法令・告示・通達

水質汚濁防止法施行令の一部を改正する政令等の施行について

公布日:昭和60年06月26日
環水規135号

(都道府県知事・各政令市長あて環境庁水質保全局長通達)

 水質汚濁防止法施行令の一部を改正する政令(昭和六〇年政令第一二三号。以下「改正政令」という。)が昭和六〇年五月一七日に公布され、同日から施行された。これに伴い、水質汚濁防止法施行規則の一部を改正する総理府令(昭和六〇年総理府令第二九号。以下「規則改正府令」という。)及び排水基準を定める総理府令の一部を改正する総理府令(昭和六〇年総理府令第三〇号。以下「基準改正府令」という。)が同年五月二七日に公布され、また、窒素含有量又は燐含有量についての排水基準に係る湖沼を定める件(昭和六〇年五月環境庁告示第二七号。以下「湖沼告示」という。)及び排水基準に係る検定方法を定める等の件の一部を改正する件(昭和六〇年五月環境庁告示第二八号。以下「検定方法改正告示」という。)が同年五月三〇日に公布され、これらの総理府令及び告示はいずれも同年七月一五日から施行されることとなつた。
 これら一連の政令改正等は、湖沼の富栄養化防止を目的とする窒素又は燐の排水規制に関するものであり、その実施に当たつては「水質汚濁防止法の施行について」(昭和四六年七月三一日環水管第一二号環境事務次官通達)その他の通達によるほか、左記の事項に留意のうえ、水質汚濁防止法の円滑かつ適切な運用を図られたい。

  1. 第一 改正政令等の制定の趣旨
      近年我が国の湖沼においては富栄養化の進行が著しく、既に相当数の湖沼において水道水の異臭味、浄水場のろ過障害、水産被害、透明度の低下等生活環境に係る被害が発生している。このため、一定の条件を有する富栄養化しやすい湖沼については、これら被害発生の未然防止の観点も含めて、富栄養化の防止を図ることが急務となつていた。湖沼の富栄養化に関しては、昭和五七年一二月環境庁告示第一四〇号により湖沼の全窒素・全りんに係る環境基準が設定されたが、更に、湖沼の富栄養化を防止するための排水基準については、多方面にわたる科学的、専門的検討を経て昭和五九年九月五日中央公害対策審議会から「窒素及び燐に係る排水基準の設定について」(中公審第二一一号。以下「答申」という。)が答申されたところである。
      このため、今般、答申を踏まえ、湖沼の富栄養化の防止を目的として水質汚濁防止法に基づき窒素又は燐の排水規制を実施するため、水質汚濁防止法施行令(昭和四六年政令第一八八号)、水質汚濁防止法施行規則(昭和四六年総理府・通商産業省令第二号)、排水基準を定める総理府令(昭和四六年総理府令第三五号)等につき必要な改正を行うこととしたものである。
  2. 第二 改正政令関係
    1.  一 窒素・燐に関する項目指定
         水質汚濁防止法(昭和四五年法律第一三八号。以下「法」という。)第二条第二項第二号の「水の汚染状態を示す項目」(生活環境項目)として、窒素又は燐の含有量(湖沼植物プランクトンの著しい増殖をもたらすおそれがある場合として総理府令で定める場合におけるものに限る。)を追加することとした(改正政令による改正後の水質汚濁防止法施行令(以下「令」という。)第三条第一項第一三号)。
         窒素又は燐に係る生活環境項目の指定に当たり一定の局面限定をすることとしたのは、窒素又は燐はそれ自体が直ちに一般的に水質汚濁による被害を生ずる物質ではなく、現在までの知見によると「湖沼植物プランクトンの著しい増殖」を通じて生活環境に係る被害を生ずることが明らかになつていることから、このような事態をもたらすおそれがあるという局面に限つて、これを生活環境項目として指定し、法の排水規制の対象にすることとしたものである。
         また、この局面限定に関し、「湖沼植物プランクトンの著しい増殖をもたらすおそれがある場合」の具体的な条件は科学的、専門的な内容にわたること等から、その内容の確定は、総理府令に委任して行うこととされた。なお、具体的な条件の設定に当たつては、各種利水等の水域利用に関する行政を所管する行政機関の専門的知見をも加味することとし、このため、環境庁長官は、令第三条第一項第一三号の総理府令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、関係行政機関の長に協議しなければならないこととされた(令第三条第二項)。
