第16回有明海・八代海等総合調査評価委員会海域環境再生方策検討作業小委員会 議事録

開催日

令和7年1月9日(木)

場所

WEB会議システムにより開催(ライブ配信)

出席者

 有明海・八代海等総合調査評価委員会委員長:古米弘明委員長
(海域環境再生方策検討作業小委員会)
 小委員会委員長 : 矢野 真一郎委員長
 委員 : 上久保祐志委員、鈴木敏之委員、山室真澄委員
 臨時委員:小林政広委員
 専門委員 : 青木美鈴委員、金谷弦委員、桐博英委員、清水園子委員、速水祐一委員、東博紀委員、古川恵太委員、山口敦子委員、弓削こずえ委員、横山勝英委員、脇田和美委員
(水産資源再生方策検討作業小委員会)
 小委員会委員長 : 鈴木敏之委員長
 委員 :内藤佳奈子委員、藤井直幹委員、矢野 真一郎委員、山西博幸委員
 専門委員 : 青木美鈴委員、尾田成幸委員、岸田光代委員、松山幸彦委員、森野晃司委員、山口敦子委員、山口啓子委員
(オブザーバー)
 大嶋雄治委員、清本容子委員
(関係省庁)
 農林水産省農村振興局整備部農地資源課 佐田課長補佐、藤吉係長 
 林野庁森林整備部治山課 藤田課長補佐、矢野係長
 水産庁増殖推進部漁場資源課 津山課長補佐、贄田課長補佐、石橋係長、熱海係長、熊本係員、野田係員
 水産庁漁港漁場整備部計画・海業政策課 中村計画官、藤濱係長
 水産庁漁港漁場整備部 事業課 松﨑漁港漁場専門官、山内係員
 国土交通省水管理・国土保全局河川環境課 阿河課長補佐、木村係長
 国土交通省港湾局海洋・環境課 三谷課長補佐
 国土交通省九州地方整備局河川部 古川建設専門官、德嶋係長
(事務局)
 環境省水・大気環境局海洋環境課長、海洋環境課海域環境管理室海域環境対策推進官、海洋環境課海域環境管理室室長補佐、海洋環境課海域環境管理室主査

議事録

                                           午後1時30分 開会

○工藤海域環境管理室海域環境対策推進官 それでは、定刻となりましたので、ただいまから有明海・八代海等総合調査評価委員会第16回海域環境再生方策検討作業小委員会を開会いたします。
 本日の委員会には、発表内容に鑑み、水産小委員会の委員にも御参加をいただいております。
 委員の皆様におかれましては、お忙しい中御出席をいただき、誠にありがとうございます。
 本日は、ウェブ会議での開催とさせていただいております。会議中、音声等が聞き取りにくいなど不具合がございましたら、事務局までお電話、またはウェブ会議システムのチャット機能にてお知らせください。
 また、議事中、マイク機能は会場及び発言者以外はミュートに設定をさせていただきます。
 なお、御発言の際は、お名前横にある挙手アイコンをクリックしてください。委員長からの御指名後、マイクのミュートを解除していただき、御発言いただきますようお願いいたします。御発言後は、挙手アイコンを忘れずにクリックし、黒になるように操作を願います。
 通信状況や御発言者様の声質によって不明瞭な箇所が出てくる可能性がございますので、御発言前にお名前をおっしゃっていただき、ゆっくり大きめに御発言をいただけますと幸いです。
 また、本委員会は公開の会議となっておりまして、環境省海洋環境課公式動画チャンネルにてライブ配信を行っております。
 それでは、議事に先立ちまして、環境省海洋環境課長の水谷より御挨拶を申し上げます。よろしくお願いします。
○水谷海洋環境課課長 環境省水・大気環境局海洋環境課長の水谷と申します。
 新年明けましておめでとうございます。本年も海洋環境保全の施策の実施に当たりまして、格別の御指導、御鞭撻をいただければと思っております。
 また、委員の皆様におかれましては、お忙しい中、本小委員会に御出席をいただき、誠にありがとうございます。
 さて、令和8年度の報告書取りまとめに向けまして、令和4年3月の中間取りまとめでは、有明海・八代海等の長期的な変化を把握するため、環境データ等の蓄積、魚類等の再生産や生息の場の分布状況等のモニタリング調査等を実施、継続し、必要な場合に拡充することによって基礎的なデータの蓄積を図っていくことが必要とされたところです。また、気候変動やプラスチック汚染といった長期的、短期的な影響があるものについて、調査研究を推進することが重要とされたところでございます。
 これを踏まえまして、関係自治体、あるいは研究機関による調査研究に加えまして、環境政策への貢献・反映を目的とした競争的研究制度でございます、環境研究総合推進費を活用した研究が進められているところでございます。
 本日は、二つの研究について発表をお願いしております。一つは、山口委員に研究代表者を務めていただき、令和4年度から6年度にかけて実施していただいている、トップダウンによる生態系機能を活用した新たな干潟管理手法の提案でございます。山口委員による過去20年以上にわたる有明海・八代海の魚類生態系に関する研究とともに、新たな干潟管理手法に関する研究成果についても御発表いただければと思います。
 もう一つは、矢野小委員長に研究代表者を務めていただき、令和5年度から7年度にかけて実施している、自然外力の増加に適応する水環境保全に向けた有明海・八代海等の気候変動影響評価でございます。これまでの研究成果について、御発表をお願いしております。
 さらに、環境省からは、気候変動の影響などに関する報告を予定しております。
 委員の皆様には、御知見を踏まえた忌憚のない御意見等を賜ればと思っております。よろしくお願いいたします。
 最後に、本小委員会でございますが、昨年2月の第13回から情報収集等を行ってまいりましたが、今回の小委員会で一つの区切りを迎えることとなります。令和7年度以降は、収集してまいりました情報を基に、令和8年度報告書の作成作業を進めていくこととなります。本会合の最後に、事務局から今後の工程について簡単に御説明をさせていただければと思っております。
 本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
○工藤海域環境管理室海域環境対策推進官 ありがとうございました。
 では、続きまして、委員の出席状況について御報告いたします。本日の委員の御出席状況ですが、中島委員、桑原専門委員、仲専門委員、外城専門委員、山本専門委員より御欠席の御連絡をいただいております。そのため、本日は委員29名中24名が御出席となっておりますので、有明海・八代海等総合調査評価委員会令第6条に基づく会議の定足数を満たしていることを、ここに御報告いたします。
 また、本日は、評価委員会の古米委員長に御参加いただいているとともに、オブザーバーとして、評価委員会から大嶋委員、清本委員に御参加をいただいております。オブザーバー参加の委員におかれましては、御質問や御意見がある場合には、発言を求められてから挙手をお願いできればと思います。
 また、関係省庁といたしまして、農林水産省農村振興局、林野庁、水産庁、国土交通省の水管理・国土保全局、港湾局、九州地方整備局から御出席をいただいております。
 事務局につきましては、海洋環境課長の水谷、室長補佐の川田、主査の小原、当方の工藤が出席をしております。
 続いて、資料についてでございます。資料につきましては、事前に電子データで御案内をしておりますが、資料一式は議事次第の一覧のとおりでございます。資料に不足や不備などございましたら、事務局までお知らせください。
 それでは、議事に入ります。以降の進行につきまして、矢野委員長、よろしくお願いいたします。
○矢野委員長 はい、了解いたしました。本日、進行を担当いたします、九州大学の矢野でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 いつものことですが、限られた時間の中で円滑な議事の進行に御協力のほど、よろしくお願いいたします。
 早速ですが、議事を始めさせていただきます。本日の議題は、魚類と気候変動等に関わる情報収集等となります。
 それでは、議題1について、資料2の有明海・八代海の魚類および生態系について、山口敦子委員より御説明をお願いいたします。
○山口(敦)専門委員 ありがとうございます。
 では、早速ですが、私のほうから、これまでに明らかにしてきたことについて、少し評価委員会の立ち上げ当時からの経緯を含めてお話をさせていただきたいと思います。約20年の経緯を含めつつということです。重要なポイントに絞ってお話をできればと思います。よろしくお願いいたします。
 まず、これまでの経緯と書いているのですが、私の場合は、大学に所属しておりまして、事業の成果を発表するというよりは、委員会の委員としてこれまでにやってきたこと、あるいは研究者として有明海再生のために研究してきたことを交えて発表できればと思っています。
 この委員会は、御存じのとおり、有明海異変と呼ばれた、2000年冬のノリの大不作から始まりまして、それを契機に特措法が設定されて、2003年2月に第1回目の評価委員会が開催されました。
 この評価委員会では、魚類にまつわる問題点として、下のほうに書きましたが、魚類の漁獲量の減少と、それからエイ類の増加の可能性を指摘しています。でも、魚については当初は全く情報がなくて、ほとんど何も分からないという状態でした。私自身の研究の一環として、有明海の4県を対象にしまして、最初に市場を回りまして、水揚げや聞き取り調査等を行って、問題の抽出から始めました。そして、検討すべき事項を整理して、2006年の第1回の取りまとめですね、委員会報告にその成果を反映したというような経緯があります。それから10年ごとに報告がまとめられて、そして、間もなく3回目の委員会報告の取りまとめが控えています。そういう状況の中で、長年の間に委員もだんだんと変わっていますし、これまでにやってきたことや議論してきたことが、何回か回って最初の議論に戻ったりしないように、少し整理をしておきたいなという趣旨もあります。
 まず、エイの動態と二枚貝にまつわる問題ということで、ナルトビエイの問題を少し整理します。ナルトビエイは、1990年代後半ぐらいから有明海、主に最初は熊本の海域で増加したと考えられて、2000年頃には貝の食害というのが疑われたのですが、研究例も漁獲量の記録もなくて、エイの食性も生態も全く分からなくて、増減を示すだけの根拠もなくて、ここについては、いまだ過去に遡っても分からない部分ですので、情報がないままスタートしたということになります。
 私の方で行ってきた調査研究として、あるいは委員会に関わる検討として、まず、2001年から有明海4県の各海域で、エイの生態についての研究を始めました。2001年から県の各漁協が自主的なエイ駆除を始めたところでしたので(熊本の松尾漁協ではそれよりもさらに早く始めていましたが)、各県(佐賀、福岡、熊本、長崎)でそれぞれ行われていたエイ駆除に当初から同行しまして、4県それぞれでのモニタリング調査を始めました。
 当初は、まだどのように駆除事業をやるかとか、そういったことは全く確立されていなかったので、自分の中で得られる範囲でデータや知見を重ねていきまして、それを関係各県や国の方に提供するということをやっておりました。それをしながら単独での生物生態調査も始めたというところです。
 二、三年後から、順次、駆除が事業化されていきまして、公的な駆除事業が始まりましたので、そこにも同行したり、あるいは漁獲物の測定や解剖に行ったりしました。各県の漁業者さんと乗船しながら駆除量の計測とか、日報の作成とかのお手伝いをしつつ、(県によって漁法が違ったり、日報の書き方が違っていたので)生物データ収集のためのベースを整えていきました。でも、できればこれを単なるエイ駆除で終わらせるのではなく、将来的にはエイのモニタリングとして確立できるような手法にしたほうが良いと思いましたので、全県で統一した手法を提案したところです。
 そうして軌道修正等を繰り返しつつ、現在のような駆除量もしっかりと把握できて、モニタリングもできているという駆除事業が整っていきました。私自身のエイ駆除モニタリング調査は現在も続けておりまして、今24年目に入ったところです。
 ナルトビエイのほうは、2000年頃にはものすごくたくさんいて、図中の網に入っているのが一人の方が獲られたものですけど、現在では、獲れるときは獲れるのですが、獲れないときは全く獲れないということで、特に今年度は速報値ですが、大幅に減っているという状態です。
 魚類と水産資源に関して行ってきた検討としては、ここに書きましたように、最初の委員会報告に向けた検討として、とにかくノリや貝類に比べて、魚類の情報は圧倒的に少なかったので、どのように考えて何をすれば良いかということから議論する必要がありました。評価委員会の中に水産資源(魚類)に関するワーキンググループが立ち上がり、皆さんと一緒に検討していきました。私はその時すでに研究を始めていたので、その新しい研究の成果をグループ内で共有、検討材料として議論を始めていきました。
 結果、全漁獲量に対して、有明海に関しては、底生魚類が占める割合が多くて、それらの減少程度が大きいということを推定できました。ただし、魚類に関する知見が著しく少なかったので、突っ込んだ議論は全くできない状況でした。
 ですので、最初にこの時の検討結果がたたき台となって、今も続いておりますが、最初の委員会報告で、海域を幾つかに、環境に応じて幾つかに、A、B、Cというように分けて、産卵場がどの海域にあって、産卵期がいつで、稚魚がどこに出現するか、成育場はどこにあるのかというようなことを整理していきました。これが結果的には、その後に評価委員会のほうで設定されたもう少し詳しく分けられた海域区分に、非常に対応していました。それでこの海域区分に基づきより詳しく調査、研究して各種魚類の知見を明らかにしていったということになります。今のところ代表的な魚種については、生活史ステージに応じた生息海域等について明らかになりつつあります。1種ずつの研究に相当な年数がかかりますが、ようやくいろいろなことが分かってきて体系的な情報が集まってきたというところです。
 2006年の最初の委員会報告に向けた検討の際には、エイ類増加の指摘に対しては、エイの種や分布状況とか生態について知見がなかったということと、二枚貝への食害に関する実態についても調べることは非常に困難という状況でした。しかし、いまだに食害があったかもしれないと根拠に基づかずに推定するだけで、食害についてその海域でどのくらい食べられて、被害がどのくらいかを見積もることですら難しい状況です。
 ただ、難しいものは難しいので、それができていないことが悪いというわけではなくて、もともと非常に難しい見積りだと思います。なので、無理に数値を出すのではなくて、できる範囲で分かるところまでを明らかにしていくという方が重要なのではと思っています。
