法令・告示・通達

水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の施行等について(通知)

公布日:平成16年03月31日
環水企発040331003・環水土発040331005

(/都道府県知事/水質汚濁防止法政令市長/あて環境省環境管理局水環境部長通知)
 水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の見直しについては、平成16年2月26日付けで中央環境審議会会長から環境大臣に対し「水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の見直しについて(第1次答申)」(以下「答申」という。)が答申された。
 この答申においては、公共用水域の水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準及び地下水の水質汚濁に係る環境基準(以下「水質環境基準健康項目」という。)は現状を維持することとし、要監視項目については、毒性情報や公共用水域及び地下水(以下「公共用水域等」という。)における検出状況等、新たな科学的知見に基づき一部を見直すことが適当であるとされた。
 答申を受け、要監視項目について所要の改正を行うこととしたので、貴職におかれても下記事項に留意の上、環境基準等の円滑かつ適切な施行に万全を期されるようお願いする。

1 基本的考え方

  現在得られている健康影響等に関する知見、公共用水域等における検出状況等から判断し、水質環境基準健康項目については、現状を維持することとした。
  また、現時点では直ちに水質環境基準健康項目とせず、引き続き知見の集積に努める必要があると考えられる5物質について新たに要監視項目に追加するとともに、既定要監視項目のうち、新たな科学的知見が得られた2項目については指針値を改めることとした。
  水質環境基準健康項目の基準値及び要監視項目の指針値は、我が国、諸外国及び国際機関において検討され、集約された科学的知見、関連する各種基準の設定状況等をもとに、まず飲料水経由の影響(主として長期間の飲用を想定した影響)を考慮し、その上で水質汚濁に由来する食品経由の影響(長期間の摂取を想定した影響)についても考慮して設定している。

2 新たな要監視項目及び指針値

  人の健康の保護に関する要監視項目は、平成11年2月22日付け環水企第58号・環水管第49号で通知したとおり22項目について設定されており、今般新たに5項目を追加するとともに2項目について指針値を改め、別表1のとおりとなった。
  新たに要監視項目に追加した項目は、①塩化ビニルモノマー、②エピクロロヒドリン、③1,4―ジオキサン、④全マンガン及び⑤ウランである。これらは、我が国における当該物質の生産・使用状況、公共用水域等における検出状況等を踏まえて、新たに要監視項目に追加したものである。また、指針値を改めた項目は、①p―ジクロロベンゼン及び②アンチモンである。指針値の設定根拠等については答申を参考にされたい。
  また、新たに追加した5項目及びアンチモンの測定方法は別表2のとおりとする。

3 運用上の取り扱い

  今後、国等において物質の特性、使用状況等を考慮し体系的かつ効果的に公共用水域等の水質測定を行うとともに、測定結果を国において定期的に集約し、その後の知見の集積状況を勘案しつつ、水質環境基準健康項目への移行等を検討することとしている。
  水質測定については、地域の実情に応じ必要と考えられる項目について、関係機関との連携を図りつつ効率的な実施をお願いしたい。また、その結果については当職あて報告するとともに、必要に応じ公共用水域等の環境管理の参考とされたい。

別表

項目
指針値
クロロホルム
0.06mg/l以下
トランス―1,2―ジクロロエチレン
0.04mg/l以下
1,2―ジクロロプロパン
0.06mg/l以下
p―ジクロロベンゼン
0.2mg/l以下
イソキサチオン
0.008mg/l以下
ダイアジノン
0.005mg/l以下
フェニトロチオン(MEP)
0.003mg/l以下
イソプロチオラン
0.04mg/l以下
オキシン銅(有機銅)
0.04mg/l以下
クロロタロニル(TPN)
0.05mg/l以下
プロピザミド
0.008mg/l以下
EPN
0.006mg/l以下
ジクロルボス(DDVP)
0.008mg/l以下
フェノブカルブ(BPMC)
0.03mg/l以下
イプロベンホス(IBP)
0.008mg/l以下
クロルニトロフェン(CNP)
トルエン
0.6mg/l以下
キシレン
0.4mg/l以下
フタル酸ジエチルヘキシル
0.06mg/l以下
ニッケル
モリブデン
0.07mg/l以下
アンチモン
0.02mg/l以下
塩化ビニルモノマー
0.002mg/l以下
エピクロロヒドリン
0.0004mg/l以下
1,4―ジオキサン
0.05mg/l以下
全マンガン
0.2mg/l以下
ウラン
0.002mg/l以下



項目
測定方法
塩化ビニルモノマー
付表1に掲げる方法
エピクロロヒドリン
付表2に掲げる方法
1,4―ジオキサン
付表3の第1又は第2に掲げる方法
全マンガン
日本工業規格K0102の56.2、56.3、56.4又は56.5に定める方法(準備操作は規格によるほか、海水など塩類を多く含む試料を分析する場合にあっては、必要に応じ試料を希釈することとする。)
ウラン
付表4の第1又は第2に掲げる方法
アンチモン
付表5の第1、第2又は第3に掲げる方法



 パージ・トラップ―ガスクロマトグラフ質量分析法

 1 試薬

  1.   (1) 水
        日本工業規格K0557に規定するA4(又はA3)の水または同等の品質に精製した水であって、使用前に空試験を行い、分析に支障が無いことを確認したもの。(注1)
  2.   (2) メタノール
        日本工業規格K8891に規格するもの。使用前に空試験を行い、分析に影響のないことを確認する。(注2)
  3.   (3) 塩化ビニル標準ガス
        塩化ビニル(モノマー・純度99%以上)の標準ガス。
  4.   (4) 塩化ビニル標準原液(100μg/mL)
        65mLバイアル中にメタノール50mLを入れ、四フッ化エチレン樹脂フィルム、シリコーンゴム栓及びアルミシールで栓をし、液体窒素またはメタノール・ドライアイスなどの冷媒を用いて冷却する。5000μgの塩化ビニル(ガス)を含む体積の塩化ビニル標準ガスをガスタイトシリンジに正確にとり、バイアル中のメタノールに溶解し、塩化ビニル標準原液とする。(注3)(注4)
  5.   (5) サロゲート原液(100μg/mL)
        65mLバイアル中にメタノール50mLを入れ、四フッ化エチレン樹脂フィルム、シリコーンゴム栓及びアルミシールで栓をし、液体窒素またはアセトン・ドライアイスなどの冷媒を用いて冷却する。5000μgの塩化ビニル―d3(ガス)を含む体積の塩化ビニル―d3標準ガスをガスタイトシリンジにとり、バイアル中のメタノールに溶解し、サロゲート原液とする。(注3)(注4)(注5)
  6.   (6) サロゲート溶液(10μg/mL)
        メタノールを50~80mL程度入れた100mLメスフラスコに、サロゲート原液10mLをとり、メタノールで100mLとし、サロゲート溶液とする。
  7.   (7) 内標準原液(1μg/mL)
        メタノールを50~90mL入れた100mLメスフラスコに、フルオロベンゼン100mgを秤量し、メタノールで100mLとし、内標準原液とする。(注4)(注6)
  8.   (8) 内標準溶液(10μg/mL)
        メタノールを50~90mL入れた100mLメスフラスコに、内標準原液1mLをとり、メタノールで100mLとし、内標準溶液とする。
  1.   (注1) 空試験により対象物質が検出される場合は、使用時に強熱煮沸による精製を行う。日本工業規格K0557に規定するA4(又はA3)の水1~3Lを三角フラスコにとり、液量が1/3程度になるまで激しく煮沸して対象物質を追い出し、直ちに環境空気の混入による再汚染に留意しながら冷却したもの。また、市販の揮発性有機化合物試験用の試薬水などを用いても良いが、使用前に空試験を行い、使用の適否を確認する。
  2.   (注2) 水質試験用、トリハロメタン測定用等を用いてもよい。使用前に空試験を行い、使用の適否を確認する。
  3.   (注3) 濃度の保証されたメタノール溶液などを用いても良い。
  4.   (注4) 使用時に調製する。ただし、調製した標準品を直ちに液体窒素で冷却し、液体窒素またはメタノール・ドライアイスなどの冷媒を用いた冷却条件下でアンプルに移し、溶封して冷暗所に保存すれば1~3か月は保存できる。それ以上の期間を経過したものは純度を確認してから使用する。
  5.   (注5) 塩化ビニルは常温でガス状の物質であり分析操作で揮散しやすいことから、安定同位体をサロゲート物質として用いる。塩化ビニル―d3以外に適当な物質があればサロゲート物質として用いてもよい。
  6.   (注6) 例示した以外に適当な物質があれば内標準物質として用いてもよい。

