法令・告示・通達
瀬戸内海環境保全臨時措置法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律の施行について
環水規99号
(各都道府県知事・各政令市長あて環境事務次官通達)
第八四回国会において制定された瀬戸内海環境保全臨時措置法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律(昭和五三年法律第六八号。以下「改正法」という。)は、昭和五三年六月一三日に公布され、本年六月一二日から施行された。これに伴い、瀬戸内海環境保全臨時措置法施行令及び水質汚濁防止法施行令の一部を改正する政令(昭和五四年政令第一三二号)、瀬戸内海環境保全臨時措置法施行規則及び水質汚濁防止法施行規則の一部を改正する総理府令(昭和五四年総理府令第三〇号)、化学的酸素要求量についての総量規制基準に係る業種その他の区分及びその区分ごとの範囲(昭和五四年五月環境庁告示第一九号)及び化学的酸素要求量に係る汚濁負荷量の測定方法(昭和五四年五月環境庁告示第二〇号)が定められ、いずれも昭和五四年六月一二日から施行された。
本改正法は、昭和五三年一一月一日に期限が到来する瀬戸内海環境保全臨時措置法を引き継ぐ措置として同法を一部改正して、恒久法化するとともに、富栄養化による被害の発生の防止等の新たな措置を盛り込み、また併せて瀬戸内海を始めとする広域の閉鎖性水域の新たな水質保全対策として、水質汚濁防止法の一部改正により、水質の総量規制制度を設けることとしたものである。
貴職におかれては、左記事項に十分留意され、改正法の施行に遺憾なきを期せられたい。
以上、命により通達する。
記
第一 改正法制定の趣旨
一 瀬戸内海環境保全臨時措置法の一部改正
瀬戸内海の環境保全については、美しさを誇る景勝地、貴重な漁業資源の宝庫としての特殊性にかんがみ、昭和四八年に瀬戸内海環境保全臨時措置法が制定され、同法に基づいて産業廃水に係る化学的酸素要求量で表示した汚濁負荷量の削減、特定施設の設置等の許可、埋立免許等に際しての配慮等の特別の措置が講じられてきた。
また、同法に基づき、政府が策定すべきものとされた瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき計画は、昭和五三年四月二一日閣議決定され、各般にわたる施策がこれによることとなつた。
以上の施策が瀬戸内海環境保全臨時措置法に基づき進められてきたが、同法の期限の到来(昭和五三年一一月一日)を間近にして、瀬戸内海の環境保全対策の一層の推進を図る観点から同法による措置の承継及び内容の拡充が強く要請され、これに応じて、同法の失効規定が削除されて恒久法化されるとともに、新たに富栄養化による被害の発生の防止、自然海浜の保全等の措置が盛り込まれ、その題名も瀬戸内海環境保全特別措置法と改められたものである。
二 水質汚濁防止法の一部改正
最近における公共用水域の水質の汚濁の状況は、総体的には改善の傾向にあり、人の健康の保護に関する環境基準についてはほぼ完全に達成するまでに至つているが、後背地に多数の汚濁発生源が集中する瀬戸内海、東京湾等の広域の閉鎖性水域においては、生活環境の保全に関する環境基準の達成はなお困難な状況にあることから、一層の水質保全対策を講ずることが緊要の課題である。
このような広域の閉鎖性水域の水質の保全を図るには、当該水域の水質に影響を及ぼす汚濁負荷量を全体的に削減することが肝要であるが、従来の規制方式では、①当該水域に流入する汚濁発生源として、上流県等内陸部からの負荷を効果的に規制できないこと、②大きな負荷をもつ生活排水への配慮が十分でないこと、③特定施設の新増設に伴う負荷量の増大及び稀釈排水等に有効に対処しえないこと等の制度的な限界があつた。
このような課題に対処するためには、新たな観点に立つた制度が必要であり、水質汚濁防止法の一部改正により、新たに水質の総量規制制度が設けられ、汚濁の著しい広域の閉鎖性水域を対象として水質環境基準の確保を図ることを目途とし、当該水域に流入する上流県等内陸部からの負荷、生活排水による負荷等を含め、汚濁負荷量の全体を統一的かつ効果的に削減し、水質の改善を着実に行うこととされた。