 それから、魚類相についても知見がなかったので、整理をしたところ、過去(2001年以前)には定性的な研究のみで定量調査がなかったということ、特殊な干潟を持つ湾奥部に研究が偏っていたということと、あと標本が残っていないので、調査報告書に魚種名が書かれているけれど検証ができないこと、あとは魚市場での調査も多くありましたので、有明海で獲られたものかどうか分からないということもありまして、結果的に、有明海全域を対象に、研究をもう一度やり直すことも含めて、魚類相について改めて明らかにすることにしました。あとは魚類研究の対象外になってしまっていたエイとサメです。それから各魚類の分布・生息状況、生態、あとは貝類との関係など、研究を行ってきたところです。そして、いずれも研究に時間がかかりましたので、ようやく一つずつ成果として論文をまとめることができて、順次報告をしているところです。
 これは、有明海と八代海の環境と魚類に関する知見ということで、以前にもお見せしたスライドですが、全貌を把握するための魚類に関する知見は非常に乏しかったのが現状です。
 このスライドに改めて有明海と八代海の環境について、ざっと整理をしておきました。有明海については、特に平均水深は浅いのが特徴ですが、深いところも多く、干潟面積が非常に大きく、干満差が大きい、流入河川が非常に多い、河川流入面積が非常に大きい、そのような特徴があって、それに応じた魚類相、あるいは生態系が形づくられているということが分かってきております。
 このスライドには有明海と八代海の海面漁業生産量の経年変化を示しております。ここには養殖は含まれておりません。全体の中で、八代海では魚類の占める割合が多く、有明海では貝類が非常に多いことが特徴的です。これは本来の生態系の特徴というのが垣間見えておりまして、この貝が多い生態系というのは有明海の特徴で、そういう海域環境、干潟面積は日本の約4割に及ぶということで、それらを示している生態系だと理解できます。本来どういう海で、どういう生態系なのかは非常に重要なポイントで、こういった全体像を常にとどめておきつつ、研究をやっていくことが重要です。
 あと、経済的な価値の面からも、この貝類が非常に多いことが、有明海の魚類の研究を遅らせてしまった要因であるということも理解しましたが、一方で、魚類の研究が非常に難しい海域だということも、研究を始めていって、よく理解しました。
 これは県別の魚類の漁獲量ですけれど、ざっと有明海と八代海を見ていただきますと、この減少のパターンが異なっています。また、有明海に関しては、内訳を見ていきますと、いずれもほとんど底魚が中心で、八代海に関しては、熊本県海域では底魚が多いのですが、鹿児島県海域では浮魚が多いということで、このような変動パターンの異なる傾向が整理できました。
 それから、県別の漁獲量を幾つか示しますが、ここでは主要な底生魚類の漁獲量として、委員会報告でもずっと取り上げてきたニベ・グチの漁獲量について、まず漁獲量の推移をどう見ればいいかということを示しております。
 漁獲統計を、これは県別にまとめておりますが、これは単に県別にまとめたというわけではなくて、当初からこの県別にまとめることで、県の地先ごとに異なっている環境を表現することができます。こういった統計というのも、例えば、ニベ・グチの場合では、シログチとコイチを区別せずに統計データに入っておりますが、これを区別できないと、種別に解析すらできません。しかし、県別に違いを見ることで、おおよそ、例えば長崎県海域であればシログチの漁獲量を表しているとか、佐賀県海域であればおおよそコイチの漁獲量を表しているというような区ができるということが分かりましたので(各県での水揚げ状況や漁獲物の調査、漁船での調査など現地調査を行った結果)、それでこのように県別に示すようになり、それが今も続いています。
 ちなみに、このコイチは、シログチもですが、この委員会での検討が始まって、水揚げ等の聞き取りを始めたときに、多くの漁業者さんが最も資源が減少したと感じているものということで挙げられたものです。なので、一番に扱うことにしたことに加え、シログチはこの水域で最優先種であるとわかったためです。
 八代海のほうでも、同じようなニベ・グチ類の傾向が見られていますが、こちらはまだ研究中で、有明海のように理解が進んでいないので、この内訳を種別に分解するというところには至っていないです。八代海では、有明海ほどシログチが多くないということも分かっていまして、あれだけたくさん有明海では見られるのに対して、八代海では、少なくとも奥部ではほとんど見られていないということが分かっております。
 それから、シタビラメの漁獲量も、同じく減少傾向が続いております。この中には、少なくとも6種が混在していることまでは分かってきたのですが、これは分解するのが非常に難しくて、種別の傾向については、まだ明らかにすることができていないです。
 それから、八代海でも同じくで、基本的に有明海・八代海ともに底生魚類が皆、右肩下がりの減少傾向にあるということは読み取れております。
 それから、コノシロについて見ていきますと、コノシロは、どちらかというと浮魚的な要素が強い魚です。コノシロのほうは、両海域ともに水産上重要な種になっていまして、サイズによって呼び名が変わる出世魚です。非常に価値が高いのですが、特に幼魚、未成魚の価値が高いですが、いずれも近年は減少傾向にあるということが分かっております。
 それから、貝類ですが、貝類は1970年代から徐々に減少傾向にありまして、近年は非常に著しく減少しているのですが、これに対してナルトビエイの駆除量を重ねてみますと、これはナルトビエイ以外のものも入っておりますので、ナルトビエイはこれよりも少ないと思っていただければいいですが、この図を見ていただきますと、2005年以降、ナルトビエイも減少傾向にあります。貝も減っており、ナルトビエイも減っているという、そういう現状です。
 二枚貝の食害問題とナルトビエイ研究の経緯について、このスライドは分かりやすいようにまとめたものです。私はこの20年間に何度か委員会での報告を行っているのですが、その発表資料がインターネット検索したときに個別に引っかかってしまうので、それがいつの時点の、どのときの報告を表しているのかが分からなくて(最近のものにはいつの会議のものかを明記していただいているので何時の資料かは分かるようにはなったのですが)、委員会の資料だということをご存じなく古い方の資料を文献として使われている方がいて、そういうことでまた混乱が見られるため、このスライドに少し整理しておきました。
 ポイントとしては、2番目のところ、最初はこの種小名、flagellumという種類、熱帯の種類だとみなされておりましたので、この学名を使っていたのですが、これが間違いだったということが後に明らかになりました。最初は、私も論文でこの学名を使っていましたが、現在は、我々のグループでこの種類が新種で、東アジアの特産種でもあり、希少種であるということを明らかにしましたので、このnarutobieiという種小名をつけました。これが正式な学名となります。2013年からこの学名に変わっておりますので、以前に私たちが使っていたものは同じ種だと見ていただければと思います。
 ナルトビエイですが、駆除の経緯はここに書いてありまして、増減を示す根拠はないというのは、先ほど言ったとおりです。エイの生態の調査については、ほかの種類についても、あるいは国内外を問わず、ほとんど過去にありませんでしたので、まず、そのエイの調査をどうやってやるかというところから検討を始めまして、そして最初に明らかにしたのが食性・成長・回遊の研究で、ナルトビエイが貝を主な餌とすること、専食すること、そしてメスがオスに比べて長寿で、著しく大きくなることなどを明らかにしました。
 近年出版した論文の中で、ナルトビエイが夏場は有明海にやってくるのですが、冬はどこにいるかというのはずっと分かっていなかったのですが、冬は橘湾等を経由して、越冬場所となっている外海の天草灘などで過ごしているということが分かってきましたので、その点、論文の中でも言及しました。
 それから、分類については、先ほど言ったとおりで、2013年以降、学名が変わっております。
 それから、もう一つは、19年かかってナルトビエイの繁殖生物学と生存戦略を解明できました。それが比較的新しく出た論文です。ごめんなさい、これは2021年ですね。
 食性調査については、私の方で24年間継続中ということで、こちらは後で見ていただきます。
 ナルトビエイの駆除事業の長期モニタリング調査について、ここでスライドをまとめております。2001年から各県のナルトビエイの駆除事業に定期的に同行して、研究をやってまいりましたが、最初は、どうやっていいか分からなかったので、手探りで始めました。まず、標識放流調査を始めまして、有明海内の各県をナルトビエイが横断的に交流して移動してきていることが分かりました。24年間たった今もずっと調査を続けておりまして、これは現地で食性調査をしているところですが、これが胃内容物の分析中の一コマです。
 こうした食性調査をずっと24年間やっているのですが、ナルトビエイの場合は、貝を割って食べて、貝殻を全部外に吐き出して中身だけ食べておりますので、貝の中身だけで種を同定するのが極めて難しいということがありまして、最初、同定するのは本当に困難だったのですが、今はこの貝の中身だけでも大体貝の同定もできるようになり、時々DNAでチェックをして、合っているかどうか確かめるという、そういうやり方でやっております。DNAのメタバーコーディングの手法でもできるのですが、基本的に定量的な調査が必要なので、まずこの全体の胃内容物を直接観察するという手法を続けております。
 それから、新しく分かったこととしては、トビエイ目の再生産戦略ということで、ナルトビエイの繁殖生物学を明らかにした論文をまとめたものです。エイ類が世界に600種類ぐらいおりまして、そのうち胎生のエイが数百種類いますが、ナルトビエイのみならず、今まで世界中のエイの繁殖生態はちゃんと分かっていませんでした。このナルトビエイが、我々が行ったアカエイの繁殖生態の結果と合わせて、詳しく調べることができた世界でも初めての例となりました。
 詳細については、論文とここに書いてあることを読んでいただければいいですが、特筆すべきこととしては、エイが休眠するということです。このエイは、ここに胎仔の成長を示しているのですが、有明海に4月頃にやってきて、近年では5月ぐらいやってきて、そしてこのように夏場はここで過ごして、そして冬になるといなくなる、これが先ほど言った外海で越冬するということです。
 夏の間、有明海に来て何をするかというと、餌を集中的に食べるということもあるのですが、ここに書きましたように、ナルトビエイは胚を休眠させることで、非常に厳しい、ごくごく限られた環境の中で、最適な夏場のみに胎仔を発育させることができます。胚休眠という生存戦略を採用することで、何とか生き延びていることが明らかになりました。出産の後、交尾を秋口に行います。雌の体内で受精後、胚発生が始まりますが、一旦胚の発育を停止させ、その後9.5か月もの間、外洋での越冬時も含めて胚の休眠が続きます。そして有明海で過ごす暖かい時期に突然、休眠が解除します。それからエイの胎仔はものすごい速さで成長をとげ、最初の受精卵の重さから3万%ぐらい、僅か2.5か月で大きくなるということが分かりました。生物学的な知見としても、非常に目新しく、今後の進化を考える上で重要な知見ともなっております。
 ナルトビエイの生存可能な環境条件は、実は極めて厳しくて、水温等も限定的ですし、二枚貝が豊富な餌場がなくてはいけませんし、遊泳力が強くないということが分かりましたので、近くに越冬場が用意されている必要があるということで、この全てが整った環境としては有明海が最も適しているということで、有明海が重要な成育場、生息場になっているということが分かってきました。
 この長期の胚休眠は幼魚だけではなくて、親にとっても有利な生存戦略で、これにより何とか生き延びているということが分かったのですが、現在、行っている個体群動態の研究では、もともと個体数が増えにくいサメ、エイの中でも、ナルトビエイはさらに増えにくいことが分かってきておりまして、当初は、漁業者さんたちがどんどん増えるエイだとおっしゃっていたのですが、私が行ってきた長期にわたる研究で、一気に増えることのないエイだということも明らかになってきております。この辺も、順次、研究の成果を論文として公表できればいいと思いますし、先ほどお見せしました食性については、24年分の食性を明らかにしたものを、今後、論文にまとめて公表していく予定です。
 このスライドに書いた環境研究総合推進費の研究については、冒頭で御紹介いただいたものですが、これについては、ちょうど今年度、取りまとめの年になっております。まだ未発表のものが多く全て発表することができないので、どのようなことをやっているかということを、お話しさせていただこうと思います。
 研究の背景等については、今大体お話ししてきたようなことで、問題としては、今まで水もきれいにしてきて、エイも駆除したけど貝が増えないということがありまして、では、どうなんだというのを考えますと、生態系というのはエイと二枚貝という単純な関係性だけではなくて、複雑な食物網のネットワークが存在するので、今のところ効果的な施策がなくて、何とかこの食物網のネットワークを明らかにして、従来の水環境管理に代わる新たな手法を開発できないかということで、この研究を提案したというものです。
 この研究では、生物多様性保全の基盤となる生態系機能の活用を図るために、これまで著しく知見が欠けていた高次捕食者に着目しました。今まで、ほとんどが貝類等のどちらかというと低次の生物が着目されてきて、それに対する捕食者としてエイに注目するだけだったのですが、調査研究を進めてきて有明海には高次捕食者が豊富に存在するということが分かってきましたので、高次捕食者、つまりトップから下に向かって生態系を捉える、そして生態系の機能を活用して、生産性の確保と生物多様性の保全を両立させるための生態系機能を活用した新たな管理施策を提案することを目指してやっております。
 これは今まで知見が欠けていた魚類やベントスの知見を充実させて、低次だけではなくて、全栄養段階を網羅した解析を行うことで、魚類の分布や交代を決定づける物理環境場の変化も加味してトップダウン効果を検証し、つまりトップを管理する、すなわち保全することで、生態系全体を健全にするというもので、閉鎖性水域の新たな管理施策を提案するということが狙いとなっております。
 研究はこのようなチームでやっておりまして、サメやエイのような大型の魚類からベントス、そして物理場までも含めた各グループの専門家により研究を進めております。特に、今まで生態系でいうと低次のみが注目されることが多かったのですが、分かっていない上位の、高次の捕食者というのがたくさんおります。こちらを明らかにすることで生態系全体を把握して、そしてトップを保全することで、下に向かって全体を、その生態系機能を活用した自然の機能を活用した保全施策、管理施策が提案できないかということで進めております。