    2.  二 その他の規定の整備等
      1.   (一) 公共用水域管理者に関する規定に関しては、現行の土地改良法の用語例にならい、「かんがい排水用水路」を「農業用用排水施設」に改める等所要の規定の整備を図ることとした(令第九条)。
      2.   (二) 改正政令については窒素又は燐の含有量に関する令第三条第一項第一三号の総理府令を速やかに制定することができるように公布の日(昭和六〇年五月一七日)から施行することとされた(改正政令附則)。
            ただし、これらの項目についての排水規制は、規則改正府令等の施行日である同年七月一五日から実施されることとなる。
  3. 第三 規則改正府令関係
      窒素又は燐が湖沼植物プランクトンの著しい増殖をもたらすおそれがある場合の具体的な条件については、答申において示された科学的判断を踏まえ、規則改正府令による改正後の水質汚濁防止法施行規則(以下「規則」という。)第一条の三において次のように規定された。
    1.  (一) 燐に係る令第三条第一項第一三号の場合は、水の滞留時間が四日間以上である湖沼(水の塩素イオン含有量が一リットルにつき九、〇〇〇ミリグラムを超えること、特殊なダムの操作が行われることその他の特別の事情があるものを除く。)及びこれに流入する公共用水域に、燐を含む水が工場又は事業場から排出される場合とすることとされた(規則第一条の三第一項)。
    2.  (二) 窒素に係る令第三条第一項第一三号の場合は、前項に掲げる湖沼のうち、水の窒素含有量を水の燐含有量で除して得た値が二〇以下であり、かつ、水の燐含有量が一リットルにつき〇・〇二ミリグラム以上であることその他の事由により窒素が湖沼植物プランクトンの増殖の要因となるもの及びこれに流入する公共用水域に、窒素を含む水が工場又は事業場から排出される場合とすることとされた(規則第一条の三第二項)。
         なお、富栄養化以外の観点から水質目標が定められている場合もあることから、この規定は、直ちに、この条件に該当しない湖沼の水の窒素濃度を増大させてもよいということを意味するものではないことに留意されたい。
  4. 第四 基準改正府令関係
    1.  一 一般排水基準
      1.   (一) 法第三条第一項の規定に基づき総理府令で定められる排水基準の値は、答申を踏まえ窒素含有量については最大値一二〇mg/l、日間平均値六〇mg/l、燐含有量については最大値一六mg/l、日間平均八mg/lとすることとされた(基準改正府令による改正後の排水基準を定める総理府令(以下「府令」という。)別表第二)。
      2.   (二) 窒素含有量及び燐含有量についての排水基準は、従来の生活環境項目と同様に、一日当たりの平均的な排出水の量が五〇立方メートル未満である工場又は事業場には適用しないこととされている(府令別表第二の備考二)。
      3.   (三) 窒素含有量及び燐含有量についての排水基準は、それぞれ、窒素又は燐が湖沼植物プランクトンの著しい増殖をもたらすおそれのある湖沼として環境庁長官が定める湖沼及びこれに流入する公共用水域に排出される排出水に限つて適用することとされた(同表の備考六及び七)。「湖沼及びこれに流入する公共用水域」とは、その流水が当該湖沼に流入する公共用水域、すなわち河川はもとより公共溝渠、かんがい用水路等を含むものであり、当該湖沼の上流に別の湖沼が存在する場合には、当該上流の湖沼及びこれに流入する公共用水域をも含むものであることに留意されたい。ただし、規制の対象となる水域に、人為的にその水の一部が導入されるいわゆる導水域については、「湖沼及びこれに流入する公共用水域」には該当しないものとして取り扱うものとする。
    2.  二 暫定排水基準
      1.   (一) 一般排水基準に対応することが著しく困難と認められる一定の業種その他の区分に属する特定事業場については、基準改正府令の施行の日から五年間に限つての暫定的なゆるい基準(暫定排水基準)を設けている(基準改正府令附則第二項)。
      2.   (二) 暫定排水基準における業種その他の区分は、原則として、日本標準産業分類の区分によつている(基準改正府令附則別表)。一の特定事業場が同時に複数の業種その他の区分に属する場合には、当該業種その他の区分に係る排水基準のうち最大の許容限度のものを適用することとした(同表の備考二)。また、いわゆる共同処理場(令別表第一第七四号の施設を有する事業場)については、その処理する水を排出する特定事業場の属する業種その他の区分に属するものとみなして、暫定排水基準を適用することとした(同表の備考三)。
