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地球温暖化問題に関する検討会第一回中間報告

公布日:昭和63年11月01日
地球温暖化問題に関する検討会0号

目次

一 総説

二 地球温暖化問題に関する取り組みの状況

  1.  (一) 諸外国等における取り組みの状況
  2.  (二) 我が国における取り組みの状況

三 科学的知見等の現状評価

  1.  (一) 温暖化に係る現象の観測
  2.  (二) 炭素循環
  3.  (三) メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の温室効果ガスの動態
  4.  (四) 気候変化のモデル化とその計算結果
  5.  (五) 温暖化の時期と程度の予測
  6.  (六) 影響予測
  7.  (七) 対策技術とその現状
  8.  (八) 社会的、経済的対策

四 地球温暖化に関して今後調査研究を要する分野

  1.  (一) 温室効果に関するモニタリング
  2.  (二) 炭素循環の解明
  3.  (三) メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の温室効果ガスの動態の解明
  4.  (四) 地球温暖化予測モデルの開発・精度の向上
  5.  (五) 地球温暖化による影響の解明
  6.  (六) 対策技術の開発
  7.  (七) 社会的、経済的対策

五 我が国としてとるべき具体的対応の方向

  1.  (一) 基本的考え方
  2.  (二) 長期的視点に基づく国際的、国内的対応
  3.  (三) 我が国としての当面の対応

一 総説

  1.  (一) 二酸化炭素、メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等は、太陽放射をほとんど透過する一方、地表からの赤外線放射を吸収して地球を温暖化させるという性質を持つている。このため、これらのガスは、「温室効果ガス」と呼ばれている。その濃度の増加が地球の温暖化をもたらすことは、既に一九世紀の終わり頃から予言されていた。これまでの調査研究では、これらの温室効果ガスの濃度の着実な増加傾向が観察されており、その増加には人間活動の寄与が見逃せないこと、さらにこのまま推移した場合には二一世紀には世界的に重大な問題が生じる恐れのあることが指摘されている。
  2.  (二) 温室効果ガス毎の温室効果の程度には違いがあるが、その大気中濃度に関しては、二酸化炭素について見ると、化石燃料の燃焼等により過去一〇〇年の間に約二五%の増加を示し、産業革命以前の段階では二八〇ppm程度であつたものが一九八六年には三四五ppm程度にまで達していることが明らかになつている。ハワイのマウナロアにおける観測結果では、最近約三〇年間の増加が明瞭に示されており、年間約一・五ppm程度の増加を続けている。メタンは、微生物による有機物の嫌気性分解及び石炭や天然ガスの生産過程等で大気中に放出されるものであり、大気中濃度は約二〇〇年前から増加傾向を示している。対流圏のオゾンは、地表付近の光化学反応、成層圏オゾン層からの移流等によつて発生、存在するものであるが、北半球の中、高緯度地域では、主として光化学反応によつてその濃度は徐々に増加していると見られている。亜酸化窒素の大気中濃度は、化学肥料の使用、森林や化石燃料の燃焼等によつて近年増加しており、また、他の温室効果ガスに比較し、大気中で安定であるため、排出が抑制されたとしても長期的に濃度が増大する性質を有する。クロロフルオロカーボンについては、一般に極めて安定した物質であるので、種類によつて違いがあるが増加を示している。なお、今後は成層圏のオゾン層の保護の観点から、大気中への排出の抑制が世界的に進められることとなつているが、大気中濃度はなお増加するものと予想される。
  3.  (三) 一方、過去一〇〇年間で地球の平均気温は、〇・三~〇・七℃の上昇を示していることが明らかになつている。将来の温室効果ガスの濃度の変化及びこれに伴う影響は、これまでのモデル予測によると、二酸化炭素の濃度が現在の二倍になると地球の平均気温は一・五~四・五℃上昇するとされている。このほか、その他の温室効果ガスによる影響は、二〇三〇年代には二酸化炭素によるものと同レベルに達し、その時点での二酸化炭素による影響と合わせると二酸化炭素が二倍になつたのと同等の影響が発生するであろうとされている。これに伴つて気候の変化や海面の上昇が生じたり、農業生産の地域特性が変化するなど地球の各地の生態系や生活環境に様々な影響を与えることにより、人類の将来の生存と発展の基盤を揺るがしかねない大問題を引き起こすことが懸念されている。
  4.  (四) こうした地球の温暖化に伴う問題は、温暖化を進行させる種々の要素によつて左右され、またそれぞれの要素による影響は未解明の点があることから、科学的な知見の強化を図るための研究を絶えず継続していかなければならない。しかしながら予測される影響の大きさを考慮すると、現象面に大きな変化が現われる以前にも科学研究と並行して具体的対応をとる必要があると考えられ、その意味で研究と行政とが相互に協力・補完していく必要もある。こうしたことから、研究者レベルにおける研究の蓄積とともに、一九七〇年代末から、各国政府や国際機関においても、この問題がしばしば取り上げられるようになつている。特に最近数年間では、世界の先進各国や国際機関による会議が相次いで開催されており、温室効果ガスによる地球温暖化の程度、その影響等の予測やそれに基づく対応策等を地球規模の環境問題として国際的な場で具体的に検討する機運が高まつている。
       すなわち、一九八五年一〇月にはオーストリアのフィラハで気候変動に係る国際会議が開かれ、先進国及び開発途上国からの科学者が科学的知見の集積・整理を行つているし、これに続いて、一九八七年九月には同じくフィラハにおいて「温室効果ガスによる二一世紀の地球への影響予測に関するワークショップ」が、同一一月にはイタリアのベラジオにおいて「将来の気候変動に対応する政策形成のためのワークショップ」が開催された。また、同一二月には、米国のワシントンにおいて同様のワークショップが開かれ、一九八八年六月にはカナダのトロントにおいて「変化しつつある大気圏に関する国際会議」が開かれた。さらに、同一一月には、スイスのジュネーブにおいて「気候変動に関する政府間パネル」の第一回会合が開かれる予定であるが、これは、地球温暖化を主要なテーマとした初めての公式な政府間の検討の場となるものである。
  5.  (五) 本「地球温暖化問題に関する検討会」は、一九八〇年以来環境庁で開かれている「地球的規模の環境問題に関する懇談会」(座長大来佐武郎)の検討結果や地球温暖化問題に関する最近の国際的な動きを踏まえ、地球温暖化問題に関する現状の科学的知見を整理し、我が国としての対応の在り方等の検討に資するため環境庁大気保全局に一九八八年五月に設けられたものである。
       本検討会は、本年一〇月までに五回の会議と三回の小委員会を開催して検討を行つてきたが、前述の「気候変動に関する政府間パネル」の開催を契機に、この問題に対する我が国の対応が国際的に大きな注目を集めることが考えられる状況に鑑み、これまでの検討の結果を中間的に取りまとめることとしたものである。
       この第一回中間報告は、地球温暖化に関し、①諸外国及び我が国における取り組みの状況、②科学的知見の現状評価、③今後調査研究を要する分野の特定、④我が国として取るべき具体的対応の方向のそれぞれの点について、検討会におけるこれまでの討議内容をまとめたものである。特に、対応の方向では、科学的知見の充実と並行して、長期的視点に基づく国際的及び国内的対応を講じることが必要であるとの認識に立ち、我が国としての当面の対応として、①行動のための指針設定に関する検討の推進、②温暖化問題に対する国際的コンセンサスづくりへの貢献、③研究プロジェクトの重点的推進、④啓発活動の推進、⑤国内における対策及び研究の推進に関する統一的な体制の確立等を提言した。
       なお、検討会としては、今後の国際的な議論の展開の動向も勘案しながら検討を継続し、地球温暖化問題に関する科学的知見を総合的に評価するとともに、地球の環境保全の見地から、我が国が取るべき方策並びに国際的な対応策等についてより具体的に検討して行くこととしている。