 私の方の研究内容として、ここに挙げた項目について行っていますが、ポイントとしては、まず、生態系の中でも、栄養段階3以上の高次捕食者を主に扱うということで、魚類以上を主に扱います。これらの生物を網羅的に明らかにして、そして、それぞれの種ごとに食性を調査して、あるいは生態も調査します。高次捕食者の食性(餌)を把握することで、上から下に向かってこのように食う食われるの関係でつながっていきますので、全部を調査しなくても上から下までつなげて食物網を把握することができるという、その視点で研究を進めております。これは今までの20年の研究もベースになっておりまして、ようやくこの生態系の全体像をつかむことができつつあります。
 最終的な成果は、まだ、お話はまだできないのですが、今取りまとめを頑張っております。このようなEcopathの生態系モデル、食物網のネットワーク図が描けております。これをもっと多くの機能群で描いておりまして、そして、それぞれの食う・食われるの関係をつないでいくことで、何が増えると何が減るかといったようなことも明らかにし、そして栄養段階の高い頂点の捕食者も明らかにすると同時に、keystone種ですね、個体数は少ないけれども生態系の中で重要な種も明らかにしまして、それらを保全あるいはモニタリングすることで、生態系全体を保全するという、そういう考え方に基づいております。
 今のところ順調にできています。今日詳しい成果を発表できればよかったのですが、もう一年あれば発表できると思います。論文をまとめて公表してからこのような場で発表させていただければと思っております。
 これに物理場の研究も行っていますが、このスライドはサブテーマ2のベントスで、こちら網羅的にベントスの研究をしていまして、高次捕食者の胃内容物から出てきたものを下に向かってつないでいくという作業をやっております。
 それから、これが物理場のほうです。トップの捕食者、上位の捕食者というのは、水温・塩分ですとか、その物理環境によって、分布も、それから生息状況も大きく変化します。それについては、今までの20年のフィールドでのデータもありますので、それらに基づい研究しています。今このモデルもできたところで、どういった環境になると何が卓越してくるかということを調べて、今年度中に取りまとめをすることになっています。すみません、途中経過です。
 それから、胃内容物についてはとても重要な項目と考えておりまして、ひたすら全ての魚類等について胃内容物を調査しております。定量的な手法もとても重要で、今まで生態系モデルを多くの海域で明らかにされているのですが、ほとんどが、(特に上位のものについては調査が大変なので)、ほとんどの場合で、どこか別の海域での文献値が使われています。私たちの研究では、文献値ではなくて、その場所での研究、その生態系での食性、その生態系での生物の食う・食われるの関係をきちんと把握することで、ネットワークをより正確に把握するということに注力をしております。
 ですので、実際にこの生態系モデルが構築できましたら、今回それこそ栄養塩とかまでは至っていないのですが、低次生態系のさらに詳しいところまで、検討していくことができると思います。とにかく、現場で使えるモデルを作ることを第一に考えております。
 アカエイについても食性調査をやっておりまして、これもスライドを見ていただければいいのですが、今後、論文にまとめて公表して、またその後で委員会で報告できればと思っています。
 これらの図は、これまでに幾つかお話ししてきた生物の生活史の海域利用パターンですが、これは何に使うかというと、これらのパターン等も含めて、これも全部生態系モデルに組み込んでいきます。ですので、今まで発表してきた個別の研究が、ここで初めてモデルに生かされることになります。
 それから、この辺りは資源の減少要因をどうやって見ていくかというところですが、こちらについては、このスライドにまとめておりますので、見ていただければと思います。
 シログチの初期減耗に影響を及ぼす物理的要因については現在も検討中と書いたんですけれども、水温・塩分、それから貧酸素水塊等もあるんですが、これらの項目が今シログチの初期減耗、つまり資源の減少要因に影響するということは分かってきていて、一つ分かったことは先ほどのサメ、エイもそうですが、ほとんどの魚類が、水温・塩分に分布が規定されるということです。分布、あるいは初期減耗も規定されるということで、非常に重要だということが今分かってきました。
 これまでに行ってきた仔稚魚調査ですが、これもモニタリングをずっとやっております。見ていただきたいのは、仔魚がたくさん採集されていれば生残が良かったのかというと、そうではないということが分かった、というのがこのスライドの図です。当初はシログチ仔魚が定点に多く見られた年には、シログチがたくさんいたと考えていたのですが、実はこれはシログチが成育場に運ばれなかったことを意味しています。ここに成層ができてしまって、中央部の産卵場から湾奥部の成育場へ到達できなかったので、仔魚がたくさんトラップされて分布密度が高くなっているだけで、実際にはここで多くが減耗してしまって、翌年の加入が少なかったことが分かっています。
 それから、トラフグの生活史ですが、これまでにトラフグも20年ほど研究してきたと思いますが、フィールドで研究をして、仔稚魚がどう輸送されるか、あるいは成魚がどう産卵をして、どう回遊するかということを明らかにしてきました。
 こちらについては、このスライドにまとめたとおりで、非常にダイナミックに回遊します。トラフグの場合は、種苗とか養殖に関しての研究は非常に多いですが、天然魚の生態が分かっていないところがネックでした。
 これらのトラフグについては、実は私たちの研究で、サメよりもさらに速く、大きく移動するというようなことも分かっておりまして、産卵後、有明海の産卵場を離れれば大回遊するのですが、それらも含めて全生活史を解明して、トラフグがなぜ減っているのかということを明らかにしています。もう一つは、種苗放流の問題です。種苗放流については、今後も有明海再生方策でかなり重要視されていくと思いますが、種苗放流は、特に魚類に関しては、貝類とまた違いまして、魚類本来の行動ができなかったりですとか、様々な問題もあるということが近年明らかにされつつあります。
 このトラフグの研究について少しだけ紹介させていただきますと、フグ科全体を通じて、まず耳石が非常にいびつで難しい形をしておりまして、これまで年齢査定ができていなかった課題となってましたが、耳石を用いて新たに技術開発を行いまして、私たちの年齢査定の精度が一気に向上したことで、トラフグの天然魚と、それから放流魚の年齢、成長、それから死亡率などを評価できるようになりました。これは、フグ科を通じても世界で初めてです。今までは脊椎骨で年齢査定をされていたのですが、脊椎骨による精度は低くて、少なくとも耳石で行う必要があるということも、この論文中で明らかにしました。
 もう一つは天然魚のほうが放流魚よりも、同じ年齢で比べても大きく、そして長く生きる可能性があるということを言及しております。ここではオスのグラフを示したのですが、メスは個体数が少なくて、傾向は見られているものの、十分ではなかったので、個体数が十分得られたオスを示しております。
 このように、各年齢時に比べても天然魚のほうがより大きいですし、体重にすると更にこれだけの違いがあらわれます。そして、この傾向は、過去の研究でも明らかにされておりまして、上田ら(2010)の論文でも、実は同じ傾向が見られております。ただ、その論文中では、トラフグの放流魚が、放流したことによって一時的に成長が下がってしまったために、このような差が開いたと書かれていたのですが、それであれば、その後同じような成長になるはずです。しかし、この図だと我々の結果と全く同じように、天然魚のほうが終始成長が良い傾向が見られております。これについては、遺伝的多様性の問題ですとか、注目すべき様々な問題がありますので、今後も注意して調査する必要がありますし、もしこのような再生方策を進めていくのであれば、必ず専門的に検証することが必要だと思います。天然魚の成育場が限られている場合に、特に放流魚の影響は大きいことは世界的にも確かめられておりまして、サケ科などでも、今は気をつけてやられているようなところがあります。こういう状態の中で、放流魚は親の遺伝的多様性が低いこと、それから、トラフグに関しては毒を持つのですが、この毒が本種の生存にとっては非常に重要な役割を果たしており、例えば、免疫のことですとか、あるいは捕食を防ぐなどがあるのですが、いまは無毒の大きなトラフグ幼魚が放流されておりまして(天然の幼魚はその時期放流魚よりもかなり小さいが、すでに毒を保有していることが明らかにされている)、毒がないことよりも、幼少期に長く自然と違う状態で育ったことが、一つは問題なのかもしれないと思います。
 年齢組成も明らかにし、死亡率は天然魚に比べて放流魚が2倍高いことも明らかにしました。あと、耳石の奇形率も放流魚では非常に高いということが分かっておりまして、諸々考えると、今後も、この天然と放流魚については注視していく必要があります。
 魚類相の研究はスライドを見ていただければ分かります、星は私が拠点としているところで、有明海全域を網羅するようにやっております。有明海での魚類相研究の難しさは、またいずれお話しできればと思います。
 八代海のほうは、これは環境省の事業でやっているものですので、資料に挙げたものを見ていただければ分かと思います。仔稚魚の調査研究をやっておりまして、八代海でも成育場がどこにあるか等々を研究しております。
 八代海の羽瀬網で種組成なども調べていますが、このポイントとしては、近年コノシロが非常に減少していることです。昨年度も、一昨年度も、コノシロが今まで非常に多く獲れていたのが獲れなくなっているという問題が生じています。
 最後のスライドは生態系構造は両海域で大きく違っており、それぞれに研究が必要、という趣旨です。以上とさせていただきます。ありがとうございました。
○矢野委員長 山口委員、ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明につきまして、御意見、御質問等を承りたいと思います。御質問等がある場合は、挙手ボタンで手を挙げていただければと思います。よろしくお願いいたします。いかがでしょうか。
 では、私のほうから、一つ簡単な質問をさせていただきたいのですけど、資料の14ページに、先生たちの分類学的研究の結果、ナルトビエイが希少種であるということが判明したと書かれてあったのですが、希少種であるとした場合、駆除することは何か問題になったりはしないんでしょうかというのを伺いたいです。
○山口(敦)専門委員 今、環境省の評価では準絶滅危惧種になっておりまして、IUCNのほうでは絶滅危惧種になっています。今のところ駆除が駄目だとか、そういう法的な拘束力はないのですが、今後、希少種であるということも踏まえて、先ほど言いましたように、個体群の成長率も非常に低いですので、この種が絶滅することがないように注視はしていかないといけないですので、駆除事業の在り方についても徐々に考えつつ、少なくとも管理型に変える必要はあるのでは、と思っています。
○矢野委員長 その餌環境的にも、今、有明海自体、悪化していると理解しているのですが、やはり、それでも駆除しないと、より二枚貝等への影響が大きいので、駆除を続けないといけないという考えになっているのですか。
○山口(敦)専門委員 そうです。これは実は分からないのですが、どこがどのように被害を受けているかを科学的に実証することは非常に困難だと思います。今それを調べる手法というのを開発しておりまして、少し明らかになってはきているんですが、想定されているほど食害は多くはないというところです。
 ただ、漁業者の方々が心配するのは、やっぱり増えたら貝が食べられるのではないかということで、予防的な意味も含まれている感じもしています。
 現状、エイは食べる貝がなく、調べてみると非常にお腹をすかせています。エイの分布は水温・塩分に規定されますので、行ける場所と行けない場所がありまして、必ずしも水のあるところはどこまででも行ってアサリを食べるというわけではなくて、餌生物としては二枚貝の中でアサリの優先度が低いということは分かっております。どちらかというと、サルボウやタイラギのほうが好みの餌になると思いますが、ただ、それもないので、この24年間の食性解析結果を今まとめているのですが、年々食べる量が減ってきております。だから食べるものがないので、実は今年、ヤドカリを食べていたということが分かりまして、食べるものがなければ食べないということのようです。
○矢野委員長 分かりました。ありがとうございます。
 続きまして、三人手が挙がっておりますので、順番に古米委員長、速水委員、山西委員の順番でお願いします。まず、古米委員長、お願いします。
○古米評価委員会委員長 どうもありがとうございました。有明海・八代海に関する魚類を中心にした生態系が明らかになってきているということで、評価委員会としてもそうでしょうし、環境省として今後どうすればいいかを考えるための基本的な知見が得られており、非常に多大なる情報提供をいただいていると思います。まだ今の段階では難しいのかも分からないのですが、今回の研究の中で、科学的な知見だとか基礎的な知見から、ではどんな方策を取ると再生に近づくのか、あるいは再生方策において、この点を留意しないとうまく機能しないとか、あるいは、さらにこういうデータがないと、より精査できないということを最終的に取りまとめていただくのが大事かと思います。環境研究総合推進費では、環境政策にどう生かすのかというのが問われてくると思うので、まだ取りまとめの段階で考え中かも分かりませんけれど、もし可能な範囲で、どのようなことをお考えかをお話しいただければ幸いです。
○山口(敦)専門委員 ありがとうございます。いろいろあるのですが、一つは、このテーマにもなっているサメの保全です。サメが、アカエイとかナルトビエイを食べるのが好きだということは分かってきておりまして、そもそも頂点の捕食者であるサメの減少があって、エイが増えたかもしれないことが一つは分かっております。そのサメについても、同じく駆除されてきたり、漁業で多く漁獲されてきた経緯がありますので、サメを駆除の対象とするのではなくて、管理の対象とし、捕食者をある程度しっかりと残しておく。有明海には、サメ、エイが22種もいることがわかったのですが、そのような海域は日本のほかの内湾ではみあたらす、それだけ大きな生態系があるのは好ましいことだと思うので、少し見方を変えてサメの保全等を行って、サメが、エイや、あるいは人間からいうとあまり好ましくないようなアイゴですとかそういうのもよく食べますので、生態系の調節機能を働かせるような海に再生するというのが一つで、生物多様性も同時に守るということです。それから、もしサメが増えれば、食物網を通して貝も増える方向に向かうことが、今計算では出てきていますので、そういった機能ですね、一見サメと貝は直接つながらないように思うのですが、全てつながっていますので、一捕食者を保全するという考え方でやっていくということと、あとは先ほど言ったんですけど、物理環境ですね。水温・塩分の変化というのは、やはり豪雨とか温暖化とかもそうかもしれませんが、昔に比べて有明海全体の特に塩分が変化しているのではないかと思いますので、そういった変化がもしあったとすると、過去に比べて、塩分が高いほうが好ましい種類が増えている可能性があります。
