法令・告示・通達
大気汚染防止法に基づく窒素酸化物の排出基準の改定等について
環大規136号
環境庁大気保全局長から各都道府県知事・各政令市市長あて
昭和52年6月16日付けをもつて大気汚染防止法施行規則の一部を改正する総理府令(昭和52年総理府令第32号。以下「改正政令」という。)が制定公布された。
改正府令の内容は、固定発生源から排出される窒素酸化物の排出基準の改定強化と廃棄物焼却炉から排出される塩化水素の排出基準の設定である。その考え方、改正府令の要点、留意すべき事項等は次のとおりであるので、法令の施行に遺憾なきを期されたい。特に今回は、排出ガス量5千Nm3/h以上の既設小型ボイラーまで規制対象としたので、これに対する規制の円滑な実施方よろしく取り計らわれたい。
第1 窒素酸化物の排出規制強化について
1 今回の規制強化の背景と骨子
固定発生源に対する窒素酸化物に係る排出規制については、昭和48年8月に大型施設を対象とする第1次規制を、昭和50年12月には対象施設の拡大等を主な内容とする第2次規制を実施してきたところである。
これらの規制の効果は、自動車排出ガスの規制効果と併せて年々少しずつ進捗してきているものの、昭和50年度の環境測定結果からみると、環境基準を達成している測定局は全国666局中54局(8.1%)にすぎず、環境基準のおよそ2倍のレベルに相当する中間目標(環境基準を年間総日数の60%以上維持することであり、1日平均値の98%値0.04ppmに相当する。)と比べてみても、これを超える測定局が全体の50%にのぼつている。
このような状況から昭和48年5月に告示された環境基準の目標達成期限までに環境基準を達成することは困難ではあるが、いまなお最大限の努力をなすべきであり、窒素酸化物低減技術開発状況の評価に基づき、全国一律の排出基準として可能な限りの規制強化を実施することとした。
今回規制強化された排出基準は、大気汚染防止法(以下「法」という。)第3条に基づく全国一律の施設単位の排出基準であるため、ナシヨナル・ミニマムとしての性格を有するものであり、この意味で窒素酸化物を排出するばい煙発生施設として、技術的に最低限確保すべき値であり、基本的には低NOx燃焼技術の適用により達成できる値である。なお、窒素酸化物排出低減のための最も効果的な技術である排煙脱硝については、クリーン排ガスのみならず重油燃焼排ガス程度のダーテイ排ガスについても実用化の域に達しつつあるが、地域差のない全国一律の排出基準として、現段階で排煙脱硝によらなければ達成できないような厳しい基準を設定することは適切でないと判断した。
なお、今回の規制強化の骨子は次のとおりである。
(1) 既設大型施設の基準強化
昭和48年8月の第1次規制の対象となつた排出ガス量10万Nm3/h以上のボイラー、排出ガス量4万Nm3/h以上の金属加熱炉及び石油加熱炉について基準値を強化した。
(2) 規制対象施設の規模の拡大
小規模の施設についても、これによる局所的な汚染濃度寄与は大きいのでできる限り規制することとした。
(3) 規制対象施設の種類の拡大
未規制の施設であつても、窒素酸化物を相当量排出している施設は規制対象とするという方針のもとに、今回の規制強化では施設の排出実態、対策技術を検討したうえ、新設にあつては、焼結炉、アルミナ焼成炉、廃棄物焼却炉(排出ガス量が4万Nm3/h以上のもの)を、既設にあつては焼結炉、セメント焼成炉及びコークス炉を規制対象に加えた。
(4) 新設施設の基準強化
新設の施設に対しては、技術の進展に伴いより厳しい基準を設定して極力窒素酸化物排出量の伸びを抑制しておくためできる限り現状技術の最先端を適用するという考え方で基準を設定した。
2 改正の内容
(1) 改正府令の要点
- ア 法第3条第1項の規定に基づき、窒素酸化物の排出基準を改定強化した(大気汚染防止法施行規則(以下「規則」という。)別表第3の2の改正)。
- イ 施行期日及び経過措置
- ① 改正府令は、昭和52年6月18日から施行する。ただし、規則別表第3の2の改正規定中、液体燃焼ボイラーのうち排出ガス量が1万Nm3/h未満のもの(以下「液体燃焼小型ボイラー」という。)に係る改正部分は、昭和52年9月10日から施行する(改正府令附則第1項)。
- ② 昭和48年8月10日から昭和50年12月9日までに設置の工事が着手され、第1次規制の新設施設に係る排出基準(以下「1次新設基準」という。)の適用を受けていた施設に係る窒素酸化物の排出基準については、今回強化した既設施設に係る排出基準(以下「3次既設基準という。)の方が1次新設基準よりも厳しい金属加熱炉については、3次既設基準へ移行することとし(昭和55年5月1日から適用)、それ以外の施設については、従前どおりの排出基準(1次新設基準)とした(改正府令附則第4項)。