二 地球温暖化問題に関する取り組みの状況

 (一) 諸外国等における取り組みの状況

  1.   ① 一九七〇年代には、ローマクラブ報告「成長の限界」(一九七二)、OECD報告「世界の未来像」(一九七九)等により、また、一九八〇年代の初頭には、アメリカ大統領府報告「西暦二〇〇〇年の地球」(一九八〇)、同「全地球的エネルギーの将来と二酸化炭素問題」(一九八一)等の報告によつて大気中の二酸化炭素濃度の増大に伴う気候変動の危惧についての注意喚起を求める報告が相次いでなされた。このような事情を背景として、一九七九年には世界気象機関(WMO)の世界気候計画(WCP)がスタートするなど気候変動対策に関する国際的な活動が開始された。
  2.   ② 米国は、この問題に熱心に取り組んでおり、一九七八年には「国家気候計画法」を制定し、これに基づいて、国家気候5ケ年計画を定め、そのための行政機関として商務省の海洋大気庁(NOAA)内に「国家気候計画局」を設置したほか、エネルギー省(DOE)内に「二酸化炭素研究部(CDRD)」を、また、一九八二年にはオークリッジ国立研究所内に二酸化炭素情報センターを設立している。これらによつて行われた研究の成果は、DOEの報告書等として既に公表されつつある。これと並行して科学アカデミー(NAS)も二酸化炭素問題の科学的知見の評価を行つており、一九八三年には総合報告書「変わりゆく気候(Changing Climate)」を出版している。このほか、環境保護庁(EPA)、農務省(USDA)、全米科学財団(NSF)が研究を推進している。更に、一九八七年には、「全地球的気候保護法」が制定され、全地球的気候変動に関して国際的な取り組みを促進するよう求めているほか、EPAに対し調和のとれた国家政策の進展とその提案を行う責任を義務づけている。
  3.   ③ EC諸国では、フランス、西独等が国レベルでの気候計画を策定し、また、EC自体でも、研究に対する援助を行つている。ソビエト連邦でもこの問題について活発に研究が進められており、その研究成果が「人為的気候変化」として一九八七年に報告されている。
        一方、国連環境計画(UNEP)は、WHOと協力し、二酸化炭素の全地球的なモニタリングを進めているほか、全地球的な気候変動を制御するための国際的方向付けを行う意向を持つている。このほか、国際学術連合(ICSU)、国連大学(UNU)、国際応用システム解析研究所(IIASA)等もこの問題に熱心に取り組んできた。
  4.   ④ 特に最近数年間では、世界の先進各国や国際機関による会議が相次いで開催されており、一九八五年一〇月にはオーストリアのフィラハでUNEP/WMO/ICSUの共催により気候変動に係る国際会議が開かれ、先進国及び開発途上国からの科学者が科学的知見の集積・整理を行つている。これに続いて、スウェーデンのベイジャー研究所の主催、UNEP/WMO等の協力により、一九八七年九月には同じくフィラハにおいて「温室効果ガスによる二一世紀の地球への影響予測に関するワークショップ」が、同一一月にはイタリアのベラジオにおいて「将来の気候変動に対応する政策形成のためのワークショップ」がそれぞれ開催された。また、同一二月には、米国のワシントンにおいてOECD及びEPAの共催により同様のワークショップが行われ、一九八八年六月にはカナダのトロントにおいてカナダ政府主催の「変化しつつある大気圏に関する国際会議」が開かれた。さらに、同一一月には、スイスのジュネーブにおいてUNEP/WMO主催の「気候変動に関する政府間パネル」が開かれる予定であるが、これは、地球温暖化をテーマとした初めての公式な政府間の検討の場となるものである。
  5.   ⑤ なお、二酸化炭素濃度の定常的観測は、一九五八年の国際地球観測年を契機として始められており、ハワイのマウナロア、南極点等において約二五年間のデータが蓄積されている。現在、大気中の二酸化炭素濃度の観測については、WMOが測定法の指導等を行つている大気バックグラウンド汚染観測網(BAPMoN)が大きな役割を果たしており、世界の一四カ所(一九八五年現在)で継続観測が行われているほか、各種の研究機関において独自の観測も行われている。