 そうすると、頂点から生態系構造が一気に変わっていきますので、サメ、エイ類を含めて、栄養段階が高いものが22種いるわけで、どのようにも置き換わっていきますから、それがそういった環境の変化によっても変わっていくということを考えると、これは対策はできないので、今後どう変わっていくかとか、温暖化だとどうなるかとか、豪雨だとどうなるかとか、そういったことを予測しながらシミュレーションして、どの生物を保全するといい傾向になるかを見ていくのが一つかと思います。最終的には、十分な漁業資源を得ることと生物多様性が守れことが重要なので、貝や、重要な資源が増える方向に働く生態系がどういうものかを示せればいいのかなと思っています。
 あと、もう一つは、放流のことを先ほどお話ししたのですが、魚類の放流に関しては、世界的にもいろいろと問題もあるということが分かってきておりますので、もしこれから有明再生事業が一層盛んになっていくということであれば、できれば客観的な評価というのをきちんとできる体制を整えておいたほうが良いと思います。過去の失敗とか、そういうことを責めたいわけではなくて、生態系は長い時間をかけて変化していくので、すぐに結果が分からない、やったことがどうなったかがすぐに分からないのが怖いところです。トラフグに関しては、水産庁の方で、再生産の失敗により資源が減ったということは明らかにされています。結構長い年数、すごく集中的に放流されてきているので、資源が増えてもよさそうですが、増えていないという現状があります。そこは考えつつ、できれば皆さんで、私たちはそういったデータに触れることができませんので、データや試料を共有していただくことができたら、より多くのトラフグを調べて、よりよいやり方を皆さんで考えることができるかなと思っています。
 幾つか重要な点は以上です。ありがとうございました。
○古米評価委員会委員長 どうもありがとうございました。
○矢野委員長 よろしいですか。
 それでは、速水委員、お願いします。
○速水専門委員 速水ですが、大変面白い御発表をありがとうございました。
 ナルトビエイについてお聞きしたいのですが、ナルトビエイについては、漁業者の実感としては、2000年代の初めぐらいを中心にして大きく増えたというような経年的な変化があったという、これは多分間違いないと思いますが、一方でもって、ナルトビエイの生活史を解明した結果からすると、急に増えたり減ったりというのはなさそうだと。
 そうなると、分布域が変わってきたのではないかということが推定されるわけですが、その辺り、どうお考えですか。
○山口(敦)専門委員 分布が変わったと、一つは思っています。今現状では、世界を見渡しても、有明海が恐らく最も重要なナルトビエイの生息場であり、繁殖場でもあることが分かっています。江戸時代の文書からもナルトビエイは見られますので、九州には本来ナルトビエイがいて、御高齢の漁師さんたちに最初(2001年当初)に聞き取りしたときも、少なくとも1950年代から普通に有明海にいたということですので、恐らく、タイラギ漁場あたりの少し深場にたくさん昔はいて、それが貝がなくなったからではなく、貝がなくなったこともあるかもしれないですが、恐らく海洋の環境も変わって、比較的沿岸に行きやすくなったということが一つはあるのかなと思っています。こちらもモデルで出せればいいなと思っています。
○速水専門委員 分かりました。有明海以外も含めた、もう少し広域的な分布の変化については、可能性はいかがですか。
○山口(敦)専門委員 これもずっと、今、大阪湾辺りまで全部調査をしているのですが、ただ、有明海ほどいる場所がほかにあまりなくて、有明海に比べると非常に小さな個体群がどこにもあるという程度です。
 ほかの地域については、瀬戸内海については、有明海が増えた3年後ぐらいから少し増え始めたようですので、先ほど話しましたように、ナルトビエイの遊泳力は実は高くなくて、トラフグに恐らく簡単に負けるぐらいだと思います。なので、あまりたくさん一気に、例えば有明海から瀬戸内海に一気に増えたわけではなくて、越冬に成功する個体が増えていったことで、徐々に分布が北に広がったのではないかなというようなところが見てとれているのですが、現在では、ほかの海域では、そんなにもういないです、少ないです。
○速水専門委員 分かりました。ありがとうございました。
○山口(敦)専門委員 ありがとうございます。
○矢野委員長 それでは、引き続きまして、山西委員、お願いします。山西委員の後に、オブザーバーで参加されている委員にも御意見があれば伺いたいので、もしあるようでしたら挙手のほうをお願いします。
 それでは、山西委員、お願いします。
○山西委員 山口委員の御発表は、いつも興味深く聞かせていただいているのですが、二つ教えてください。一つは、随分前に、先生が多分お話ししていたのですが、南方系にいたナルトビエイが、水温が徐々に上がっていくことで、有明海の中にナルトビエイを追っかけて、さらにシュモクザメがやってきたというお話を聞いて、非常に興味深く、昔思っていました。先ほどの速水委員が御質問されたのとかぶるのですが、そういう温暖化や水温との関係の話はなかったような気がしたので、現状として20年ぐらい変わってきている中で、ナルトビエイとシュモクザメとの関係だとか、その分布域が先ほどのお話だと変わっているのか、その状況的にはあまり変わらないということなのかということです。
 もう一つは、別の学会の講演会で、ハイブリッドフグの話を聞いたことがあります。つまり、そのトラフグも天然物と放流とで交配したほかの種のもいるのではないでしょうか。そのようなハイブリッドフグはどこに毒があるのかが分からないで困っているというお話でしたので、そうすると、先生が比較検討されている年齢だとか、その天然と放流との違いだとかいうのを、調べることができるのかについてお聞きします。以上、2点をお願いします。
○山口(敦)専門委員 ナルトビエイとシュモクザメの関係性については、少し違っていて、先ほどお話ししたとおり、もともと有明海にはナルトビエイはいて、別の方々が多分南から来たんだと言ったのが研究の最初のころです。
 私は、当初から漁師さんたちに聞いて、有明海にいたというのと(皆さん分かっていなかったのですが)、古い写真の中にナルトビエイを見つけたりしたので、日本にもいたということは分かったんです。なので、熱帯性ではなかったということです、恐らく。はっきり昔は根拠がなかったのですが、今ははっきりと、これが熱帯性ではないということは分かるのですが、温帯性でもなくて、住める水温帯が非常に狭い種類だということが分かってきています。
 シュモクザメとの関係性は分からないのですが、シュモクザメも漁師さんたちは増えていると言うのですが、これは増えているとか、減っているとかというのを議論するような資料がないので。ただ、シュモクザメの研究については、これからより力を入れてやっていこうと思っているので、もう少し待っていただいたら、新しい知見が出せるかな。シュモクザメは大きく、三、四メートルありますので、また個別に追いかけないとできないので、今後改めて研究しようと思っています。
 また、ハイブリッドについて、私、結構長年調査を行っていますが、ハイブリッドだなというのはそんなに出てこないです。だから、通常の調査でやっている範囲では、それを気にかけてしなければいけないというほどではないと思いますので、恐らくトラフグとシマフグが外見は全然違うのですが、分類的には近くて、雑種があるという話なんですけど、見たことがないです。なので、現状では、それについては言えることがないです。
○山西委員 はい、分かりました。ありがとうございます。
○山口(敦)専門委員 ありがとうございます。
○矢野委員長 あと松山委員から手が挙がっておりまして、もう時間が来ておりますので、松山委員で最後にさせていただきたいと思います。
 松山委員、よろしくお願いします。
○松山専門委員 トラフグの放流のデータですが、示していただいた図を見ると、確かに放流魚と天然魚に差があるのですが、これはオスのデータなんですね。メスのほうはどうだったのかというのが1点。
 あと、元の論文を見させていただいたのですが、サンプリングサイズが天然魚と放流魚でかなり3倍ぐらい違うので、どうしてもサンプリングサイズの小さいほうは高齢魚の検出感度が落ちてしまうのではないかなと思っていたのですが、その辺はどのように解釈されているのでしょうか。
○山口(敦)専門委員 そうですね、サンプリングも相当やっているのですが、金額的に非常に高い魚ですので、1匹何十万円という単価になることもありますので、サンプル数が非常に少ないとは思わないのですが、ただ、おっしゃるとおり、メスの特に放流魚はたくさん取れませんでした。
 これが今言われていたメスなんですが、こちらがオスです。オスは数が結構あったので、統計的にも優意だったのですけど、メスは数が少なくて、統計に耐えないかなという感じだったのですが、一応傾向は見られています。これは放流魚ですけど、少ないですし高齢魚が出ていないです。先ほど言った上田さんの研究でも同じような傾向が出ていまして、とにかく小さくて、痩せていて。私たちの研究では、放流魚が終生小さくて、痩せていて、栄養状態が悪いというようなことが分かっていますので、傾向はあるのかなと思っています。これは県の方々に、恐らくたくさん耳石を取っておられるので、提供していただければ、私のほうで見ることができますので、よければ提供していただければと思います。
 こちらが年齢組成ですが、こっちが天然でこっちが放流です。確かに放流はサンプル数が少ないのですが、とはいえ、ここが全く出てこないというのも不思議でして、もしいれば少しでも出てくると思うのですが、今のところ出ていないですし、これも上田さんたちの研究成果も同じくで、高齢魚が出ていなかったので、これも傾向があるのかなと思っています。
 あと、公的に得られるもので少し分析しましても、やはり放流魚がいずれも全体が小さいということが分かっていますので、傾向はあると思います。
 よろしいでしょうか。
○松山専門委員 私が長崎県さんからお聞きした話では、放流魚でも10歳以上のものは採補されているという情報を伺っております。
○山口(敦)専門委員 そうですね。長崎県では脊椎骨で年齢査定をやっています。先ほど言いましたように、脊椎骨では年齢査定の精度が低くて、年齢査定の精度には耐えないということ、耳石でやったほうがいいということがわかっていますので、改めて年齢査定をやる必要があるかなと思います。
○松山専門委員 はい、分かりました。
○矢野委員長 どうもありがとうございました。
 まだたくさん質問があるかと思いますが、時間が押していますので、山口委員の発表はここまでとさせていただきます。どうもありがとうございました。
○山口(敦)専門委員 ありがとうございました。
○矢野委員長 それでは、次の議題に移らせていただきます。
 議題の2の気候変動影響などに関する情報収集に移ります。資料3の自然外力の増加に適応する水環境保全に向けた有明海・八代海等の気候変動影響評価について、私のほうから説明いたします。
 それでは、改めまして、九州大学の矢野ですが、本日は貴重な時間を頂戴しまして、我々が実施しております推進費の内容について御紹介する機会をいただきまして、ありがとうございます。
 この推進費のテーマは、今、私が説明したとおりですが、このようになっております。気候変動による有明海・八代海の水環境への影響評価を試みるというものになっておりまして、本日は3年間の研究期間のうち、主に初年度に得られた内容について御紹介いたします。
 まず、このページは、研究の対象として有明海・八代海としておりまして、今日は主に有明海についての成果を御紹介します。このページは背景について書かれているのですが、先ほどの山口委員の御発表ともかなりかぶりますし、本委員会に関わる方には御説明不要かと思いますので、このページの説明は割愛させていただきます。
 令和4年の中間取りまとめでは、気候変動の影響が重要課題として取り上げられています。九州では、この表にありますとおり豪雨災害が頻発化しておりまして、他の閉鎖性海域にない特徴となっています。
 しかしながら、豪雨や出水の海域環境への影響について、土砂生産はまとめられていたのですが、水環境や生物生態系へ与えたインパクトなどは示されていませんでした。一方、治水の分野では、平均気温が2℃上昇するシナリオで河川計画の見直しが進められているところです。
 このような状況で、有明海・八代海等では、防災分野と水環境分野ともに豪雨頻発化への対応、気候変動への適応が喫緊の課題となっていまして、令和8年度報告に向けて、これらの調査結果の推進が求められているところになっております。
 次、研究の目的ですが、これまで我が国の閉鎖性海域の水環境政策では、主に富栄養化問題への対応でありまして、過剰な人為的負荷の一方的削減が中心でしたが、2021年の瀬戸法改正を機に、自然・気候変動にも対応する順応的な水質管理が求められる時代に移ってきました。
 しかしながら、どれだけ負荷を削減すれば、どれだけ水質が改善するかといった人為影響の知見は蓄積されてきているのですが、どのような気象パターンのときに水質が悪化するのかといった自然影響の知見が不足しておりまして、きめ細やかな水質管理の具体的方策、検討を行える状況ではないと認識しています。
 一方、治水の分野では、洪水や河川流量、確率的に評価して治水計画に取り入れていまして、この図に示しますとおり、例えば200年に1回などの洪水流量を基準として、インフラ整備や減災が進められているところです。こういう視点が水環境保全にも取り入れられないかと考えているところです。
 以上によりまして、本研究では、有明海・八代海等の気候変動影響評価を行い、大規模出水などの自然外力、海域の物質循環、貧酸素発生過程の類型化や生起確率表示、並びに将来変化の予測を行うことで、気候変動適応・再生方策検討の基礎を構築するということを目的としております。
 この図は国交省が示しています、我が国の地域ごとの気候変動に伴う降水量とそれに伴う洪水時の河川のピーク流量と発生頻度についての予測結果です。有明海・八代海が含まれる北部九州は、2℃上昇の気候変動下で降水量が1.1倍になると見込まれていまして、これに対応する河川流量は1.2倍になると見込まれております。
 気候変動研究では、最近、大規模アンサンブル気候予測データの利用が可能になっていまして、我々の研究でも二つのデータセットを利用しています。一つ目がNHRCM05と言われるもので、これは5kmの空間解像度で、現在気候が20年分、将来気候2℃上昇、4℃上昇のシナリオに基づくものが、それぞれ80年分のデータセットになっています。
