中央環境審議会 地球環境部会 気候変動影響評価等小委員会 第11回 議事録

日時

平成28年10月21日(金)9:00~12:00

場所

イイノホール Room A1-A3

議事次第

1.開会

2.議事

  1. (1)  学識経験者からのヒアリング
  2. (2)  その他

3.閉会

配付資料一覧

資料

議事次第 [PDF 27KB]
資料1

ヒアリング資料(国立環境研究所 原澤英夫委員・高橋潔委員) [PDF 1,844KB]

資料2

ヒアリング資料(筑波大学 木村富士男委員) [PDF 1,597]

資料3

ヒアリング資料(気象研究所 高薮出委員) [PDF 2,091KB]

資料4 

ヒアリング資料(京都大学 中北英一委員) [PDF 13,460KB]

(分割1 [PDF 7,333KB], 分割2 [PDF 6,785KB])

参考資料

参考資料1 気候変動影響評価等小委員会委員名簿 [PDF 88KB]
参考資料2 気候変動影響評価等小委員会における主な論点 [PDF 58KB]

議事録

 午前 9時 開会

竹本気候変動適応室長

若干早いのですが、委員の先生方、今日は皆さんお集まりでございますので、ただいまより、第11回中央環境審議会地球環境部会気候変動影響評価等小委員会を開催いたします。

初めに、環境省地球環境局長の鎌形よりご挨拶を申し上げます。

鎌形地球環境局長

おはようございます。環境省の地球環境局長の鎌形でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

本日は、お忙しい中お集まりいただきまして、どうもありがとうございます。

前回、10月7日ですが、私、ここに参ってご挨拶させていただきたいと思ったのですが、パリ協定をめぐってばたばたしておりまして、大変失礼いたしました。

パリ協定について若干ご報告いたしますと、今、日本といたしましては、早期に締結するということが最大の課題でございます。それで、ご承知のとおり、アメリカ、中国、そして、インド、更にはEUの一部の国が締結手続をとったということで、11月4日には発効ということになります。そして、11月7日からは、気候変動枠組条約のCOP22が開催されるという運びになっています。

私どもとしては、10月11日に、国会にパリ協定の承認を求めるという案件を外務省とともに提出いたしまして、議論を早期にしていただきたいとお願いを申し上げているところであります。今申し上げましたように、11月4日には発効して、11月7日にはCOPが始まるということでございますので、今後のパリ協定のルール作りといったところでも、我が国の発言力をしっかり確保していくという意味で、できるだけ早期に締結の手続を国会でご承認いただいて、そういった状態でCOPに臨んでいきたい、このように考えているところであります。

この会議でございますけれども、前回、議論の対象となる論点をお示しさせていただいたところであります。大きく四つございます。1番目に、継続的な観測・監視、研究調査の推進や情報や知見の収集といったこと。2番目に、定期的な気候変動による影響の評価を行うということ。そして、3番目に、地方公共団体をどうやって支援していくか。4番目に、海外における影響評価の推進。こういった4点について論点をお示しさせていただきました。今日は、学識経験者の方々からご自身の研究内容を中心にご紹介いただくということでお願いしてございますが、このような論点についてもご提言をいただければと考えているところでございます。

今後、いずれにいたしましても、さまざまなステークホルダーからもご意見をお伺いして、議論を深めていきたいということでございますので、どうぞよろしくお願いいたします。

竹本気候変動適応室長

ありがとうございます。

本日の会議ですが、現在、委員総数の過半数の委員にご出席いただいており、定足数に達しておりますことをご報告いたします。また、本日の審議は公開とさせていただきます。

それから、新任の委員の先生方の中で、前回ご欠席だった方がおられますので、本日ご紹介させていただきます。

まず、気象庁気象研究所の高薮委員でございます。

国立研究開発法人森林総合研究所の松井委員でございます。

あと、事務局で、今回出席になっている関谷国際連携課長をご紹介いたします。

続きまして、配付資料の確認をさせていただきます。まず、冒頭は議事次第でございます。資料1から4までがヒアリング資料でございます。資料1が国立環境研究所の原澤委員、高橋委員のヒアリング資料、資料2が筑波大学の木村委員のヒアリング資料、資料3が気象研究所の高薮委員のヒアリング資料、資料4が京都大学の中北委員のヒアリング資料。それから、参考資料1といたしまして委員の名簿、参考資料2といたしまして小委員会における主な論点でございます。不足等がございましたらお申しつけください。

それでは、以降の議事進行は住委員長にお願いします。

住委員長

皆さん、おはようございます。

それでは、ヒアリングを始めていくことにしたいと思います。前回でお話しましたように、今後に向けて新しい仕組み作りを行っていくための話ですので、そういう観点からお話しいただけると思います。こうあればいいなというものだけでなく、国民になるほどと納得いただけるような仕組み作りをしていく必要があるので、そういう点でも、現在、どの程度できているかというようなことをアピールすることは非常に大事だと思います。それと、将来の方向に向けてご意見をいただければと思います。普段に比べて時間が長いので、言いたいことは十分言えると思いますので、よろしくお願いいたします。

それでは、まず、原澤さん、高橋さんのほうからの発表をお願いします。

原澤委員

皆様、おはようございます。国立環境研究所の原澤です。

今日はヒアリング対応ということで、環境研の立場からという、そういうご指摘があったのですが、研究全体を取りまとめることが難しいので、研究面については高橋委員にもお願いして、連名という形で対応させていただきたいと思います。

最初に、昔の話をさせていただきたいのですが、こちらは、IPCCの報告書が発表されると同時に、日本の影響についても、古くは1997年に、当時は環境庁でしたけれども、地球温暖化問題検討委員会で、地球温暖化の日本への影響という、いわゆる、レビューの報告書を出しております。その後、「地球温暖化の日本への影響2001年」が出まして、その後、第2期の科学技術基本計画では、四つの大きな柱の一つに環境が入っておりまして、その中で、地球温暖化イニシアティブというオールジャパンのプロジェクトが開始され、その成果として、「地球温暖化研究の最前線」というような形で、これもいわゆるレビューに近い形の取りまとめがされています。残念ながらこれは5年で終わりまして、第5期の科学技術基本計画はイノベーションにかなり振られておりまして、環境というのがわずかなページあるかないかの段階だということであります。昨年、政府の「気候変動の影響への適応計画」ができたということで、影響研究を日本でずっとやってきて、ここまで来たという感じを持っております。

 それで、IPCCのほうは、実を言うと、1994年に「影響・適応評価のIPCC技術ガイドライン」というのができておりまして、これは知らない人が多いのですけれど、特別報告書の第1号という形で、当時は非常にフリーな雰囲気でつくったものであります。こちらが表紙で、今中身を見返しますと、影響・適応の統合アプローチですとか、影響・適応アセスメントの7ステップとか、今見ても斬新なアイデアが盛り込まれたガイドラインであります。この後、UNEPでもこういったガイドラインをつくりまして、IPCCでも、これを改訂という話があったようですけども、なかなかそこまで手が回らないということで、影響関係、特にIPCC関係の影響研究者が集まりまして、PROVIA(プロビア)というグループをつくって、同じようなガイドラインを作って、それを途上国あるいは先進国の影響・適応の評価に使っているということがあります。多分後でも議論になるかと思いますが、こういったタイプのガイドラインも非常に重要な役割を今後果たしていくのではないかと思います。そういうことが一時IPCCでもあったということであります。

環境研ではいろんな温暖化研究をやっておりまして、具体的な内容は高橋委員から説明いただきたいと思います。

高橋委員

それでは、引き継いで説明させていただきます。

後半で原澤委員のほうから国内の影響と適応に関する論点について、もう1回まとめがあるかと思います。私のパートでは、国内ということに捉われず、世界レベルの研究、あるいはその国内研究への含意についても含めてお話ししたいと思います。

まず一つ目のスライドは、国立環境研究所で長年にわたって実施している地球環境モニタリングについて概要説明したものになります。スライドの上側に示されているのは、大気や海洋といった自然・物理環境のモニタリングです。一方でスライドの下側に示されているのは、温暖化が実際に進みつつあるという現状を踏まえまして、その影響が生態系や人間システムに既に表れているのではないかということについての長期のモニタリングです。上側については、測り方についても、陸域ステーションで測ったり、船舶や飛行機を使って測ったり、あるいは、宇宙から衛星で測ったりと、あの手この手で測りつつ、それとモデル研究などを組み合わせながら、現象解明に努めているところです。一方で、下側については、気候以外の地域特性等も関係しており、気候変化への原因特定は難しいところもありますが、サンゴ礁や高山帯などで、一体どのように生態系が変わってきているのかということについてモニタリングを行っているわけです。このような自然科学的な現象面でのメカニズム理解、あるいは、生態系等に実際に何が起きているのかということの把握といった研究をベースにしつつ、低炭素研究プログラムという形で予測につなげて、さらに対策につなげてということで、研究を連携実施しているところです。

この低炭素研究プログラムは、今日は欠席の江守委員がプログラムのリーダーを担当しておりまして、本年度から開始で、平成32年度まで5年間で実施することになっています。このプログラムは三つのプロジェクトから成っていて、大まかにいえば一つ目が観測関連、二つ目が気候と影響の予測、三つ目が対策に関する研究を実施しています。プログラム全体の題目は低炭素研究プログラムとなっていますので、対策を実施して低炭素社会をつくっていくところに主眼を置いたプログラムになっていますが、一方で、長期にわたる努力のもとに低炭素社会をつくっていくためには、メカニズムの解明、理解をすることが大事、また、それをふまえた予測研究の充実・改良も大事ということで、3つのプロジェクトが連携して研究を進める体制をとっております。

ここから先のスライドでは、もう少し具体的な研究事例をご紹介しながら、網羅的ではないですが、今後の影響・適応研究の論点について、ご紹介していきたいと思います。

まず一つ目ですが、適応経路の分析が今後重要になっていくと考えております。一般的には、最初に影響予測研究を行って、その後に、では、適応策はどんなものを打ったら良いだろうかという議論をするわけですが、その際に、本来答えなければいけない問いは、いつどこでどのような適応策を打っていかなければいけないかというものであろうと思います。すなわち、この適応策を打ったらいいですよというシンプルな答えが出るわけではなくて、将来の気候変化の進み方などを考慮した上で、今から5年後には何をしなければいけない、20年後にはこれをすべきである、気候変化が大きかったら、もっと強いレベルの何らかの適応が必要だとか、そういった時間方向の議論が必要になります。ところが、これまでの研究では、まだ影響予測研究の知見をふまえて、将来に必要になっていく適応の時間的側面、適応経路について議論することができていません。今、それが国際的にも国内的にも求められつつあると考えています。

スライドに示すように、国立環境研究所でも、そのような問題意識から、作物収量に関する適応経路の研究に取り組みました。現状と同じ水準の収量を将来の気候下でも得られるようにするという目標を置きまして、そのために必要な灌漑の強化や高温耐性品種への転換について、どの強度の適応策をいつ打たねばならなくなるかを検討した研究の結果になります。こういった適応の時間的側面の検討が大事な課題の一つといえます。

また、別の観点としては、どうしても将来の気候変化が大きいか小さいか、そのときに影響が大きいか小さいかに注目しがちなのですが、影響予測にあたっては脆弱性や曝露のような社会的側面の変化をどう想定するかも大事になります。ところが、従来の影響研究では、気候変化に関してはさまざまな想定を置いて評価してきましたが、社会経済的な側面、曝露・脆弱性については、その将来変化を適切に想定した評価は十分に行えてこなかったという反省があります。結果的に、例えば、複数セクタの温暖化影響を温度上昇量に応じたリスクレベルの変化として総合評価する取組はこれまでも行われてきましたが、社会的条件変化に応じたリスクレベル変化については総合評価においては表現、考慮されてきませんでした。そのような総合評価を実施可能にするための、社会条件の将来想定別の影響予測研究がまだ足りていない状況を反映しています。

その種の影響研究を今後充実していくということは大事な課題であり、それをサポートすべく、国際的にはSSP(共通社会経済経路)といったものが最近に開発されて、それを使った影響研究が今後急激に増えると考えられています。この国際的にコーディネートされたシナリオ分析枠組の活用が大事になってくるわけです。この枠組みをうまく活用できれば、国内の影響研究も加速化することが期待できます。また、国外で生ずる温暖化影響の我が国への波及効果の把握なども、こういった国際コーディネートされたシナリオを使うことで促進が期待できます。また、国際標準のシナリオで各国で行われる研究との比較や総合化も容易になるため、IPCC等でのプレゼンスも高まることが期待できます。ただ一方で、このような国際共同事業としてつくられたシナリオについては、国内における特殊な事情、国内の統計や行政計画などに必ずしも整合的ではないので、そこのすり合わせをした独自シナリオの準備・活用も、国内の影響・適応研究のためには必要になるかもしれない、ということには注意が必要です。

スライドの下の図については、そのような問題意識から、異なる社会経済想定と異なる気候変化の想定で、飢餓リスクが国際的にどう変化するかを評価した事例を示していますが、詳しい説明はスキップさせていただきます。

関連して、次のスライドは、環境省の推進費で本年度まで5年間行わせていただいているS10プロジェクトの成果になりますが、1.5℃、2℃、2.5℃に長期の目標を置いた場合に、温暖化の影響リスクはさまざまな分野でどのような大きさになるかの評価を行いました。また一方で同時に、1.5℃、2℃、2.5℃の目標を達成するのに、排出削減をどのような対策の組み合わせで行っていく必要がありますか、どのぐらいの緩和努力が必要ですかということを評価して、それを影響リスクの推計結果と比較する研究を行っています。これは、パリ協定で2℃、あるいは1.5℃の目標に既に合意があるわけですが、一方で、これから50年、100年、その目標に向けての努力を緩和、適応を組み合わせて行っていく場合には、長期の目標に関しても常に新しい科学的知見で見直しをしていく必要あると考えます。見直しといっても、目標への合意を無かったことにするというわけではなく、確かにその目標は正しいよね、その目標を達成する選択肢を私たちは持っているよね、ということを繰り返し確認しながら着実に対策を進めていく必要があり、それを支える研究も必要ですよということです。特にIPCCでは1.5℃の特別報告書をまとめることを発表していますので、まずはそこに向けて、短期的に研究成果をどんどんアピールしていく必要があろうかと思います。

次のスライドは、私の分担パートの最後になりますが、影響予測のコミュニケーションに関する欧州の事例になります。例えば先ほど紹介した5年間のプロジェクトのような大規模研究プロジェクトでは、膨大な分析を行って報告書を書いたり論文を書いたりするわけですが、この大量の分析結果については、プロジェクトの期間終了後にはメンテナンスがうまく行われないことが多いと思います。しかし、その宝の山をうまく生かして国民とのコミュニケーションをうまく行えると、対策実施への理解につなげていくことができるのではないかと考えています。ただし、その場合にも、前回の会合でも指摘あったのですが、研究終了後のデータの管理や配信について、適切な対応が必要になります。適切な予算・人的資源の措置を伴う持続的な体制を整えることで、研究のアウトカム・インパクトを最大化できるのではないでしょうか。ただし、研究知見は日進月歩でどんどん更新されますので、機械的にデータを蓄積・公表していくだけではなくて、専門家の評価に基づく定期的な更新や削除が必要になろうかと思います。

原澤委員

引き続きまして、国内の研究ということで、これは推進費のS8という研究プロジェクトでして、茨城大の三村先生が代表者として、26年度まで5年間進めました。

こちらは三つのパートに分かれておりまして、これは説明しますと長いのですけども、いわゆる分野ごとの影響モデルをしっかり作って、それと、全国的なトップダウン型のモデルをあわせてつくろうということで、ボトムアップとトップダウンの両方をやった研究でありました。

さらに、地域レベルで、特に都道府県や市町村レベルでも使えるような影響の方法論ですとか、あるいは、適応策を策定する支援のためのガイドラインとか、そういったものをやっておりました。

三つ目は、いわゆるアジア太平洋地域における影響・適応ということで、かなり幅広です。

研究成果以外ということですが、県レベルでも使えるような簡易推計ツールをつくったということがありまして、これは、県の方に使っていただいて、影響と適応支援ということでやったのですけど、使い方の話とか、こういういろいろな指標を分野ごとにつくって、こういうデータを、ホームページを通じて公開、提供したということであります。

