長期低炭素ビジョン小委員会(第3回) 議事録

日時

平成28年9月15日(木)10時00分~12時00分

場所

TKPガーデンシティ永田町 バンケットホール1A

東京都千代田区平河町2-13-12 東京平河町ビル1階

議事録

午前10時00分 開会

〇低炭素社会推進室長

定刻となりましたので、ただいまから中央環境審議会地球環境部会長期低炭素ビジョン小委員会の第3回会合を開始いたします。

本日は、ご到着が遅れておられる委員もいらっしゃいますが、委員総数18名中14名の委員にご出席いただく予定であり、定足数に達しております。

なお、本日は、ご欠席の日本経済団体連合会の根本委員の説明員として池田様にお座りいただいておりますので、委員の皆様にはご承知おきいただきますようお願いいたします。

また、既に地球環境部会長決定とされております本委員会の運営方針において、原則として会議は公開とされていることから、本日の審議は公開としております。

では、以降の議事進行は浅野委員長にお願いいたします。

〇浅野委員長

おはようございます。どうぞよろしくお願いいたします。

それでは、配付資料の確認をまず事務局からお願いいたします。

〇低炭素社会推進室長

では、配付資料の確認をさせていただきます。一番上に議事次第がございます。2枚目に配付資料一覧というのがございます。資料1といたしまして、本委員会の委員名簿がございます。資料2といたしまして、国立環境研究所の江守正多室長のパリ協定の長期目標に関する考察という資料がございます。また、資料3といたしまして、東京大学の阿部力也教授のDigital Grid:電力ネットワークイノベーションによる温室効果ガス80%削減への道筋という資料がございます。また、資料4といたしまして、日本環境ジャーナリストの会会長の水口会長の「暮らしを改善し、CO2を減らす」という資料がございます。

資料の不足等がございましたら事務局までお申しつけください。

カメラはここで退席をお願いいたします。

〇浅野委員長

それでは、本日もヒアリングを続けたいと思いますが、事務局から本日のヒアリングについてご紹介いただきます。

〇低炭素社会推進室長

前回から実施しておりますが、引き続き11月ごろまで、関係者へのヒアリングを実施してまいりたいと考えております。ヒアリングは、委員の皆様のご議論に資するよう、世界の潮流・海外の動向・長期的戦略の策定状況、科学的知見、技術、温暖化の影響、ライフスタイル、建物、移動、ビジネス、エネルギー供給、都市・地域・地方創生、金融システム、その他の多様な分野について行ってまいりたいと考えております。

本日のヒアリングですが、お一人目として、気候変動に関する科学的知見、温暖化の影響等について、国立研究開発法人国立環境研究所地球環境研究センター気候変動リスク評価研究室の江守正多室長よりご説明いただきます。

また、お二人目には、電力ネットワークイノベーションによる温室効果ガス80%削減への道筋について、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻の阿部力也特任教授よりご説明いただきます。

さらに、三人目としまして、都市における世界の潮流について、「暮らしを改善し、CO2を減らす」というテーマで、日本環境ジャーナリストの会の水口哲会長よりご説明いただきます。

3名の方々には、本日貴重なお時間をいただきまして、誠にありがとうございます。委員の皆様につきましても、忌憚のないご議論をどうぞよろしくお願いいたします。

〇浅野委員長

それでは、ただいまからヒアリングに入りたいと思いますが、今回はお一人ずつご発表の後、委員の皆様方からの質疑応答をするという進め方にさせていただきます。ご発言ご希望の方は名札をお立ていただきたいと思います。それから、前回の経験で、時間が足りなくなった場合には制限をかけざるを得ないかもしれませんが、できるだけ多くの方にご質問いただけるようにと思っておりますので、前回も申し上げましたが、自説の展開はまた別の機会にやりますので、単純に説明を受けたことについての質問だけ要領よくご質問いただければ多くの委員からの質問が可能になると思います。

ご発表の方々には、大変申し訳ございませんが、一問一答の形をしておりますととても時間が足りませんので、質問はご発表のあと、全部まとめて差し上げますので、その後、適宜、取捨選択してお答えいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

それでは、早速でございますが、江守室長から発表いただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

〇江守室長

皆さん、おはようございます。国立環境研究所の江守でございます。今日は機会をいただきまして、ありがとうございます。僕に期待されているのは、科学的なことだと思っているんですが、ちょっとせっかくの機会ですので、いろいろ自分が大事だと思うことを申し上げたいと思います。

まず、言うまでもありませんけれども、パリ協定で、長期目標として「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」ということが合意されまして、これはIPCCのグラフに1.5℃、2℃という線を重ねるとこんなふうになりまして、RCP2.6と呼ばれている、この下側の青色の線、これがかなりその目標と重なってくるというふうに見えます。

一応ちょっと気候のシミュレーションの、僕のもともとの専門であります、ちょっとそれをお見せしたいと思いますけれども、この赤で書いてある「対策なし」、追加的な対策がないケースと、それから「2℃未満」を目指したケースの気温変化の様子をちょっとご覧いただきたいと思います。1950年から始まって、赤が温度が上がる色で、青が温度が下がる色ですけれども、まだ過去ですので、上も下も同じように自然の変動でゆらゆらとしているのがわかります。上が「対策なし」のケースで、下が「2℃未満」を目指したケースですけれども、これがいつぐらいから違いが見えてくるのかということもちょっと気をつけながらご覧いただければと思いますけれども、現在を越えていきましたけれども、まだそれぞれゆらゆらしていて、あんまりはっきりと区別がつかないんですけれども、2040年、これぐらいになってきますとだんだん違いがはっきりとしてきます。2050年ですね。北極海の辺りは氷が減って非常に温度上昇が増幅されていて、上側だと特にそれは顕著ですけれども、どんどん上側は温度が上がっていって、2100年には世界平均気温で4℃上昇ということですけれども、下側は2040年か50年ぐらいの、最終的にはこうなりますが、2040年か50年ぐらいの温度でゆらゆらしながら踏みとどまった様子がご覧いただけます。簡単に言うと、上のほうになると大変なので下のほうを目指しましょうということですが、じゃあ、どれぐらい排出を削減すると、それができるかということも、ご存じのようにパリ協定に書いてありまして、「今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡を達成する」と。言い換えますと、今世紀末までに世界全体で温室効果ガスの排出を正味でゼロにするということを国際社会は決意したというふうに言えるかと思います。このグラフは、世界全体のCO2の排出量の1850年からのグラフで、黒で歴史的な線が描いてありまして、先ほどの二つのRCPに対応するのがその先描いてありまして、青いほうの「2℃未満」を目指すためには、現在からどんどん世界の排出量を減少させていって、今世紀中に正味でほぼゼロにする必要があるということです。

ここでちょっとその科学的な補足といたしまして、よく話題になります「気候感度」ということに関して、その不確かさがあるので、その温度目標と排出目標の関係を見るとき気をつけなくちゃいけないという話をちょっとしておきたいと思います。「気候感度」というのは、ちょっと時間がないので簡単にしか説明しませんが、一言で言いますと、地球の温度の上がりやすさです。これが科学的にどれぐらいの上がりやすさかというのが、現時点では不確かさが大きい、見積もりに幅があるわけです。これによって排出の目標と温度の目標の間の対応関係に幅が出てきます。そうしますと、仮にRCP2.6とIPCCで呼ばれる、これは今世紀末までに排出正味ゼロを達成するシナリオの一つですけれども、これを例に見ますと、その2℃未満におさまる可能性というのは、可能性は高いとIPCCで言いました。これは大体66%、3分の2ぐらいの可能性です。ということは、気候感度が高ければ、地球というのがもし思ったより温度が上がりやすい星であれば、排出正味ゼロを今世紀中に達成しても2℃を超えてしまうんだと、こういう認識が必要になります。一方で、もしも気候感度というものが低ければ、この排出正味ゼロを達成したときに1.5℃を超えない可能性も出てきます。しかし、もちろん気候感度が高かった場合に、1.5℃を超えないということを目指すためには、今世紀末に排出正味ゼロでは間に合わない。もっと実は今世紀前半に排出ゼロとか、そういう話に実はなってまいります。そういうちょっと1.5℃と2℃というのと、排出正味ゼロという関係に幅があるということをご認識ください。

それで、今日ちょっとメインでお話ししたいのは、じゃあ、その1.5℃とか2℃とかという目標にどういう意味があるのかということを僕なりに論じてみたいと思います。環境省の研究プロジェクトで研究をさせていただいておりまして、環境研究総合推進費のS-10という番号がついておりますけれども、ICA-RUSという略称、これはプロジェクトの略称なんですけれども、そこでたくさんの日本の研究機関の仲間と、一言で言いますと、「1.5℃」を目指した場合、「2℃」を目指した場合、「2.5℃」を目指した場合で、影響のリスクがどんなものが出て、対策の大変さがどんなものであるのかと。両方比べて見ていきましょうということを言っています。総合的に評価するためには、影響もさまざま見なくちゃいけませんし、ここの4分割の表にありますように、悪いことはたくさんあります。中にはいいこともあるかもしれない。対策も、対策をすることによって、好影響、副次的な、いわゆるコベネフィットもありますし、あるいはその懸念といいますか、経済的コストを初めとして対策の副作用や懸念もあると。そういう中で、総合的に見ていく必要はあるだろうというスタンスをとっております。

ちょっと結果は、ちょっと後でまとめて言葉で申し上げますので、このグラフはちょっと時間がないので細かく説明できませんけれども、このグラフは、上から世界平均気温の変化、イネの生産性変化率、これは評価したリスクの例としてです。洪水暴露GDP変化、熱ストレス超過死亡、このほかにもたくさんの項目を評価していますけれども、一番下に書いてあるのは世界平均気温変化の時系列を、幅を持って描いています。1.5℃目標、2℃目標、2.5℃目標を目指した場合と対策なしの場合でそれぞれを比べています。2050年代、80年代、それから世界を何地域かに分割した結果で点を打っています。水色で幅が描いてあるのは、これは温度上昇の不確かさの幅に相当するものです。

これを全体的にこれから何が言えるかちょっと後で申し上げますので、次に行きますけれども、一方で、緩和策の評価も行っておりまして、1.5℃目標、2℃目標、2.5℃目標を目指した場合に、例えば上のグラフは世界合計のGDP損失がどうなるかということで、それぞれの目標について線が複数描いてあるのは複数のモデルで、2℃と2.5℃に関しては複数のモデルで計算した結果が書いてあります。不確かさの幅も見ております。ご覧のように、厳しい目標ほど、やはりかなり顕著にGDP損失が大きいと。下のグラフはCCSを伴う一次エネルギー供給でありまして、その2℃とか1.5℃を特に目指すとCCS、特にバイオマスを組み合わせてCCS、CO2の隔離貯留ですけれども、を行って、大気からCO2を吸い取って地中に封じ込めながらエネルギーを得ると、そういうことをもし大規模にやれば、こういう目標が達成できるというような答えがこういうモデルを解くと出てきがちで、IPCCで紹介されているシナリオも大体そうなっています。