 2 器具及び装置

  1.   (1) 試料採取容器
        容量50~250mL程度の四フッ化エチレン樹脂張りシリコーンゴム栓付きスクリューキャップ用ネジ口ガラス瓶であって、次の処理をしたもの。洗浄後、水ですすぎ、乾燥する。約105℃の電気乾燥器内で3時間程度加熱し、デシケーター中で冷却する。冷却後、キャップを堅くしめ、汚染のない場所に保管する。
  2.   (2) パージ・トラップ装置(注7)(注8)
        次に掲げる条件を満たすもの。
    1.    (a) パージ容器
           試料5~50mLのパージが可能なガラス製容器またはそれに試料導入部を有するもので、試験操作中に加温、冷却しても容器の機密性が保たれるものであって、次の処理をしたもの。洗浄後、水ですすぎ、乾燥する。約105℃の電気乾燥器内で3時間程度加熱し、デシケーター中で冷却する。
    2.    (b) パージ容器恒温装置
           パージ容器を20~40℃の一定温度で保持できるもの。
    3.    (c) トラップ用管
           内径0.5~25mm、長さ50~300mmの石英ガラス管、ステンレス鋼製管又は内面を不活化処理したステンレス鋼製のもの。
    4.    (d) トラップ管充填剤
           吸着剤として2,6―ジフェニル1,4―ジフェノキシドポリマー(粒径177~250μm又粒径250~500μm)、シリカゲル(粒径250~500μm)及び活性炭(粒径250~500μm)を積層したもの、又はこれと同等の性能をもつもの。(注9)
    5.    (e) トラップ管
           使用に先立ってヘリウムを流量毎分20~40mlで流しながら、30~60分間、180~280℃の間の一定温度に加熱し、焼きだししたもの。
    6.    (f) トラップ管加熱装置
           トラップ管を1分以内に約180~280℃まで加熱でき、更に4分以上保持でき、温度分布の均一性が高いもの。また、脱着後の初期温度への復帰が2分以内に可能なもの。
    7.    (g) パージガス
           ヘリウム(99.9999vol%以上)又は窒素(日本工業規格K1107に規定する高純度1級)であって、分析対象の塩化ビニルが検出されないもの。流量を毎分20~60mlの範囲で一定に調節して用いる。
  3.   (3) ガスクロマトグラフ質量分析計(注10)
    1.    (a) キャピラリーカラム
           内径0.2~0.75mm、長さ25~120mの化学結合型のものであって、内面にフェニルメチルシリコンを0.1~3.0μm程度の厚さで被覆したもの、またはこれと同等以上の分離性能を有するもの。(注11)
    2.    (b) 検出器(注12)
           電子衝撃イオン化法(EI法)または、これと同等の分離性能を有する方法でクロマトグラム測定が可能な四重極型、イオントラップ型または二重収束型のもの。
           なお、イオン化エネルギー:70eV、イオン化電流:300μA、イオン源温度:230℃でイオン化を行う。
    3.    (c) キャリヤーガス
           ヘリウムであって線速度を毎秒40cmとしたもの。
    4.    (d) カラム昇温プログラム
           40℃で5分保ち、40~約230℃の範囲で毎分7℃の昇温を行い、約230℃で5分保つことができるもの。
  1.   (注7) あらかじめ装置の取り扱い説明書などに従って洗浄し、試験操作に支障のある妨害などがないことを確認する。
  2.   (注8) パージ・トラップの最適条件は使用する吸着剤の種類、量などによって異なるため、あらかじめ十分な回収結果の得られる条件を求めておく。パージ条件はトラップ管の破過容量を超えないよう注意する。
  3.   (注9) 2,6―ジフェニル1,4―ジフェノキシドポリマーはTenaxTAやTenaxGC、活性炭はCarbopak B,Carboxen 1000、Carboxen 1001などの名称で市販されている。
  4.   (注10) 用いるガスクロマトグラフ質量分析計やカラムにより最適な条件を設定する。
  5.   (注11) 例えば、VOCOL、Aquatic、DB―624、DB―WAX、DB―1301などが挙げられる。
  6.   (注12) ガスクロマトグラフ質量分析計により、最適な条件を設定する。

 3 試料の採取・運搬

   試料採取容器を採取試料で数回共洗いしてから、試料を泡立たないように静かに採取容器に満たし、マイクロシリンジでサロゲート溶液を添加し(注13)、直ちにキャップをする。このとき、瓶内に空気層を残さないよう注意する。試料を運搬する場合には、汚染のない運搬用容器を用いて遮光・冷蔵する。前処理操作は試料採取後直ちに行う。直ちに行えない場合には、試料は汚染のない冷暗所(4℃以下)で凍結しないように保存する。

  1.   (注13) 単位体積(又は重量)あたりのサロゲートの添加量は、試料の調製において添加する単位体積(又は重量)あたりの内標準物質の量と同程度を目安とする。

 4 試験操作

  1.   (1) 測定用試料の調製
        試料5~50mLの適量を静かに泡立てないようにパージ容器にホールピペット等で入れ、内標準溶液を添加し、測定用試料とする。
  2.   (2) 空試料液の調製
        試料と同量の水を用いて、(1)に従って試料と同様の処理をして得た試料液を空試料液とする。
  3.   (3) 添加回収試験液の調製
        (1)に従って、パージ容器中の試料に、各々、標準溶液を添加して0.06~6μg/Lとする。(注14)
  4.   (4) 測定
    1.    (a) 各試料液をパージ・トラップ装置にセットして、パージガスを一定量通気して対象物質を気相中に移動させてトラップ管に捕集し、次にトラップ管を加熱し対象物質を脱着して、ガスクロマトグラフ質量分析計に導入して測定する。
    2.    (b) ガスクロマトグラフ質量分析では、予め設定した選択イオンについて選択イオン法またはこれと同等の方法によって測定を行い、そのクロマトグラムを記録する。選択イオンの例として、塩化ビニル:m/z62、64、塩化ビニル―d3:m/z65、67及びフルオロベンゼン:m/z96、70がある。(注15)
    3.    (c) 保持時間、定量と確認イオンの強度比を確認し、該当するピーク面積又はピーク高さを測定する。
    4.    (d) サロゲート物質と対象物質の面積比から、あらかじめ5により作成した検量線を用いて、塩化ビニルの量を求め、試料中の濃度を求める。
  1.   (注14) 試料中の対象物質濃度や試験操作条件に応じて適切な濃度範囲とする。装置によっては、パージ容器の代わりにバイアル中に作成する。
           測定用試料をパージ容器の代わりにバイアル中に調製した場合は、バイアルをパージ・トラップ装置にセットする。パージ・トラップ装置の取り扱い説明書などに従って操作し、測定用試料の一部又は全量をパージ容器に移し入れる。
  2.   (注15) 選択イオンはイオン強度が大きく、実試料で妨害のないものを設定する。ここで示した例を参考に、最適な質量数のイオンを二つ選定し、強度の大きいものを定量用イオン、他方を確認用イオンとする。

 5 検量線の作成

   塩化ビニル標準原液をメタノールで希釈し、0.3~30μg/mLの塩化ビニル標準溶液を調製する。
   4の(1)に従って、試料と同量の水に内標準溶液を添加して0.06~6μg/Lとする(注14)。
   これを試料と同様にパージ・トラップ―ガスクロマトグラフ質量分析計による測定を行い(注7)(注8)(注9)(注10)(注11)(注12)(注14)、塩化ビニルと塩化ビニル―d3の面積比を求め、検量線を作成する。
   また、塩化ビニル―d3と内標準との含有量比とピーク面積比の関係を求める。

 6 定量及び計算

   塩化ビニルと塩化ビニル―d3の面積比から、試料中の塩化ビニルの検出量を求める。次式で試料中の塩化ビニル濃度を計算する。(注16)
   濃度(μg/L)=(検出量(ng)-空試料液の検出量(ng)(注17))/試料量(mL)

  1.   (注16) 塩化ビニル、塩化ビニル―d3及び内標準物質について、定量イオン及び確認イオンが、検量線作成に用いた標準物質などの保持時間の±5秒以内に出現し、定量イオンと確認イオンの強度比が検量線作成時の強度比の±20%以下であれば、塩化ビニルなどが存在していると見なす。
           ただし、測定用試料中に夾雑物が多い場合には、検量線作成時の保持時間が変わることがあるので注意する。
  2.   (注17) 空試料液における検出値が空試験に用いた水以外の試料に由来する場合は、空試料液の検出量を差し引くこと。

 備考

  1.   1 この測定方法の対象項目は塩化ビニルモノマーである。一般に「塩化ビニル樹脂」が「塩化ビニル」と表記されることがあるので、これと明確に区分することとした。
  2.   2 この測定方法の定量下限は0.2μg/Lである。
  3.   3 ここに示す商品は、この測定法使用者の便宜のために、一般に入手できるものとして例示したが、これらを推奨するものではない。これと同等以上の品質、性能のものを用いてもよい。
  4.   4 全操作を通じて、良好な回収結果が得られることをあらかじめ確認すること。空試験値については可能な限り低減化を図る。
        良好な回収結果とは、サロゲートから求めた塩化ビニルの回収率は70~120%、内標準から求めたサロゲートの回収率は50~120%であること。
        サロゲートの回収率は、あらかじめ5で求めたサロゲートと内標準との含有量比とピーク面積比の関係からサロゲートの検出量を求め、次式で全検出量を計算する。次に、全検出量を添加した量で除したものを回収率とする。
        全検出量(μg)=検出量(μg)×試料量(mL)÷ガスクロマトグラフ質量分析用試料液量(mL)
  5.   5 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めの無い事項については、日本工業規格に定めるところによる。