 もう一つがd4PDFと言われるもので、こちらは少し粗いのですが20km解像度で、現在気候が3,000年分、将来気候の2℃上昇が3,240年分、4℃上昇が5,400年分存在しています。これらを利用することで、気象の観測値では不確かさが残る確率統計について、数値モデルに起因する不確実性は残っているのですが、統計的な信頼性は高い検討が可能になると考えられます。
 研究目標の全体像はここに示しているとおりでして、大規模アンサンブルデータを用い、前線性豪雨と台風性豪雨といった類型化された気象パターンによる陸域からの水や物質の流出、また、外洋での海流などの海洋構造に起因する物質循環パターンなど、可能性のある多数の組合せを用いた水質計算を行いまして、重要なパスを明らかにすることを狙っています。また、それを現在気候と将来気候で実行しまして、貧酸素規模の生起確率や気候変動影響などの評価を行いたいと考えています。それに加えて、底生生物への底質環境の変化の影響や貧酸素耐性などの既往研究データから、底生生物の生息域の空間分布などの情報も出せればと考えております。
 チームの構成は、このような三つのサブテーマを設定しておりまして、サブテーマ1は気象に関するもの、サブテーマ2は物質循環や底生生物、サブテーマ3が物理ですとか水文、環境水理のテーマで構成して、これらが協働することで全体目標を達成するという形になっています。
 研究内容ですが、まず、サブテーマ1では、貧酸素化に影響を与える気象パターンについて解析しています。九州で特に重要な台風や強風、そして前線性豪雨に着目し、生起パターンの確率評価を行います。
 あわせて、これらの気象パターンの生起特性が気候変動によってどう変化するかに着目しています。複数の将来予測データから、気象要因の頻度や強度、そして生起パターンの将来変化を定量的かつ確率的に評価することを目指しているところです。
 サブテーマ2と3では、異なる海洋モデルを使用しているのですが、研究内容に適したモデル選択を行っています。
 サブテーマ2のほうでは、瀬戸内海等で使われた、行政貢献が行われている広域のモデルを有明海・八代海に適用して使っております。
 サブテーマ3では、高解像度な海洋モデルを使っていまして、こちらでは多くの論文等も発表済みで、中間取りまとめでも成果が引用されているところです。
 サブテーマ2では、二つの目標が設定されています。一つ目が、陸域・海域モデルで海水交換に着目して、有機物、栄養塩循環への気候変動の影響を予測することとしています。
 モデル検証のための現況再現検査、NHRCM05を気象外力とする現在気候と将来気候計算の3種類を実行します。各気候条件で20年間の水質、底質を予測し、シナリオ間の比較を通じて気候変動の影響や予測の不確実性等を明らかにする予定です。
 陸域からの出水と外洋条件の組合せが海水、物質フローに及ぼす影響にも着目しています。未検討である海流や、存在が確認されている暖水渦の影響を評価しまして、貧酸素発生との関係を明確にしたいと考えています。
 二つ目の目標が、気候変動による水質、底質の変化が底生生物に及ぼす影響を予測評価することとしています。環境省がこれまで行ってきた調査データなどを用いまして、多変量解析を行い、どのような場所に、どのような群集が分布しているのかを明らかにしたいと考えています。
 サブテーマ3は、このフローで計算を進めます。d4PDFを用いて、まずデータのバイアス処理を行い信頼性の高いデータを作りまして、分布型流出モデルによって流出計算を行い、海域の高解像度な流動・水質計算を実行するという流れになっています。
 貧酸素のアンサンブル計算結果を得て、河川水の総流出量と貧酸素規模との関係、並びに河川流量の再現期間から貧酸素規模の再現期間の評価が可能になると考えています。一連の解析は各気候条件で行いまして、ここのイメージ図にありますように、定量的に貧酸素への気候変動影響を表現したいと考えています。
 この図は申請時に掲げた全体構想図ですので、説明は割愛します。
 ここまでは全体の話でして、ここからは各サブテーマで得られている結果をかいつまんで報告します。主に初年度に得られている結果となります。
 まず、サブテーマ1について、貧酸素の発生やその消滅に寄与する気象条件の解析をしております。ここで示しますのは、一例として2013年6月から9月にかけての北部有明海の、少々図が小さいですが、ここの地点における塩分、水温、DOの連続観測データと、筑後川の流域平均雨量の時系列の図になっています。上の図が表層のデータと、ここに雨量が示されています。下の図が下層のデータになっています。緑の線がDOとなっています。観測データは、水質は水産研究教育機構が実施したもの、雨量は気象庁の解析雨量から算定したものとなっています。
 下の図の緑線がDOですが、何度か貧酸素が発生しています。ここでは3mg/L以下を貧酸素と定義して考えます。大雨の後、1週間ぐらいで貧酸素が発生するというレスポンスが概ね見られております。台風の事例がこの年は1回ありまして、台風のときには、その後、混合が進み、貧酸素が解消される様子というのも見られております。
 以降、2020年までの分析を同じように行った結果、貧酸素は大体50回見られておりまして、概ね似たような気象との関係性が見られております。気象条件から見た貧酸素化の要因としては、晴れが続き水温成層が発達するパターンと、大雨で河川水が大量に流出して塩淡成層が発達するパターンの二つが想定されるのですが、50回の貧酸素については6割が晴天型、4割が降雨型に分類されました。
 また、降雨型では前線性と台風性に分けることができます。前線性は大雨が降り、塩淡成層を発達させ、流入量の規模により鉛直混合や海水交換により解消されるまでの時間というのが変化するということになります。一方、台風については、発達していた成層を混合する効果がありますが、50事例中では前線性豪雨の後、1週間以内に台風が接近した事例が二つありまして、両方とも貧酸素の発達は見られませんでした。また、逆に、先に台風が来て、その後1週間以内に前線性豪雨が起こったことが3回ありまして、その3回全てで貧酸素が発達したということになっております。このようにして、気象要因の連続生起による分類も可能になると思われます。
 この図は分かりにくい図ですが、梅雨前線性豪雨への気候変動の影響を見たもので、横軸が雨の継続時間、縦軸が継続時間内での最大総雨量になります。プロットはNHRCM05の計算から出た結果をプロットしていまして、ここに2点、黒い四角がありますが、これは平成29年九州北部豪雨と令和2年の球磨川豪雨の観測値を示しております。青いハッチが現在気候、裏に隠れて見えにくいのですが、黄色いハッチが2℃上昇です。赤が4℃上昇の分布域を示しております。気候変動が進むにつれて分布の勾配が、まず上がっているということと、また、横に広がっていっているというような状況が見られます。つまり、ピーク降水量の規模が増加し、降雨継続時間が延びて、なおかつ総降水量が増えるという傾向性が見られていると思われます。
 過去の2回の豪雨について見ますと、令和2年豪雨は2℃上昇や4℃上昇の重心付近に位置しておりますが、平成29年については三つのゾーンの中心よりは少し右斜め上に位置していることから、極端な豪雨であったと判断できると思われます。
 筑後川流域にフォーカスしたものがこの図になっていまして、流域平均降水量の頻度を示しているのですが、時間雨量10mmぐらいまでは三つの気候条件で大差ないのですが、10mmを超えた辺りから4℃上昇のほうが頻度が大きいことが見てとれます。2℃上昇と現在気候は、大きな差が見られていない感じになっています。このことは、現在パリ協定で目標とされています1.5℃上昇以下に抑えることが筑後川や有明海にとって重要であるということを意味するのではないかと思われます。
 この図は、気象パターンを自己組織化マップという方法で分類したものなのですが、このページについては現在開発中の途中段階の図ですので、説明は割愛させていただきます。
 次に、前線豪雨にはタイプがあるということの説明なのですが、これらの図は令和2年の球磨川豪雨と平成29年の九州北部豪雨における総降水量の分布と前線の位置関係を示した図になっています。左の図のように前線に近い場合と、右のように前線から離れている場合というのが見られます。ここでは、それらを前線付随型と孤立局所型と名づけて分類しています。前者のほうは雨が長時間降っているのですが、降雨強度、降水量そのものは比較的小さめですけど、総雨量としては掛け合わせで多くなっていると。一方、こちらはその逆でして、パターンとしては逆ですが、総雨量はやはり多いという形になっています。
 これら2種類の前線性豪雨がどのような場所で発生したかを2006年から2020年までの15年間で評価したのが、これらの図になります。前線付随型は、ある程度満遍なく全国で発生していたのですが、孤立局所型は九州北部で顕著であるという結果になりました。
 以上についてのサブテーマ1のまとめは、こうなっていまして、今後は気象成因、すなわち台風性と前線性の豪雨についての分析を進めまして、また、台風と豪雨の連続生起はどのような条件で発生しているかですとか、それが気候変動により、どう変化するのかを調べることを予定しています。また、風と気温を含んだ総合的な将来予測も進めたいと考えています。
 ここまでがサブテーマ1でして、この後、サブテーマ2の説明に入るのですが、ここからは今日御参加いただいている東委員がこのテーマのサブテーマリーダーになっておりますので、御本人から説明していただくことにしております。
 それでは、東委員、よろしいですか。
○東専門委員 では、引き続き国立環境研究所の東がサブテーマ2のモデル関連の成果について御説明いたします。
 我々国立環境研究所では、平成28年度より環境省の支援を受けまして、瀬戸内海、東京湾、伊勢湾など国内の閉鎖性海域の水環境を対象として、気候変動の影響評価及び適応策の研究を進めてまいりました。その中で、私はモデルシミュレーションによる影響予測を担当しております。先行研究では、主に水温上昇と陸域の降水・流出の変化に着目して海域の水質への影響評価を行ってまいりました。
 しかし、皆さん、御存じのとおり、閉鎖性海域の水環境は外洋の影響も強く受けることが知られており、その先行研究も多数あります。しかし、有明海や八代海等に関しましては、委員会報告でも潮汐だけ述べられているのみで、その他の外洋の影響の科学的知見が乏しい状況でございます。
 こちらは有明海、八代海周辺の海流の概要を示したものでございますが、対馬暖流との間に暖水渦が夏季に発生しております。右側が2001年から2021年の各年、毎年7月の平均海面高度データを示しておりますが、御覧のようにかなり変動しております。この変動が有明海や八代海に何らかの影響を及ぼしているのではないかということが疑われます。そこで、先行研究のフレームを生かしまして有明海や八代海の気候変動の予測を行うとともに、この解析から外洋の影響を明らかにすることを一つの目的としております。
 本日は、まだ解析途中でございますので、あくまで暫定版といたしまして、有明海に着目して陸域と外洋、どちらからの流入が多いのか、水だけではなく、栄養塩類も含めて報告します。それが気候変動によってどう変わるのかといったものの暫定版を報告いたします。
 こちらは、予測に用いたモデルの概要でございます。本モデルは陸域と海域の二つで構成されております。陸域モデルは降水、蒸発散位を駆動力として力学ベースの流出予測を行います。海域の方につきましては、陸域の流出結果と、海上気象、外洋海象を駆動力といたしまして、3次元の流動及び水質・底質を予測してまいります。計算ドメインは、先ほども申し上げたように外洋を広く取りまして、有明海と八代海を含む全体の計算を行っております。いずれも水平解像度は1kmとなっております。
 予測に用いる気候シナリオですが、こちらはまだ計算途中のものもございまして、先ほど矢野先生からお話ししましたNHRCM05も今、計算を行っているところでございますが、本日報告する結果は先行研究で用いた2kmメッシュの日本域気候予測データセットを使用したものとなります。こちらのデータセットには、現在気候20世紀末とIPCC-AR5のRCP2.6と8.5シナリオの将来気候21世紀末、それぞれ20年分が収録されています。そのうち、後半18年を使用して予測シミュレーションを実施いたしました。18年分の毎日のデータが出てきますが、ここでは、まずは、月別平均値を取って、シナリオ間の変化を見ることで気候変動の影響を考察いたしました。なお、陸域の負荷流出条件は、いずれも共通となっています。
 こちらは、モデルの再現性を示したものでございます。時間が限られていますので詳細説明は省略させていただきますが、球磨川のCOD、TN、TPの流出並びに有明海の湾奥部の水質の変動、特に栄養塩の表層、その時系列の変動、底層DOの変動などは良好に再現されています。
 こちらは先ほどの再現計算の結果を取りまとめて、外洋、有明海、八代海の三つの境界部分の断面流量、正味の海水フローを取りまとめたものでございます。これらの結果、平均的に見ますと、全体的には外洋から有明海に流入し、そこから八代海を通って外洋に出ていくといったような時計回りの流れが見てとれました。
 それを月別に見ますと、有明海の湾口部では、平均値は各月いずれの月も外洋からの流入を示しておりますが、冬に強まり夏に弱まるというような季節性が見てとれました。この後、気候変動の影響予測結果を示してまいりますが、ここでは有明海に着目しまして、陸域の集水域全体からの流入と外洋からの流入について、水と栄養塩類を対象としまして、どちらからの流入が大きいのか、また、それらが気候変動でどう変わるかといったものを示してまいります。
 まずは水のフローです。上が陸域からの淡水流入量、下が湾口からの外洋からの流入量でございます。縦軸は両方とも同じスケールになっておりまして、横軸は1月から12月、一番右端が年間の平均値でございます。棒グラフの色分けは各気候シナリオとなっておりまして、エラーバーは95%の信頼区間です。
 まず、陸域からの流入量を見ますと、降水の季節性によって全体的には夏に多くて秋・冬に下がるといった傾向が見てとれます。気候変動の影響としましては、夏場に線状降水帯が増えるということで、平均値は若干増える感じですが有意な差ではなく、それよりも変動が大きくなるといった特徴が見られます。
 問題はノリの漁期、湾奥部のノリの漁期を示しており、右側のほうに拡大してありますが、こちらも有意な差ではありませんが、ノリの漁期、11月から2月にかけて何となく減少傾向というのが見てとれまして、ノリの生産性にも影響するのではないかと危惧されます。
 外洋のほうにつきましては、陸域の淡水の流入量との対応が見られまして、陸域の流入量が多いときに外洋からの流入量が減るといった傾向が見られます。あと、スケールを見ますと、外洋からの海水の流入は陸域からよりもはるかに凌駕しているということが見てとれます。