これらを全体的に眺めまして、非常にざっくりとした印象を申し上げますと、影響に関しては、1.5℃、2.5℃の目標の間の差というのは、対策あり・なしの差よりはかなり小さいと。もちろん差はあるんですけれども、ある程度小さい。それから、予測の不確かさの幅よりも小さい。ですので、これを見ると、リスクの観点から言いますと、どの目標を選ぶか、1.5℃がいいか、2℃がいいか、2.5℃がいいかということをずっと議論しているよりは、大きな方向として確実にそちらに向かうということと、不確かさに対処すること、気候感度がすごく高かった場合にどうしたらいいのかというようなことを考えることのほうが、むしろ大事なんじゃないかというふうに言ってみています。

一方で、対策に関しては、1.5℃、2℃、2.5℃目標の間のコスト等を見ますと、差は非常に大きいということは明らかです。特に1.5℃、2℃等の厳しい目標を目指しますと、バイオマスCCSの大規模導入をするという答えがモデル上は出てきます。そうすると、土地をエネルギー作物用にたくさん使うことになりますので、食料生産や生態系保全と競合するという心配が出てきます。本当に無理して、そんなことまでしてそれを目指すのかどうかという議論の必要があるかと思います。

そんなふうに言いますと、じゃあ1.5℃よりも2.5℃でいいじゃないかというふうに言っているのかといいますと、決してそうではなくて、「ただし」がありまして、ここからのほうがむしろ大事でして、ただし、この結果を見るときにいろいろと気をつけなくちゃいけないと思います。我々、評価したのは有限のリスク項目で、評価が現時点で難しいものもたくさんあります。それらを考慮すると、その目標間の差というのはより重要になってくる可能性があります。特に「ティッピング要素」、ある温度を超えると地球システムに大きな変化が起こるということが、例えば、仮にグリーンランドの氷床が大規模に不安定化する、そのしきい値となる温度が1.5℃と2℃の間にあるとすれば、その間の差というのは非常に大きな違いになってまいります。それは現時点ではよくわかっていないということです。

二つ目は、対策コストを計算するモデルにはさまざまな限界があります。一つには、世界全体の経済最適化を仮定してモデルを説きますので、ある面から見ると楽観的な、そのコストは低く出る、実際にはもっと高く出るよというような計算をしている可能性がある。一方で、逆に言ってみれば「イノベーション」を表現できない。現在の社会経済構造と現在見通せるような技術のオプションを前提に解くとこうなりますと。しかし、実際は、将来は社会も経済も技術のシステムもいろいろと変わるでしょうから、そういうことが入っていないということです。「イノベーション」の起こり方によっては、モデルの結果は悲観的、コストを高く見積もっている可能性があります。

最後に強調したいのは、望ましい目標は価値判断に依存するということです。「2℃」や「1.5℃」の目標は、世界総計の経済価値から見ると、このほうが対策コストよりも避けられる被害のほうが高いから、経済的に得だからぜひやりましょうという答えには必ずしもならないという、我々の結果はそうなっていますし、ほかの多くの研究者の結果でもそのように受け取れます。ですので、「2℃」や「1.5℃」を目指しましょうという目標の支持の背景には、その世界総計の経済価値、言ってみれば功利主義的な価値以外のほかの規範的な価値が存在するんではないかというふうに受け取っています。

このグラフはそれを説明するために、IPCCのAR5のWG2の懸念の理由という、「Reasons for Concern」と呼ばれる重要なグラフなんですけれども、これは縦軸は世界平均気温の変化量で、ゼロが産業革命前で、現在既に1℃上昇していますが、1.5℃、2℃、3℃、4℃、5℃というふうに世界平均気温が上昇してきたときに、世界全体で見たそのリスクがどのように高まっていくかというのが色で表されています。しかし、これは5本描いてありまして、5本描いてある意味は、さまざまな違う見方をするとリスクの深刻さが違って見えるということです。例えば右から2番目に書いてある世界経済と、これは仮にこう訳しましたけれども、例えば、そのリスクを全部市場価値に換算して世界で単純に合計してやると、必ずしも現在既に悪影響が出ているとは言えないし、1.5℃、2℃と上がっていっても中程度の悪影響だろうと。これは一方で、例えば寒いところで農業に便益があるとか、そういうことがあって合計するとある程度それはキャンセルするからということがあるかと思います。これは楽観的な見方になるわけですが、一方で、一番左に書いてある固有の生態系や文化という見方をしますと、例えばもう現在既にサンゴが白化したり、死滅したりしているじゃないかと。あるいは北極圏のイヌイットの人たちの伝統的な文化が存続できなくなっているじゃないかと。そういうことを考えますと、もしかしたら経済価値に換算して世界で合計すると大した影響ではないのかもしれませんけれども、その人たちにとっては、もう取り返しのつかないことというのは起こっている。その生態系については取り返しのつかないことが起こっていると。1.5℃、2℃と上がると相当深刻なリスクになるという見方をすると、非常にもう大変だし、1.5℃、2℃なんてとんでもないという見方になるわけです。こういう何を避けるべきか、何を守るべきか、社会の判断によるんだという認識が非常に重要だと思います。

関連して、Climate Justice(気候正義)ということ、国際的にはこれは非常によく知られた概念ですけど、日本国内で聞くことはあまりない気がしていますが、今まで温室効果ガスを排出してきたのは先進国や新興国であると。それに対して最も深刻な被害を受けるのは貧しい途上国や弱い立場の人たち、同じ国の中でもですね、そして将来世代です。この人たちは、自分ではほとんど温室効果ガスを排出していないのに、ほかの国が排出した温室効果ガスによって、例えば国土が消滅してしまうとか、深刻な飢餓のリスクが増えるとか、そういう本当に絶望的なリスクを受けなくてはいけないという、非常に不公平な問題である。ですので、この気候の問題は経済的な損得の話というよりは、むしろ国際的な人権問題であるというような認識で、国際的には社会運動が起きています。こういうのも恐らく1.5℃とか2℃という目標を後押しした理由の一つではないかというふうに想像しています。

そういうわけで、パリ協定では、言ってみれば脱炭素社会を今世紀中に達成することを決意したんですけれども、それはどうやってできるのかということを考えたときに、ちょっと、単純ではないと思うわけですね。今ご紹介したように、現状システムを前提とした世界総計の経済合理性からは、そのような厳しい目標というのは必ずしも正当化されない。一方で、倫理的な動機づけは存在していますけれども、広く共有されているとは言いがたい。特に日本ではあまりそれは共有されているとは言いがたい気がしています。それでは、国際的に決まったのだから、何でやらなくちゃいけないかよくわからないけど、我慢して、辛抱して、損をして、管理して、規制して、それで何とか努力して2℃とか1.5℃を達成しましょうという話なのかというと、そんなことができそうな気は個人的には全くしていません。排出をゼロにするなどという大胆なことを我慢して達成しようというのは、恐らく発想が間違っているんだと思います。

じゃあどう考えたらいいのかというのは、ちょっとここからの話ですけれども、ご存じのように世界のCO2排出量は既にピークを迎えていて、迎えたように見えると言われていて、ここ2年排出量は増えていない。経済成長しているにもかかわらず増えていない。何か大きな変化が起こっていそうだということは指摘されるんですが、これはどんな変化であって、それをどう推し進めていったらいいのかという議論が最近非常に多く見られるようになっています。

トランスフォーメーション(Transformation)という言葉を国際的には非常によく聞くようになりました。その定義の例としてここに書いてありますが、「a process of change that involves the alteration of fundamental attributes of a system.」、その本質的な属性を、システムの本質的な属性を変えてしまうような変化をトランスフォーメーションと仮に呼びますと。社会の変化に当てはめますと、単なる制度や技術の導入ではなくて、人々の世界観が変わってしまうような過程であると。管理とか規制によって達成するというよりは、学習とかイノベーションとか新奇性、多様性によって達成するようなものであって、政治性を伴います。これは後で言います。例えば、産業革命とか奴隷制の廃止はトランスフォーメーションだ。産業革命は技術の変化が起こっただけではない、奴隷制の廃止は制度の変化が起こっただけではなくて、その前後で人々の世界観、常識が全く変わってしまっていると。こういうことが脱炭素というときにも起きなくちゃいけないということではないかと思っています。

じゃあ、それはどうすれば起こるかという議論をいろいろ見てみますと、よく強調されるのは、計画すればそのとおりに起こせるようなものではないわけですね。短期的・長期的あるいは地域規模・世界規模のさまざまな取組や出来事が積み重なって、その結果起こるので、その間の仲介をすることは重要でしょうと。ですので、計画というよりは、さまざまなことを、取組が起こるのを促進する、後押しする、仲介するということかと思います。

このメリッサ・リーチという人が三つのDということを言っていまして、Direction、Diversity、Distribution、Directionはゴールの方向性の共有で、これは今世紀末にCO2排出ゼロということでいいかと思います。Diversity、さまざまな発想の取組をやると。Distribution、結果の帰結が現れ方が不均一でありまして、言ってみれば「勝者」と「敗者」が出ることに配慮する必要があります。

ちょっと政治性ということですけれども、要するにこの脱炭素というのは、科学で決まって、もうやることは明らかなんだからやればいいというような、やればどんどん進むというようなきれいごとでは恐らくなくて、その政治的な課題というのに向き合っていく必要はあるということですね。これもよく強調されるので、ちょっと自分なりに例を書いてみましたけれども、例えば化石燃料資源産出国や化石燃料関連企業にとっては、脱炭素というのは、脱化石燃料というのは明らかに脅威で、彼らが最もトランスフォームしなくちゃいけない人たちなのかもしれないわけですね。地域分散型エネルギー社会への移行が起これば従来型電力産業にとっても脅威かもしれません。それから、技術の選択の問題がありまして、原子力の活用は脱炭素に矛盾しませんけれども、さまざまな価値対立をはらみますし、再生可能エネルギーの大量導入ですね、騒音とか景観ですとか、FITで金持ちが儲かっているじゃないかとか、そういう価値対立も生みますし、ですのでトランスフォーメーションはこれらの課題を乗り越えていく必要があって、きれいごとではないんだというふうに思います。

最後に、ちょっとすみません、時間が延びましたけど、気候の長期目標を民主的に議論することは可能かということを、ちょっと我々の研究グループの中でも議論をしていまして、僕個人的には、2012年のエネルギー基本計画を議論された際の、その国民的議論というのを大変、非常にいいことが起こったというふうに思っていまして、例えばああいう議論が、この問題できるかと。気候の問題というのは、複雑で長期的で効力感が持ちにくくて、市民が意見を持つことは難しいということが一般的に指摘されます。しかし、これだけ価値が絡む問題の議論を専門家だけに委任してよいかというと、そんな気がしません。ですので、市民の判断を支援するような媒介専門家というのが必要じゃないかと。例えばドイツの3.11以降、脱原発を決めたような倫理委員会というのがそれに近いかもしれないということで、これはちょっと我々のグループの中でさらに検討を進めているところです。

以上です。どうもありがとうございました。

〇浅野委員長

どうもありがとうございました。それでは、ご質問のある方はどうぞ名札をお立てください。今三人挙げておられます。もうよろしゅうございますか。では、この4人で。

では、最初に挙げられたのは桜井委員でしたね。そちらに順番にご質問いただくこととし、崎田委員、荻本委員にお願いしたしましたのち、末吉委員という順でお願いいたし、ます。

