平成13年度独立行政法人国立環境研究所業務実績の評価書

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平成14年9月26日
環境省独立行政法人評価委員会


総合評価:

■概評
 

国立環境研究所は、「環境科学」という内容的にも研究手法的にも伝統的学問分野と異なる問題対応型・領域横断型科学の研究所として極めて広範囲の研究対象を持ち、人員の不足に悩んでいるにもかかわらず、少人数で研究を集中的に行うのに成功している。この点で国内外に見られない、ユニークで貴重な研究所である。平成13年度は、独立行政法人化に伴い導入された中期目標の達成に向けた初年度であったが、同研究所は、研究活動及び研究所の運営とも総合的にみて順調な出足をきり、中期目標の達成に向けて十分な成果をあげている。

■研究活動
  • ○ 研究内容は、基盤研究に加え、地球温暖化など6課題の重点特別研究プロジェクトと化学物質環境リスクなど2課題の政策対応調査研究の形で行われているが、これらはいずれも現在の環境問題への対応として適切に選ばれており、人的・物的リソースの配分においても、その全体が限られている中でほぼ適切と考えられる。
  • ○ 外部評価委員によるプロジェクトの評価結果を見ると、ほとんどすべてのプロジェクトについて上位の評価を得ている。興味深いことは、計画の事前評価の高いものは年度の成果評価がやや下がり、逆に事前評価が余り高くないものが実行段階では上がっていることである。「地球温暖化の影響評価と対策効果」のような典型的重要問題は計画を作るのは容易だが、実績をあげるのは困難であること、逆に「東アジアの流域圏における生態機能のモデル化と持続可能な環境管理」のようなお手本のないテーマは事前の計画が難しいことの反映と解釈される。後者のタイプにおいて年度評価で高い評点を得ていることは、実行段階に入って適切な判断がなされたものと推察され、高く評価される。
  • ○ 国民生活など社会への貢献が分かり易く、比較的短期に行われると思われる重点特別研究プロジェクトである「内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理に関する研究」と「大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価」がともに、外部評価委員から第一段階として高い評価を得ていることは、研究所の性格からみて望ましいことである。と同時に、今後の対策や基準値の策定につながる因果関係の解明に関する重要なコメントも寄せられている。これらを生かして国民の目に見える研究成果をあげることは、それ自体の価値とともに研究所の存在感を高める上で重要な役割を担っている。
  • ○ 研究成果の広報については、広報誌の発刊、ホームページの活用、見学会・研究発表会の開催等の積極的な広報活動を評価するが、ライター、ジャーナリスト、NGOなどの協力を得て国民に理解しやすい方法(本、映像など)で広く成果を普及させる等の努力の余地がある。これらプロフェッショナル(あるいはその卵)の力を活用するために、独立行政法人化で可能となった契約職員制の柔軟な運用(雇用形態や処遇)などの工夫はできないだろうか。
■環境情報の収集・整理・提供
  • ○ 環境情報の収集・整理・提供は、研究とともに国立環境研究所の担う重要な役割である。現在実施されている業務である「EICネットホームページ」と「環境GIS」はともに適切な企画である。EICネットへのアクセスが1日平均5.3万件という実績は立派なものと言える。環境GISの整備が遅れているのは残念だが、初年度であり、今後に期待する。国民のための国立環境研究所として環境情報事業についても、研究同様、力を注ぎ、新しい企画を立てるなど一層の充実が望まれる。
■研究所の運営
  • ○ 領域ごとの基盤研究と、チームによるプロジェクト研究というマトリックス構造は、10年余り前の国立公害研究所から国立環境研究所への改編の際導入されたものでかなり定着してきたと理解している。新制度では、組織の柔軟な変更が可能になった点が特色であるが、それを先取りして実行したものとみなせる。
  • ○ 個々の研究の評価は、研究機関の評価において最も重要なものであるが、重点研究プロジェクトに関して外部評価委員による研究計画の事前評価と、年度ごとの研究成果の評価を実施しているのは適切である。
  • ○ 独立行政法人化に伴い研究者の処遇の自由度が増したが、それを活用する前提となる研究者評価の方法は良く考えられた妥当なものと思われる。
  • ○ 運営の効率化を目指して導入されたスペース課金制度をはじめ、物的リソースを有効に活用するために多くの試みがなされたことは評価に値する。
  • ○ 財務について見ると、研究費については、多くの受託収入を得ており、これは研究者の積極的努力によるものと評価される。
■結論
 

