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研究課題別評価詳細表

I. 事後評価

事後評価  1.  全領域共通・領域横断部会(第1部会)

研究課題名:【A-1001】埋立地ガス放出緩和技術のコベネフィットの比較検証に関する研究(H22〜H24)
研究代表者氏名:山田 正人((独)国立環境研究所)

1.研究実施体制

(1)埋立地ガス放出緩和技術の温室効果ガス排出抑制機能の比較評価に関する研究
(2)埋立地ガス放出緩和技術の浸出水制御機能の比較評価に関する研究
(3)準好気性埋立技術の東アジア地域への適応化に関する研究

2.研究開発目的

研究のイメージ各種埋立技術のコベネフィット性能を評価するため、技術情報を集積する。比較対象とする埋立地ガス放出緩和技術としては、Dry Tomb型埋立技術(メタンガス回収利用)、準好気性埋立技術に加え、デフォルトとして衛生埋立技術、また最近の技術として浸出水を埋立地に返送するバイオリアクタ型埋立技術、動力を用いて大気を導入する好気性埋立技術を取り上げる。これらの技術において、埋立地内外における温室効果ガス(メタン、亜酸化窒素)と浸出水の汚濁負荷(有機炭素、窒素)の生成と消費を制御する因子は、微生物による有機物分解を律する温度、酸素と水分である。これらパラメータとした長期的な炭素と窒素の三相における分配と移動を、現場観測とともに、テストセル、ライシメータ、カラム等の様々なスケールでの実験で把握し、冷帯・温帯に位置する先進国とは条件が著しく異なり、途上国が集中する東アジアの熱帯域における気候条件下において、IPCC Waste Modelの改善と拡張を意識して定式化する。


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■A-1001 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/a-1001.pdfPDF [PDF232KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

 嫌気的雰囲気と好気的雰囲気が共存する埋立地内での生物反応由来の環境負荷を、温室効果ガスおよび水系への負荷の両面から評価可能なモデルが提示された。これまで欧米や日本の環境条件における特定の埋立工法の評価モデルは存在したが、他地域や他技術に対しては拡張して適用されていたことで、実際の現象を表現する上では限界があった。本研究で提示されたモデルでは、複数の異なる埋立地管理手法を比較可能であること、ならびにこれまであまり評価地域として対象にされてこなかったアジア地域への技術導入の効果が可能であること、などの点で高い新規性を有している。
 廃棄物埋立地からの亜酸化窒素排出に関する報告は世界的に見てきわめて乏しく、埋立層における排出挙動に関する知見はほとんどない状況である。本研究で得られた成果は、亜酸化窒素の排出が我が国の埋立地においては非常に稀であり排出量の寄与としては小さいこと、ならびにその排出メカニズムとしては嫌気的生成と好気的生成の双方に由来することが示された。廃棄物埋立地あるいは投棄地の維持管理手法が亜酸化窒素排出挙動に大きく影響することが示され、埋立地の緩和効果を検証する上で貴重な知見が提供されたと考えられる。
 熱帯地域の条件下で実験を行うことにより、同地域において準好気性埋立を機能させる第一の因子が降水浸透量と浸出水排水量の制御であることを実証的に示した。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会A-1001(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
 環境省の開催する温室効果ガス排出量算定法検討会において、廃棄物分野における排出量算定に用いられるモデルの更新やパラメータについての情報提供を行った。環境省および国立環境研究所の主催する「アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」を通じて、廃棄物分野の温室効果ガス排出量算定の高度化に関する情報提供を行った。特に、算定モデルの選定、排出係数の地域特異性、ならびに活動量データの精緻化による信頼性の向上について本研究成果の実例を交えて紹介し、アジア各国に向けた情報発信を行った。
 環境省の「CDMを利用したコベネフィット実現促進・支援事業委託業務におけるコベネフィットCDM事業検討会」において、温室効果ガス削減技術をアジア地域に移転する際における留意点について、専門的見地からの意見の具申を行った。環境省および国立環境研究所の主催する「アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」を通じて、廃棄物分野の温室効果ガス排出量算定の高度化に関する情報提供を行った。特に、算定モデルの選定、排出係数の地域特異性、ならびに活動量データの精緻化による信頼性の向上について本研究成果の実例を交えて紹介し、アジア各国に向けた情報発信を行った。
本研究により、「準好気性埋立構造」の地球温暖化効果ガスの削減効果と浸出水による周辺環境への汚濁負荷低減効果が定量化されたことで、本埋立構造がCDM事業としてUNFCCに認可されるための重要な情報源となった。これにより、廃棄物処理処分、特に埋立処分のための財源がない国々へ、埋立処分に特化した資金が投入され、埋立地の改善による周辺環境負荷の低減が可能となり、延いては、地球全体の環境保全に寄与した。
<行政が活用することが見込まれる成果>
 IPCCの次期排出量算定ガイドラインの改訂、およびIPCC第五次評価報告書における緩和効果の記載に向けた情報提供を行う。