一つの有効な方法にはなったわけですが、S8の経験を踏まえて、私と高橋さんの間で、こういったことが問題だったということで、一応知見と書いてあります。一つは、気候シナリオの問題があります。S8は、スタート時点では、CMIP3とかCMIP5といったような一世代前の気候モデルが使えることは使えたのですけども、影響研究者が気候シナリオを使いこなすまでに時間とノウハウが必要だったということで、これに時間がかかってしまいました。S8で共通シナリオというのをつくって、それを使うことによって結果が比較できるような工夫もいろいろやったのですが、当時は統計的ダウンスケーリングまでで、いわゆる力学的なダウンスケーリングまではいけませんでした。ですから、影響評価と適応では、やはり気候シナリオが非常に大きな役割を果たすということを、実感したということであります。

社会シナリオですが、今、高橋委員のからお話があったように、SSPというのが世界で動いているのですが、これの日本版をつくろうと思うとなかなか難しいということもあったりしますので、S8の中では人口の予測、2050年の分布までを使ってやって、将来の高齢化等が影響にどう反映するかということで、上水供給などの一部の分野ではそういったことを考えています。ですから、今後は、社会シナリオをいかに作って、それを共通で使っていくかということも課題になっていると思います。

あとは、地環研にもプロジェクトに参加いただいたということで、長野県とか埼玉県、現場の影響と適応とを考える場合に、やっぱり現場を知らないといけないということで、こういった地環研の方と協働できたということは非常によかったということです。

最後の四つ目は、人文社会系研究グループとの協力ということです。適応策というのは影響評価の結果を踏まえて作っていくのですが、この際やはり、人文社会学的な知見、いわゆる自治体のガバナンスですとか、そういったいろいろな知見が必要になってくるということでありまして、適応策、それまでは大体IPCCの用語の引用にとどまっていたのですが、S8の中では適応策は日本でこうあるべきというような、そういった議論もあったりして、概念整理もできたと。その結果として、地域適応評価のガイドラインづくりですとか、それを踏まえた地域適応フォーラム、あるいは、研修会といったものを通じて、新しい知見を広めるとともに、ネットワークをつくっていったということがあります。こういった経験がS8であったということです。

それで、残された課題としたのですけれども、さっきもお話ししたように、気候シナリオが非常に重要だということで、気候予測、ダウンスケーリング、影響・適応評価の研究グループの連携がやはり必要ということで、これは、今、創生プログラムのほうでは実現できている問題でありまして、後で中北先生からお話があるかと思います。

2番目は、気候シナリオとして、従来型と極端現象シナリオということで、これまでは大体平均的な、気温が何度上がったらどうなるかという話であったのですが、前から気になっていたのは、やはり極端現象シナリオが必要ということで、これは、影響研究グループではなかなかできなかったのですが、これも、中北先生がやっていらっしゃるような創生研究プログラムの影響部分で、最大規模シナリオですとか最悪シナリオという形で、この極端現象シナリオが今、使えるようになってきたということです。

三つ目は影響評価モデルの高度化ということで、全国レベルですと、10キロぐらいでもいいですけれども、やはり地域になりますと1キロが必要になってまいりますし、あとは、複合影響も非常に重要になってきているという話です。

それとあと、影響・適応、リスク情報のニーズの把握が、やはり重要になってきたのではないかということで、S8でも、さっきご紹介したような地域的フォーラムを作りまして、関係自治体等々の人が来ていただいて、いろいろ情報共有をしたりとか、ニーズ把握をしたりしています。環境省のほうも自治体のニーズ調査をやっていて、こういう情報が非常に重要と私は思っています。

また、これも創生プログラムなのですけども、中北先生が非常にご苦労されて、研究の成果を国交省のほうと共有すべくシンポジウムをされたということで、これは、どんなニーズがあるかという話と、どう現場に反映できるかというような、そういう場になったのではないかと思います。

あとは、コメントということで、主なポイントだけをちょっとお話しいたします。

まず、継続的な観測・監視ということで、さっき高橋委員から紹介がありましたけれども、地球観測がこれまで以上に重要になってきたということではあるのですが、現在の地球観測の推進戦略が2004年にできて、2015年にレビューがされています。当初はこの戦略の毎年レビュー、フォローアップがあったのですが、今はそういったこともなくなっています。当時は、推進戦略の改定という話もあったのですけども、そういったこともなくなってきているというので、この辺は、地球観測をしっかり支えていかなきゃいけないし、新しい計画づくりなんかもしていかなきゃいけないのではないかと個人的には思っております。

影響モニタリングの拡大ということで、環境研は2カ所でやっておりますけども、特に、高山関係は長野県が非常に興味を持っていただいて、協力関係をつくってやっているという話になります。

地球温暖化観測推進事務局は、ここはずっと気象庁と環境省で協力してつくって、環境研に連携拠点をおいてやってきたのですけども、最近は加えて影響・適応が入ってきたということで、活動は拡大したのですが、一方では気象庁が降りたというような話もあったりするので、継続的な観測とか監視を続けるため、やはり国レベルでしっかりした計画、実行計画が必要になっているのではないかと思います。

一方では、地球観測監視の戦略が必要だということで、これは、学術会議の大型研究計画(案)に提案したもので、なかなか実現は難しいですけども、こういった戦略自体も、研究面から提案して作り、行政とやりとりしながら実現に向けて動いていくのも大事かなという感じです。

前回もお話があったような気候変動適応情報プラットフォームです。やりっ放しの研究ではなくて、研究成果を具体的に使えるような形でいろいろ取りまとめておこうというプラットフォームをつくって、今まさに動いて、日々情報量が増えているということであります。

影響の予測に関する調査研究ということでは、いろいろと書いたのですけど、やはり、気候モデルですとか地球システムモデルの開発というのは継続的に必要という話と、気候シナリオの話、特に、地域になりますと、力学的なダウンスケーリングなんかも非常に重要になってくる。あとは、社会経済シナリオも、日本版のSSPといったものも作る必要があるでしょうし、あとは、気候だけではなくて、影響だけではなくて、気候・影響・自治体といったような政策の統合的な研究プロジェクトが必要ではないか。言ってみれば、創生+S8+SI-CAT全体をまとめたような研究プロジェクトです。なかなか省庁の枠もあったりするので難しいですけども、少なくともコンソーシアム的なもの、連合体みたいなものを作って、情報の共有と結果の利活用みたいなものをして、その結果として新しい情報をどんどん提供するのが重要ではないかと思います。

1.5℃の話も、先ほど高橋委員のお話がありましたけども、1.5℃は無理だという話もあったりするのですけど、世界的には、1.5℃でどんな影響が起きるか、すごい勢いで研究発表等もありますので、日本も遅れずにこういうところに加わって、しっかりした議論をやっていくのが重要かと思います。

また、先ほども言ったような影響のリスク、ハザード、脆弱性、これはすごく重要だと思います。視点は違うのですが、環境研で一番アクセスのあるホームページが熱中症患者速報ということで、これが暑くなると非常にアクセス数が多くなります。ですから、短期的にはこういった情報を皆さんは欲しがっているということではないかと思います。そういうようなところから、どんな情報が必要で、脆弱性を測るためにはどんな指標が必要かというようなところにつながっていくのではないかと思います。

影響の脆弱性指標については、日本ではあまり言われていないですけど、国際的にはいろいろ言われていまして、必ずしも日本に当てはまるかどうかは別ですけども、こういった指標の研究も今後必要になってくるのではないかと思います。

定期的な影響評価ということで、今お話ししたようなことが書いてございますが、特に、イギリスの気候影響プログラム(UKCIP)というのがありまして、こちらがずっとイギリスの影響関係で、かつ、また世界中に情報を発信していますが、毎月、例えばニューズレターを出しておりまして、そちらで最近出版された論文や報告書の概要が手短に書いてあって、こんな研究をやっていますよということで掲載しています。これが結構有用な情報になっていると私は思っています。ただ、一時、予算カットがあって、かなり大がかりなレビューができなくなったということもありますけども、こういったものが、先ほどご紹介した適応情報プラットフォームの、今後展開していく上での有用な情報になっていくのではないかと思います。

5年おきに適応計画の見直しということで、これもその中の一環でありますけども、一方、パリ協定のほうも5年おきぐらいの見直しがあって、影響もあって、さらに、温暖化対策計画のほうも5年ぐらいの見直しということで、いろんな見直しが5年ぐらいに起きるということで、ぜひこの辺はコーディネートした形で、うまい形で見直しが進んでいけばいいかなと思っております。

今回は国際的な話と日本の研究を環境研でもやっているという話ですけども、国際的な影響が日本に貿易を通じてどう影響をもたらすか、食料安全保障の問題とか国際サプライチェーンの問題も、アジアという視点でもいいですし、日本と国際的な視点でもいいですけども、そういった研究も必要になってきているのではないかと思います。

地方公共団体の支援というのは、先ほどお話ししたように、簡易推計モデルを作ったのですけども、実を言うと、作るに当たって、商用のGISのソフトを使ったものですから、やはり予算的なネックがあって使えないという状況があったりしました。また、いわゆるソフトですから、パソコンのOSに依存するということもあったりするので、非常に細かいことですが、やはり研究成果、あるいは、ツールを実際に使ってもらうという面では相当工夫をしないといけない。さらに、さっきご紹介したシナリオの話で、地域で一番もととなるような将来気候シナリオ、それも、できれば1キロぐらいのものが欲しいというようなことになりますと、そこがやはり気候あるいは気象研究者との連携も必要になってくるのではないかと思います。

将来予測の、特に社会経済については、各県で総合計画なんかで将来予測値を使ってはいるのですけど、2030年とか、みんな10年、15年ということなので、2050年までそういった予測ができてくると、影響・適応評価にもうまく使っていけるのではないかと思います。

すみません、最後は駆け足でご紹介しました。冒頭にもお話ししたように、環境研全体の研究とかいうことではなくて、かなり私と高橋委員の私見が入っているということでご了解いただきたいと思います。

以上であります。

住委員長

どうもありがとうございました。それでは、今の発表に対して何かご質問、コメント等がございましたら。何かご意見等はございませんでしょうか。

高薮委員

興味深い発表をどうもありがとうございました。

いつも我々と一緒にやっていますけれども、一つ懸念というか、お聞きしたいことがあるのですが、9枚目のスライドで、データを公開していかなきゃいけないというお話がございましたよね。あと、最後のほうで、ハイレゾリューションモデルが必要だとか、そういうようなことがあったのですけども、情報量が、我々もすごく困っているのですけども、どんどん増えていっているのですが、その情報をどこかにきちんと置いておかないと、今言ったようなことというのはなかなかうまく円滑に回っていかないかなと考えているのですが、原澤さんのほうは、何かそれについてコメントはございますか。

原澤委員

大きな問題ですね。この前の創生のCD連携の会合で、たとえばデータがそろうと90テラバイトという話で、どんな量なのかなと私はわからないですけども、高橋さん、何かありますか。

高橋委員

市民や行政への伝達については、分析結果を解釈して文章で示したり、わかりやすい図にして示したりということが大事だと思います。その作図作業などに用いられるデータは、研究で得られた膨大なデータを処理、集計した後の小さなデータであることが多いかと思います。しかし、研究終了後にも市民や行政のニーズに応じて結果を解釈しなおしたり図を作りなおしたりすることを想定すると、結局、研究実施時に得られた大きいデータをそのまま残しておかなければいけないということになると思います。そのため、私もデータ保存のためのファシリティーの充実や、バックアップ作業は大事になってくるものと思います。しかし今のように、各研究実施者が研究終了後のデータ管理を任されて、分散的にそれに対応している状況が続くなら、うまく回らないのではないかという心配を持ちます。その研究実施者の研究の興味が移っちゃったら、あるいは、メンテナンスのためのお金がつかなくなってしまったら、せっかくのデータが消えてなくなってしまうということになると思いますので。そうならないようにきちんとアーカイブする仕組みが大事になっていくと思います。併せて、データのクオリティーコントロールの話もついてくるところだと思います。

高村委員

ご報告どうもありがとうございました。

恐らくこの後のご報告にも共通しているようなコメントが一つと、質問が一つですけれども、一つは、ご指摘があったように、曝露とか脆弱性を織り込んだリスク評価といいましょうか、そのための社会シナリオをつくるというのは非常に大事な、研究上も非常に重要な課題だというふうに思っております。文科省さんのところも、ポスト創生も含めて、気候変動研究の一つの柱にされていると理解をしておりますし、同時に、実務といいましょうか、現実の場面でも、具体的な適応策、適応計画に結びつくという意味では、やはりここのところが非常に重要ではないかというふうに思っております。

それで、一つは、日本の社会シナリオというのは、もう何度も先ほどご指摘がありましたが、原澤先生も最後のところでおっしゃっていたと思いますが、やはり、実際の適応計画、あるいは適応策が結びつくというと、自治体レベルですとか、あるいは、例えば流域単位とか、そうした単位の、いわゆるサブナショナルなレベルでの社会シナリオというのは重要性があるように思いまして、ただ、それを一つ一つ作っていくという作業は、恐らく、その主体がやっていく必要があるとすると、自治体ないしは流域単位で社会シナリオをつくるためのツールといいましょうか、手法というものをむしろ開発するということが必要なように思っております。これはコメントでございます。

それから、二つ目は、まさにこの後の報告にも係るところですけれども、気候変動の影響予測において、観測データの重要性というのは痛感をしていまして、継続的な観測が必要であるということのご指摘は、本当にそういうふうに思っております。長年のデータの蓄積があってこそ意味が出てくるというふうに思うのですが、予算的な観点で課題というのがないのかという点です。いろんなプロジェクト単位でいろんな観測されていますし、データも蓄積されていると思うのですが、基礎的なずっと継続すべき観測もあるように思いまして、その点についてもし何か課題があれば、教えていただければと思います。

以上です。

原澤委員

ありがとうございます。

社会シナリオは、ちょっと頭が痛くて、IPCCの一つ前のSRES、スレスシナリオが出たときに日本版のスレスシナリオをつくった経緯があって、それを使おうという話もあったのですが、なかなか使い切れなかった。さらに、社会シナリオのSSPとの関係性みたいな話で、国レベルでそういう社会シナリオもやっぱり作っていく必要があると思いますけど、ご指摘のとおり、今後は自治体、県ですとか、流域レベルでそういったものが必要になってくるということで、できればその辺の開発をしたいと思うのですが、人口の分布ぐらいまではできるのですが、土地利用の話ですとか、その辺が結構難しくて、あくまでも影響研究グループの中でやっている限りにおいては、その域を出ないので、この辺は、やはりほかの分野の方々と協力して、社会経済シナリオを作っていく。また、流域関連では、後で中北先生からも、かなり流域に着目した研究をされていて、そういう意味で、やはりまさに社会経済シナリオは必要になってくるということでありますので、その辺は、他分野との連携ですとか、いわゆる流域研究としての社会シナリオづくりというのは今後進めていけると考えております。ただ、ちょっと時間はかかるかなと。

予算の関係は、具体的にどの省が幾らという話は、今の段階で数字はないですけど、やっぱり予算の問題が非常に大きくて、例えば、各省庁が連携してモニタリング等々のプロジェクトを立てられることがあって、一括計上というのがあるのですが、予算が徐々にというか、結構大幅に減額されてきております。その辺が、これまでのモニタリングとか観測のアクティビティー、加えて、影響のモニタリングを進めたいという中で、やはり、全般的に観測関係の予算が減りつつあるというのはいろんなところに影響してくるということでありますし、その辺は、必要性が高くなってきているので、それは、研究サイドでもしっかりアピールしていく必要があるかと思います。