 パージ・トラップ―ガスクロマトグラフ質量分析法

 1 試薬

  1.   (1) 水
        日本工業規格K0557に規定するA4(又はA3)の水又は同等の品質に精製した水であって、使用前に空試験を行い、分析に支障が無いことを確認したもの。(注1)
  2.   (2) メタノール
        日本工業規格K8891に規定するものであって、分析に支障がないもの。(注2)
  3.   (3) エピクロロヒドリン標準原液(1000μg/mL)
        メタノールを30~50mL入れた100mLメスフラスコに、エピクロロヒドリン(純度98%以上)100mgを正確にはかり採った後、メタノールで100mLとし、エピクロロヒドリン標準原液とする。(注3)(注4)
  4.   (4) サロゲート原液(100μg/mL)
        メタノールを50~90mL入れた100mLメスフラスコに、エピクロロヒドリン―d510mgを正確にはかり採った後、メタノールで100mLとし、サロゲート原液とする。(注3)(注4)(注5)
  5.   (5) サロゲート溶液(1μg/mL)
        メタノールを50~80mL程度入れた100mLメスフラスコに、サロゲート原液1mLをとり、メタノールで100mLとし、サロゲート溶液とする。
  6.   (6) 内標準原液(100μg/mL)
        メタノールを50~90mL入れた100mLメスフラスコに、4―ブロモフルオロベンゼン10mgを正確にはかり採った後、メタノールで100mLとし、内標準原液とする。(注4)(注6)
  7.   (7) 内標準溶液(1μg/mL)
        メタノールを50~90mL程度入れた100mLメスフラスコに、内標準原液1mLをとり、メタノールで100mLとし、内標準溶液とする。
  8.   (8) 塩化ナトリウム
        日本工業規格K8150に定めるものを約105~200℃の電気乾燥器内で3~6時間程度放置し、汚染のない場所で冷却したもの(注7)。使用前に空試験を行い、エピクロルヒドリンの分析に影響のないことを確認する。
  1.   (注1) 空試験により対象物質が検出される場合は、使用時に強熱煮沸による精製を行う。日本工業規格K0557に規定するA4(又はA3)の水1~3Lを三角フラスコにとり、液量が1/3程度になるまで激しく煮沸して対象物質を追い出し、直ちに環境空気の混入による再汚染に留意しながら冷却したもの。また、市販の揮発性有機化合物試験用の試薬水などを用いても良いが、使用前に空試験を行い、使用の適否を確認する。
  2.   (注2) 水質試験用、トリハロメタン測定用等を用いてもよい。使用前に空試験を行い、使用の適否を確認する。
  3.   (注3) 市販の標準メタノール溶液などを用いても良い。
  4.   (注4) 使用時に調製する。ただし、調製した標準品を直ちに液体窒素で冷却し、液体窒素またはメタノール・ドライアイスなどの冷媒を用いた冷却条件下でアンプルに移し、溶封して冷暗所に保存すれば1~3カ月は保存できる。それ以上の期間を経過したものは純度を確認してから使用する。
  5.   (注5) 分析操作において揮散しやすいことから、安定同位体をサロゲート物質として用いる。エピクロロヒドリン―d5以外に適当な物質があればサロゲート物質として用いてもよい。
  6.   (注6) 例示した以外に適当な物質があれば内標準物質として用いてもよい。
  7.   (注7) 試薬特級品を約105~200℃の電気乾燥器内で3~6時間程度放置し、汚染のない場所で冷却したものを用いてもよい。

 2 器具及び装置

  1.   (1) 試料採取容器
        容量50~250mL程度の四フッ化エチレン樹脂張りシリコーンゴム栓付きスクリューキャップ用ネジ口ガラス瓶であって、次の処理をしたもの。洗浄後、水ですすぎ、乾燥する。約105℃の電気乾燥器内で3時間程度加熱し、デシケーター中で冷却する。冷却後、キャップを堅くしめ、汚染のない場所に保管する。
  2.   (2) パージ・トラップ装置(注8)(注9)
        次に掲げる条件を満たすもの。
    1.    (a) パージ容器
           試料5~50mLのパージが可能なガラス製容器またはそれに試料導入部を有するもので、試験操作中に加温、冷却しても容器の機密性が保たれるものであって、次の処理をしたもの。洗浄後、水ですすぎ、乾燥する。約105℃の電気乾燥器内で3時間程度加熱し、デシケーター中で冷却する。
    2.    (b) パージ容器恒温装置
           パージ容器を0~30℃の一定温度で保持できるもの。
    3.    (c) トラップ用管
           内径0.5~25mm、長さ50~300mmの石英ガラス管、ステンレス鋼製管又は内面を不活化処理したステンレス鋼製のもの。
    4.    (d) トラップ管充填剤
           吸着剤として2,6―ジフェニル1,4―ジフェノキシドポリマー(粒径177~250μm又粒径250~500μm)、シリカゲル(粒径250~500μm)及び活性炭(粒径250~500μm)を積層したもの、又はこれと同等の性能をもつもの。(注10)
    5.    (e) トラップ管
           使用に先立ってヘリウムを流量毎分20~40mlで流しながら、30~60分間、180~280℃の間の一定温度に加熱し、焼きだししたもの。
    6.    (f) トラップ管加熱装置
           トラップ管を1分以内に約180~280℃まで加熱でき、更に4分以上保持でき、温度分布の均一性が高いもの。また、脱着後の初期温度への復帰が2分以内に可能なもの。
    7.    (g) パージガス
           ヘリウム(99.9999vol%以上)又は窒素(日本工業規格K1107に規定する高純度1級)であって、分析対象の塩化ビニルが検出されないもの。流量を毎分20~60mlの範囲で一定に調節して用いる。
  3.   (3) ガスクロマトグラフ質量分析計(注11)
    1.    (a) キャピラリーカラム
           内径0.2~0.75mm、長さ60~120mの化学結合型のものであって、内面にフェニルメチルシリコンを0.1~3.0μm程度の厚さで被覆したもの、またはこれと同等以上の分離性能を有するもの。(注12)
    2.    (b) 検出器(注13)
           電子衝撃イオン化法(EI法)またはこれと同等の分離性能を有する方法でクロマトグラム測定が可能な四重極型、イオントラップ型または二重収束型のもの。
           なお、イオン化エネルギー:70eV、イオン化電流:300μA、イオン源温度:210℃でイオン化を行う。
    3.    (c) キャリアガス
           ヘリウムであって線速度を毎秒40cmとしたもの。
    4.    (d) カラム昇温プログラム
           40℃で1分保ち、40~約80℃の範囲で毎分3℃の昇温を行い、さらに、80~200℃の範囲で毎分10℃の昇温を行い、約200℃で15分保つことができるもの。
  1.   (注8) あらかじめ装置の取り扱い説明書などに従って洗浄し、試験操作に支障のある妨害などがないことを確認する。
  2.   (注9) パージ・トラップの最適条件は使用する吸着剤の種類、量などによって異なるため、あらかじめ十分な回収結果の得られる条件を求めておく。パージ条件はトラップ管の破過容量を超えないよう注意する。
  3.   (注10) 2,6―ジフェニル1,4―ジフェノキシドポリマーはTenax TAなどの名称で市販されている。
  4.   (注11) 用いるガスクロマトグラフ質量分析計やカラムにより最適な条件を設定する。
  5.   (注12) 例えば、Aquatic、DB―1、DB―1301、DB―624、DB―WAX、VOCOLなどが挙げられる。
  6.   (注13) ガスクロマトグラフ質量分析計により、最適な条件を設定する。

 3 試料の採取・運搬

   試料採取容器を採取試料で数回共洗いしてから、試料を泡立たないように静かに採取容器に満たし、マイクロシリンジでサロゲート溶液を添加し(注14)、直ちにキャップをする。このとき、瓶内に空気層を残さないよう注意する。試料を運搬する場合には、汚染のない運搬用容器を用いて遮光・冷蔵する。前処理操作は試料採取後直ちに行う。直ちに行えない場合には、試料は汚染のない冷暗所(4℃以下)で凍結しないように保存する。

  1.   (注14) 単位体積(または重量)あたりのサロゲートの添加量は、試料の前処理において添加する単位体積(または重量)あたりの内標準物質の量と同程度を目安とする。

