令第二条)。

 三 特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する基本方針

   水道水源水域の水質を保全して国民の健康を保護するための基本的な施策を策定することは国の責務であること並びに各般の施策の総合的かつ計画的推進及び各地域間における施策の整合性の確保を図ることが必要であることにかんがみ、法第三条においては、国は、特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならないとされている。基本方針は、平成六年五月一七日に閣議決定され、同月二〇日に公表されたところである(平成六年総理府告示第一七号)。
   基本方針は、水道水源水域の水質の保全に関する基本的な指針等を規定しており、都道府県知事による指定水域及び指定地域の指定の申出(法第四条第一項)、水質保全計画の策定(法第五条第一項)等に関する指針となるものである。

 四 指定水域及び指定地域

   法に基づく水質保全計画の策定その他の措置は、次の手続きを経て指定された指定水域及び指定地域を対象として講じられるものである。

  1.   ア 内閣総理大臣は、都道府県知事の申出に基づき、その水を水道原水として利用する水道水において特定水道利水障害が生じるおそれがあると認められる水道水源水域であって、水道事業者がその水質の汚濁の状況に応じた措置を講ずることにより特定水道利水障害を防止することが困難であり、かつ、特定水道利水障害を防止するため水質の保全に関する施策を総合的かつ計画的に講ずる必要があるものを指定水域として、指定水域の水質の汚濁に関係があると認められる地域を指定地域として指定することができることとされている(法第四条第一項)。
  2.   イ 水道事業者は、水道水源水域の水質の汚濁により特定水道利水障害が生じるおそれがあると認められる場合において、自らその水質の汚濁の状況に応じた措置を講ずることにより特定水道利水障害を防止することが困難であるときは、都道府県知事に対し、指定水域及び指定地域の指定の申出をするよう要請できることとされている(法第四条第二項)。
        都道府県知事は、この要請を受け、又はこの要請がない場合には水道事業者に意見を聴いて(法第四条第五項)、法第四条第一項の指定の要件に照らして検討のうえ、指定水域及び指定地域の指定の申出をするものである。
  3.   ウ 水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律(平成六年法律第八号。以下「事業促進法」という。)第四条第一項の規定による水道事業者の特定水道利水障害に係る要請があった場合には、法第四条第二項による要請があったものとみなされることとされており、事業促進法による要請は本法による要請と同様に取り扱われることとなる(法第四条第三項)。
  4.   エ 指定水域及び指定地域の指定については、都道府県知事による申出が前置とされているほか、内閣総理大臣による関係都道府県知事の意見聴取(法第四条第四項)、都道府県知事による関係市町村長の意見聴取(法第四条第五項)等の手続きが定められている。これらのうち、法第四条第四項の都道府県知事とはその指定に係る水域又は地域を管轄する都道府県知事を、同条第五項の関係市町村長とはその指定に係る水域又は地域を管轄する市町村長を、それぞれ指すものである。
  5.   オ 以上の手続き規定は、指定水域又は指定地域の指定の変更又は解除についても準用することとされている(法第四条第九項)。
        この場合において、指定水域の指定の変更とは指定水域の範囲の変更を、指定の解除とは指定水域が同条第一項の指定要件に該当しなくなった場合における指定の全面的な廃止を、それぞれ指すものであり、指定地域の指定の変更又は解除もこれに準ずるものである。
        なお、このような指定の変更又は解除は、都道府県知事の申し出に基づき行うものとされ、都道府県知事は、事情の変化により法第四条第一項に掲げる要件に照らして指定の変更又は解除の必要が生じたと認めるときは、指定の解除又は変更の申出をしなければならないこととされている(法第四条第八項)。

 五 水質保全計画

  (一) 趣旨

    都道府県知事は、指定水域及び指定地域が定められたときは、基本方針に基づき、指定地域において特定水道利水障害を防止するため指定水域の水質の保全に関し実施すべき施策に関する計画(以下「水質保全計画」という。)を定めなければならないこととされている(法第五条第一項)。
    水質保全計画は指定水域及び指定地域の自然的・社会的諸条件に応じた各種水質保全施策を関係機関及び関係者の合意と協力を得つつ、総合的・計画的に推進する拠り所となるものである。このため、都道府県知事が同計画を策定するに当たっては、都道府県環境審議会、事業実施者及び関係市町村長から意見を聴き、指定水域の水を水道原水として利用する水道事業者から法第五条第二項第二号に掲げる事項について聴取し、かつ、指定地域内の水道水源水域を管理する河川管理者に協議しなければならないこととされ(法第五条第七項)、また、内閣総理大臣に協議しなければならないこととされている(法第五条第八項)。さらに、内閣総理大臣への協議と併せて指定水域の水質の保全に関する普及啓発並びに指定水域及び水道水の水質の測定に関する事項であって、水質保全計画の達成に必要なものについて、内閣総理大臣に報告しなければならないこととされている(法第五条第九項)。

