法令・告示・通達

水質汚濁に係る環境基準の取扱いについて

公布日:昭和45年07月23日
経企水公77号

[改定]
昭和46年6月1日 経企水公71号
昭和47年3月10日 環水管9号
昭和60年6月12日 環水管125号
平成5年3月8日 環水管20号
平成5年9月10日 環水管120号

経済企画事務次官から知事あて
 標記のことについては、公害対策基本法(昭和42年法律第132号)第9条の規定に基づき、昭和45年4月21日に閣議決定し、同年5月29日には、その一部改正を閣議決定したところである。これは近年における水質汚濁問題の深刻化に対処して、公共用水域の水質保全のため、排出規制、下水道整備等の諸施策を総合的な観点から強力に推進する際における共通の行政目標を設定するものである。
 環境庁の設置に伴い、環境基準の設定に関する事務は、環境庁の所掌するところとなり、46年12月17日の閣議了解をもつて上記閣議決定の一部改正が行われるとともに水質汚濁に係る環境基準については、同年12月28日に環境庁告示第59号(以下「告示」という。)をもつて告示され、その後49年9月30日、50年2月3日、57年12月25日、平成5年3月8日及び平成5年8月27日に告示の一部改正が行われた。
 水質汚濁に係る環境基準の考え方および運用方針は下記のとおりであるので、貴職におかれても十分留意のうえ、この環境基準の達成、維持に御協力願いたい。