 (二) 我が国における取り組みの状況

  1.   ① 我が国において地球温暖化問題の本格的検討が始まつたのは、比較的最近のことであるが、地球規模環境問題の国際的検討の一環としての取り組みのほか、一九七〇年代末から、気候問題として、世界気象機関や国際学術連合会議等の国際的な動きに呼応した検討が進められている。
  2.   ② 環境庁では、前述したように、鈴木首相(当時)の指示を受け、一九八〇年「地球的規模の環境問題に関する懇談会」(座長大来佐武郎)を設け、地球温暖化問題を地球環境問題のうちの重要な問題の一つとして取り上げつつ検討を重ね、一九八二年四月には「地球的規模の環境問題への国際的取り組みについて」をまとめた。この提言を受け、同年五月に開催されたUNEP管理理事会特別会合においては、我が国は世界の英知を集める「環境と開発に関する世界委員会」の設立を提唱した。その後、同委員会の報告がなされたが、その報告を受けて、一九八七年一一月に前記懇談会に小委員会(座長茅 陽一)を設けた。同小委員会は、地球温暖化問題をはじめ各種の地球環境問題を横断的に取り上げ、共通的な対応を盛り込んだ報告を一九八八年六月に出すなど、環境庁は、かねてから地球環境問題への取り組みを活発に行つてきた。調査研究面では、環境庁設立当初より全国の国設大気測定所においてメタン濃度の測定を行うとともに、一部の測定局において二酸化炭素の測定を手掛けているほか、国立公害研究所において一九八四年度から研究に着手し、一九八七年度からは特別研究を行うとともに、環境庁に一括計上される国立機関公害防止等試験研究費においても関係省庁の研究機関における関連研究の推進を図つている。また、一九八八年五月には、地球温暖化問題に関する最近の国際的な動きに呼応して、本「地球温暖化問題に関する検討会」を設け、地球温暖化問題に絞つた詳細な検討を開始した。このほか、庁内に「地球環境保全企画推進本部」を設置するとともに「地球環境問題関係省庁連絡会議」を主催している。
  3.   ③ 科学技術庁は、一九八二年度から科学技術振興調整費において関連研究をとりあげているほか、一九八四年には同庁の調査機関である資源調査会が「二酸化炭素の蓄積による気候変動と資源問題に関する調査報告」を発表しているほか、二国間科学技術研究協力協定に基づく研究協力等も行つている。
  4.   ④ 文部省は、一九七九年から科学研究費補助金による環境科学特別研究の一環として関連した研究を推進しており、一九八一年には京都大学に気候変動実験施設を設けているほか、東北大学等においても活発な研究を実施している。
  5.   ⑤ 通商産業省は、一九八八年に、産業界の有識者を含めた「地球問題への日本の貢献を考える研究会」を開催し、地球規模で解決を迫られている諸問題の検討等を行うとともに「地球的規模環境破壊未然防止調査」等に着手している。
  6.   ⑥ 気象庁は、世界気象機関の提唱した世界気候計画の一翼を担うものとして、一九八一年には「気候変動対策基本計画」を策定したほか、気候変動対策室を設置し、「気候問題関係省庁連絡会議」を開催するとともに、関係省庁及び学識経験者によつて構成される「気候問題懇談会」を気候情報の提供や気候問題の検討の場として開催している。また、BAPMoNの観測の一環として岩手県三陸町綾里において二酸化炭素の連続観測を行うとともに、気候モデルの開発等に関する研究を行つている。
  7.   ⑦ 日本学術会議は、国際学術連合(ICSU)からの参加要請に応じて、一九七八年から世界気候変動計画について検討を進めており、一九八六年からの八年間を計画期間とする我が国の気候変動国際協同研究計画を作成した。また、一九八八年には「人間活動と地球環境に関する特別委員会」を設置した。

三 科学的知見等の現状評価

  大気中の二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの増加による地球温暖化に関しては、大気中二酸化炭素等の観測、温暖化のメカニズムの解明、予測モデルの開発等の分野で、これまでかなりの努力が払われてきた結果、温室効果理論の示すように、

  1.  (一) 現在のように二酸化炭素等の温室効果ガスの大気中の濃度が増加し続けていくならば、近い将来において地球が温暖化し、そのため地球の環境が相当の影響を受けるであろうことについては、国際的にも概ね意見の一致が見られている。
  2.  (二) しかし、温室効果ガスの増加と地球温暖化を結びつけるメカニズム、その程度等については、解明を要することが未だ多く残されており、また、温暖化に伴う人類の生活環境あるいは生態系への影響を十分の精度をもつて予測したり、あるいは、その結果に基づき確実な対策を樹立したりするためには、今後さらに一層の研究努力が必要な現状にある。