4.委員の指摘及び提言概要

 CDM事業における埋立構造への本研究からの情報提供が行われ、UNFCCCによって有効活用されるという結果が生み出されれば、十分な行政ニーズに適合した研究成果がでたと判断できる。具体的な政策ニーズに合致した重要な研究であり、現地のデータを集積したことだけをとっても十分な意義が認められる。あえて言えば、これをCDM事業としてUNFCCに認可させるためには、特に欧米などの海外で発表論文に基づいた様々な活動が必要である。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【RFb-1102】播磨灘の栄養塩異変の解明と栄養塩流入負荷の変動要因の研究(H23〜H24)
研究代表者氏名:石塚 正秀(香川大学)

1.研究実施体制

(1)陸圏負荷量変動の総括と沿岸環境との関連解明
(2)陸域からの栄養塩負荷量変動

2.研究開発目的

研究のイメージ  播磨灘の栄養塩濃度が低下し、ノリの色落ちやカキの質の低下など、水産業が深刻な状態になり、打撃を受けているがその原因が明らかではない。本研究では、陸起源の栄養塩流入に着目し、播磨灘の栄養塩異変の原因究明と植物プランクトンの生物量と種組成に与える影響を明らかにするために、1)陸域からの栄養塩負荷量の推定、2)下水処理水放流など人間活動との関係を調査・解析する。そして、3)現況の総量規制の妥当性に対する科学的根拠の提示を目指すものである。栄養塩異変の原因解析の達成目標は1)播磨灘に河川等から流入する窒素、リン負荷量を明らかにする。2)観測データのない河川流量を推定し、当該水域の水質の南北偏差の要因を明らかにする。3)下水放流量を調査し、河川負荷量、海域水質の関係を明らかにする。4)流出モデルにより、河川から海域への栄養塩負荷量の時間変化を推定し、播磨灘および備讃瀬戸海域との比較において、栄養塩、プランクトン種組成に与える変動要因を、洪水出水時も含めて明らかにする。これにより、栄養塩異変の原因、要因を明らかにする。


図 研究のイメージ        
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■RFb-1102 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFb-1102.pdfPDF [PDF358KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

