ビルは“ゼロ・エネルギー”の時代へ

改修ZEB事例の技術情報

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建物概要

改修
事例12
久留米市環境部庁舎福岡県久留米市

久留米市環境部庁舎の写真

高性能照明の導入や空調負荷のシミュレーションを活用した空調のダウンサイジングによる省エネ改修と太陽光発電設備の設置による創エネで、『ZEB』を実現。さらに停電時でも蓄電池による空調の稼働が可能になり、レジリエンスが向上。

ZEBの分類
『ZEB』
  • 都道府県(地域区分):福岡県(7地域)
  • 新築/既築:既存建築物(1990年竣工)
  • 竣工年:2021年
  • 延床面積:2,089㎡
  • 階数(地上/地下):地上3階
  • 主な構造:RC造
  • 建物用途:事務所等
  • 一次エネ削減率(創エネ除く/含む):67%/106%
久留米市環境部庁舎の写真

導入したZEB技術

導入したZEB技術の表

※(本施設のエネルギー使用量)/(同仕様の建物のエネルギー使用量)を示した値であり、数値が小さいほど省エネ性能が高い。

 

Low-E ペアガラスの写真
Low-E ペアガラス
高効率空調の写真
高効率空調
全熱交換換気扇の写真
全熱交換換気扇
LED照明の写真
LED照明
太陽光発電設備の写真
太陽光発電設備
リチウムイオン蓄電池の写真
リチウムイオン蓄電池

 

ZEB化の実施検討にあたって苦労したこと/工夫したこと

【建築主様のご意見】


既存建築物のZEB化は困難であるとの認識

課題

環境部庁舎のZEB化検討を始めた際、自然換気システムや自然採光システム等の高度な技術が必要であることが一般的な認識となっており、既存建築物でZEBを実現するのはハードルが高いと感じていた。複数のコンサルタント会社に意見を求めた結果においても「改修してZEB化するのは難しい」という回答が多かった。

解決方法

ZEB化事例の調査等を続ける中、汎用的な改修の組み合わせでZEBを実現した「津山市総合福祉会館」の事例に出会い、環境部庁舎もZEB化が可能であるという認識を持つことができた。

ZEB実現が保証できない中での調査業務

課題

既存建築物のZEB化実現のためには、まずどのような手法でZEBを実現するかを検討するための調査が必要となる。既存建築物の場合、建物によってはZEB化が難しいものもあり、ZEB実現ができないとの判断になるケースもある。多くの地方自治体では、実現の確証がなければ、委託業務でZEB化可能性調査を実施することは難しく、久留米市においても同様であった。

解決方法

当時、福岡県の補助金で、市の費用負担なしでZEB化可能性調査を実施できるものがあり、その補助金を活用することにより調査が可能となった。

市民へのZEBについての説明

課題

市有施設のZEB化にあたっては、市民にZEBの様々な効果についての理解を得る必要がある。しかし、未だ“ZEB”という単語が一般化していない中、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルという言葉のイメージから「ZEBにすればエネルギー使用量がゼロになる」と誤って認識されることも多く、具体的な効果を周知することに困難さを感じている。

解決方法

市民・事業所向けの広報誌などで、地球温暖化対策の啓発を実施している。その中で、環境部庁舎のZEB事例を紹介することにより、ZEBへの理解を促している。

【事業者様のご意見】


必要十分な空調負荷の計算

課題

空調機はダウンサイジングを図ることにより、導入費が下がるとともに省エネにつながる。そのためには必要十分な空調負荷の把握が必須となるものの、具体的な算出が困難でどの程度ダウンサイジングを図ることができるのかが不明だった。

解決方法

環境部庁舎では空調負荷のコンピューターシミュレーションにより適切な空調負荷を把握した。これにより冷房能力を44%、暖房能力36%のダウンサイジングを実現した。

停電時の蓄電池による空調機の稼働

課題

蓄電池で空調機を稼働させる前例がなかったことから、蓄電池及び空調メーカーに意見を求めたところ、懸念点として、突入電流、モーターのフリーラン(※)が挙げられた。

解決方法

突入電流は、インバーター制御の場合、ほとんど発生しないことが判明した。モーターのフリーランは、停電から蓄電池の稼働の間に待ち時間を設けることにより解決した。

※フリーラン:停電が発生するとインバーターはドリップして出力を遮断するため、モーターが惰性で回り続ける。この状態をフリーランといい、フリーラン状態で再始動すると過大な電流が流れてしまう。

ZEB検討の手順

ステップ1

現状把握

設備の不具合、老朽化、建物・設備運用上の課題、室内の快適性を把握した。

 

ステップ2

断熱性の向上

特に室内の快適性が低い部分に重点をおいた断熱性の向上を図るため、BPI 0.9以下を目指し、開口部、屋根、壁の順で検討した。

 

ステップ3

負荷削減の検討

空調負荷を削減するための全熱交換換気、照明負荷を削減するためのセンサを検討した。

 

ステップ4

適正負荷の計算

適正な空調負荷、照明負荷を計算した。

 

ステップ5

高効率設備の選定

高効率な空調設備、照明設備及び換気設備を選定した。

 

ステップ6

再エネの検討

最大限導入可能な太陽光発電量を検討した。

 