第二 瀬戸内海環境保全臨時措置法の一部改正の内容
一 題名及び目的に関する事項
今般の改正法により、瀬戸内海環境保全臨時措置法(以下「臨時措置法」という。)は、附則第四条の失効規定が削除されて恒久法化されるとともに、新たに瀬戸内海の環境保全に関する各種の特別の措置が盛り込まれ、その題名も瀬戸内海環境保全特別措置法(以下「特別措置法」という。)と改められた。
これに伴い、第一条においては、瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき計画が策定されるまでの間における特別の措置を定めるという趣旨を定めていたが、今般の改正により、前記計画の策定等に関し必要な事項を定めるとともに、特定施設の設置の規制、富栄養化による被害の発生の防止、自然海浜の保全等に関し特別の措置を講ずることにより、瀬戸内海の環境の保全を図ることを目的とするものである旨が明らかにされた。
二 関係府県に関する事項
瀬戸内海の関係府県としては、大阪府、兵庫県等の瀬戸内海臨海一一府県が法律上定められているが、水質の総量規制等の新たな水質保全対策の実施のためには、上流県での対策も併せて行うことが重要であることにかんがみ、政令で京都府及び奈良県が関係府県として追加された。(特別措置法第二条第二項、特別措置法施行令第二条)
三 瀬戸内海の環境の保全に関する計画に関する事項
(一) 基本計画
改正法により、基本計画の決定又は変更に当たつては、内閣総理大臣は、あらかじめ、瀬戸内海環境保全審議会及び関係府県知事の意見を聴くこととされた。また、基本計画の決定又は変更があつたときは、遅滞なくこれを関係府県知事に送付するとともに、公表することとされた。(特別措置法第三条)
なお、基本計画は、既に臨時措置法第三条に基づき、昭和五三年四月二一日に閣議決定され、同年五月一日総理府告示第一一号をもつて公表されたところであるが、同計画は、改正法附則第二条において特別措置法の手続により定められたものとみなされており、今後も瀬戸内海の環境の保全に関する施策を進めるうえで基本となるものである。
(二) 府県計画
瀬戸内海の環境の保全の実効を期するためには、前記の基本計画によるのみならず、府県においても、当該府県において実施する施策等について府県の特性に即して府県計画を作成し、それに基づき諸施策を計画的、総合的に実施する必要がある。
このため、今般の改正により、関係府県知事は、基本計画に基づき、当該府県の区域において瀬戸内海の環境の保全に関し実施すべき施策について、瀬戸内海の環境の保全に関する府県計画を定めるものとされたが、関係府県知事は、府県計画を定め、又は変更しようとするときは、その三〇日前までに、人口及び産業の動向その他参考となるべき事項を記載した書類を添付して、その内容を内閣総理大臣に報告することとし、内閣総理大臣は、その報告を受けたときは、関係行政機関の長に協議して、当該府県計画の作成に関し必要な指示をすることができることとされた。また、関係府県知事は、府県計画を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを関係市町村に送付するとともに、公表しなければならないこととされた。(特別措置法第四条、特別措置法施行令第一条の二)
なお、府県計画には、多くの行政分野に関連を有する施策が定められ、また、府県計画の内容の実現には、市町村も共に努めるべきものであることから、府県計画を定めるに当たつては、関係部局間での調整を行うとともに、関係市町村と連絡を密にされたい。
(三) 計画の達成の推進
国及び地方公共団体は、基本計画及び府県計画の達成に必要な措置を講ずるよう努めるものとされた。(特別措置法第四条の二)
四 特定施設の設置等の規制に関する事項
(一) 対象区域
京都府及び奈良県が関係府県となることに伴い、当該府県のうち瀬戸内海の環境の保全に関係がある区域が特別措置法第五条第一項に規定する区域に加えられたほか、臨海一一府県の対象区域についても一部見直しが行われた。(特別措置法施行令第三条)