環境研ではサンゴ礁と高山のモニタリングをやっておりまして、高山については、さっきご紹介したように、長野県が一緒にやろうということがありますし、あと、サンゴ礁のほうについては、これは県ということではないですが、一般のいわゆるダイバーという形でサンゴ礁を楽しんでいる方たちが、たまたまその白化を見つけたということで、それをホームページから登録していただいて、そういった情報も集めるということで、特に影響関係は、いわゆるコンベンショナルなモニタリングに加えて、いろんなステークホルダーが関われるようなモニタリングの方式もあるのかなと考えています。ただ、本家本元のいわゆる気象とか気候関係は、これはやはり、しっかりした制度の問題もあったりしますし、データベース化もあったりしますので、ぜひしっかり予算をとっていただいて、継続的にやらなきゃいけない。ただ、さっきご紹介した計画レベルでは、データがどう使われたかというところが非常にポイントになっておりまして、そういう意味では、測って、それを何に使って、どう国民に利益があるのかというところまで説明していかないと、予算的にはなかなか確保は難しい状況にはなってきているなということであります。まさに影響・適応の話は、そういった観測も後押しできるような大きな流れになっていくのではないかと思っています。

住委員長

どうもありがとうございます。そのほか、よろしいですか。

それでは、先に行って、最後にまた総合討論がありますし、全体をやると関係しているところがいっぱいあると思いますので、先に行きたいと思います。続きまして、筑波大学の木村さんからお願いします。

木村委員

筑波大学の木村です。

私は、気候変動適応技術社会実装プログラム、SI-CATと略しますけれども、これのプログラムディレクターを務めていますので、その視点でお話をさせていただきます。

これは皆さん、ご記憶に新しいと思うのですが、平成27年9月に起きた関東・東北豪雨災害です。このときは鬼怒川の堤防が決壊するなどして、様々な場所で大きな被害が発生しました。24時間雨量にして、日光の五十里というところで551ミリというとてつもない大きな雨が降りました。こういった問題について、よく聞かれるのが温室効果ガス増大の影響が、これあったのではないかというふうに聞かれるのですけれども、実際、こういう一つの事例を見てもわからないわけですね。その問題については、創生あるいはポスト創生のほうが社会に向かって発信をする、それをしてくれるのではないかというふうに思います。

私どもSI-CATでは、どちらかというと、水害の問題でも、こういった水害です。これはちょっと古いですけど、1999年に博多の駅前がこんなに水浸しになっちゃったんですね。これは決して河川の氾濫によるものではなくて、下水処理能力を超える短時間豪雨が降ったと。時間雨量にして77ミリ。それから、一雨の全体の連続雨量としても166ミリで、先ほどの大きな豪雨に比べると雨量そのものはたいしたことはないですけども、こういうふうに下水処理を超えてしまったために水浸しになって、これがまた地下街の中に流れ込んで、そこにあった飲食店で働いていた従業員が逃げ遅れて水死したという、そういう痛ましいことが起こりました。

これは気象庁のデータですが、短時間豪雨です。アメダスで測った1時間豪雨で50ミリ以上の年間発生回数を1975年から2015年までプロットしてみると、明らかに右上がりに上がっているというのがよく見えます。それで、気象庁の見解としては、50ミリ以上の年間発生回数というのは有意に増大していると、有意水準95%だと。それから、80ミリ以上で見ると、さらに有意水準は99%になるということですが、さすが気象庁ですね、これは温暖化の影響とは完全には断定していません。これらの変化には温暖化の影響の可能性はありますがというふうに、ちょっと濁しているのですね。結論としては、温暖化効果ガスの増大の影響はありそうだけども、完全にそうかどうかはわからないというのが気象庁の見解です。

このグラフですが、これは今の話とは違っていて、これもSI-CATがターゲットとしている話題で、先ほどもありましたように、熱中症の死亡統計です。1995年から2014年までの熱中症による死亡者数がこの棒グラフで示されています。その上にある赤い線で示されている折れ線グラフは、熱帯夜の日数です。これを見ますと、特に、2000年代に入ったぐらいから、熱帯夜の日数と、それから、熱中症の死亡数というのは、割と関係があるように見えます。当然といえば当然です。私がここで強調したいことはそのことだけではなくて、実は、この間、熱中症を含まない気象災害による死亡者数というのは、平均で年間150人です。150人というと、この棒グラフで言うと、一番左の二つの低いところ、この一番低い2カ年、これが大体150人ですから、ほかの年は圧倒的に、熱中症の死亡者というのは水災害等による死亡者よりもはるかに多いということですね。これは同列に論じるものではないとは思うのですが、熱中症というのは、こういう観点からは重要だということを示す情報だと思います。

これは救急車による搬送数ですが、4カ年分しかデータはありませんけども、このうち、黄色というか、オレンジ色というかのところは65歳以上です。こうやって見ると、熱中症によって救急車で搬送される人は、半分近くが65歳以上。つまり、高齢者ということになります。僕ももう既にそこに入っているので、これは気をつけないといけないですけれども、この4年間で、65歳以上の人口構成というのは25%しかないのです。だけども、救急車で運ばれる割合というのは半分ぐらいあるということで、やはり、高齢者はかなり大きなリスクを持っているということで、毎年夏になると私は気をつけるようにしていますけども、皆さん、この中にも気をつけないといけない年齢の人がいらっしゃると思いますので、十分来年の夏は気をつけてください。

SI-CATでは、非常に高解像度のダウンスケーリングをすると。これが創生と少し役割分担をしているところだと思います。それで、街区だとか湾スケールの力学的ダウンスケーリングの開発というのが一番上にありますけども、こういったものを実施します。何のためかというと、暑熱環境を予測する、あるいは、暑熱環境を緩和する、そのためにも非常に高い解像度の数値モデルが必要です。例えば、風の道という言葉があるのですけれども、ビルが幾つか建っているときに、ビルの配置と、それから、主風向との関係で風が通りやすいところ、あるいは、ビルの建て方によっては風が全体をブロックしてしまって街区の中に風が通りにくいと、そういう設計があるわけですけども、そういうことがあるわけですけども、特に水帯、海だとか、あるいは、川だとか湖があると、そういうところから入ってくる風というのは、暑熱環境をかなり緩和する効果があるわけで、そういった建物の配置なんかでも、そういったものを考慮したほうがいいのではないかということで、非常に高い解像度の数値モデルというのを開発しています。2番目の真ん中にある図の左のほうは、そのシミュレーションです。場合によっては、数値モデルといっても、格子間隔が1メートルとか、そんなモデルが必要になるというふうに考えています。

こういったことは、例えばどういうふうに社会実装をするのかというと、一つの、私どもの考えていることは、例えば環境アセスメントです。環境アセスメントは、新しく例えば東京都の中で大きな開発計画をしたときに、周辺住民にそれがどのぐらい迷惑になるのか、あるいはならないのかということを推測するための手続なのですが、その中の項目に、緑化の問題という項目があります。これは、例えば、ベランダだとか、あるいは屋上だとか、あるいは、高いビルの周辺に緑を植えることによって周辺住民との調整を図ろうという、そういった項目です。ただ、そのときの観点、どういうふうにして緑化を評価するかという観点は、景観なんですね。そこに緑があることによって、建物の圧迫感が和らぐと。そういう観点で今のところは評価しているのですけども、私どもSI-CATとしては、そこで、緑化によることによる暑熱環境の緩和、それも一緒に評価していただいて、できるだけ緩和効果のあるような緑化計画をつくっていただきたいということを考えて、こういうところが社会実装先の一つになるかなというふうに検討しているところです。

同じように、水帯のあるようなところ、海岸とか、そういうところでも風の道というのを、これはモデリングが難しいところもあるのですけれども、そういう評価をして、暑熱環境に対してどう効果があるのか、あるいは、より効果的な建物の形状、そういったものについて検討していただければというふうに考えています。

これはもう皆さんは耳にタコだと思いますけども、温暖化の対策というのは、緩和策と適応策とあって、私どもは、そのうちの適応策に焦点を当てています。適応策というのは、もちろんご存じですけれども、温暖化によるさまざまな悪影響の対症療法としての社会的な施策です。護岸工事だとか水利用の効率化、あるいは、病害虫の防除だとか、先ほどご説明しました熱中症の防止です。ところが、適応策だけではもちろん限界があるわけで、ほかの施策とあわせて進めていかないといけないということです。

これは、SI-CATの一つのスタートする根拠になったのではないかと思いますが、文科省で平成27年に「今後の地球環境研究の在り方に関する検討会」というのが開かれて、持続可能な社会に向けた研究課題を念頭に、フューチャー・アース構想の理念も踏まえ、ステークホルダーとco-designし、社会実装へとつなげるイニシアティブを推進し、社会実装の観点から気候変動にとどまらない地域の環境変化への適応へと発展を図るために役立つ科学的知見、技術のための研究開発を実現する必要があると、こういったことがまとめられました。これを受けてのSI-CATというふうに考えています。

これは平成27年の中環審でまとめられた適応策に必要な対象の分野の例なのですけども、列挙するとこんなにたくさんあるんですよね。大きな区分で言っても、自然災害・沿岸域の問題、それから、自然生態系、それから、農・林・水産業、それから、水環境、それから、水資源の問題、それから、健康の問題、それから、産業とか経済活動、国民生活・都市生活、さまざまな範囲にわたっています。

先ほども言いましたように、SI-CATはまだスタートして1年たっていないんですね。なので、今ここで研究成果をお見せするということはできません。というのは、まだ一回も年度末報告書をまとめたことがない。まだそういう時期なので、詳細な予測情報だとか、あるいは、適応策に直結するような研究成果というのは、今、お話しすることはできません。今日これからお話しするのは、研究者と行政の連携によって、適応策の立案と社会実装というのは本当にできるのかどうか、難しいのではないかということも頭に浮かんじゃったりするのですけども、SI-CATというのは、基本的には自治体を対象にしています。自治体を対象にしているので、その問題に関して過去の成功事例がありますので、それを見てちょっと自分たち自身を勇気づけてみようということで、古い情報をちょっと集めてみました。

自治体と国が連携して、しかも、研究者が作成した研究成果を活用して、環境問題が解決した成功事例があります。それは大気汚染の問題です。1968年に大気汚染防止法というのができました。これは、四日市ぜんそくなどで実際に死人が出て、かなり深刻な状態にあったということで、大気汚染防止法がつくられました。そのときの規制ですが、K値規制という方法で排出源を規制しています。これは大気拡散の理論に基づく規制です。非常に理論的です。簡単に言うと、排出量の多いところは煙突を高くしなさい、あるいは、有効煙突高というか、浮力をつけて、うんと上空まで汚染物質を飛ばしちゃってくださいと、そういった規制です。

その後、1970年ぐらいに大気汚染防止法の改定があって、都道府県による上乗せ規制というのを行うことができるように、自治体の権限が強化されました。環境庁が、──環境省の前身ですね、もちろん。これが創設されたのがちょうどその後の1971年です。1974年には総量規制という大気汚染の規制の規則ができました。これは、先ほどの大気拡散理論に基づく規制をさらに大きく進めて、拡散モデル、非常にたくさんの発生源がある、そういうところから出ている汚染物質がどう分布しているのかということを評価する数値モデル、実際には解析解を使っているのですけども、それの重合を使っているのですけど、そういうモデルを使って評価と最適化を行ったわけです。これによって、川崎市だとか四日市市など、自治体が社会実装をリードしました。

ちょっとスライドを戻しましたが、この総量規制では、拡散モデルに評価ができるようになったことで、汚染を排出する発生源ですね。それによって、例えばクリーニング屋さん、当時のクリーニング屋さんは重油を燃やして乾かしていたので、かなりの二酸化硫黄を排出していました。排出量は小さいですけれども、すぐ近くの人々にはかなり大きな影響を与えたんですね。

もう一つは、発電所。火力発電所ですけども、こちらのほうは、非常に大量の硫黄酸化物を排出していました。ただし、大きな煙突があるので、近隣というよりも、かなり広い面積にわたって少しずつ影響をしていったということになりますね。

この総量規制では、そういうことを考慮して、実際に数値モデルで地上濃度分布を予測して、それで、環境基準を超えているようなところについては、発生源に規制をかけて、排出量を減らす。そのときに、先ほどの、クリーニング屋さんにも影響を与えていますし、大規模な発電所にも影響を与えるわけですけども、それを改善する負担能力のある発電所に大きく減らしてもらって、クリーニング屋さんは、燃料転換のような比較的経費のかからないやり方で負担してもらう。そういったその負担能力に応じた配分で、なおかつ、至るところで環境、満足するような、そういった排出計画を立てることができたわけですね。ですから、研究により開発された数値拡散モデルが社会実装に大変によく役立てられたと、そういう事例だというふうに考えております。

そういうふうにして、川崎市ですけども、1970年、環境庁がちょうど発足した辺りぐらいからかなり濃度が下がってきて、今や二酸化窒素、二酸化硫黄というのは、環境基準を超えることはもうほとんどないと、そういう状況になっています。

それで、環境問題がどう改善したのかと。そういう今の二酸化硫黄の問題は、この右側のコミュニティ主導型の適応策になるわけです。まず、一番右下の、四日市ぜんそくなどの影響が発現しました。これは、住民がそういう被害に遭ったわけで、それを施策としてまとめるという方向で適応計画がつくられたわけです。それが総量規制ですね。つくられていたわけですけども、その途中で、先ほど説明しましたけれども、発電所とクリーニング店との関係、そういった、地域の利害関係の調整を図るということが行われました。

これに対して、気候変動の適応については、気候変動によってそれぞれの住人がどういう影響を受けるかということはわからないわけですよね。ですから、ボトムアップという方法はとれなくて、気候変動予測、それから、影響評価ということをして、それを住民に提示して、どちらかというと、科学主導型のトップダウンで適応計画を立てる必要があるというふうに考えられます。そういう意味で、気候変動予測と、それの影響評価というのは、社会にとって非常に重要な役割を持つというふうに思います。

それで、これはSI-CATに先行するプログラムとしてRECCAというのがあったのですけども、そのときのいろんな経験をしましたので、幾つか、二つばかり、そのときの問題をここでご紹介しておきます。

1番目に感じたのは時間の壁です。これは、RECCAもそうですが、主として自治体を対象にして適応策を社会実装しようという話ですが、自治体の政策担当者は明日のことですごく忙しいのですね。数日ぐらいたってしまいますと、会議や何かで話が変わったり、あるいは、今までいろいろ情報交換をお願いしていた担当者がほかの部署に変わったりしてしまう。そういうことが非常に短期間で起こります。

一方で、研究者というのは、当然ですけども、着想から最終的な論文の受理までには長い間、数年の規模で考えますし、研究プロジェクトも、やっぱり3年とか4年とか、そういう長いスケールで考えて、それで最終的な成果を出すと。その時間の差というのをいろいろ感じました。

それから、2番目に言葉の壁です。これは、RECCAとS8が共同して、ここでも執筆された方はたくさんいらっしゃるのではないかと思いますけども、「気候変動適応策のデザイン」という冊子。これは、一般向けを念頭に置いた、こういう冊子を発刊したのですけども、実際、私ども書いたほうとしては、政策担当者向けの非常にわかりやすい発信としてかなり自信を持っていたのですけども、実際に自治体の、特に環境関係の政策の担当者にそれをお見せして、その印象を聞いてみると、出てくる専門用語がわからないので理解できる部分は少なかったというふうに言われてしまいました。だから、研究者側がかなり思い切ってわかりやすい、そういう冊子をつくったとしても、自治体のそういう担当者は、必ずしも理解できるかどうかわからないと。この辺については、今後かなり気をつけなければいけないというふうに、私自身は強く認識しています。

それで、SI-CATですけども、これは、S8、RECCAの成果を発展させ、社会実装を確実に実装するため、そのため、さっき言いましたような問題があるので、一層の工夫が必要だというふうに考えています。

そのため、プログラムのたてつけとしても、少しそれが考慮されています。SI-CATでは、まず、(1)技術開発機関、ここは将来の予測をしたり、あるいは、高解像度のダウンスケールをしたり、あるいは、気候変動の影響評価等をすると。そういう研究としては一番中核になるところですが。これと別に、(2)社会実装機関と書いてあるのですけども、これがあります。これは、社会実装機関はニーズの掘り起こしと、成果の社会実装を担当するところで、もう既にSI-CATを開始して、1年たっていないですけれども、各自治体を回って、それぞれの環境関係の担当者のインタビューをとって、一体どういうことが必要かどうかということを調査していただいています。

