法令・告示・通達

湖沼水質保全特別措置法の施行について

公布日:昭和60年07月31日
環水管173号

(都道府県知事あて環境事務次官通達)

 湖沼水質保全特別措置法(昭和五九年法律第六一号。以下「法」という。)は、第一〇一回国会において成立し、昭和五九年七月二七日に公布され、六〇年三月二一日から施行された(湖沼水質保全特別措置法の施行日を定める政令(昭和六〇年政令第三六号))。また、湖沼水質保全特別措置法施行令(昭和六〇年政令第三七号。以下「令」という。)及び湖沼水質保全特別措置法施行規則(昭和六〇年総理府令第七号。以下「規則」という。)は、六〇年三月二〇日に公布され、いずれも法の施行の日から施行された。
 本法は、従来からの水質汚濁防止法による対策に加え湖沼の水質の保全を図るための特別措置を講ずることを主な内容とするものであるが、貴職におかれては、左記事項に留意の上、本法の施行に遺憾なきを期されたい。
 以上命により通達する。

一 本法制定の趣旨

  湖沼は、古来人々の生活と生産活動を支えてきたかけがえのない国民的資産であり、現在及び将来の国民がその恵沢を享受することができるように、これを保全していくことが必要である。
  しかしながら、湖沼の水質の現状を見れば、閉鎖性水域という自然的条件に加え、湖沼周辺で営まれる人の諸活動に起因する汚濁が近年特に著しく、その水質の改善を図るためには、水質汚濁防止法による排水規制等の従来の制度では不十分な状況にある。
  本法は、こうした状況にかんがみ、湖沼の水質の保全を図るため、湖沼水質保全基本方針を定めるとともに、水質の汚濁に係る環境基準の確保が緊要な湖沼について、水質の保全に関する計画を策定し、水質保全に資する事業、各種汚濁源に対する規制その他の措置を総合的かつ計画的に推進しようとするものである。

二 湖沼水質保全基本方針

  湖沼の水質を保全して現在及び将来の国民が健康で文化的な生活を営むことができるようにすることは国の責務であるとともに、湖沼の水質保全対策を総合的に実施するに当たつては国、地方公共団体、事業者、住民等の緊密な協力が必要であることにかんがみ、法第二条では、まず国が湖沼の水質の保全を図るための基本方針を定めることとされている。
  湖沼水質保全基本方針(以下「基本方針」という。)は、五九年一二月七日に閣議決定の上、同月二六日に公表された(昭和五九年一二月総理府告示第三四号)。
  基本方針は、湖沼の水質の保全に関する基本構想等を内容としており、本法に基づく指定湖沼に限らず全国の湖沼を対象とする内容を含むものであるが、このうち「第二 湖沼水質保全計画の策定その他指定湖沼の水質保全のための施策に関する基本的事項」は、本法の指定湖沼についての湖沼水質保全計画の策定に当たり指針となるものである(法第四条第一項)。

三 指定湖沼及び指定地域

  本法に基づく湖沼水質保全計画の策定その他の特別措置は、一定の手続を経て指定された指定湖沼、指定地域を対象として講じられるものである。
  すなわち、内閣総理大臣は、都道府県知事の申出に基づき、水質環境基準が現に確保されておらず、又は確保されないこととなるおそれが著しい湖沼であつて、当該湖沼の水の利用状況、水質汚濁の推移等からみて特に水質保全に関する施策を総合的に講ずる必要があると認められるものを指定湖沼として指定することができ、これとあわせて指定湖沼の水質汚濁に関係があると認められる地域を指定地域として指定するものとされている(法第三条第一項、第二項)。
  指定湖沼の指定等については、都道府県知事による申出が前置とされているほか、内閣総理大臣による関係都道府県知事の意見聴取(同条第三項)、都道府県知事による関係市町村長の意見聴取(同条第四項)等の手続が定められている。これらのうち、法第三条第一項の申出を行う都道府県知事とは指定湖沼となるべき湖沼の所在地域を管轄する都道府県知事を、同条第四項の関係市町村長とは指定地域となるべき地域を管轄する市町村長を指すものである。
  また、以上の手続規定は、指定湖沼の指定の変更又は解除、指定地域の指定の変更又は解除についても準用される。この場合において、指定湖沼の指定の変更とは一の湖沼につき指定湖沼とする水域の範囲の拡大又は縮小を、指定湖沼の指定の解除とは一の指定湖沼が同条第一項の指定要件に該当しなくなつた場合における指定の全面的な廃止を指すものであり、指定地域の指定の変更又は解除もこれに準ずるものである。