  1. 第一 環境基準の基本的性格
      環境基準設定に関する基本的なものの考え方は、次のとおりである。
    1.  (1) 水質汚濁に係る環境基準は、公害対策基本法第9条の規定に基づき、水質の汚濁に係る環境上の条件について、人の健康を保護し、及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準として設定されたものである。
      1.   ア この環境基準による保護対象は、人の健康及び生活環境である(公害対策基本法第9条第1項)。このうち、生活環境の範囲は、通常の用例よりも広義であり、人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含むものである(公害対策基本法第2条第2項)。したがつて上水道、工業用水道あるいは農業、水産業等もこの保護対象に含まれるものである。
      2.   イ この環境基準のレベルは、公共用水域の水質について維持されることが望ましい基準として設定されるものである。その意味で、汚濁の許容限度あるいは被害の受忍限度といつた消極的な意味での限度ではなく、より積極的かつ前向きの基準として設定されるものである。
    2.  (2) この環境基準は、単なる理想的なビジヨンではなく、公共用水域の水質汚濁防止のために、各般にわたり講じられる諸施策の共通の目標として設定されるものである。したがつて、今後、各種の水質汚濁防止対策は、環境基準の達成維持を目標に推進されていくこととなるものである。なお、環境基準は、行政目標であり、その意味でそのままの形で、工場等の排水水質規制の基準となるものではない。
    3.  (3) 環境基準設定の前提条件としては、人の健康の保護に関するものは、その性質上、水量など水域の条件の如何を問わず、常に維持されるべきものとすることとし、これに対して、生活環境の保全に関するものは、水域が通常の状態の下にある場合を前提として維持されるものとすることとしている。したがつて、生活環境に係る場合は、渇水時等異常な状態の下では、例外的に維持されないこともありうるものである。
    4.  (4) 環境基準の維持達成の期限は、人の健康の保護に関するものについては、猶予期間を置かず、設定後直ちに達成し、維持すべきものとし、これに対し、生活環境の保全に関するものについては、諸般の状況にかんがみ、直ちに達成することが困難と考えられる場合においては、達成すべき期限を明らかにしその期限内における達成が期せられるべきものとすることとしている。
  2. 第二 環境基準の内容
    1.  1 人の健康の保護に関する環境基準
      1.   (1) 人の健康の保護に関する環境基準は、告示の別表1のとおり、全公共用水域につき一律に適用されるものとして設定された(告示の第1の1)。これは、人の健康は何物にも優先して尊重されなければならないため、水域ごとに数値に差異を設けたり、一部の水域には適用しないこととしたりすることが適当でないことによる。
      2.   (2) 人の健康の保護に関する対象項目は、現在は、全シアン、アルキル水銀等の23項目とされている。
    2.  2 生活環境の保全に関する環境基準
      1.   (1) 生活環境の保全に関する環境基準は、告示の別表2のとおり、人の健康に係る場合と異なり、水域群別に設定された。すなわち、水域群は、告示の別表2の類型欄に掲げる水域類型ごとにそれぞれ該当する水域名を別途指定することにより明らかにすることとし、基準値は、水域群ごとに、それぞれの類型の基準値として明らかにされることとなる(告示の第1の2の(1))。
            なお、別表2の1の(1)の表の対象である「河川」には、「かんがい用水路、都市下水路その他公共の用に供される水路」を含むこととして取り扱うこととする。
      2.   (2) 生活環境に関して、このような水域群別方式を採用したのは、各公共用水域の利水目的は、極めて多岐多様であり、将来の利水目的をも勘案して設定されるべき環境基準を利水目的ごとにせよ全国一律に設定することは、行政目標として適当でなく、基本的には個々の水域ごとに考慮することが適当と考えられること等によるものである。
      3.   (3) 生活環境に係る環境基準について行うこととされた各公共用水域が該当する水域類型の指定は、環境基準に係る水域及び地域の指定権限の委任に関する政令(昭和46年政令第159号)の別表に掲げる公共用水域については、環境庁長官が行い、その他の公共用水域については同政令の定めるところにより、都道府県知事が行うものである(告示の第1の2の(2))。
            これは県際水域のうち重要水域であり、かつ、関係都道府県の利害関係の調整が必要と認められるものについては、環境庁長官が類型指定を行うこととし、その他の水域についての類型指定権限のみを都道府県知事に委任することとしたものである。
      4.   (4) 個別水域につき環境庁長官がその該当水域類型を明らかにする場合は、次の事項に十分留意することとされている(告示の第1の2の(3))。
        1.   (ア) 水質汚濁に係る公害が著しくなつており、または著しくなるおそれのある水域を優先すること。
        2.   (イ) 当該水域の現在の利用目的及び将来の利用目的の推移につき配慮すること。
        3.   (ウ) 当該水域における水質の汚濁の状況、水質汚濁源の立地状況等を勘案すること。
        4.   (エ) 当該水域の水質が現状よりも少なくとも悪化することを許容することとならないように配慮すること。
        5.   (オ) 目標達成のための施策との関連に留意しつつ、その達成期間につき配慮すること。
        6.   (ア)は、今後、個別水域につき該当水域類型の指定を行つていく際の優先順位について述べたものであり、これ以外を除外する趣旨ではない。
        7.   (イ)は、当該水域の将来にわたる利用目的を十分勘案しなければならないことを述べたものであり、現在の利水の態様を機械的に前提とし、その結果将来の利水を単純に現状の利水で固定すること等は厳にいましめるべき趣旨である。
        8.   (ウ)は、当該水域の現在の水質汚濁の状況、現在及び将来における汚濁源である工場等の立地状況等を勘案する必要があるという趣旨である。
        9.   (エ)は、環境基準は、水質汚濁防止の目標であり、現状でも相当きれいな水域について水質汚濁の進行をある程度許容するいわば、水質汚濁の目標となつてはならないことを述べたものである。
        10.   (オ)は、類型指定は、水域の類型指定により設定される目標が達成される期間との相関において、行われるべきことを述べたものである。