〇桜井委員

桜井でございます。ちょっと一言だけ質問をさせていただきます。大変に印象に残ったのは、トランスフォーメーションはどうすれば起きるのかということで、これは計画的に起こすことができるのは非常に、それは難しいと。何らかの倫理観であるとか何かの変化というものは必要だと。特に印象的に思ったというのは、僕は錯覚して聞いているのかもしれないけども、例えば奴隷制廃止にしても産業革命にしても、こういう改革の中でいろんなひずみが出てきて、そして、そのひずみに対応しなきゃだめなんだという市民感覚ベースでそういうものが起こってくるというのは非常に理想的だとは思うんですが、それにはかなりの時間がかかると思うんです。だから計画的でない、いわゆる市民がその危機感を持つと、何かしなきゃいけないということになるというのは時間がかかるので、この場合、1.5℃、2℃達成にむけた温室効果ガス排出削減スケジュールの中で本当にその対策というのは間に合うのか?市民が大変革の必要性を意識するまで待っていられるのか?民ががなったその時間が遅くなればなるほど、必要な変革は大きくなってしまう。この辺はどういうことになるんでしょうか。

〇浅野委員長

ありがとうございました。崎田委員、どうぞ。

〇崎田委員

ありがとうございます。質問の視点は今のところと似ています。脱炭素革命を起こすときの技術とライフスタイルの総合力が重要と私は今までよくお話ししてきましたが、それだけではなく、そこにやはりライフスタイルの大転換や産業の大転換が起こるような、そういう時期をみんなでつくらなければいけないというご提案なんじゃないかと感じました。今、そういう価値の大きな変革を起こすために、18ページにドイツの例を出して頂いていますけれども、こういうエネルギーの議論とまたちょっと違う流れを日本では創っていたほうがいいかと思って聞かせて頂きたいんですが、日本らしい変革を起こすような対話の場をどうつくったらいいのか。どういうイメージを科学者として持っておられるのかを日本的な視点で伺いたいなと思いました。よろしくお願いいたします。

〇浅野委員長

荻本委員、どうぞ。

〇荻本委員

ありがとうございました。とても印象的だったのは、不確実性ということに関して、いろいろ述べていただいて、全く同感です。それから、そこから先の最後のページまでのところも、個人的には本当に同感なのですが、やはりここで定量的なというか、何らかの議論をするためには、例えば国環研さんの、または世界でどんなことが検討されているかというバックグラウンドの中で、できれば不確実性というものを反映したときに我々がとるべきパスがどういう範囲で振れるのかということが、なるべく定量的にお示しいただけると、そこからいろんな議論ができると思いますし、トランスフォーメーションも予測できないものはそれを当てにするわけには、最初にはいかないので、という議論もできると思います。ご研究の中で、そういうことがどの程度明らかになってきたのかを教えていただければと思います。

〇浅野委員長

末吉委員、どうぞ。

〇末吉委員

どうも大変示唆的な考えさせるレポートをありがとうございました。私は、江守さんより経済あるいはGDPとの関係ではもっと楽観的に見ております。といいますのも、例えばCOP21の成功の鍵になっているのは、やっぱりビジネスの変化ですよね。あるいは機関投資家などの後押しがあったと思います。ですから、彼らは既に温暖化に対応するに当たって、長期的な、絶対的な価値を守るために、目の前の短期的な、総体的なコストを受け入れると。むしろそのほうがトータルとしてのメリットのほうが大きいんだというふうに考えを改めているんじゃないかと思います。特に私が関心のあります金融で申し上げますと、先生がおっしゃっている仲介(brokering)ですね、この役割を実は金融がグリーンキャピタルで果たすということが、今どんどん始まっているように思います。私が手伝っているCDP、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクトでも、サイエンスベースなアプローチやターゲットを持っているのかどうかを企業への投資判断の基準の一つに入れようというのが始まっております。そういったことを申し上げた上で一つお尋ねしたいのは、これから出てくるであろうIPCCの6次報告書を含むサイエンスの世界からビジネスの世界にどういったようなメッセージが出てくるのか、この脱炭素化革命を進める上で、そういったところに何かあったらお教えいただきたいと思います。

〇浅野委員長

髙村委員、どうぞ。

〇髙村委員

ありがとうございます。江守さんにはいつもいろいろ教えていただいているので大変理解できるんですが、二つコメントと一つ質問、はい、1問だけですか。わかりました。質問だけ、わかりました。先生、怒られましたので質問だけ、じゃあ。パリの協定ができた直後から1.5℃、2℃の意味というのを科学者の中でいろんな発信があるんですけれども、ちょうどちょっとオックスフォードの、すみません、今、名前をあれですが、オックスフォードの先生が、特に1.5℃のときに、当然エネルギー起源のCO2というのは非常に重要なんだけれども、そのほかのガス、特に短寿命気候汚染物質と言われているようなブラックカーボンですか、メタンとかHFCと、ここがやはりドラスチックに減っていくことが1.5℃の達成、非常に重要だという分析を出していらしたと思うんですけど、1.5℃の意味合いについてはこれから、これまでの研究成果をまとめ、IPCCを中心にまとめられていくと思うんですが、これについてもし今の時点でお答えがあればいただければと思います。

以上です。

〇浅野委員長

手塚委員、どうぞ。

〇手塚委員

江守さんの説明はいつもいろいろなところで伺っていて、大変納得するというか同意するところが多いんですけれども、2点だけ質問なんですけども、まず、このIEAの14ページのグラフなんですけども、既にピークを迎えたって、これはここのところ新聞とかにもこの記事が出ているので、そういう事実が出ているんだと思うんですけども、気象庁のデータとかを見ると、CO2の濃度そのものはこの数年間も上がり続けていますね。つまり、このエネルギー起源のCO2を計算で出してきているものと、実際の観測データの間に何か乖離があるとすると、何でそれが起きているのかということが1点目。

2点目は、先ほど平衡気候感度の話について、不確実性があるということをおっしゃっていたんですけれども、この温度上昇がある気候感度に基づいて起きる、不確実性の中で起きていく中で、実際にその時間ファクターとして排出量がゼロ・エミッションに仮になったとすると、その後、温度上昇が止まって下がってくるまでの間にどれぐらいの時間がかかるか、つまりタイムファクターがどういうふうになっているかというような知見がおありでしょうか。といいますのは、実際にゼロ・エミッションになった瞬間に地球が冷え始めるわけではなくて、恐らく何年間かのイナーシャがあって、オーバーシュートして下がり始めるという、全てそういうモデルになっていると思うんですけども、この場合、例えば10年、20年とオーバーシュートが続いてしまうと、高い温度でもって適応が起きてしまって、逆の既得権が発生する。例えば寒冷地に大量に農作物がとれるようになったときに、今とは全然逆の方向の既得権が発生するというリスクが起きてくるかなとも思いますので、この辺、結構重要な問題かと思うので、ちょっと知見がありましたら教えていただければと思います。

〇浅野委員長

はい。それではご質問は以上にさせていただきます。

大変恐縮ですが、時間がありませんので、8分でまとめてお答えください。

〇江守室長

どうも皆さん、ありがとうございました。ちょっと新しいほうから答えたほうが答えやすそうなので、手塚さんのご質問ですけれども、排出がピークを迎えたように見えるけれども、濃度が上昇し続けるのは、これはちょっと考えれば当然でして、濃度は言ってみれば排出の積分なので、排出がゼロにならないと上昇は基本的には続けるということであります。上昇速度が鈍るかどうかというところを今後検出していかなくちゃいけないということなんだろうと思います。

それから、ゼロ・エミッションを達成した後のイナーシャの問題ですけれども、例えば今日お見せしたRCP2.6みたいなシナリオでは、その問題はどうなっているかというと、人為的な排出がゼロになりますと、自然の吸収分がまだ残っているので、自然の吸収分も入れると正味で吸収になるんですよね。それはその温度を下げる方向に働きます。一方で熱慣性があるので上がる方向のイナーシャがかかると。それが大体打ち消し合って、一旦上がらずに、すぐに一定に向かうというのが今のその2.6みたいなシナリオですね。一つには、そういうことがもし仮に実現するのであればイナーシャは発生しないということかと思います。

その前、髙村さんのご質問ですけれども、1.5℃を達するために、その他ガス削減が必要、そのとおりだと思うんですけど、そのときに1.5℃の目標というのを、何をそう呼ぶかというのが、これは先日の1.5℃のスコーピングがIPCCでありましたけれども、増井室長もお出になりましたけど、そこでも議論になったという報告を聞きましたが、1.5℃を例えば66%以上の可能性で達成するようなパスというのを考えますと、CO2もほかのいろんなガスも、加熱性のエアロゾルも今世紀前半ぐらいにもうほとんどゼロにしなくちゃいけないというすごいパスになるということだと思います。それ以外、もう一つの可能性としては、もし気候感度が低ければ、もうちょっと緩い、今2℃で考えているのと同じようなので、運がよければ1.5℃は達成するということも議論の視野には入れておいたほうがいいのかなと個人的には思っています。

それから、どうしようかな、ちょっと戻って桜井さんのご質問ですけれども、これはちょっと僕も考えているんですが、社会の市民が、人々が、みんなが例えば気候変動、科学を理解して、例えば気候正義みたいな倫理的な感覚を共有して、そうでないとこの変化は起こらないのかということだとすると、これは多分時間はかかるという回答もできるかもしれない、もしかしたら絶望的かもしれないと、そんなことは起こらないのかもしれない。やっぱり世の中の問題、僕なりにいろいろ観察していて、本当にみんながそこまで関心を持って認識をするということ、多分起こらないんだと思うんですよね。やっぱりそれは、ある一部の人たちになるんだろうけれども、そういう一部の人たちが、少しずつ多くの人たちがそういうものを共有したときに、やはりそこでその制度が変わって、制度が変わると、経済がそれで変わると、みんないつの間にかそれに従って、社会全体がそっちの方向に向いているということが起こるということなのではないかなと。これは全く僕の専門ではないので、勝手に個人的に想像していることですけど、例えば奴隷制の廃止も、みんながその問題に物すごく興味を持って、それが起こったというよりは、やっぱり熱心な人たち、その周辺の人たちに広がっていって、それで制度ができたり、経済が動いたりして、いつの間にかそれが新しい常識になってみんな従うようになったということではないかなというふうに思っています。

崎田さんのご質問で、日本らしい対話の場は、これはちょっと僕はすぐに答えを申し上げることはできないですけれども、ちょっと今後考えていきたいと思います。日本らしい対話の場ということを考えると同時に、日本はなぜこういう対話しかできないんだろうというようなことも同時に考えていく必要があるのかなと個人的には思っています。ちょっと宿題にさせてください。

それから、荻本さんの不確実性の話ですけれども、不確実なので定性的なことだけしか言いませんということになっちゃうと、ちょっと科学としてお粗末ではないかと。多分そういう問題意識でおっしゃっていただいたんじゃないかと思います。それはそのとおりだと思います。それで、ご存じかと思いますけれども、しばらく前にNature ClimateとEnergyの何か特集で出た論文というかコメンタリーで、統合評価モデルは課題があるので、ほかのいろんな発想と組み合わせて使っていかなくちゃいけないというような、そういう主張があったかと思います。つまり定量的な研究、シナリオ研究、モデルを使った研究はもちろんこれからも続けるんですけれども、その見方として、今まではそればっかり見ていたけれども、それとほかのアプローチを組み合わせて将来を考えていったほうがいいんじゃないかと。ほかのアプローチというのは、例えば技術のトランジションの、過去にその社会と技術がどのように大きく変化してきたかという、その歴史的な分析の研究を今のシチュエーションに当てはめてみるとか、それからローカルなアクションリサーチ、ローカルな取組も非常に重要なので、それをつなげて考えてみるとか。社会の変化というのは、その統合評価モデルが描くように起こる部分もあるかもしれないけれども、それだけじゃなくて、もっとそういう、そこで描けてないことも大事なので、あわせて見ていきましょうというアプローチが今指摘され始めたように思っています。

