法令・告示・通達

自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法の施行について

公布日:平成5年04月27日
環大企218号

環境事務次官から各都道府県知事あて

 自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(平成4年法律第70号、以下「法」という。)は第123回国会において成立し、平成4年6月3日に公布され、一部を除き同年12月1日より施行された(自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法の施行期日を定める政令(平成4年政令第364号))。また、自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法施行令(平成4年政令第365号、以下「令」という。)は同11月26日に、自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法施行規則(平成4年総理府令第53号、以下「規則」という。)は同12月1日にそれぞれ公布され、いずれも同12月1日より施行された。さらに令の一部を改正する政令及び規則の一部を改正する総理府令が平成5年3月26日に公布され、いずれも法の一部の施行の日(平成5年12月1日)から施行することとされたところである。
 本法は、大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)に基づく従来からの対策に加え、自動車から排出される窒素酸化物による大気の汚染が著しい特定の地域において、その防止を図るための特別の措置を講ずることを主な内容とするものである。貴職におかれても、下記事項に留意の上、法の趣旨の周知徹底と円滑な施行に格段のご努力を願いたく、命により通達する。

1 本法制定の趣旨

  現在我が国においては、大都市地域を中心に、窒素酸化物による大気汚染が深刻な社会問題となっており、その改善は喫緊の課題となっている。
  窒素酸化物については、従来から固定発生源に対する排出規制や、東京都特別区等地域、横浜市等地域及び大阪市等地域の3地域における工場・事業場に係る総量規制、自動車排出ガスに係る許容限度に基づく規制(以下「単体規制」という。)など、大気汚染防止法に基づく施策を講じてきているところであるが、大都市地域を中心として、二酸化窒素に係る大気環境基準の達成状況は依然はかばかしくなく、また、汚染地域が拡大してきている。
  このような状況の主たる原因には、窒素酸化物発生源としてこれらの地域の排出量に大きな割合を占めている自動車について、その交通量が増大していることのほか、ディーゼル化の進展や車齢の伸びによる最新規制適合車への代替の遅れなどにより、これまでの対策の効果が相殺される結果となっていることが挙げられる。
  本法は、このような状況にかんがみ、自動車から排出される窒素酸化物による大気の汚染の防止を図るため、国、地方公共団体、事業者等の責務について定めるとともに、汚染が著しい特定地域について、自動車排出窒素酸化物の総量の削減に関する基本方針及び総量削減計画を策定し、特定地域内に使用の本拠の位置を有する一定の自動車れても、下記事項に留意の上、法の趣旨の周知徹底について窒素酸化物排出基準を定め、並びに事業活動に係る自動車の使用に関する窒素酸化物の排出の抑制のための所要の措置を講ずること等により、二酸化窒素に係る大気環境基準の確保を図り、もって国民の健康を保護するとともに、生活環境を保全しようとするものである。

2 関係者の責務に関する事項

  本法は、自動車から排出される窒素酸化物による大気汚染の防止に係る国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにしている。

 (1) 国及び地方公共団体の責務

   国は、自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に関する基本的かつ総合的な施策の策定及び実施並びに地方公共団体の施策の支援、助言等に努めなければならないものとされており、地方公共団体は、当該地域の自然的、社会的条件に応じた自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に関する施策の実施に努めなければならないものとされている。(法第3条)

 (2) 事業者の責務

   事業者は、その事業活動に係る自動車の使用者として、自動車排出窒素酸化物の排出抑制に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に関する施策に協力しなければならないものとされている。また、自動車の製造又は販売を業とする者は、その製造等に係る自動車の使用により排出される窒素酸化物による大気の汚染の防止に資するよう努めなければならないものとされている。(法第4条)

 (3) 国民の責務

   国民は、自動車を運転し、若しくは使用し、又は交通機関を利用するに当たっては、自動車排出窒素酸化物の排出が抑制されるよう努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に関する施策に協力しなければならないものとされている。(法第5条)