(二) 許可申請事項等
瀬戸内海において(総量規制が実施されることに伴い、排出水の量(排水系統別の量を含む。)、排出水の汚染状態(排水系統別の汚染状態を含む。)その他総理府令で定める事項が、臨時措置法第五条第二項に規定する許可申請書の記載事項とされた。(特別措置法施行規則第三条第一項)
また、改正法の施行の際現に特別措置法第五条第一項に規定する区域において水質汚濁防止法第二条第二項に規定する特定施設を設置している者(設置の工事をしている者及び臨時措置法第五条第一項の許可を受けた者又は、水質汚濁防止法第五条の規定による届出をした者であつて設置の工事に着手していないものを含む。)は、排出水の排水系統別の汚染状態及び量等について改正法の施行の日から六〇日以内に府県知事等に届け出なければならないこととされた。(改正法附則第三条第一項、改正政令附則第三条、改正府令附則第二項、第三項)
(三) 関係府県知事の意見の聴取について
臨時措置法においては、特定施設の設置の許可の際に、府県知事は、他のすべての関係府県知事に通知し、その意見を求めなければならないものとされていたが、手続の簡素化を図る観点から、その通知及び意見聴取の範囲は、当該特定施設の設置に関し、環境保全上関係がある関係府県の知事とされた。(特別措置法第五条第五項)
なお、環境保全上関係がある府県としては、一般的には、隣接府県、対岸府県等が考えられるが、個々の場合に応じて関係があると認められる府県知事に通知し、及び意見を求めることとされたい。
(四) 事前評価等に関する手続の簡素化
特定施設の構造等の変更の許可を受けようとする場合には、すべて、その設置の場合と同様に、事前評価に関する事項を記載した書面の作成等の手続が義務付けられていたが、今般の改正により、処理施設による処理後の汚水等の汚染状態の値及び当該汚水等の一日当たりの量(処理施設により処理されない場合にあつては、特定施設から排出される汚水等の汚染状態の値及び当該汚水等の一日当たりの量)が増大せず、かつ、排出水の排出の方法(排水口の位置及び数並びに排出先を含む。)に変更がない場合には、特定施設の構造等の許可申請に際しての事前評価等に関する特別措置法第五条第三項から第七項までの規定による手続は要しないこととされた。(特別措置法第八条第三項、特別措置法施行規則第七条の二)
五 汚濁負荷量の総量の削減
内閣総理大臣は、瀬戸内海における化学的酸素要求量に係る水質の汚濁の防止を図るため、化学的酸素要求量で表示した汚濁負荷量の総量の削減に関する水質汚濁防止法第四条の二第一項の総量削減基本方針を定めることとされた。これは、水質汚濁防止法による水質の総量規制は、指定項目、指定水域、指定地域をそれぞれ政令で定めることにより、実施に移されることとなるが、瀬戸内海については、臨時措置法第一八条に量規制の導入についての規定があり、また、総量規制は、臨時措置法第四条の産業排水に係る化学的酸素要求量で表示した汚濁負荷量の二分の一削減措置を発展的に引き継ぐ措置であることから、政令の定めを待つことなく、特別措置法によつて化学的酸素要求量について総量規制を法律上実施することとされたものである。
また、この基本方針に基づく汚濁負荷量の総量の削減に関しては、特別措置法第二条第一項に規定する瀬戸内海を指定水域として、また、特別措置法第五条第一項に規定する区域を指定地域として、今般改正された水質汚濁防止法の汚濁負荷量の総量の削減に関する規定(特定施設の設置等の届出に関する規定、排出水の汚濁負荷量の測定に関する規定等今般改正されたすべての規定をいう。)が、適用されることとなる。(特別措置法第一二条の二)
六 富栄養化による被害の発生の防止に関する事項
瀬戸内海においては、富栄養化の進行が著しく、赤潮の多発化等による漁業被害、海水浴利用障害が問題となつている等生活環境に係る被害が深刻化しており、その対策を統一的に実施することが緊急の課題とされていた。このような背景から、瀬戸内海における富栄養化による被害の発生を防止するため、赤潮の発生機構の解明に努めるほか、富栄養化の要因物質の計画的削減に関する規定が特別措置法において新たに設けられたところである。