- ③ 昭和50年12月10日から改正府令の施行の日の前日までの間に設置の工事が着手され、第2次規制の新設施設に係る排出基準(以下「2次新設基準」という。)の適用を受けていた施設に係る窒素酸化物の排出基準については、従前通りの排出基準(2次新設基準)とした(改正府令附則第5項)。
- ④ ②及び③以外の既設施設に係る窒素酸化物の排出基準については、次のようにした(改正府令附則第3項、第6項)。
- (ア) 既設の廃棄物焼却炉及びアルミナ焼成炉、既設のボイラー、石油加熱炉及び金属加熱炉のうち排出ガス量が5千Nm3/h未満のもの等は適用除外とした(附則第3項)。
- (イ) 第1次規制の既設施設に係る排出基準(以下「1次既設基準」という。)の適用を受けていた施設については、昭和55年4月30日までは、従前どおり原則として当該1次既設基準を適用することとし、昭和55年5月1日から3次既設基準を適用することとした(附則第6項)。
- (ウ) 第2次規制によつて新たに窒素酸化物の排出基準(以下「2次既設基準」という。)が適用されることとなつた施設については、従前どおり、昭和52年12月1日から当該2次既設基準を適用することとした(附則第6項)。
- (エ) 今回の規制によつて新たに3次既設基準が、適用されることとなる施設については、原則として昭和55年5月1日から今回設定した既設基準を適用することとした。ただし、液体燃焼小型ボイラーについては、昭和55年10月1日から、セメント焼成炉については、昭和56年4月1日から適用することとした(附則第6項)。
(2) 適用対象の拡大
今回の改正により、窒素酸化物の排出基準の適用を受ける施設が拡大されたが、具体的には次のとおりである。
- ア 新設について
- ① ボイラー、金属加熱炉及び石油加熱炉については、従来排出ガス量が1万Nm3/h以上を規制対象としていたが、今回、これらに係るばい煙発生施設の全てを規制対象とした。
- ② 金属加熱炉のうち、排出ガス量が10万Nm3/h未満の鍛接鋼管用加熱炉は、従来適用除外となつていたが、今回規制対象とした。
- ③ セメント焼成炉及びコークス炉については、従来排出ガス量が10万Nm3/h以上の施設のみ規制対象となつていたが、今回、排出ガス量が10万Nm3/h未満の施設についても規制対象とした。v
- ④ 焼結炉、アルミナ焼成炉(いずれも排出ガス量が1万Nm3/h以上)及び廃棄物焼却炉(排出ガス量が4万Nm3/h以上)を新たに規制対象とした。
- イ 既設について
- ① ボイラー、金属加熱炉及び石油加熱炉については、従来排出ガス量が、1万Nm3/h以上の施設(液体燃焼ボイラーは、4万Nm3/h以上)のみ規制対象となつていたが、今回、排出ガス量5千Nm3/h以上のものまで規制対象とした。
- ② 従来適用除外となつていた排煙脱硫装置が附属している排出ガス量4万~10万Nm3/hの液体燃焼ボイラー及び石油加熱炉のうちエチレン製造用独立加熱炉、メタノール製造用改質炉等を今回規制対象とした。v
- ③ セメント焼成炉及びコークス炉については従来新設施設のみ規制対象とされていたが、今回、既設施設も対象とし、かつ、これらに係るばい煙発生施設の全てを規制対象とした。
- ④ 焼結炉(排出ガス量が1万Nm3/h以上)を新たに規制対象とした。
3 留意すべき事項
(1) 液体燃焼小型ボイラーの取扱いについて
液体燃焼小型ボイラーについては、その数が非常に多いことや中小の工場又は事業場に設置されていることもあつて、特別の配慮が払われている。
すなわち、排出ガス量が1万Nm3/h未満の新設の液体燃焼小型ボイラーについては、施行を公布の日より約3カ月延長させ、昭和52年9月10日を施行日とした。したがつて昭和52年9月9日までに設置されるこれらの施設は既設扱いとなり、排出ガス量5千Nm3/h未満の施設については、規制対象外となる。また排出ガス量が5千Nm3/h以上1万Nm3/h未満の既設の液体燃焼小型ボイラーについては、特に約3年半の適用猶予期間を設け、昭和55年10月1日から適用することとした。
これらの小規模施設の取扱いについては、別途通達することとしているが、小規模施設設置者に対しては、改正の趣旨を十分周知徹底されるとともに、既設施設への対策が適用猶予期間中に計画的に円滑に行われるよう格別の指導をされたい。
(2) セメント焼成炉、焼結炉及びコークス炉の取扱いについて
- ア 既設のセメント焼成炉の排出基準は、NSP(ネオサスペンシヨンプレヒーター)型の炉への転換を前提にしたものであり、このため、約4年間という特に長い適用猶予期間を設けたものである。なお、この場合、既設の炉をNSP型へ改造する場合には、既設施設として取り扱うこととなるので注意されたい。