3 特定地域の指定に関する事項

  本法に基づく総量削減計画の策定その他の特別措置は特定地域として指定された地域を対象に講じられる。この特定地域は、自動車交通が集中している地域で、大気汚染防止法による従来の措置(固定発生源に係る排出規制・総量規制、単体規制)のみでは二酸化窒素に係る大気環境基準の確保が困難であると認められる地域を政令で指定することとされており、内閣総理大臣は、地域を定める政令の制定又は改廃に当たっては、関係都道府県の意見を聴くこととされている。(法第6条第1項、第4項)
  都道府県は、その区域のうちに指定の要件に該当すると認められる一定の地域があるときは、政令の立案について内閣総理大臣に対する申出をすることができる(同条第3項)。
  この特定地域の指定については、平成4年11月26日に、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府及び兵庫県の196市区町村が指定されているところである(令第1条)。

4 総量削減基本方針及び総量削減計画に関する事項

  本法においては、特定地域における自動車排出窒素酸化物による大気汚染の防止に関し、国、地方公共団体を通じた総合的な枠組みを構築するため、総量削減基本方針及び総量削減計画を策定することとしている。

 (1) 総量削減基本方針

   特定地域における自動車排出窒素酸化物の削減のためには、各種の施策を国、地方公共団体、事業者、国民の緊密な協力の下で総合的かつ強力に推進していくことが必要であることにかんがみ、国は、特定地域について自動車排出窒素酸化物の総量の削減に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めることとされている(法第6条第1項)。基本方針は、内閣総理大臣が案を作成し、閣議で決定することとされており(同条第5項)、内閣総理大臣は、案の作成に当たり、あらかじめ、基本方針に規定される各施策の所管大臣に協議するとともに、関係都道府県の意見を聴くこととされている(同条第6項)。
   基本方針は、平成5年1月26日に閣議決定され、同2月2日に公表された(平成5年総理府告示第1号)。この基本方針では、特定地域において、自動車排出窒素酸化物の削減に係る各種の対策を総合的かつ強力に推進していくこと等により、二酸化窒素に係る大気環境基準を平成12年度までに概ね達成することを目標とするものとされている(基本方針第1)とともに、自動車排出窒素酸化物の総量の削減のための施策の基本的事項として、①自動車単体対策の強化等、②車種規制(特定自動車に関する規制)の実施等、③低公害車の普及促進、④物流対策の推進、⑤人流対策の推進、⑥交通流対策の推進、⑦局地汚染対策の推進、⑧普及啓発活動の推進の8項目が規定されている(基本方針第2の2)ところである。

 (2) 総量削減計画

   都道府県知事は、総量削減基本方針に基づき、当該特定地域における自動車排出窒素酸化物の総量の削減に関し実施すべき施策に関する計画(以下「総量削減計画」という。)を策定することとされている(法第7条第1項)。都道府県知事は、計画の策定に当たり、総量削減計画策定協議会(以下「協議会」という。)の意見を聴くとともに、内閣総理大臣の承認を受けることとされ(同条第3項)、内閣総理大臣は承認に当たり公害対策会議の議を経ることとされている(同条第4項)。この総量削減計画は、特定地域の自然的、社会的条件に応じ、自動車排出窒素酸化物の削減に係る各種の施策を組み合わせ、関係機関等の緊密な協調の下で諸対策を総合的に推進していく拠り所となるものであり、国及び地方公共団体は、当該計画に掲げられた施策を実施する責務を有することとなるものであるので、次に述べる事項に留意の上、適切な計画を作成されるよう努められたい。なお、計画の策定作業に当たっては、環境庁と密接な連絡をとられるようお願いする。
   総量削減計画は、当該特定地域における事業活動等に伴って発生し、大気中に排出される窒素酸化物の総量(同条第2項第1号の総量。以下「1号総量」という。)を二酸化窒素に係る大気環境基準に照らし規則で定めるところにより算定される総量(同条第2項第3号の総量。以下「3号総量」という。)まで削減させることを目途として、1号総量に占める当該特定地域における自動車排出窒素酸化物の総量の割合、自動車交通量及びその見通し、自動車排出窒素酸化物及び自動車以外の窒素酸化物の発生源における窒素酸化物の排出状況等を勘案し、当該特定地域における自動車排出窒素酸化物の総量(同条第2項第2号の総量)についての削減目標量(同条第2項第4号の総量)並びに計画の達成の期間及び方途を定めるものである(同条第2項)。計画策定に当たっては、自動車の種別ごとの自動車排出窒素酸化物及び自動車以外の窒素酸化物の排出状況並びにこれらの見通しなどについて適切な考慮を払うべきものとされている(令第2条第3項)ので、これらの実態の把握に十分努められたい。
   このうち、削減目標量及び計画の達成の期間については、平成13年3月までに二酸化窒素に係る大気環境基準がおおむね確保されるように定めるものとされており(令第2条第1項)、3号総量については、規則の定めるところにより、科学的かつ合理的な大気汚染予測手法を用いて、当該地域の二酸化窒素の濃度が、大気環境基準をおおむね確保するものとなるよう算定するものとされている(規則第1条)。
   計画の達成の方途については、地域の実情に応じて特定自動車排出基準に係る施策等を効果的に組み合わせることにより、総合的に実施されるよう定めることとされている(令2条第2項)。また、基本方針においては、総量削減計画の策定に関する基本的事項として、総量削減計画は、同方針に掲げる各種施策等の推進により、平成12年度までに二酸化窒素の大気環境基準をおおむね達成するように自動車排出窒素酸化物の総量を削減することを目途に策定するものとしている(基本方針第2の1)。
   以上のような手続きを経て策定された総量削減計画については、国及び地方公共団体にあっては、その達成に必要な措置を講ずるように努めるものとされている(法第9条)。また、総量削減計画の的確な推進を図るため、都道府県知事は関係機関と密接な連携を図りつつ、総量削減計画の実施状況の把握等進行管理を行うこととされているところである(基本方針第3の2)。