(一) 指定物質
富栄養化による被害の発生の防止に関し削減を図る物質として、燐〈りん〉及びその化合物が指定された。(特別措置法第一二条の三第一項、特別措置法施行令第五条)
(二) 指定物質削減指導方針の策定の指示
環境庁長官は、瀬戸内海の富栄養化による生活環境に係る被害の発生を防止するため必要があると認めるときは、関係府県知事に対し、特別措置法第五条第一項に規定する区域において公共用水域に排出される指定物質を削減するために、削減の目標、目標年度その他必要な事項を示して、指定物質削減指導方針を定めるべきことを指示することができることとされた。
なお、環境庁長官が示すべき削減の目標は、特別措置法第五条第一項に規定する区域において公共用水域に排出される指定物質の総量を増加させないことを当面の目途として、人口及び産業の動向等を基礎とし、目標年度において公共用水域に排出されると見込まれる指定物質の量につき、汚水又は廃液の処理の技術の水準、下水道の整備の見通し等を勘案した実施可能なものでなければならないものとされた。(特別措置法第一二条の三第一項、特別措置法施行令第六条)
(三) 指導方針の策定
関係府県知事は、環境庁長官の指示を受けて、目標年度において削減の目標を達成することを目途として、削減の目標、目標年度、指定物質の削減に関する指導の方針等を内容とした指定物質削減指導方針を定めるものとされた。
なお、関係府県知事は、指導方針を定め、又は変更しようとする日の三〇日前までに、指定物質の排出の状況の他参考となるべき事項に関する書類を添付して、その内容を環境庁長官に報告するとともに、指導方針を定め、又はこれを変更したときは、これを公表しなければならないこととされた。(特別措置法第一二条の三第三項、第四項、特別措置法施行規則第一〇条)
(四) 指導等及び報告の徴収
- ア 関係府県知事は、法第五条第一項に規定する区域における指定物質の公共用水域への排出を削減するため、当該区域において公共用水域に指定物質を排出する者に対して、指導方針に従い必要な指導、助言及び勧告をすることができることとされた。
この指導は、一般家庭を含め公共用水域に指定物質を排出するすべての者が対象となり、また、その内容は、広く、新増設施設を中心とした処理施設の導入、既存施設の管理の改善の指導から、一般家庭に対する啓もう、教育等まで考えられるが、具体的な排出状況、改善の可能性等を考慮して適切な指導等を行われたい。(特別措置法第一二条の四) - イ 関係府県知事は、指導等のため必要があると認めるときは、特別措置法第五条第一項に規定する区域において特定事業場から指定物質を公共用水域に排出する者及び特別措置法施行令別表第二に掲げる施設を設置する者に対し、汚水又は廃液の処理の方法等について報告を求めることができることとされ、報告を求められた者が報告をせず、又は虚偽の報告をした場合についての罰則規定が設けられた。特別措置法施行令別表第二においては、その規模において水質汚濁防止法第二条第二項に規定する特定施設に該当しない施設及び主としてはまち養殖に係る投飼に関連して魚類養殖業の用に供する養殖施設が定められた。(法第一二条の五)
- ウ 指導等及び報告の徴収については、その対象が多くの行政分野に関連することから、あらかじめ、指導等及び報告の徴収の方針に関し、関係部局間で調整を行うよう努められたい。
七 自然海浜の保全に関する事項
瀬戸内海においては、人口及び産業の集中に伴い自然海浜が減少し、海水浴、潮干狩り等の海洋性レクリエーシヨンの場としての自然海浜が極めて貴重な価値を有するに至り、その保全及び適正な利用を図ることが要請されているが、現行の諸制度は、自然海浜の保全を必ずしも直接の目的とするものではないこと等から、このような自然海浜を保全し、適正な利用を推進するため、特別措置法において、新たに自然海浜の保全に関する規定が設けられたところである。
