法令・告示・通達

二酸化窒素に係る環境基準の改定について

公布日:昭和53年07月17日
環大企262号

環境庁大気保全局長から各都道府県知事・政令市市長あて

 標記の件については、昭和53年7月11日付け環大企第252号をもつて、環境事務次官より通知したところであるが、環境基準の改定の内容等については、下記第1のとおりである。また、環境基準の維持・達成のため、下記第2のとおり施策を講ずることとしているので、貴職におかれても、この方針にそつて、格段の努力をお願いする。
 なお、測定方法の一部変更の実施に伴う具体的措置等についてはおつて通知することとしているので申し添える。

  1. 第1 二酸化窒素に係る環境基準の改定について
    1.  1 改定の理由について
      1.   (1) 従来の二酸化窒素に係る環境基準は、昭和47年6月までの限られた科学的知見を基として十分安全性を見込んで、昭和48年5月に設定されたものである。
            公害対策基本法第9条第3項は、環境基準については、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならない、と規定している。これは、いつたん設定された環境基準が不変なものではなく、科学的知見の充実や学問の進歩に応じて適切か否かについて検討を加え、必要と認められる場合には改定されるべき旨を明記したものである。
            環境庁長官は、中央公害対策審議会に対しこの数年間に格段に豊かになつた二酸化窒素の健康影響に係る内外の科学的知見に基づき、環境基準設定の基礎となる判定条件及び指針について純粋に学問的立場からの検討を依頼することとし、昭和52年3月28日公害対策基本法第9条第3項の趣旨にのつとり、二酸化窒素の人の健康影響に関する判定条件等について諮問した。諮問を受けた審議会は二酸化窒素に係る判定条件等専門委員会を設置して検討し、本年3月22日二酸化窒素の判定条件と指針について環境庁長官に答申した。
      2.   (2) 二酸化窒素の人の健康影響に係る判定条件等についての答申(以下「答申」という。)は動物実験、人の志願者における研究、疫学的研究などの二酸化窒素の生体影響に関する内外の最新の科学的知見を収集評価し、地域の人口集団の健康を適切に保護することを考慮して次の値を指針として提案した。
              短期暴露については1時間暴露として0.1~0.2ppm。
              長期暴露については、種々の汚染物質を含む大気汚染の条件下において二酸化窒素を大気汚染の指標として着目した場合、年平均値として0.02~0.03ppm。
            提案された指針は、疾病やその前兆とみなされる影響が見出されないだけでなく、更にそれ以前の段階である健康な状態からの偏りが見出されない状態に留意したものであり、換言すれば、正常な健康の範囲に保つというものであるので健康の保護について十分な安全性を有するものである。また、短期暴露の指針はこれを1回超えたからといつて直ちに影響が現れるというものではないとされている。
      3.   (3) 環境庁は答申を最大限に尊重し、各方面の意見をも慎重に検討、考慮した結果、公害対策基本法第9条第3項の趣旨にのつとり現在の環境基準を改定すべきであると判断したものである。
            科学的判断に基づいて、環境基準の改定が必要と認められるにもかかわらず、これを改定しないことは、公害対策基本法の定めるところに反するのみならず、今後の窒素酸化物対策について根拠と説得力を失わせ、その推進に大きな支障と混乱を生じさせることとなるものと考えられる。
    2.  2 二酸化窒素に係る環境上の条件について
         二酸化窒素に係る環境基準は、1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下と改定された。
         この環境基準は、答申で示された判定条件及び指針が現在の時点における二酸化窒素の人の健康影響に関する最新・最善の科学的・専門的判断であり、また、それは公害対策基本法第9条第1項に規定する人の健康を保護するうえで維持されることが望ましい水準を示すものと判断し、答申で提案された幅をもつた指針に即して改定されたものである。
         環境基準は、従前と同様に1時間値の1日平均値を用いたが、1日平均値の年間98%値と年平均値は高い関連性があり、1日平均値で定められた環境基準0.04~0.06ppmは年平均値0.02~0.03ppmにおおむね相当するものであるとともに、この環境基準を維持した場合は、短期の指針として示された1時間値0.1~0.2ppmをも高い確率で確保することができるものである。