その調査結果は、もうある程度SI-CATの構成員全員にある程度伝わっていて、それを認識した上で自分の研究計画を立てていただいているところです。

それともう一つ、(3)モデル自治体というのがあります。これは、ニーズの提供と、SI-CATは、何度も言いますように、基本的には自治体、特に都道府県単位がターゲットですが、そういう幾つかの県にモデル自治体になっていただいて、ニーズの提供と成果の社会実装について情報提供、それから、社会実装のテストですね。それから、それを行政側がどう考えているかという、そういった情報をいただけると、そういう自治体を指定しています。これは自治体の数、ちょっと数え方が難しいので、8件と書いてありますけども、モデル自治体は8件指定して、そういう意思の疎通を図っています。

これは、そのモデル自治体の一つ、埼玉県ですが、埼玉県と連携で野外観測を実施しました。左の図、これはスポーツ施設のドームです。その上にドローンを飛ばして、そのドローンには気象ゾンデをつけて、上空の気温を測り、あるいは、地上でも、地上設置の観測機材によって気温をはかりました。

この右下の赤く見えるのは、ドローンによって、ドローンのサーモカメラで観測された地表面の温度です。左のほうに青い、あるいは、黒いところがあるのですけども、これはドームのスポーツ施設の表面温度です。温度が随分低いということがわかります。それに対して、アスファルトだとかコンクリの面は真っ赤、かなり地表面が高いということがよく見えます。

それで、社会実装するというのは言うは易しで、なかなか難しいですけれども、幾つか強い味方があります。一つは、皆さんご承知のように、政府適応計画が閣議決定されました。これは、自治体に対しても浸透があると思います。それと、先ほどお話ししましたようなモデル自治体、実際にそのモデルになってもらって、社会実装可能かどうかということを検討してもらったり、あるいは、自治体側のいろんな行政的なことも含めた通報の情報、そういう情報をいただいたりという、そういったシステムです。モデル自治体とは別に、ニーズ自治体、モデル自治体は公募したのですけれども、それ以降でもそういうモデル自治体と同じようなことになりたいという自治体があったので、ニーズ自治体というのを指定しています。現在、東京都がニーズ自治体として登録する、そういう手順に今、なっているところです。

それと、このプログラム、SI-CATは、創生プログラムが現在動いていて、先ほどのような大災害に影響を与えるような大雨、台風の問題、今日はこの後、そういうお話があると思いますけども、そういうところは創生プログラムが実施してくれますので、そのデータを活用すると。あるいは、もしポスト創生プログラムがあれば、やはり、そこで作成されるデータ、現在の創生プログラムですと、d4PDFというのが作成されているわけですけども、こういったものを活用したいと。そのとき、先ほども話が出たのですけども、こんな非常に膨大なデータを自治体が直接それを調べて、その情報を活用するというのは非常に難しいですから、データとしては、DIASのような非常に巨大なデータサーバーに入れて、それを、アプリケーションソフトをつくって、それを通じて自治体等が、あまりそういう大量な情報だとか気象の問題に詳しくない人が将来の予測情報などを活用できるように、そういう計画を立てています。

当委員会から幾つか論点をいただいていますので、次に、それについて簡単に、簡単にしか答えられないですけども、答えさせていただきます。

1番目、継続的な観測・監視。研究調査の推進及び情報や知見の集積。この辺についてコメントしろということですが、適応策の観点からは、この問題は非常に重要だというふうに認識しています。

一方で、この問題は地道な取組であり、その取組は評価されるべきですが、そのスキームがないと。つまり、SI-CATの範囲内ではこれはできるのですけども、それを加えたもっと長期的な観測だとか、監視だとか、あるいは研究調査を続けていくというのは、今のところ明確なスキームがない。次々次々新しいプロジェクトを出してつなげていく、そういったことしか考えにくいです。ただ、観測については、気象庁の観測というのがかなり信用、かなり役に立つというふうに考えています。

2番目、定期的な気候変動による影響の評価をどうするのかという話ですけども、これも、SI-CATの期間内では定期的な影響評価を繰り返すということはできないわけですけども、実際、事業者などとの連携が何らかの形で維持されて、文科省実施の、例えば創生プログラムの後継があれば、少なくともその範囲の期間では可能ということになります。また、SI-CAT終了後も、自治体の適応策立案などに成果の活用が期待されます。

地方公共団体等の支援ですが、技術的な自治体支援はSI-CAT主目的であるわけです。気候モデルなど、上流側の成果をうまく社会実装につなげるためには、やっぱりSI-CAT、後継プログラムが必要かなというふうに考えています。

海外における影響評価の推進についてですけども、これについても注視はしているのですけども、SI-CATそのものは国内の自治体支援が主目的なので、直接的には関わりにくいというところがあります。

一方で、そういった海外の適応策の状況を調査して、その技術、あるいは、方法論などについては活用しようというふうに試みているところです。

一応、僕の話は、準備してきたのは以上です。

住委員長

どうもありがとうございました。今のプレゼンテーションに関して、何かご質問は。

安岡委員

どうもありがとうございます。

14ページの図をお見せいただけますでしょうか。この図は、僕はある意味で非常に重要だと思っています。これはぜんそくの場合で、過去の例でこういうふうにコミュニティ主導型で来たわけですが、例えば、四日市で物すごい熱中症が出るとか、物すごい極端現象が起きるというようなことで起きたときに、上に上がっていくと適応計画が出ますよね。本来は、左側の適応計画におりていく線と、右側の上に上がっていく線の適応計画がつながらないといけないのではないかという印象を持っていて、これは、ある意味では適応計画の地域への特化、カスタマイゼーションというんですかね。それと、右側で言う、ある種上に上がっていく、これは一般化、ゼネラリゼーションということになると思いますけど、そこがつながらないと、うまい研究と、その実装の部分がつながらないのではないかと。

木村委員

おっしゃるとおりだと思います。それは、右側があって、適応計画というのは社会的に非常に認知されて、発展するということは間違いないと思います。ただ、これを作ったときにはもっと非常に単純に考えていて、つまり、温暖化による影響が出てくるのは主としてこれからだろうと。ということは、下から積み上がるというのは難しくて、どういう温暖化でどういう影響が出て、どういうふうにして皆さんが困るのかということを左側のチャンネルで先にお伝えしないと、そこの下から上に上がるのは出てこないのではないかというふうに考えています。そこのところが、大気汚染の問題と温暖化の問題の違い。だから、この縦の数字は、上から下におろしてくる数字は極めて重要だろうというふうに考えています。

安岡委員

私のポイントは、この右と左の矢印がすれ違っては決してだめで、適応計画という右上と左下の部分がつながるように、きちっとした横につなぐ線をつくらないといけないのではないかということです。

木村委員

そうですね。これを横につなげようということですね。確かに、コミュニティということでは、常にどの段階でもつながっていないといけないですよね。その辺は、これから工夫をするべきところだろうと思います。

木所委員

水産研究所の木所です。わかりやすいプレゼン、ありがとうございます。

先ほどのプレゼンでもこのプレゼンでも、ニーズという言葉が出てきたのですけども、これは私だけかもしれないですけども、専門家が考えるような温暖化のニーズと、何か一般市民というか、自治体も含めて、その辺の視点でやるニーズでは、ギャップがあるのではないかと、そのように考えているわけです。例えば一般的には、私も水産研究所で、何か極端な事例があると、必ず温暖化の影響ですかというふうに聞かれたりするのですけども、一つの事例、ここでも鬼怒川の事例がありますけど、一つの事例を見て温暖化かどうかはわからないというのは、専門家の考えで、それよりももっと、熱中症みたいなものもあるけども、意外に漏れていると。そういった何か一般のニーズと専門家のニーズは、一応ギャップがあって、かといって、だからといって、一般のニーズ、こういったものも無視できないし、否定もできないと。じゃあ、その辺は今後いろんな意味で適応計画なり進めていく際で、その辺のバランスというか、その辺は結構重要になるのかなというふうに考えているのですけども。ちょっと私のコメントみたいで申し訳ないですけども、そういったもので何かいい回答とか何かがありましたら、教えていただきたいのですけども。

木村委員

おっしゃるとおりで、一般の人がどう考えているか。一般の人が感じるニーズを集めるということは極めて大事だと思います。

それで、SI-CATとしても、一般の人まではいかないですけども、自治体に出かけて行って、アンケート調査をして、具体的に気候変動に対してどういう問題が起こるのか、それはどういう予測が必要なのかということのアンケート調査をしています。ただし、やっぱり一般の人までを調査の対象にはしにくいです。どうしても、自治体の、特に研究機関がありますよね、そういったところから。それから、自治体のそういう部局、そういうところに行って一々インタビューをしているという段階があって、一般の人のところまではそういう調査が届いていないのです。

先ほどご説明しましたように、温暖化の影響というのは、それを予測し、その予測結果を解釈すること自体が、ある程度専門的な知識が必要ですので、一般の人にそれを直接依頼で説明すると、どういった適応計画が必要なので、皆さんはそれに備えてくださいというところまで、なかなか説明し切れないと思います。ただ、その努力はしないといけないですよね。それについてはおっしゃるとおりだと思います。ただし、四日市ぜんそくのように、大気汚染のように、もう住民が実際に苦しんでいるというのとは、やっぱりやり方を変えないといけないというふうに理解しています。よろしいでしょうか。

住委員長

そのほか、何かございますか。よろしいですか。

それでは、議論は皆さんの話を聞いてから戻ればいいと思います。どうもありがとうございました。それでは、続きまして、高薮委員のほうからお願いします。

高薮委員

気象研究所の高薮です。今日は、発言の機会を与えていただきまして、どうもありがとうございました。私は、今回の5人の発表者の中では一番上流側といいますか、データのもとをつくっているところに近い部分でやっておりますので、ちょっと趣向が違うかもしれませんが、ご容赦ください。

まず、温暖化予測情報の提供に関してということで、ご説明いたします。

課題が与えられました1番ですね。気候変動の進行状況の継続的な監視体制についてということで、私は気象庁ですので、しっかり宣伝してこいと言われました。

気象庁では、WMOの枠組み、GAWというのがありますが、その中で気象要素と各種大気質の観測を行っております。次の三つが大事なことだと言い含められてまいりました。まず、①現場で観測をしっかりと行っているということ。それから、②データの標準化をしっかりと行っていること。これは、データのフォーマットをそろえるとかいうことだけではなくて、各地の測器を、例えば気象庁の検定のところに持ってきて、世界標準の測器と比較検定するというようなこともやっております。それから、当然ですけれども、③データは公開して提供しているということです。

気象庁の気象研究所では、まずは上記の気象庁の定常観測を支援するいろいろな仕事、並びに環境省等との連携によって、研究観測を行っております。

これは気象庁における気候変動の観測・監視ですが、右側にありますように、地上気象観測は当然行っております。全国156地点では気圧・気温・降水量等の観測を行っておりまして、そのほかに、アメダスという、皆さん毎日よく見られていると思いますが、それによりまして全国約1,300カ所で降水量等の観測を行っております。

地球環境観測に関しましては、GCOS、GAW、それからGOOS等の枠組みの一環として、北西大西洋を中心とした陸海空において、精密な二酸化炭素濃度等の地球環境観測を実施しております。気象庁には2隻の観測船がございまして、137度と165度定線などの海洋観測を長年にわたり実施しております。これは国際的にも認知されておりまして、あそこにありますけれども、こういうところで継続的に観測を行って報告をしているということでございます。

ここでは、ひまわり8号のことを例としてご紹介いたします。ひまわり8号は、気象庁の気象衛星センターがデータを受けているのですけれども、実際には、これから国内外に多くの機関にオープンになっておりまして、下にありますように、JAXA EORC、NICT、通信総研、千葉大、高知大学、外国ではコロラド州立大学等からも見ることができます。こういうデータも多分環境観測には大事だと思います。

例をお示ししますが、これは10分ごとの画像データです。ひまわり8号になりまして、非常に高頻度のデータが得られました。これは、赤がダスト、それから、ほかの色は、雲は見てわかると思いますが、赤くなっているところ、これはタクラマカンですね。これはチベット高原です。タクラマカンからダストが巻き上がって、この辺は日本ですが、日本のほうに届いていくというようなことが、10分間隔の画像でこのように見ることができます。

これは今まではちょっと信じられない時間間隔のデータなのですけども、多分、初めての方はどう思われるかはわかりませんが、研究者の間では、これで初めてプロセスの研究ができると言って、皆さん、喜んでいらっしゃいます。こういうようなデータセット等についても、こうやって公開しているということです。

気象庁気象研究所では、こういうものを利用しまして、いろいろな気象庁ネットワーク等も使いまして、あと、いろいろ解析をやっております。大気質(温室効果ガス)の場合の観測の問題点といいますのは、観測所数が少ないと。全国で約200地点。さっき、アメダスが日本だけで1,300地点雨を測っていると言いましたけれども、これは全世界で200地点です。当然、シベリアとか熱帯陸域とか海洋等に空白域がありまして、また、鉛直方向に、要するに上のほうに、どこのレベルにどのぐらい分布しているかというような情報が非常に少ないということです。

この問題点を見るとぱっとわかりますのは、当然、衛星ですね。衛星との連携をとって、GOSAT等の衛星との連携をとって観測をやっていく必要があるということが見えてまいります。

以上、観測上の問題点についてご報告いたしました。

これからモデルのことに行きます。まず、木村先生のほうからもダウンスケーリングのご紹介をされているのですけども、一応、改めてイントロとして、ダウンスケーリングは一体何だろうということをお話ししてスタートします。

この絵は左側と右側とは同じ写真ですが、右側はダックが乗っていることがわかりますが、左は何がいるかがよくわかりません。実はこういうことでして、全球モデル出力という、よくCMIP3とかCMIP5とか言いますけれども、全世界で一生懸命計算している全球モデル出力というのは、この程度のもの。場所、見方にもよりますけれども。それに対して、温暖化対策策定、さっき木村先生がずっとご発表されていましたけども、こういうものに必要な情報というのは、この机の上に乗っているのは一体何なんだという詳細を知りたいということです。当然ですけれども、この二つの間には大きなギャップがございます。私どもが関係しています研究というのは、この気候予測研究と、それから、この影響評価研究の橋渡しを行うダウンスケーリングというのをやっております。つまり、こういうような情報をもらってきまして、それを何とか加工して、こういうふうに持っていこうと。何が乗っているかがわからないと、将来どういうことをしていいかわからないということですね。そのためにやっているのが我々の研究です。

ということで、(1)論点1の気候変動やその影響の予測に関する調査研究を行っていくと。それから、(2)定期的な気候変動による影響の評価。さまざまな研究機関等が保有する気候変動影響に関する知見の収集・整理をして、論点を移ってまいります。

ダウンスケーリングと一言で申しましても、実は非常にいろんな手法がございます。大きく分けまして、数値モデルという、よく天気予報とかに出てくる絵ですけれども、それを用いる力学的ダウンスケーリング手法と、それから、統計的手法を用いる統計的ダウンスケーリング手法というのがございます。こちらのほうはモデルを動かすことはございませんので、計算負荷は非常に軽くなります。

一応ざっと比べますと、こういうことで、DDS(力学的ダウンスケーリング手法)は、地球シミュレーター等の大きな計算機をがんがん回さなきゃいけませんが、そのかわりに、詳細な情報、特に、極端事象に関してとか、豪雨ですとか、台風ですとかに関しての情報は得ることができます。それに対して、統計的ダウンスケーリングのほうは、計算負荷は非常に小さいのですけれども、そのかわり、そのもとのデータに含まれておりません極端な情報というのは引き出すことができません。平均場はうまくいくと。バイアス補正に関して言いますと、統計的ダウンスケーリングは、その中に起因する因子を含んでおりますので、非常に見栄えというか、影響評価の人たちにとっては使いやすいデータになります。我々の力学的ダウンスケーリングのほうは、後づけでバイアス補正をしないと使い物にならない場合もございます。そういうようなことです。