(一) 自然海浜保全地区の指定
関係府県は、条例で定めるところにより、瀬戸内海の海浜地及びこれに面する海面のうち、水際線付近において砂浜、岩礁その他これらに類する自然の状態が維持され、かつ、海水浴、潮干狩り等の用に公衆に利用されており、将来にわたつてその利用が行われることが適当であると認められる区域を自然海浜保全地区として指定することができることとされた。(特別措置法第一二条の六)
(二) 行為の届出等
関係府県は、条例で定めるところにより、自然海浜保全地区内において、工作物の新築、土地の形質の変更等の行為をしようとする者に必要な届出をさせ、当該届出をした者に対して、自然海浜保全地区の保全及び適正な利用のため、必要な勧告又は助言をすることができることとされた。(特別措置法第一二条の七)
八 環境の保全のための事業の促進等に関する事項
(一) 海難等による油の排出の防止等
瀬戸内海における油濁防止の重要性にかんがみ、政府は、海難等による大量の油の排出の防止と排出された油の防除に関し、指導及び取締りの強化等の必要な措置を講ずるよう努めるものとされた。(特別措置法第一七条)
(二) 赤潮の発生機構の解明
赤潮の発生機構については、各種研究機関において調査研究が行われているものの、なお十分に解明されるまでには至つていないことから、赤潮による被害を効果的に防止するため、赤潮発生機構の解明のための調査研究を一層推進するよう努めることとされた。(特別措置法第一八条)
九 事務の委任等に関する事項
(一) 事務の委任
特別措置法第二二条第一項に規定する政令市の長に、新しく京都市の長を追加するとともに、指定物質削減指導方針に従つて行う指導、助言及び勧告並びにこれらに関してなされる報告の徴収に関する事務を、政令市の長に委任することとされた。(特別措置法第二二条第一項、特別措置法施行令第八条)
(二) 通知
政令市の長は、当該政令市の属する府県の知事に対し、総量削減計画の作成及び総量規制基準の設定に必要な特定施設の設置の許可申請の内容等を通知すべきこととされた。(特別措置法第二二条第二項、特別措置法施行規則第一一条、改正府令第四項)
一〇 瀬戸内海環境保全審議会に関する事項
瀬戸内海環境保全審議会の委員は、その定員が三四人以内とされるとともに、学識経験のある者のなかから任命されることとされた。(特別措置法第二三条)
第三 水質汚濁防止法の一部改正の内容
一 指定項目に関する事項
総量規制の対象とする項目は、水質汚濁防止法(以下「法」という。)第二条第二項第二号に規定する項目のうち政令で定める項目とされ、政令では化学的酸素要求量が指定された。(法第四条の二第一項、法施行令第四条の二)
二 指定水域に関する事項
指定水域は、人口及び産業の集中等により、生活又は事業活動に伴い排出された水が大量に流入する広域の閉鎖性水域であり、かつ、排水基準による規制のみによつては水質環境基準の達成が困難であると認められる水域であつて、関係都道府県知事の意見を聴いて、一の指定項目ごとに政令で定められるものである。
指定水域としては、化学的酸素要求量については、特別措置法により法律上総量規制が実施される瀬戸内海のほか、東京湾(館山市洲崎から三浦市剣崎まで引いた線及び陸岸により囲まれた海域)及び伊勢湾(愛知県伊良湖岬から三重県大王崎まで引いた線及び陸岸により囲まれた海域)が指定された。(法第四条の二、法施行令第四条の三)
三 指定地域に関する事項
指定地域は、指定水域における指定項目に係る水質の汚濁の防止を図るため、関係都道府県知事の意見を聴いて、指定水域の水質の汚濁に関係のある地域として、指定水域ごとに政令で定められるものである。
指定地域としては、瀬戸内海については、特別措置法第一二条の二により特別措置法第五条第一項に規定する区域が対象とされ、東京湾については、埼玉県、千葉県、東京都及び神奈川県のそれぞれ関係地域が、伊勢湾については岐阜県、愛知県及び三重県のそれぞれ関係地域が指定された。(法第四条の二第一項、法施行令第四条の四)
四 総量削減基本方針に関する事項
(一) 総量削減基本方針の策定