末吉さんの、サイエンスからビジネスへのメッセージですけれども、これもちょっと僕はよくわからない、答えにくいですけれども、サイエンスがビジネスに、これがメッセージだというふうに、メッセージを出すかどうかは別として、やはりビジネスはそのサイエンスが言ったことを解釈して動いてらっしゃるんじゃないかなと思うんですよね。サイエンスで言えることは今世紀末までに、例えば脱炭素をすれば、2℃とか1.5℃、1.5℃はかなり運がよければですけれども、実現可能だよということですよね。それに対して、やっぱりポリシーとかビジネスが、それを、じゃあその目指そうという決意をして、ビジネスはそれを何か、やっぱり世の中がそういう方向に向いているのであれば、それはもうこっちの方向でビジネスを展開していかないと生き残っていけないと。恐らくそういう感覚をお持ちの人たちが増えてきたのかなというふうに個人的には想像しております。

以上です。

〇浅野委員長

どうもありがとうございました。

それでは、江守室長のご発表は以上にさせていただきます。

続いて、阿部先生にお願いいたします。

〇阿部特任教授

皆さん、おはようございます。東京大学の電力ネットワークイノベーション(デジタルグリッド)総括寄付講座で仕事をしております阿部と申します。私は兼務で技術系戦略学専攻というところにおります。そこでは技術と経営、いかにテクノロジーを経営に結びつけていくかということを研究しています。

今回お話がありまして、デジタルグリッドについて説明するという機会を与えていただきました。デジタルグリッドというのは初めて聞かれる方もいるかと思いますが、スマートグリッドと似たような概念ですが、実際にはそれを実現するために電力のデジタル化を図り、それによって、電力制約を解放するというようなテクニックを使っております。今日の話では、電力ネットワークイノベーションによって温室効果ガス80%削減をいかに現実化するかという道筋についてお話ししたいと思います。

今日お話しする内容の全体像を先にお示しします。今年の5月13日に2050年までに長期的には80%の温室効果ガスを削減するという閣議決定がなされました。政府の目標ということで、遠い想定というふうに思われておりましたけれども、今年の9月3日、つい最近ですね、COP21のパリ協定に、アメリカと中国が批准し、現実味が非常に増してきました。そういう中で日本の役割をどう実現しようかと思うと、閣議決定の中でも、従来の取組の延長では実現が困難ということがはっきり書いてございます。イノベーションによる解決が必要だということが書いてあります。しかし実際にはどうしているかというと、各省庁がいろんなアイデアを出してくるということなので、従来の延長になってしまうわけですね。今日お話しする内容はちょっと突拍子もなく聞こえるかもしれませんが、こういうことが必要だと私は確信しております。根本に立ち返ると、温室効果ガスその9割、約13億tと言われるものの、9割がエネルギー起源CO2でございます。エネルギー起源というのは何かというと、電力と燃料です。この二つが支配的です。ほかにもいろいろ省エネだとか、いろんな議論はございますが、この二つをたたかない限りどうしようもないわけです。9割の電力と燃料、電力がその中では45%ぐらいありますけれども、まず電力を何とかすれば、燃料側が何とかできるというお話が今日のテーマでございます。

「答え」と書いておりますが、電力は再エネに転換しようというのが答えです。皆さん、よくわかっているのですが、これは現実味が非常に薄いですね。今のままの電力ネットワークでは大変難しいということをお話ししたいと思います。しかし、再エネ転換がもしイノベーションでできれば、現実味がでてきます。再エネを使うことによって価格がすごく安くできる電力エネルギーというのが出てきます。そうすると、今まで採算に乗らなかったような合成燃料というのが可能になってきます。合成液体燃料ができないと飛行機も飛ばせません。あらゆるところに液体燃料は使われております。合成燃料の技術開発、これは意外にあまり進んでいない、オイル代に比べて安くできないということですが、電気代が下がれば、これが可能になるというふうに考えます。

再エネは電源としての、価格、供給力、スピード、点において他の電源と比べてどうなのかということですが、すべての点において優れているということを後で説明したいと思います。

まず、再エネ転換電力と再エネベースの合成液体燃料で9割を削減していくということで、価格はどうか、供給力はどうか、スピードはどうかということですが、まず価格はどうでしょう。太陽光発電の価格というのは年々下がり続けています。これらの図はグーグルで「太陽光、価格」とキーワードをいれて検索しただけで得られます。全てのグラフが右肩下がりといいますか、安くなっていくという予想をしています。いろんな意見はありますが、この図はさまざまな研究所がそれなりに研究したものと実績とを組み合わせて出しています。だから下がるのかとは言い切れませんが、現実には、価格低下メカニズムが、自然エネルギーというか、例えば太陽光についてはございます。例えばQセルという世界一の会社があります。2007年、2008年には世界第1位だったわけですが、2013年には倒産しました。倒産したことによって太陽光は終わりと皆さん言われましたが、現在、買収されてハンファQセルズとなり、世界第3位です。つまり、言い方は悪いのですが、倒産によって借金がなくなって、工場も人もそのまま働き続けて、とてつもない競争力を持ったわけです。中国のサンテックという会社も世界1位だったときがありますが、これも倒産しました。しかし、現在は電気事業も含めて世界第1位を目指しつつあるという状況です。太陽光発電は燃料代がかからず、設備代だけですので、半導体産業と非常に似た構造になっているということです。

供給力はどうかというと、2013年にFITが始まって、1年半ぐらいの間に6,570万kW、これは日本の電力需要のピーク6,000万kWに近い値になりますが、これだけの量をはるかに凌駕する設備認定がなされました。右の図では、それを供給する面積を示しています。約20km四方でこれが供給できます。太陽光発電の各事業者が、電力を供給する申請をしたものが、現在では7,000万kWをはるかに超えています。しかし、ご承知のとおり、系統の問題で接続できない状況になりました。今、2,500万kWぐらいにおさまっている。これは系統の問題ですので、供給力という視点では、供給力があるというふうに言えると思います。

最後にスピードです。スピードは、この図を見ていただくだけでわかると思うのですが、累積容量ですので上がっていくのは当たり前といえども、今この世界で経済成長、こんな角度で増えていくものはほかにあんまり見当たりません。太陽光、風力ともに非常に速いスピードで成長しております。

しかし、先ほど言いましたように、これを電力系統につなぐのはとても難しいわけです。不安定であるということから、需要と供給の瞬間的なアンバランスが生じ、他国との間で莫大な輸出入が発生します。ドイツはエネルギー政策を転換して、エネルギーヴェンデというもので、2050年までに80%のエネルギーを再生可能エネルギーからとるというようなことを法律に書きました。これはぜひ法律、原文を読んでいただくとわかると思いますが、非常に刺激的な法律でございます。これの予想、2022年の予想は、真ん中辺の木曜日の予想を見ていただくと、太陽光と風力で100%電気を供給しているわけですね。火力はそのとき止めるということになっています。こんなことが可能かというと、火力発電所は止めてすぐまた発電してというのはできません。このような運用は夢物語のように見えますが、実際にはやり始めています。ここには隠れたトリックがございまして、これがドイツの電力需給の2015年7月の実際のデータですけれども、上のほうは火力と風力と太陽光、黄色いのが太陽光で、薄い色のグレーが風力ですね。一番多いのは火力なのですけれども、下にはみ出している部分に赤いサークルをつけております。これは輸出です。どこへ輸出しているのかというと、2ページ後になりますが、こんな感じです。ドイツは、周りに8カ国以上の国があって、そこに輸出します。輸入もしています。場所によって過不足が生じますので、南側は輸入して、北側は輸出するというようなことをやっています。途中にたくさん直流系統が挟まっていまして安定度も問題ない。輸出入は、欧州全体系統から見ると、わずか数%にしかなっていません。その数%というのはどのくらいかというと、この軸、皆さん、ちょっと見えないかもしれませんが、1,000万kWですね。下の最大1,000万kW。毎日のようにでこぼこしています。1,000万kWで、最大がどのくらいかというと、5,500、55GWとか書いてあると思いますが、5,500万kWです。東京電力が6,000万kWぐらいの需要がありますので、ちょうど東京電力が隣の東北電力に1,000万kW輸出したり、輸入したりするということに匹敵します。東北電力は最大需要1,500万kWしかありません。したがって、日本ではこのような輸出入は現実的にはほとんど無理です。60Hz系統とはつなげないので、日本でこれをやるというのはとても難しい。大きなヨーロッパの系統の中のドイツだからできるということです。

予測をちゃんとやれば何とかなる、予測がキーではないかという方もいます。

スペインは非常に予測が進んでいるということで有名です。このグラフは、一日のスペインのリアルタイム電力需要を指し示していますが、これもちょっと見えにくくて恐縮なのですが、3,500万kWのピークに対して輸出が380万kW、約1割が輸出です。輸出入が一日のうちに二、三回行われます。このような変動を見ますと、ドイツの例もそうでしたが、輸出しているとか輸入しているとかいう計画的な表現ではなくて、電力が時刻系統から出ていってしまうとか入ってきてしまうということです。コントロールし切れないというのが正しい表現だと思います。

日本は閉ざされた系統ですので、この問題はとても大きい問題です。仮に電力エネルギーの8割を風力発電で賄うということになりますと、日本の電気消費量が、約8,000億kWhありますので、それの80%というと6,380億kWh、を風力発電で全部賄うことになります。利用率25%とすると2億9,100万kWの風力発電設備が必要になります。日本の最大電力は160GW、1億6,000万kWですので発電過剰になってはみ出してしまうのですね。でもはみ出す先がありません。したがって、出力を自動抑制する必要が出てくるわけです。何か工夫しないと、風力とか太陽光を大量に系統に入れることができないのです。

しかも不足する場合があります。風力発電が不足する時間帯はどうするのかと。これは補完する系統電源が必要ですね。風が全然ない、太陽が全然照らないというときは火力発電所で賄わないといけないということです。つまり化石燃料系も再エネ系も両方フルに必要なんですね。無駄なように見えますが、これは大きなビジネスチャンスがありまして、今日はビジネスはあまり言いませんが、後で簡単に触れます。いずれにしても系統電源のサポートが必要。それから、他の再エネ電源、もうちょっと安定したもの。私はバイオが非常に効果的だと思っていますが、バイオなんかの組み合わせ。それから、SOFCによる燃料電池、これは熱効率90%という驚異的な製品ができてきています。そういう意味では、太陽光と風力と燃料電池のSOFC型は新しい世界、電力のパラダイムシフトを生み出すものになるだろうと思っています。いずれにしても全て一つの種類で賄うことはできませんので、柔軟な多重電力サポート、系統プラス分散型コジェネといったものが必要であり、再エネ側は出力の自動抑制が必要であるということになります。