 これまでに総量として用いられてきた全窒素や全リンに対して、それらの溶存態・懸濁態といった形態別の特徴を明らかにした。この成果は、河川水質と海域水質の栄養塩バランスや海域における植物プランクトンによる栄養塩摂取の時間的速度を明らかにする上で重要な知見である。具体的には、平水時に、河川水のTNに対するDIN、DON、PONの割合はそれぞれ、約7割、約2割、約1割であることが分かった。また、この割合は河川と海域で異なることが分かった。また、TPに対するDIP、DOP、PPの割合はそれぞれ、約4割、約2割、約4割であることが分かった。一方、出水のピーク時には、PONがTNの6割まで増加し、PPはTPの9割まで増加する結果が得られた。
 播磨灘の北側から流入する河川水は、平水時には播磨灘の北側に分布し、備讃瀬戸への影響も示唆された。一方、出水時には播磨灘中央部、とくに淡路島沿岸に河川水が広がることが分かった。つまり、播磨灘は北部と南部で特徴が異なっており、海域を分けて考えることが必要である。一方で、播磨灘北部の影響が備讃瀬戸にも及んでおり、灘・湾・瀬戸の連続性と分割性について今後、検討することが必要である。また、これらの特徴は、平水時と出水時においても違いがみられることから、出水の特徴(規模、回数)を考慮した検討も必要である。
 出水時における栄養塩形態は平水時と大きく異なり、懸濁物が多くなり、海域においてより広範囲に広がることから、海域流入後の懸濁態の挙動も重要であることが示唆される。
 以上より、植物プラントンやノリの生育に必要な栄養塩の形態は溶存態であることから、形態を調べることが重要である。短期的には出水時を含めた負荷量を明らかにする必要があり、また、長期的には出水時に流入した懸濁態の海域における分解・沈降などの形態変化を明らかにする必要がある。
播磨灘流域圏における発生負荷量の特徴として、生活系負荷量は、COD・TN・TPのすべての項目において播磨灘北部沿岸(播磨域)を中心とする人口の集中している地域に多く集中していることが分かった。また、下水道整備により、人口増加に伴う生活系負荷量の増加が抑制され、下水道整備の進んだ沿岸域における負荷が減少していることがわかった。産業系負荷量は、COD・TN・TPのすべての項目において、沿岸部および加古川下流および明石川下流の臨海部、揖保川や市川、加古川流域の河道沿いに集中して分布していることがわかった。分類をみると、沿岸部では、食品製造業や鉄鋼業、輸送機械工業が発達しており、揖保川流域では革工業、加古川流域では繊維工業がそれぞれ盛んであることがわかった。土地系負荷量は、CODは水田、TN・TPは水田とその他農用地において高い負荷量を示すことから、加古川中下流域、河道に沿った場所、淡路島において高い値を示すことがわかった。
 人口や工業出荷額が80年代・90年代にかけて増加したが、発生負荷量(とくに生活系)は減少しており、下水道整備等生活排水処理施設の普及の効果が大きい結果が示された。
 土地系COD負荷量はわずかに増加傾向、土地系TN負荷量は減少傾向、土地系TP負荷量はわずかに減少していることがわかった。土地系COD負荷量が増加している原因は、原単位の最も小さい森林の減少による影響が大きく、土地系TN・TP負荷量の減少に影響を与えている原因は原単位の最も大きい水田とその他農用地の減少である。土地系負荷量は、近年、生活系および産業系の負荷量が減少していることにより、総負荷量に与える影響が相対的に大きくなっており、どのような値の原単位を使うのか十分な検討が必要である。
 また、明石川を対象とした詳細な検討の結果、以下のことが明らかとなった。a)1970年後半と2000年後半を比較すると、3つ支川におけるBOD負荷量は約84%、COD負荷量は約69%減少する結果が得られた。b)下水処理水を含めた明石川流域から海域へのBOD負荷量は約40%減少したが、COD負荷量は減少していない(約6%増加)結果が得られた。c)1970年代から2000年代にかけて人口が約3倍増加したことを考えると、人口増加に合わせて下水道整備を進めることで、河川の有機汚染が抑制され、下水道による負荷の抑制効果は非常に大きいことがわかった。d)陸域からの負荷流入という視点で海域のCOD濃度に与える影響を考えると、i) 下水道によるCOD削減がBODと比較して進んでいない点、ii) 河川水質のCOD濃度が低下していない点、iii) CODの形態として溶存態(D-COD)が多い点が考えられた。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RFb-1102(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
 今後、学会発表もしくは学術論文を通じ、成果の広報・普及に努める。
<行政が活用することが見込まれる成果>
 近年、河川水質が改善傾向にある中で、河川水中の窒素やリンの形態特性を明らかにすることで、総量として基準を定めている排出規制や河川・海域の環境基準の検討に対して、溶存態に着目した環境基準の考え方を整理する上での一つの知見を提供するものと考えられる。
 また、灘・湾・瀬戸の連続性と分割性について知見を示した。これらの特徴は、平水時と出水時においても違いがみられることが明らかとなったことから、出水の特徴(規模、回数)を考慮した検討に対して一つの知見を提供することができた。播磨灘では、平水時と出水時で河川水の広がり方が異なるため、複雑であるが、播磨灘を南北で分けることが必要である。逆に、播磨灘北部と備讃瀬戸を連続した水域とみなすことも考えられる。結果的には、高栄養塩の河川水がどのように時間をかけて海域を移動するのかを考慮することが必要である。
下水道整備に伴い負荷量が大きく削減されている状況が示された。また、下水処理場の除去率を変化させることで、仮に、漁業生産量が最大であった1985〜88年頃に近づけるとすると、COD負荷量について、2005年の下水処理場における除去率を60〜70%までに下げることができる可能性が示唆された。TN負荷量は、除去率を下げずに、現状維持がよい結果が得られた。したがって、窒素の観点から考えると、高度処理の必要はないと示唆される。TP負荷量は除去率を70%まで下げることができる可能性が示唆された。海域における水質変化を詳しくみる必要があるが、陸側の視点から、下水処理場の総量規制や河川水質の基準策定に対して、陸からの負荷と海域の生態系との関係(バランス)をどのように取るべきであるのかについて一つの知見を提供することができた。なお、ここでの検討結果については、生活系以外の発生源からの負荷とのバランスも考える必要がある。
 地理情報システム(GIS)を用いることで、より詳細な面的情報を利用した発生負荷量の推定を行うことができ、その算定手法を示すことができた。とくに、下水道等整備範囲を考慮することで、広域的な発生負荷量の推定に対して、より分かりやすい情報を国民に提供できる。
 また、下水道の放流水の水質について、明石川では有機物は他の支川と同程度に減少していることから、下水放流水質の基準策定や放流水質の緩和運転の実施に対して、河川と海域のバランスをどのように取るべきであるのかについて基礎的な知見を提供することができた。
 下水水質処理を制御することで流入負荷量を人為的に調整することができ、海域環境を制御することにつながる可能性もある。下水道が河川環境の改善に果たした役割は明らかであるが、今後は、人口減少が進み、社会全体の活動の規模も減少してくることから、自然に負荷量全体が減少することが予想される。また、下水道整備率の向上も進むことから、下水処理施設からの負荷の比率が相対的に大きくなってくるため、河川環境の改善と合わせて海域への負荷供給としてのバランスを考える必要がある。下水処理に関するきめ細かい現状把握を行うことが必要である。

