法令・告示・通達

大気汚染防止法に基づく窒素酸化物の排出基準の設定等について

公布日:昭和48年08月09日
環大規133号

環境庁大気保全局長から各都道府県知事・各政令市長あて
 昭和48年8月2日付けをもつて、窒素酸化物の排出基準を設定することを主な内容とする大気汚染防止法施行令の一部を改正する政令(昭和48年政令第223号。以下「政令」という。)及び大気汚染防止法施行規則の一部を改正する総理府令(昭和48年総理府令第44号。以下「府令」という。)が制定公布され、同年8月10日から施行されることとなつた。
 窒素酸化物はそれ自体が有害であるほか、光化学オキシダントの要因物質であり、その対策は現在の深刻な大気汚染問題を克服するうえで、緊急な課題となつている。このため本年5月には二酸化窒素に係る環境基準を設定したところである。
 固定発生源から排出される窒素酸化物については、今回、現時点において利用可能な窒素酸化物の防止技術を用い、極力窒素酸化物の削減を図る観点から、大型のボイラー等を中心に排出基準を設定したものである。
 今回の排出規制の実施は、環境基準の維持達成を図るための工場・事業場から排出される窒素酸化物の低減対策の第一段階であるが、今回の排出基準の設定の考え方、政令・府令の主な内容及び留意すべき事項は次のとおりであるので、十分に了知され、法令の施行に遺憾なきを期されたい。

第1 排出規制の考え方

 1 規制方式について

   大気汚染防止法(以下「法」という。)の規定に基づき、燃焼に伴い発生する窒素酸化物の排出基準の設定については、昭和46年6月に窒素酸化物を有害物質として指定した時点においては、当時、窒素酸化物の発生抑制技術がほとんどなかつたこと等のため、法第3条第4号に基づき、特定有害物質として排出基準を設定する予定であつた。しかしながら、その後大型ボイラーについては燃焼方法の改善等により窒素酸化物の発生抑制技術が実用化されてきたこと、窒素酸化物の排出実態が施設の種類により様々であり、その特性に応じて排出基準を設定する必要性が高いこと等を考慮すると、燃焼に伴い発生する窒素酸化物についても、法第3条第2項第3号の規定によりいわゆる濃度規制方式によることが適当であると判断されたので、今回は、特定有害物質として指定せずに、この考え方に基づき排出基準を設定することとした。
   なお、濃度規制方式をとるにあたつては、排出ガスを薄めて排出基準を遵守することを防止するため排出ガス中の残存酸素量により窒素酸化物濃度を換算することとした。

 2 規制対象施設について

   窒素酸化物を排出する施設としては、ボイラー、各種工業炉、硝酸製造施設などがある。これらの施設のうち、(ⅰ)窒素酸化物の排出量が大きいもの、(ⅱ)窒素酸化物の排出濃度が高いものについては、とりわけ排出規制の実施を急ぐ必要があるが、今回は、すでに利用可能な防止技術が開発されているボイラー及び硝酸製造施設並びにボイラーの防止技術が適用しうる加熱炉について排出基準を設定することとした。ただし、ボイラー及び加熱炉については、現在の防止技術を考慮して、規模の大きい施設に限定することとした。

 3 排出基準値について

   今回の排出基準の設定にあたつては、ボイラーについては、二段燃焼、排ガス再循環、バーナーの改造等の方法を採用することにより現状の排出濃度を3~4割削減できること、加熱炉についても、これらの技術を採用することによりある程度の改善ができることを考慮して設定することとし、また、これらの燃焼施設のうち既存のものについては、施設本体の改造の困難性等から新設の施設とは別の基準を設けることとした。
   なお、ボイラーについては、使用燃料の種類により排出実態に大きな差がある点を考慮した。
   硝酸製造施設については、除去効率90%程度の排煙装置の設置を前提として排出基準を設定することとした。

第2 改正の要点

 1 大気汚染防止法施行令関係

   窒素酸化物の規制という観点から、いわゆる希硫ガスを専燃させるボイラー、加熱炉等もばい煙発生施設として追加指定するとともに(大気汚染防止法施行令(以下「令」という。)別表第1の1の項、2の項及び7の項の改正)、硝酸の製造の用に供する施設をばい煙発生施設として指定したこと(令別表第1の27の項の追加)。
   また、令別表第1の13の項の廃棄物焼却炉の規模に焼却能力のほかに「火格子面積が2平方メートル以上であること」を加えたが、これは従前規定されていたものであり、その規定のしかたを改めたこと(昭和46年政令第191号による改正)により生じた疑義をなくすため加えたものであつて規模の拡大を図つたものではないこと。