四 湖沼水質保全計画

 (一) 趣旨

   都道府県知事は、指定湖沼及び指定地域が定められたときは、基本方針に基づき、五年ごとに、湖沼水質保全計画を定めなければならない(法第四条第一項)。
   湖沼水質保全計画は指定湖沼ごとの自然的・社会的諸条件に応じた各種水質保全対策を組み合わせ、関係機関及び関係者の緊密な協調の下で諸対策を総合的に推進する拠り所となるものであり、関係省庁及び地方公共団体の広範な権限と責任にわたる多様な施策の実施を計画的に取りまとめていく必要から、都道府県知事が同計画を策定するに当たつては、関係市町村長等の意見聴取、河川管理者への協議、公害対策会議の議を経ての内閣総理大臣の同意という手続を踏むこととされている(同条第四項、第五項)。
   また、湖沼水質保全計画は、五年ごとに定めることとされている。このことは、五箇年間に実施すべき施策の事業量そのものを定めるいわゆる五箇年計画として同計画を策定するという意味ではなく、各種対策の進捗や新たな事情の変化を踏まえて、湖沼の水質保全を総合的に図る上での定期的な見直しの節目を置くことを趣旨とするものである。なお、本計画の期間については、基本方針第二の一において原則として五年間とすることが定められているが、五年を超える計画期間を設定する場合においても、当該計画は五年ごとに見直しを行うことを要する。

 (二) 計画の内容及び策定の考え方

   湖沼水質保全計画には、①湖沼の水質保全に関する方針、②湖沼の水質保全に資する事業に関すること、③湖沼の水質保全のための規制その他の措置に関すること、④その他湖沼の水質保全のために必要な措置に関することを定めることとされている(法第四条第三項)。
   基本方針においては、同計画の策定に関し、指定湖沼の水質及び指定地域内での排出負荷量についての現状把握と将来予測、計画期間内において実施可能な対策の総合的検討を経て、計画の目標の設定と目標の達成のため実施すべき対策の取りまとめを行うべきことが示されている(基本方針第二の一)。
   同計画の内容中、法第四条第三項第一号の湖沼の水質保全に関する方針は、これらの総合的な検討の結果を踏まえて、指定湖沼の水質及び汚濁負荷量の制御に関し計画の方針を明らかにするものである。この場合において、各種水質保全対策については、その技術的・経済的な実施可能性について十分な配慮を加えることが必要であり、水質汚濁の著しい指定湖沼にあつては、本計画に基づく各種対策の段階的な進捗により着実な水質改善を期することが肝要である。
   第二号の湖沼の水質保全に資する事業としては、大別すると、指定地域において発生する生活排水等を処理することによりこれに伴う汚濁負荷の削減に寄与する下水道等の公共的な処理施設を整備する事業と、指定湖沼等の公共用水域に流入・蓄積した汚濁物の除去等を行うしゆんせつ等の浄化事業とが主なものとして考えられる。前者の例としては、下水道のほか、地域し尿処理施設、農業集落排水施設、生活排水処理施設等があり、指定地域内において排出されるし尿及びし尿以外の廃棄物の処理施設も含まれる。後者の例としては、しゆんせつのほか、ばつ気、導水、水草除去等がある。これらの事業については、指定湖沼・指定地域の実情を踏まえて必要な措置を検討の上、各事業の推進方針を計画に記述するものとする。
   第三号の「湖沼の水質保全のための規制その他の措置」には、水質汚濁防止法に基づく排水の規制措置のほか、本法第三章の各規定に基づく規制、指導等及び湖沼の自然環境の保護の措置が含まれる。計画においては、各種発生源等の別にこれらの規制その他の措置の具体的な推進方針を記述するものとする。
   第四号の「その他湖沼の水質保全のために必要な措置」としては、指定湖沼を含む公共用水域の水質の監視、事業者に対する助成、地域住民等に対する知識の普及その他の必要な措置について計画に記述するものとする。
   なお、基本方針第二の一後段に示されているとおり、湖沼水質保全計画の策定に当たつては、指定湖沼の有する治水、利水、水産その他の公益的機能の確保に十分配慮するとともに、指定地域の開発に係る諸計画及び指定湖沼の水質保全対策に関連する諸計画との整合が図られるようにすることが求められている。指定地域の開発に係る諸計画の例としては、水資源開発基本計画、水源地域整備計画、琵琶湖総合開発計画等が、指定湖沼の水質保全対策に関連する諸計画の例としては公害防止計画のほか、下水道整備五箇年計画、流域別下水道整備総合計画、公共下水道及び流域下水道の事業計画、一般廃棄物処理計画、産業廃棄物処理計画、農業集落排水事業計画等がある。