         答申で示された指針は疾病やその前兆だけでなく、それより程度の高い健康を人口集団について保護しうるものとして合意されたものであり、十分安全性が考慮されていること、昭和47年当時懸念された二酸化窒素の発がん性等のおそれがこれまでの知見では認められていないこと、疫学的調査の健康影響指標に用いた持続性せき・たんの有症率は、医学的判断に基づく呼吸器系疾患の患者に係わる有病率とは異なるほか、環境大気中の二酸化窒素のみの特異的影響ではないことなどの理由から、これ以上に安全性を見込む必要はないと判断した。新環境基準は、国民の健康を十分保護し得るものであり、環境基準の改定によつて国民の健康保護に問題の生ずるおそれはなく、またこれを超えたからといつて直ちに疾病又はそれにつながる影響が現われるものではない。
    3.  3 環境基準による大気汚染の評価及び適用範囲について
      1.   (1) 環境基準による大気汚染の評価について
            二酸化窒素の環境基準による大気汚染の評価については、測定局ごとに行うものとし、年間における二酸化窒素の1日平均値のうち、低い方から98%に相当するもの(以下「1日平均値の年間98%値」という。)が0.06ppm以下の場合は環境基準が達成され、1日平均値の年間98%値が0.06ppmを超える場合は環境基準が達成されていないものと評価する。
            ただし、1日平均値の年間98%値の算定に当たつては、1時間値の欠測(地域の汚染の実情、濃度レベルの時間的変動等にてらし異常と思われる1時間値が得られた際において、測定器の維持管理状況、気象条件、発生源の状況等についての検討の結果、当該1時間値が測定器に起因する場合等地域大気汚染の状況を正しく反映していないと認められる場合を含む。)が4時間を超える測定日の1日平均値は、用いないものとする。
            また、年間における二酸化窒素の測定時間が6,000時間に満たない測定局については、環境基準による大気汚染の評価の対象とはしない。
      2.   (2) 適用範囲
            二酸化窒素に係る環境基準は、人の健康を保護する見地から設定されたものであるので、都市計画法(昭和43年法律第100号)第9条第8項に規定する工業専用地域(旧都市計画法(大正8年法律第36号)による工業専用地区を含む。)、港湾法(昭和25年法律第218号)第2条第4項に規定する臨港地区、道路の車道部分その他原野、火山地帯等一般公衆が通常生活していない地域又は場所については適用されないものである。なお、道路沿道のうち、一般公衆が通常生活している地域又は場所については、環境基準が適用されるので念のため申し添える。
    4.  4 測定方法等について
         二酸化窒素の環境基準による評価に用いる測定方法は、従来と同様、ザルツマン試薬を用いる吸光光度法によることとされているが、より正確な測定を行うために二酸化窒素の亜硝酸イオンへの転換係数(以下「ザルツマン係数」という。)を変更する必要があるので、これを従来の0.72から0.84に改定する。
         ザルツマン係数の改定に伴い、従来の方法で測定された二酸化窒素の測定値については補正する必要があるので、53年度の測定値として本職に報告される年報等の公式統計の公表に当たつては、補正された測定値を用いることとされたい。
         貴職におかれては、これまで、測定局の設置、保守管理等、測定値の精度向上に努められてきたところであるが、今後とも、その一層の努力をお願いする。
    5.  5 達成期間等について
      1.   (1) 新環境基準の維持達成に当たつては、それがゾーンで示されたことにかんがみ、現在の二酸化窒素の濃度の水準によつて1日平均値が0.06ppmを超える地域と1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にある地域とに地域を区分し、それぞれの地域において、次のように環境基準の達成又は維持に努めるものとされた。
            まず、1日平均値が0.06ppmを超える地域にあつては、当該地域のすべての測定局において0.06ppmが達成されるよう努めるものとする。
            次に、1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にある地域にあつては、原則として、このゾーン内において、都市化・工業化にあまり変化がみられない場合は現状程度の水準を維持し、都市化・工業化が進む場合はこれを大きく上回ることとならないよう努めるものとする。このことは、安易に0.06ppmまで濃度を上昇させてもよいと解されてはならないし、現実的に可能な無理のない範囲内の努力により現状の水準をゾーン内において改善することを否定するものではない。