 2 大気汚染防止法施行規則関係

  1.   (1) 法第3条第1項の規定に基づき窒素酸化物の排出基準を定めたこと。(大気汚染防止法施行規則(以下「規則」という。)第5条の改正及び別表第3の2の追加)
        なお、既設の施設(府令の施行の際現に設置されている施設及び設置工事中の施設をいう。)については、硝酸製造施設を除き、当分の間、別の排出基準を定めたこと。(府令附則第2項から第5項まで及び別表)
  2.   (2) 法第16条(ばい煙量等の測定)に規定する測定方法を窒素酸化物について定めるとともに、測定結果の記録の様式に所要の改正を行なつたこと。(規則第15条及び様式第7の改正)
  3.   (3) 窒素酸化物の排出基準の設定に伴い法第6条の規定等に基づく届出の様式について所要の改正を行なつたこと。(規則様式第1の別紙の改正)

 3 施行期日及び経過措置

  1.   (1) 政令及び府令は昭和48年8月10日から施行すること。(政令附則第1項及び府令附則第1項)
  2.   (2) 既設の硝酸製造施設については、排出基準は昭和51年6月30日まで適用しないこととしたこと。(政令附則第3項)
  3.   (3) 既設の施設にかかる排出基準は昭和50年6月30日まで適用しないこととしたこと。(府令附則第2項、第4項及び第5項)

第3 留意すべき事項

 1 ばい煙発生施設の追加に伴う事項

  1.   (1) 今回の改正によりばい煙発生施設となつた希硫ガスを専焼させるボイラー(令別表第1の1の項)ガス発生炉・ガス加熱炉(2の項)及び石油加熱炉(7の項)、いおう化合物の含有率が重量比で0.1%以下である揮発油を燃料として専焼させるガス発生炉・ガス加熱炉(2の項)並びに硝酸製造施設(27の項)については、政令施行の際、「これらの施設を設置している者(設置の工事をしている者を含む。)にあつては法第7条の規定により、また、今後これらの施設を設置しようとする者にあつては法第6条の規定により、ばい煙発生施設の届出が必要となること。
  2.   (2) ばい煙発生施設の届出にあたり、今回排出基準が設定された施設に関しては改正後の規則様式第1別紙2の窒素酸化物の濃度欄の記載が必要であるが、止むを得ない事情により法第7条の所要の期間内に窒素酸化物の濃度の実測ができない場合には、当該欄は空白であつても法第7条の届出を受理してさしつかえないこと。この場合においては、可及的速かに、窒素酸化物濃度を測定させ、追加して届出させること。
        なお、すでにばい煙発生施設となつている施設についても、法第26条に基づく報告を求める等により当該施設の窒素酸化物の排出状況を把握すること。
  3.   (3) 今回の改正によりばい煙発生施設となつた施設については、窒素酸化物対策の観点からばい煙発生施設としたものであるが、いおう酸化物及びばいじんの排出基準も形式上これらの施設に適用されることとなる。
        しかしながら、これらの施設からのいおう酸化物及びばいじんの排出実態は、当面のいおう酸化物対策及びばいじん対策をすすめるうえで、問題となる程度ではないので、これらの施設についてばい煙発生施設の届出様式を記載するにあたつては、いおう酸化物、ばいじんに係る部分は記載を省略してさしつかえないこと。
        (「大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行について」(昭和46年8月25日環大企第5号本職通知。以下「46年通知」という。)第2の2を参照のこと。)
  4.   (4) 今回の改正によりばい煙発生施設となつた施設の中には、府令によつては、窒素酸化物の排出基準が定められていない施設があるが、これらの施設についても、法第23条第4項の規定による緊急時の措置の対象となるものであること。
  5.   (5) 令別表第1の27の項にいう硝酸の「合成能力」とは、吸収施設を経て製造される希硝酸又は濃硝酸の1時間当たりの量を「漂白能力」、「濃縮能力」とは、漂白施設、濃縮施設においてそれぞれ漂白処理に供され、又は濃縮処理に供される希硝酸又は濃硝酸の1時間当たりの量をいうものであること。

 2 窒素酸化物の排出基準の設定等に関する事項

  (1) 基本的事項

    規則第5条に規定する窒素酸化物の排出基準は硝酸製造施設を除き、昭和48年8月10日以後に設置される施設についてのみ適用され、同日現在すでに設置されているボイラー(令別表第1の1の項)、金属加熱炉(6の項)又は石油加熱炉(7の項)(設置の工事がされているこれらの施設を含む。)に関する排出基準は、府令附則に定められていること。

  (2) 規則別表第3の2及び府令附則別表に関する事項

  1.    ア 「排出ガス量」とは、当該施設を定格能力で運転するときの排出量であり、この量の算定は施設ごとに湿りガスで行なう。なお、規則別表第3の2に掲げる施設の規模と府令附則別表に掲げる施設の規模に差があるので留意すること。
  2.    イ 規則別表第3の2及び府令附則別表において「燃焼」とは、専焼及び混焼をいうものであるので、たとえば、規則別表第3の2の2の項の「固体燃料を燃焼させるもの」は、石炭を専焼させるもののほか、石炭と重油又はガスを混焼させるものを含み、3の項の施設は液体燃料を専焼させるもののほか液体燃料とガスを混焼させるものを含むものであること。
  3.    ウ 府令附則別表の4の項の「原油タール」とは石油から作られるいわゆるオイルタールのことであること。
  4.    エ 別表第3の2の5の項の「独立過熱炉」とはエチレン分解炉に付属し、これに過熱蒸気を供給する施設(いわゆるスーパーヒーター)のことであること。

