大気環境・自動車対策

地域再エネ水素ステーション導入事業における技術的検証結果等の公表

環境省は、会計検査院からの指摘及び参議院決算委員会における警告決議を受けて、地域再エネ水素ステーション導入事業について、各補助対象者における消費電力量等の実績を踏まえた技術的な検証における課題抽出及び、メーカーヒアリングや有識者検討会における技術的な検証の結果を取りまとめました。

1.本事業の概要

 地域再エネ水素ステーション導入事業(平成27年度~平成31年度)は、地方公共団体等に対し、太陽光発電等の再エネを活用して、燃料電池自動車に水素を供給する施設整備を支援するものである。

2.各補助対象者における実績を踏まえた技術的な検証における課題抽出結果

(1)各補助対象者における再エネ水素ステーションの水素製造実績及び消費電力量

再エネ水素ステーションの運営に必要となる再エネ設備容量を把握するために、各設置者の2019年度の水素製造量実績及び消費電力量実績から水素1㎏製造するのに必要な電力量を算出した。

設置者※1

設備メーカー

①水素製造量(kg)

②消費電力量(kWh)

②÷①(kWh/kg)

A

283

31,270

110

A

214

25,237

118

A

93

14,379

154

A

96

15,064

157

A

103

15,988

156

A

259

48,207

186

A

121

17,880

147

A

54

12,146

226

A

78

13,628

174

10

B

132

30,119

229

11

A

207

38,102

184

12

A

171

22,079

129

13

A

104

13,035

126

14

A

173

18,219

106

15

A

27

9,293

349

16

A

87

15,018

173

17

C

561

49,499

88

18

 A※2

47

20,297

430

19

B

1,283

146,404

114

20

A

132

19,993

152

21

D

767

84,628

110

22

C

47

8,265

177

23

E

248

142,895

576

24

D

12

16,449

1,430

25

F

13

984

75

※12015年度~2019年度で設置された全27か所のうち、2019年度の消費電力量データを通年で取得できた25か所で表を作成した。

※2設備の補助設備が異なっている

(2)実績を踏まえた技術的検証課題

水素1㎏を製造するのに必要な電力量は75kWh/kg~1,430kWh/kgと非常に大きな差異が見られた。最も設置台数の多い設備メーカーAの同型においても106kWh/kg~349kWh/kgと最大3.3倍の幅が見られた。また、例えばメーカーAの場合、水素1㎏を製造するのに必要な電力量は、約73kWh/kgと当初想定されており、上述の消費電力量と比較すると約1.5~4.8倍もの差が見られる。

特定条件下における設備の消費電力量に幅がある要因については、外気温や設備仕様の違いによるものと考えられるが、具体的な設備構成等を把握する必要がある。そのため、設備メーカーへのヒアリングを実施した。

要因

仮説

メーカーヒアリング概略

外的要因(外気温等)

外気温、標高(気圧)の違いが影響していないか

・夏場等外気温が高い場合は水素冷却装置が稼働し、消費電力量が増える。

・寒冷地・準寒冷地では凍結防止用ヒーターが稼働し、消費電力量が増える。

設備

設備構成や部品単位での動作不良が影響していないか

・設置場所によって程度が異なる影響が出るが、因果関係の特定はできていない。

原料

地域による水道水質の差が影響していないか

・水質の差で動作不良頻度に差が見られるが、因果関係の特定はできていない。

データ取得方法

測定方法の違いが影響していないか

・影響なし

供給量

計画した水素供給量が影響していないか

・水素製造時のみ稼働する装置と常時稼働する設備があるため、供給量の違いは大きく影響する。

3.有識者検討会における技術的検証結果

再エネ水素ステーションの必要電力量を適切に把握するための課題の検討や事業採算性の検討等を実施するために有識者検討会を行った。

検証項目

検証結果

消費電力量に幅がある要因

・代表的な要因は外気温と供給量の2つ

・外気温をはじめとした特定条件下における設備メーカー側のデータの蓄積が不足しており、現状では、消費電力の事前把握は困難

・水素供給量の影響が大きいことは明白。一方で、小型ステーションであり、1台のFCVの計画走行距離が何らかの影響で増減した場合の設備側消費電力の振れ幅が大きく、事前にそれらを予測することは困難

必要な再エネ発電設備容量

・消費電力量の事前把握が困難なため、必要な再エネ発電設備容量を把握することも困難

・再エネ価値の外部調達による追加的対応を可とする柔軟な対応が必要

経済性

・設備のコストに課題があり、現状では、代替前(ガソリン⇒水素)との比較において投資回収はできない

・材料費低下に向けた検証、及び量産効果によるコスト目標明確化が必要

4.まとめ

 各補助対象者における実績、設備メーカーヒアリング、有識者検討会を踏まえ、技術的検証結果をまとめた。

  • 現時点において、設備メーカー側のデータの積み重ねが不十分であることから、再エネ水素ステーションの消費電力量を精緻に見積もることは出来ず、同様に必要な再エネ発電設備容量の精緻な見積もりも出来ないことを意味する。

  • 再エネ100%電力による水素製造を実施するには、再エネ設備を直接的に利用するのみならず、再エネ価値の外部調達による追加的対応等を可とする柔軟な対応が必要。

  • 設備コスト的にも、現時点において投資回収の目途は立たない。

 これらのことから、再エネ水素ステーションについては、補助金による普及促進を図る段階になく、設備メーカーによる設備の消費電力量の精査、コストダウンに向けた取組が必要であり、このため、環境省としては、「地域再エネ水素ステーション導入事業」については令和2年度より事業を廃止している。環境省としては、このような事態を生じさせたことを重く受け止め、今後同様の事態を繰り返すことのないよう、新たな事業を実施する際には事前に技術的な実効性について確認することを徹底し、再発防止に万全を期してまいりたい。