            なお、1日平均値が0.04ppm以下の地域にあつては、原則として0.04ppmを大きく上回らないよう防止に努めるよう配慮されたい。
            新環境基準の達成期間は、改定の時点から原則として7年以内すなわち昭和60年までとした。これは、0.06ppmを超えるすべての地域について、0.06ppmを達成するには3年から5年という短期の間では不可能であること、これまでの固定発生源及び移動発生源に対する規制の効果が顕著に現われるのは昭和50年代の後半であること、0.06ppmを超える地域に係る総量規制を実施するには、事前の調査及び適用までの猶予期間等が必要であるので50年代の後半にならざるを得ないことなどによるものである。
      2.   (2) 前記(1)に示す地域については、大気汚染防止法施行令別表第3に規定する地域の区分を参考に、ザルツマン係数改定後の52年度における1日平均値の年間98%値について、一般環境大気測定局のうち上位3局の平均値が0.06ppmを超えるか又は0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にあるかによつて判定することを基本的考え方とし、更に次に例示するような地域の個別具体的事情に即して十分検討を加え、総合的に判断することとする。
        1.    ア 特に地域の一部を除外し、又は補充する必要がある場合
        2.    イ 測定局が特定発生源による局所的影響を大きく受けている場合
        3.    ウ 52年度の測定値が地域産業の生産動向等にてらし特異的であるため、他の年度の測定値もあわせて考慮する必要がある場合
              これらの地域の判定については、本職が別途関係都道府県知事と協議を行うこととしているので、了知されたい。
  2. 第2 環境基準の維持・達成の方途等について
    1.  1 環境基準の維持・達成の方途
         今後、環境基準の維持・達成を図るため、特に次のような窒素酸化物対策を推進することとしている。
      1.   (1) 固定発生源に対する排出規制
            固定発生源については、次の諸点に配慮して、大気汚染防止法(昭和43年法律第97号。以下「法」という。)第3条第1項に基づく全国一律の排出規制を進めるとともに、これまでの規制の効果も見つつ、環境基準を達成していない地域及び環境基準を維持することが困難な地域については、汚染の構造、規制の効果等を踏まえ、必要に応じ法第4条第1項に基づく上乗せ規制、法第5条の2に基づく総量規制等の対策を検討し、所要の措置を講ずるものとする。
        1.    ア 硫黄酸化物、ばいじん等の対策との整合性を図りつつ、必要に応じ広域的観点にも配慮し、総合的な大気汚染対策の推進に資すること。
        2.    イ 窒素酸化物防除技術の開発を促進しつつ、その進展に応じ対策を進めること。
        3.    ウ 対策の実施に必要な設備、エネルギー、資源、用地の状況等を勘案し、効率的な実施を図ること。
              なお、特に、既設施設に対し排煙脱硝を含む厳しい上乗せ規制を実施することについては、施設用地の状況や今後のばいじん等の対策との整合性等について十分検討し、慎重に対処されたい。
              おつて、総量規制については、本職から別途関係都道府県知事と協議を行いたいので、了知されたい。
      2.   (2) 自動車排出ガス規制
            乗用車については世界で最も厳しい53年度規制が実施され、またバス、トラツク等については52年12月26日の中央公害対策審議会答申で示された第1段階の目標値を54年規制として告示したところである。
            更に、バス、トラツク等については、引き続き自動車排出ガス低減技術の開発状況を促進しつつ、その進展に応じて、今後数年後、遅くとも50年代中に上記答申で示された第2段階の規制を実施することとしている。
    2.  2 その他
      1.   (1) 光化学大気汚染対策については、その原因物質である二酸化窒素と炭化水素の両者について、必要に応じ広域的観点に配慮し、今後とも対策を進めていく方針である。
      2.   (2) 貴県(市)において締結している公害防止協定については、今回の環境基準改定の理由を正しく理解され、適切に対応するよう配慮されたい。
      3.   (3) なお、公害健康被害補償法に基づく第一種地域については、今後も認定患者及び住民の不安を招来することのないよう特に留意しつつ、環境基準のゾーン内において対策の推進に当たられたい。