以上を踏まえ、また、以下に記述する事項別評価の結果も勘案し、平成13年度の独立行政法人国立環境研究所の業務については、中期目標の達成に向け十分な成果をあげていると判断し、総合評価はAとする。

■事項別評価
Ⅰ.業務運営の効率化に関する事項
以下に示すとおり、効率的な組織の編成をはじめ研究者の確保等全般的に適切に成果をあげている状況にあると判断し、A評価とする。
1.効率的な組織の編成 (評価:A)
すべての研究員が「研究領域」に属し、「重点特別研究プロジェクト」等に参加するというマトリックス構造は、研究者の育成、効率的・機動的な研究の実施等の観点から優れたものであり、これを明確に制度化した点は評価できる。また、「研究領域」、「重点特別研究プロジェクト」、「政策対応型研究センター」、「環境情報」、「環境研究基盤技術」等の組織編成も適切である。 今後は、国全体として環境研究を展開するところまで見通した体制作り、社会科学の観点の強化、事務管理体制の充実を期待する。
2.人材の効率的な活用 (評価:A)
常勤研究員と流動研究員とのチームワークが工夫されるなど柔軟な組織体制・人員配置がなされており、また職務業績評価制度・内外の人材活用制度の導入等により、効率化への努力が行われている。 今後は、職務業績評価制度について弾力的な運用を心がけるとともに、職員の健康管理面について一層の配慮を期待する。
3.財務の効率化 (評価:B)
支出削減や自己収入の確保に係る数値目標を達成しているが、アウトソーシング等による事務部門の合理化、一括購入による一層の経費削減、知的・物的能力の所外への有償提供についての取組強化を望む。
4.効率的な施設運用 (評価:A)
スペース課金制度を導入してスペースの再配分をするという先進的な取組を評価する。大型施設の効率的利用、保守管理への取組も適切であるが、大型施設については外部利用も含め、より効果的な管理運営への努力がなされることを期待する。
5.業務における環境配慮 (評価:B)
環境管理委員会の設置、環境憲章の策定、グリーン調達の推進等、システム作りはおおむね成果をあげているが、エネルギー消費量の削減目標については達成されておらず、今後、適切なパフォーマンス評価や住民との対話を含め、環境配慮のための取組をさらに進める必要がある。
6.業務運営の進行管理 (評価:A)
研究計画の作成、外部研究評価の実施、各種委員会等による進行管理が適切に行われていると評価するが、個々の研究ごとに人間関係が入り組んでおり、公式・非公式のチーム活動とその中でのリーダシップのあり方が明確でない場合がある点に注意を要する。
II.国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する事項
以下に示す環境研究に関する業務及び環境情報の収集・整理・提供に関する業務の評価を踏まえ、全体として着々と成果をあげており、また国民に対して十分応え得るものが達成されていると評価し、A評価とする。
1.環境研究に関する業務 (評価:A)
人員・予算などが与えられた枠組みの中で着実に研究が行われており、国内外の研究機関との連携・協力等による研究活動の充実も評価できる。優れた研究も多く、それを広く一般に伝える努力も行われている。
  1. (1) 環境研究の充実(評価:A)
    従来の研究蓄積を土台に優れた研究が実施されており、国際的活動も活発化しているなど、目標達成に向け着実に歩みを進めていると評価する。ただし、環境技術の開発、技術開発・評価に関する知見の提供、基盤的研究の実施状況をわかりやすく伝える努力等について、さらなる充実を期待する。
  2. (2) 重点研究分野(評価:A)
    広範囲にわたり極めて重要なテーマを総合的かつ組織的に推進しており、外部研究評価も適切に行われている。
  3. (3) 研究の構成(評価:A)
    研究の構成は妥当であり、重点特別研究においては従来の研究蓄積が効果的に活用されており、政策対応型研究は新しいプロジェクトであるにもかかわらず既に精力的に研究が推進されている。
