中央環境審議会 環境保健部会 石綿健康被害判定小委員会・審査分科会合同会議(第6回) 議事録

日時 

  平成30年11月7日(水)13:30~15:30  

場所 

  中央合同庁舎第5号館22階 環境省第1会議室

議題 

 (1)医学的判定の状況等について

 (2)医学的解析調査の状況等について

 (3)中皮腫登録事業の状況等について

 (4)事例検討について(非公開)

議事録

岩﨑室長 それでは、定刻となりましたので、第6回中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害判定小委員会・審査分科会合同会議を開催いたします。

 本日は、委員及び臨時委員の先生方3名と、専門委員の先生方19名、あわせて22名の先生方にご出席をいただいております。

 また、オブザーバーとして、環境再生保全機構の石綿健康被害救済部の方々にもご出席をいただいております。

 本日のご出席者の紹介につきましては、お手元にございます座席表をもってかえさせていただきます。

 それでは、開催に当たりまして、部長の梅田より一言ご挨拶申し上げます。

梅田部長 環境保健部長の梅田でございます。本日は大変お忙しいところ、第6回石綿健康被害判定小委員会・審査分科会合同会議にご出席を賜りまして、まことにありがとうございます。また、委員の先生方におかれましては、日ごろより石綿健康被害救済制度の運営、とりわけ医学的判定に関しまして格別のご理解、ご協力を賜りまして、厚く御礼申し上げます。

 判定小委員会及び審査分科会では、平成18年3月の石綿健康被害救済制度の創設以来、平成29年度末までで1万2,000件を超える申請について医学的な判定をいただいております。申請件数は年々増加している傾向にございます。委員の先生方には、判定業務のために、会議の場だけではなくて、事前の準備等でも大変多くのお時間を頂戴しているというところでございます。お忙しい先生の皆様にご負担をおかけすることにつきまして、大変恐縮ではございますが、この救済制度、今後も安定的かつ着実に運営していく上で、判定小委員会及び審査分科会が担う役割は欠くことができない、極めて重要なものでございますので、引き続きご理解、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

 本日の合同会議は、判定小委員会と審査分科会の委員の先生方が一堂に会し、救済制度をめぐる最新の情報について共有し、また医学的判定のあり方について意見交換をいただく場でございます。限られた時間ではございますが、委員の先生方には石綿健康被害救済制度の安定的かつ着実な運営のために、忌憚のないご意見を賜りますようお願い申し上げたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

岩﨑室長 カメラ撮りにつきましては、ここまでとさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

 以降の進行につきましては、判定小委員会の岸本委員長にお願いしたいと思いますが、議事録の作成の関係上、本日、ご発言の際には、冒頭にお名前をおっしゃってからご発言いただきますようよろしくお願いいたします。

 それでは、岸本委員長、どうぞよろしくお願いいたします。

岸本委員長 はい。先生方、よろしくお願いします。

 それではまず事務局から、配付資料の確認をお願いします。

團医療専門官 医療専門官の團でございます。

 では、初めに資料の確認をさせていただきます。資料1から資料5までございます。資料1、中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害判定小委員会委員名簿。資料2、石綿健康被害判定小委員会の開催状況等について。資料3、平成30年度予算について。資料4、医学的所見の解析調査について。資料5、平成29年度中皮腫登録事業の登録状況等についてです。

 不足がございましたら事務局までお申しつけください。よろしいでしょうか。ありがとうございます。

岸本委員長 先生方、よろしいですね。

團医療専門官 團でございます。

 まず議題1についてご説明いたします。

 資料2をご参照ください。石綿健康被害判定小委員会の開催状況等についてでございます。

 1、綿健康被害判定小委員会及び審査分科会の開催状況については、平成30年3月末までに、判定小委員会は163回、審査分科会は300回、石綿肺等審査分科会は78回開催しております。