 ただ一方、栄養塩類、全窒素で見ますと、必ずしもそうではなくて、外洋からの流入よりも陸域からの流入のほうが卓越しております。その一つの原因は点源負荷の成分がかなり大きいということであり、こちらは降水変化とは関係が無く、安定的に供給されることになります。
 こちらも水と同じく気候変動の影響は年々の変動が大きいため、有意な差が見てとれず、年間を通しても見られませんでした。一方、ノリの漁期、特に秋の10月から12月に着目しますと、先ほど陸域のほうが卓越すると言いましたが、降水が少ないこの季節につきましては外洋からの流入も多くなり、両者がほぼ同じ規模の流入となっていることが分かります。
 続いて、こちらの図は両方とも外洋からの流入で、下は先ほどと同じTN、上はDINで表示したものでございます。棒グラフの長さはほぼ同じ、むしろDINのほうが多いという状況でございます。これは、外洋からの流入がほぼ全て栄養塩のDIN、逆に内海から外洋に出ていくものは有機態のNであることを示しております。
 もう一つ、気候変動の影響で気になるのが夏場、夏場に外洋からの栄養塩の流入が気候変動によって急激に減少しているということで、これが長期的にどこまで湾奥に影響が及んでいるのかというのは、これから解析していきたいと思っているところでございます。
 気候変動影響について、漁期における外洋からの栄養塩の流入に関しましては、今のところ正味のフラックスでは見えないのですが、実際に湾奥まで届いているのかという観点も含めて、湾奥の表層DIN濃度がどう変化するかを調べました。これは、上から現在気候、RCP2.6、RCP8.5であり、左から右へ10月から3月の月別気候値を示したものです。こちらを見る限りでは、明らかに11月から2月にかけては、気候変動が強くなるにつれて表層のDIN濃度が湾奥で下がっているというのが見られます。
 もう一つ着目した点は外洋、つまりこちらの橘湾です。こちらでも気候変動によって大きく濃度が下がるといったことが見てとれました。
 もっと広く外洋を見ますと、冬場は鉛直混合・湧昇が生じており、DIN濃度の上昇が見られます。これが気候変動によって大きく下がるという結果になっております。この原因は、水温上昇によって植物プランクトンが活性化して一次生産が増えたこと、成層が強くなって鉛直混合が起こりにくくなったということが考えられました。
 以上をまとめます。今のところ、まだ解析結果を取りまとめている段階ですので、断言することはできませんが、大事なのは、ノリの漁期の10月から11月の秋のときには外洋と陸域の有明海からの流入量がほぼ一緒になるよということでございます。そこは、今後着目して解析をしていきたいと思います。
 もう一つ大事なことは、肝心の外洋の計算結果についての検証が不十分であるということです。特に外洋、橘湾の観測とデータの収集は今後必要になってくると思っています。
 以上でございます。
○矢野委員長 どうもありがとうございました。
 それでは、次、サブテーマ3について、また私のほうから説明させていただきます。
 ここからがサブテーマ3となりまして、気候変動により貧酸素水塊の発生の時空間的な規模がどのような影響を受けるのかについて、検討を行っているところです。
 ここのページはモデルの説明、まず、流動モデルのほうの説明でして、細かいことがいろいろ書いてありますが、御興味のある方は後で見ていただければと思います。ここに書いていない情報としては、水平方向の海上の250mグリッドを使っていますので、かなり高解像度のモデルを使っています。鉛直にはσ座標で10層、これは少し粗いといえば粗いのですが、後ほど申し上げます非常にたくさんの計算をする必要があるので少々粗くしております。河川につきましては、1級河川が全て八つです。2級河川は、主なもの九つを考慮しています。ここに書いてあるような入力データをインプットデータとして使っております。
 ここに示すのは水質計算を行う低次生態系モデルでして、Delft3D-WAQというモデルを使っております。ここにモデルの概要が書いてありますが、モデルとしては、それほど複雑なモデルにはなっていないようになっていまして、これも計算時間との兼ね合いがありますので少し単純なモデルになっているというところはあります。
 まず、本サブテーマで最初に、過去30年間の再現計算というのを行いました。この図は、その30年間で最も強い雨が降った令和2年豪雨のときの総降水量分布の図になっています。
 今日はあまり詳細に説明する時間がありませんので、主要な結果のみ、以下、示しますが、この図は令和2年豪雨を含む夏場の塩分とDOのシミュレーション結果でして、北部有明海の、ここに図がありますが、ステーション1という、この地点におけるイソプレットを示しております。上に書いてある青い矢印が大出水が発生したタイミングです。左の塩分を見ますと、出水後から非常に強い塩淡成層が発達して、それが長期間、大体1か月ぐらいは継続しているというような形が見えます。その後も、やや弱くはなるのですが、塩淡成層が継続しているというのが見てとれます。
 一方、DOのほうについては、その塩淡成層が引き金となりまして貧酸素が発達していき、それが非常に長期間継続するという結果が見てとれます。この図の赤い線が3mg/Lを示していまして、それより下がっているところが貧酸素と解釈できます。この年の貧酸素については、水産研究・教育機構水産研究所が行った現地調査でも示されているところです。
 次に示すこの図は、1992年から2021年までの30年間で各年の貧酸素が最大化したときの空間分布を並べたものになっています。全体的に出水規模が小さい年は貧酸素、暖色系の色がついているところが貧酸素の分布と考えていただきたいのですが、出水が大規模化した年、例えば1997年、2006年、2020年は非常に大規模な貧酸素が発生している様子が再現されております。
 次に示すのは、それでは、いつ頃から気候変動の影響というのが現れたのだろうかというのを疑問に思われると思うのですが、それに対する解析結果です。国交省では、全国平均として2010年ぐらいを境にして、それ以前は気候変動の影響が現れておらず定常であり、それ以降は影響が見られて非定常になっていると考えて、河川計画のやり直しを今、行っているところです。
 ここでは、私の研究室におられる丸谷先生が気象庁のデータを分析した結果でして、これはなかなか分かりにくい図ですが、詳細は論文を見ていただいて御理解いただきたいですが、結論だけ申しますと、九州北部で2012年頃から影響が出始めているという結果になっています。
 それで、我々がやった過去30年のDO再現計算の結果から、貧酸素の空間規模が最大化した際の面積をDOのレベルごとに経年変化で示した図が、この図になっております。2010年頃を境にトレンドが変化しているというのが見てとれていまして、直近の数十年では、気候変動に伴う豪雨規模の増大がもたらしている河川流量の増加が貧酸素を大規模化している傾向を示していると考えております。
 次に示すのは、その先に行った内容でして、d4PDFを用いた解析結果です。ここでは計算が概ね終わっている現在気候についてのみ御説明いたしますが、d4PDFの現在気候から、もともとは3,000年分あるのですが、そのうちの半分の1,500年分のデータを用いて1,500年分の流出計算を行いまして、筑後川の48時間流出量を計算しました。それから年最大値を取り出して、1,500年分、順位づけを行います。
 ここでは、ランダムに100年分抜き出して並べたのが、これになるのですが、100年分について再度詳細な流出解析を行いました。詳細な流出解析というのは、ダムによる洪水調整や氾濫を考慮したモデルになっていまして、より現実的な河川流出量を計算できるモデルになっています。それら100年分の流出計算結果を用いて海のほうの流動計算と水質計算を行うという、そういう流れで行っています。
 左の図が年最大48時間流出量の確率分布図です。緑色は、実は、先ほどの30年分のデータも一緒に混ぜてプロットしております。それから、真ん中が貧酸素の継続時間、右が貧酸素の空間規模の確率分布になっていまして、DOについてはやはりある程度ばらつきがあるような分布になっていますが、一応、赤い破線で示されるような確率分布が得られたという形になっています。
 このばらつきについて、筑後川の48時間流出量で確率を出しているものですから、それ以外のファクターに起因するものがばらつきを起こしているというのが考えられます。これは、サブテーマ1でもやろうとしている気象条件の類型化を行うことで、より明確な話ができるのではないかと考えていますので、これは今後の話ということになります。これと同じようなことを2℃、4℃上昇の気候変動でも今、鋭意行っている途中ということで、今日までの途中経過でお示ししております。
 最後、これがサブテーマ3のまとめでして、課題としては、今、d4PDFの5km解像度バージョンというのが公開されていまして、それを使った場合に違いがあるのか、ないのかというのを検証する必要があるということ、それから、気候変動の影響評価の次には、悪影響が出るということであれば適応策のことを考えていく必要があるだろうと思っております。あと、生物相への影響評価が本委員会の最大の関心事であると思いますので、それらへアプローチしていきたいということも考えております。
 あと、ここに書いておりませんけど、社会情勢の変化、つまり人口の変化ですとか土地利用の変化、産業構造の変化など、多くの想定されている将来シナリオというのがありますので、それらに基づくような将来変化の幅を見極めることも必要と考えていまして、より発展させていく必要があると考えているところです。
 以上、時間を大分オーバーしましたが、御説明はここまでとさせていただきます。ありがとうございました。
 以上、今、説明しましたが、資料3についての御意見、御質問等を承りたいと思います。先ほどと同様に挙手をしていただければと思います。
 まず、山室委員、お願いします。
○山室委員 ありがとうございました。
 ノリへの影響は明確に説明されていて、有明海の水産業への影響ということを考えると、非常に有意義な結果が出つつあるのではないかなと思いました。ありがとうございました。
 有明海の水産業で減っていて重要なものとしてもう一つ、二枚貝があると思うのですが、先ほど山口先生が単純にナルトビエイの食害とは言えないのではないかということをおっしゃって、トップダウンによる生態系機能を考慮した保全ということを御説明になりました。同じベントスを、こちらでは海水交換とか栄養塩といった、むしろボトムアップ的な手法でされていて、このボトムアップとトップダウン、もちろんトップダウンのほうも水温とか、そういった、先ほど御説明があった要因も関わってくるのですが、将来的にこれをドッキングして、過去に何があったかとか、今後予測される気候変動も踏まえて、どういうふうに保全するかといった、そういう統合というのは、この場でやるのか、それとも、もっと別のところでやるのかというのが、お聞きしたいことの1点です。
 あと、たまたまですが、先ほど先生は2009年と2010年で気候変動の影響が変わったとおっしゃっていました。一方、山口先生が示されたスライドの6で、貝が1980年代ぐらいから急激に減っているのは、これは恐らく、一次生産が減っているんだろうなとか栄養塩が減っているんだろうなとか漠然に思ったのですが、その後に2010年から、また減少傾向に入っているように見えて、これが、もしかしたら気候変動によってトップダウン的にベントスが影響しているのを反映しているのかもしれないと思ったのですが、先生はどう思われるかという、その点を教えてください。
○矢野委員長 はい。まず一つ目の御質問についてですが、非常に重要な話だと考えております。現状、今は別々の推進費でパラレルに研究は進めておりますが、第1フェーズが終わった後に、これはもっと大きい枠組みでやらないとなかなか難しいのかなと思いますが、もし可能であれば、そういった展開もできるとありがたいなと我々としては思います。これは、山口先生がどう思われるか、分からないところもありますが、山口先生のほうでも物理モデルを使われている部分は今日御説明が少しだけあったと思うのですが、そこら辺に我々が使っているようなモデルも組み込んでいって、我々、どうしても生態系の上位の生物に対する知見というのがほとんど何もないので、現状やれることとしては、貧酸素が出た場合とか底質の変化が起きるような場合に対して、ベントスがどう影響を受けるか、それが住めるか住めないかというぐらいはアプローチできないかということで、少し生態系に関与したところも入れようかなというような研究にはなっているんですが、その先までは、まだ見通せていないような状況ですので、これは今後の御相談としか言いようがないかなと思います。
 あと、二つ目の御質問は、可能性はあるとは思うのですが、これは、もしかしたら偶然かもしれないですし、我々がやっているのはモデルでやっている研究なので、モデルの研究成果というのはかなり不確実性がある部分もありますので、もう少しいろいろ検討してみて、やはり2010年でかなりドラスチックに、温暖化の影響の出方が変わっているねというのが見えたときに、その影響の出方に対応して生物相がどう影響を受けるのかというのを、より深く見ていかないといけないのかなと思います。
 指摘をしていただいて、ある意味、発見があったということで、非常にありがたく思っています。
 回答としては以上になりますが、よろしいでしょうか。
○山室委員 はい。ありがとうございました。
○矢野委員長 山口先生、何かありますか、今の件に対して。よろしいですか。
○山口(敦)専門委員 ありがとうございました。
 まだ私もトップダウンから見ていくということで、そちらで精一杯ですけど、いいものができれば。恐らく、今まで国内外でそういう現場に即したモデルは、見当たらないと思うの。それがさらに、今までボトムアップはあったけどトップダウンはないということで始めたのですが、トップダウンのいいものができれば、さらに今度はボトムアップのいいものを合わせていくというのは当然の流れかなと思うので、今後いろいろと相談しながらできたらいいかなと思います。ありがとうございます。
○矢野委員長 ありがとうございます。
 それでは、速水委員、よろしくお願いします。
○速水専門委員 速水ですが、矢野委員と、それから東委員に、それぞれコメントがあるのですが、東委員のほうを先に質問したいと思います。
 結果の中で陸域での淡水流入に比べて外海からの海水流入がかなり多いという結果が示されていて、これが今までの有明海の研究では指摘されてきていないことで、非常に大きな影響を与える結果だと思うのですが、これに関連して、メッシュサイズ1kmぐらいで計算されていて、一方で、有明海と八代海をつなぐ海峡の幅はそれよりかなり狭いと思うのですが、その辺り、海峡をどのように表現されたのかということが1点と。