   以上の点に留意しつつ、温暖化に関する現在までの研究等の動向、現在までに得られている科学的知見及び今後解明を要する点を概観すると以下のとおりである。

 (一) 温暖化に係る現象の観測

  1.   ① 南極氷床コア中の気泡中に含まれる二酸化炭素濃度とその気泡の形成当時の気温の推定結果から、大気中の二酸化炭素濃度の増加が地球の大気温度の上昇と正の相関があることが明らかになつている。また、南極氷床コア等の研究によつて大気中の二酸化炭素濃度が産業革命以前の段階では二八〇ppm程度であつたものが、その後徐々に増加してきていることも確認されており、大気中の二酸化炭素濃度は、一九八六年には三四五ppm程度にまで達している。
  2.   ② 大気中の二酸化炭素濃度の過去一〇〇年間の上昇分は、その間の人為的な積算放出量の約五〇~六〇%に相当し、近年、世界各地では毎年一~一・五ppm上昇している。なお、化石燃料の消費量の増加が顕著になつてきた一九五八年以降の炭素の積算放出量は一〇〇ギガトン(1ギガトン=1×109トン)であり、これによる大気中の二酸化炭素濃度の上昇は約三〇ppmに相当する。
  3.   ③ 二酸化炭素以外の温室効果ガスについても大気中濃度の上昇が世界各地で観測されている。北半球バックグラウンド大気中のメタン、亜酸化窒素の現在の濃度は、それぞれ約一・七ppm、約三一〇ppbであり、クロロフルオロカーボンの濃度については、フロン一一、一二、一一三が、それぞれ約二四〇ppt、約四五〇ppt、約六〇pptである。これらの濃度の年増加率については、メタンが約一%、亜酸化窒素が約〇・三%、フロン一一、一二がそれぞれ約五%、フロン一一三が約一〇~二〇%と報告されている。また、同じく温室効果ガスである対流圏オゾンについても、その濃度には地域差が大きいが、明かに増加傾向が報告されている。
  4.   ④ 地表大気温度の平均値は、変動を繰り返しつつも上昇傾向が見られ、過去一世紀の平均昇温は、〇・三~〇・七℃と観測されている。また、特に、一九八〇年代は機器観測史上最高温度を記録している。
  5.   ⑤ 地球規模での温度変化には、温室効果以外の要因も関連するため、温室効果ガスの濃度上昇が第一義的に現在の温暖化に寄与しているとは既存データの分析のみからは判断できる段階でない。しかし、温室効果ガスの濃度上昇が温暖化に関連していることは確かであろうと考えられる。
  6.   ⑥ この一〇〇年間に一〇〇~二〇〇mmの海水面の上昇が観測されているが、その原因としては、温暖化による海水温の上昇に伴う海水の膨張や陸氷の融解等があげられている。
  7.   ⑦ 温暖化によつて、気温や降水分布をはじめとする水文状態等気候の変化及び生態系への影響が生じることについては、その可能性が十分高いと見られるものの、観測結果によつて未だ確認されているわけではない。

 (二) 炭素循環

  1.   ① 地球の炭素の大部分(九九・九%以上)は、地圏に存在しており、大気中の存在量は、〇・〇〇一二%と極めてわずかである。しかし、温暖化は、大気と海洋や生物圏との二酸化炭素の収支の比較的わずかな変化に伴う大気中二酸化炭素濃度の増加によつて起こると考えられる。
  2.   ② 地球上の炭素の分布及びその移動については、概ね定量的に把握がなされている。しかし、大気・陸上生態系・海洋間の二酸化炭素交換過程とそれに基づく収支の把握は未だ十分精密なものではない。
  3.   ③ 本来、自然生態系の炭素収支が地質学年代的には平衡状態にあるものとすると、産業革命以来の人為的な二酸化炭素の発生は、この平衡を乱して大気中への蓄積量を増加させている。工業活動等による人為的二酸化炭素発生量の約半分が大気中に残留し、残りは海洋に吸収されていると考えられている。しかし、この海洋の吸収については、未だメカニズムの定量的把握がされていない。
  4.   ④ 森林等陸上生物圏による二酸化炭素の発生・吸収の収支については、定量的把握は不十分であるが、最近の約二〇〇年は、人為的な森林減少が大気中二酸化炭素濃度の増加の原因の一つとなつてきたと考えられる。現時点では、大気中の二酸化炭素濃度の緯度別分布の解析から森林の発生源としての役割は小さいと考えられているが、森林生態学者からは小さくはないという報告も提出されており、森林の二酸化炭素の発生・吸収の収支についてなお詳細な検討が課題となつている。

 (三) メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の温室効果ガスの動態

  1.   ① メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の微量ガスは、二酸化炭素と共に温暖化に寄与している。その寄与の程度は、過去一〇〇年間の積算としてはその間の温度上昇分の三〇~四〇%に相当するが、最近では増大していると見られている。
  2.   ② これら微量ガスの発生、挙動及び分布については、温室効果の正確な予測及び対策の有効性評価のために不可欠であるが、今のところ十分な把握がなされていない。
  3.   ③ また、一酸化炭素等の微量ガスは、温室効果ガスの大気中の光化学反応等に関与し、これら温室効果ガスの大気中の寿命に影響しているが、その動態についても不明な点が多い。

 (四) 気候変化のモデル化とその計算結果

  1.   ① 大気中の温室効果ガスの濃度が増加し続けて行くならば、近い将来に地球が温暖化することについては、概ね意見の一致が見られている。気候変化は、大気・海洋・大循環システムの変動、海洋の状態及び大気・海洋・陸上生態系を含む相互間の物質・熱エネルギーの変換によつて定まつている。これらを組み込んだ二酸化炭素濃度上昇による地球規模気候モデルが開発され、これに温室効果ガスの影響を組み込んだ気候変化予測がなされている。
  2.   ② 現在までのモデルによると、大気中二酸化炭素倍増に伴う全球平均地表温度上昇は、3±1.5℃(NASアセンメント)ないし3.5±1℃(UNEP/WMO/ICSU)程度になる。また、雪氷域の縮小による太陽放射吸収の増大等により、極域での温度上昇はその二~三倍になると見積られている。全球平均気温の上昇についてはモデルによる差は少ないが、季節及び地域による変動についてはモデルによる違いが大きく、しかも現実の気候を未だ十分に再現できていない。
  3.   ③ 温暖化現象をシュミレートする上で、これまでのモデルについては、さらに氷・雪の面積と地球大気系のアルベド(反射率)、水蒸気量、雲、蒸発、高さに応じた気温減率等のフィードバック効果及び海洋の熱容量等の非平衡応答を組み入れた精密なものにすることが課題となつている。

