保健・化学物質対策

化学物質の内分泌かく乱作用に関する日英共同研究について

いであ株式会社 環境創造研究所
環境リスク研究センター
大西 悠太
(2010年3月24日 掲載)

 平成11年3月に開催された主要国首脳会議(G8)の環境大臣会合の際、当時の真鍋環境庁長官(日本)とミーチャー環境大臣(英国)の会合で、内分泌かく乱化学物質に関して先進的な研究業績を持つ日英両国が共同で研究を実施していくことが合意され、同年12月に、(1)技術的情報の交換、(2)研究上の知見の共有による共同研究の発展、(3)合同シンポジウム等学術討議の開催、(4)両国専門家の交流を主とする日英共同研究実施の取り決めが締結されました。この取り決めを受けて、環境庁(現環境省)では、平成11年度から「化学物質の内分泌かく乱作用に関する日英共同研究」事業を開始しました。

 日英共同研究事業では、化学物質の内分泌かく乱作用に関する研究テーマについて、知見・情報の交換や議論をしながら日英両国の研究者が共同で研究を実施しています。平成15年度までの5年間(日英共同研究第1期)には、魚類や無脊椎動物に対する化学物質の内分泌かく乱作用の検出手法など19テーマについての研究が実施されました。また、研究成果の発表及び研究の進め方などの協議の場として、ワークショップが日英両国それぞれで隔年開催されています(日本での開催は公開)。その他にも、両国が相互に研究者を派遣し、現地での共同研究、情報・知見あるいは技術の交換なども行われています。

 平成16年度には、日英両国の協議において共同研究実施の延長が決定され、同年から共同研究の第2期がスタートしました。この第2期では、第1期の成果の総括を踏まえて、日英両国に研究全体を統括し個別各研究テーマの円滑な実施及び成果の評価を行う総括研究責任者(日本側:自然科学研究機構 井口泰泉教授、英国側:エクセター大学 チャールズ・タイラー教授)を置き、その調整の下で設定されたテーマについての研究が進められました。第2期には、中長期的に取り組むべきテーマとして、(1)排水由来エストロジェン(女性ホルモン)様作用の評価、(2)魚類での精巣卵の誘導機構及びエストロジェン受容体の種特異性、(3)イトヨを用いたアンドロジェン(男性ホルモン)様作用の評価手法、(4)両生類の生態影響評価手法、の4つが設定されました。そして、5年間の研究結果として、例えば、人畜由来のエストロジェンが、どのような化学的形態でどの程度、下水などの処理排水に含まれているのか、あるいはそれらが河川など環境中に入ってからどのように変化(分解)していくのか、などが解ってきました。また、河川には様々な種類の魚が生息していますが、魚種によってエストロジェン様作用を持つ化学物質に対する反応(影響の受けやすさ)が異なることなども解ってきました。その他にも、処理排水や河川水に様々な化学的形態で含まれる人畜由来のエストロジェンの濃度を正確に分析できる方法や生きた生物を使わずに化学物質の魚類などに対するエストロジェン様作用やアンドロジェン様作用の強さを調べられる方法(試験管内試験法)など、多くの有用な手法を開発できたことも、この第2期の共同研究の大きな成果と言えます。

 平成21年11月に日本(大阪)で開催された第11回日英共同ワークショップでは、同年が第2期の最終年となることから、日英両国の研究者によって、前述の4つの研究テーマについて5年間を総括した成果の発表と議論・意見交換が行われました。また、前年に英国で開催されたワークショップにおいて共同研究実施の5年間の再延長が合意されたことを受けて、今後の研究方針やテーマについて研究者と行政官を交えた総括的な協議がなされ、その結果を踏まえた日英共同研究の継続に関する合意文書への調印が行われました。

 2010年(平成22年度)からの5年間(日英共同研究第3期)については、研究成果を内分泌かく乱化学物質の野生生物(生態系)に対する影響(リスク)の評価及び管理につなげていくことを念頭に、対象生物などを限定しない内分泌かく乱化学物質問題を横断する4つの大きなテーマを設定することで合意しました。第一のテーマは、内分泌かく乱化学物質の水生生物への曝露の実態(曝露量)を知るために必要となる、内分泌かく乱化学物質、とくに人畜由来のエストロジェン物質がどのような種類や形態で処理排水や河川中に存在し、またそれらが環境中でどのように変化していくのか、などを推定する方法についてです。第二のテーマは、環境中に存在する内分泌かく乱化学物質が生物に対して実際にどのような悪影響を及ぼしているのか、あるいは及ぼす可能性があるのかなどを実験的に調べる方法についてです。第三のテーマは、内分泌かく乱化学物質の生物に対する影響を把握するための有効なエンドポイント(化学物質に曝露されたときに生じる生物の反応)や遺伝子レベルでの影響評価の手法についてです。そして最後のテーマが、実環境中で野生生物に生じている内分泌かく乱化学物質の影響を把握・解析する方法についての研究です。第3期の日英共同研究では、内分泌かく乱物質問題の解決に向けて、これら4つのテーマを担当する研究者同士が連携しつつ、また日英以外の諸外国における研究成果なども踏まえて柔軟に各年度の課題を設定しその研究に取り組んでいくこととされています。

 内分泌かく乱作用に限らず、化学物質の野生生物(生態系)への影響については、経済協力開発機構(OECD)における試験法開発をはじめとして、国際的に調査法や評価法(試験法)の開発などの取り組みがなされています。日本においても、国際機関や諸外国と連携・強調してこれらの課題に取り組むことがこれまで以上に重要になってきます。日本と英国では、下水処理施設などの社会基盤の整備状況や自然環境などが大きく異なります。その両国の幅広い分野の研究者が、最新の知見や情報、あるいは技術を共有し、協調しながら共同研究を実施することは効率的に、また効果的な成果を得ることができる取り組みと思われます。日英共同研究については、単に研究レベルでの取り組みに留まらず、得られた成果を日本国内の環境行政はもとより、OECDへの提案などを通して国際貢献につなげていくことが期待されます。

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