  (二) 計画の内容及び策定の考え方

    水質保全計画には、①指定水域の水質の保全に関する方針、②水道事業者が指定水域の水質の汚濁の状況に応じて講じ、及び講じようとする措置、③指定水域の水質の保全に関する目標、④下水道、し尿処理施設及び浄化槽の整備、しゅんせつその他の指定水域の水質の保全に資する事業に関する事項、⑤指定水域の水質の汚濁の防止のための規制その他の措置に関する事項、⑥その他指定水域の水質の保全のために必要な措置に関する事項を定めることとされている(法第五条第二項)。
    都道府県知事が水質保全計画を策定するに当たっての配慮事項として、水道事業者が指定水域の水質の汚濁の状況に応じて講じ及び講じようとする措置を踏まえて、指定水域の特性及び汚濁原因に応じた均衡ある対策が適切に講じられるように配慮することが規定されている(法第五条第四項)。
    これらの規定を受けて、基本方針においては、同計画の策定に関し、指定水域の水質保全目標をトリハロメタン生成能の濃度として設定するとともに、その目標達成期間を定めること、科学的調査に基づき将来の汚濁負荷量の推移を推計し指定水域の水質への影響を予測すること及び水道事業者が講じ及び講じようとする措置を踏まえて、指定水域の特性及び生活系、産業系等の汚濁原因の負荷割合に応じた均衡ある対策を総合的かつ計画的に推進するように定めることが示されている(基本方針第二の一)。

  (三) 計画の達成の推進

    水質保全計画は、関係機関及び関係者の合意と協力を得つつ、指定水域の水質保全のために必要な各種施策を計画的に取りまとめ、その総合的な推進を図るためのものである。
    このため、法においては、国及び地方公共団体が、水質保全計画達成に必要な措置を講ずるように努めるものとされている(法第六条)。

 六 指定水域の水質の保全に資する事業の実施等

   水質保全計画に定められた事業については、これを確実に実施する必要があるが、法は事業の実施方法まで詳細に規定するものではないことから、当該事業に関する法律等の規定に従い、国、地方公共団体その他の者が実施することが規定されている(法第七条)。
   また、国は、地方公共団体が水質保全計画に定められた事業を円滑に実施することができるよう、地方公共団体に対し、助言その他必要な援助を行うよう努めなければならないこととされている(法第八条)。

 七 指定水域の水質の汚濁の防止のための規制等

  (一) 水道水源特定事業場に対する特定項目に係る排水規制

    法においては、水道水源特定事業場から指定地域内の水道水源水域に排出される排出水を対象として、特定項目(トリハロメタン生成能)に係る排水規制を行うこととしている。
    法において、「水道水源特定事業場」とは、水質汚濁防止法(昭和四五年法律第一五八号)第二条第二項に規定する特定施設(以下「特定施設」という。)又は法第二条第五項に規定する水道水源特定施設を設置する工場又は事業場であって政令で定める規模以上のものと定義されている(法第二条第六項)。
    「水道水源特定施設」とは、特定施設以外の施設であって、特定水道利水障害を生じさせるおそれがある程度の汚水又は廃液を排出するものとして政令で定めるものと定義されており(法第二条第五項)、令において、建築基準法施行令(昭和二五年政令第三三八号)第三二条第一項の表に規定する算定方法により算定した処理対象人員が二〇一人以上五〇〇人以下のし尿浄化槽が指定されている(令第三条)。
    また、水道水源特定事業場となる一定以上の規模要件は、令において、日平均排水量五〇m3以上とされている(令第四条)。
    水道水源特定事業場から排出される排出水の特定項目に係る排水基準(特定排水基準)は、水質保全計画に基づき、総理府令で定めるところにより都道府県知事が定めることとされている(法第九条第一項)。規則では、都道府県知事が定める特定排水基準は、環境庁長官が定める業種その他の区分ごとに環境庁長官が定める範囲内において、当該区分(都道府県知事がこれを更に区分した場合にあってはその区分)ごとに定めるものとされている(規則第五条第一項)。特定排水基準を定める際に留意すべき事項等については、特定排水基準に係る当該範囲が定められる際に、別途通知する。
    この特定排水基準の遵守を確保するため、事業者による基準遵守義務(法第一〇条)や特定施設及び水道水源特定施設(以下「特定施設等」という。)の設置等の届出(法第一一条から第一四条)が規定されるとともに、都道府県知事は、特定施設等の設置又は構造等の変更に関する届出の際における所要の計画変更勧告・命令及び施設設置後における所要の改善勧告・命令を行い得ることとされている(法第一五条第一項、第二項及び第四項)。
    ただし、鉱山又は電気工作物を設置する工場・事業場に関する特定施設等の設置等の届出及び改善勧告・命令に関しては、それぞれ鉱山保安法(昭和二四年法律第七〇号)又は電気事業法(昭和三九年法律第一七〇号)の相当規定に定めるところによることとされている(法第一六条第一項)。