これは、本年の8月に環境省さんのほうがつくりました気候変動適応情報プラットフォームというところからクリックするとダウンロードできるのですが、ここに「地方公共団体における気候変動適応計画策定ガイドライン」という冊子がございます。すごく分厚い冊子ですが、その中に、実は推奨データというのが三つ挙げられております。これは表紙で、これは59ページですが、三つ挙がっていました。

まず一つ目は、「地球温暖化予測情報第8巻」です。これは、力学的ダウンスケーリングによって、気象庁が文科省さんのデータのダウンスケーリングを行ったものです。この真ん中のが「21世紀末における日本の気候」ということですが、これも力学的ダウンスケーリングです。実は、これは環境省さんのほうからのお声かけがございまして行った実験ですが、モデルは気象庁のものを使っておりまして、それから、計算のファシリティーについては、文科省さんの地球シミュレーターを使っていると。データの公開は、文科省さんのDIASプログラムを通じて行っているということですので、3省庁連携と言ってよろしいと思います。

それから、最初に原澤先生のほうからもご紹介ありましたけども、(環境省推進費の)「S-8」というのがございまして、これは統計的ダウンスケーリングが中心だったということです。こちらのほうは、その影響とか、各種影響とか、適応研究、適応のマップも入っているわけです。ちょっと性格が違います。そういうわけで、今、実は、我々の気象庁気象研究所が開発したシステムというのは、この上の二つは使われているというふうな状況です。

それで、実は、気候モデルを用いて地球温暖化予測するためには、様々な不確実性要因がございます。それをちょっと整理させていただきました。ちょっとわかりにくい図で申し訳ありませんが、縦軸はその計算の流れ、横軸は予測の不確実性です。つまり、最初、スタート地点が1地点でも、どのシナリオで実験するか、それから、どのモデルを使うか、それから、自然変動をどう考えるかという三つの要素を考えていくと、だんだん結果がバラけてきてしまうということです。これが、この一番悪い数字を通れば最悪シナリオが見つかりますが、こういうふうになっています。

この中で、さっきの第8巻というのは、随分昔にやりましたので、計算機能力の問題もありまして、このように一つのシナリオ、一つのモデル、それから、自然変動も1種類ということでやっておりますので、赤丸のように落ちていきます。

それに対しまして、「21世紀末における日本の気候」で環境省さんがコンサルにおろしてやった実験ですけども、その場合は、RCPの4シナリオ、2.6、4.5、6.0、8.5かな。4シナリオについて実験をしたということなので、黄緑の三角ぐらいの広がりを持った結果を出しております。

それから、さっき木村先生からもご紹介がありましたけども、d4PDFというデータセットがございます。これは紫で書いておりますけれども、これは、自然変動のばらつき具合を勘案してたくさんのアンサンブル実験をやったものですので、そういうふうになります。ということで、実験のデザインによりまして、いろんな不確実性の評価とかが入ってまいります。

今、AGCM-NHRCMのファミリーというのはこれだけできています。これは、実は我々気象庁気象研究所だけではとてもできなかったものでして、さっきからご紹介していますように、創生プログラム等の文科省の資金、それから、環境省さんの資金などとカップルした形で行われました。気がついてみると、こんなになっていました。

第8巻というのは、A1Bシナリオを使いまして、20km全球モデルを5km地域気候モデルまでダウンスケーリングした一例の計算。それから、21世紀末における日本の気候で環境省さんの主導された実験では、四つのシナリオについて、今世紀末、60km全球大気モデルを20km地域気候モデルでダウンスケーリングした20例の実験です。

それから、これは今、動いています。最終年度ですけど、気候変動リスク情報創生プログラムでは、RCP8.5にシナリオ1個ですけれども、そのかわり20kmの全球モデルを5km、さらに2kmの地域気候モデルでダウンスケーリングするということで、4例やっております。「温暖化予測情報第9巻」は、このうち5kmモデルの成果を使いまして、今年度末に出るということです。このd4PDFというのは、同じRCP8.5ですが、これは全球モデル60km、地域気候モデル20kmと解像度を落とすかわりに、実験例数を100例としております。

このように、データがたくさん出ているのですが、じゃあ、何でこんないろんな計算をしなきゃいけないのかということをご説明します。これがファミリーですが、右側があえて解像度を追求したものです。計算をやっていらっしゃる方はわかるのですけども、解像度を倍にするだけで、倍率というか、計算機、計算時間が2倍になるだろうというのは嘘で、横も縦も高さも2倍になりますので、それで8倍。それから、時間ステップを半分にしなきゃいけませんので、理論的には16倍の計算機資源が必要になります。

ということで、こちらのほうは実験数を抑えても解像度を追求した実験のシリーズです。これは、極端な現象を知るためにはぜひ必要な実験です。

一方、解像度を抑えて実験数を増やすという手法もあります。これは、さっき前の三角で見せましたけれども、予測の不確実性を知る必要がある場合には、実はこの実験をしなければなりません。というわけで、この二つのシリーズの実験をつくった大きなファミリーを我々は作っております。

d4PDFというものですが、それのちょっと実例を紹介します。台風というのは、日本全土で年に平均2.7個しか上陸しませんので、これを使って統計的に将来の評価をしようと思っても、非常に無理があるわけです。ところが、これは60年の1アンサンブルやったときに、日本の関東付近に上陸した台風なんですけども、このぐらいしか1実験ではつくることができませんので、統計的な評価ができませんが、100アンサンブルありますと、このように、ものすごくたくさんの台風の経路が出ます。これだけ経路があれば、例えば、保険料率の計算とか、そういうことも含めていろんな評価ができるわけです。そういうわけで、アンサンブル数が100、すごく増えて、延べ6,000年の計算ですが、こういうふうになってくると、量の変化だけではなくて、その情報の持っている質の変化が表れますというようなことです。

これを使いますと、例えば、この前、ご記憶は新しいかもしれませんが、東北地方に太平洋側から上陸した台風というのがございました。あれは気象庁で統計をとり始めてから初めてだというふうに喧伝されておりましたけれども、それが実際どのぐらい起こり得るのかというのを、この実験データセットを使って評価することができます。こうしますと100個あったということです。100個あったので、バイアスがありますので補正しますと、30年に1回ぐらいの上陸の可能性があったのではないかという成果が出てまいりました。

実は、我々だけではなくて、国内のいろんな研究グループが力学的ダウンスケーリングを既に行っております。ここには1例挙げましたけれども、SI-CATに参加しているグループが非常に多いです。あと、特別な例としましては、CReSSというモデルがございまして、名大のモデルですけれども、これは、もともと台風をシミュレートするためにつくられたモデルです。これは、台風がどれだけ強くなるか、最悪シナリオを評価するために、疑似温暖化実験手法というものを使って参加するということです。ちょっとアプローチの方法は異なりますが。すみません、この表はサーベイが完璧でございませんので、落ちていた機関・研究がありましたら申し訳ないです。

あと、最初のころにお話ししましたけれども、統計的ダウンスケーリングというのがございます。これは、S-5-1、それからS-8、それからSI-CAT等の系統で、農水省系の研究所の方がやっていらっしゃいます。

これは、CMIP3全球モデルというのが30個ぐらいございますが、それ全部を統計的ダウンスケーリングすることによりまして、このモデルは200kmとか300kmグリッドですけども、それを根室という1地点にダウンスケーリングした結果です。ばらつき等を見ています。そうすると、このモデルによってこれだけのばらつきが出るわけですけども、ここまで含めた形で評価しなきゃいけない適応研究には非常に有効であるということです。

実は、私が聞いているところでは、SI-CATでは、概ねこの手法で1km格子の日データをDIAS上に展開して始めているということです。

というわけで、こういうさまざまなダウンスケーリング手法はございますけれども、これをどうやってまとめていったらいいかなというのがこれです。結局、統計的ダウンスケーリングという方法、それから、力学的ダウンスケーリングという方法、この二つの方法は、これは科学者的に見ると、こっちは統計的にやらないで力学的にやるのだから、最終的にはみんなこうなるべきだとおっしゃるし、統計的なほうから言うと、力学的にダウンスケーリングしても使い物にならないじゃないかという話もあるのですが、そういうような議論はしないで、ユーザー目線から見ると、実はこれは二つとも有効であると。こういうカップルした一つのデータセットとして見るときに、初めて有効であるということがわかります。ちょっと模式図を描きましたけども、農業ですとか生態系、竹とか渡り鳥とかですね。こういうようなものには、極端事象はまず使わないと。平均的な月平均の気温がどうだとか、農業の場合ですと、特に穀物の生育時期、数カ月のデータがしっかりとれていればいいわけで、というようなことで、そういう場合には、統計的ダウンスケーリングのほうが、こちらはバイアスもきちんと補正が入っていますので、有用であると。

逆に、私の後に中北先生からもご発表あると思いますけれども、洪水ですとか台風ですとか、こういうものの評価にとっては、月平均降水量がどう変わったかということではなくて、やっぱり極端の現象がどうなるかということが、すごく大事になってまいります。そうなると、力学的ダウンスケーリングも欲しいなということになるわけで、つまり、目的による最初のプロダクトは異なりますので、我々は、この二つのダウンスケーリング手法をまとめたような形で大きなデータシステムをつくっていくべきではないかと思います。

これはほとんど最後ですが、各省庁のさまざまなプロジェクトです。今生成されている力学的ダウンスケーリング、あるいは、統計的ダウンスケーリングというのは、それぞれ特性がございます。それはユーザーの利用目的によって最善のデータが異なりますので、各省庁の間で連携、調整を行いまして、整合性のとれたデータセットを供給することが、昨年の11月に閣議決定された政府の対策策定に温暖化予測データを生かしていく上で重要だと考えております。

そのためにも、各省庁のプログラムで、結構もともとばらばらにデータをつくっていたのですが、統一感を持たせたほうがいいのではないかと考えております。特に、我々気象庁と、それから環境省、文科省さん、三つの間の連携は今後ますます重要になっていくのではないかと考えています。

最後に海外のことを少し紹介します。ほとんど提言でもないですけれども、我々創生プログラムの中で、東南アジア諸国とかなり連携をとって研究を進めていました。これはレビューですが、各国の温暖化予測情報に第1次情報を提供するということは可能だと思います。それから、力学的ダウンスケーリングについては、モデルと技術を提供して、一緒に研究するということが可能です。それから、統計的ダウンスケーリングにより詳細な情報を提供することも可能ですし、高解像度の全球モデルの結果を提供することも可能です。

実際、これはタイの温暖化予測情報の冊子です。こっちはベトナムの温暖化予測情報の冊子です。ベトナム語で書いてあるし、タイ語で書いてあるので全く読めないですけども、ここにタイランド・ファースト・アセスメントリポートのクライメイト・チェンジと書いてありますね。2011ということです。

というわけで、こういうような情報には、実は、既にヨーロッパのグループはもうかなり入り込んでいまして、英国ではモデルと計算機、一緒になって売り込んだりしていますので、我々もデータ、モデルとかを提供してやっていくことは十分可能だと思います。

実際、文科省の創生プログラムの中では、こういうような協力関係は既に行われていまして、我々がつくったこのAGCM(全球大気モデル)、NHRCM(地域気候モデル)システムの全球データをアジアの気象局の方たち、これは気象庁の東京クライメートセンター(TCC)で研修があったときに提供しましたし、スリランカと国連大学の研修があったときも提供しました。あるいは、このNHRCMも、これは日本でドライブしていますが、それをフィリピンですとかインドネシアで動かしているというようなことをやっています。

最終的にはこういうような情報を使いまして、各国の現地の温暖化予測情報に対する支援になるのではないかと思っています。

以上です。ありがとうございました。

住委員長

どうもありがとうございました。それでは、今のプレゼンテーションに関して質問もしくはご意見等がございましたら。どうでしょうか。

松井委員

ちょっと影響評価のほうから質問させていただきたいのですけど、1.5℃の影響評価なんていうのを例えば自然生態系などで行う場合に、今、我々としてはどのモデルを使うのが最適なのかというのを、実は議論しておりまして、そういったところで何かアドバイスはございますか。

高薮委員

1.5℃の実験はまだ全くやっていないのですけれども、1.5℃の場合に私が一つ気にかかっているのは、トランジェントな(過渡的な)1.5℃でいいのか、それとも、オーバーシュートも含めた最終到達点としての1.5℃がいいのか、その辺のコンセンサスがまだその業界の、業界というか、もっと大きな、IPCCの大きな枠組みの中でやられているようにはちょっと思えないので。例えば、今言われたのは恐らく影響評価だと思うのですけれども、その場合には、1.5℃というのは、トランジェントな1.5℃でも評価可能です。RCP8.5のシナリオで今後20年ぐらいの先を見れば1.5℃出ますので、それを使っていただくという手もございます。ただ、それは、見方によっては、そんなのはトランジェントなのであって、その後オーバーシュートして戻ってくる先を本当は見なきゃいけないのではないかとか言われるとちょっと困っちゃうのですが。

ただ、スペシャルレポートというのが来年です。あと1年しかなくて、そこに新しい実験、特にダウンスケーリング実験まで行うということは、恐らく無理だと思います。その場合には、むしろ、割と統計的な手法を使って1.5℃上昇のときの世界をつくり出すという方法でいかざるを得ないのかなと思っていますが、いずれにしても、そういう意味で、多分お知りになりたいような精密な情報については、とにかくトランジェントでもいいから、1.5℃の世界を描き出して、それを使っていただくということになるのかなと思います。

山田委員

二つ質問させてください。

一つは、東北の太平洋岸に上陸する台風はどの程度あるかというお尋ねです。防災上非常に重要なものを見せていただいて、実は、今年の台風、北海道で非常に大きい災害が起きましたけど、たしか、10日か2週間以内に台風が三つ北海道を通過して、最後にとどめでこの岩手県を通った、このようなやつで最終的に大打撃を受けて、洪水氾濫が起きて、現在も札幌から帯広市は、高速道路1本だけでしかつながっていないという状況です。そのために、ご紹介ですけれども、国土交通省と北海道庁が初めて、国と自治体が初めて治水の防災計画を一緒に練るということが生まれました。今日も、自治体との関係で初めてそれができたと。そのときに、こういうデータ、こういう情報をすぐにでも欲しいのですけども。つまり、研究レベルでぱっと出るのか、オペレーションのようにこういうのをやる、出していただけるというようなことまで行っているのでしょうか。

高薮委員

これがオペレーションですぐ出せるかということですか。

山田委員

そういうことです。

高薮委員

これは、実は出したときに、赤字でいろいろコメントしていますように、本当に速報値で出ししました。これは、台風を渦度、渦度というか、渦の強さがどのぐらいか、それから、その上空に暖かい空気があるかどうかというような判定基準でもって、あっ、これは台風だなとコンピューターに判断させてプロットしています。ただ、これが本当にそのオペレーショナルに提供できるかどうかということを見るためには、まだもう少しいろいろやらなきゃいけないことが残っています、申し訳ございませんが。

ただ、例えば、この経路を取ったときに、大きなスケールの場がどうだったか、サーバー範囲がどうだったか、それから、やっぱりブロッキングの状態に近かったのか、そういうようなことも本当は調べなきゃいけませんし、ということで、もう少し時間がかかると思います。

私の後に中北先生からご発表がありまして、中北先生のグループと我々のグループは緊密な連携をとって研究を続けておりますので、これも、だから非常にいろんなコメントをいただいておりますが、後で中北先生のほうから。

山田委員

わかりました。

もう一つだけ。個人的に気象の勉強会みたいなものをやっているときに、船の上からGPSを使った水蒸気量測定みたいなのものをやっておられる方のお話を数回聞いていて、まさにこの日本を取り巻くようなところに船が今どれだけあるかというと、線が猛烈になるぐらい船がありますよね。その方の主張は、船にGPSを、実験観測としてはやられているというのはもちろん知っているのですけど、つまり、普通に動いているタンカーとか貨物船にポコンと積み込んで、その情報をもっと密にとれないものかなというようなことを盛んに主張されているもので、そういう方面の気象庁としての方向性はあるのかないのか。その人の代理で聞いてあげているみたいなところがあるのですけれども。

高薮委員

その研究の話は私もよく知っておりますが、気象庁としてどういうふうに、それに対してどういう姿勢でいるかということに関しては、私は研究所の人間なので、ちょっと答えられません。