 2、平成29年度における医学的判定の状況等は、(1)が認定疾病と判定するもの、(2)が認定疾病でないと判定するものとなっています。

 (1)の認定疾病と判定された件数について、平成29年度は中皮腫が769件、肺がんが136件、石綿肺が7件、びまん性胸膜肥厚が18件、合計で930件認定されております。これまでの累計は9,441件となっております。

 次に、(2)の認定疾病でないと判定された件数は、中皮腫は60件、肺がん54件、石綿肺が42件、びまん性胸膜肥厚が24件、合計180件となっております。

 平成29年度の判定件数、(1)と(2)の合計が1,110件となっております。この件数が、平成29年度にご審議をいただいた合計の件数になっております。

 なお、資料2の件数につきましては、判定小委員会で判定した件数であり、環境再生保全機構の受付認定状況とは異なります。

 それでは、資料3、平成30年度予算についてご覧ください。

 こちらは、当石綿室の平成30年度の予算の項目です。

 1、医学的所見の解析調査・診断支援等事業については約3,500万5,000円。2、中皮腫登録事業については約997万7,000円、3、石綿繊維計測体制整備事業については約1,256万6,000円、4、動向調査については約536万1,000円。5、石綿ばく露者の健康管理に係る試行調査については約2億3,233万9,000円、6、石綿健康被害対策室関係経費は約1,803万1,000円、7、石綿健康被害救済事業交付金は約3億9,923万3,000円となっております。このように、今後とも石綿健康被害対策について引き続き取り組んでいきたいと考えております。

 次に、議題2の、医学的所見の解析調査の状況等についてです。

 資料4をごらんください。

 平成29年度に行われた医学的解析調査は、肉腫型中皮腫に関する調査編、新たな免疫染色抗体を用いた中皮腫診断法の開発に関する調査編と、石綿関連肺がんの病理学的鑑別法に関する調査編の3件でございます。後ほど肉腫型中皮腫に関する調査編と、新たな免疫染色抗体を用いた中皮腫診断法の開発に関する調査編を、スライドを用いてご発表していただきます。

 次に、議題3の、中皮腫登録事業の登録状況等についてです。

 資料5をごらんください。

 1は、平成29年度に新規に登録されました中皮腫部位別・性別・年齢階層別集計となっております。2は、平成25年度から平成29年度の中皮腫部位別・性別・年齢階層別の累計になります。めくったところでございます。

 平成25年度から平成29年度の累計としましては、2,037名の方に同意をいただき、平成29年度につきましては531名の方に同意をいただいております。3から10につきましてはご参照ください。

 簡単ではございますが、事務局からの報告事項は以上になります。

岸本委員長 どなたかご質問等ございませんか。よろしいですか。

 それでは、調査研究の報告ということで、そこにパワーポイントのハンドアウトがありますが、石川雄一先生にかわりまして、中島先生に肉腫型中皮腫に関する調査編について、約15分ぐらいお話をいただきたいと思います。

中島代理 よろしくお願いします。がん研究所の病理部で研究生をしております中島と申します。私は東京医科歯科大学の呼吸器外科の医員で、病理医ではないので至らぬ点もあると思いますが、ご了承ください。

 肉腫型中皮腫と、今回は血管肉腫の鑑別について、研究を行いました。総論としては、肉腫様の中皮腫の診断でkeratinという免疫染色がかなり病理の診断において重要な、陽性というのがファクターになっていきます。肉腫様の中皮腫と真の肉腫というものに関しては、形態的には見分けるのが難しいものがあります。そのときに、真の肉腫において一般的にはkeratinというものは発現しない、陰性ですので、病理学的に肉腫様の成分、spindleでstoriform patternを持ったものが胸腔内のびまん性に発生する腫瘍から、keratinが陽性であれば中皮腫であろうと。あとは、もちろん中皮マーカーというものが陽性であることが、まずは診断のクルーになると思うんです。Conventionalにはそういった方法をとっていると思いますが、真の肉腫において5%未満ですけれども、一部keratinを発現するものがあります。synovial (sarcoma)などが有名ですけれども、血管肉腫という肉腫の一つの形態のものもkeratinの陽性率が35%、これは軟部腫瘍に発生する肉腫のkeratin陽性率を示していますけれども、3割強がkeratinを発現してしまうという報告があって、そうするとkeratinだけでは中皮腫と真の肉腫の鑑別が難しい。もちろん真の肉腫と中皮腫の治療方針だとか、予後等も、予後はどちらも悪いんですけれども、治療方針が異なってくるので、臨床的にもすごく問題であると。