内閣総理大臣は、指定水域における指定項目に係る水質の汚濁の防止を図るため、指定地域について指定項目で表示した汚濁負荷量の総量の削減に関する総量削減基本方針を定めるものとされた。(法第四条の二第一項)
(二) 総量削減基本方針の内容
総量削減基本方針においては、削減の目標、目標年度その他汚濁負荷量の総量の削減に関する基本的な事項を定めるものとされている。
削減の目標に関しては、指定水域について、指定項目に係る水質環境基準を確保することを目途として、当該指定水域に流入する水の汚濁負荷量の総量が、目標年度において当該指定水域における人口及び産業の動向その他の自然的、社会的条件を基礎とし、汚水又は廃液の処理の技術の水準下水道の整備の見通し等を勘案し、実施可能な限度において削減を図ることとした場合における総量となるように、当該指定地域において公共用水域に排出される水の汚濁負荷量についての発生源別及び都道府県別の削減目標量(中間目標としての削減目標量を定める場合にあつては、その削減目標量を含む。)を定めることとされた。(法第四条の二第二項、法施行令第四条の五)
(三) 総量削減基本方針の策定の手続
内閣総理大臣は、総量削減基本方針を定め、又は変更しようとするときは、関係都道府県知事の意見を聴くとともに、公害対策会議の議を経なければならないこととされた。また、内閣総理大臣は、総量削減基本方針を定め、又は変更したときは、これを関係都道府県知事に通知するものとされた。(法第四条の二第四項、第五項)
なお、本年六月二二日、瀬戸内海、東京湾及び伊勢湾のそれぞれについて化学的酸素要求量に係る総量削減基本方針が、公害対策会議の議を経て、内閣総理大臣により定められ、同日付けをもつて関係都道府県知事に対して通知された。
五 総量削減計画に関する事項
(一) 総量削減計画の策定
指定地域にあつては、都道府県知事は、総量削減基本方針に基づき、総量削減計画を定め、基本方針において定められた削減目標量の達成を推進することとされた。(法第四条の三第一項)
(二) 総量削減計画の内容
総量削減計画においては、基本方針において定められた削減目標量を達成すべく、発生源別の汚濁負荷量の削減目標量、それらの達成の方途、その他汚濁負荷量の総量の削減に関し必要な事項を定めることとされた。(第四条の三第二項)
(三) 総量削減計画の策定の手続
都道府県知事は、総量削減計画を定め、又は変更しようとするときは、関係市町村長の意見を聴いた上、内閣総理大臣の承認を受けなければならない。また、内閣総理大臣は、その承認をしようとするときは、公害対策会議の議を経なければならないこととされた。
関係市町村長の意見聴取は、指定地域内にある関係市町村の長に対して総量削減計画の案を示し、その達成に必要な下水道の整備等当該市町村の分担する削減対策の実施の面から必要な意見を聴くべく設けられたものであり、また、内閣総理大臣の承認及び承認に際しての公害対策会議への付議は、各都道府県間の調整が十分にとられ、かつ、多くの行政分野にわたる総量削減のための施策を関係省庁が一致して実施する必要があることから設けられたものである。したがつて、総量削減計画を定め、又は変更するに当たつては、関係部局間で調整を図り、関係市町村長との連絡を密にするとともに、都道府県水質審議会の意見を聴く等により学識経験者の意見を求めることとされたい。
なお、都道府県知事は、総量削減計画を定めたときは、県公報に掲載する等の方法により、公告しなければならないこととされた。(法第四条の三第三項、第四項、第五項)
(三) 総量削減計画の達成の推進
国及び地方公共団体は、総量削減計画の達成に必要な措置を講ずるよう努めるものとされた。(法第四条の四)
六 総量規制基準に関する事項
- ア 水質の総量規制に係る総量規制基準は、下水道等の整備、八の指導、助言及び勧告と並んで、五の総量削減計画で定められる汚濁負荷量の削減目標量を達成するための主要な方途である。