山田委員

ぜひこういうところでも議論していただきたいなと思っているところです。

高薮委員

ありがとうございます。

住委員長

そのほか、よろしいですか。それでは、中北先生お願いします。

中北委員

それでは、お時間をいただきまして、自然災害ということで宿題いただきました。宿題というか、ワークとしては自然災害でお話をということです。京都大学防災研究所の中北です。創生のD代表をさせていただいています。

今日はどこかの、さっきは高薮さん、気象庁なので何かを言わなければいけないとか言っていましたけど、私は別に誰の代表、どこの組織を代表してという意味ではなくてお話をさせていただきます。ただ、いろんなところと、国交省とか創生とかいろいろありますので、その絡みの内容のことはお話をさせていただきます。

まず、皆さん、大体出されていますが、温暖化で危惧される自然災害ということで、基本的には土砂災害、それから、洪水、高潮、それから、強風災害とか、それによる水の氾濫とか、そういうことをやっています。

豪雨災害という立場で考えると、普段のリアルタイムの気象予測、洪水予測での分け方もそうですし、温暖化でどれが将来変わるかという評価をするときでも、大体この三つのタイプに分けて、私たちは物を考えています。台風の場合は、我が国の大規模な河川でも、大水害を起こす危険性がありますし、台湾でもありましたが、一山潰れる程度の大深層崩壊があって、村が全部埋もれるというようなことも起こします。

それから、梅雨タイプの豪雨ですね。細長く100キロ、200キロと続きますが、幅が細長い3時間から6時間ぐらい続いて300ミリ以上降らすというようなものでも、大河川は洪水にはなりませんが、大河川に流れ込む中小河川の流れ、洪水になりますし、内水氾濫。それから、広島の災害もありました。土砂災害を起こします。それから、ゲリラ豪雨というもので、本当に私たちの身近な小さな流域でも、河川を越えて鉄砲水があり、あるいは、下水管の中でのやはり鉄砲水があって、保守管理されている人が亡くなるというような、そういうものがあります。

ざっと復習しますが、台湾の2年後にも、近畿でもこういう大深層崩壊というのが台風によって起こっていますし、この熊野川の下流のほうでは、このときの最大流量というのは、明治以来、明治の流量の観測の歴史以来、全国での最大というのが起こっています。

それから、これは今、山田先生が調査団の団長をされた鬼怒川の災害ですけれども、これも台風による影響によって起こっていますし、これは上流でも土砂災害をもたらしています。

このように、ダムが全部満杯になっていると。この2年前の近畿でも、桂川が渡月橋のところがあふれたという話は、有名ですけれども、少し下流の京都市内のところでほとんどあふれかけて、やはり全部のダムがこういう満杯状態になっているという、非常に今まで言うと異常な状態に、ダム管理の操作で想定しないぐらい異常な状態というのが起こり出しています。

こういう状況があるので、例えば北海道で起こり出すと、これから利水ダムも治水用に使わなければいけないとか、電力のダム、本来は治水用に使わなくていいのですけれども、協力してくれとかという話が出てきたときに、じゃあ、これから北海道で起こりやすくなりますかというようなちょっとした情報があると、これからのものを考えていくのに非常に役立つというのが、今の山田先生のご質問になります。不正確でもいいので、およそどういう傾向かという情報があるだけでも大きなものになります。

これは、この間の東北豪雨のときの気象レーダで見た総降雨量です。北上山地のところで300ぐらいは出ていますけれども、これは、文科省の革新プログラムの時代に、将来推測されている台風の一つですけれども、それで東北でも500~800の雨が降るよという、こういう計算がもう既に出ていて、特に、今までの気候の境目のところで非常に危険だというようなことは、ずっと訴えは続けてきています。

梅雨タイプでも、先ほど言いました、広島でありました土砂災害ですね。河川の洪水から逃れてこの辺りに住んでいる人が、今度は山からの災害で被害をすると。どこに住めばいいのかというのが、また天気予報の中でこれから大事になってきます。

河川公園での出水というので、これは、大規模というほどのシリアスさがないかもしれませんが、身近なところで突然悲しい災害ですね。河川で遊んでいた子どもたちが亡くなるという、こういうことも将来どうなっていくかということが、非常に同じ重みで大事だというふうに私たちは思っています。

それから、これは渇水の話ですが、今年の利根川は渇水状態になりましたが、上流の雪、平年だとこれぐらいなんですが、4月中旬でも全然雪がない。要するに、雪が少なかったわけですね、という状況です。それと、5月も雨が少なかったというので渇水になったわけですが、ちょっとだけ言うと、水資源に関係するのは、農業だけではなくて工業用、生活用水に対しても重要ということで、渇水という言葉になった場合は、私たちは自然災害としての位置づけ。防災研究所の中に水資源研究センターというのがありますが、渇水というのも災害の一つだという認識で私たちは来ています。

それで、私たちのやってきた研究についてお話を少しします。私たち防災研究所では、全部で30幾つ研究室があるのですが、35か6あるのですが、そのうちの半分以上、3分の2ぐらいが連携して大気・水の関連のグループ、それから、地震以外のジオハザードのグループ、それから、リスクとかを考える総合防災・社会防災というグループが横に連携して気候変動の影響評価と、徐々に適応に関する研究をやってきています。今、何度も出ていました創生プログラムの中ではA、B、木本先生とか、高藪さんがここのCのグループの代表をされていますが、この辺から出される情報を使って精密な影響評価ということで、適応に向けたもののことを頭に置きながらの影響評価ということをやっています。この中に自然災害、今日、私が与えられた課題は自然災害、それからあと、水資源、これは農業も全部含みます。それから、生態系、生物多様性ということで、ここの委員の中静先生と一緒に、これだけ全部のことを今、進めています。今日は、そのうちの自然災害の話をします。

自然災害の中で、特に、日本の河川流域、あるいは、河川の出水への影響評価がどこから可能になったかというのを少し整理するために、文科省の共生プログラム、それから、革新プログラム、創生プログラム、5年ずつ続いていますが、どこから自然災害が影響評価の対象になったかというのを出しています。というので、ここでは2007年ですね。今年度で創生が終わって、ここからもう10年間になりますが、10年前から自然災害への影響評価というのが始まって、私たち防災研究所もここに参加させていただいています。

ここに書いています20km全球出力、それから5km、2kmという空間分解能の出力が時間的、一時間一時間の雨量で出力していただくようになってから、我が国の自然災害への、特に洪水への影響評価ができるようになりました。その理由は、これが河川の河口から山に向かって、どんどん川が高くなっていく様子ですが、大陸の河川に比べて、日本の河川は非常に短くて急流です。流域面積というものも、一番大きな利根川ですら、他の川に比べてオーダーが違うぐらいに小さい。その中で、横軸が時間ですが、大陸の河川だと、実際に雨が上流で降ってピークに達するまで1週間とか、そういう時間があります。日本の場合ですと、本当に1日か数日でどさっと出てくる。と同時に、最大のピーク流量というのは大陸の河川とコンパチブルであるというのを、非常に水に対して、出水に対して厳しい自然条件の中で私たちは生きています。そのときに、一日の中でどどっと上がる、ピーク流量がどこまで上がるかというのを一日の平均雨量で計算していたら到底出なくて、7割から6割ぐらいの高さしか出ません。というので、1時間ごとの雨量が台風を分解できる出力、気候変動の予測の出力として出していただけるようになったということで、初めて我が国の災害の影響評価が可能となりました。

ということで、タイプ。それから、領域モデルというので梅雨の豪雨というのも表現していただけるようになっていまして、それぞれの全球20km、60km、d4PDFという多数のアンサンブルもこの範疇に入りますが、タイプはそういうもので評価できるだろうし、5kmの領域気候モデルと言われるダウンスケーリング、力学的ダウンスケールをしたモデルでは集中豪雨的な、梅雨のタイプの集中豪雨の影響評価もできるというので、今、ゲリラ豪雨に関してのところもできるかどうかの挑戦をしています。

ということで、これは革新のときの気象研からの出力モデルですが、全球20kmがダウンスケーリングされて5kmと。今、創生の中で最新の2kmのモデルを、出力を今ようやく使い出させていただける状況になってきている。

こんな感じで台風、それから梅雨関係、あるいは、もう少し細かな豪雨に関しての影響評価ができるようになったということで、私たちのほうでは、今申し上げたことを全体で話しますと、気候モデルの出力ですね。雨だけではなくて気温、水蒸気とか、いろんな大気物理量の出力をいただいて、それをハザード、自然災害をもたらす、もとの自然現象への影響評価と。それが最終的には人口密集地等の試算への影響ということで、創生の中ではそこまで一応出すということで今は進めています。

それも、上流の土砂災害の話から河川に水が流れてきて、堤防を越水して氾濫する場合もありますし、こういう低平地で内水の氾濫ですね。必ずしも川があふれなくても、大雨で水がはけなくて、水につかることもあります。それからあと、高潮、高波ということで、そちらからの影響で下流低平地が浸水する場合もあります。それから、直接に水とは関係ありませんが、強風による建物への被害、日本は特に木造建築物が多いですので、そういう被害ですね。この間も風の強い災害がありました。それからあと、森林への被害ですね。強風による森林災害というのも進めております。

ということで、大事な話を一つだけさせていただきますと、日本は自然現象が非常に厳しいということで、日本の治水の計画、あるいは、これは河川、高潮堤防も含めてですけれども、一応どこまで防ぐかということで、ある閾値として設計外力というのを、国のほうではマスタープランとしてつくられています。その設計外力というのが、例えば、利根川とか江戸川でしたら、200年に一度程度の大雨で出てくる出水に対して、いろんな施設でどう対応するかということの大事な基準になるものになりますが、これが気候変動でどれぐらい上がるかというのが、まず見ていく中で大事なものと。それを見ながら適応に関することを進めていくということになります。

ここから上が避難であり、あるいは、壊れにくい堤防であり、いろんなものによって堤防が越水したとしても、設計外力を越えたとしても人的な被害、経済的な被害をできるだけ下げ、小さくするというMitigationの世界の境目になります。

これが、温暖化将来予測では、設計外力の部分が将来どこまで上がるかということが一応推測はできますけれども、かなり不確定性が高い。これは確率分布の幅だと思ってもらって、ここかもしれないし、ここかもしれないという中で、将来どう適応していくかという不確定性の中で物を考えるということが非常に大事ですし、その意味では、最大どこまで来るかと。本当にこれ以上が来ると、人が今そこで生活はもうこれ以上続けられないというような、最悪としてどこまで来るかというような見積もりというものも非常に大事になるということで、これは、3・11が起こる前から、気候変動に関してはこういう考え方が大事だろうというのでやってきています。

この三角形の図はちょっと評判が悪くて、先細りに見えると住先生に言われるのですが。我々が影響評価するときに、機構モデルはアンサンブル数、たくさんの候補値、サンプルが必要だし、モデルの精度も大事だし、それから、モデル分解能も、ある意味で大事になりますという図を描いています。その中で、創生の中で進めてきているのは、より精度の高い、今言いました設計外力がどこまで怖くなるかというものの確率的な推定と、それから、今言いました最大クラスの外力というので、台風がどこまで怖くなるか、あるいは、複合災害としてどういうところまで来るかというのをベースに、社会シナリオもできたら想定しながら進めています。ここも、先ほどからお話があるように、なかなか難しいところではありますけれども、一部こういうのも想定しながら進めたりしています。と同時に、不確定性が高い将来推測の中でどう意思決定するかというような物の考え方をつくるということもやっています。

今日は自然災害だけの話をしますが、水資源、生態系、生物多様性について、こういうことを進めてきています。

2番はさっと流しますが、こういうことをやって、土砂災害がいろんなRCPシナリオの中で浅い、いわゆる表層崩壊といわれるもの、深層崩壊といわれるもののリスクがどう高くなるかとか、あるいは、河川のモデルを使って、流域から水、降った雨が山から川へ出てきて、それが下流に流れていくという河川、あるいは、流域の流出モデル、そこにダムというものが実際は存在しますので、ダムの操作もモデルとして組み込んで、将来ダム操作が有効にならないかもしれないとか、ならなかったらどう対応していくべきか、ということも含めて、いろいろやっています。

先ほど言いました設計外力としての河川の流量です。例えば、100年確率的な年最大流量が将来どう増えるかということで、例えば、暖色系は将来増えていくと。大体一致しているのが1.2倍から1.3倍というのが増えるところと。東北についてもそのような推測をしたりしています。

あるいは、ダム操作にしても、先ほど言いました、今までのルールにないエマージェンシーな操作というのがどれぐらい必要に将来なっていくかという見積もりもしていますし、渇水に関しても、台風が強くなるというのと同時に来にくくなるというのがある中で、渇水のシビアさ、オレンジの暖色系は渇水がよりシビアになるだろうと推測している部分、それから、雪による影響というのもあるということで、こういう推測もしています。ちょっと飛ばしますが、要するに、雪、4月、5月、6月の雪解け水が、例えばこれは最上川ですが、出水してきていたのが将来なくなるということで、これは、渇水も含めて、いろいろ考えていかないといけないということです。

それから、例えば、利根川の上流のダム群が将来、少雨に対応できるかということで、今はダムがあって対応できているのですが、将来は対応できない年が出てくるというような推測。そうしたら、ダムの操作をどうしていくか。いろいろ一生懸命やっても対応できないときが出てくるとか、そういうことが出てきます。

高潮に関しても、100年確率の高潮偏差というのが、大事な東京湾、伊勢湾、大阪湾等を含めて、将来いろんなシナリオの中でどう変化していくかというようなこともやっています。

最大クラスの話をしておかないといけないのですが、これは、先ほどのスーパー台風に対応する台風が東北近辺、太平洋沖を通った場合の先ほどの推測のものになりますが、私たちが例えばどんなものをやっているかといいますと、台風は渦を巻いて動いていきますけれども、その渦を保存させた形で、ちょっと場所が左へ行った場合に、あとは手を放して、大気モデルによって、またずっと台風が動いていくわけですね。そのときに、ずれた場合の強風、あるいは、雨がある特定の流域、あるいは、まちにとって最悪になるようなものを、いろんなコースによる雨の気象モデルによる出力結果とかから推測しています。

例えば、将来、GCMで出てきた台風ですが、少し場所をずらしてやると、利根川の下流でどれぐらいの出水があるか。もともとの出力ではこれぐらいしかないですが、最悪の場合はここまで出ることもあり得る。これは今の設計外力の倍ぐらいのものが出る可能性がある。もちろん上流で土砂災害とかが起こりますので、実際は下流にはそこまでの水は出ませんが、上流で大土砂災害が起こるだろうと。

それからあと、複合災害の影響評価ということで、同じように、将来の台風をコース移動させて、これが高潮氾濫ももたらしますし、河川の氾濫ももたらす、それの経済評価ということをやっています。

例えば、伊勢湾に関して、伊勢湾台風が温暖化の大気場の条件の中で来た場合、それからさらに、コースが最悪になった場合、氾濫の面積がどれぐらい変化するかというのを推測して、それと同時に、地下鉄とかを通しての水の氾濫も含めて、いろいろ評価できるようにしています。

と同時に、これらを使って、これはリスクカーブといわれるものですが、上に行くほど起こる確率が高くて、下のほうが起こる確率が少ないですが、それによって経済被害がどれぐらい出るかというリスクカーブですね。こういう水によるリスクカーブというのがなかなか過去のデータとしていないというのが一つの難点になっていますので、こういうリスクカーブに関する情報というのを今後作っていくというのが大事な視点だと思います。後ろにはちょっと書いていないですけれども、改めてそういうふうに思っています。

と同時に、不確定性がありますので、それも不確定性を見込んだ形で評価していくやり方を、これからますますつくっていかないといけない。そういうものがありますと、家屋の被害とか、それから、事業所の被害、それから、いろんな農家への被害とか、いろんな被害の分布というのを出せるということで、先ほど言いました伊勢湾台風の将来、疑似温暖化の最大のときに関して、今、こういうところまで評価しています。