      3.   (三) 暫定排水基準が適用される特定事業場の規模及び対象水域については、一般排水基準と同様である(同表の備考一)。
      4.   (四) 暫定排水基準が適用される特定事業場については、基準改正府令の施行の日から五年後には一般排水基準に対応することができるように、必要な指導を行われたい。
    3.  三 適用猶予
         窒素含有量及び燐含有量についての排水基準(一般排水基準及び暫定排水基準)は、環境庁長官が府令別表第二の備考六又は七の湖沼を定めた際、既に特定施設を設置(設置の工事を含む。)している特定事業場であつて、当該湖沼及びこれに流入する公共用水域に排出水を排出しているものについては一定期間適用を猶予することとされた(基準改正府令附則第四項)。適用猶予の期間は原則として六月間(令別表第三に掲げる施設を設置している特定事業場については一年間)である。
         ただし、環境庁長官が対象湖沼を定めた際、既に地方公共団体の条例で窒素含有量又は燐含有量に関し法第一二条第一項の規定に相当するものが適用されている特定事業場については、適用猶予の対象としないこととされた(基準府令附則第四項ただし書。)本件規制の開始時点において、これに該当する条例は、滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例(昭和五四年滋賀県条例第三七号)及び茨城県霞ケ浦の富栄養化の防止に関する条例(昭和五六年茨城県条例第五六号)の二件である。
  5. 第五 湖沼告示関係
    1.  一 湖沼の指定
      1.   (一) 窒素又は燐の排水規制に際しては、規制対象水域を明確にする必要があることから、対象となる湖沼を環境庁長官が定めることとされた。これら規制対象の湖沼の指定については、全国の湖沼のうち、原則として、湛水面積が〇・一km2以上であり、かつ、流域面積が一km2以上であるもの(水道の利用が行われている湖沼等にあつては、この限りでない。)を対象とし、規則第一条の三第一項第一号又は第二項第一号の条件に該当するものを選定して、その名称及び位置を示すことにより行うこととした。
      2.   (二) 湖沼告示による湖沼の指定は、昭和六〇年七月一五日から施行することとされ、これに伴い基準改正府令附則第四項の規定により、これらの湖沼に係る新設事業場については同日から、既設事業場については昭和六一年一月一五日(令別表第三に掲げる施設に係る場合にあつては、昭和六一年七月一五日)から、排水基準が適用されることとなることに留意されたい。
    2.  二 規制対象水域の周知
      1.   (一) 窒素又は燐の排水規制の円滑な実地を図るためには、規制対象となる特定事業場の設置者等に対し規制対象水域等の周知・徹底を図る必要があることから、各都道府県・政令市においては、次の措置を講じることとされたい。
        1.    ア 規制対象水域に排出水を排出する特定事業場に係る事業者に対しては、文書による通知、説明会の開催等により排水規制の実施の周知を図ること。
        2.    イ 規制対象水域が属する地域(集水域)の範囲を示す地図(参考図)を湖沼告示の施行の日までに作成し、事業者の求めに応じ提示することができるようにすること。この場合においては、原則として、国土地理院の五万分の一の地形図を用い、燐の規制対象となる集水域については青線により、燐に加えて窒素の規制対象となる集水域については赤線により、それぞれ示すものであること。
      2.   (二) 規制対象水域等の周知に当たつては、特に、窒素含有量についての排水基準に係る湖沼の上流に存在する燐含有量についての排水基準に係る湖沼及びこれに流入する公共用水域に排出される排出水についても、窒素含有量についての排水基準が適用されることに留意されたい。
  6. 第六 検定方法改正告示関係
    1.  (一) 窒素含有量及び燐含有量についての排水基準に係る検定方法は、窒素含有量については、日本工業規格K〇一〇二(工場排水試験方法。以下「規格」という。)四五(全窒素)のうち四五・一(総和法)又は四五・二(紫外線吸光光度法)に定める方法とし、燐含有量については、規格四六(全りん)に定める方法とされた。
