日本の原子力発電所等からの環境中に放出される液体・気体廃棄物に含まれる放射性物質の規制基準は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づき、放出される放射性物質による追加的な公衆被ばく線量(人体に与える影響)を、年間で1mSv未満にすることを基本に定められています。具体的には、1種類の放射性物質が含まれる水を、生まれてから70歳になるまで毎日約2リットル飲み続けた場合に、平均の線量率が1年あたり1mSvに達する濃度が限度として定められています。この放射性物質ごとの濃度の限度は「告示濃度限度」と呼ばれています。
一般的に、原子力発電所等からの液体・気体廃棄物には複数の放射性物質が含まれています。そこで、複数の放射性物質の影響が考えられる場合には、廃棄物中に含まれるすべての放射性物質による影響を総合して「告示濃度比総和」という考え方が用いられ、この告示濃度比総和が「1」を下回るように規制がおこなわれます。
「ALPS処理水」の処分に当たっては、他の稼働中の原子力発電所等と同様に「告示濃度比総和」が「1」未満になっているかどうかが確認されます。事故を起こした原子炉特有の放射性物質(セシウム、ストロンチウムなど)も含むトリチウム以外の放射性物質は規制基準未満となるように多核種除去設備(ALPS)等により濃度を低減する処理がおこなわれます(2023年8月24日に放出を開始したALPS処理水については、トリチウム以外の核種についての「告示濃度比総和」は「0.28」となりました)。
また、ALPS等で取り除くことが難しいトリチウムについても、それ自身を含むすべての放射性物質の告示濃度比を1未満にするために、濃度を下げるための希釈(海水で100倍以上に希釈)がおこなわれます。これは、「ALPS処理水」中の規制基準以下のトリチウム以外の核種をさらに100倍以上に希釈することにもつながるため、より安全性を確保できるようになります。
なお、「ALPS処理水」を希釈して海洋に放出した場合の1年間の放射線影響は、1年間に日本人が自然放射線から受ける影響(2.1mSv)の約100万分の1~約7万分の1となると評価されています(2023年2月時点の評価結果)(関連ページ:下巻P18「『ALPS処理水』の海洋放出に関する放射線の影響評価」)。
本資料への収録日:2022年3月31日
改訂日:2024年3月31日