その中で、災害リスクには科学的不確実性があるということで、不確実性がある中でどういう適応を最適にしていくかというような基礎的な物の考え方も、今整理をしています。

ちょっと長くなるので飛ばしますが、あと、やってきていることは、ここに書いています適応に向けた研究、省庁との連携の拡大深化ということをずっとやってきていまして、これは2年前ですけれども、山田先生が委員長をされたときの土木学会の地球環境委員会というところで、創生とか革新とか、環境省のS-8とかRECCAとか、やっている皆さんが集まって、より広い方に適応研究を進めましょうという呼びかけをやっています。創生、RECCA。このときはRECCAですね、DIAS、それから、環境省のS-8の皆さんが集まってやっていただきました。

それから、これも土木学会の水工学委員会ですけれども、これに関しても、やはりいろんなプログラム、今はSI-CATに入っておられる方もおられますので、皆さんと一緒に適応に向けたいろんな、こんな研究もやりましょうという呼びかけを広くやっています。

それから、これは先ほど原澤さんのほうからお話がありました、ご紹介いただきました国土交通省と創生Dとの共催のシンポジウムということで、水災害、あるいは、適応を考えての治水に関するパラダイムシフトということで、関連する国交省の室長クラスの方と創生のメンバーがパネルディスカッションすると。国交省の中でも横に融合していただいて、水管理国土保全局だけではなくて、都市局の方にも参加いただいてということをやっています。これが昨年5月の終わりになります。

創生の成果について、今申し上げたことを書いていますが、適応に向けた取組としては、今言いました不確実性の高い中での意志決定手法の創出、それから、国交省や実務省庁との深い議論。革新、創生の研究会にも逆に参加いただいて、情報の共有化を図っています。その中で、国交省の答申の中で最大クラス、もともと3・11の津波の最大クラスというのがありますので、河川の氾濫、高潮の氾濫に関しても最大クラスを見込むということで、国交省のほうで進められた、その中の手引の中で、まだ温暖化の影響予測は組み込まれていませんが、例えば創生、革新とかで出た最新の技術は用いてもいいということが盛り込まれています。これで、先ほど最大クラスのものは、例えば伊勢湾台風、伊勢湾に関しては見込めますけど、全国津々浦々まだまだできませんので、これが、先ほど高藪さんからありました、d4PDFというたくさんの経路が、いろんなものがあると、全国津々浦々、この手引を使って、各事務所の方が、あるいは、自治体が見込んでいけるというような、温暖化を見込んだ推測ができていくというようなことがあります。

それから、先ほど熊野川の災害がありましたが、紀南河川国道事務所では疑似温暖化台風、伊勢湾台風の疑似温暖化の計算を私たちはしていますが、それらの情報を私たちのほうから国交省さんの事務所にお渡しして、タイムラインですね。台風がどこにいるときにどういう所作をするかというような計画に使っていただいています。

それからあと、土木学会でも、水工学委員会でも、より広い研究仲間ですね。水、それから、水の分野だけではなくて、土の分野、土木系の分野の皆さんと一緒に、適応に関する、こちらは研究ですけれども、進めていくというような取組も進めています。

河川で関連すると、適応に向けて大切なこととしては、先ほど言いました設計値を見直す。それから、最悪ケースを考える。それから、高い不確実性の中で、後悔しない意志決定が要る。それから、先ほど言いました、お見せしましたダム管理で、今非常にしんどい管理をしないといけないことがじわじわと増えています。こういうじわじわとしたしんどさというのが徐々に増えてきている中でどう対応するかということも、世紀末だけではなくて、すぐ先のことで非常に大事になってくるというので、適応に関しては、この辺が非常に大事だと思っています。

今後の重要事項としまして、引き続きトップダウン型、ボトムアップ型の両軸をベースにした適応策のアプローチを考えていくと同時に、そのための気候変動予測とかの科学的支援というのが引き続き大事になります。

それから、大事なものとして、適応策を考えていくために、その適応策をした場合にどれだけ効果があるかとか、あるいは、後悔しない形で行えているかというような、適応策の評価と後悔しない適応ということが今後は大事になってきます。その中で具体的な実行があって、ぎりぎり助かったというような事例も蓄積する必要があると思いますし、温暖化を意識する以前からの取組としての今までの治水対応とか、いろんな対応がありますけれども、それも無駄なく、新たにつくり直すというのではなくて、そういうことも無駄なく組み込むような適応と。

それから、時間継続的な影響評価というのが非常に大事になります。先ほどの高藪さんの話で、1.5℃と言ったときに、一遍は上に上がっておりてからの1.5℃か、それから、あるいは、じわっと上がって来る1.5℃かによって、適応の仕方が大きく変わります。一旦は上に上がってから来るのであれば、最後の1.5℃より手前のほうが非常にシリアスになってきます。

それから、緩和と適応の効果の時間のずれを考慮。今、Sのほうでも緩和と適応を考えた最適化というのをされていますけれども、基本的には、まだ時間のずれのところが入っていません。緩和の効果が出てくるのはその後ですね。その前に、もう既に後悔しない形で適応を始めないといけないという、そこも加味した緩和と適応の最適化ということも大事になるだろうというふうに思っています。

それから、私たちは、河川研究も含めて、アジアとか、あるいは、高潮関連では、太平洋諸国との連携というのがあります。そういうものを持続的に進めていく必要がありますし、ここはちょっと間違ったのですが、資料では、実時間での関係実務省庁との引き続いての深い連携と。実時間の連携ではなくて、ここはちょっと間が抜けていました、実時間での温暖化の影響発信ですね。

ということで、イベントアトリビューション、あるいは、条件つきのイベントアトリビューションでもいいですが、今回起こったものがやっぱり、適応を考える地元の方にとっては、これはやっぱり温暖化の影響ですよ、なんぼかありますよと言われたら、より適応について進んでいかないといけないという自発的な感覚を抱くと思います。そういう地道な努力も大事だと思います。

それから、今申し上げました、関連する実務省庁との深い連携ということも非常に大事ですし、先ほどから言っていますように、広い学問分野との連携による適応研究というものも大事になります。

青のところはつけ加えですが、昨日つけ加えたのですが、社会シナリオと関連させての適応に関する──ここはまた抜けています。防災経済学という意味になります。

私たちの防災研の中では、防災経済学というのを進めている分野の方がいて、それは創生のメンバーになっていただいているのですが、より温暖化の適応という先の時間軸の話が入ってくる防災経済学というほうにも、まだやるとは言ってもらっていませんが、そういうのをやっていく必要があるというふうに思っています。

それから、大きな適応としては、やっぱり、普段の予測能力の向上というのは、王道でありますが、非常に大事なものであります。そのための観測技術の向上ということも非常に大事になります。

ということで、補足ですが、科学的アプローチ、地域的アプローチということで、先ほど木村先生のほうからご説明がありましたが、私たちから見ると、こっちが創生で、こっちがSI-CATと思っていたのですが。とにかく両方のアプローチがあって、先ほど安岡先生からありました、ここの間の橋渡し、つながりというのをやっていくということも非常に大事です。内容的には、イメージとしてはトップダウンというのはマスタープラン的なものへの情報、あるいは、それをベースにした適応、それから、ボトムアップのほうは、ここでは市町村側、地元から見た場合の大事なものを積み上げていくというイメージで、ここでは書いています。

それから、文科省の創生、環境省のプログラム、文科省のSI-CATとありますが、ここらの融合、連携ということも非常に大事です。私たちの仲間で、それぞれに入っていないことも多いですし、SI-CATと創生のほうでは、12月に、合同の研究会というのを2日ほど実施する予定にしています。そういう融合ということも非常に大事だと、私も強調させていただきます。

それから、最後ですが、緩和策と適応策ということで、こういう絵を描いていますけれども、緩和策が効いてくるのはどの辺りで、適応策が効いてくるのはという話を考えると、時間のずれをこの絵の中に少し組み込んでいく必要があるというのと、それから、時間のずれを考えると、影響評価も世紀末の情報を使っての、ここを目指すだけではなくて、これから適応をやっていく場合は、国力のことも考えると、一挙にここを目指してできないし、将来の推測も変わってくるということを考えると、アダプティブにやると。これは国交省の答申でもこういうことが書かれていますが、こういうアダプティブな適応を考えていくとなると、この間の時間軸上の、平均値としてはこことここで、間を埋めることができるかもしれませんが、こういう最大クラス、極端現象としてはどうなるかというところも大事ですので、影響評価、気候予測としては、この間も出していただくのが非常に重要だというふうに、私たちは今、議論しています。

これは最後になります。今まで、革新とか創生のところでは気候研究のコミュニティの皆さんとタイアップさせていただいて、私たち防災減災のコミュニティが影響評価、それから、少し適応を考えるようになってきました。その中で、防災減災コミュニティのところではハザードの将来変化や社会影響の科学的根拠をつくっていくと。それから、計画論も含めた適応策の基本的な考え方の創出と。それから、適応策の評価、後悔しないためにも、というような。それから、温暖化を考慮した防災経済学というようなものをつくっていかないといけない。と同時に、実務省庁とのタイアップというのは非常に大事になりますし、実務省庁自身も、研究としていろんなプロトタイプのものが出た後、実務省庁で、多くの評価をよりこちらでもやっていただくというような連携も大事になります。今まで文科省のベースとして、ここをやって、ずっと進めさせていただいてきていますが、そこから先のよりたくさんの情報創出という意味では、実務機関のほうもいろいろな影響評価を、あるいはしていくというのが非常に大事になるというふうに考えています。

ということで、ちょっと細かくなりますが、治水などの国のマスタープランの考え方の大幅な見直し、これは国交省が言っているわけではない。私が言っているということで、こういう話はさせていただいています。

それから、不確定な外力の扱い方の創出と。それから、全国一律に気候変動影響の最大クラスについて、できるようにしていくと。科学的不確実性の中でどのように適応を意思決定するかの手法の構築と。それから、緩和と適応を考える場合、時間差を明確にしていくことが大事であるし、それから、ハザード適応の、後悔しない適応を考えるという意味では、21世紀以降のハザードとしてのラフな見込みというものも非常に大事だと。これは、前回申し上げたものになります。それから、これも前回申し上げたものですが、国民が適応の必要性を実感するための取組の促進ということで、今回、ハザードは7割ぐらい温暖化のせいかなとかということが、これもリアルタイムで出せるというようなことが大事になります。

当然ですが、国力を意識した上での適応というのを考えていかないといけないということで、ここも少し発信していく必要があるのかなというふうに思っています。

それから、適応、適応と言っていますが、選択肢としては適応しないという選択もあります。ということで、適応しないというものと適応すべきものの整理ということもベースとして考えていかないといけないというふうに思っています。

たくさん時間をいただきまして、ありがとうございました。今、これは創生の中で、気候のグループの皆さんと、それから、防災の皆さん、一緒に研究会も含めて活動させていただいています。

以上でございます。長い時間をいただきましてありがとうございました。

住委員長

ありがとうございました。では、何かご質問、コメント等はございますか。

高橋委員

ありがとうございます。

1点、質問がございます。先ほどまでとも関連する質問になるのですが、創生プログラムの中で、特に、気候予測情報については下流に影響評価を実施するユーザーがいることが見えていますので、創生の中だけで使われるのではなくて、プログラム終了後もレガシーとして、継続して他目的でも使用できる形で整備が進んでいくと思います。一方で、影響評価の結果についても、将来的に適応策の検討を追加で実施したり、市民や行政とコミュニケーションしたりする際にうまく再利用できるようにデータを適切に保存、管理していかなければいけないと思います。そこで質問なのですが、創生の中では、影響研究のデータについて、今後どうアーカイブし、配信していくのかということについて、具体的な検討が始まっていたりしますか。

中北委員

幹事連の中では話はしています。今、実際にデータを、国交省さんに出したりとかというのは、個別に今は出している段階ですので、これからですね、まだ。その辺は環境省のプラットフォームとかも参考にさせていただきながらやりたいと思います。基本的にはどんどん使っていただかないといけないと思っていますので、大事なところをコメントとしていただきたいと思います。

高村委員

ご報告どうもありがとうございました。

先生がご指摘になっている、例えば最大クラスハザードの推定ですとか、後悔しない適応とか、影響予測、影響評価だけでない適応計画、適応策についても、すごく重要なご指摘をいただいていると思っております。

一つ、クラリフィケーションの質問にすぎないですが、幅広い学問分野の適応研究の推進というのはとても大事だと思っていまして、特に、先生は今回、防災経済学をご指摘になったのですけれども、具体的にはどういう形、どういう研究を想定されているでしょうか。

中北委員

僕はそこの専門家ではないですけれども、例えば、うちでやられているのは大規模水害対応で、その中の対応の最適解をどう見積もるとか、そういうところを数学ベースに構築されているグループがあります。単なる大規模水害だけだと、先ほど言いました時間軸の話が必ずしも十分ではないかもしれない。今そこをやっている人がいたら、やっているよと怒られるかもしれませんが、十分ではないかもしれないということで、温暖化のことを考えると、その学問の中に時間軸をちゃんと入れるのが大事というので、今ちょっと言わせていただきました。基本的には、経済的なリスクをどう評価して、それをベースにどう適応、対応の最適解をつくるかという基礎の部分の経済ということですね。

あと、その関連で大事なことを忘れていましたが、これは住先生も言われていたことだと思うのですが、緩和に関してはすごい経済モデルというか、経済評価というのがもう90年代からずっと来て、すごい学問分野として体系化されていますけれども、適応に関してはそういうのがないというのはもともと意識していまして、今回のものは、その中の防災の視点というものになります。だから、本来そういう大体系があって、緩和に関する今までの経済的な体系と合致していくのが、本来の緩和と適応の融合ということになるかもしれません。それは、私だけでは全然できないイメージのものでございますが。

すみません、いただいた質問にいっぱい答え過ぎました。

増井委員

どうもご説明ありがとうございました。

先生の説明の中でも社会経済シナリオという話がありましたけれども、具体的にどういった項目、あるいは、どのような程度のレゾリューションというのが必要になってくるのか、ちょっと教えていただけないでしょうか。

中北委員

それは分野によります。基本的には、私たちは各市町村さんとかが使われた人口推移の将来モデルとか、そういうものを取り込ませていただいて、やっているところになります。レゾリューションに関しては難しいですね。そこまでちゃんとまだ議論はできていません。それは防災、自然災害の中だけではなくて、水資源、それから、生物の多様性の話によって、分解能は違うという認識はすごく今はあります。

山田委員

中北先生が、私が研究している水分野をほとんど網羅して丁寧に説明していただいたので、私も同じ分野ですので、ほぼ同じことを考えていますので、ちょっとだけ屋上屋を重ねるコメントですが、今後の防災、減災なんというのを言い出すと、実は防災、減災だけの話ではなくて、東海、東南海、南海地震に備えるハードの強化とか、あるいは、消滅集落をどの程度まで守らなきゃいけないのか、コンパクトシティにしてもらう、どこかへまとまってもらうとか、老人大都市とか、つまり、年寄りばかりの大都市になってしまったりして、どういう人口分布がいいんだとか、それから、食料の安全保障と農地をどのぐらい守らなきゃいけないのかとか、それやこれや、つまり、土木的分野だけの問題を越えちゃって、非常に大きな、つまり、国家政策レベルの議論をしないとなかなかまとまらないところがいっぱい出てきていると。誰がどう仕切ってくれるのかなと。結局、この委員会から出てくるのか、いや、あまりそんなに話を大きくしちゃったらもうどうしようもないので、もうちょっとまとまって、ある範囲内だけで考えようとしちゃうと二度手間の答申になってしまうとか、同じことをやるのに、地震対策と洪水対策がダブって投資しちゃうとか、その辺の仕切りみたいなものが非常に悩ましいなと感じていることがあります。

住委員長

そのほか、よろしいですか。

どうもありがとうございました。4先生方のプレゼン、どうもありがとうございました。総体的によくやっているというような話になっていまして、あとは、研究費さえくれれば万々歳というようなトーンになっていたような気がするのですが、これからどうするかというような点を、少し考えたほうがいいと思っています。明らかに適応が必要なのは誰でもわかっているし、それに関する研究開発が必要だということも、やらなくていいと言う人はいないと思います。ただ、予算がないと言うかもしれないし、そうすると、どういう枠組みでやっていくかが重要になってきます。