 そこで問題になるのが、中皮腫において血管系のマーカー、血管肉腫に特異度の高い、この右の下のほうに書いてあるマーカーなんですけれども、血管肉腫に特異度の高い血管系マーカーと呼ばれるものがどれぐらい染まるか、むしろ染まらなければ、それが陰性であれば中皮腫であると言えますので、どれぐらい染まるのか。逆に言うと、血管肉腫に中皮マーカーがどれぐらい染まるのかというのは、これまで余り報告がありません。なので、それに関して調査を行いました。

 がん研究所の症例、コンサルト症例も含めて55例で、内訳は上皮様中皮腫が29例で、biphasic13例、肉腫様中皮腫も13例ということで、上皮様中皮腫も含めて検討を行っています。biphasicに関しては、肉腫様の成分と上皮様の成分のそれぞれをHスコア、全体の、主要のブロック一つを特定するんですけれども、その中で免疫染色がどれぐらい染まっているか、面積みたいなものですね。それと、どれぐらいの強さで染まっているかというのをかけ合わせて、スコアをつけて、陽性率を判定しました。免疫染色の方法としては、中皮腫マーカーは主にcalretininとWT-1と、EMA-mというのは、基本的には膜に陽性なものしかとらないEMAで、上皮様の中皮腫で特異度が高いといわれている特徴です。あとは、血管系のマーカーとしては、CD31、CD34、ERG、FactorⅧが有名なものだと思うんですけれども、今回、Claudin-5を検討に含めました。claudin familyという接着因子といわれるものの一つで、血管肉腫にはかなり感度の高いものを加えて検討を行いました。

 こちら、お示ししているのが、中皮腫における血管内皮マーカーの陽性率です。薄いバーが上皮様で、左から上皮様で、その次がbiphasicの上皮様成分のみで、左から三つ目がbiphasicの肉腫様成分のみ、一番右が肉腫様中皮腫をH-Scoreで判定して、このパーセンテージはH-Scoreが5以上のものを陽性ととったときに陽性であったものの比率を示しています。

 問題になるというか、一番おそれていた、中皮腫に血管マーカーが実は一部染まってしまう。特にERGという核に陽性になるものというのは、かなり特異度が高いというふうに考えがちなものが、実は特に肉腫様の中皮腫と、biphasicの肉腫様の成分に3割、4割近く染まってしまっていたということで、血管系のマーカーが陽性であっても、血管肉腫とは言えないという警鐘を鳴らせる報告ができるのじゃないかなと思います。

 今回、新たに加えたclaudin-5という免疫染色に関しては、中皮腫全ての症例において、一つも発現が見られなかったので、陰性マーカーとして有用ではないかという結果が得られました。こちらは逆に血管肉腫でclaudin-5というものがどれぐらい発現するかというもの、claudin-5の感度と特異度を示しているんですけれども、血管系のマーカーはもちろん血管肉腫で、CD-31、CD-34、ERG、FactorⅧは98、83、100、ちょっとFactorⅧは染まりが悪かったんですけど、かなり高感度で、同様にclaudin-5に関しては全例発現が見られましたので、感度、特異度がかなり高いものになります。残りのものも先ほどお示ししたものになるんですけれども、血管肉腫に対して、CD-31とかERGに関しては、少しangiosarcomaの感度は低いというようになります。