- イ 焼結炉は負荷を一定に維持しても窒素酸化物の排出量に変動を生じるものであること等の特性を有するものであり、今回の排出基準値の設定は窒素酸化物排出濃度の8時間平均値を用いて行つたものであり、その監督に当たつては、この点に留意されたい。
- ウ 今回のコークス炉の排出基準の設定は次の点を踏まえて設定されたものであるので、監督に当たり十分留意されたい。
通常高炉ガスを燃焼させるコークス炉については、高炉ガスの供給が停止した時の窒素酸化物の値は今回の基準の適合状況の評価に当たつては、除外する。
なお、新設基準170ppmは高炉ガスの供給が停止した時を評価対象に算入すると200ppmに相当する。
(3) 排出ガス中の窒素酸化物濃度の測定について
- ア 金属加熱炉の窒素酸化物濃度測定については、排出濃度が相当大幅に変動することが避けられないので、昭和46年8月25日付の本職通達(環大企第5号)第4の2のとおり操業状態時における平均的な排出濃度がは握される必要がある。このため金属加熱炉の工程と窒素酸化物排出濃度を具体的に調査したうえで別途解釈通達を出す予定である。
- イ 排出ガス中の窒素酸化物濃度は、原燃料中の窒素分の制御が困難なこともあつて、変動があり、また、排出ガス中の酸素濃度の測定誤差が窒素酸化物排出濃度に影響を及ぼすこともあるので、排出基準値と測定値との比較については、上記本職通達(昭和46年、環大企第5号)の第4の1の趣旨に十分留意されたい。
4 今後の規制の進め方について
窒素酸化物に係る今後の規制については、現在、中央公害対策審議会において審議されている二酸化窒素に係る判定条件及び指針値の検討結果等を踏まえて長期計画を策定し、窒素酸化物対策の着実な推進を図ることとしている。この計画においては、昭和53年度から着手を予定している総量規制及び今回規制(又は規制強化)の対象としなかつた施設に対する第4次規制の位置付けも行うこととしている。
貴職におかれては、今後の窒素酸化物の排出低減について、諸施策を講じられることと思われるが、上記の状況を十分配慮され、適切に対処されたい。 なお、高汚染地域においては、今後、法第4条第1項に基づく上乗せ排出基準等の設定も必要と考えるが、これらについては、昭和53年度以降の規制と斉合性をとる必要があるので、おつてその指導標準を通達する予定である。
第2 廃棄物焼却炉から排出される塩化水素の排出基準の設定について
1 排出基準値設定の考え方
今回設定した廃棄物焼却炉から排出される塩化水素の排出基準700mg/Nm3は次の考え方に基づくものである。
目標環境濃度は日本産業衛生学会「許容濃度に関する委員会勧告」に示された労働環境濃度(上限値5ppm)を参考として、0.02ppmとし、平均的な排出口高さを有する施設からの塩化水素の排出が、拡散条件の悪い場合であつてもこれを満足するよう排出基準値を設定した。
2 改正府令の要点
- (1) 法第3条第1項の規定に基づき、廃棄物焼却炉から排出される塩化水素について排出基準を設定した(規則別表第3の改正)。
- (2) 改正府令の施行の日(昭和52年6月18日)において、現に設置されている廃棄物焼却炉については、塩化水素の排出基準700mg/Nm3は、昭和54年11月30日までは適用しない(改正府令附則第2項)。
3 廃棄物焼却炉からの排出ガス中の塩化水素の測定について
廃棄物焼却炉からの排出ガス中の塩化水素の測定については、次の点に留意されたい。
(1) 試料ガスの採取及び分析法
廃棄物焼却炉から排出する塩化水素ガスの採取及び分析は日本工業規格「排ガス中の塩化水素分析方法」(JISK0107)により実施することとし、分析法は60~2,500ppmの濃度に適するとされている硝酸銀法を用いるものとする。
この場合、試料ガス採取量はJISにあるとおり80l程度採取する必要がある。
試料採取に際しては粒子状の塩化物が入らないようろ過機を確実に取り付けると共に、ガスの冷却により生成する水滴に塩化水素が吸収されて管壁に付着することのないよう試料ガス採取管から吸収びんの間の加熱に留意されたい。
なお、試料の採取時期については、昭和46年8月25日付本職通達(環大企第5号)の第4の2によること。
おつて、詳細については別途通知する。
(2) 塩化水素量の算定
- ア JISにおいては塩化水素濃度がppmで算定されるようになつているので、これを下の式によりmg/Nm3に換算すること。
Cs=(36.5/22.4)×Cp
この式において、
Cs:排出ガス中における塩化水素重量(mg/Nm3)
Cp:JISK0107により算定される塩化水素濃度(単位ppm) - イ 規則別表第3の備考2中の排出ガス中の残存酸素濃度の測定は、オルザツトガス分析装置を用いる吸収法又はこれと同等の測定値が得られる酸素濃度分析装置を用いること。
なお、残存酸素濃度に係る試料採取は、塩化水素に係る試料と同一位置で採取すること。