 4 試験操作

  1.   (1) 測定用試料の調製
        試料5~50mLの適量を静かに泡立てないようにパージ容器にホールピペットで入れ、内標準溶液を添加し、測定用試料とする(注15)。
  2.   (2) 空試料液の調製
        試料と同量の水を用いて、(1)に従って試料と同様の処理をして得た試料液を空試料液とする。
  3.   (3) 添加回収試験液の調製
       (1)に従って、パージ容器中の試料に、各々、内標準溶液を添加して0.01~1μg/Lとする(注16)。
  4.   (4) 測定
    1.    (a) 各試料液をパージ・トラップ装置にセットして、パージガスを一定量通気して対象物質を気相中に移動させてトラップ管に捕集し、次にトラップ管を加熱し対象物質を脱着して、ガスクロマトグラフ質量分析計に導入して測定する。
    2.    (b) ガスクロマトグラフ質量分析では、予め設定した選択イオンについて選択イオン法またはこれと同等の方法によって測定を行い、そのクロマトグラムを記録する。選択イオンの例として、エピクロロヒドリン:m/z49、57、エピクロロヒドリン―d5:m/z62、65及び4―ブロモフルオロベンゼン:m/z96、70がある。(注17)
    3.    (c) 保持時間、定量と確認イオンの強度比を確認し、該当するピークの強度を読み取る。
    4.    (d) サロゲート物質又は内標準物質と対象物質の面積比から、検量線により試料中の対象物質の検出量を求める
  1.   (注15) 内標準の添加量は対象物質濃度や試験操作条件などに応じて適切な量とする。
  2.   (注16) 試料中の対象物質濃度や試験操作条件に応じて適切な濃度範囲とする。装置によっては、パージ容器の代わりにバイアル中に作成する。
           測定用試料をパージ容器の代わりにバイアル中に調製した場合は、バイアルをパージ・トラップ装置にセットする。パージ・トラップ装置の取り扱い説明書などに従って操作し、測定用試料の一部又は全量をパージ容器に移し入れる。
  3.   (注17) ここで示した測定イオン例を参考に、最適な質量数のイオンを選定する。定量用イオンと異なる質量数のイオンを対象物質の確認用イオンとする。

 5 検量線の作成

   エピクロロヒドリン標準原液をメタノールで希釈し、0.05~50μg/mLのエピクロロヒドリン標準溶液を調製する。
   4の(1)に従って、試料と同量の水に内標準溶液を添加して0.01~2μg/Lとする(注16)。これを試料と同様にパージ・トラップ―ガスクロマトグラフ質量分析計による測定を行い(注8)(注9)(注10)(注11)(注12)(注13)(注16)、エピクロロヒドリンとエピクロロヒドリン―d5の面積比を求め、検量線を作成する。

 6 定量及び計算

   エピクロロヒドリンとエピクロロヒドリン―d5の面積比から、試料中のエピクロロヒドリンの検出量を求める。次式で試料中のエピクロロヒドリン濃度を計算する。(注18)
   濃度(μg/L)=(検出量(ng)-空試料液の検出量(ng)(注19))/試料量(mL)
   別に、エピクロロヒドリン―d5と内標準物質の面積比から、エピクロロヒドリン―d5の検出量を求め、エピクロロヒドリン―d5の回収率を算出する。

  1.   (注18) エピクロロヒドリン、エピクロロヒドリン―d5及び内標準物質について、定量イオン及び確認イオンが、検量線作成に用いた標準物質などの保持時間の±5秒以内に出現し、定量イオンと確認イオンの強度比が検量線作成に用いた標準物質などの強度比の±20%以下であれば、エピクロロヒドリンなどが存在していると見なす。
           ただし、測定用試料中に夾雑物が多い場合には、保持時間が変わることがあるので注意する。
  2.   (注19) 空試料液における検出値が空試験に用いた水以外の試料に由来する場合は、空試料液の検出量を差し引くこと。

 備考

  1.   1 この測定方法の定量下限は0.03μg/Lである。
  2.   2 ここに示す商品は、この測定法使用者の便宜のために、一般に入手できるものとして例示したが、これらを推奨するものではない。これと同等以上の品質、性能のものを用いてもよい。
  3.   3 全操作を通じて、良好な回収結果が得られることをあらかじめ確認すること。空試験値については可能な限り低減化を図る。
        良好な回収結果とは、サロゲートから求めた塩化ビニルの回収率は70~120%、内標準から求めたサロゲートの回収率は50~120%であること。
        サロゲートの回収率は、あらかじめ5で求めたサロゲートと内標準との含有量比とピーク面積比の関係からサロゲートの検出量を求め、次式で全検出量を計算する。次に、全検出量を添加した量で除したものを回収率とする。
         全検出量(μg)=検出量(μg)×試料量(mL)÷ガスクロマトグラフ質量分析用試料液量(mL)
  4.   4 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めのない事項については、日本工業規格に定めるところによる。

第1 活性炭抽出法―ガスクロマトグラフ質量分析法

  1 試薬

  1.    (1) 水
         日本工業規格K0557に規定するA3またはA4の水(注1)(注2)
  2.    (2) メタノール
         日本工業規格K8891に規格するもの(注2)
  3.    (3) アセトン
         日本工業規格K8034に規格するもの(注2)
  4.    (4) 1,4―ジオキサン
         日本工業規格K8461に定めるもの
  5.    (5) 1,4―ジオキサン標準原液(1g/L)
         1,4―ジオキサン標準物質を正確に100mg秤り取り、全量フラスコ100mLに移し入れ、メタノールを標線まで加えたもの(注3)(注4)
  6.    (6) 1,4―ジオキサン標準溶液(100mg/L)
         ジオキサン標準原液10mLを全量フラスコ100mLに採り、メタノールを標線まで加えたもの(注3)
  7.    (7) サロゲート原液(1g/L)
         1,4―ジオキサン―d8標準品(100mg)を正確に採り、全量フラスコ100mLに移し入れ、メタノールを標線まで加えたもの(注3)
  8.    (8) サロゲート溶液(100mg/L)
         サロゲート原液10mLを全量フラスコ100mLに採り、水を標線まで加えたもの(注5)
  9.    (9) 内標準原液(1g/L)
         メタノール適量を全量フラスコ100mLに採り、これに4―ブロモフルオロベンゼン100mgを正確に採り、メタノールを標線まで加えたもの(注6)
  10.    (10) 内標準溶液(100mg/L)
         内標準原液10mLを全量フラスコ100mLに採り、アセトンを標線まで加えたもの(注3)
  11.    (11) 硫酸ナトリウム(無水)
         日本工業規格K8987に定めるもの(注2)
  1.    (注1) 市販のミネラルウォーターを用いてもよい。
  2.    (注2) 1,4―ジオキサンを含まないことを確認しておく。
  3.    (注3) 暗所-20℃以下で保存する。
  4.    (注4) 標準原液はアセトンで調製してもよいが、添加回収試験などで試料に添加する標準液に含まれるアセトンの量は、試料体積の0.005%以下とする(200mlの試料では10μl以下)。これを超えると急激に回収率が低下し、0.1%では回収率が30%程度となる。
  5.    (注5) 暗所4℃で保存し、保存期間は1ヶ月とする。
  6.    (注6) 市販のVOC用の4―ブロモフルオロベンゼン(1000mg/Lメタノール溶液)を用いてもよい。暗所-20℃以下で保存する。

  2 器具及び装置

  1.    (1) カートリッジ型活性炭カラム
         アセトン20ml及び水40mlを順に通水してコンディショニングしたもの。(注2)
  2.    (2) カートリッジ型ODS又はポリスチレン樹脂充填カラム(注7)
         使用前にアセトン10mlと水20mlで洗浄したもの。
  3.    (3) 固相抽出装置
         市販の固相抽出装置(注8)
  4.    (4) ガスクロマトグラフ質量分析計
    1.     (a) ガスクロマトグラフ
      1.      1) キャピラリーカラム
               内径0.25mm、長さ30mの化学結合型溶融シリカ製のものであって、内面にポリエチレングリコールを0.5μm程度の厚さで被覆したもの、又は、これと同等の分離性能を有するもの(注9)
      2.      2) 検出器
               選択イオン検出法、又は、これと同等の性能を有する方法(注10)でクロマトグラフ測定が可能な四重極型、磁場型またはイオントラップ型のもの。
      3.      3) キャリヤーガス
               ヘリウム(99.9999vol%以上)であって線速度を毎秒40cmとしたもの。
      4.      4) カラム槽昇温プログラム
               40℃で1分保ち、40~約150℃の範囲で毎分5℃の昇温を行うことができるもの。
      5.      5) 注入口
               温度を200℃程度に保つことができるもの。
      6.      6) 注入部
               スプリットレス法により2分後にパージオフできるもの。
  1.    (注7) 疎水性物質による妨害が認められた場合は、活性炭カラムの上部に装着することにより妨害を取り除くことができる。また、浮遊物質による目詰まり防止に有効である。
  2.    (注8) 加圧通水式のものを使用する。ただし、サロゲート物質の回収率が50~120%に安定的に得られることを確認したうえで、吸引通水式のものを用いてもよい。
  3.    (注9) 1,4―ジオキサンの測定には、高極性・高膜厚のカラムが適している。
  4.    (注10) 感度が十分であれば、スキャンニング法が望ましい。

