中央環境審議会総合政策部会環境研究技術専門委員会 自然環境分科会(第2回)議事概要

日時

平成13年5月29日(火) 10:00~12:00

場所

合同庁舎5号館22階 環境省第1会議室

出席者

〈委員側〉松本副主査、三浦委員、吉川委員、鷲谷委員
〈環境省側〉山田大臣官房審議官、松井環境研究技術室長、渡邉生物多様性企画官 他

議事

(1) 総合科学技術会議における審議の状況及び第1回分科会における主な論点等について

 事務局より資料2(総合科学技術会議の審議状況等について)及び資料3(総合科学技術会議の審議状況について)を説明した。

【鷲谷委員】
 環境分野の技術は他の分野の技術と異なり、不確実な面があっても事業などに適用しながら検証し、基礎的な土台を固めていくべき性格のものであるということを前文などに記述すべき。また、「循環」だけでは環境問題すべてを表せないので、「人と自然との共生」も入れることが必要。

【松本副主査】
 「生物多様性」というキーワードが入っていない理由はなにか。

【松井室長】
 「生物多様性」の概念は「自然共生型社会」に含まれると理解している。

【松本副主査】
 「生物多様性」という表現が入るよう環境省として努力して欲しい。

【鷲谷委員】
 重点領域にすべてを盛り込むのは無理なので、成果が上がりそうなところ、社会的要請にマッチするところで良い。連携も重要なので、この分野の研究成果を整理することが必要。

【三浦委員】
 循環型社会の構築のためには、農業や林業など第1次産業におけるマキシマム・サステインドをエコロジカル・サステインドに移行させるための方向性を示すことが必要。どのようにシフトさせていくか、環境省がイニシアチブをとるべき。また、自然共生型社会の構築は自然の高度な利用が前提になっているが、多様な生態系を手つかずのまま次世代に引き継ぐということも重要。

(2) 自然環境分野における「問い」及び推進課題について

 事務局より資料4(自然環境分野における「問い」と研究・技術)及び資料5(自然環境分野の推進課題について(案))を説明した。

【鷲谷委員】
 「健全な生態系をどうすれば維持できるか?」も問いとして掲げるべき。

【三浦委員】
 二次的なものも含め、「我が国には多様で豊かな生態系が十分残っているか?」ということが問題の出発点である。

【渡邊企画官】
 それについては、「(1)生物多様性・生態系の情報の収集」に含まれると考えている。

【鷲谷委員】
 「どれほどの情報を整備し得たか?」より「現状はどうか?」という問いかけの方が良い。

【吉川委員】
 アジア地域における研究では、渡り鳥移動ルートの追跡など日本に関係のあるものに限定するのか、それとも先進国として他国に働きかけることまで視野に入れているのか。他国に働きかけるとなると、どこにどう踏み込むかが問題になる。

【渡邊企画官】
 日本だけでなく、アジア全体を対象にしている。日本としては、基礎的なデータの整備について貢献できると思う。他にどのようなものが考えられるか、ご意見をお聞かせ願いたい。

【吉川委員】
 例えば、中国のように長い年月をかけて自然環境が破壊された国の林野率を高める場合、どのような問題が生じるのか調べること。これは、里山の整備にも生かせると思う。

【三浦委員】
 日本にくる鳥類の個体群には、現地で熱帯林を生息地にしているものがある。最初は、それら鳥類に発信機を付けて現地で情報を集めるところから始めるとしても、最終的には、熱帯林の持続可能な経営をどうするのかというところまでいかざるを得ないと思う。

【松本副主査】
 日本としては、相手国の自主性を損なわない範囲で協力することが大切。また、アジア以外の地域も含めたグローバルな取り組みが重要であると思うが、なぜアジアに限定したのか。

【渡邊企画官】
 アジア地域には日本の種の共通種、類縁種が多く、特に自然のつながりの観点からアジアを優先することとした。インベントリの整備についてはグローバルなものを考えている。また、水鳥についてはオーストラリアと共同で調査を行うなど、アジア以外は対象としないということではない。

【鷲谷委員】
 オーストラリアやシベリアなども含めるため、「アジア地域を中心とした」にした方が良い。

【松井室長】
 アジアは日本とつながりが深いという理由があるにせよ、なぜアジアなのかということをきちんと説明する必要があると考えている。

【吉川委員】
 日本のように自然とのふれあいを積極的に進める必要がある国と、自然から薪などを採取しているアジア地域の国とでは、自然環境と人とのつながりが異なる。その違いを盛り込むことが必要。また、「(5)適切な自然とのふれあいの確保」では、誰が何の目的で自然にふれあうことを考えているのか。

【築島補佐】
 環境教育的な視点から、日本国民が自然とふれあうということである。

【吉川委員】
 4つの柱それぞれに、どのようなモニタリングを位置づけるのかしっかり議論することが必要。

【渡邊企画官】
 アジア地域における基礎データの整備について、種を中心としたインベントリの作成や渡り鳥の追跡調査などが考えられるが、どのようなことをやれば役に立つか、ご意見をお聞かせ願いたい。

【松本副主査】
 最近は現地調査の許可を取るのも大変。ならば、現地のことは現地の人にやらせろという考え方もあるが、日本は先進国だからある程度責任をもってやる必要もあり、難しい問題。