 血管肉腫における中皮マーカーの陽性率は、これまで考えられてきたように、calretinin、WT-1、EMAの膜陽性に関してはほぼ発現しませんでした。D2-40はもちろん血管系のマーカーの一つですので、こちらはもう全然使えないということで、逆に言うとcalretinin、WT-1が発現していれば、かなり中皮腫であることを示唆する所見であることは、これまでと変わりないということです。

 最後は、血管系のマーカーが陽性であるものだけを、先ほど、40%ぐらいありますよというふうにお示ししたのですけれども、これ、左側の赤いバーが血管肉腫で、H-Scoreが、要はどれぐらい高感度というか強く染まっているかというのを示しているんですけれども、血管肉腫では、やっぱり血管系のマーカーはかなりびまん性に強く発現していますけれども、中皮腫では発現していても半分ぐらいしか染まらなかったり、多く染まっていても染まりが薄かったりということがありますので、胸腔内の腫瘍を診断するときに、血管系のマーカー、血管肉腫との鑑別を考えた際に、どのマーカーも薄い場合は血管肉腫ではないのではないかというふうなクルーというか、疑念を持って診断をしていくのが大事かなということも示唆できるかなと思います。

 以上になります。

岸本委員長 ありがとうございました。それじゃあ、せっかく中島先生にご発表いただきましたので、ここで質疑応答したいと思います。先生方、発言があるときはご所属とお名前をぜひ言ってからお願いしたいと思います。いかがでしょうか。どうぞ、清川先生。

・清川委員 病理医じゃないとのことですが、これだけの数を一度に見られたのであれば、一般の病理医である私よりはたくさんの症例をごらんになっていると思いますので教えてください。血管肉腫というのは、形態的に、全く免疫染色をしなかった場合に、それほどsarcomatoid mesotheliomaやbiphasic mesotheliomaと似ているものなんでしょうか。形態的に、鑑別しなければならないと考えさせるクルーを教えてください。

中島代理 ご質問ありがとうございます。血管肉腫で形態学的に、もちろん血管肉腫に特有の血管系の、ちょっとごめんなさい、専門的な説明ができないのですが、うにょうにょしたような、そういったものが出ればもちろん血管腫に準じたというか、そういったものが血管肉腫の中で発現しているものがもちろんありますので、それがあるようなものはもう明らかに形態学的に中皮腫ではないと言い切って、個人的にもいいのかなと思っているんですけど、血管肉腫もがん研究所の症例で全部見せていただくと、遜色がないというか、本当にspindleで、storiformで、肉腫様の中皮腫と鑑別がつかないようなものもあります。

 その割合を出そうと思っていたんですけど、50例見たところ、heterogeneityがあるので、どっちがどうとは言えないんですけれども、肉腫様の中皮腫と言えるというか、肉腫様中皮腫とも言えなくはないというか、すごく肉腫っぽい、血管腫様の病変ではない部分を持っている血管肉腫は、少なくとも半分以上は、僕は経験しました。ただ、実際は大きく採取されていれば、一部血管腫瘍の部分があるので、もうやはり血管肉腫と簡単に、簡単にというか、診断はできると思うんですけど、特に肉腫様の中皮腫であれば手術もまずはできないので、生検とかということになると、微小検体になるというと、こういった研究も有意義、有効ではないかなとは考えています。

清川委員 ありがとうございました。そうしますと、やはり今回先生が発表なさった研究結果というのは、主に小さな検体のときに有用であるというふうに理解するとよろしいのでしょうか。

中島代理 まあ、そうですかね。

清川委員 今回はmesotheliomaとの鑑別ということを先生は主眼に置いていらっしゃるんでしょうが、一般的にもそうだということですね。一般的に、spindle cell sarcomaを思わせる腫瘍を見たら、mesotheliomaだけではなくて、常に血管腫が鑑別に挙げなくてはいけないというのが先生の主張でしょうか。