 (五) 温暖化の時期と程度の予測

  1.   ① これまでに得られた観測データや現象解明状況に基づいて、温室効果ガスの増加による温暖化の時期と程度が予測されている。予測は、現象の機構解明が十分ではないことからくる不正確さを伴い、前提とする人間活動、特にエネルギー利用のシナリオによつても結果に違いが生じている。
  2.   ② 温暖化の時期の目安として、二酸化炭素倍増時あるいは他の温室効果ガスの温度上昇影響も含めた温度上昇効果二倍当量時が報告されている。
  3.   ③ 現行のエネルギー利用形態のまま温室効果ガスの放出が続くと、二〇三〇年代には各種温室効果ガスの濃度の合計は温暖化効果から見て産業革命以前の二酸化炭素濃度の二倍に相当する量となると見られる。
  4.   ④ エネルギーの利用形態を変化させることにより、二酸化炭素濃度が二倍になる時期を五〇年程度遅らせることが可能であるという見積りもある。
  5.   ⑤ 二酸化炭素以外の温室効果ガスの温暖化に対する寄与の程度は今後増加し、二〇三〇年ごろまでに温室効果の全体の四〇~五〇%となる。

 (六) 影響予測

  1.   ① 温度上昇が生じた場合の環境影響としては、降水量変化、海水面上昇、土壌水分量変化、気候変化及びこれらに伴う陸上・海洋生態系変化が重要である。こうした環境変化によつてもたらされる社会的経済的影響についての検討が課題となつている。
  2.   ② 環境への影響は地域に応じて極めて多様である。しかし、地球全体の様々な地域にわたり、その影響の詳細を予測するには、現在の気候モデルの空間スケールでの精度は十分ではない。
  3.   ③ 現在の精度範囲内で推定すると、高緯度地域での冬期降水量の増加、熱帯雨林地域での降水量の増加、中緯度地域での夏期降水量減少・蒸発量増大等が予測される。降水量・蒸発量の変化は、水文状態の変化を通して、水資源分布、耕地・森林・草地等の生態系と生産力に多大な影響を与える。
  4.   ④ 二酸化炭素倍増時における海水膨張及び小氷河の融解による海水面の上昇は、二六~一六五cmとみられる。西南極氷床の崩壊は急激には生じないと考えられるものの、海水膨張等による海水面上昇は海岸線浸食、塩水の遡上に伴う地下水利用障害等の影響をもたらす。
  5.   ⑤ 二酸化炭素等の濃度上昇に伴う温暖化は、作物の栽培北限の北上、害虫の越冬容易化による疾病の多発、地力の劣化等により農業の生産力の広域的な変化をもたらすと予想されている。
  6.   ⑥ このほか、温暖化は一般の生活環境を変化させるとともに、エネルギー需要の変化などの社会経済インパクトをもたらす。

 (七) 対策技術とその現状

  1.   ① 温室効果ガスのうち最も量の多い二酸化炭素について見ると、全地球の人間活動から発生するものは毎年約五ギガトン(五〇億トン、炭素換算)にも及び、従来の汚染物質の発生量に比較して極めて膨大なものである。排ガス中からの除去対策、大気中からのバイオマスの固定等を考える場合には、このような量的な観点を十分に認識して進める必要がある。
  2.   ② 温暖化に対する防止、防除あるいは適応の考え方に基づき、様々な技術開発が行われている。現在のところ、こうした対策によつて到達できる平衡状態を明らかにする知見は得られるに至つていない。
  3.   ③ 技術的対策は、フィージビリテイ、コスト及びその効果の面から評価しなければならないが、この観点から見て、最も積極的に推進されるべきは、防止対策である。エネルギー利用システムの効率改善及び生活パターン変化による省エネルギーの推進は有効である。今日まで、省エネルギーは、エネルギー費用削減やエネルギー面の安全保障の観点から進められてきた。今後、省エネルギーの限界効率は逓減するものの、省エネルギーの技術的余地はなお残されている。また、太陽エネルギー等の代替エネルギーの利用も進められている。
  4.   ④ 温室効果ガスの除去については、大型ボイラー等よりの二酸化炭素回収技術の開発、クロロフルオロカーボン等の人工化合物の排出抑制強化が望まれる。メタン、亜酸化窒素等その他の温室効果ガスについては、自然起源のものが多いが、その発生のメカニズムを解明するとともに、発生抑制の方法等を検討する必要がある。現在、世界規模で進行しつつある森林減少を防止することは、環境保全の観点からも極めて重要であるが、実効ある二酸化炭素の吸収・固定を図るためには、大陸規模での森林ストックの増大が必要であることを認識しなければならない。
  5.   ⑤ 温暖気候に対応し得る社会システムへの改変を含めて、広く温暖化に対する適応化技術の開発が課題であり、例えば耐気候品種や水利施設の開発等が期待される。

 (八) 社会的、経済的対策

   温暖化は、気候変動、海面上昇等を通じて、一般国民の生活環境はもとより、エネルギー事情、工業生産、農業生産等をはじめ、港湾、臨海工業地帯・都市地域、低地の農業地域等の存立に重大な影響を与えるものであるので、こうした変化に対処し得る社会的、経済的対応策を樹立することが重要であるが、これらに関する本格的な調査研究は始まつたばかりである。