ではどうするかと。自動抑制しないといけない。今、出力抑制を遠隔で電力会社が電話して止めていただくとか、前の日にあなたは止めなさいというようなことをやろうとしていますが、それでは間に合いません。ですので、自動抑制をする必要がある。それで、サポートをする必要がある。その仕組みは、ちょっとこのあたりは、電気工学の話になってわかりにくいかもしれませんが、系統との間で「交流~直流~交流」の変換を行う非同期連系を行うことを提案しています。この非同期連系というのが電力制約からの解放です。「交流~直流~交流」と交流接続の間に直流をサンドイッチしているというものが非同期連系です。右下の絵を見てください。交流と交流の間に直流を挟んで送ると無駄に見えますが、これは一種の周波数変換所です。これに似たものが、北海道と本州の間に直流連系送電線としてあります。四国と関西電力の間にも、140万kWの直流送電線があります。北陸電力と中部電力の間にも、南福光系統連系変電所があります。これはBack To Backといわれる接続方法になっています。世界を見ると、このような非同期連系は非常にたくさんあります。あちこちにあります。デジタルグリッドルーターが特徴的なのは、ACからACの二端子、双方向じゃなくて、ACから二つのACに出しています。三つでも、四つでもいいのですが、多端子型になります。

これが私の研究室で開発したというか、特許も取れている、発明した電力系統のデジタルグリッドルーターです。電力をルーティングするパワールーターです。今日はあまり詳しく話しませんけども、これに全てIPアドレスをつけて、クラウド上から、どのルーターのどの電気がどこへ送られたという、電力識別を行います。これによって、赤い点線で囲まれた系統を区分して、セルと呼んでいる小さめな電力系統にわけて、その中である程度自立運転が可能になるようにするというようなことをやっています。非同期連系によって、セル側では、系統電力接続の際に求められる同期という制約、周波数が一致するというような制約が開放されます。系統側に悪影響を及ぼす再エネ電力の出力変動を伝えない。つまり自動抑制をするということが可能になります。

コアな技術というのは、ここになります。直流が間に挟まれた電力変換。これでデジタル化技術を使っています。1秒間に2万回ぐらい電力変換素子によって直流を、チョッピングをするんですね。インバータという技術です。ごくありふれた技術なのですが、日本はこの技術にすぐれておりますので、世界こういうセル系統を輸出するということが可能になると思います。

今までの電力系統というのは、大電力系統に依存して、上流から下流に電気を流すというものでしたが、デジタルグリッドでは、自立する可能性を追求します。電力セキュリティーを向上させます。右側の絵のように、大規模電力系統と分散型システムの共存を行います。ある程度自立できるところであれば、大規模系統は、今までのように必ず供給して停電をなくすというような負担が減ります。つまり、大規模系統は、ベストエフォートで電気を送ってくれればいいというようなものになります。大規模系統の負担が減りますと、電力システムは相当値段が下がっていきます。自立分散型したシステムと大規模系統の、親から子に今まで仕送りを続けていたものが、子どもが成長して、親にも逆に仕送りをするというような、共存共栄になります。

これを実現するには、送電線の開放、配電網の自由化というようなことが、とても重要になってきます。時間がありませんので、この辺は割愛しますが、これをビジネスにすると考えると、託送料という問題が極めて大きなキーワードになってきます。分散型電源、自家発、それに再エネですね、ミニソーラーとか、ミニウィンドとか、そういうものがキーのデバイスになってくるということです。上からだけの電力供給ではなくて、下からも電力供給するというような、電力市場、需要家に対する供給手段を多重化するということになります。これがハイブリッド電力系統です。

この図は技術的な話ですが、インバータを並列に運転するための同期信号を、GPSから時刻をとるというようなことをやっていまして、これが非常に電力工学を大きく変えるような仕組みになるだろうというふうに思っています。

こんなことで、配電網を自由化して、中小規模の電力系統をセル化すると、電気代が低下することになります。安い電気で人工合成液体燃料をつくることが可能になります。過剰に発電したときは、電気が余るなら、抑制するだけではなくて、液体燃料をつくろうということが次のステップになります。

電気自動車はもちろんそのまま電気で使えばいいんですが、そうでないものについては、合成燃料を使おうということになります。合成燃料としては、メタノール、ジメチルエーテル、水素というものが有望だろうと思います。

これを如何にビジネスに結びつけるかということが、もう一つの課題です。私たちは電力を識別して、全てのやりとりを、セキュリティーをもって把握するために、フィンテックで使われている技術を使う予定です。具体的にはブロックチェーンです。ご存じの方、いるかと思いますが、ビットコインで知られていますが、ブロックチェーンという技術は、全ての取引情報を記録して、それをP to P(Peer to Peer)で持つというものになります。

まとめます。2050年までに80%の温室効果ガスを削減するにはどうするかというと、9割を占めるエネルギー起源CO2を削減しなきゃいけないということですので、電力と燃料を再エネ化するということに尽きるだろうと思います。

まず、電力は、再エネ転換電力のために、配電網の多重受電を許可し、再エネ自家発の供給、自営線連結の緩和、自立可能セルといったものを許容していくということが必要です。多様な再エネ自家発の技術開発を促進するということがもちろん重要です。風力の小さいものとか、ソーラーの小さいもの、水力、潮流、潮位差、バイオコジェネ、バイナリー、水素発電、それはもうその土地々々でビジネスとして技術開発が促進できるように、市場を広げてあげるということがとても重要になります。

次に燃料では、セル内で余剰電力を使って、合成燃料をつくる技術開発を促進するということが重要になります。水素、DME、メタノール等ですね。再エネベースの合成液体燃料及び電気自動車で運輸部門の再エネ化を図るということが、重要な方向性ではないかというふうに思います。

私のほうは以上でございます。どうもありがとうございました。

〇浅野委員長

どうもありがとうございました。

ご質問の方は、どうぞ名札をお立てください。現在、お二方ですが、ほかにいらっしゃいませんか。これでよろしいでしょうか。

それでは、谷口委員からどうぞ。谷口委員、廣江委員もお挙げになりましたね。では、まず谷口委員からどうぞ。

〇谷口委員

どうもありがとうございました。

15ページから18ページのセルグリッドのデジタルグリッドのことでご質問なんですけれども、電気側の観点で、かなりお話しいただいたかと思うんですが、実際にこれを入れようと思うと、まち側というか、都市側でどう受けるかということが非常に重要になってくると思うんですが、このセルグリッドのスケールをどれぐらいが最適かと考えておられるかということと、あと、実際に入れる場合に、いろんな地域があると思うんですけれども、どういう地域が入りやすいか、導入しやすいかということですね。恐らくセルグリッドの中自体で相互融通できるようなところが優先度が高いと私は考えているんですが、先生のお考えをいただければと思います。

以上でございます。

〇浅野委員長

ありがとうございました。荻本委員、どうぞ。

〇荻本委員

ご講演ありがとうございます。

私からは、ご説明のコアはデジタルグリッドで、非同期連系という流れだと思います。そこの部分ですね、同期というのを制約というふうに言われているけれども、同期しているというのは、電気工学的には、系統全体でエネルギーをためている効果があるということで、これを切ってしまうと、非常に難しい制御をお互いにしないといけないということが必然的に起こります。そのため、系統側の費用は安くなるんですけれども、セル側は、貯蔵装置を自分で持って、かつ複雑な制御をして、非常にコストがかかるということになって、私は、電力システム全体として費用が上がってしまうんじゃないかなと。

アメリカなどは、台風が来たときのセキュリティーをあがなうために分散システム導入によるコスト増はいたし方なしという議論をしているのはそのとおりですけれども、日本のような密集のところで、アメリカと同じような議論を想定してそれを言われているのか、それとも、実際、全体としてコストが下がるというご主張なのかを教えていただきたいと思います。

〇浅野委員長

増井委員、どうぞ。

〇増井委員

どうもありがとうございます。

1点だけお願いします。このセルグリッドを構築するための大体の費用ですね、規模によっても違うのかもしれませんけれども、どれぐらいのコストがかかるのか、この1点をご質問いたします。

以上です。

〇浅野委員長

廣江委員、どうぞ。

〇廣江委員

ありがとうございます。

18ページにおいて、配電網の自由化というのがございますが、ご承知のように、もう配電網そのものはこの4月以降に自由化をされているため、多分、ここでおっしゃっているのは、上位の系統を使わず配電網しか使わないので、そこの託送料金を負担することが問題ではないかというご指摘ではないかなと推察いたしました。その上での質問ですけど、それであるならば、そもそも使わないなら、一般の系統につないでおく必要すらないのではないか、もう完全に独立して、自分たちだけで配電線をつくってやっていきますということであれば、こういった議論も全く必要なくなるように思うんですが、その辺り、やはり事故時のバックアップ等々でこういうものを期待していらっしゃるのかどうかということを1点確認させていただきたいと思います。

もう一点質問がありまして、それは6ページに導入成果というのが書いてございまして、ここに1日の需要の変化分に相当するような容量が入りました、6,000万kWと。この数字は、どういう意味合いを持っているのか。

以上、2点でございます。ありがとうございました。

〇浅野委員長

崎田委員。どうぞ。

〇崎田委員

ありがとうございます。

再エネを技術革新の中で効率的に使っていくということでお話を伺いましたけれども、これが徹底されれば、温室効果ガス80%削減という道筋で、どのくらいの効果が上がると考えておられるのかということを伺いたいと思いました。そのときに。

〇浅野委員長

もう、そこまででご質問をお止めください。

髙村委員。

〇髙村委員

一つは、今、崎田委員の意見にも関わるんですけれども、特に電力のところで、こうした方向に向かうための道筋というのをお持ち、あるいは検討されているかどうかというのが1点目。

〇浅野委員長

申し訳ありませんが、ご質問はそれで打ち切らせてください。阿部先生、お答えをいただく時間が8分しかありませんので、よろしくお願いいたします。

〇阿部教授

8分ですか。はい、わかりました。

8分だと、ちょっと全てには答えられないので、重要なところで、一つ一つに答えるというよりは、全体像としてお話ししたほうがいいかと思います。

まず、荻本さんが言われたように、同期制約というのは、今までの電力系統では、周波数が一致していることで、全ての発電機がエネルギーを吸収してくれたわけですね。物すごく効率的で、もう隅々まで、発電所からここのコンセントまで、全部同期して伝えていってくれていたので、パワフルで、効率的で、すばらしいと思います。。よく例えで言うんですが、車で言えばマニュアルミッション、ブンブン走れるという状況でした。ところが、分散電源とかが出てくると、それだとうまく運転できなくなっちゃうので、オートマを入れるべきだというのが私の主張です。オートマというのは、流体継ぎ手です。電力では周波数変換と言っているようなものと同じです。要するに同期していないんですね。エンジンが回っていても、タイヤは止まっていることが可能です。再エネの変動を主系統に伝えないのです。この非同期連系というのは、そういうものです。再エネは太陽光とか、風力とか、もう同期しない電源だらけになってしまいます。ミニ水力も、同期しない電源だらけになってしまいます。では再エネは導入しなければいいじゃないかという考え方もありますが、必然的に系統に接続されてくるんですね。それは世界の成長を見てもわかるし、恐らくCO2課税とかがドカンと来ることで加速されると思います。入ってきてしまう再エネに対してどう対応するかというと、クラッチをマニュアルからオートマに変えるしかないんですね。これが一つの方向です。今まではマニュアルシフトでとてもよかったけど、分散電源にはちょっと向いていないねというのが私の考えです。