中島代理 そうですね。keratinが陽性であれば、鑑別の一つとしてある程度上位に上がってくるんじゃないかなと思います。

清川委員 わかりました。先生もちろんご存じでしょうし、釈迦に説法だとは思いますけれども、leiomyosarcomaの場合はkeratinが陽性になるというのは大変有名なので、keratinとsarcomaというと、私などは血管肉腫よりも平滑筋肉腫がまず頭に思い浮かびますが。

中島代理 もちろんそうですね、わかりました。胸腔内に発生する肉腫様ということで、ありがとうございます。

岸本委員長 ありがとうございました。井内先生、どうぞ。

井内委員 元広島大学の井内でございます。発表ありがとうございました。大切な鑑別点を一つご提示していただいたと思いますが、確認なんですが、ここで先生が用いられた血管肉腫というのは、全身どこでも、胸膜に限ったものではないんですね。

中島代理 そうです。胸膜の症例は実質1例しかなくて、それ以外も頸部と軟部と、大腿上腕とかが多いです。

井内委員 何か欧米なんか行くと、胸膜の血管肉腫って結構診断をつけているみたいなんです。そのとき何でかなと。日本ではそんな診断をつけることは余りないんだよと思っていましたけど、先生のご研究から言えば、紡錘形を呈している肉腫型中皮腫の中に、我々が見逃しているものがあるかもしれないという考え方でいいんでしょうか。ただ、欧米の人たちが言うのは、やはり先生がさっきおっしゃったように、どこかよく見たら、やっぱり血管腔を構成するような細胞の並びがあるとかいうようなものを言っていると、決しておやりになったような新しい免疫染色の組み合わせで云々ではないと思うので、どうも質が違うような気がするんです、言っているもの自身がですね。

中島代理 ありがとうございます。

井内委員 大体全体の、例えば日本の例を全部言うのは先生難しいかもしれないけど、印象としては、1例しかないとおっしゃったんだから、紡錘形を呈する腫瘍細胞からの肉腫型腫瘍細胞であっても、ほんのわずかというふうに思っていていいですか。それともやっぱりkeratin陽性で肉腫型中皮腫だと思って、安心して診断している例が結構あるんですが、それはやっぱり先生たちのお勧めであるERGであるとかclaudin5、やっぱりやらないといけないですか。

中島代理 ありがとうございます。どちらかというと逆の考えというか、血管肉腫かもしれないよというふうな警鐘ではなくて、血管マーカーが染まっても中皮腫なんだよということが言いたいというか。

井内委員 ああ、逆ですか。

中島代理 すみません、ちょっと。

井内委員 ということは、前提としては、胸膜に起こってくる紡錘形細胞腫瘍は、まあ中皮腫なんだよと。

中島代理 そうです。WHO分類では、現在、胸腔内に発生する血管肉腫は上皮様が多くて、びまん性に発生すると。びまん性に、異型に形態をとるのが胸腔内の血管肉腫だというふうに記載されているんですけれども、私の上司は、そんなものはあり得ないと。肉腫はもう発生するなら、solidなtumorとして出てくるはずだと。だからそれは血管マーカーが陽性だからといって血管肉腫にしてしまっているだけで、実は中皮腫なんだということが証明したいということで始まったので。

井内委員 ということは、先生のところは上司を含めて、びまん性に胸膜を覆うような腫瘍というのはあり得ないと、血管肉腫ではあり得ないという考えであるということですね。

中島代理 それはここであまり発言していいのかわからないですけど、そういった仮定から始まっている研究ではあると思いますので、がん研究所で、血管肉腫症例で胸腔内発生のものも、やっぱり限局したものでありましたので、ちょっとびまん性の血管肉腫というものをご経験されている先生方がいらっしゃれば見せていただきたいなというのと。なので、血管マーカーが染まったからといって血管肉腫に持っていくのは安易だよというか、危ないんじゃないかと。claudin5を染めて陽性であることを確認して、胸腔内の中皮腫様の血管肉腫を判定したほうがいいんじゃないかという提案です。