    2.  (二) これらの方法は、いずれも答申において示された方法と同一の内容として昭和六〇年一月一日付けの日本工業規格の改正により規格に追加されたものであるため、排水基準に係る検定方法においてこれを引用することとしたものである。
  7. 第七 その他の重要事項
    1.  一 上乗せ排水基準の設定
      1.   (一) 窒素含有量及び燐含有量の排水基準については、他の項目と同様、生活環境項目に関し上乗せ排水基準を設定することができる(法第三条第三項)。
            上乗せ排水基準の設定については、昭和四六年七月三一日付け環水管第一二号環境事務次官通達四(二)に定めるところによることとなるが、窒素含有量及び燐含有量の上乗せ排水基準の設定に際しては、特に次の事項に留意されたい。
        1.    ア 上乗せ排水基準の設定は、原則として、湖沼に係る全窒素及び全りんの環境基準の類型指定を行つた上で行うものとして運用する。ただし、基準改正府令の施行の日まで行われてきた都道府県条例による窒素又は燐の排水規制に係る基準に代替する上乗せ排水基準については、環境基準の類型指定を行うことなしに設定することができるものとする。
               なお、貯水量が一、〇〇〇万立方メートル未満の人工湖につき特に上乗せ排水基準の設定が必要な場合にあつては、適宜環境基準の指定に準じた手続により人工湖の窒素・燐に係る水質目標を設定した上で、上乗せ排水基準を設定するものとして運用する。
        2.    イ 上乗せ排水基準の設定に際しては、湖沼ごとに当該湖沼に係る地域の特性について十分配慮するものとする。また、特に暫定排水基準の対象とされている業種等に係る事業場における対応可能性を検討するものとする。
        3.    ウ 上乗せ排水基準の設定に際しては、関係行政担当部局と調整を図るとともに、都道府県水質審議会(同審議会が都道府県公害対策審議会に統合された後にあつては、都道府県公害対策審議会)の議を経るものとする。
        4.    エ なお、上乗せ排水基準は、窒素又は燐の含有量が法第二条第二項第二号の生活環境項目となる範囲において設定できるものであり、したがつて規則第一条の三の条件に該当しない公共用水域については、窒素・燐に係る上乗せ排水基準の対象とならないことに留意されたい。
      2.   (二) 湖沼に係る窒素及び燐の発生原因は多岐にわたることから、湖沼の富栄養化の防止を図るためには、特定事業場に対する排水規制とあわせて規制対象以外の発生原因に係る対策を推進することが必要である。このため、特に、上乗せ排水基準の設定に際しては、このような総合的対策の推進の観点から環境基準の類型指定を行うとともに、環境基準の達成のための各種対策の一環として上乗せ排水規制を位置付けることとし、これとあわせて規制対象以外の発生原因に係る対策についても関係行政担当部局、公共用水域管理者等と調整を図りつつ実施可能な対策の具体化に努め、これらを必要に応じて条例等により措置することとされたい。なお、規制対象以外の発生原因に係る対策としては、例えば次のようなものが考えられる。
        1.    ア 下水道のほか、地域し尿処理施設、農業集落排水施設、生活排水処理施設等の施設の整備
        2.    イ 小規模事業場等規制対象以外の工場・事業場に係る指導等
        3.    ウ 家庭排水の浄化槽等による適正処理に係る指導
        4.    エ 畜・水産業等に係る指導
        5.    オ しゆんせつ、ばつ気等の浄化対策の推進
        6.    カ その他住民意識の啓発等
    2.  二 届出事務等
         窒素含有量又は燐含有量が生活環境項目として指定されたことに伴い、窒素・燐の排水規制の対象となる特定事業場について法第五条等の届出がなされる場合には、排出水の汚染状態等の届出事項として窒素含有量又は燐含有量に係る事項が必要となる。なお、排水規制の実施前において受理された届出に係る事業場については、適宜法第二二条の報告聴取等を行うことにより、これらの項目に係る汚染状態等の把握に努められたい。