四 地球温暖化に関して今後調査研究を要する分野

  地球的規模での環境変動を把握・予測し、さらには防止対策を樹立する上では、以下のような点で制約があり、今後重点的な研究が必要である。

  1.  (イ) 二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの発生及び移動並びに大気温度、海水温、地表温度、生態系等についての長期広域にわたる変化を確認するための観測データの蓄積が十分でない。
  2.  (ロ) 二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの地球規模での収支の定量的把握及びそれらの動態の解明が十分でない。
  3.  (ハ) 大気と海洋間の熱に関する相互作用の定量的把握が十分でなく、また、それらを組み入れた地球規模での温暖化の予測モデルの精度が十分でない。
  4.  (ニ) 温暖化が気候に与える影響に関しては、地域別のきめ細かなメッシュについての予測が十分にはできていないことから、温暖化が地域における環境や生態系に与える影響についても予測のきめ細かさが十分でない。
  5.  (ホ) 温暖化に対応する対策のフィージビリテイ、効果、コスト等の評価を行うためには、温暖化現象の機構の解明と影響の正確な予測が不可欠である。しかし、以上(イ)~(ニ)のとおり、これらについて未だ十分な知見が得られていないので、対応の選択に不確実性が伴つている。

  以下では、上記各事項のそれぞれに即しつつ、今後調査研究の強化が必要な主要な課題を掲げる。

 (一) 温室効果に関するモニタリング

  1.   ① 大気中二酸化炭素濃度の精密な継続的観測(定点、船舶、航空機等)
        現在の地球上の観測網は、地域的に遍在しているので、更に観測地点を増加するとともに、船舶、航空機等による新たな観測体制の整備を図る。
  2.   ② メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の温室効果ガス及びこれら物質の生成・消滅に係わる大気微量成分(CO、非メタン炭化水素、窒素酸化物等)の大気中濃度の精密な継続的観測(定点、船舶、航空機、人工衛星等)
        これらに関する観測データは、全地球的には、極めて限られており、今後観測体制の整備を要する。なお、温室効果ガスと温暖化に係る大気微量成分の精密な測定技術の開発・改良を行う。
  3.   ③ 気温、海水温、海水面の上昇、降雨量等の精密な継続的観測
        地球規模におけるこれらの精密な観測を今後強化する。
  4.   ④ 植生分布の継続的観測
        二酸化炭素の吸収、温暖化影響の発現等の観点から、世界的な植生分布、土壌水分の分布変動についてリモートセンシング等を活用した継続的な国際観測体制を整備する。

 (二) 炭素循環の解明

  1.   ① 大気中への二酸化炭素の放出量の把握
        二酸化炭素の発生源の種類ごとの放出量を詳細かつ継続的に把握する。
  2.   ② 大気中の二酸化炭素の動態
        大気中の二酸化炭素の地球規模での輸送、拡散及び滞留時間等について更に研究を行う。
  3.   ③ 二酸化炭素の大気|海洋間交換
        大気|海洋間における二酸化炭素交換速度の検討、海域・海流による交換の定量的把握等については、将来の二酸化炭素濃度の予測に重要な影響を与えるので、更に研究を行う。
  4.   ④ 海洋における表層と深層との間の炭素循環
        海水中の溶存有機炭素の測定精度が向上しており、これを活用して海洋中における表層と深層の間の炭素循環のメカニズムの解明及びその量的把握について更に研究を行う。
  5.   ⑤ 陸上生態系内での炭素循環
        生態系における植物の呼吸、同化、腐食分解等の一連の炭素循環過程の定量的な解明及び生態系内での炭素循環への人間活動の影響評価のため更に研究を行う。
  6.   ⑥ 地球上の炭素循環の定量的解析及び予測モデルの開発
        上記①~⑥までの研究を踏まえて、精度の高い地球規模炭素循環モデルを開発する。

 (三) メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の温室効果ガスの動態の解明

  1.   ① 大気中への放出量
        メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の温室効果ガス及び温暖化に係わる大気微量成分についての大気中への放出量に関して、人為起源及び自然起源両面からの精度の高い把握を行う。
  2.   ② 大気中の動態(光化学反応機構の解明を含む。)
        メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の温室効果ガス及びその他の温暖化に係わる大気微量成分についての大気中での輸送・拡散、反応消滅機構、反応速度、滞留時間等について定量的に把握する。
  3.   ③ 大気圏循環の定量的解析及び予測モデルの開発
        前記①~③の研究を踏まえ、メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の温室効果ガスの大気圏循環について、精度の高い定量的解析及び予測モデルの開発を行う。

 (四) 地球温暖化予測モデルの開発・精度の向上

  1.   ① 信頼性の高い地球温暖化予測モデルの開発
        現在開発、利用されている三次元大気大循環モデル(GCM)に基礎を置く地球気候予測モデルの精度を高めるための研究を行う。
  2.   ② 温暖化が大気中水分や雲量に及ぼす影響のフィードバック効果の把握
        フィードバック機構として重要な働きを有する氷・雪の面積と地球大気系のアルベド(反射率)、水蒸気量、雲、蒸発等によるフィードバック効果を一層正確に把握する。
  3.   ③ 温暖化が海水温に及ぼす影響のフィードバック効果の把握
        海洋の熱慣性のため気候系の反応には遅れが生ずるが、大気と海洋の間の熱交換、海洋中での鉛直・水平方向の熱の輸送の見積りは現在未だ厳密にはできていないので、これを解明する。