 (三) 計画に基づく諸対策の推進

   先に述べたとおり、湖沼水質保全計画は、関係機関及び関係者の合意と協力を得つつ、指定湖沼の水質保全のために必要な各種対策を計画的にとりまとめ、その総合的な推進を図るためのものである。
   このため、本法においては、湖沼水質保全計画に定められた事業は当該事業に関する法律の規定に従い国、地方公共団体その他の者が実施すること(法第五条)が念のため規定されているほか、国及び地方公共団体は同計画の達成に必要な措置を講ずるよう努めるものとされている(法第六条)。

五 指定湖沼の水質保全に関する特別の措置

  本法においては、指定湖沼の水質保全に関する特別措置として、指定地域にあつては、水質汚濁防止法に基づく排水規制に加えて、次のような規制その他の措置を講ずることが予定されている。

 (一) 新増設の湖沼特定事業場に対する汚濁負荷量の規制(法第七条~第一三条)

   水質汚濁防止法第二条第二項の特定施設(以下「特定施設」という。)を設置する工場・事業場については水質汚濁防止法第三条第一項又は第三項の排水基準による規制が行われているが、指定湖沼につき特に総合的な水質保全対策を講ずる一環として、工場・事業場の新増設に伴う汚濁負荷の増大を極力抑制するため、湖沼特定施設の新設又は構造等の変更を行う工場・事業場で一定以上の規模を有するものに対し、排出水の汚濁負荷量の規制を行うこととしている。
   「湖沼特定施設」とは、特定施設に法第一四条の「みなし特定施設」を加え、政令で定める一定の施設を除いたものである。政令で定める除外施設としては、その新増設自体が指定地域において発生する汚濁負荷の削減に資するという観点から、下水道終末処理施設、地方公共団体の設置する地域し尿処理施設、農業集落排水施設等のし尿処理施設及び土地改良区が土地改良法第五七条の四第一項に基づき設置する農業集落排水施設が指定された(令第一条)。
   また、汚濁負荷量規制の対象となる湖沼特定事業場の規模要件は、日平均排水量五〇立方メートル以上とされた(令第二条)。
   汚濁負荷量規制の対象項目は、水質汚濁防止法第二条第二項第二号に規定するいわゆる生活環境項目の中から指定湖沼ごとに政令で定めることとされているが、当面は、これまでの対策経緯等を踏まえ、化学的酸素要求量(COD)とすることが予定されている。
   汚濁負荷量規制の基準は、湖沼水質保全計画に基づき、総理府令で定めるところにより都道府県知事が定めることとなる。規則では、化学的酸素要求量に係る規制基準の基本となる算式等が定められた(規則第二条)。
   この規制基準の遵守を担保するため、都道府県知事は、水質汚濁防止法に基づく施設の設置又は構造等の変更に関する届出を受けて所要の計画変更命令等を、施設設置後にあつては所要の改善命令等を行い得ることとされている。ただし、鉱山又は電気工作物若しくは廃油処理施設を設置する工場・事業場については、それぞれ鉱山保安法、電気事業法又は海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の相当規定に定めるところによることとされている。
   なお、この汚濁負荷量規制については、これが湖沼特定施設の新増設を行う一定の事業場のみを対象とするものであること等を勘案し、その対象事業者に対し水質汚濁防止法第一四条第一項に規定するもののほか新たな測定義務は課さないこととしている。

 (二) みなし特定施設に対する排水規制等(法第一四条)

   特定施設にはなつていないが、湖沼の水質にとつて生活環境に係る被害を生ずるおそれがある程度の汚水又は廃液を排出する施設として政令で定めるものについては、これを特定施設とみなして同法の規定を適用することにより、施設の設置等に関する届出を求めるとともに、排水規制を行うこととされている。
   この「みなし特定施設」としては、特定施設の規模要件に達しない一定規模の病院のちゆう房施設等及び一定規模のし尿浄化槽が指定された(令第五条)。

 (三) 指定施設・準用指定施設に対する構造及び使用方法の規制(法第一五条~第二二条)