4.委員の指摘及び提言概要

播磨灘の近年の栄養塩濃度低下による水産業への影響を評価するために、発生負荷量の空間分布及び時間変動のデータ整理を行ったことから、基礎的研究成果として評価できる。しかし、陸域からの栄養塩流入の実態を明らかにしたが水産物への影響はほとんど解明されてなく、問題が矮小化されており、期待される結果が明示されていない。特に、行政に役に立つ成果が見られず物足りない。

5.評点

   総合評点: B  ★★★☆☆  


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研究課題名:【RFe-1101】観光客参加型食べ残しメタン発酵温泉エネツーリズムの構築のための研究(H23〜H24)
研究代表者氏名:多田 千佳(東北大学)

1.研究実施体制

(1)温泉熱を利用したメタン発酵システムの高効率化の検討
(2)観光客参加型生ゴミ回収・処理システムの構築
(3)メタン消化液の効率的な利用
(4)温泉地域へのエネツーリズムのシステム評価とそれに基づいた感度分析

2.研究開発目的

研究のイメージ  本研究の目的は、温泉地域での生ゴミの資源化のために小規模のメタン発酵システムの導入を検討する。それには消費エネルギーを含む環境負荷を低減することが不可欠であり、これを①加温に必要なエネルギーを温泉の熱を利用すること、②運搬に必要なエネルギーは観光客が観光の一環として生ゴミの運搬に取り組めるようなシステム作り、および③発酵残さであるメタン消化液を積極的に利用することによって達成することを試みる。さらに、その導入から運用まで地域内で協議しながら実規模でおこない、④環境負荷や経済性をモニタリング・評価することで温泉地への小規模メタン発酵システムの導入を核とした低炭素観光(=エネツーリズム)の確立を目指す。


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■RFe-1101 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFe-1101.pdfPDF [PDF176KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

①温泉熱を利用したメタン発酵システムの高効率化の検討
 温泉熱を用いた小型メタン発酵において、原料粉砕なし、間欠原料投入という条件でも、収率80%以上のメタン転換効率を得られることが明らかになった。また、pH調整剤を使用しなくても、運転方法を工夫することで、pH低下がなく、良好な発酵が行うことが実証された。
②観光客参加型生ゴミ回収・処理システムの構築
 エネツーリズムの参加者の約90%が、本システムに賛成、また、またやってみたいと回答があり、エネツーリズムが、今後、ツーリズムとして導入され、定着する可能性が高いことが示唆された。また、このような回答は、日本人だけでなく、外国人においても同様の結果であったことから、国内外のツアーとして活用が可能であると言える。また、エネルギーに対する関心が高まったという回答も高く、本システムが、環境教育効果が高いことが示唆された。
③メタン消化液の効率的な利用
 食べ残し由来のメタン消化液を化学分析と栽培試験をおこなうことで、メタン消化液の利用性に関して注目すべき点について整理がなされた。メタン消化液の肥料性は化学肥料等と重量ベースでは高いとは言えないが、地域で適切に利用することによって、環境負荷を低減することが可能であると考えられた。
④温泉地域へのエネツーリズムのシステム評価とそれに基づいた感度分析
 これまで、温泉熱を利用したメタン発酵そのものの例がないため、それを設置しその実測データに基づいて環境負荷を評価したことにより、今後はこの試算に基づいて新たに環境負荷を試算できることから学術的には意義深い。この技術を地域に適用した場合の環境負荷および経済性についてのデータを収集して試算をおこなったことも重要である。温泉メタン発酵システムが分散型エネルギー生産システム、且つ、廃棄物処理システムとして、大規模システムに比較して、メリットがあることも試算から新たに見出された。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RFe-1101(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果> 
 特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
 本システムは、第4次環境計画のキーワードに入っている「自然共生」、「低炭素」、「循環」「安全」、「環境教育」「参画・恊働」に貢献するシステムである。具体的には、温泉利用が「自然共生」、システム全体で実現可能な消費エネルギー・温室効果排出削減は「低炭素」、食べ残しのエネルギー化と液肥利用による作物栽培が、「循環」「安全」に、エネツーリズムによって、「環境教育」、地域住民、観光客の「参画・恊働」につながる。
日本国内に、本システムを導入可能と考えられる源泉は、源泉温度42℃以上の全国13860カ所源泉である。これらの場所に、同システムを導入した場合には、低く見積もって200 tCO2/yearの削減の可能性がある。また、個人とバイオマスエネルギー、資源循環型システムを体験を通して直結させる環境教育効果、また、ツアーとして観光地の集客等による地域経済活性化も見込める。
 上記を踏まえ、環境政策提言として、① 温泉地における分散型小型メタンシステムの導入推進、② 環境技術を核としたエネツーリズムの推進が求められる。

