保健・化学物質対策

水銀の利用に関すること

 水銀添加製品、水銀使用製造プロセスについては、規制内容、規制対象リストについて、代替製品や技術の普及状況も含め、詳細な検討が必要であったため、日本はEU及びジャマイカと協力して、産業界等からも情報を収集し、様々な意見を聴きながら規制内容と対象リストを提案し、条文作成作業にも貢献しました。ここでは、水銀添加製品、そして、世界で水銀需要量が特に多い小規模の金採掘製造プロセスにおける水銀利用に関する条約上の規制を見てみます。

水銀添加製品

1.水銀を使った製品の製造・輸入・輸出の禁止
電池や一定含有量以上のランプ、化粧品など、禁止製品のリストに掲載された水銀添加製品は、2020年までに製造、輸出入が禁止されます。
品目例外我が国では
電池 水銀含有量2%未満のボタン型亜鉛酸化銀電池・ボタン型空気亜鉛電池 乾電池は1992年に水銀使用停止、水銀電池は1995年に生産停止。ボタン型電池は回収しリサイクルされる。
スイッチ及びリレー 監視・制御装置に用いられる超高精密キャパシタンス・損失測定ブリッジ、高周波RFスイッチ及びリレーで、水銀含有量20㎎以下のもの 水銀スイッチ及びリレーは特殊用途に使用されてはいるが、国内で製造される自動車には使用されていない。
一般照明用蛍光ランプ・高圧水銀ランプ、電子ディスプレイ用冷陰極ランプ・外部電極蛍光ランプ 一定含有量以下の一般照明用電球型・直管型蛍光ランプ、一定含有量以下の電子ディスプレイ用冷陰極ランプ(CCFL)・外部電極蛍光ランプ(EEFL) 蛍光管の中に含まれる水銀量は1975年代の約50㎎から、2005年には約8㎎(40wタイプ)に減少。
肌の美白用石鹸及びクリームを含む化粧品(水銀1ppm超) 効果的・安全な代替防腐剤がない場合に、水銀を防腐剤に使用している眼部化粧品。 水銀の化粧品への使用は1974年に禁止されている。
農薬、非農薬用殺生物剤、局所消毒薬 なし 消毒剤への水銀使用は1973年に、農薬への水銀使用は1974年に禁止。
非電化の計測機器(気圧計、湿度計、圧力計、温度計、血圧計) 水銀フリー代替品がない場合に、大型装置に取り付けられたもの、または高精度測定に使用されるもの。 体温計や血圧計は、現在は電子式が普及しています。
2.水銀を使った製品の使用を削減するもの
歯科修復材料として知られている歯科用アマルガムが対象となります。我が国では1970年代には年間約5.2トンの水銀が使用されていましたが、2010年には年間0.02トンに減少しています。
3.適用対象外のもの
国民保護、軍事使用に必須の製品
交換用の実用可能な水銀フリー代替品がない場合の交換用製品/スイッチ及びリレー、電子ディスプレイ用のCCFL及びEEFL、並びに計測機器
伝統的及び宗教的慣習において使用される製品
保存剤としてのチメロサールを含むワクチン

製品プロセスでの水銀使用

 20世紀になると、金の精錬用だけにととまらず、水銀の工業用途が拡大し、世界的に水銀の生産量・消費量が増加しました。水俣病の原因になったのは高度経済成長期にプラスチックの原料として使われた、アセトアルデヒドの製造プロセスでの水銀使用でした。また、同じくプラスチックの原料になる塩化ビニルモノマーの製造工程でも水銀が使用されます。その他、水銀が多量に使われうるものとしては塩素アルカリ工業があります。塩水を電気分解して塩素、水素、水酸化ナトリウム(か性ソーダ)を生産する工程で水銀電極が使われます。水酸化ナトリウムは、アルミニウムや化学繊維、石鹸、洗剤など身近な生活用品の製造などに使われ、1996年には水銀の全生産量の40%にあたる量が世界で消費されました。しかし、我が国では水銀を用いない製造工程への転換が進み、これらの製造プロセスにおいての水銀使用は現在ではまったくありません。

「水俣条約」の主な内容

  • 塩素アルカリ工業及びアセトアルデヒド製造施設を対象に、製造プロセスにおける水銀使用を禁止。(それぞれ2025年、2018年まで。ただし、年限については、国によって必要な場合、最大10年間まで延長可)
  • 塩化ビニルモノマー、ポリウレタンなどの製造プロセスでの水銀使用を削減。
  • 新規のプロセスにおける水銀利用を抑制し、対象となるプロセスの見直しなどを実施。

人力小規模金採掘(ASGM)

 2005年の世界の水銀消費量のうち約1/5が人力小規模金採掘に使われています。金を含む鉱石を砕き、水銀と混ぜ合わせて合金をつくり、加熱して水銀を蒸発させることで、金のみを取り出すという手法です。安価で容易にできるので、多くの開発途上国で行われていますが、労働者は高濃度の水銀にさらされるので、様々な健康被害を受けます。また、大気への水銀排出量も、全排出量の約37%(2010年)と最大の排出源となっています。

「水俣条約」の主な内容

写真:金採掘現場での採掘の様子、黒人男性が砂金をさらっている・金採掘現場での水銀使用・排出の削減。可能であれば廃絶のために行動。

・国内のASGMがわずかでない(more than insignificant)と判断する締約国は、国家行動計画を策定、実施するとともに、3年ごとにレビューを実施。

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