  3 試料の採取・運搬

    試料500ml以上(2回分析ができるよう)をガラス瓶にいれ、冷蔵状態で梱包して運搬する。

  4 試験操作

  1.    (1) 前処理
         試料水200ml(注11)にサロゲート溶液を80μl添加して十分混合後、活性炭カートリッジカラムを直列に2本接続(注12)したものに、毎分10ml以下で通過させる(注13)。次に、水10mlでカートリッジを洗浄後、アスピレーターで数分間吸引して脱水する(注14)。溶出は、通水と逆方向にアセトン5mlを毎分1mlで流して行い、得られた溶出液を試料処理液とする(注15)。
  2.    (2) 試料液の調製
         試料処理液に内標準溶液を80μl加えてガスクロマトグラフ質量分析用試料とする。
  3.    (3) 空試験液の調製
         水200mLにサロゲート溶液を80μl添加して(1)及び(2)と同様に操作して得られる液を空試料液とする。
  4.    (4) 添加回収試験液の調製
         水200mLに所定量の対象物質及びサロゲート溶液80μlを添加して十分混合後、60分放置して(1)及び(2)に従って操作を行い、得られた試料液を添加回収試験液とする(注16)。
  5.    (5) 測定
        (a) 測定イオンは、表1を用い、モニターする。

  表1 測定イオン

物質名
定量イオン(確認イオン)
1,4―ジオキサン
88(58)
1,4―ジオキサン―d8
96(64)
4―ブロモフルオロベンゼン
174(95)
  1.     (b) 検量線作成後、空試験液、ガスクロマトグラフ質量分析用試料及び添加回収試験液を注入して測定を行う。なお、一定時間毎に検量線の中間濃度の標準液を測定し、期待値の20%以内の変動であることを確認する。もし、20%を超えていれば、ガスクロマトグラフ質量分析計を再調整後、検量線を作成し直して測定を行う。
  1.    (注11) 装置検出限界が低い場合は、試料量を減らしても良い。その場合、それに比例してサロゲート及び内標準の添加量を変えること。
  2.    (注12) 1本でサロゲート物質の回収率が50%を越える場合は、1本でも良い。
  3.    (注13) 通水速度が遅いほど、回収率は向上する。毎分5mlと10mlでは、5mlの回収率が10~20%良い。
  4.    (注14) 窒素ガスでのパージや遠心分離などにより水を除いても良い。いずれの方法でも、水分除去が不十分だと、ピーク形状が不良になることがある。
  5.    (注15) 装置の感度が不十分な場合は、窒素をゆるやかに吹き付けて1mlまで濃縮する。
  6.    (注16) 実試料を分析する前に添加回収試験を行い、1,4―ジオキサンの回収率が70~120%であり、かつサロゲートの回収率が50~120%であることを確認する。

  5 検量線の作成

    1,4―ジオキサン標準溶液を0~200μlの範囲で、またサロゲート溶液を0~100μlの範囲で5段階以上とり、それらに内標準溶液を80μl添加し、アセトンで5mlに希釈する。検量線用標準液は、使用時調整する。
    検量線用標準液1~2μlをガスクロマトグラフに注入し、対象物質及びサロゲート物質と内標準物質(4―ブロモフルオロベンゼン)のピーク面積の比により検量線を作成する。

  6 定量及び計算

    得られた対象物質及びサロゲート物質と内標準物質とのピーク面積から検量線によりそれぞれの検出量を求める。次に、検出量や試料量等から、次式により試料中の濃度を計算する。(注17)
    試料濃度(μg/L)=(検出量(μg)/試料量(L))/サロゲートの回収率

  1.    (注17) 選択イオン検出法では、対象物質(サロゲート物質)の定量イオン及び確認イオンのピークが、予想保持時間の±5秒以内に出現し、定量イオンと確認イオンのピーク強度比が予想値と±20%以内で一致した場合、物質が存在していると見なす。(最終試料液の濃縮などにより、マススペクトルが測定できる場合は、マススペクトルによる確認が望ましい。)
           スキャンニング法では、対象物質(サロゲート物質)のピークが、予想保持時間の±5秒以内に出現し、マススペクトルが標準物質のスペクトルと一致した場合、物質が存在していると見なす。

 備考

  1.   1 この測定方法の定量下限は5μg/Lである。
  2.   2 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めのない事項については、日本工業規格に定めるところによる。

 第2 固相マイクロ抽出―ガスクロマトグラフ質量分析法

  1 試薬

  1.    (1) 水
         日本工業規格K0557に規定するA3またはA4の水(注1)(注2)
  2.    (2) メタノール
         日本工業規格K8891に規格するもの(注2)
  3.    (3) 1,4―ジオキサン
         日本工業規格K8461に定めるもの
  4.    (4) 1,4―ジオキサン標準原液(1g/L)
         1,4―ジオキサン(100mg)を正確に採り、全量フラスコ100mLに移し入れ、メタノールを標線まで加えたもの(注3)
  5.    (5) 1,4―ジオキサン標準溶液(10mg/L)
         ジオキサン標準原液1mLを全量フラスコ100mLに採り,水を標線まで加えたもの(注3)
  6.    (6) サロゲート原液(1g/L)
         1,4―ジオキサン―d8標準品(100mg)を正確に採り、全量フラスコ100mLに移し入れ、メタノールを標線まで加えたもの(注3)
  7.    (7) サロゲート溶液(10mg/L)
         サロゲート原液1mLを全量フラスコ100mLに採り、水を標線まで加えたもの(注3)
  8.    (8) 塩化ナトリウム
         日本工業規格K8150に定めるもの(注2)
  1.    (注1) 市販のミネラルウォーターを用いてもよい。
  2.    (注2) 1,4―ジオキサンを含まないことを確認しておく
       (注3) メタノールで調製した標準原液は暗所-20℃以下で保存する。水で調製した標準液は暗所4℃で保存し、保存期間は1ヶ月とする。

  2 器具及び装置

  1.    (1) SPMEユニット
         SPMEユニット。(注4)
  2.    (2) ファイバー(注5)
         Carboxen/ポリジメチルシロキサン(75μm)ファイバー(注4)、入手後、ガスクロマトグラフインジェクションポートに挿入して、280℃で30分加熱してコンディショニングし、ガスクロマトグラフ質量分析において妨害ピークがでないことを確認したもの。空気中に放置するときは、セプタムに突き刺して空気からの汚染を防止すること。
  3.    (3) プレドリル型ガスクロマトグラフセプタム(注6)
         サーモグリーンセプタム(注4)
  4.    (4) SPME用ガスクロマトグラフインサート(注7)
         使用するガスクロマトグラフ機種用インサート(注4)
  5.    (5) バイアル瓶
         テフロン/シリコン製薄型セプタム付きバイアル(容量40ml)
  6.    (6) カートリッジ型ODS又はポリスチレン樹脂充填カラム使用前にアセトン10mlと水20mlで洗浄したもの。
  7.    (7) ガスクロマトグラフ質量分析計
    1.     (a) ガスクロマトグラフ
      1.      1) キャピラリーカラム
               内径0.32mm、長さ60mの化学結合型溶融シリカ製のものであって(注8)、内面にポリエチレングリコールを1.0μm程度の厚さで被覆したもの、又は、これと同等の分離性能を有するもの。(注9)
      2.      2) 検出器
               選択イオン検出法、又は、これと同等の性能を有する方法でクロマトグラフ測定が可能な四重極型、磁場型またはイオントラップ型のもの。
      3.      3) キャリヤーガス
               ヘリウム(99.9999vol%以上)であって線速度を毎秒40cmとしたもの。
      4.      4) カラム槽昇温プログラム
               35℃で5分保ち、35~160℃の範囲で毎分10℃、さらに160~200℃の範囲で毎分25℃の昇温を行うことができるもの。
      5.      5) 注入口
               温度を240℃程度に保つことができるもの。
      6.      6) 注入部
               スプリットレス法により2分後にパージオフできるもの。
  1.    (注4) シグマアルドリッチジャパン社製が市販されている。
  2.    (注5) ファイバーの使用可能回数は、数十回である。サロゲート物質のピーク強度を確認しておき、ピーク強度が大きく低下し出したらファイバーを交換する。
  3.    (注6) SPMEの針を注入口に挿入する時に、セプタムくずが針穴に巻き込まれないよう予め下穴を開けること。穴からキャリヤーガスが漏れることがあるので注意が必要である。
  4.    (注7) シャープなピークが得られるよう内径をせばめること。
  5.    (注8) 本法では溶媒効果が期待できないため、リテンションギャップにより分離カラム先端に1,4―ジオキサンを濃縮してシャープなピークを得る。分離カラムの前に無極性不活性処理した溶融シリカカラム(内径0.25mm、長さ1m)を接続して、リテンションギャップを行う。
  6.    (注9) 1,4―ジオキサンの測定には、高極性・高膜厚のカラムが適している。

  3 試料の採取・運搬

    現場でSPME用バイアル瓶に試料を正確に35ml採取し(注10)、冷蔵状態で梱包して運搬する。または、試料500mlをガラス瓶にいれ、冷蔵状態で梱包して運搬する。