井内委員 わかりました。

岸本委員長 ありがとうございました。また井内先生、石川先生とディスカッションをしていただくということで、中島先生、ありがとうございました。

 では続きましては廣島先生に、新たな免疫染色抗体を用いた中皮腫診断法、HEG1のお話をしていただけると思いますので、お願いしたいと思います。

廣島委員 東京女子医大の廣島です。本日は、昨年度に検討した、新たな免疫染色抗体を用いた中皮腫診断法の開発に関する調査編の結果を報告いたします。

 中皮腫の診断は、中島先生がご発表されたように、中皮マーカー、癌腫マーカーを染めて、上皮型及び二相型の場合は、中皮マーカーが2種陽性で、癌腫マーカーが2種陰性ならば中皮腫と診断できます。

 ところが、中皮マーカーであるcalretinin、WT1、D2-40は中皮腫の全例で陽性になるわけではありません。Calretininが陰性である中皮腫も存在します。また、癌腫でcalretininが陽性になることもあります。特に肺がんの多形癌などはcalretininが陽性になります。腫瘍が胸膜にびまん性に発育していても、中皮マーカーが陰性である場合は、癌腫のマーカーが陰性であっても、中皮腫とは判断できないことになります。

 中皮腫の新たなマーカーとして、2017年に神奈川県がんセンターの辻祥太郎先生が発見したHEG1という抗体があります。HEG1の中皮腫における感度は大変高く、92%で、特に上皮型は98%です。ほとんどの癌腫や肉腫は、HEG1が陰性で特異度は99%です。

 彼らは主にTissue Microarrayを用いて検討いたしましたので、私は手術による切除材料や、ある程度の大きさの生検標本を用いてHEG1を検討して、HEG1が中皮腫の診断に有用かどうか、calretinin、WT1、D2-40よりも中皮腫の診断にすぐれたマーカーであるかを検討いたしました。

 結果をスライドにお示しいたします。いずれも臨床的にも組織学的にも中皮腫と診断した症例です。HEG1抗体は辻先生から提供を受けました。抗体をたんぱく質濃度が20μg/mlになるように希釈して、オートクレーブで賦活化をした後ライカのBOND-MAXというオートステイナーで染色をいたしました。結果は、上皮型中皮腫を47例検討し、全例がHEG1陽性でした。二相型中皮腫は18例検討して、1例だけ陰性でしたが、17例が陽性、肉腫型中皮腫も78%の症例が陽性でした。これらの症例において、calretininは上皮型中皮腫では95%で陽性率が高いですが、WT1、D2-40はやや低いです。二相型になりますとcalretininもやや低下しており、WT1、D2-40と大体同じでした。したがって、HEG1は上皮型中皮腫では大変すぐれたマーカーで、二相型中皮腫でもかなり有用であると思います。肉腫型中皮腫において、calretinin、WT1の染色性は低く、3割程度の症例が陽性でした。D2-40は約7割の症例が陽性でした。これに対してHEG1は78%の症例が陽性ですので、肉腫型でもHEG1の発現率は高いことがわかりました。

 HEG1の染色パターンを示します。この症例は、VATSで壁側胸膜を脂肪組織まで含んで採取したものです。表面から脂肪組織に浸潤しております。表面側を見ますと腫瘍が乳頭状増殖を示し、また、胸膜表面に異型性のない既存の中皮の反応性増生を認めます。HEG1は腫瘍細胞はびまん性に陽性で、細胞膜優位です。apicalが陽性で、basalのほうは陰性になっております。既存の中皮も陽性になっております。HEG1は中皮腫で陽性になりますが、反応性中皮も陽性になります。

 次に肉腫型中皮腫は、スライドに示しますように紡錘形細胞が錯綜している所見が特徴的です。HEG1を染色しますと、細胞質が顆粒状に陽性になります。上皮型中皮腫は細胞膜が陽性になるのに対して、肉腫型中皮腫は細胞質が陽性で、染色の態度が多少異なります。