  (二) 構造及び使用の方法に係る規制

    法においては、水道水源特定事業場に設置されている特定施設以外の特定施設であって、指定水域の水質の保全上その構造及び使用の方法に係る規制を行う必要がある施設については、これを「構造等基準に係る施設」として政令で定め、構造及び使用方法に係る規制を行うこととしている(法第二条第七項)。
    この構造等基準に係る施設としては、令において特定施設である豚房、牛房及び馬房のうち日平均排水量が五〇m3未満の事業場に設置されているものが指定された(令第五条)。なお、日平均排水量がこれ以上の事業場は、水道水源特定事業場に該当することになり、特定項目に係る排水規制の対象となる。
    これらの施設に対する構造及び使用方法の規制基準は、総理府令で定めるところにより都道府県知事が定めることとされ、規則では、構造等の基準に係る事項が定められている(規則第五条第二項)。これらの施設は水質汚濁防止法の特定施設であることから、法では届出に関する規定は置かれておらず、構造及び使用方法に関する基準を確保するため、事業者による基準遵守義務(法第一〇条第三項)が規定されるとともに、都道府県知事はその設置者に対し必要な改善勧告、さらには改善命令を行い得ることとされている(法第一五条第三項及び第四項)。

  (三) 規制対象外の発生源に対する指導等

    これらの規制措置のほか、都道府県知事は、水道水源特定事業場から排出水を排出する者及び構造等基準に係る施設を設置する者以外で、指定地域においてトリハロメタンの生成の原因となる物質による水質の汚濁の原因となる汚水、廃液その他の物を排出する者に対し、水質保全計画を達成するために必要な指導、助言及び勧告をすることができることとされている(法第一七条)。
    この指導等の対象としては、特定施設等を有しない小規模な工場・事業場等が含まれる。なお、これらの指導等は、その水質の汚濁の原因となるものの排出に関し、実施可能でかつ具体的な内容とするようにされたい。

 八 生活排水対策の推進

   都道府県知事は、水質保全計画に基づき、水質汚濁防止法第一四条の六第一項の規定による生活排水対策重点地域の指定その他の生活排水対策の実施を推進しなければならないこととされている(法第二〇条)。これは、指定地域において生活排水対策の実施の推進が必要な場合には、これを水質保全計画に位置付け、特定水道利水障害の防止の観点からも、水質汚濁防止法に基づく生活排水対策の実施の一層の推進を図るべきことを明確にしたものである。

 九 事務の委任

   法の規定により都道府県知事の権限に属する事務は、政令で定めるところによりこれを市長に委任することができることとされている(法第二七条第一項)。
   法の規制事務は水質汚濁防止法の事務と密接不可分の関係にあることから、法第四条第一項の指定地域に水質汚濁防止法第二八条第一項に基づく政令市の区域が含まれる場合には、当該市を法の政令市として、指定地域の指定と併せて指定する予定である。また、政令市に委任する事務の範囲は、指定水域の指定の申出、水質保全計画の策定等の都道府県知事において統一的に処理すべき事務を除く全ての規制事務、すなわち届出の受理、各種命令等の実施、立入検査等の事務とする予定である。

 一〇 事業促進法との関係

   トリハロメタンに係る水道利水障害の防止については、法による対応と併せて、事業促進法による対応も図られることとされている。すなわち、基本方針においても、法第四条の指定地域のうち、事業促進法第五条及び第七条に規定する「対象水道原水の水質汚濁に相当程度関係のあると認められる区域」に該当する区域については、事業促進法に基づく都道府県計画又は河川管理者事業計画が策定され、これらにより事業が促進されるものであることが規定されている。
   このように法と事業促進法とは密接な関係を有するため、両法においては、事業促進法の基本方針は法の基本方針との調和が保たれたものでなければならないこと(事業促進法第三条第三項)、一方の法律により水道事業者が都道府県知事に対策の要請をしたときは他方の法律による要請もしたものとみなすこと(法第四条第三項、事業促進法第四条第二項)、法の水質保全計画と事業促進法の都道府県計画又は河川管理者事業計画とを一体のものとして作成することができること(法第五条第五項、事業促進法第五条第二項及び第七条第三項)の規定が置かれており、基本方針においても、水質保全計画と事業促進法に基づくこれらの計画を一体のものとして作成するよう努めるものとすることが規定されたところである。

 一一 その他の留意事項

   指定水域及び指定地域の指定の申出、水質保全計画の策定、各種規制基準の設定等に関する細目については、別途通達する。