  1.    (注10) 予め所定量の食塩をバイアル瓶に塩を入れておく。また、トラベルブランクを取ること。

  4 試験操作

  1.    (1) 前処理
         試料35ml(注11)をセプタム付きバイアル瓶(40ml)に取り、サロゲート溶液140μl及び所定量の食塩(注12)を添加してスターラーで十分混合溶解する(注13)。
         次に、ファイバーをバイアル瓶に差し込み、試料中にファイバーを露出させて(注14)
         スターラーで撹拌しながら1時間抽出する(注15)。抽出後、バイアル瓶からファイバーを抜き水で軽く洗浄後、速やかにガスクロマトグラフ質量分析計に導入して加熱脱着する。
  2.    (2) 空試験液の調製
         水35mlを用いて(1)に従って操作し、得られた試料を空試料液とする。
  3.    (3) 測定
        (a) 測定イオンは、表1を用い、モニターする。

  表1 測定イオン

物質名
定量イオン(確認イオン)
1,4―ジオキサン
88(58)
1,4―ジオキサン―d8
96(64)

  1.     (b) 検量線作成後、空試験液及び試料を(1)に従って操作した後、測定を行う。なお、一定時間毎に検量線の中間濃度の標準液を測定し、期待値の20%以内の変動であることを確認する。もし、20%を超えていれば、ガスクロマトグラフ質量分析計を再調整後、検量線を作成し直して測定を行う。
  1.    (注11) 通常はODSカートリッジカラム等に通水する必要はないが、疎水性物質等が大量に含まれている場合などは、通水して除去するとよい。無機質の懸濁物質が多い試料では、ガラス繊維フィルターでろ過しても良い。
  2.    (注12) 20℃における淡水35mlの飽和食塩量は9.2g、海水では8.2gである。
  3.    (注13) スターラーの回転数は、抽出量に影響を与えるため、検量線を含め回転数を同一にする。
  4.    (注14) ファイバーホルダーが試料に浸からないようにする。試料に浸かった場合は、塩が析出してファイバーを破損することがある。
  5.    (注15) 抽出量は抽出時間に比例するため、濃度が高いことが予想される場合は、抽出時間を短縮してもよい。その場合は、検量線も同一抽出時間で作成する。

  5 検量線の作成

    水35mlに対象物質の標準液を0~350μlの範囲で5段階以上とり、4の(1)と同様にして得られた対象物質とサロゲート物質とのピーク面積の比から検量線を作成する。

  6 定量及び計算

    5で作成した検量線から検出量を求める。次に、検出量や試料量から、次式により試料中の濃度を計算する。(注16)
    試料濃度(μg/L)=検出量(μg)/試料量(35ml)×1000

  1.    (注16) 対象物質(またはサロゲート物質)の定量イオン及び確認イオンのピークが、予想保持時間の±5秒以内に出現し、定量イオンと確認イオンのピーク強度比が予想値と±20%以内で一致した場合、物質が存在していると見なす。
            なお、スキャンニング法では、対象物質(サロゲート物質)のピークが、予想保持時間の±5秒以内に出現し、マススペクトルが標準物質のスペクトルと一致した場合、物質が存在していると見なす。

 備考

  1.   1 この測定方法の定量下限は5μg/Lである。
  2.   2 ここに示す商品は、一般に入手できるものとして便宜上掲げたものであり、これを推奨するものではない。これと同等以上の品質、性能を有するものを用いてもよい。
  3.   3 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めの無い事項については、日本工業規格に定めるところによる。

第1 キレート樹脂イオン交換―ICP発光分光分析法

  1 試薬

  1.    (1) 水
         日本工業規格K0557に規定するA3又はA4の水。空試験を行って使用に支障のないことを確認したもの。
  2.    (2) 硝酸
         日本工業規格K9901に規定する硝酸を用いて調製する。
  3.    (3) 酢酸アンモニウム
         日本工業規格K8359に規定するもの
  4.    (4) 0.1mol/L酢酸アンモニウム溶液
         酢酸アンモニウム(CH3COONH4)7.7gを水で溶かして全量を1Lとしたもの(注1)。
  5.    (5) 0.5mol/L酢酸アンモニウム溶液
         酢酸アンモニウム(CH3COONH4)38.5gを水で溶かして全量を1Lとしたもの(注1)。
  6.    (6) 0.1mol/LCyDTA溶液
         trans―1,2―シクロヘキサンジアミン―N,N,N',N'―四酢酸(1水和物)
         (CyDTA)[C6H10N2(CH2COOH)4・H2O]3.6gをメスフラスコ100mLにとり、1mol/L水酸化ナトリウム溶液で溶かして全量を100mLとしたもの。
  7.    (7) アンモニア水
         日本工業規格K8085に規定するもの
  8.    (8) 内部標準溶液(0.5μgY/mL)
         1mgY/mL5mLをメスフラスコ1Lに採り、水を加えて全量を1Lとする。さらに、この溶液25mLをメスフラスコ250mLに採り、水を加えて全量を250mLにしたもの。本溶液は使用時に調製する。
  9.    (9) ウラン標準溶液(10μgU/mL)(注2)
  1.    (注1) 測定対象となるウランの汚染が測定を妨害することのないことを確認してから使用する。
  2.    (注2) 10μg/mLとして市販されているもの。

  2 器具及び装置

  1.    (1) 固相ディスク
         イミノ二酢酸キレート樹脂を充填したディスク(注3)で、使用前に2mol/L硝酸20mLを1回、水50mLを2回、0.1mol/L酢酸アンモニウム溶液(pH5.6)50mLを1回、順次流下し、洗浄及び活性化を行ったもの。
  2.    (2) ICP発光分析装置
  1.    (注3) 市販されているもの。また、ディスクに代えてイミノ二酢酸キレート樹脂(200―400メッシュ)1gをポリプロピレン製固相カートリッジ(8mL容)に充填したミニカラム、あるいは同等の吸着容量をもつ類似品でもよい。

  3 試験操作

  1.    (1) 試料1Lまたはその適量(ウランとして0.2~20μgを含む量)をJIS K0102 5.5によって前処理する。
  2.    (2) (1)に酢酸アンモニウム7.7g、又はその適量(注4)を加えて溶解させる。
  3.    (3) (2)にさらに0.1mol/L CyDTA溶液10mLを添加する。
  4.    (4) アンモニア水でこの溶液のpHを5.6に調整した後、調製した固相に加圧または吸引より流速毎分50~100mL(注5)で流下させる
  5.    (5) 0.5mol/L酢酸アンモニア溶液50mLを流下させて固相カラムを洗浄する。
  6.    (6) 固相カラムの上端から1mol/L硝酸5mLを2回、緩やかに通してウランを溶出させ、メスフラスコに受ける。
  7.    (7) 内部標準液2mLおよび水を加えて20mLとし、これを検液とする。
  8.    (8) (7)で得られた検液をJIS K 0116の5.8(ICP発光分析の定量分析)にしたがって波長385.958nmと371.029nm(イットリウム)の発光強度を測定し、イットリウムに対するウランの発光強度比を求める。
  1.    (注4) (1)の試料の量にあわせ酢酸アンモニウム溶液として0.1mol/Lになるよう硝酸アンモニウムを加える。
  2.    (注5) ミニカラムの場合は10~20mL/分とする。

  4 検量線の作成

    ウラン標準液0、0.1~10mLを段階的に数個のメスフラスコ100mLに採り、各々に硝酸を検液と同じ濃度になるように加え、内部標準液10mLおよび水を加えて100mLとする。以下3の(8)と同じように操作してウランとイットリウムの発光強度を測定し、イットリウムに対するウランの発光強度比とウラン濃度(mg/L)との関係を求める。

  5 定量及び計算

    3の(8)で求めた検液の発光強度比を4で作成した検量線に照らしてウラン濃度(amg/L)を求め、次式によって試料1L中のウランのmg量を算出する。
    ウラン(Umg/L)=a(mg/L)×[検液(mL)]/[試料(mL)]

 備考

  1.   1 この測定方法の定量範囲は、試料1Lのとき、超音波ネブライザーを用いた場合は0.2~20μg/Lである。なお超音波ネブライザーを使用する場合、メモリー効果によるブランクの上昇の可能性があるので、標準液あるいは試料を測定するたびにブランク値をチェックし、十分低下したことを確認してから次の試料の測定を行う。
  2.   2 ウランの測定波長としては385.958nmのほか、367.007nmなどがある。検液のスペクトルを観察し、スペクトル干渉の少ない波長を選択する。
  3.   3 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めの無い事項については、日本工業規格に定めるところによる。

第2 ICP質量分析法

  1 試薬

  1.    (1) 水
         日本工業規格K0557に規定するA3又はA4の水。空試験を行って使用に支障のないことを確認しておく。
  2.    (2) 混合内部標準液(0.05μg/mL)
         1mgBe/mL、1mgY/mL、1mgTl/mLをそれぞれ5mLずつメスフラスコ1Lに採り、水を加えて全量を1Lとする。この溶液10mLをメスフラスコ1Lに採り、水を加えて全量を1Lとする。
  3.    (3) ウラン標準原液(10μgU/mL)(注1)
  4.    (4) ウラン標準溶液(0.01μgU/mL)
         ウラン標準原液5mLをメスフラスコ500mLにとり、水を加えて500mLとする。さらに、この溶液25mLをメスフラスコ250mLにとり、水を加えて全量を250mLにする。本溶液は使用時に調製する。
  5.    (注1) 10μg/mLとして市販されているもの。