      5.   (5) 環境庁長官が水域類型の指定を行うに当たつてはあらかじめ中央公害対策審議会及び関係都道府県知事その他関係者の意見をきくこと、水域類型の指定を行う場合にはその内容及び達成期間を公示することが定められている(告示の第1の2の(4)及び(5))。なお、環境庁長官が水域類型の指定を行う際には、従来の経緯にかんがみ、必要に応じ閣議の了解を得るものとする。
      6.   (6) 都道府県知事が国の委任を受けて行う水域類型の指定を行うに当たつての留意事項が定められたが、これについては、別途通達する(告示の第1の2の(6))。
      7.   (7) 環境庁長官は、都道府県知事が水域類型の指定を行うこととされている水域のうちに水域類型の指定を早急に行う必要があると認められる水域がある場合は、当該関係都道府県知事に対し、水域類型の指定を行うべきことを勧告するものとされた(告示の第1の2の(7))。都道府県知事の行うこととされた水域類型の指定は、地方自治法上の機関委任事務であり、本来、地方自治法第146条、第150条等の適用があるものであるが、これらの規定による措置を補完するものとして、「勧告制」が設けられたものである。
      8.   (8) 生活環境の保全に関する対象項目は、告示の別表2のとおり水素イオン濃度、溶存酸素量など河川については5項目、湖沼及び海域についてはそれぞれ7項目が規定されている。
            なお、排水規制などの場合には、水域の実情に応じて、適宜項目を追加して考える必要があることは、当然である。
      9.   (9) 水域類型に該当する水域の指定は、「水質汚濁防止を図る必要のある公共用水域のすべて」を対象として行われることとなる。
  3. 第三 環境基準の一環として定められた事項
    1.  1 公共用水域の水質の測定方法等
      1.   (1) 測定方法は、告示の別表に掲げるとおりであるが、測定点の位置の選定については、水域の利水目的との関連を考慮しつつ、2ないし3地点を選定して測定し、測定結果に基づき水域の状況を判断する場合には、これらを総合的に勘案するものとされている(告示の第2の(1))。
      2.   (2) 測定の実施は、人の健康の保護に係る項目については、公共用水域の水量の如何を問わず随時、測定日を選定して行うものとされ、また、生活環境の保全に係る項目については、公共用水域が通常の状態(河川にあつては低水量以上の流量がある場合)の下にある場合に適宜測定日を選定して行うこととされた(告示の第2の(2))。何れの場合も、6時間間隔で1日に4回程度測定することが適当と考えられる。なお、この場合、河川及び湖沼については、渇水時等通常な状態といえない場合についても、参考資料を得るため、適宜測定を行うことが適当である。
      3.   (3) 公共用水域の水質の測定については、国は、①環境庁においては、都道府県に委託して公共用水域につき環境基準の達成状況の調査を、②農林水産省においては、都道府県に委託して農業用あるいは水産用の公共用水域の水質調査を、③運輸省においては、海水の油濁調査を、④建設省においては、主要河川の水質調査をそれぞれ実施しているところであり、また、都道府県、市町村等においても、適宜公共用水域の水質調査が実施されているところである。
            今後は、環境基準が国及び地方公共団体を通じての共通の行政目標であることにかんがみ、上記の国及び地方公共団体の各種調査を統一的な見地から総合的に実施する必要がある。このためには、これら各種調査の統一性と総合性を確保するとともに、必要な調査を追加することにより、全体として合理的な水質監視測定体制の整備が急務である。
            このための措置として、水質汚濁防止法においては、(ⅰ)都道府県知事に常時監視を義務づけるとともに、(ⅱ)都道府県知事は、国の関係機関と協力して国及び地方公共団体が行う監視測定について、測定事項、測定地点、測定方法等を統一的に調整するための測定計画を作成することを義務づけ、(ⅲ)測定計画に基づいて行つた測定結果は都道府県知事に送付することとし、(ⅳ)都道府県知事に水質汚濁状況の公表を義務づけることとしているところであり、この制度の適切な運用により、公共用水域の水質測定に万全を期する必要がある(同法第15条~17条、第28条)。
    2.  2 環境基準の達成期間等
      1.   (1) 人の健康の保護に関する環境基準は、設定後直ちに達成され、維持されるべきものとされている(告示第3の1)。
            これは、前述のとおり、人の健康に係る問題に猶予期間をおくことが適当でないと考えられることによる。
      2.   (2) これに対し、生活環境に関する環境基準は、水域の汚濁の状態に応じて定められた(告示の第3の2)。すなわち、現に水質汚濁が著しく、または著しくなりつつある水域については、原則として5年以内、その他の水域については、設定後直ちに達成し、維持されるべきこととされた。この場合において、5年以内の達成を期する水域のうち、水質汚濁が極めて著しい水域のうちには、対策を総合的に講じても、なお5年以内の達成が困難なものもあると考えられるので、この種の水域については、例外的に5年をこえることもやむを得ないものとされている。ただし、この場合は公害防止行政を実施する行政機関が適宜「暫定的な改善目標値」を設定し、段階的に水質改善をはかることとし、極力速やかな環境基準の達成を期することとされた。なお、この場合においては、原則として、おおむね10年以内に環境基準を達成することを目途とする。これら達成期間の具体的な取り扱いについては、別途通達する。
    3.  3 環境基準達成のための施策
      1.   (1) 環境基準を達成するためには、水質汚濁防止を図る必要のある公共用水域のすべてにつき、できるだけすみやかに環境基準に掲げる水域類型の指定を行い、その達成、維持を図ることが基本的に重要である。
            そのための対策としては、45年4月21日の閣議決定において、排出規制の強化、下水道等公害防止施設の整備の促進、土地利用及び施設の設置の適正化等、河川流況の改善等、監視、測定等の体制の整備、汚水処理技術の開発等の促進、地方公共団体に対する助成等の7対策が挙げられている(閣議決定の第4)。各公共用水域につき、該当水域類型を指定する際には、それぞれの水域における重点的な対策が具体的に明らかにされることとなる。
      2.   (2) 近年、水質汚濁が問題となつている海水浴場については、別紙のとおり、海水浴場保全対策要綱(昭和45年6月23日閣議決定)が定められ、これに基づき水質保全対策を実施することとされている。
    4.  4 環境基準の見直し
         環境基準は、固定したものではなく、今後、科学的な判断の向上、水質汚濁源の状況の変化、水域利用の態様の変化等に伴い、適宜見直しを行い、基準値の変更、項目の追加、各水域類型の該当水域の変更等所要の改定を行うものとされた(告示の第4)。
         なお、この見直しの一環として行う水域類型の指定の改訂は、水域類型の指定と同様に、国と都道府県とで水域を分担し実施することとされている。