 次に、癌腫を検討しました。肺腺癌を29例検討しましたが、いずれも陰性でした。その後、もう少し症例を追加しましたが、腺癌は全例陰性です。大細胞神経内分泌癌も陰性、粘表皮癌も陰性でした。扁平上皮癌は14例中4例が陽性でした。腺扁平上皮癌は2例検討しましたが陽性です。この症例は、私の施設の別の病理医が診断し、腺癌と診断されていました。腺癌でHEG1が染まるのでおかしいと思いよく探すと、一部に扁平上皮癌の成分があり、その部分が陽性でした。したがって、腺扁平上皮癌の扁平上皮癌成分は陽性であり、腺癌成分は陰性です。多形癌は7例中4例が陽性でした。

 染色パターンは、扁平上皮癌や腺扁平上皮癌の扁平上皮癌成分は、細胞膜ではなく、細胞質が陽性で、主に基底細胞への分化を示す部分が陽性です。多形癌も細胞質が陽性です。したがって、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌、多形癌は陽性になりますが、染色パターンが上皮型中皮腫とは異なります。

 次に反応性病変で、HEG1はどのように染まるかを検討いたしました。反応性中皮に関しては5例検討し、全例陽性です。線維性胸膜炎はスライドに示しますように紡錘形細胞が増生し、異型性を示します。特に表面側に異型性が強いので、肉腫型中皮腫と間違いやすいです。この症例を含めて11例検討しました。8例が紡錘形細胞の細胞質が陽性でした。これは肉腫型中皮腫の染色性と同様でした。

 まとめますと、中皮腫診断におけるHEG1の感度は、calretinin、WT1、D2-40よりも高いです。HEG1は二相型中皮腫、肉腫型中皮腫でも陽性になります。特に上皮型中皮腫あるいは二相型中皮腫と腺癌の鑑別には大変有用です。HEG1は扁平上皮癌は陽性になりますが、染色パターンを見ると、上皮型中皮腫と扁平上皮癌の鑑別は可能ではないかと思います。以上です。

岸本委員長 ありがとうございました。どなたかご質問等ありませんでしょうか。

村上委員 関門医療センターの村上です。ありがとうございました。肉腫でHEG1が陽性になるのはどのくらいでしょうか。

廣島委員 血管内皮細胞が陽性になりますので、血管内皮をポジティブコントロールとしました。ネガティブコントロールは、リンパ球とし、血管内皮が陽性、リンパ球が陰性となっていれば染色がうまくいっていると考えております。angiosarcomaを6例集めましたが、全例陽性でした。leiomyosarcomaも6例集めましたが、全例陽性でした。synovial sarcomaは1例しか集めていませんが、陰性でした。それからsolitary fibrous tumorが1例ありましたので検討したところ陽性でした。HEG1が陽性となる肉腫は細胞質が顆粒状に陽性ですので、上皮型中皮腫の細胞膜の陽性とは染色パターンが異なります。しかし、HEG1で肉腫型中皮腫と肉腫の鑑別をすることは難しいのではないかと思います。以上です。

村上委員 わかりました。

岸本委員長 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。前の中島先生のご発表も含めて、どなたかご質問ございませんでしょうか。よろしいですか。

 じゃあ、ありがとうございました。これで公開部分の報告事項に関しましては以上ということにしたいと思います。

 では事務局にマイクをお返しいたします。

團医療専門官 岸本委員長、ありがとうございました。では、本日の議事録につきましては、原案を作成いたしまして、先生方に送付いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、医学的判定についての議事に移りたいと思います。

 傍聴席の皆様におかれましてはご退出をお願いしたいと思います。

 準備がございますので、5分間の休憩を挟ませていただきたいと思います。14時15分再開とさせていただきます。ありがとうございました。