 (3) 総量削減計画策定協議会

   法においては、都道府県に、総量削減計画に定めるべき事項について調査審議するため、協議会を置くこととされている(法第8条第1項)。協議会は、都道府県知事、都道府県公安委員会、関係市町村(特別区を含む。)、関係地方行政機関及び関係道路管理者で組織することとされている(同条第2項)。ここでいう関係地方行政機関には、地方通産局長、地方農政局長、地方運輸局長、地方郵政局長及び地方建設局長が含まれる。また、関係道路管理者とは、当該地域内の道路の管理者であり、国、都道府県、市町村、公団等が含まれる。
   協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、都道府県の条例で定めることとされている(同条第3項)。

5 特定自動車に関する規制に関する事項

  本法においては、特定地域内の自動車排出窒素酸化物の削減のため、次のような特定自動車に係る規制を実施することとしているが、本措置は広範な自動車使用者に係わるものであることから、貴職におかれても、この内容の周知徹底につき、特段のご努力をお願いする。

 (1) 特定自動車排出基準

   内閣総理大臣は、総理府令で、特定自動車に係る窒素酸化物排出量に関する基準(特定自動車排出基準)を定めることとされている(法第10条第1項)。
   特定自動車は、自動車の種類、特定地域における自動車排出窒素酸化物の排出状況等を勘案し、その運行に伴って排出される窒素酸化物が特定地域における大気の汚染の主要な原因となる自動車として政令で定める自動車であって、特定地域内に使用の本拠の位置を有するものであり、政令で定める自動車としては、普通貨物自動車、小型貨物自動車、大型バス、マイクロバス及び総理府で定める特種自動車が規定されている(令第3条)。また、使用の本拠の位置とは、自動車の使用を管理する場所をいい、具体的には、道路運送車両法による自動車登録ファイルに登録された使用の本拠の位置をいう。
   特定自動車排出基準は、特定自動車の車両総重量の区分ごとに定める自動車排出窒素酸化物の量の許容限度であり(法第10条第2項)、この基本的な考え方は、車両総重量の区分に応じ、窒素酸化物排出量のより少ない車種の使用を義務付けるものである。具体的には、車両総重量が1.7トン以下については、最新規制ガソリン車並(63年規制)、1.7トン超え2.5トン以下については、最新規制ガソリン車並(元年規制)、2.5トン超え5トン以下については、最新規制副室式ディーゼル車並(元年規制)、5トン超えについては最新規制直噴式ディーゼル車並(元年規制)がそれぞれ特定自動車排出基準として定められている(規則第3条)。
   なお、平成7年9月以降の製作に係る車両総重量2.5トンを超える自動車については、平成6年規制の基準が適用されることとされている。
   この特定自動車排出基準は、車両総重量が3.5トン以下又は5トン超えの自動車にあっては、平成5年12月1日から、3.5トンを超え5トン以下の自動車にあっては、平成8年4月1日から適用されることとされている。
   内閣総理大臣は、特定自動車排出基準を定め、変更し、又は廃止しようとするときは、特定地域をその区域の全部又は一部とする都道府県の意見を聴くこととされている(法第10条第3項)。