    1. ア. 重点特別研究プロジェクト (評価:A)
      外部研究評価委員会の評価を踏まえ、プロジェクトにより研究の進展に差異が見られるものの全体として適切に成果をあげていると評価する。
    2. イ. 政策対応型調査・研究 (評価:A)
      外部研究評価委員会の評価を踏まえ、プロジェクトにより研究の進展に差異が見られるものの全体として適切に成果をあげていると評価する。
    3. ウ. 基盤的調査・研究 (評価:A)
      Natureに載る論文が出るなど優れた成果があげられてきている。ただし、重点特別研究プロジェクト、政策対応型調査・研究と比べ重視されていないようにも受け取れるので、より大きな人的・物的投資を検討すべき。
    4. エ. 知的研究基盤 (評価:A)
      基盤技術ラボラトリー、地球環境研究センターともに環境研究の縁の下の力持ち的な存在であり大切にすべきである。そのような中で適切に成果をあげているが、将来を目指した一層の知的基盤整備を期待する。
  4. (4) 研究課題の評価・反映(評価:A)
    外部専門家による客観的な評価システムや、助言に主眼をおいてその後の研究に反映させる評価方針の導入など、真剣に検討が行われていると考えるが、評価の結果をもう少し大胆に給与等に反映させることや、評価の準備に要する研究者の労力を軽減する努力を期待する。
  5. (5) 研究成果の普及、成果の活用促進等(評価:A)
    研究成果の普及、成果の活用促進は、以下に示すように順調に行われつつあると評価する。
    1. [1] 研究成果の普及(評価:A)
      研究成果の誌上発表数及び口頭発表数は、過去5年間の平均を1割以上上回っており、また、環境儀の刊行、公開シンポジウムの開催等、多面的に成果の普及に努めており高く評価する。
    2. [2] 研究成果の活用促進(評価:A)
      職務発明規定や共同研究実施規定を制定するなど知的所有権の獲得・実用化の促進への意欲が認められる。今後は、技術が産業に活用される事例が増えることを期待する。
    3. [3] 研究活動に関する広報、啓発(評価:A)
      研究所友の会の設立、研究所の一般公開等の取組を評価する。今後、小中高校生の夏休みなどを利用した一週間程度の環境教育(講義・実験)などについても検討できないか。
2.環境情報の収集・整理・提供に関する業務 (評価:B)
インターネット等の活用により、環境情報の整備・提供が行われてきており、おおむね適切であると評価できるが、環境GISについては早期公開に努める必要がある。また、環境問題の社会に与える重大性を考えると、よりわかりやすく研究成果を知らせる努力が必要ではないか。
  1. (1) 環境情報提供システム(EICネットホームページ)整備運用業務 (評価:A)
    ホームページには、最新の情報がコンパクトに掲載されており、ヒット数も多く、また、環境学習用コンテンツの充実も評価できる。さらに使いやすい形になるよう期待する。
  2. (2) 環境国勢データ地理情報システム(環境GIS)整備運用業務(評価:B)
    企画はよく、データベースの構築も進んでいるが、環境GISについては試験運用の段階にとどまっており早期公開が必要。
  3. (3) 研究情報の提供業務(評価:A)
    ホームページ、研究情報誌「環境儀」の刊行などが取り組まれており適切に行われているが、刊行物の効率的な周知方法の検討や、刊行物を一層わかりやすくする工夫を期待する。
III.その他業務運営に関する重要事項
以下に示すとおり、着実にインフラが整備され、若手研究者育成の努力もなされていることから、総合的に判断しA評価とする。  
  1. (1) 施設・設備に関する計画(評価:A)
    予算の範囲で着実に整備されている。
  2. (2) 人事に関する計画(評価:B)
    任期付研究員、流動研究員等の確保や研究員の弾力的配置に努めており評価できるが、管理部門の業務の進め方、高齢者の処遇のあり方、高級技術支援要員の養成等について検討すべき。