例えば、防災なんかですと、内閣府に委員会が作られて、政府全体で見ているという建前にはなっています。環境の仕事も各省庁にわたっていますので、こういう適応事業などでも、省庁間の局長クラスの委員会を作ったとしても、具体的にどのような仕掛けというか、仕組み作りで進めていくかということが重要になってきます。

例えば、最近は知らないけど、昔の地震予知の場合は、地震予知計画を文部省の委員会が出して、それに基づいて、各3省庁が概算要求をして地震予知を展開したという形になっています。だから、例えば適応計画でも、中環審のどこでもいいですけど、全体の、例えばそういう適応計画をプランニングして、それに基づいて各省庁がそれぞれ自分の所掌のところを概算要求してやっていくというような、そういう仕組みでやっていくのが良いのか、そういう全体の仕組みは考えていくことが大事だろうと思います。

それから、今日は情報提供側の人の発表ですから、これは使ってもらうべきだという話が多かったと思います。使えないものを出していても、使ってもらうべきだと言っているのかもしれないので、次回は使う側の人が来られますので、やっぱりそこをよく聞いたほうがいいと思います。

防災はみんな経験もあるのでわかりやすく、今までの蓄積があるからいいですけど、例えば、ほかの分野をどうしろというのか、適応策で何をしろというのか、どんな適応策があるのかというのが、なかなか示せないのですね。だから、現在の、例えば温度の昇温の県単位の図というものを見たら、一色みたいな図で、何も情報がないみたいな感じがします。それは、時間スケールの話があったのですが、長い時間スケールでの影響が問題になります。災害は自分の身にすぐかかってくるから、わかりやすく、みんな納得するのだけれども、50年後、100年後の影響に関する適応策とは何かというようなところの部分を具体的に考えないといけないと思います。自治体の政策は、毎年毎年ある課題をやっていかなければならないものなので、そういうところのサポートがまだ要るのではないかという感じがしております。

あと、モニタリングの話が原澤委員のほうからありましたが、一括計上みたいなものをもうちょっと強化したほうがいいのではないか、と思います。ただ、モニタリングの場合でも、気象庁なんかは当然もうやっているわけですから、業務でやっているところは、それはもうやらなくてもいいというふうに多分なるでしょうし、やっていない部分で大事なものをやるとかメリハリを付けて、ただ何でも予算が欲しいというだけでは議論が深まっていかないのではないかと思っています。

あと、データセットの話も出たのですが、話が抽象的になっています。こういうのは、基本的に抽象的でアバウトな報告書が出て、それで終わりというのではなくて、具体的な提案を出してゆくべきと思います。実際の現場レベルで考えれば、もっと具体性のある仕事と、何らかの意味でプライベートセクターが入って来られるような仕掛けをつくらないといけないと思っています。結局、今の皆さんのパターンは公共事業型、税金を使って頑張っていきましょうとなっています。それは税金のほうが取りやすいですから楽ですけど、やっぱり民間資本を、今の流れの中では、そういう民間事業者等が入ってきて、お金がそこでサステイナブルに回っていって、いろんなものが維持されていくような仕掛けをどう考えるかというような視点は大事だと思っています。

その辺は、これからいろんな意見を聞いた中で、どういうふうにまとめていくかというところにあろうかと思いますし、中間取りまとめの中でどういうことを言うかということにかかってくると思っています。

そういう点で、さっきのサンゴの例がありましたけれども、一般の国民が海に潜って、見た人が自由にデータを送ってくれると、生態系はそういう取組ができるし、そうでもしないと情報が集まらないのです。そういう点ではもっとボランティアというか、そういう人を巻き込むような、例えば影響の把握みたいなところはもっと広く、今はフェイスブックとか、いろんな媒体があるわけですから、情報が広く集まります。一方で、ガセネタなどの情報をどうフィルターするかなど、ノウハウを確立していく必要もあります。何かちょっと違うような視点が要るような気がしております。

あと、現実の温暖化の情報をあまり我々は知らないのではないかという懸念があって、いろんな情報を知っていく部分を強化したほうがいいのではないかと思います。この間、ある町の町長が来て、最近は温暖化がすごいと言うわけですよ。牧畜をやっている人なのですが、牧草で変な雑草が生えて困ると言うわけです。そういう方はいろいろなところで見ていたりするわけです。いろんなところでいろんな温暖化影響の話があるのだけれども、なかなか我々のところに入ってこないので、やっぱり小まめにそういう情報を集めて、みんなに返すみたいなことを、制度的にやるような部分が僕は要るのではないかと思います。

あと、木村委員が言ったようなアセスメント法案の中に、ある意味では、環境省的に言いますと、やっぱり規制をかけるということがあると思います。要するに、国家権力をバックにしながら、規制をかけるというのが、やっぱり行政としてはやりやすいと思います。例えば適応計画なんかでも、何らかの意味で、こんなところに家をつくってはだめだというような、そのような仕掛けに行くのか行かないのかというのは、多分、これからの非常に大きな問題になります。例えば、山の中での地震の復興に際して、高齢者ばかりの村だから、そんなところに住まないで、移転して来て新しい村を作った方が良いという方もいる。それを、公権力的にそういうことが言えるかとか、さまざまなそういう問題が、特に防災なんかの場合では、やっぱりあるのですね。先ほど山田委員が言われたように、まちづくりの観点で、もうここは危ないからちょっとどいて、こっちへ来いというようなことです。その辺の話は多分大きな、いわゆる戦後の財産権の問題とか、難しい課題が多くあると思います。

多分まだ後から出てくると思いますが、そういう点で、やっぱり地域開発みたいな要素を入れたようなことを考えざるを得ないので、その辺もどうするかというのが、今後の課題のような気がしております。僕の印象です。

そのほか、全体を聞いて何かご意見がございましたら。まだ時間がありますので。

木村委員

今、住委員長からアセスの話があったのですけれども、アセスのときに、東京都なんかだと、大きな案件の場合だと、野鳥の会みたいな人が、野生動物や何かも徹底的に調べています。希少生物も調べているのだけれども、そういった情報はアセスの報告書に載るだけで、蓄積にはなっていないように思うのです。そういうところをある程度、各自治体なんかでそういう調査、直接ではないでしょうけれども、そういう自治体の制度上で調査しているようなものについては全部1カ所に集めるとか、そういうことも必要ではないかというふうに、今の住委員長の話から感じました。

住委員長

非常に極端な意見を言えば、やっぱり、適応というのは国家的事業だから、各省庁から関係部分をはがして、新しい組織を作って積極的にやるべきだと簡単に言う意見がありますが、そういうのは非常に世間受けしていいですけど、ほとんど実行できないのが普通です。ポイントは、今のままの仕組み、行政体系のままで、予算さえつければできると考えるのか、それとも、もう少しいろいろ仕組み作りも変えたほうがいいのかということで、今後考えるべき課題になります。役所の建て前的に言うと、あらゆる問題に対して現在の組織体制で対応できているはずで、できていない問題ができれば、それは新しい組織を作って対応すればいいという、そういうふうになるのだろうと思うのですが、多分、そういう制度設計の問題は非常に大きな時間がかかるのと、あとはファンディングの問題等があると思っています。

鬼頭委員

予算の仕組みの問題ですけれども、ある省庁の予算をほかの省庁では基本的に使えない仕組みだと思いますが、例えば、環境省の推進費のほうでは移し替えという形を使って他省庁の研究者でも使えるような仕組みをつくってくださっていて、オールジャパンで研究を遂行する上で非常にいい仕組みになっていると思います。他省庁のいろんなプロジェクトでも、同じような仕組みでオールジャパンでできるようなことにするのがいいのではないかというふうに感じております。

住委員長

原理的に、ほかの役所でも移し替えをすれば使えることは使えるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

竹本気候変動適応室長

環境研究総合推進費、あるいは、一括計上の予算は、法律に基づいて環境省が計上して、主として地球環境保全の研究の中でも、長期的な観測に関わる各省庁の行政機関が実施する観測に関する調査研究に対しては、ずっと長年、環境省の予算で実施してきておりますので、ほかのいわゆる一般の事業費でも、そこは事前にしっかりと設計しておけば可能だというふうには認識しております。

住委員長、

事業費でも、委託とか何かで対応すればいいのだろうけど。

鎌形地球環境局長

補足ですが、予算の執行については、いろいろなやり方があると思っています。

今日、全体的にお聞きしていて思ったのは、研究コミュニティの中ではさまざまな角度からさまざまなことをやっておられるのですけれども、結局、研究コミュニティの中での連携の意識というのが、実は、役所間の連携の意識よりものすごく高いなということを感じました。そういう意味で、いろんなご懸念というか、自分たちのやっていることが全体の中でどうなるのだろうか、あちらの研究とどう結びつくのだろうかと、すごく意識されていて、一緒に会合なりを持っていただきながら進めているということがあって、非常にそこはすばらしいと思いました。

逆に言うと、行政、役所間のことで言うと、委員長にも言っていただいたように、局長級の関係省庁の連絡会議は作っていますが、実際にどういう情報が必要で、そのためにどういう研究が要るのかというのを全体的に各省庁間で、行政のニーズとしてどうなのかということをしっかりと固めていかなければならないということだと思います。そういうものがしっかりと固まれば、ある程度の役割分担というのができるので、基本はそれぞれの役所で予算を確保してやっていけばいい話だと思います。ただ、実際にやっていく場面の中で融通が利かない部分や、もうちょっと柔軟性を持たせた方がいい部分というのがどうしても必要になるでしょうから、ご提案のようなものもどういうふうに組み込んでいくかということは検討していく必要があるものと思います。

それと、あともう一つ、今の論点と少し違いますが、いわゆるモニタリングということに関しても、今まで気象庁さんがやられている、まさに気温とか降水量とか、そういうベーシックなものは通常のお仕事としてやられていますけれども、研究ベースでいろんなものをモニタリングされているということが結構あると思います。それらが、研究期間の5年が終わると、また手を変え、品を変えで、研究を作っていかなければそれが続けられない、こういうお話がありました。

やはりモニタリングというのは、気象庁さんがやっておられるようなベーシックなもの以外に、農業でどんな影響が出ているのかとか、生物でどういう影響が出ているのか、今どちらかというと研究ベースでやられているようなことを継続的にやっていかなければならないものと思います。そういう意味では、モニタリングを一つの役所の仕事として位置づけて、それをどこがやるかというのはまたいろんな議論がございますけれども、そういう中で予算が経常的に確保できていくという仕組みが必要なのかなというふうには感じたところであります。

ちょっと今の議論の中に沿った話になっているかどうかはわかりませんが、今日、全体をお聞きして、私の感じたことを申し上げました。

住委員長

モニタリングを研究ベースでやると、非常に都合が悪い事態が最近は増えています。研究はちゃんとした成果が出なきゃだめだ、成果は論文で測るというロジックがあって、論文が出ないようなものは研究ではない、やめろというプレッシャーが非常に強いのです。ところが、いわゆる研究観測でも、1回やってすぐに成果が出るようなものと、蓄積しなければ成果が出ないものがあるのです。

現在の、昨今の流行に近い、イノベーションに近い、すぐ効果が出るような、できれば大きな金が儲かるようなというセンスで進めていくと、地球環境に関するようなモニタリングとか、そういう研究自体が、片隅に追いやられるとは言いませんけど、結果的にそうなってくる傾向が非常に強いのです。環境研も含めまして、そういうことに従事している人はやっぱり不満があるのですね。

それは、考えている現象の時間スケールが違うのだから、そういうことぐらいは考えてやってほしいと思うのです。分速秒歩で進んでいるような、IT技術のそういう開発をやっているような分野と、何十億年の地球の歴史を見るようなそういう環境とは、ちょっと違うよねというのは理由のあることなので、地球環境に関するモニタリングみたいなものは別扱いとは言いませんけど、別の配慮が必要ということを強調して、環境省に声高に訴えていただきたいと思っています。各省庁それぞれ持ち分があるとしても、それは僕は大事なことのように思います。

何か最後に言いたいことはありますか。木本委員、よろしいですか。

木本委員

個人的な感想ですが、緻密な研究というのは当然要ると思うんですね。今日も緻密な話が幾つかありましたが、幾つかの質問であったとおり、適応策とか切羽詰まった問題のときに、国民の皆さんはすぐ答えを求めたりするわけですね。温暖化は不確実性が大きい分野でありますから、緻密な研究者の方に国民の方がご質問されると、必ずむつかしい話が何十分も続いて、聞いている方は何を言っているのだかがわからなくなって、これがなかなか国民の皆さんとのコミュニケーションが進まなくて、適応策が思ったように進まない理由の一つではないのかなと。

研究論文をきちっと書くのを仕事としている研究者に、緻密な言い方はやめろと、それは無理なことです。いいかげんなことを言う職業ではないわけですから。そうなりますと、やはり、前からいろんなところで何回も言っていますが、この適応策を進めるということを、あるいは、国民の皆さんがわかるように即答するということが大事だと思います。言ったことがひょっとしたら間違っているかもしれない、それも不確実性の一部ですから、あえて腹をくくって言うというのを仕事にしている人がいないと、僕は、この事業はなかなか思ったように進まないのではないかと思います。普通役所の会議では仕組みがどうとかという言い方をするのでしょうけれども、端的に言いますと、研究はもちろん必要でやってもらわなくちゃ困るけれど、ちょっとそれとは違う、対策を進めることが仕事である人を置いて進めるようなこともお考えになってはどうか。もちろん環境省は、俺たちこそが適応策を進めることを一生をかけた仕事だと思っていらっしゃると思いますが、役所の人にはほかにもいろいろ仕事があるし、専門の知識も要ります。直接国民の皆さんにお答えするのが役所の方のお仕事ではないと思います。この問題にはそういう面があるのかなというふうにいつもながら思いました。

議長の隣に座っちゃったから。お時間とってすみませんでした。ただの感想です。

山田委員

いろんな研究者の方から、いろんなデータベースがここにある、それから、あれはあると、いろいろ教えていただいて、多分、私よりももっと若い世代の人たちはそれをどんどん使うのでしょうけど。

10年以上前ですか。私はアメリカの環境省、EPAですかね、に行ってみて、おもしろいものを見せてくれて、サーフ・ユア・ウオーターシェードというページがあって、自分が住んでいるところのいろんな情報は、ともかくここに入ってくれと。ここから入ると、大抵のことはデータが見られますと。EPAが持っていないデータはリンクを張っていてここに行けるという、非常に丁寧なものを持っていて、研究レベルでも私はそれを随分利用させてもらったことがあります。おもしろい言い方で、サーフ・ユア・ウオーターシェードと言うのですが、ウオーターシェードというのは流域という意味ですが、そこをサーフィンしましょうと。これは国民向けでもあったし、プロ向き、専門家向きのものを持っていて、とにかくそこに入れば、どんどん行けば、大抵のデータにはぶち当たるというのを持っていましたので、何かしら、こちらの日本の環境省さんもあるかもしれないけど、私はよく知らないので、こういうことも一つありだなとは思っているんです。

住委員長

どうもありがとうございました。そろそろ時間になりましたので、これで竹本室長のほうにお渡しします。

竹本気候変動適応室長

本日はありがとうございました。

次回の小委員会でございますけれども、引き続き、ほかの分野の専門の学識経験者からヒアリングを行わせていただきます。また、地域で適応の取組を進めていく上で、当事者である地方公共団体の声を聞くことが極めて重要ですので、先進的な取組を進めている地方公共団体からもヒアリングさせていただきたいと思っております。

本日は活発なご意見、ご議論をありがとうございました。本日いただいたご意見や次回のヒアリングの内容を踏まえて、中間取りまとめに向けた論点の整理を行っていきたいと思います。また、議事録につきましては、委員の皆様にご確認いただきました後、環境省のホームページに掲載させていただきます。よろしくお願い申し上げます。

次回の小委員会は、既にご案内のとおり、12月5日(月)、9時から12時を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

住委員長

それでは、終わりにします。どうもご苦労さまでした。

午前11時55分 閉会