 それと、水に関しては、有明海、八代海を合わせたフラックスの図があったのですが、有明海に外海から入ってきた窒素が八代海にどのくらい抜けているか、これは多分季節によって違うと思うのですが、その辺りについて何か知見があれば教えていただきたいと思います。
○矢野委員長 東委員、御回答をお願いします。
○東専門委員 ありがとうございます。
 まず、解像度ですが、1kmというのは、外洋をここまで入れておいて長期計算を行うためにやむを得ないというところです。ネスティング計算も考えられますが、この場合、ネスティングの境界部分でいろいろ不具合が起きたりもします。そういうのを考慮せずに済むぎりぎりの解像度で行ったということで、御容赦いただければと思います。ただ、狭路部の流量は、実際にADCPの観測を行って、ほぼ計算結果に近いオーダーのものが出てきているので、まだ単発の観測データではありますが、ある程度妥当ではないかなと思わせるような結果も得られているといったところでございます。
 有明海から八代海、まさしく先ほどの結果の有明海から入ってきて、陸からも入ってきて、抜ける場所は全部八代海というような結果になるわけですけど、そちらのフラックスのほうは、まだ解析をやっていないところです。これから進めていきたいと思っております。
 以上でございます。
○速水専門委員 分かりました。回答については、1kmの幅でもって、もう、そのまま計算したということですね。
○東専門委員 そうですね。はい。申し訳ないのですが、そんな感じでございます。
○速水専門委員 それと、もう一方、これは矢野先生の1と3のテーマに関するコメントですが、東さんの発表で少し触れられたのですが、ノリ漁期の変化ですね。特に近年、昨年、一昨年と有明海では秋の降水量が非常に少なくて、それでノリの漁獲量が非常に減ったのですが、そういったものが気候変動の影響で起きたのかどうかということについても非常に興味があるところなので、貧酸素を中心に研究をされていますが、そういったノリ漁期、特に秋の小雨に関しての気候変動の影響の割合みたいなものと将来予測みたいなものも加えて研究していただければ、より研究としての社会へのコントリビューションが大きくなるのではないかと感じました。よろしくお願いします。
○矢野委員長 ありがとうございます。今の御指摘、先日、11月30日に佐賀で我々の推進費のシンポジウムを行いまして、そこでノリの話も絡めていろいろ議論させていただいて、速水委員も参加していただいていろいろ御質問いただきましたけど、そこでも出てきていた話題でして、我々も、そちらについても興味は持っていますので、ぜひ、それはやりたいなと思っています。まずは大雨の影響のほう、夏場の大雨の影響のほうから最初に解析していまして、これが結構な時間がかかる計算になっていますので、あと1年強ありますけど、その中で、できるだけそれにもアプローチしていきたいなとは考えております。コメント、ありがとうございました。
○速水専門委員 分かりました。どうぞよろしくお願いします。
○矢野委員長 それでは、古米委員長、その次は山西委員のほうでお願いします。また先ほどと同じで、オブザーバーの委員の方でも、もしあれば、今のうちに挙手をお願いします。
 はい、お願いします。
○古米評価委員会委員長 古米です。ありがとうございます。
 東委員のサブテーマ2の内容と矢野先生のサブテーマ3のモデルのつながりみたいなところで。今後、将来予測のデータを入れて、貧酸素水塊がどうなるかとか、あるいは塩分成層が強化するかどうかというところで貧酸素化の議論が出てくると思います。今、サブテーマ3で使われている境界は長崎県の樺島水道と阿久根ということで、この境界へ外洋の影響が来るわけで、さっき東委員が御紹介いただいたように、外洋から入ってくる水の量なり栄養塩の濃度が効くケースと効かないケースがあるかと思います。そこら辺の境界条件の整合性をどうカップリングしていくのかというのが次の課題かなと感じました。
 サブテーマ3で低次の生態系モデルを入れないと貧酸素の計算ができないのでという話が出ました。淡水流入の影響の話も聞けたんですが、陸域から入ってくる栄養塩類は、東委員のモデル計算で入ってくる負荷量と同じ量が入ってくるのかと。要は、二つのモデルをカップリングしようとすると、それぞれで使っている負荷量や外洋の取扱いの整合性は、今後、どう取られるのかなというのが気になったので質問させていただきます。
○矢野委員長 ありがとうございます。御指摘の部分、我々もこの推進費を始める準備をしているところでもいろいろ議論しているところですが、ターゲットがサブテーマ2と3でかなり違うというところもありましたので、まずは、それぞれが手持ちのモデルで動かし始めているというところはあるのですが、最終的には、やはり両者で矛盾が発生するとまずいというのがありますので、そこの整合性を取るために、お互いのモデルで、全てを計算するのは難しいとは思うのですが、代表的な貧酸素が発生するような状況ですとか代表的なケースについての相互の計算の比較というのは、やる必要があるかなと思っております。
 私のほうのサブテーマ3で使っている流出量は、東さんが使っているのとは少し違う流出量を使っていますので、そこは、そういう意味では整合はしていない部分がありますし、そもそも使っている気象モデルの結果が違うものを使っているというのもあります。一口に気候変動といっても、モデルに依存した気候変動の影響を見ているというようなことにはなっていますので、そこら辺、最終的に矛盾のないような結果に導けたらなと考えているところです。
○古米評価委員会委員長 どうもありがとうございました。
○矢野委員長 ありがとうございます。
 それでは、山西委員、お願いします。
○山西委員 私も速水委員や古米委員長の御質問の流れと関連強いのですが、東委員の御報告の中で陸域からの淡水流入が減少傾向にありますという御報告がありました。陸域からの負荷、栄養塩とかが減るという意味でいくと、ノリ漁期のときに影響を受けるのだろうなというのは何となく分かるのですが、一方で、赤潮等が発生する要因としては、全天日射量なのか日射量なのかはともかく、その継続時間が強く関わるというのは、経験的にも皆さん、おっしゃるんです。
 だから、もし、よければ、もちろん淡水流入の減少はあるのだけど、一方でやはり赤潮は出るとかということがありますので、日射量や晴天日が継続しているとかというのが統計的に何か変わっているとかというのが見えてくると、先ほど速水委員も言われましたけど温暖化の話等の兼ね合いとかが見えてきたりとかして面白いのかなと思いました。もし可能であれば、そういうのも御検討いただければいいかなと思いました。
○矢野委員長 どうもありがとうございます。御質問というよりはコメントに近いかなと思ったのですが、今、御指摘いただいたことは我々も気にはしているところですが、まず、今、出水影響とか、サブテーマ2では外海の影響とか、そういった少しターゲットを絞ったところからスタートしているところがありまして、そこら辺の結果がある程度まとまった段階で、この推進費は、あと1年余りぐらいしかないので、その中で、できる部分とできない部分が恐らく出てくるとは思うのですが、できるだけ、それにはアプローチしたいなと考えています。
 特に、サブテーマ1のほうで気象要素の気候変動影響評価をかなり詳細にやっていただいていますので、そこの部分で、今、山西委員が言われたみたいな日照時間の増減とか、そんないろいろな気象条件での組合せの変化とか、そういったところまで見たいなというような計画にはなっていますので、その中で少し何か物が言える可能性はあるかなと思っています。どうもありがとうございました。
○山西委員 よろしくお願いします。
○矢野委員長 それでは、次に移りたいと思います。資料4の気候変動影響、干潟生態系に関する知見の収集・整理について、環境省より御説明をお願いいたします。
○小原海域環境管理室主査 御紹介、ありがとうございました。環境省の小原と申します。
 私のほうから、資料4、気候変動影響に関する情報収集ということで御報告させていただきたいと思います。
 こちらが目次となってございます。まず、先に気候変動影響の報告でございますが、こちらの背景・目的といたしまして、スライドには平成28年度の委員会報告時の連関図の一部について示しております。青丸で示している部分につきましては、主に気象と海象に関する部分です。右側に拡大図を載せておりますが、一部がまとめて記載されていますので、この辺りの細分化、連関図の中の拡充や今後の再生方策の検討を行う上での情報収集を図ってきました。
 気候変動の御報告については今回が3回目でございまして、第13回、第15回の海域小委で御報告しており、今回、3回目の御報告でございます。基本方針について変更はなく、こちらにこれまでの情報収集した内容を一覧表にまとめております。今回、既存の項目への追加報告として黒丸の部分と、今回、先ほど山西委員からも御質問があったところでございますが、日照時間の新規の報告をさせていただきたいと思います。
 まず、前提条件としまして、気象データの整理・解析の御説明をさせていただきます。今回、主に気象データにつきましては、気象庁からダウンロードした結果を使用しております。各気象項目の変化傾向を確認するために、今回は偏差に着目して解析するなど、気象庁が実際に行っている解析方法を参考に実施しております。季節別の整理を今回、主に行っておりますが、春、夏、秋、冬の分け方についても気象庁に倣って下記のとおりとしております。
 まず、初めに平均気温の偏差の変化ですが、まずグラフの説明をさせていただきます。黒線で示した折れ線グラフにつきましては、各年の平均気温から基準値を引いた偏差を示しております。基準値は、気象庁と同様に1991年から2020年の30年平均値を基に算出しております。次に、青線で示したグラフですが、偏差の5年移動平均線を示しております。最後に赤線ですが、一次回帰の結果の直線を示しており、有意で変化したものについてのみ、グラフ中の左上にトレンド値として変化量を示しております。左側四つが今回解析を行った有明海流域、右側四つにつきましては気象庁が実施した日本全国の結果です。こちらは、気象庁の解析期間と異なるところに留意する必要はございますが、日本全国の結果と同様に、有明海流域についても、どの季節においても上昇傾向を示していたことが確認されております。また、春、夏、秋、冬の順で、こちらの図は表示しておりますが、夏と冬に比べて春と秋の変化量が若干ながら変化量として大きいといったことは、日本全国の事例と同様の傾向でした。
 次のスライドが、左側は八代海流域を示しており、右側は日本全国の結果を示しております。こちらも有明海流域での事例と同様に、どの季節においても上昇傾向を示したところでございます。また、夏と冬に比べて春と秋の変化量が大きいことも、有明海流域及び日本全国の事例と同様の結果でした。
 先ほどは各流域の平均した結果でしたので、こちらでは各観測所の変化傾向を一覧表にしてまとめております。緑色や青色の色で示しているものについては、統計上有意な傾向が確認されたものについて、データバーという形で色で表示しております。冬に一部、色がついていない部分があり、統計上有意な傾向が見られなかったことを表しておりますが、それ以外の季節につきましては全ての観測所において統計上有意に上昇傾向を示していたことが確認されました。
 続きまして、降水量の結果です。グラフにつきましては、先ほどの気温と同様の構成で示しておりますが、先ほど折れ線グラフで示していたものにつきましては、今回、棒グラフで示しております。プラスを緑色、マイナスを黄色で表示しております。左上が有明海流域、左下が八代海流域、右側は気象庁が実施した日本全国の結果を示しております。平均気温と同様に、解析期間は気象庁と異なる点に留意する必要はございますが、日本全国の結果と同様に統計上有意な結果は得られませんでした。
 また、こちらも観測所ごとの結果を一覧表にまとめておりますが、下側に示した八代海流域の1地点のみ有意な上昇傾向を示しておりましたが、それ以外の地点で有意な傾向は見られませんでした。
 こちらも同じ降水量に関する結果ですが、前回の委員会報告時のご指摘を踏まえて、一定の降水量以上の日数に着目した解析結果を示しております。また、今回のグラフは偏差ではなくて1地点当たりの日数を縦軸に表示しております。
 まず、大雨の観点から気象庁と同様に日降水量100mm以上の年間日数の経年変化を、こちらは有明海流域と八代海流域で示しております。こちらにつきましては、八代海流域では日本全国の結果と同様に有意な増加傾向が見られておりまして、特に八代海流域では、いわゆる大雨の日数がこの解析では増加していることが確認されました。
 次に、観測所ごとの結果です。年間の日数で有意な増加傾向が見られた八代海流域につきましては、主に季節ごとに見ると、3月から5月の春の時期において有意な増加傾向が確認されました。
 こちらは1mm以上の年間日数を記載したグラフでして、小雨の観点から解析を行っております。日本全国の結果では1mm以上の日数について有意に減少傾向が見られたことから、いわゆる雨がほとんど降らない日が増加しているということが示唆されました。一方で、有明海流域と八代海流域につきましては、解析期間が異なる点に留意する必要がありますが、赤線の傾きからマイナスを示しているというのは確認されたところではございますが、統計上有意な結果ではありませんでした。
 次に、季節別の変化傾向の観測所ごとに確認した結果です。年間を通じた日数の結果では、有明海・八代海流域ともに統計上有意な減少傾向が確認されていなかったといったことは先ほどのスライドで御説明しましたが、季節別に見ると、こちらの赤いデータバーが示しておりますとおり、春の時期は全ての観測所において有意な減少傾向が確認されました。
 以上の結果から、有明海・八代海流域における気候変動に伴う降水量の影響は、今回の解析では主に春に現れやすいことが確認されました。
 次に、風速の解析結果です。こちらは気象庁の結果がございませんでしたので、気温や降水量と同様の方法で偏差に着目した解析を行っております。
 風速については、台風の時期に着目すべきと考えておりまして、台風の上陸数が多い夏と秋、あるいは、それ以外の春と冬においてどのような違いがあるか着目して見ましたが、全ての季節で有意な傾向が見られたことや、夏と秋、春と冬で比較した場合でも、変化量に大きな違いは見られませんでした。
 また、有明海・八代海流域の比較といった意味でも、変化量は有明海流域の方がこの解析では大きかったといったことが確認されました。
 こちらは観測所ごとの確認結果です。沿岸域に位置している岱明等の地点におきましては、上昇傾向を示してことが確認ました。ほかにも沿岸域といいますと、口之津や松島、島原がございますが、例えば島原だと有意に減少傾向を示しておりまして、沿岸域だからといって全て上昇傾向を示しているわけではなく、地点等によって傾向が異なっていることが確認されました。