- イ 都道府県知事は、指定地域にあつては、指定地域内事業場(指定地域内の特定事業場で日平均排水量が五〇立方メートル以上のもの)から排出される排出水の汚濁負荷量について、総量削減計画に基づき、総量規制基準を定めなければならないこととされた。また、都道府県知事は、新たに特定施設が設置された指定地域内事業場(工場又は事業場で、特定施設の設置又は構造等の変更により新たに指定地域内事業場となつたものを含む。)及び新たに設置された指定地域内事業場について、総量削減計画に基づき、それぞれ前記の総量規制基準に代えて適用すべき特別の総量規制基準を定めることができることとされた。
これらの総量規制基準は、指定地域内事業場につき、当該指定地域内事業場から排出される排出水の一日当たりの汚濁負荷量について定める許容限度であり、具体的には、総理府令に定めるところによることとされた。
なお、指定地域内において事業場から排出される排出水に係る化学的酸素要求量で表示した汚濁負荷量を規制している条例については、本法による規制と重複することのないよう所要の措置を講ぜられたい。 - ウ また、都道府県知事は、総量規制基準を定めたときは、県公報に掲載することにより、公示しなければならないこととされた。(法第四条の五、法施行規則第一条の三、第一条の四)
七 総量規制基準の遵守に関する事項
(一) 総量規制基準の遵守義務
指定地域内事業場の設置者は、当該指定地域内事業場に係る総量規制基準を遵守しなければならないこととされた。(法第一二条の二)
(二) 特定施設の設置等の届出
指定地域において総量規制が実施されることに伴い、排出水の汚染状態及び量(指定地域内の工場又は事業場に係る場合にあつては、排水系統別の汚染状態及び量を含む。)、その他総理府令で定める事項が、法第五条に規定する届出書の記載事項とされた。
また、指定地域を定める政令の施行の際現に当該地域において特定施設を設置している者(設置の工事をしている者及び特定施設の設置の届出をした者であつて設置の工事に着手していないものを含む。)であつて排出水を排出するものは、当該政令の施行の日から六〇日以内に排出水の排水系統別の汚染状態及び量を都道府県知事に届け出なければならないこととされた。(法第六条第二項、法施行規則第四条)
(三) 事前措置命令
都道府県知事は、特定施設の設置又は構造等の変更の届出があつた場合において、その届出に係る特定施設が設置される指定地域内事業場(工場又は事業場で、当該特定施設の設置又は構造等の変更により新たに指定地域の事業場となるものを含む。)について、当該指定地域内事業場から排出される排出水の汚濁負荷量が総量規制基準に適合しないと認められるときは、その届出を受理した日から六〇日以内に当該指定地域内事業場の設置者に対し、当該指定地域内事業場における汚水又は廃液の処理の方法の改善その他必要な措置を採るべきことを命ずることができることとされた。その他必要な措置としては、届出のあつた特定施設の設置又は変更に係る計画の変更又は廃止の措置、その他の施設の構造又は使用方法の変更の措置、一部の施設の使用の一時停止等があげられる。(法第八条の二)
(四) 改善措置命令
都道府県知事は、指定地域内事業場の排出水の汚濁負荷量が総量規制基準に適合しない排出水が排出されるおそれがあると認められるときは、当該指定地域内事業場の設置者に対し、期限を定めて、汚水又は廃液の処理の方法の改善その他必要な措置を採るべきことを命ずることができることとされた。その他必要な措置としては、指定地域内事業場における施設の構造又は使用方法の変更の措置、一部の施設の使用の一時停止等があげられる。
なお、改善措置命令に関する規定の適用については、特定施設の追加、指定地域の変更又は指定地域内事業場の規模の変更の場合にも、六ケ月間の適用猶予期間が設けられている。(法第一三条第三項、第四項)
八 汚濁負荷量の総量の削減のための指導等
- ア 都道府県知事は、指定地域内事業場から排出水を排出する者以外の者であつて、指定地域において公共用水域に汚水、廃液その他の汚濁負荷量の増加の原因となる物を排出するものに対し、総量削減計画を達成するために必要な指導、助言及び勧告をすることができることとされた。