次にセルのスケールについての質問ですが、これはさまざまな大きさがあります。一番小さいものは家1軒のサイズです。大きくなると団地、ショッピングモールなんか、とてもいいセルのスケールになります。学校なんかも、とてもいいですね。近隣の人たちを結んで、電気をみんなで共有しましょうというのがセルです。太陽光は1軒では導入できないから、みんなで入れましょうということがでてくるでしょう。自営線を引くのは高いというけど、自営線は、行政とかと組むと、とても安くできます。ぶ架空電線というのは、風で振られて故障したり、木が倒れたりということで、意外に修繕費用がかかりますので、ヨーロッパでは、もう自営線のほうが安くつくという判断としているところもあります。ただし、設置コストは大変なので、自治体が穴を掘るときに一緒に設置させてもらうというようなやり方で、地下埋設型の自営線を使っています。

一番重要な意見で、皆さんがコストということを大変気にされていると理解しています。高いだろうと。これが非常におもしろい視点でして、経済的に何かを供給するためにかかる費用というふうに皆さん考えておられるのですね。これは電気通信事業のときに同じことがありました。NTTが支配的だったときに、通信回線にADSLとか、それから光ファイバーとか、ワイヤレスとかを入れていったら、もう一人の需要家に3種類も4種類も選択肢が出てくるわけですね。これはコスト膨大です。ただ通信すればいいだけなのに、何で電話線、導線1本でだめなんだという議論がありました。それで、それでもいろんな圧力に耐えかねて、通信線の開放を行いました。この通信線を借りる長距離電話会社やNTTコミュニケーションとかがでてきて、その通信線を利用する際に0033をダイヤルすると回すなどというようなことをやりました。このような通信線の開放という状態が20年くらい続きました。この過程で、開発された技術はISDN64kbitやファクスぐらいです。この間、世界はインターネットに大きくシフトしました。デジタル革命が起こりました。日本は遅れました。日本の情報通信機器メーカーの富士通とかNECは、NTTに製品を納めるというのが仕事になっていたので、どうしてもインターネット関連にシフトした技術開発ができなかったと思います。

現在、電力系統で行われている自由化といわれますが、実態は、配電線を貸してあげるということなのですね。配電網を貸して託送料金を取ります。配電網が要らないと言っているわけじゃないのです。先ほど言いましたように、再エネで発電できないときには、系統電源から配電網を使って供給することが必要になります。逆もあります。配電網は大変重要になるので、自営網とあわせてハイブリッドにしなきゃいけないと思います。今後、自家発は増えていきます。託送料金を避けるために、自家発は増えていくでしょう。ここ10年ぐらいで自家発は2,000万kWぐらい増えています。現在、1,000kW以上の自家発は、6,000万kWの設備容量があります。これは日本の総需要の3分の1ぐらいあるのです。しかも1,000kW以下の自家発というのはカウントできていない。自家発はますます増えていくでしょう。こういう時代に、自家発増加を抑制するという方向ではなくて、マーケットを開放するという考え方が必要なのではないかと思います。

先ほどの情報通信でいうと、電話線を使っていた時代、約30年前の電話通信事業の市場規模は5兆円でした。現在、84兆円を超えています。スマホとか、いろんな通信手段があります。皆さんいろいろなものをお持ちになっていますが、通信をするために、どれだけのコストをかけているのだと怒る人はいません。市場が莫大だと言っているわけです。

つまり、電気も供給するためにどれだけのコストをかけるかという話ではなくなって、さまざまな業者が、私の電気、私の発電装置を使ってくださいという売り込みをかけることによって、市場が莫大になります。ユーザーにとっては、とても選択肢が増えて、とてもアメニティが高まり、どんどん値段が下がっていくでしょう。

再生可能エネルギーは電力のパラダイムシフトを起こします。条件が整ってきてしまって、再エネに向かわなきゃだめだという声と、電力の変換の仕組みというのがうまくマッチすると、日本は世界に冠たるビジネスモデルを構築できるのではないかと思います。

最後になりますが、私は、こういうシフトは議論だけではとても無理で、ビジネスに結びつけないとだめだと思います。それを実現するには、先ほどの金融技術ですね、ブロックチェーンのようなものを取り入れて、組み込んでいかないと実現できません。もうその日はすごく近いというふうに感じています。日本のプラットフォームは、島という、とてもある意味で恵まれた環境がありまして、ここから輸出できないので、何とかするしかないという必然に迫られています。官民を挙げた英知が必要だと思います。

以上でございます。

〇浅野委員長

どうもありがとうございました。

それでは、阿部先生、どうもご発表ありがとうございました。

では、続きまして、水口会長からご発表いただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

〇水口会長

おはようございます。

「暮らしを改善し、二酸化炭素を減らす」、そのためのお金・組織・知恵の回し方というお話をさせていただきます。そういう事例を集め、背後にある理論も集めているのが、この「Theory and Practice of Urban Sustainability Transitions」という、今年3月から始まったシリーズで、ここでトランジションとかトランスフォーメーションの事例と理論をいっぱい集めています。

次に参ります。枚数が多いので、乱暴ですけれども、「次」あるいは「下」と言って、どんどん飛んでいきます。

次です。説明の対象ですけれども、経済は伸ばして、温室効果ガスは減らしている、この点線の国々の事例で、記者向けに、これが我が国の温暖化対策だといって公開されたもの、自分で見たもの、聞いたものを中心にします。

全体の構成です。実例と方法をお話しいたします。実例は、暮らしの改善の実例です。具体的に暮らしとは、ここでは住宅の改善と地域の改善に絞ります。

実例スライドですけれども、昨年のCOP21のパリでフランス政府から記者に公開された事例を入り口に、ヨーロッパの類似事例を見てまいります。最初は住宅の改善で、これは戸建てと集合住宅の両方を見てまいります。

次です。結論を先回りして申し上げますと、「貧乏世帯の住宅改修」、これが温暖化対策の柱です。主財源は炭素税と、エネルギー効率向上義務証書というものです。

まず、戸建て(個人所有)の事例を見てまいります。2004年の夏、パリの下町に、貧乏な30代の夫婦がおりました。このようなあばら家を格安で購入しました。屋根、壁に穴があいていて、冬は外と同じ気温という家でした。自力で屋根・壁をふさいで10年間住みます。14年の夏に、フランス政府の「貧乏住宅改修計画(正式名称「もっと良い暮らしへ」」を知ります。

早速申し込むと、改修の専門家がやってまいりました。専門家は、家のどこから熱が漏れているか調べます。費用対効果も考え、改修案を提示しました。

次です。専門家の提案です。家全体を外断熱する。それから、2番目にはペレットストーブで家全体を暖める。3番目、各階に換気扇をつけて、温熱回収もあわせて行う。給湯はボイラーを入れる。

次です。さて、これでお幾らだったでしょうか。全部で4万ユーロ(450万円)でした。本人負担は半分ですから、225万円。しかも、利子がありません。これで、これだけの改修ができました。改修後は、寒さ、暑さ、湿気に悩むことはなくなったと二人は話していました。

次です。この改修を支えたプランですけれども、フランス政府の「もっと良い暮らしへ」というプランです。08年に環境大臣が提案し、現在では、環境省、住宅庁、厚生省の3省合同事業です。毎年、5万件前後の貧乏人が所有するボロ住宅を改修します。

次です。主財源ですが、半分は炭素税、4割がエネルギー効率向上義務制度です。この制度ですけれども、国の削減目標に沿った義務を電力会社に課します。大変重い義務ですので、未達成分がいっぱい出ます。それをお金で払います。そのお金で、貧乏な家の住宅を改修します。つまり、電力部門で達成できない分を家庭部門で削減します。電力会社ですから、電力料金に上乗せしますので、顧客全体で貧乏な家を支えることになります。ただし、外国にも電力会社があるから、むやみな値上げはできないということで、市場競争と削減義務を両立した制度だと、この二人(住宅庁の広報担当)は言っていました。

次です。改修後の家ですけれども、1階です。それから、3階です。私の家の3倍の広さに生活保護受給資格のある方が住んでいました。

次です。次は賃貸の新築の公営集合住宅(パリ郊外)ですけれども、木造のパッシブ、広さは80m2以上、家賃は2万から3万でした。これも財源は先ほどと同じです。

次です。今度は中古の賃貸(集合住宅)です。70年代に、欧州で鉄筋コンクリートのこういう住宅団地はいっぱい建設されました。これに、CLT(直交大型合板)を外づけして、パッシブ水準に断熱改修します。これはEU7カ国でやっております。

まとめますと、貧乏でも、狭くなくて少ない冷暖房費で暮らせるというのが、住宅改善のまとめです。

IPCCの第5次評価報告書にも、「暮らしの改善と温暖化対策は一緒にやったほうが効果的」だという記述がございます。

次です。住宅から街へと広げます。エコモデル街区のお話をします。ここも結論を先回りして申し上げますと、暮らしの改善に加えて、エネルギー自給圏をつくるというのをやっております。

次です。パリの“汐留”だと思ってください。旧国鉄操車場の跡地です。50haの再開発ですけれども、フランスでは住宅開発をメインにしています。パリ市によると、これは暮らしの改善、格差の解消と、エネルギー自給圏、パリをエネルギー自給圏(目標85%)にするお手本となるプロジェクトであり、見本にするんだと。市の地下鉄網拡張計画のモデル事業です。

次です。10haの公園を真ん中に、周り40棟のビルが建ちます。ビルの1、2階は、これは小学校です。あと中学校、オフィス、飲食店、託児所、宅老所、こういうのが1、2階に入り、3階以上は住宅です。合計40万戸です。コミュニティガーデンで野菜がつくれます。住宅ですが、単身者用が60㎡、中流家庭用には200m2住宅もあります。真ん中の公園を通って地下鉄の駅に行き、公園には幾つもフットサル場とかテニスコートがあり、自然散策もできます。エネルギーですが、屋上にソーラー、それから地下鉄を200km延伸しているので、掘りながら地熱のポテンシャルを調べ、使えるところから地域冷暖房につないでいます。それから、現在の地域冷暖房の原料には下水、それから周辺農村の畜産廃棄物を使います。それから、水と緑がいっぱいありまして、これで冷房負荷を下げます。

次ですが、住民参加型の開発をいたしました。

次です。パリ以外にも、ヨーロッパ中で、こうしたエコモデル街区というのはたくさんできております。ほとんどの都市は、90年比で2020年から30年までに5割以上、二酸化炭素を下げるんだという都市でありまして、それを目標として、その達成軌道に乗っている都市です。代表的なのは、ヨーロッパの「グリーンキャピタル(環境首都)」に選ばれたところで、ストックホルム、ハンブルグ、コペンハーゲン、ブリストル等々ですが、個別のプロジェクトの指定都市でも、同じようなことをやっています。欧州では人工の9割は都市に住んでいて、CO2の7割から8割は都市から出ています。今後世界全体が益々としかすることを考えると、都市での削減が非常に重要になってきます。ですからエコモデル街区は、削減モデル街区でもあります。