 (2) 経過措置

   法が施行される時点において既に使用されている特定自動車(いわゆる使用過程車)については、当該自動車の種別及び車齢に応じ、政令で定める一定の期間、特定自動車排出基準の適用を猶予することとし、逐次基準適合車への代替を図ることとされている(法第11条)。
   猶予期間については、規制による窒素酸化物の削減効果、平均使用年数等の使用実態及び基準適合車両の供給可能量等を総合的に勘案し、初度登録年から普通貨物自動車については9年、小型貨物自動車については8年、大型バスについては12年、マイクロバス及び特種自動車については原則として10年がそれぞれ定められている(令第4条)。
   なお、中古自動車等についてもこれと同一の猶予期間が定められている(規則附則2項、3項)。
   また、内閣総理大臣は、車両総重量の区分又は期間を定める政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、関係都道府県の意見を聴くこととされている(法第11条第2項)。

 (3) 道路運送車両法との関係

   運輸大臣は、特定自動車排出基準が確保されるように考慮して、道路運送車両法に基づく命令を定めなければならないこととされている(法第12条)。この規定に基づき、道路運送車両の保安基準(運輸省令)が定められることにより、特定自動車排出基準の遵守が道路運送車両法による自動車検査制度を通じて担保されることとなる。

6 自動車使用の合理化に関する事項

  本法では、5に示した特定自動車に関する規制と並んで、自動車使用の合理化等に係る事業所管大臣の指針、指導等を通じて自動車排出窒素酸化物の排出抑制を図ることとしている。

 (1) 事業所管大臣の合理化指針及び指導

   製造業、運輸業その他の事業を所管する大臣(以下「事業所管大臣」という。)は、特定地域における自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止を図るため、その所管に係る事業を行う者について、その事業活動に係る自動車の使用に関し、その合理化を図ることその他必要な措置を講ずることによる自動車排出窒素酸化物の排出の抑制を図るための指針(以下「合理化指針」という。)を定めることができる(法第13条第1項)。
   事業所管大臣は、その所管に係る事業を行う者に対し、合理化指針に照らし、その事業活動に係る自動車の使用に関し、その合理化を図ることその他必要な措置を講ずることによる自動車排出窒素酸化物の排出の抑制について必要な指導及び助言をすることができることとなっている(同条第3項)。

 (2) 環境庁及び都道府県の関与

   自動車使用の合理化に関しては、事業所管大臣が事業者に対する指導等を行うこととしているが、環境行政を所管する観点から、環境庁長官及び都道府県が必要な関与を行うことができることとされており、環境庁長官は、特定地域における自動車排出窒素酸化物の排出の抑制を図るために必要があると認めるときは、合理化指針に関し、事業所管大臣に対し、意見を述べることができる(法第13条第2項)とともに、事業所管大臣に対し、指導及び助言をすることを要請することができる(同条第4項)。また、特定地域をその区域の全部又は一部とする都道府県は、事業所管大臣に対する指導及び助言がされることが必要であると認めるときは、環境庁長官に対し、事業所管大臣に対する要請を行うことを求めることができる(同条第5項)。

7 その他の事項

  自動車排出窒素酸化物削減施策は広範囲な分野に及ぶため、関係機関の協力の下に総合的に推進していく必要があることに鑑み、本法の運用に当たっては関係行政機関、関係地方公共団体及び関係道路管理者との連携を図るよう努められたい。
  また、自動車から排出される窒素酸化物による汚染の広域性に鑑み、必要に応じ、関係都道府県間における連携を図るよう努められたい。