  2 器具及び装置

    ICP質量分析装置

  3 試験操作

  1.    (1) 試料100mLまたはその適量(ウランとして5~500ngを含む量)をビーカーにとり、混合内部標準液10mLを加え、JIS K0102 5.5にしたがって前処理し、検液を100mLに調製する。
  2.    (2) (1)で得られた検液をJISK0133(高周波プラズマ質量分析通則)にしたがってウランの質量数238及びタリウム(注2)の質量数205のイオン強度を測定し、タリウムに対するウランのイオン強度比を求める。
  1.    (注2) タリウムのほか、ウランの質量数に近い金属を使用してもよい(たとえばビスマスなど)。

  4 検量線の作成

    ウラン標準溶液0、0.5~50mLを段階的に数個のメスフラスコ100mLにとり、3の(1)に用いた混合内部標準液10mL及び水を加えて100mLとする。以下3の(2)と同様に操作してウランとタリウムのイオン強度を測定し、タリウムに対するウランのイオン強度比を求め、イオン強度比とウラン濃度(mg/L)との関係を求める。

  5 定量及び計算

    3の(2)で求めた検液のイオン強度比を4で作成した検量線に照らしてウラン濃度(amg/L)を求め、次式によって試料1L中のウランのmg量を算出する。
    ウラン(Umg/L)=a(mg/L)×[検液(mL)]/[試料(mL)]

 備考

  1.   1 この測定方法の定量範囲は0.05~5μg/Lである。
  2.   2 海水など共存物質が多い試料の場合は、共存物質による影響が観測されなくなるまで希釈してから測定する。ただし希釈によってウラン濃度が定量下限値を下回ることのないように注意する。この際、共存物質による影響の有無を判定する方法としては添加回収実験がある。例えば、元の試料中のウラン濃度が2ng/mlだけ増加するようにウランを添加したものと、添加しないものを試料として用意し、各々を希釈しようとする倍率で希釈した後に測定し、添加分の回収率が90~110%の間にあることを確認する。なお、希釈によって検液中のウラン濃度が定量下限を下回る場合は、第1の測定方法の3により試料中のウランを共存塩類から分離して測定する。ただし試料の量は、ウランとして1ng~100ng含む量とする。このとき、第1の3の(7)の内部標準溶液は0.5μgY/mLではなく、第2の1の(1)の混合内部標準液を使用する。
  3.   3 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めの無い事項については、日本工業規格に定めるところによる。

第1 水素化物発生―ICP発光分析法

  1 試薬

  1.    (1) 水
         日本工業規格K0557に規定するA3又はA4の水。空試験を行って使用に支障のないことを確認したもの。
  2.    (2) 塩酸
         日本工業規格K8180に規定するもの
  3.    (3) チオ尿素溶液(0.1mol/l)
         日本工業規格K8635に規定するチオ尿素0.76gを水に溶かして100mlとしたもの
  4.    (4) テトラヒドロほう酸ナトリウム溶液(10g/l)
         テトラヒドロほう酸ナトリウム5gを水酸化ナトリウム溶液(0.1mol/l)500mlに溶かしたもの。使用時に調製する。
  5.    (5) アンチモン標準原液(1μg/ml)
         日本工業規格K0025に規定するアンチモン標準液Sb 100 10mlを全量フラスコ1,000mlに採り、塩酸(1+4)を標線まで加えたもの
  6.    (6) アンチモン標準溶液(0.1μg/ml)
         アンチモン標準原液(1μg/ml)10mlを全量フラスコ100mlに採り、塩酸(1+4)を標線まで加えたもの

  2 装置

  1.    (1) ICP発光分析装置
  2.    (2) 連続式水素化物発生装置

  3 試験操作(注1)

  1.    (1) 試料の適量(アンチモンとして0.025~1.25μgを含む)をビーカー100mlに採り、硫酸(1+1)1ml及び硝酸2mlを加える。
  2.    (2) 加熱板上で加熱して、硫酸の白煙を発生させる。
  3.    (3) 室温まで放冷した後、塩酸5ml及びチオ尿素溶液(0.1mol/l)3mlを加え、全量フラスコ25mlに移し入れ、水を標線まで加える。
  4.    (4) ICP発光分析装置と連結された水素化物発生装置にアルゴンを流しながら、(3)の溶液とテトラヒドロほう酸ナトリウム溶液(10g/l)を、定量ポンプを用いてそれぞれ1~10ml/minの流量(注2)で連続的に装置内に導入し、水素化アンチモンを発生させる。(注3)
  5.    (5) 発生した水素化アンチモンと廃液を分離した後、水素化アンチモンを含む気体をプラズマ中へ導入し、アンチモン(206.833nm)の波長における指示値を読む。
  6.    (6) 空試験として試料と同量の水を採り、(1)から(5)までの操作を行って指示値を読み取り、試料について得た指示値を補正する。
  7.    (7) あらかじめ4により作成した検量線から、(3)の全量フラスコ25mlに調製した溶液中のアンチモンの濃度を求め、更に(1)で使用した試料量を考慮して、試料中の濃度を算出する。(注4)
  1.    (注1) 有機物を含まない試料は(1)~(3)に代えて次のように操作してもよい。
            試料の適量(アンチモンとして0.025~1.25μgを含む)をビーカー100mlに採り、塩酸5mlを加え、沸騰しない程度に数分間加熱した後、冷却する。次に、チオ尿素溶液(0.1mol/l)3mlを加え、全量フラスコ25mlに移し入れ、水を標線まで加える。
            また、多量の有機物を含む場合には、(1)及び(2)の代わりに次のように操作してもよい。試料の適量(アンチモンとして0.025~1.25μgを含む)をビーカー100mlに採り、硫酸(1+1)1ml、硝酸2ml及び日本工業規格K8223に規定する過塩素酸(60%)3mlを加え、加熱して白煙を発生させて有機物を分解する。
  2.    (注2) 装置によって、試料、塩酸、テトラヒドロほう酸ナトリウム溶液の流量、塩酸及びテトラヒドロほう酸ナトリウム溶液の濃度は異なる。
  3.    (注3) 水素化物を発生させる際に副生する水素がプラズマに導入されると、プラズマが不安定になる場合があるので、特に導入初期には水素の量が多くなり過ぎないように注意する。
  4.    (注4) 試料中のアンチモン濃度(C0)は次式によって算出する。
            C0=C1×(25/V)
             ここで、C1は(3)の全量フラスコ25mlに調製した溶液中のアンチモン濃度Vは(1)でビーカーに採取した試料量

  4 検量線の作成

    アンチモン標準溶液(0.1μg/ml)0、0.25ml~12.5mlを全量フラスコ25mlに段階的に採り、試料と同じ条件になるように酸及びチオ尿素溶液を加えた後、水を標線まで加える。3の(4)及び(5)の操作を行って、アンチモンの濃度とそれぞれの指示値との関係線を作成する。検量線の作成は試料測定時に行う。(注5)

  1.    (注5) 塩類濃度が高い試料で、検量線法が適用できない場合には、日本工業規格K0116の5.8.3に定める標準添加法を用いるとよい。ただし、この場合は試料の種類によらずバックグラウンド補正を行う必要がある。

 備考

  1.   1 この測定方法の定量範囲は1~50μg/lである。
  2.   2 本方法は、共存する酸及び塩又は元素の影響を受けやすいので注意する。影響の有無は、試料に適量のアンチモンを添加した際に、その指示値の増加分を検量線により濃度に換算することにより確認することができる。
  3.   3 鉄、ニッケル、コバルト、クロム(VI)、バナジウムの妨害はそれぞれ、1,000倍、200倍、500倍、1,000倍、1,000倍程度共存する場合でも除去できる。
  4.   4 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めの無い事項については、日本工業規格に定めるところによる。

第2 水素化物発生―原子吸光法(加熱吸収セル方式)

  1 試薬

  1.    (1) 水
         日本工業規格K0557に規定するA3又はA4の水。空試験を行って使用に支障のないことを確認したもの。
  2.    (2) 塩酸
         日本工業規格K8180に規定するもの
  3.    (3) チオ尿素溶液(0.1mol/l)
         日本工業規格K8635に規定するチオ尿素0.76gを水に溶かして100mlとしたもの
  4.    (4) テトラヒドロほう酸ナトリウム溶液(10g/l)
         テトラヒドロほう酸ナトリウム5gを水酸化ナトリウム溶液(0.1mol/l)500mlに溶かしたもの。使用時に調製する。
  5.    (5) アンチモン標準原液(1μg/ml)
         日本工業規格K0025に規定するアンチモン標準液Sb100 10mlを全量フラスコ1,000mlに採り、塩酸(1+4)を標線まで加えたもの
  6.    (6) アンチモン標準溶液(0.01μg/ml)
         アンチモン標準原液(1μg/ml)10mlを全量フラスコ1,000mlに採り、塩酸(1+4)を標線まで加えたもの