ここで共通して何をやっているかというのですけれども、一つは土地利用を変えています。工場街、スラム街、国鉄跡地、港湾地区だったところを、住宅開発をして、ここで貧乏でもゆったり暮らせるという環境をつくっています。

それから、エネルギーも大きく変えてございます。特に需要の4割を占める熱ですけれども、熱利用、それから、関連して緑インフラ・青インフラ、光と影の利用で、熱エネルギーの中身を低炭素に変えています。これについて補足します。

次です。太陽熱暖房機と中程度のパッシブ建築、これで零下5度の冬を北欧で乗り切りました。

次です。大規模病院ですけれども、地中熱で冷暖房を行っています。

次ですけれども、木質バイオマスを使って、人口8万の都市で、9割分の家庭の地域冷暖房と電気の需要を賄っています。100万都市でも、バイオマスで地域冷暖房、それから電気、給湯、調理ガス、自動車燃料、家庭の半分以上の需要を賄う地区があります。

次です。緑インフラ・青インフラ、これを住宅地、オフィスに導入することで、冷房需要が抑制され、豪雨被害も緩和され、何よりも不動産価値が上がります。

次です。緑インフラ・青インフラのもっといいところは、自宅の前がリゾート空間になります。泳いだり、釣りができたり、カヤック、ヨット、冬はスキー、スケートができるようになります。

次、光と影の利用です。自然光で、北欧の夕方でも電気照明なしで過ごしています。それから影。日影、ビル影を都市計画で意図して使うことで、冷房需要を抑えます。

次です。ソーラーパネルも、発電だけではなくて、ひさしとしても使って、やはり冷房需要を下げます。

次です。こうしたことの意味でございますけれども、IPCCの第5次評価報告書(AR5)・第2作業部会の本文に、第4次評価報告書(AR4)以降、都市内でAR4に記載された温暖化対策を実際に試す自治体が激増したという記述があります。それから、AR5・第3作業部会の本文には、エネルギー、土地利用、金融、ガバナンスを変えれば、CO2の大幅削減と暮らしの改善は可能だという記述もございます。一方で、お金と組織の壁もあると。なので、エコモデル街区は、自給圏もつくっておりますが、この街区を回しながら、低炭素なお金・組織・知の回し方も試しています。

そこで、お金の壁と組織の壁です。お金の壁はどう越えるのでしょうか。

2008年に、スウェーデンの環境大臣に取材したことがあります。彼は言いました。「炭素に価格をつけて課税する。これが低炭素な社会にお金を回す出発点なんだ」と。ただし、産業の競争力の維持も大事なので、産業が影響を受けにくいように、炭素税と排出量取引は上手に組み合わせるんだというふうに説明しておりました(図参照)。

次です。イギリスのように、炭素予算で管理するというのも有効な方法だと思います。使えるお金の予算と、炭素の量が、各省庁に割り当てられます。分野別の排出量がはっきり出ます。炭素を削減しないと、翌年からお金予算が減らされます。

次です。エネルギー効率向上義務制度は先ほどご説明しましたが、フランス以外の国、地域でも実施しています。

それから、すごく大きいと思うのが、キャピタル・ゲインで元をとるというところです。エコタウンをつくると、確かに建設コストは上がります。しかし、エネルギー、環境、健康のコスト、それから維持管理コスト、社会コストは下がり、一方で地区の魅力が上がるので、資産価値が上がると。なので、相場より5%から10%高く売ることができたと、開発業者は言っています。ここで、日本と大きく違うのが、不動産市場の性格です。外国は8割以上が中古建物です。しかも、中古建物の資産価値があまり下がりません。きちんと管理すれば上がる場合もあります。ですから、いい地区をつくり、いい住宅をつくれば、貯金しているよりも有利な投資になる、ここが日本と決定的に違うと思います。

コペンハーゲン市は、2年前に「適応税」というのを入れました。環境部長に聞きました。彼女は言いました。「適応策を実施しないと、あなたたちが持っている建物の不動産価値が下がるでしょう」と市会議員に言って、認めさせたそうです。

次に組織の壁の越え方です。

組織の壁は、大ざっぱに言うと縦割りの壁とルーチン(定型化した仕事)の壁です。

縦割りの壁ですけれども、多くの場合、個別部門内の最適性を目指して、各部門間の連携がありません。これを変えて、全体最適を目指すように、どう組織を統合したらいいのかという手法の研究が、90年代後半から行われ、実践もされています。例が幾つもあります。

スウェーデン南部のスコーネ県というところですけれども、環境部と病院部が一緒になって、病院で必要なエネルギーの種類と量、交通(通院、通勤)、ごみ処理、薬や食べ物の調達方法、そしてビルのエネルギー効率の現状を調べました。夏の暑さ、冬の寒波に対応する適応策も必要です。病院内の各部でバラバラに対応しないで、どうすれば全体最適を目指して統合できるのかというプランをつくりました。無駄を省き、資材の調達方法を見直し、建物の改修を行う小さな実験から始めます。成果を積み重ねた結果、二酸化炭素も、それから病院の経費も、両方削減することができました。これが今EU(欧州連合)が、域内に広げている「持続可能な病院」です。

世界銀行の報告書ですけれども、縦割りを超えて経済成長と温暖化対策を統合する、企画調整官庁あるいは財務省が間に入って実施する例が世界的に増えていると報告しています。

統合的手法に関し、具体的な方法を説明する時間はないので、それは資料編をご覧ください。

次は、「組織の壁、ルーチンの壁を越える」ですけれども、これもIPCCの第5次評価報告書に、実際に試して壁に挑戦する自治体が激増したと書かれています。また、そうした挑戦を観察分析する論文も激増したと書いてございます。その論文激増の震源地の一つがDrift(Dutch Research Institute of Transitions、ロッテルダム市、エラスムス大学内)、オランダトランジション研究所というところです。彼らがやっているのは、①どういう条件がそろえば、ルーチン、組織、社会は大きく変わるのか、②その変化というのはマネジメントできるのか、③小さな実験から始めて、社会は大きくかえられるのかということです。90年代から始まりました。このヤン・ロットマンという人は、90年代半ばまでは、気候モデラーとして世界のトップの人だったんですけども、気候モデルの研究だけでは、気候変動は解決できないと感じ、トランジションマネジメント(社会の移行をマネジメントする)というのを始めました。ヨーロッパ中で実践しています。ここに掲げているのは、その一部です。実際の都市でやってみて、何がうまくいく・いかないというのを試しています。

これも時間がないので、具体的な方法は資料編に回しました。

最後ですが、早く世界全体で変わらなければならないので、共同進化する仕組みが必要になります。少なくとも二つあります。一つは、テーマコミュニティで、実践者・政策形成者が集まって、お互い議論、学び合い、教え合いをするということ。それから、2番目は、EUの「HORIZON2020」(社会構造変革の研究プロジェクト)が典型ですけれども、政策形成者と研究者が顔を合わせて、お互い理論を知る、実践を知る、体系化する、マニュアルをつくる、何がうまくいく・いかないというのを試した結果を報告しあうという場があって、ここで物すごい議論と実践が行われています。

まとめます。経済は伸ばして、二酸化炭素を減らす一群の国々がございます。ここがやっているのは暮らしの改善です。暮らしとは住宅と地域です。それらの改善をやっていて、そこで、今ある技術で二酸化炭素を大きく減らしています。モデル街区をつくり、低炭素なお金の回し方、組織の回し方、知恵の回し方を進化させ、その進化を共同で進めています。

ご清聴ありがとうございます。

〇浅野委員長

どうもありがとうございました。

それでは、ご質問がおありの方は、名札をお立てください。

それでは、谷口委員から、どうぞ。

〇谷口委員

ありがとうございます。

街区をよくしていく、暮らしをよくしていこうというお考えには賛同するんですけれども、エビデンスとして、街区で本当にどれだけCO2が削減されたのかという情報が、やっぱりちょっと不足していると思うので、その辺りを補足していただきたいです。

暮らしがよくなると車を新たに買うとか、あと、環境に配慮した住宅に入ると、かえって環境に負荷をかけてもいいと思った、「エコマインド・パラドクス」というふうな暮らし方が発生してしまいますので、例えばすき間風単体でCO2が減ったとか、そういう計算ではなくて、暮らし方が変わったことで、本当にトータルでCO2が減っているのかということが、どれだけ検証されているのかということを確認させていただければと思います。

以上です。

〇浅野委員長

それでは、大野委員、どうぞ。

〇大野委員

大変興味深い事例を教えていただいたんですけども、水口さんが主に見られた欧州の事例と、日本のケースを考えて、特に政府、国の政府や自治体の政策で何が一番参考になるか、どういう点が違うのかという点について教えてください。

〇浅野委員長

末吉委員、どうぞ。

〇末吉委員

どうもありがとうございました。多くの事例で、大変わかりやすく、説得力あるプレゼンテーションだったと思います。

お話を伺っていますと、欧州は、お互い国境がすぐあって、隣の国、隣のまちのグッドプラクティスが、たくさん情報が入ってきて、それを見て、いろんな意味の競争が始まっているような気がするんですね。あそこでこんなことをしたら、うちもしたほうが得だと。そういった競争が、いろんな既得権益との闘いを乗り切った要因だと思うんですけれども、一方、日本の場合には、孤立した島の中です。ですから、あえて申し上げれば、お金と組織の壁に加えて、情報の壁があるんじゃないかと。そういったような日本の中で、こういったお互いグッドプラクティスを学び合って前に進むということには、何をしていけばいいというふうにお考えなんでしょうか。

〇浅野委員長

増井委員、どうぞ。

〇増井委員

どうもありがとうございます。

2点あるんですけれども、末吉委員の今の質問とも関連するんですが、日本でこうした事例というのがあるのかどうかというのが1点目です。

2点目なんですけれども、今回のスライドの8枚目のところに事例があったんですけれども、こうした見える化ですね、これが非常に重要ではないかなと思うんですけれども、こういう見える化の取組というのを、この改修のときだけではなくて、ほかのいろんな断面でも、ヨーロッパのほうでは実践されているのかどうか。

その2点をお伺いします。ありがとうございます。

〇浅野委員長

荻本委員、どうぞ。

〇荻本委員

3ページ目の各国比較というところなんですが、これが一次エネルギー、または排出量のプロダクション・ベースなのか、それともコンサンプション・ベースなのかというようなことは、やはり気にしないといけないと思います。

先ほどあったように、個別個別の事例で、実際にどれだけ減ったのかという話と、その国トータルとしてどうなったのかというところには、ギャップがある可能性がございますので、この辺、ご知見がありましたら教えてください。

〇浅野委員長

崎田委員、どうぞ。

〇崎田委員

ありがとうございます。

暮らしと地域の改善で大きく変化を起こすというのは、大変共感するところで、ありがとうございます。

質問に関しては、今回ご発表いただいた地域の事例は、通常の地域開発のCO2半減を目指すというような地域のお話をしていただきましたけれども、今回検討課題としている長期80%削減、あるいは脱炭素というような社会に向けて、こういうような取組の延長線上にそれはあるとお考えなのか。今日のような事例のところに、どういう要素を加えたらいいと思っておられるか。その辺を伺えればと思いました。よろしくお願いいたします。