  (3) 排出ガス中の窒素酸化物の測定について

  1.    ア 窒素酸化物の測定分析に際しての窒素酸化物濃度測定値の取り扱い及び試料の採取方法については、46年通知の第4の1から4までによること。
  2.    イ 排出ガス中の窒素酸化物の測定は、日本工業規格K0104に定めるところにより行なうこと。
         なお、この規格は近く改定される予定であり、目下改定作業中であるので、承知されたいこと。
  3.    ウ 分析法は、日本工業規格K0104に定める分析法のうちから測定対象排出ガスの特性に応じたものを採用すること。
         なお、測定分析にあたつては、分析法相互の相関を明らかにしておく等のため、次の事項に留意すること。
    1.     (ア) この規格に採用された分析法によつても分析値に差が生ずると思われるので、分析をする者が同一の試料につき数回の分析を行ない、分析値のバラツキの程度を確認しておくこと。
    2.     (イ) フエノールジスルホン酸法(以下「PDS法」という。)以外の分析法にあつては、濃度約100ppm及び約500ppmの2種の一酸化窒素標準ガスを用いてPDS法と同時測定を行なうときその分析値の比が0.95~1.05の範囲内にはいるよう操作条件が確立されていること。
    3.     (ウ) 連続分析法にあつては、試料排出ガスを用いてPDS法又は(イ)の条件が満たされた化学分析法と同時測定を行ない計測器指示の確認を行なうこと。

  (4) 排出ガス中の残存酸素濃度について

  1.    ア 規則別表第3の2の備考中のOnに関する記述中「6の項に掲げる施設にあつてはOsとする」。とあるのは、硝酸製造施設は燃焼施設ではないので排出ガス中の残存酸素濃度による換算を行なわない趣旨であること。
  2.    イ 排出ガス中の残存酸素濃度の測定は、オルザツトガス分析装置を用いる吸収法又はこれと同等の測定値が得られる酸素濃度分析装置を用いること。
         なお、残存酸素濃度に係る試料採取は、窒素酸化物に係る試料と同一位置で採取するものであること。

  (5) ばい煙排出者の測定義務について

    ばい煙排出者は、規則第15条の改正により、窒素酸化物の濃度についても規則別表第3の2の備考に掲げる方法により、排出ガス量が毎時4万Nm3以上の施設については2月をこえない作業期間ごとに1回以上、排出ガス量が毎時4万Nm3未満の施設については年2回以上測定を行なう必要があること。ただし、ばい煙発生施設のうち今回窒素酸化物の排出基準が設定されなかつた施設であつて窒素酸化物を排出するものについては、排出係数を参酌する等によりその排出状況をは握しておくよう指導すること。

  (6) 届出等の様式の改正について

  1.    ア 改正前の様式による用紙は、当分の間、取り繕つて使用してもさしつかえないこと。
  2.    イ 規則様式第1の別紙2及び様式第7に設けられた窒素分の記載欄は、燃料中の窒素分が今後の窒素酸化物対策上重要であるために設けられたものであるが、今後の測定技術の開発と相まつて可能なものから逐次記載させるよう指導すること。
  3.    ウ 規則様式第1の別紙2の参考欄に窒素酸化物の発生抑制のために採つている方法を記載させることとなつたが、なるべく具体的に記載させ、また、必要があれば参考図面等を添付させるよう指導すること。

 3 指導の徹底に関する事項

   今回設定した窒素酸化物の排出基準は、きわめて厳しいレベルに設定してあるので、これを遵守するには二段燃焼法、排ガス再循環法等施設の実態に応じた適切な対策を講ずるとともに燃焼管理の徹底を期する必要があるので、ばい煙排出者に対して十分な指導を行なうこと。
   また、既設の施設については、約2~3年の適用猶予期間が設けられているが、防止設備の工事請負会社の工事実施能力からみて全施設の所要工事の完了には相当期間を要するものと考えられるので、計画的に所要の措置を講ずるよう、ばい煙排出者を指導すること。

 4 今後の規則の拡大等に関する事項

   今回設定した窒素酸化物の排出基準は、現時点の防止技術の限界を考慮したきわめて厳しいレベルに設定されているので、現時点においては、これをうわまわる排出基準を設定することはきわめて困難であると考えられること。
   しかしながら、今後の窒素酸化物の規制については、防止技術の進歩を勘案しながら計画的に排出基準の改定強化、規制対象施設の拡大を行なつていく方針である。したがつて、貴職におかれても、規制対象となつていないばい煙発生施設の排出実態のは握に努められたいこと。
   なお、今回の規制方式としては濃度規制方式を採用したが、抜本的な窒素酸化物の排出規制については、いおう酸化物を含めて総量規制方式の採用が必要であると指摘されており、今後これの採用について検討を進める予定であること。