  2 装置

  1.    (1) 原子吸光分析計
  2.    (2) 連続式水素化物発生装置

  3 試験操作

  1.    (1) 試料(注1)の適量(アンチモンとして0.0025μg~0.1μgを含む量)をビーカー100mlに採り、硫酸(1+1)1ml及び硝酸2mlを加える。
  2.    (2) 加熱板上で加熱して、硫酸の白煙を発生させる。
  3.    (3) 室温まで放冷した後、塩酸5ml及びチオ尿素溶液(0.1mol/l)3mlを加え(注2)、全量フラスコ25mlに移し入れ、水を標線まで加える。
  4.    (4) 原子吸光分析計と連結された水素化物発生装置にアルゴンあるいは窒素ガスを流しながら、(3)の溶液とテトラヒドロほう酸ナトリウム溶液(10g/l)を、定量ポンプを用いてそれぞれ1~10ml/minの流量(注3)で連続的に装置内に導入し、水素化アンチモンを発生させる。
  5.    (5) 発生した水素化アンチモンと廃液を分離した後、水素化アンチモンを含む気体を原子吸光分析計へ導入して、波長217.6nmで吸光度を測定する。(注4)
  6.    (6) 空試験として試料と同量の水を採り、(1)から(5)までの操作を行って吸光度を読み取り、試料について得た吸光度を補正する。(注5)
  7.    (7) あらかじめ4により作成した検量線から、(3)の全量フラスコ25mlに調製した溶液中のアンチモンの濃度を求め、更に(1)で使用した試料量を考慮して、試料中の濃度を算出する。(注6)
  1.    (注1) 有機物を含まない試料は(1)~(3)に代えて次のように操作してもよい。
            試料の適量(アンチモンとして0.0025μg~0.1μgを含む)をビーカー100mlに採り、塩酸5mlを加え、沸騰しない程度に数分間加熱した後、冷却する。次に、チオ尿素溶液(0.1mol/l)3mlを加え、全量フラスコ25mlに移し入れ、水を標線まで加える。
            また、多量の有機物を含む場合には、(1)及び(2)に代えて次のように操作してもよい。試料の適量(アンチモンとして0.0025μg~0.1μgを含む)をビーカー100mlに採り、硫酸(1+1)1ml、硝酸2ml及び日本工業規格K8223に規定する過塩素酸(60%)3mlを加え、加熱して白煙を発生させて有機物を分解する。
  2.    (注2) 水素化物発生装置に予備還元恒温槽が付属している場合は、装置でチオ尿素溶液を使用するので、前処理にチオ尿素溶液を加える必要はない。
  3.    (注3) 装置によって、試料、塩酸、テトラヒドロほう酸ナトリウム溶液の流量、塩酸及びテトラヒドロほう酸ナトリウム溶液の濃度は異なる。
  4.    (注4) 得られた吸光度が、あらかじめ4で作成した検量線の定量上限の吸光度を超えている場合は、(3)で調製した溶液を適宜希釈(このとき塩酸及びチオ尿素の濃度は(3)で調製した溶液と同じになるようにする)した後、(4)から(7)までの操作を行ってもよい。
  5.    (注5) (注4)にしたがって希釈した場合には、空試験用の溶液も同じ倍率で希釈する。
  6.    (注6) 試料中のアンチモン濃度(C0)は次式によって算出する。(F=1として算出する。注4にしたがって希釈した場合には、Fに希釈倍率を代入すること。)
            C0=C1d×F×(25/V)
             ここで、C1dは希釈溶液中のアンチモン濃度
             Fは希釈倍率
             Vは(1)でビーカーに採取した試料量

  4 検量線の作成

    アンチモン標準溶液(0.01μg/ml)0、0.25ml~10mlを全量フラスコ25mlに段階的に採り、試料と同じ条件になるように酸及びチオ尿素溶液を加えた後、水を標線まで加える。3の(4)及び(5)の操作を行って、アンチモンの濃度とそれぞれの吸光度との関係線を作成する。検量線の作成は試料測定時に行う。

 備考

  1.   1 この測定方法の定量範囲は0.1~4μg/lである。
  2.   2 本方法は、共存する酸及び塩又は元素の影響を受けやすいので注意する。影響の有無は、試料に適量のアンチモンを添加した際に、その指示値の増加分を検量線により濃度に換算することにより確認することができる。
  3.   3 鉄、ニッケル、コバルト、クロム(VI)、バナジウムの妨害はそれぞれ、1,000倍、200倍、500倍、1,000倍、1,000倍程度共存する場合でも除去できる。
  4.   4 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めの無い事項については、日本工業規格に定めるところによる。

第3 ICP質量分析法

  1 試薬

  1.    (1) 水
         日本工業規格K0557に規定するA3又はA4の水。空試験を行って使用に支障のないことを確認したもの。
  2.    (2) 塩酸
         日本工業規格K8180に規定するもの
  3.    (3) イットリウム内部標準原液(1mgY/ml)
         酸化イットリウム(Y2O3)0.318gをビーカーに採り、塩酸3mlと少量の水を加えて加熱溶解し、冷後、メスフラスコ250mlに移し、ビーカーは水で洗い、洗液もメスフラスコに合わせ、水を加えて全量を250mlとする。本液は、冷暗所に保存する。
  4.    (4) イットリウム内部標準溶液(1μgY/ml)
         イットリウム内部標準原液(1mgY/ml)1mlを全量フラスコ1000mlに採り、水を標線まで加える。本溶液は、使用時に調整する。
  5.    (5) アンチモン標準原液(1μg/ml)
         日本工業規格K0025に規定するアンチモン標準液Sb100 10mlを全量フラスコ1,000mlに採り、塩酸(1+4)を標線まで加えたもの
  6.    (6) アンチモン標準溶液(0.01μg/ml)
         アンチモン標準原液(1μg/ml)10mlを全量フラスコ1,000mlに採り、塩酸(1+9)を標線まで加えたもの。本溶液は、使用時に調整する。

  2 装置

    ICP質量分析装置

  3 試験操作

  1.    (1) 試料100ml又はその適量(アンチモンとして0.03μg~5μgを含む量)をビーカー100mlに採り、塩酸10ml及びイットリウム内部標準溶液(1μgY/ml)1mlを加え、沸騰しない程度に加熱する。
  2.    (2) 液量が70ml以下になったら加熱をやめ、放冷後、全量フラスコ100mlに移し、ビーカーは水で洗い、洗液も全量フラスコに合わせ、更に水を標線まで加え、これを検液とする。濁りのあるときはろ過し、ろ液を検液とする。
  3.    (3) (2)で得られた検液をICP質量分析装置に導入し、アンチモンの質量数121及びイットリウムの質量数89のイオン強度を測定し、イットリウムに対するアンチモンのイオン強度比を求める(注1)。
  4.    (4) 空試験として、試料と同量の水をとり、(1)から(3)までの操作を行ってイットリウムに対するアンチモンのイオン強度比を求め、試料について得たイットリウムに対するアンチモンのイオン強度比を補正する。
  5.    (5) あらかじめ4により作成した検量線から検液中のアンチモンの濃度を求め、更に(1)で使用した試料量を考慮して、試料中の濃度を算出する(注2)。
  1.    (注1) アンチモンの質量数123のイオン強度についても測定し、質量数121と質量数123の同位体比を確認し、SrClの分子干渉がないことを確かめる。
  2.    (注2) 試料中のアンチモン濃度(C0)は次式によって算出する。
            C0=C1×(100/V)
             ここで、C1は(2)の検液中のアンチモン濃度
             Vは(1)でビーカーに採取した試料量

  4 検量線の作成

    アンチモン標準液(0.01μg/ml又は1μg/ml)0、3~50mlを全量フラスコ100mlに段階的にとり、イットリウム内部標準液(1μgY/ml)1mlを加え、3の(2)の検液と同じ酸濃度になるように塩酸10mlを加えた後、水を標線まで加える。この溶液について、3の(3)の操作を行って、イットリウムに対するアンチモンのイオン強度比とアンチモン濃度との関係を作成する。

 備考

  1.   1 この測定方法の定量範囲は0.3~50μg/lである。
  2.   2 海水など共存物質が多い試料の場合は、共存物質による影響が観測されなくなるまで希釈してから測定する。ただし希釈によってアンチモン濃度が定量下限値を下回ることのないように注意する。この際、共存物質による影響の有無を判定する方法としては添加回収実験がある。例えば、もとの試料中のアンチモン濃度が20ng/mlだけ増加するようにアンチモンを添加したものと、添加しないものを試料として用意し、各々を希釈しようとする倍率で希釈した後に測定し、添加分の回収率が90~110%の間にあることを確認する。なお、希釈によって検液中のアンチモン濃度が定量下限を下回る場合は、3及び4に代えて、第1の測定方法の3及び4の水素化物発生法を行って測定してもよい。このとき第1の測定方法の3の(4)ICP発光分析装置に代えて、ICP質量分析装置を用い、3の(5)アンチモン(206.833nm)の波長における指示値に代えて、アンチモンの質量数121のイオン強度を測定する。また、水素化物発生装置に導入する試料検液及び検量線溶液のアンチモン濃度が0.03~5μg/lの範囲に納まるように、試料採取量を決め、検量線の作成操作を行う。
  3.   3 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めの無い事項については、日本工業規格に定めるところによる。