【鷲谷委員】
 現地の研究者と協力してやるしかないと思う。

【渡邊企画官】
 現地の研究者と共同研究を行い、それぞれが所有するデータをデータベース化し、皆で共有すれば役に立つ。

【松本副主査】
 そのためには大がかりな仕組みが必要で、国際協約がしっかりしていないと難しい。しかし、これをやるのは日本の使命である。

【三浦委員】
 長期間にわたり、同じ意志をもって調査を行うスキームをどう確立するのかが重要。100年ぐらいのタームで調査する生態系のプロットをいくつか設定し、日本が責任をもってそれらの維持に貢献することが必要。イベント的なものではなく、長期間モニタリングすることが大切。

【松本副主査】
 日本は長期的な展望をもってやるべきで、短期的なものはかえって相手の不信感を増すだけである。環境省は国際局を設置し、100年先を見通したプランニングをするぐらいでないと、欧米には太刀打ちできない。

【松井室長】
 自然共生型社会構築研究においては、総合科学技術会議の方から、事例として「自然共生型流域圏再生プログラム」が提示されている。

【築島補佐】
 これはあくまで事例であり、環境省として何を打ち出して行くかご検討頂きたい。

【鷲谷委員】
 「リモートセンシング技術、バイオ技術等」と書いてしまうのは、あまりに限定的すぎるのではないか。

【渡邊企画官】
 これらの技術が特に重要ということではなく、研究を進める上で必要な新技術を取り入れていこうという気持ちである。あくまで例示である。

【吉川委員】
 インベントリの整備については、リモートセンシングよりも地べたを這い回るような技術の方が重要。

【松本副主査】
 リモートセンシング技術やバイオ技術が入るならば、「生物多様性インベントリ・モニタリングプログラム」という名称の方がぴったりくる。

【鷲谷委員】
 全て取り込むということであれば、「生物多様性インベントリ・モニタリングプログラム」で良いと思うが、重点化ということなので、「自然共生型流域圏再生プログラム」でも良いと思う。

【松本副主査】
 「流域圏」という区分けは重要であるが、やや行政的な言葉である。ただ、県とか市とかの行政的な区分けを越えた、より自然に配慮した区分けではある。

【渡邊企画官】
 「流域圏」は自然のつながりを表現している。なお、総合科学技術会議の資料に書かれているものはあくまでも例示であり、環境省として打ち出すものがこれにぴったり合っていなくても問題はない。

【鷲谷委員】
 プログラム名が示す範囲に比べ、例示の内容はあまりにも限定的である。伝統的な技術の見直しなど、他にも重要なものがある。

【三浦委員】
 流域について、そこの生態系の水、土壌など、様々なモデルを積極的に示していくべき。

【吉川委員】
 「(2)生態系の機能の解明」には、水収支を含めるべきである。

【松本副主査】
 やはり、頭には「生物多様性総合管理プログラム」を置いて欲しい。そうすれば、生態系、遺伝子などがすべて含まれることになる。もちろん、「自然共生型流域圏再生プログラム」がダメという訳ではない。

【渡邊企画官】
 資料4は流域という視点を受けて作成したもの。生物多様性や生態系の保全という観点から、具体的なプロジェクトがあればご提案頂きたい。ところで、「(3)生物多様性維持機構・生態系維持機構の解明と人為的かく乱要因による影響の予測」に関連して、地下水などの水と生物多様性の関係は十分に解明されているのか。

【鷲谷委員】
 ごく一般的な法則性以外は、十分に解明されていない。

【松本副主査】
 プログラムにおける再生のイメージはどのようなものか。

【鷲谷委員】
 昔の自然を取り戻すため河川管理や港湾管理の方法を変えてみるなど、様々なレベルのものが含まれると思う。しかし、こうすべきといった決まったものはなく、必要なものを取り戻すということであろう。

【松井室長】
 再生については、事業だけではなく、実験的にやるといったことも含まれると考えている。

【鷲谷委員】
 そういうものがないと難しい。生態学や関連分野の知識に基づいてプランを立てることは可能だが、それらの知識は体系的に整理されていないので、整理が必要。また、それらを実際に適用しながら、さらに明らかにしていくべきことも多い。

【松本副主査】
 具体的な研究の中身はどういうものが考えられるのか。

【鷲谷委員】
 具体的な場を設定した研究、大規模な生態系での実験が必要。そのやり方自体も研究の対象。

【渡邊企画官】
 例えば、霞ヶ浦で実際に事業をやりながらデータを収集し、改善すべきところは改善するというように、事業と研究を並行して行うというものである。

【鷲谷委員】
 アメリカなどでは大規模な実験が行われている。

【三浦委員】
 モニタリングを行いながら長期間にわたって実施する事業で、かつ実験を含むものは、これまで日本では例がない。モデル地域を設定して、そこをとことんやるべき。その場合、環境省がイニシアチブをとって、実験のプランニングをやるべき。

【松本副主査】
 日本では、河川の流量を変える、森を拡大するというと、すぐに反対する人がでてくるので難しいのでは。特に私有権があるところは困難。

【鷲谷委員】
 すでに裸地化してしまったところなど、流域全体ではなく、ポイントとなる森林、河川においてモデル地区を設定すれば良い。

【三浦委員】
 ピンポイントでも、大きな効果をもたらす場所を設定すれば良い。

【鷲谷委員】
 ポイントに適用する技術については、部品となる技術も含めて、必要なものを洗い出すことが必要。

【松本副主査】
 これについては、人の意識改革も必要であることから、社会学分野の研究者と一緒に研究を行うことも重要である。

【松井室長】
 総合科学技術会議の統合化プログラムの自然共生型流域圏再生プログラムには、環境管理分科会での議論とあわせて整理したい。
第2回専門委員会は6月5日10時より三田共用会議所で行う。また、各委員の追加意見は31日までにメール又はFAXでお願いしたい。

以上