 こちらは、これまでの気温や降水量の変化量と比較して、風速は地点ごとの変化がより明確に出たことが特徴と考えております。
 次に、日照時間です。今回初めての御報告でございまして、気象庁では日射量の解析を行っておりますが、日射量の場合、観測所が2地点と限られていることから、今回の解析の中では日照時間に着目して解析を行っております。
 1975年からの解析対象期間の中では、冬だけ有意な減少傾向が有明海・八代海流域ともに見られましたが、いずれの季節も1975年から1990年にかけて大きく減少していることが特徴として挙げられまして、これは冬に限らず、ほかの季節においても同様の傾向が見られております。また、このことは有明海流域だけではなく八代海流域でも同じ傾向が見られておりまして、全国の事例を見ても、この時期については大きく減少しているといったところが多く確認されておりました。
 このように大きく減少した時期が解析期間に含まれたため、統計上、減少傾向を示したと考えており、解析期間や地点、季節、タイミングこういったものに留意する必要があることが分かりました。
 こちらも観測所ごとの一覧表ですが、先ほどの理由から、夏、秋、冬で統計上減少傾向を示しておりますが、直近10年辺りで見ると上昇傾向が示唆されますので、解析期間がどの程度であるか、今後も留意したいと考えております。
 次に、海域環境に関する季節別の変化の御報告です。季節別のグラフを左側に示しておりまして、地点別の結果を右上の表に表示しております。
 まず、海水温の結果ですが、各県の公共用水域水質測定結果を基に確認しております。有明海の表層水温につきましては、秋と冬で多くの地点で統計上有意に上昇傾向が見られました。一方で、外海に近い脇岬港、一番下ですが、春と夏に有意に上昇傾向、秋、冬に有意に低下傾向を示しており、内湾の有明海湾内の地点とは異なる結果が見られました。
 続きまして、八代海の結果ですが、八代地先海域ST.7で着目すると、秋、冬に上昇傾向を示しておりますが、夏に低下傾向を示すなど季節別に傾向が異なっていることが確認されました。
 続きまして、表層pHの結果です。有明海につきましては、島原沖、瀬詰崎沖の中で年間を通じて有意な低下傾向が見られました。ほかの地点では夏季に上昇傾向を示す地点があるなど、地点によって違いが見られました。
 次に、八代海の結果です。地点によって上昇・低下傾向に違いが見られまして、全体的な傾向というのは見られませんでした。
 次に、表層塩分の結果です。こちらは各県の浅海定線調査結果を基に確認しており、一部の地点で低下傾向が確認されました。また、ほかの海域項目と比較して夏に単年度で大きく下がっているところが、こちらのグラフから確認できますが、大雨の影響が現れていると考えているところです。
 八代海でも、夏に大きく下がっているところが見られておりますが、八代海では春、秋、冬でも大きく下がっている地点が見られておりまして、採水のタイミングにも留意する必要はありますが、こういった夏以外でも大きく下がるというのが今回の解析では見られました。また、夏に全ての地点で低下傾向といった全体的な傾向も確認されました。
こちらでは、これまでの第13回、第15回及び第16回の今回の海域小委で、既存の文献や環境省で解析を行った結果を一覧表にまとめております。今後、令和8年度の取りまとめに向けて、今まで集積した内容を基に、連関図の拡充や令和8年度の取りまとめの中での記載事項を検討して参ります。
 次に、干潟生態系に関して御報告させていただきます。こちらも気候変動と同様に第13回、第15回、今回第16回と3回目の御報告でして、基本方針ついては変更ありません。これまで収集した内容については、こちらの表にまとめておりまして、今回報告する内容としましては、課題、論点として残っておりました、主に委員会で御指摘いただいた内容ですが、各自治体のモニタリング結果の情報収集の経過報告をさせていただきます。
 その報告はこちらのスライドの(2)でして、(1)につきましては、有明海・八代海は、そもそも広大な干潟が広がっており、干潟そのものの役割が重要でありますが、干潟の機能等に対しても情報収集をすることは重要であると考えられたことから、今回、(1)の御報告とさせていただきます。
 こちらは、干潟の主な機能等のスライドです。水質の浄化機能、生物多様性の維持については上のほうに記載しておりまして、それ以外の干潟の機能も含めて下の表にまとめておりますが、様々な機能を有しております。
 今回、水質浄化機能と生物多様性の維持について、文献を基にまとめております。水質浄化機能につきましては、有明海、八代海以外の海域の文献ではございますが、干潟及び藻場についても、窒素、リンベースで、どれだけの浄化機能を持っているかについてまとめられております。
 生物多様性の維持につきましては、こちらは東京湾、伊勢湾、大阪湾と、最後に有明海、八代海の結果を右側に記載しており、調査年、時期、地点数に違いがあることに留意する必要がありますが、ほかの閉鎖性海域に比べて有明海、八代海は底生生物の種類が多いといったところが、この表からは確認できました。
 最後に、鳥類相についても、シギ・チドリ類が渡来するだけではなく、レッドリスト記載種についても幅広く確認されていることが確認されました。
 駆け足でございましたが、(2)の御報告に移らせていただきます。
 こちらが自治体のモニタリング結果に関する情報収集の結果でして、有明海ではラムサール条約登録湿地が3つありまして、位置関係をこちらの図に示しております。各干潟でされている調査や調査開始年月日について、こちらの一覧表にまとめております。
 まず、東よか干潟ですが、底生生物調査につきましては平成28年度から定期的に実施されており、概ね同程度の底生生物種が確認されております。ほかの干潟よりも絶滅危惧種の種数が多いなど特徴はありますが、近年、外来種も確認されており、今後、外来種の影響等も含めて底生生物の種数の推移を確認していく、つまり、モニタリングは重要であると考えられるところです。
 こちらは、肥前鹿島干潟のモニタリング調査結果でして、平成28年度から調査は継続して実施されております。こちらは令和2年から5年の結果を示しておりまして、大きな変動は見られないものの、東よか干潟と同様に外来種が確認されており、肥前鹿島干潟においてもモニタリングが重要であると考えております。また、ラムサール条約登録湿地への理解・関心を深めるための市民調査の活用の検討などもされておりまして、こういったものも含めたモニタリングが重要ではないかと考えております。
 最後に、荒尾干潟です。こちらでは「干潟の生きもの観察会」と言われる市民参加の調査が継続して行われておりまして、毎年参加される方の違い等があるかもしれませんが、令和3年から令和6年では22種から38種の干潟生物が確認されております。また、野鳥の観察についてもセンターの職員がされておりますが、こちらの表にまとめておりますとおり、79~103種の野鳥が確認されているおります。また、右側にレッドリスト記載種として15種が確認されておおりますが、干潟の重要性というのは、こういった面からも確認されました。
 以上、駆け足の御報告となりましたが、これまで3回の報告で干潟態系に関する情報収集をして参りましたので、令和8年度の委員会報告に向けては、これらの結果を基に、主に藻場、干潟の項目の部分の記載の拡充について検討していきたいと考えております。
 私からは以上です。
○矢野委員長 どうもありがとうございました。
 もう時間が大分押しておりますが、ただいまの御説明につきまして、御質問、御意見等を伺いたいと思います。オブザーバーの方も、もしございましたら、よろしくお願いします。
 それでは、速水委員、お願いします。
○速水専門委員 速水ですが、コメントが2点あります。
 まず、一つ目ですが、前半の気候変動影響の長期変化のところで、塩分だけデータが浅海定線調査で、それ以外が公共用水域水質調査のデータなんですよね。恐らく、公共用水域のデータだと、塩分という形でもって記載されているのが県によってはないためだと思うのですが、よく見られたら塩素量という、あるいは塩化物イオンという形でもってモニタリングされていて、その形だと恐らく全ての点でデータがあるはずなので、塩素量あるいは塩化物イオンから塩分に換算すれば同じ点で同じ期間のデータが得られると思うので、そちらを使うことも検討されたらどうかと思いました。それが一つ目です。
 それから、もう一つは、干潟の機能に関して御紹介があったのですが、干潟の一般的な機能として有機物の除去を中心にした、いわゆる干潟の浄化機能というものがよく挙げられるのですが、有明海の奥部の泥干潟に限って言うと、むしろ有機物の沖合への負荷源になっているという報告が、これまで複数の論文で出ていますので、干潟の機能の一般的なパターンは恐らく当てはまらないので、その辺りは少し気をつけて記載をしないと誤解を招く可能性があるので、書き方を工夫していただきたいと思いました。
 以上です。
○小原海域環境管理室主査 速水先生、ありがとうございます。
 一つ目の塩分の点については、おっしゃるとおり、公共用水域データは塩化物イオンで測定されているため、今回、表層塩分のデータである浅海定線の調査結果を使用いたしました。
 一方で、公共用水域データの塩化物イオンから塩分に変換した結果の活用も検討はしておりましたので、令和8年度の取りまとめでは、どちらを使うかについて引き続き検討いたします。
 水質浄化機能についても、御指摘を踏まえて、まとめ方について検討させていただきます。ありがとうございます。
○速水専門委員 よろしくお願いします。
○矢野委員長 ほか、いかがでしょうか。
 山西委員、お願いします。
○山西委員 7ページ目のところの平均気温偏差の傾向の図ですが、前も少し言ったと思うんですけど、例えば、一番左上のところのデータを見たときに、傾向としては48年当たり1.58℃上昇のトレンドというのは、それは全然構わないんですけど、前に山室委員が少し御指摘いただいたような観点とか、ある傾向が変わるようなところを見ることで、ほかと項目との関連が見いだせるのではないかと思います。それをよく見ていただくと、移動平均でもいいんですけど、例えば、1997年辺りから水温がステップアップして、2000何年ですか、15年手前ぐらいから、またちょっとジャンプして、その傾向が変わっているように見えませんか。
 以前、私が、簡単にまとめたものをお送りしましたが、ノンパラメトリック検定をされてみて、水温のトレンドがその辺りでジャンプしているようなところが見いだせないか、確認していただけませんか。そうすると、例えば、水温ジャンプしているところと山室委員がさきほど御質問されたように、そういう傾向が変わるようなものと何か関係が見いだせるようなヒントが隠れているのであれば、新たな発見が見いだせるのではないかと思ったのですが、いかがですか。
○小原海域環境管理室主査 ありがとうございます。これは、周期性、または変曲点を見つけて、それを確認していくということでしょうか。
○山西委員 そうですね。傾向としてジャンプしているように、私には見えるんです。だから、統計解析されて、明らかにそこで変わっているというのが見えるのではないかなと個人的には思っているんですけど。一直線で、ぱっとトレンドを引いてしまうとデータを一括するため、そういうのが見えないのかなと思いました。
○小原海域環境管理室主査 分かりました。先生の御指摘も踏まえて、そこは検討させていただきたいと思います。
○山西委員 よろしくお願いします。
○小原海域環境管理室主査 はい。ありがとうございます。
○矢野委員長 どうもありがとうございます。
 ほか、いかがでしょうか。
 まだあるかもしれないですが、もう既に予定時間を過ぎておりますので、ここで一応終了とさせていただければと思います。どうもありがとうございました。
 それでは、最後ですね。次の議題ですが、その他について事務局から何かございますでしょうか。
○川田海域環境管理室室長補佐 事務局から2点、御報告させていただきます。
 まず、一つ目として、関係機関が有明海、八代海などで実施している調査を取りまとめた資料について、委員より御提案いただいたことから作成している資料があります。こちらの1枚目は水質プランクトン調査、そして2枚目は底質調査について、座標の分かる調査点をそれぞれ俯瞰的にマップ上にプロットしたものとなっております。そして、3枚目、そして4枚目は、それらの基となる調査内容を一覧としてまとめたものです。これらは令和2年度にまとめたものをベースとしておりますが、報告書への掲載の検討も視野に、今後、関係機関の協力を得ながら更新して、共有できるような形にまとめていきたいと思っております。
 そして、次、二つ目でございます。こちらは、今回の資料で参考資料3として添付しております、令和5年1月に開催した第50回評価委員会にて決定いただきました今後の審議の進め方にて、令和8年度報告の取りまとめに向けて編集ワーキングを設置し、検討を進めてまいることをお示ししておりましたが、その編集ワーキングでの各章に係る検討の工程の概要についてまとめたものです。冒頭、水谷課長から申し上げましたように、令和6年度は情報収集に集中的に取り組んでまいりましたが、令和7年度からは、得られた情報を基に、特に3章、4章、5章の検討、組立てに入ってまいります。
 また、この過程にて平成28年度報告から新たに明らかになった要素を整理し、連関図の検討も進めてまいりたいと思っております。これら検討等において、委員のお持ちの知見から御助力をいただきたい際に個別に御協力をお願いさせていただきますので、その際にはどうぞよろしくお願いいたします。
 このように検討した内容は、委員会に諮っていきながら進めてまいります。海域小委員会については、本日が今年度の最終の開催となり、来週16日には水産小委員会が、そして3月に評価委員会が予定されております。次の開催につきましては次年度に日程を調整させていただきますので、引き続きよろしくお願いいたします。
 事務局からは以上となります。
○矢野委員長 どうもありがとうございます。
 それでは、全体を通して委員から何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 ないようですので、それでは、本日予定されておりました議事については全て終了いたしました。議事進行への御協力に御礼申し上げます。
 進行を事務局にお返しします。
○工藤海域環境管理室海域環境対策推進官 矢野委員長、ありがとうございました。
 本日の議事録につきましては、後日、事務局から先生方に確認依頼を行いますので、よろしくお願いいたします。内容確認後、議事録は環境省ホームページにて公開させていただければと思います。
 それでは、以上をもちまして本日の委員会を閉会とさせていただきます。本日は長時間、どうもありがとうございました。

                                           午後4時09分 閉会