 (五) 地球温暖化による影響の解明

  1.   ① 生態系への影響
        温暖化の生態系への影響としては、生産能力の増大、水利用効率の向上、生長期間の延長、生育帯の移動及び地域的な乾燥化・湿潤化等があり、地球環境全体を通じて生態系が大きく変化することが予想される。これらの影響を評価し対策を確立するためには、これらの変化を地域別に綿密に予測することが大切である。従つて、地域的分解能の向上のための研究を進めるほか、森林生態系、耕地・土壌生態系、海洋生態系等の主要生態系に対する気候変化の影響について更に精度の高い研究を行う。
        また、古環境復元により、気候と陸上生態系との関係を明らかにして、温暖化の影響を推定する。
  2.   ② 海水面上昇に伴う土地資源への影響
        現在の予測では、海水面上昇によりメコンデルタ、バングラデイシュ、ナイルデルタ等が大打撃を受けるとされているが、海面上昇幅の予測精度により影響地域は大きく変化する。また、対策技術の適用可能性の違いによつて土地資源への影響の程度が大きく異なる。従つて、これらについて更に精度の高い研究を行う。
  3.   ③ 水文条件の変化による土地利用への影響
        温暖化による乾燥化又は湿潤化の進む地域では、土地利用の大規模な変更が強いられる可能性がある。これらの変化を克服して生産活動を維持するには、新たな水資源開発、導・排水施設の整備やダムの建設等が幅広く必要となつているので、これらの問題点について研究を行う。
  4.   ④ 社会的・経済的影響
        温暖化による社会的・経済的影響としては、農業生産性の地域的変化による世界の穀物需給への影響、気候変化に伴うエネルギー需要の変化、居住地域等の生活環境への影響等があげられており、これらについて社会的、経済的及び生活技術の面からの詳細なシステム研究を行う。

 (六) 対策技術の開発

  1.   ① 防止技術(Prevention)
        温暖化の抑制の観点から、温室効果ガスが排出される以前の段階において適用される次のような排出抑制技術の開発を行う。
    1.    ア 省エネルギー技術の一層の開発・改良
    2.    イ 代替エネルギー利用技術の一層の開発・改良
    3.    ウ 二酸化炭素発生量の少ないエネルギーシステムの開発・改良
    4.    エ 温暖化に係る二酸化炭素以外の温室効果ガス及び大気微量成分の排出抑制技術の開発
  2.   ② 防除技術(EIimination)
        温暖化の抑制の観点から、大気中の二酸化炭素を分離・固定するため、次のような技術の開発を行う。
    1.    ア 燃焼廃ガス中の二酸化炭素の除去・回収・廃棄・利用技術の開発
    2.    イ 陸上及び海洋におけるバイオマス量の大規模拡大技術の開発
  3.   ③ 適応技術(Adaptation)
        温暖化が起こつた際の方策として、事前に次のような適応技術の開発を行う。
    1.    ア 温暖気候適応農業システムの開発
    2.    イ バイオテクノロジーによる高温乾燥適応植物種等の開発
  4.   ④ 前記①、②及び③の対策技術の費用対効果、環境に与える影響、フィージビリティ等の評価

 (七) 社会的、経済的対策

   温暖化に対応する社会的、経済的対応方策の具体的メニューを明らかにし、これに応じたフィージビリテイ、コスト等に関して個別に検討する。また、こうした検討の前提となる超長期のエネルギーシナリオを含む発生源モデルと政策選択のためのリスクマネージメント手法とを開発する。更に、温暖化は、世界的に見て地域別に異なるインパクトを与えるとともに、先進国と発展途上国とではそのインパクトの内容、程度、対応策等が異なることが予想される。以上のことから、以下に掲げる事項について積極的に調査研究等を進める。

  1.   ① 港湾、臨海工業地帯、臨海都市地域、農業地域等の改造、防災対策等
  2.   ② 海水面上昇に伴い水没する恐れのある低地帯からの人口の移住、新しい耕作地の造成等
  3.   ③ 世界の農産物需給バランスの変化に対応する食糧政策
  4.   ④ 影響を受ける農産物に依存する産業、雇用等における対応策
  5.   ⑤ 先進国と発展途上国とが受ける異なつた影響の分析とこれらの関係国間の相互摩擦の緩和策
  6.   ⑥ 調査研究及び対策推進のための国際協力体制の在り方
  7.   ⑦ 気候変化に対応するための対発展途上国援助の在り方

五 我が国としてとるべき具体的対応の方向

 (一) 基本的考え方

   二酸化炭素、メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の温室効果ガスの大気中の濃度は年々増大しており、このまま推移すれば地球が温暖化することは温室効果理論としては広く認められている。しかし、温暖化の徴候については局地性が大きいためにその検出が極めて困難であり、温暖化のメカニズムには未解明な事項が多く残されている。このため、温暖化の程度や時期及びその結果として地球環境や経済社会に生じる影響等については不明確な点が多い。
   地球の温暖化に対応する技術的対策については、未だ本格的な調査研究がなされていない状況にある。他方、温暖化は全世界に極めて大きな影響を与えることが懸念される上、長期にわたつて徐々に進行する複雑なプロセスであり、温暖化やこれに伴う環境の変化が一旦生じるとその回復は著しく困難である。それゆえに、現実に被害が確認された時点から対策を講じたのでは手遅れになるおそれが十分にある。
   こうしたことから、本検討会としては、前節で述べたとおり、地球温暖化に関する基礎的な科学的知見やその対策技術、さらには、社会的、経済的対策等の未解明な分野における研究を強力に進めると同時に、これにとどまらず、現在までに得られている知見や技術に基づき実行可能な対応に早急に着手するべきであると考える。このような実行可能な対応は、継続的な取り組みを可能とするものであつて、できる限りの国際的な協調に依拠するものであることが望ましい。こうした対応としては、次に述べるようなものとすることが必要である。
   なお、最近の国際的な論調を見ると、地球温暖化の主要な原因物質の一つである二酸化炭素に焦点を絞り、これについて具体的な削減目標を定めるべきであるとの考え方が出されている。しかし、削減率とこれによつて期待される温暖化の抑制効果の程度の関係が未だ明確になつておらず、また、環境保全の観点からではないにせよ、エネルギー資源の賦存の程度や省エネルギー対策の導入の程度が国毎の実情によつて異なること等から、この目標についての合意までには、なお多くの議論が必要であり、今後専門家による十分な国際的検討を行うこととし、当面の実行可能な対応としては、一層合意の得られやすいフレキシブルなものであることが望ましい。
   また、地球温暖化の問題は、砂漠化の進行、熱帯林の減少、海洋汚染等その他の地球規模の環境問題と密接に関連しており、これらを互いに関連させた一つの系として地球環境保全の観点から取り組むことが重要である。