〇浅野委員長

池田さん、どうぞ。

〇池田説明員

ありがとうございます。

今後、大幅なCO2削減をしていくためには、住宅政策、都市づくりが大事だということは、経団連としても認識を一にしております。その上で、先ほど谷口委員からも同様のご質問がありましたが、様々な個別の事例について例えばフランスでの住宅の改善事例では、国全体として、どのぐらいのコストをかけて、どのぐらいのCO2の効果があったのか、データがあれば教えていただきたいと思います。またキャピタル・ゲインを考えたときに、欧州と日本で不動産市場の違いがあるというご説明がありました。それを踏まえて、日本への示唆が何かございましたら、教えていただきたいと思います。

以上です。

〇浅野委員長

いろいろ、ご質問がございましたが、今回も申し訳ないのですが、できましたら、12分でお答えをいただければと思います。

〇水口会長

ご質問、どうもありがとうございました。

まず、街区単位での削減の数字ですが、殆どが建設途上でもあり私は持ち合わせていません。

ただ、例えば、スウェーデンのマルメ市の港湾地区(p24)ですが、人口4000人の街区で、エネルギーの95%を再生可能エネルギーでまかなっていると発表しています。今回のスライドにはありませんが、米コロラド州のアスペン市のように100%再生可能エネルギーで賄う自治体も出てきました。

フランスの住宅の改善ですが、以下は住宅庁のパンフレットにある昨年現在の数字です。投資額は約17億で15万軒を改修し3万人の雇用効果があった。住宅のエネルギー効率は、5割以上改善された。改修住宅の4軒に1軒はエネルギー源をペレットなどに変えた。などです。それから、削減目標が半分というお話がありましたが、そうではありません。今日挙げた都市のほとんどは、2050年までに二酸化炭素を差引ゼロにするという目標を掲げています。その途中経過として2020年とか、2030年までに5割下げるとか、8割下げるとか、9割下げるとか言っていて、しかもその達成軌道に乗っている都市であります。半分だけ下げるということではございません。p43のスライドで、コペンハーゲン市の環境部長が手にしているパンフレットの表紙には、「2025年までに、炭素排出量を差引ゼロにする」とすら書かれています。

それから、国全体と都市の取組の関係がどうなのかということなんですけれども、そういう都市単位のミクロな話と、国全体に広げてどうなのかというところまでの情報は、今、持っていません。私が今日お伝えしたのは、自分がこの目で見た、聞いた、論文の裏付けもあるという、エビデンスが揃った実例があるという話です。ただ、欧州では、人口の9割が都市に住み、CO2の7割から8割は都市から出ています。都市での削減が欧州全体のカギを握っています。世界的にも人口の6割が都市に住み、その割合が今後増える中で、都市での削減は、世界全体での削減のカギとなります。都市で大きく減らすための実験・実践を、モデル街区で試すという関係にあります。

それから、日本にどういう点が参考になるのかというご質問ですが、私も、ここ二、三年、東大や内閣官房のお金をささやかに使って、日本の自治体で多少(トランジションマネジメントの実験を)やってみました。その経験から、日本は強烈な外圧がかからない限り、大きくは変わらないという、暫定的な結論を持っています。私自身は個人営業で時間もありませんので、日本でやっているよりは、外国に手をつけたほうが早いと判断し、現在は、外国の良い事例と理論を取材して、それを本にするという時間の使い方をしています。ですから、日本でどうしたらいいというのは、物すごく大きなテーマで、いろんな思いつきを申し上げることはできますけれども、思いつきをこういう場で申し上げても仕方ありません。エビデンスと実際に見た理論と、3点そろった話は、この場ではできないので、それはちょっと差し控えます。

中古建物の不動産市場に関しては、数年前から国交省が育成と整備を始めているのは、皆さん、ご案内のことと思います。ただし、役所が一片の通達やマニュアルをつくっただけでは、なかなか変わりません。税制、業界の慣習、消費者の好み、文化、教育とか、いろんなものが絡み合っています。関係者が集まって、この方向を目指すんだというビジョンを共有して、その上で自分の業界、自分の会社、それから、私の部署ではこんなことができるんだという、「各人の最初の一歩」を集める

ワークショップを大量に行う。そして、実施段階でも小さな実験も積み重ねないと、社会の大変化というのは起こらないので、これは長期の対策だと思います。

日本にも良い事例はあります。山形県の金山町では中心市街地に、特産の金山杉を使い、子育て世代向けに、地元の様式で地元の大工による”中程度”パッシブの公営住宅をつくっています。環境モデル都市、環境未来都市もあります。しかし、「お金・組織・知の回し方」の方法論があまり明確でないためか、欧州と比べると、成果が少ないように見えます。

「見える化」ですが、お金を使う以上、エビデンスを示さないと、消費者、有権者は納得しません。これは改修を勧める建築家から自治体の職員まで、本当に数字を分かりやすくよく出して、向こうの人は説明してくれます。中央省庁だけでなく、自治体や病院にもエコノミストがいて、マクロ経済からミクロ経済まで数字を出して、説明してくれるのが日本との違いですね。一旦、こんなところでどうでしょうか。

〇浅野委員長

どうもありがとうございました。

先ほど阿部先生に時間を制限してしまいましたが、水口会長がきちんと時間を守ってくださいましたので、時間がまだございます。先ほどのご質問に対するお答えの時間を、8分と制限してしまって、大変恐縮でございましたが、何か追加的にお話しになることがございましたら、まだ10分ほど今日は会議の時間が残っておりますので。

質問ですか。どなたにですか。今の水口さんに対してですね。ちょっとお待ちください。

阿部先生、では、この間にちょっとお考えいただけますか。

では、桜井委員から水口さんに対する質問が追加であるそうですのでお願いいたします。

〇桜井委員

かなり丼的な質問になりますけども、皆さんの質問と同じように、これは基本的には非常に大事な、やらなきゃいけないことだというふうに思っているんですけども、海外の事例事例で来て、やっぱり感じたこと、日本がなぜこういう展開が進まないのかという、これは特に日本の法制度の問題とか、規制の問題とかというのが深く関わり合いを持っているのか、そういう差があるのか、ちょっと簡単で結構ですから、印象を。こんなところが違うと。

〇浅野委員長

簡単でいいという、優しい質問でございました。

〇水口会長

法制度、規制といって、官僚のせいだけにするのはよくないと思っています。既得権、慣習、日常の仕事の手順(ルーチン)、税制、文化などいろんなことが絡み合っていて、「壁」を構成していますから。例えばヨーロッパに限らず外国は、何か新しい政策を入れるときは、その過程を研究者が横目で見て、論文を書くような予算もつける場合があります。そのことによって、「壁」の構造が分かり、改善する糸口を見つける機会になります。一方で、日本では、客観的な検証も行われにくいし、研究者と政策担当者の間での知恵の交換というのが起こりにくい。

それから、日本でも都市の実験はいっぱいありますけれども、記録に残すことがほとんど行われていないように思われます。新しい方法でやってみた結果、こういう反応が庁内に生まれた。世論がこう変わり、議員の先生がこう反応した。それを乗り越えるために、こういうことを試してみた。そういう、実際にやる上で必要な行動と反応の記録というのは、ほとんど残らないと思います。後で、実務家や研究者が記録を読んで、ここはこう改善したらいいとか考える材料が少ないと思うんですね。

それから、マーケットも日本は、外国と似て非なる資本主義だと思います。向こうは、マーケットを回すための一時的な起爆剤として補助金を設計します。日本では、そうでない補助金も多いと思います。不動産(建物)市場に至っては、買って30年後には無価値になってしまうという、詐欺みたいな世界があります。この家と地域が好きで、ここに住み続けたい、自分の財産や地域を守りたいという思いがないと、温暖化の被害を減らそうという気持ちも起きにくいと思います。そして、その気持ちを支えるまともな不動産ビジネスがない限りは、本格的な適応策も緩和策も入らないというふうに、ここ数年思っています。

〇浅野委員長

どうもありがとうございました。

それでは、阿部先生、どうぞ追加のご発言をお願いいたします。

〇阿部特任教授

マーケットのことについて、質問には直接はなかったかもしれないんですが、マーケットについてお話ししたいと思います。

電力市場とよく言われるのですが、これがどんなイメージかというのは、実は人それぞれ違っています。電力は同時同量とよく言われますけれども、発電と消費は常に同じ量を瞬時瞬時で保たなければいけないという制約があります。これを新電力事業者の方には、30分間で同時同量であればいいよというような制限をしていますが、外国では15分が普通です。さらに5分というところも出てきています。そうすると、どういうことが起こるかというと、例えば15分に1回、市場が新しくつくられるのですね。売りと買いが全然違うものができてくるということになります。それが連続的に変化していくということになります。今、電力制度を検討されている方々がそういう短時間の市場が重要という認識でいるかというと、必ずしもそうではないのではないでしょうか。

現在の電力市場というのは、大口参加者だけが取引する市場になっているという気がするんですね。これが株式市場のように電力が商品として識別されて、太陽光は太陽光の市場とか、風力は風力の市場というようなことができてくるかというと、技術的にはできると思います。そうすると、その取引コストはどうでしょうか。今までの管理の仕方では、とても高額なものになるでしょう。それが大きく変わり出すのが、先ほどのフィンテックの話になります。

これから起こる変化には、いろんなものがタイミングよく絡んでいます。太陽光みたいな、あるいは風力、あるいはバイオ、そういった分散型の技術がすごく発展し始めた、量も出始めた、価格も安くなったということと、フィンテックのような革命が始まってきたということと、一番重要なのは、これが10年前とか20年前だと、とても無理だったのですが、インターネットがこれだけ普及しているという状態、これらがかみ合うと、電力は今までのようなビジネスモデルではなくなってしまうということは、もう明らかです。

さらに、限界費用ゼロという電源というのがキーポイントで、またこれもたくさんお話しすることが出てくるんですが、太陽光とか風力は、要するに燃料代がただ、限界費用ゼロ。設備をつくっちゃったら、ただでお渡ししてもいいやという、シェアリング・エコノミーのような概念が出てきてもおかしくないものなのです。よく最近、宿泊関連の新しいビジネスモデルとして民泊とか、AirBnBとかが急成長していますが、さらにそれより伸びているものに、ただで家を貸すカウチサーフィンがあります。電力もお金でやりとりするモデルじゃなくなってしまう可能性も出てくるでしょう。

電力は、大きな変化がいろんなところで出てくる状況にあります。現在、約20兆円弱の市場規模ですが、先ほどの電子通信事業の例のように、電力も二、三十年で10倍以上のマーケットに成長する可能性があるというふうに思っています。

以上です。

〇浅野委員長

どうもありがとうございました。

今日は三人の方にご報告いただきまして、大変ありがとうございます。

それでは、以上で本日のヒアリングは終わらせていただきます。

事務局からご報告がございましたら、どうぞ。

〇低炭素社会推進室長

発表者の皆様におかれましては、ご説明を、委員の皆様におかれましては、活発なご議論をありがとうございました。

次回の日程については、9月29日、木曜日、10時から12時を予定しております。次回においても、引き続き関係者へのヒアリングを実施する予定であり、ヒアリング対象者等の詳細につきましては、追って事務局より連絡を申し上げます。よろしくお願い申し上げます。

〇浅野委員長

それでは、どうもありがとうございました。

本日は、これで議事を終了いたします。

午前 11時59分 閉会