この指導等は、一般家庭を含め公共用水域に指定項目を排出するすべての者が対象となり、また、その内容は、広く処理施設の導入、既存施設の管理の改善の指導から、一般家庭に対する啓もう、教育等まで考えられるが、具体的な排出状況、改善の可能性等を考慮して適切な指導等を行われたい。(法第一三条の二) - イ 都道府県知事は、汚濁負荷量の総量を削減するため必要があると認めるときは、指定地域内において事業活動等に伴つて公共用水域に、汚水、廃液その他の汚濁負荷量の増加となる物を排出する者(排出水を排出する者を除く。)で法施行令別表第四に掲げる施設を設置するものに対し、報告を求めることができることとされ、報告を求められた者が報告をせず、又は虚偽の報告をした場合についての罰則規定が設けられた。法施行令別表第四においては、その規模において法第二条第二項に規定する特定施設に該当しない施設及び主としてはまち養殖に係る投餌に関連して魚類養殖業の用に供する養殖施設が定められた。(法第二二条第二項、法施行令第八条第四項)
- ウ 指導等及び報告の徴収については、その対象が多くの行政分野に関連することから、あらかじめ、指導等及び報告の徴収の方針に関し、関係部局間で調整を行うこととされたい。
九 汚濁負荷量の測定に関する事項
水質の総量規制においては、各発生源において、汚濁負荷量の管理の徹底を期することが肝要であり、総量規制基準が適用されている指定地域内事業場から排出水を排出する者は、当該排出水の一日当たりの汚濁負荷量を測定し、その結果を記録しておかなければならないこととされており、具体的には、総理府令に定めるところによることとされた。なお、この結果記録義務については、従来の排出水の汚染状態の測定義務とは異なり、その違反に対する罰則規定が設けられた。
また、当該指定地域内事業場の設置者は、あらかじめ、汚濁負荷量の測定方法を都道府県知事に届け出なければならないこととされた。(法第一四条第二項、第三項、法施行規則第九条の二)
一〇 測定計画に関する事項
水質の総量規制の円滑な実施を確保するためには、指定水域に流入する水の汚濁負荷量の総量をは握することが重要であり、かつ、指定水域が広域であることから、汚濁負荷量の監視が効果的かつ統一的に行われる必要がある。このため、環境庁長官は、測定計画の作成上都道府県知事が準拠すべき事項を指示することができることとされた。(法第一六条第三項)
一一 鉱山等の取扱いに関する事項
鉱山保安法第二条第二項本文に規定する鉱山又は電気事業法第二条第七項に規定する電気工作物若しくは海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律第三条第九号に規定する廃油処理施設である特定施設については、従来の取扱いと同様に、事前措置命令及び改善措置命令に関する本法の規定は適用されないこととなるが、都道府県知事は、これらの権限を有する国の行政機関の長に対し、これらの命令に相当する措置を採るべきことを要請することができるものとされた。
なお、指定地域内事業場の設置者による汚濁負荷量の測定手法の届出は、権限を有する行政機関の長に対してなされるが、その内容は、当該行政機関の長から都道府県知事に対して通知されることとされた。また、地域指定に係る経過措置としての届出は、権限を有する行政機関において各法令の整備等が行われ、当該行政機関の長に対してなされるが、法令上は、都道府県知事に対して通知することとはされていないので、当該行政機関と連絡を密にされたい。(法第二三条)
一二 事務の委任等に関する事項
(一) 事務の委任
改正法により、都道府県知事の権限に属することとされた届出の受理、事前措置命令、改善措置命令、指導、助言及び勧告並びに報告の徴収に関する事務は、政令市の長に委任することとされた。(法第二八条第一項、法施行令第一〇条)
(二) 通知
政令市の長は、当該政令市の属する都道府県知事に対して、総量削減計画の作成及び総量規制基準の設定に必要な指定地域内の特定事業場に係る特定施設の設置の届出の内容等を通知すべきこととされた。(法第二八条第二項、法施行規則第一二条)