ステップ7

蓄エネの検討

停電時に稼働させる設備を選定し、それらの設備を1日以上稼働させるために必要な電力量をもとに蓄電量を検討した。

 

ステップ8

省エネ性・経済性の分析

STEP1~7までの検討結果をもとに再エネ・蓄エネの規模縮小やNearlyZEBへの機能低下など、様々な組み合わせにより省エネ性及び経済性を分析した。

 

ステップ9

スケジュールの検討

ZEB化実現のための施工スケジュールを検討した。

 

ZEB化実現までのスケジュール

ZEB化実現までのスケジュールの画像

「基礎情報の収集」の具体的内容

久留米市は、環境部庁舎のZEB実現可否を判断するため、情報収集を実施した。本業務を終了する頃には、環境部庁舎はZEB化実現が可能であるとの確証を持つことができた。主な実施事項は以下の通りである。

  • ZEBに関する基礎知識(ZEBの定義、ZEBを実現するための技術など)
  • 事例調査(開成町新庁舎、津山市総合福祉会館、民間事例1件)

「ZEB化改修計画策定」の具体的内容

建築研究所計算プログラム(標準入力法)にて環境部庁舎が『ZEB』を達成することを確認し、ZEB実現のための計画を策定した。実施内容は以下の通りである。

  1. ① 外皮性能の向上及び設備改修の検討
  2. ② 再生可能エネルギー設備等の導入検討(蓄電池等の利活用を含む)
  3. ③ 建築研究所計算支援プログラム(標準入力法)を使用したZEB評価
  4. ④ 概算事業費の算出
  5. ⑤ 実施検討のための情報整理(標準的な改修と比較した省エネ量、CO2削減量、経済性)
  6. ⑥ 補助事業活用の検討
  7. ⑦ ZEB化改修のスケジュール作成

事業実施後の運用改善状況

運用改善の実施状況

  • コミッショニング事業者が『ZEB』化後の室内快適性、省エネ性能、非常時の設備稼働の検証を実施した。
  • 室内快適性は上下温度差及び照明環境を確認した。
  • 省エネ性能は、導入された設備の性能確認、エネルギー消費量の計測を実施した。
  • 非常時の設備稼働の検証は、建物を停電状態にして、設備が設計通りに稼働することを確認した。
  • ZEBプランナーがBEMSデータを分析し、様々な運用改善を提案した。

ZEBプランナーからの運用改善の提案

  • 照度センサによる照明の明るさ抑制率を調整し、照明の電力使用量を約10%削減した。(4kW程度から3.6kW程度)
  • BEMSデータの分析により、夜間のみ消費される電力使用量を発見。外灯が水銀灯のままで、建物から電気が供給されていることが判明した。その水銀灯をLEDに更新することにより、約850Wの省エネ化を実現した。
  • BEMSデータの分析により、蓄電池の最低充填率が調整可能であること、及び調整により電力の自家消費率を向上させられることが判明。最低充填率を調整し、約8割の時間で系統電力を購入せずに建物へのエネルギー供給を実現した。
  • BEMSにより太陽光発電と蓄電池の稼働状況をモニタリングすることで、蓄電池の異常充放電アルゴリズムの不具合を早期発見し、改善した。

事業実施後の運用改善を見越して実施した工夫


BEMSの導入

運用改善のためには、設備の稼働、エネルギー使用量及び室内環境のモニタリングが重要である。環境部庁舎では、空調、換気、照明、コンセント・その他、太陽光発電、蓄電池充放電を10分単位で計測している。

ZEBプランナーにBEMSデータの分析を依頼

BEMSデータの分析は、データ量が多く専門的であるため、一般の人には難しい。ZEBプランナーに分析を依頼することで、持続的な運用改善を図っている。

制御可能な内容を増やす

ZEBでは、制御可能な範囲が多い設備を選定することで、運用改善が図りやすい。例えば、明るさセンサで設定する照度、人感センサの点灯維持時間、全熱交換換気扇の風量、蓄電池の充放電タイミングと最低蓄電量などが挙げられる。

ZEBの効果

CO2削減量

53t-CO2/年(計算値)
※(ZEB化改修前のCO2排出量)-(ZEB化改修後のCO2排出量)

ランニングコスト
削減額

290万円/年(想定値)

ZEB化費用

ZEB化費用:2億500万円
実質負担額:7,500万円

国庫補助金:1億3,000万円
※1 ZEB化費用には設計費も含む。
※2 本事業では交付税措置を活用したが、実質負担額には考慮していない。交付税措置も考慮した場合は、市の持ち出しは5,400万円になる見込みである。(交付税措置額:2,100万円)

投資回収年数

26年
※(実質負担額)÷(ランニングコスト削減額)

ZEBによる増加費用の回収年数

6.7年
標準改修費:6,300万円(老朽化に伴う空調の更新及び照明のLED化)
標準改修によるランニングコスト削減額:111万円/年
※{(実質負担額)-(標準改修費)}/{(ZEBによるランニングコスト削減額)-(標準改修によるランニングコスト削減額)}

その他の効果

  • 太陽光+蓄電池を導入したことにより、事業継続性が向上した。
  • 断熱性能改善により、空調の温度ムラが解消され、快適性が向上した。
  • ペアガラス導入により、防音性が向上した。
  • 全熱交換換気扇の導入により、空調稼働時も常時換気しており、コロナ対策にも寄与した。
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