 (二) 長期的視点に基づく国際的・国内的対応

  1.   ① 中長期的な行動の指針を設定する。
        既に得られている基礎的な科学的知見、対策技術を踏まえて国際的にコンセンサスの得られる中長期的な(概ね一〇年間程度を目途とする。)行動の指針を設定し、これに沿つて各国が独自の責任と判断で対策を講じるとともに、科学的知見や対策技術の進歩などに応じてこれを見直していくことが考えられる。この中長期的かつ国際的な行動の指針には、概ね次の事項を含むものとする。
    1.    (ア) 中長期的な行動の指針
           既に開発されている技術又は概ね一〇年間程度の間に実行可能な技術に基づく次のような対策の推進を中長期的な行動の指針として掲げる。
      •     ・ 二酸化炭素の排出抑制に寄与するエネルギー対策(省エネルギー、燃料転換、エネルギー代替、熱電変換効率の向上等)
      •     ・ 二酸化炭素の排出抑制等に寄与する技術的対策(排出ガスからの除去、バイオマスの大規模拡大、省資源、木材資源の循環利用技術の拡大等)
      •     ・ メタン、オゾン、亜酸化窒素、クロロフルオロカーボン等の温室効果ガスによる影響の低減化対策(クロロフルオロカーボン対策の早期徹底、対流圏オゾン濃度低減のための光化学スモッグ対策の徹底、メタン濃度低減のための一酸化炭素及び炭化水素の規制等)
    2.    (イ) より長期的な行動の指針
           将来の地球温暖化に備えて、温室効果ガスによる地球温暖化のメカニズムを明らかにし、温暖化の程度、時期等の予測を一層確実なものとするとともに、より抜本的な社会的、技術的適応を可能とするため、次のようなより長期的な対策を長期的な行動の指針として掲げる。
      •     ・ 基礎的な科学的知見の充実を図るための調査研究計画と国際的役割分担
      •     ・ 新しい対策技術の開発の促進を図るための調査研究計画と国際的役割分担(二酸化炭素以外の温室効果ガスの排出抑制に寄与する新技術の開発、大気中に蓄積された二酸化炭素の吸収固定を図るための新技術の開発、気候変化適応のための作物品種の改良等の新技術の開発等)
      •     ・ 社会的、経済的対応策の調査研究計画と国際的役割分担(気候変化適応のための経済や生活パターンの変革等)
  2.   ② 常設の国際的組織を中心とした検討を推進する。
        地球温暖化問題に関する前記の長期的な行動の指針の設定、指針の実施状況の評価、指針の見直し等については、各国が独自の検討を行うとともに、これを国際的公平性の見地から検討を行うことを目的とした専門の国際的組織を設け、これを中心として定期的に政府間会議及び専門家会議を組織、開催して継続的な検討を進める必要がある。なお、この国際組織の活動のための資金については、広く各国や民間から拠出を得ることとし、個別の国や既存の国際機関とは独立した活動が営めるようにすることも考えられる。
  3.   ③ 発展途上国に対する支援を進める。
        地球温暖化問題においては、原因物質の放出について、現在は、先進国の割合が高いものの、将来は、発展途上国の寄与の割合も増大することが考えられていることに加え、温暖化による影響はこれらの国々においても甚大なものとなることが予測されている。しかし、発展途上国においては、対策の具体的検討や温暖化の抑制に関する技術、人材、資金等が不足しており、負担が過重となつたり、対応が遅れる恐れが強い。従つて、これらの国々に対し、温暖化問題の理解の促進、具体的対応策のフィージビリテイの検討及び実施のための援助(技術協力、資金協力)を計画的に進める必要がある。また、このための先進国の国際的役割分担を定めるのが効果的である。

 (三) 我が国としての当面の対応

   上記(二)の長期的視点に基づく対応を円滑に進めるため、我が国として、当面、次の事項の推進を早急に図る必要がある。

  1.   ① 行動のための指針設定に関する検討を推進する。
        行動の指針設定に必要な前記(二)の①(ア)及び(イ)の事項について積極的な検討を開始する。また、検討の結果、成果を得たものについては、それが部分的な対策であれ、関係方面の連携の下、我が国として責任を持つてその実行を図る。
  2.   ② 温暖化問題に対する国際的コンセンサスづくりに貢献する。
        諸外国における会議に参画するほか、我が国自らも国際会議を開催するなどあらゆる機会をとらえ、温暖化問題に関する科学的知見、対応の方向、フィージビリテイ、対策の総合評価等について部分的であれコンセンサスの積み重ねを図ることを主眼として積極的な国際的貢献に努める。また、発展途上国に対して温暖化問題に関する技術協力に努める。
  3.   ③ 研究プロジェクトを重点的に推進する。
        国際的な調査研究活動における我が国としての貢献を十分に果たすため、前記四に示した「今後調査研究を必要とする分野」のうち重点となる分野について、我が国としての取り組みの推進を図り、国際的な役割の分担の下に基礎的な科学的知見の充実、諸対策の開発の促進を図る。
  4.   ④ 啓発活動等を推進する。
        地球温暖化の対策の円滑な実施を図るため、メカニズム、影響、諸対策等に関する啓発活動を積極的に進め、広く国民の理解を得るとともに、地方公共団体や民間団体による独自の啓発活動や研究活動を育成する。
  5.   ⑤ 国内における対策及び研究の推進に関する統一的な体制を確立する。
        前記①から⑤までに関する具体的検討を計画的かつ組織的に進めるため、地球温暖化問題に関係する国内の行政機関や研究機関の責任者及び専門家によつて構成される連絡協議のための会議を設置する。

付属参考資料 略