   湖沼の水質汚濁の原因となる物を発生し排出していても排水基準による規制になじまない施設については、これを「指定施設」として政令で定め、その構造及び使用方法の規制を行うことにより、汚濁負荷の削減を図ることとされている。
   この指定施設としては、特定施設の規模要件に達しない一定規模の豚房等及び一定規模以上のこいの養殖施設が指定された(令第六条)。これらの施設に対する構造及び使用方法の規制基準は、総理府令で定めるところにより都道府県知事が定めることとされ、規則では、この規制基準の基本となる事項が定められた(規則第一〇条、別表)。指定施設に係る構造及び使用方法の規制基準の遵守を確保するため、都道府県知事は、その設置者に対し必要な改善勧告、さらには改善命令を行い得ることとされている。
   なお、特定施設であつても、排水量が少ない等の事情から指定施設に準ずるものについては、これを「準用指定施設」として政令で定め、指定施設に準じた構造及び使用方法の規制を行うこととされている。この準用指定施設としては、特定施設たる豚房等のうち水質汚濁防止法に基づく生活環境項目に係る排水基準が適用されないものが指定された(令第一〇条)。

 (四) 湖沼に係る水質総量規則(法第二三条)

   指定湖沼のうち、人口及び産業の集中等により排水が大量に流入し、水質汚濁防止法の排水規制及び本法第四条から第二二条までに規定する措置のみによつては水質環境基準の確保が困難であると認められるものについては、総量規制を導入できることとされている。水質総量規制については現行の水質汚濁防止法に規定があるが、本法では、これに代えて湖沼の特性に合わせた総量規制の導入手続が定められている。すなわち、湖沼については「広域の公共用水域」(水質汚濁防止法第四条の二第一項)でなくとも総量規制を導入できることとし、削減目標につき国が基本方針を示すのではなく、必要に応じ関係都府県が調整を図りながら湖沼水質保全計画の内計画として総量削減計画を定めることとしている。
   なお、湖沼総量削減計画における削減の目標に関しては水質汚濁防止法第四条の二第二項の後段の例に準ずるものとされているほか、計画に基づき総量規制基準を定め、この規制基準の遵守を担保するための措置については、同法の規定が適用されることとなつている。

 (五) 規制対象外の発生源に対する指導等(法第二四条)

   これらの規制措置のほか、都道府県知事は、特定施設、みなし特定施設又は指定施設の設置者以外の水質汚濁の原因となる物を排出する者に対し、湖沼水質保全計画を達成するために必要な指導、助言及び勧告をすることができるものとされている。この指導等の対象としては、特定施設等を有しない小規模の工場・事業場、一般家庭、農業者等が含まれる。なお、これらの指導等は、水質汚濁の原因となる物の排出に関し、実施可能でかつ具体的な内容とするようにされたい。

 (六) 緑地の保全その他湖辺の自然環境の保護(法第二五条)

   国及び地方公共団体は、以上の各種発生源に対する規制等の措置と相まつて指定湖沼の水質保全に資するよう緑地の保全その他湖辺の自然環境の保護に努めなければならないものとされている。これは、湖沼の集水域にある緑地その他湖辺の自然環境による水質保全上の機能に着目するものであり、具体的には自然環境保全法、自然公園法、森林法、都市計画法、都市緑地保全法、河川法等の関係諸制度の的確な運用を通じて配意していくこととなるものである。

六 事務の委任

  本法の規定により都道府県知事の権限に属する事務は、政令によつてこれを市長に委することができることとされている(法第三一条第一項)。
  本法の規制事務は水質汚濁防止法の事務と密接不可分の関係にあることから、法第三条第二項の指定地域に水質汚濁防止法第二八条第一項に基づく政令市の区域が含まれる場合には、当該市を本法の政令市として指定する予定である。また、政令市に委任する事務の範囲は、指定湖沼の指定の申出、湖沼水質保全計画の策定等都道府県知事において統一的に処理すべき事務を除くすべての規制事務、すなわち届出の受理、各種命令等の実施、立入検査等の事務とする予定である。

七 その他の留意事項

 (一) 関係機関との調整等

   本法の運用に当たつては、指定湖沼に係る公共用水域管理者、都道府県の関係部局、関係市町村等との必要な協議・調整を図られたい。また、法第三条に基づく指定湖沼の指定の申出等に関すること、第四条第一項に基づく湖沼水質保全計画(第二三条第一項の湖沼総量削減計画を含む。)の策定に関すること、第七条第一項の負荷量規制基準の設定に関すること等については、都道府県水質審議会(「地方公共団体の事務に係る国の関与等の整理、合理化等に関する法律」の施行による水質汚濁防止法第二一条の改正後にあつては、都道府県公害対策審議会)の意見を聞くこととされたい。

 (二) その他の技術的事項等

   指定湖沼の指定の申出、湖沼水質保全計画の策定、各種規制基準の設定等に関する技術的事項については、別途通達する。