法令・告示・通達

酸欠空気による住民の被害の防止について

公布日:昭和46年12月25日
環大企76号

(各都道府県知事・政令市市長あて環境庁大気保全局長通達)

 先般、労働基準法(昭和二二年法律第四九号)に基づき酸素欠乏症防止規則(昭和四六年労働省令第二六号。以下「規則」という。)が、別添のとおり公布され、本年九月二七日から施行されたところであるが、この施行に係る酸素欠乏の空気(以下「酸欠空気」という。)による被害の防止措置等は公害防止行政とも密接な関連を有するので、左記事項に十分御留意のうえ、住民の被害の防止に遺憾なきを期されたい。
 なお、この旨を関係市町村長に対し十分徹底されるとともに、この対策の実施につき、関係市町村長等と協議し、その実施体制の確立方をお願いする。
 よつて、本通知は、労働省および建設省と協議済みであるので申し添える。

第一 酸欠空気について

   本通知において酸欠空気とは、酸素の濃度が一八パーセント未満である状態(通常、人間の呼吸する大気中の酸素の濃度は、約二一パーセントである。)にある空気をいう。
   酸欠空気を吸入することにより生ずる症状(以下「酸素欠乏症」という。)としては、初期には、顔面の蒼白または紅潮、脈拍および呼吸数の増加、息苦しさ、めまい、頭痛等があり、末期には、意識不明、けいれん、呼吸停止、心臓機能停止等がある。酸素欠乏症は、従来主として、潜函、地下室、井戸の内部等、通風不十分な特定の場所における労働作業等に伴つて発生をみていたものであるが、近年労働作業の場所以外において住民の被害が生じ、問題とされている。
   すなわち、地下水の過剰汲み上げ等により含水量の少なくなつた砂れき層、第一鉄塩類または第一マンガン塩類等の酸化されやすい物質を含有している地層等が存在する地域またはこれに隣接する地域において、シールド工法、潜函工法等、圧気工法による掘削作業に伴う加圧された空気が前述の地層中へ滲透し、第一鉄塩類等を酸化することによつて酸欠空気となり、この酸欠空気が井戸、配管、壁面の割れ目等を伝つて周辺地域の地下室、トンネル、井戸等に漏出充満することによつて住民に被害が生ずるものである。
   なお、地下水採取等と酸欠空気の発生機序との関連については、未解明の分野が残されており、これが解明のため、別途、環境庁水質保全局において基礎的な調査研究を行なつているところである。

第二 住民の被害の防止について

  1.   (1) 都道府県知事は、住民の健康の保護の見地からその管轄する区域内に酸欠空気を生ずるおそれのある前記地層が存在する地域等があるかどうかあらかじめ十分に把握しておかれたい。
        なお、重要な構造物、ビルデイング等の管理者は、地質の柱状図を所有しているのが通例であるので、これを参考にされたい。
  2.   (2) 東京都の特別区、川崎市、横浜市、名古屋市および大阪市の区域等、昭和四六年九月二二日付基発第六五四号都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通知(以下「労働基準局長通知」という。)Ⅲ8(5)のイおよびロに定められた地域(以下「特定地域」という。)に係る圧気工法作業については、同通知により、労働基準監督署長は、都道府県労働基準局長を経由して、関係する都道府県ならびに前記の市および特別区の公害担当部(局)長に対し、規則第二四条に基づく届出または第三二条に基づく被害の内容を連絡することとされているので、貴職におかれては、この制度を活用するとともに、必要に応じ労働基準局長に照会するなどにより、実態把握に努められたい。
        なお、前記特定地域を管轄する都道府県知事にあつては、当該市の長(東京都の特別区にあつては、区長)に対し、同通知の趣旨を通知され、徹底を図られたい。
        おつて、特定地域以外の地域で地層的に酸欠空気の発生の可能性があると認められる地域についても、関係行政機関との密接な協力体制を確立し、前記連絡の方法に準じた方法をとるなどにより、実態把握に努められたい。
  3.   (3) (2)によるほか、騒音規制法による空気圧縮機を使用する作業に係る特定建設作業の実施の届出、建築基準法による確認等により、圧気工法作業の実施状況の把握にも努められたい。
  4.   (4) 都道府県知事は、前記(2)および(3)により当該、管轄区域内の前記地層が存在する地域または前記地層に圧気された空気が浸透するおそれがある地域で圧気工法作業が行なわれることを知つた場合において、当該作業により酸欠空気が生活環境へ漏出するおそれがあると認められるときは、関係都道府県労働基準局長又は関係市町村長(東京都の特別区の長を含む。)に連絡し、周辺地域にある井戸、地下室、地下街、地下鉄構内等における空気中の酸素の濃度について、事業者または施工者をして、当該作業により酸欠空気の漏出のおそれがなくなるまでの間、適宜、測定させるようされたいこと。
  5.   (5) (2)により、酸欠空気の漏水またはこれによる被害のあることを知つたとき、または(4)の測定の結果により住民の健康と生活環境に被害を及ぼすおそれがあると認められるときは、市町村長を通じ、住民に対してその旨を十分に周知徹底するとともに、必要と認めるときは、次の措置を講ぜられたい。
    1.    ア 関係都道府県労働基準局長に対し((2)による報告のあつた場合であつて当該都道府県労働基準局長が下記の適切な措置を講じている場合を除く。)または当該作業に係る事業者もしくは施工者に対し、当該作業に係る事業者または施工者が、酸欠空気漏出場所への住民の立入禁止の周知徹底、酸欠空気の漏出するおそれのある井戸、配管、壁面の割れ目等の閉そく、酸欠空気の外部放出設備の設置、換気装置の設置、できる限り低い気圧の使用、当該作業の停止等の所要の措置をとるべきことを要請すること。
    2.    イ 施工者が不適当な施工を行なつていることにより酸欠空気に係る被害の生ずるおそれがあると認められるときには、当該施工者が建設大臣に登録された建設業者であるときには建設大臣に対し、都道府県知事に登録された建設業者であるときには都道府県知事に対し、適切な措置をとるように要請すること。
  6.   (6) 規則第二五条の規定により設置される酸欠空気の外部放出設備については、労働基準局長通知において住民等の健康に影響のない安全な場所を選定するとともに、当該設備の危険性について周知するための表示を行なうよう指示されているので市町村長において、この措置の履行について、適宜確認するよう指導されたい。

第三 その他

   都道府県知事は、一般住民の酸欠空気による被害のあつた場合および酸欠空気の生活環境への漏出の事例のあつた場合には、その旨をすみやかに当職にあて報告されたい。


別表

 〔略〕