4.委員の指摘及び提言概要

 地域による影響などを考慮しないで、早急な結論を導いているようにも思えるが、ユニークな実験的取り組みとして、環境教育的な効果もあったとは思われる。また、様々な情報発信手段を介し、研究成果を誰にも分かり易い内容で公表してきた実績は評価に値する。キーワード「温泉・食べ残しゴミ・メタン発酵・液肥利用・エネツーリズム」の「温泉」の熱を「太陽光」などに変えればもっと大きな意味で観光地全体に広げることが可能であろう。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【RFf-1101】溶融塩電解精製による太陽電池用Siのリサイクルおよび製造方法の開発(H23〜H24)
研究代表者氏名:大石 哲雄((独)産業技術総合研究所)

1.研究実施体制

(1)溶融塩電解精製による太陽電池用Siのリサイクルおよび製造方法の開発

2.研究開発目的

研究のイメージ  上述の背景から、本研究ではSiを低コストかつ効率的にリサイクルするプロセスとして溶融塩を用いた新規な電解精製法を検討する。プロセスの詳細は後述するが、Cu-Si液体合金に不純物を含むSiを溶解して陽極とし、Al-Si液体合金を陰極として溶融塩中で電解精製を行う。両電極に液体合金を用いることで、従来の溶融塩電解でしばしば問題になっていた電解浴からの汚染を大幅に低減できるうえ、連続化および工業化が容易である。また、精製効果が十分高ければ安価で低純度なSiから高純度Siを製造する方法としても期待できる。ただし、これまでの研究では原理的な確認に留まっており、不純物挙動などの不明な点が多いため、本研究では以下の課題に取り組んだ。
・他の手法で除去が困難とされるB, Pや、それ以外の主要な不純物と予想されるAg, Ti, Mgを中心に電解中の不純物挙動を把握する。
・模擬試料や廃太陽電池パネルから回収したSi、あるいは市販の低純度Siを用いて電解精製を行い、不純物との分離性を評価する。
一方で、リサイクルプロセスとしての実用性を考慮する上で環境負荷の定量評価は不可欠であり、そのためには将来的な需給予測および現行プロセスと比較した本プロセスの環境負荷評価などが必要である。そこで、いくつかのシナリオを想定し、本プロセス導入による環境負荷低減効果を概算した。


図 研究のイメージ        
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■RFf-1101 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFf-1101.pdfPDF [PDF441KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

溶融塩電解を利用したSi製造プロセスの研究例はいくつかあるものの、リサイクルを目的とした研究例はほとんど見られず、特に実際の太陽電池モジュールから回収したSiの組成分析や塩酸による前処理の検討、さらにそれを実際に用いた電解精製実験などは世界的にも先進的な取り組みと言える。また、本プロセスではアノード、カソードともに液体合金を用いた電解精製を採用しており、これは世界的にも類例のないプロセスである。本研究では、これについて電流効率や精製効果を実測し、いくつかの因子の影響も明らかにしている。残念ながら現時点での精製効果は目標とする太陽電池級Siの基準を満たしていないが、ある程度高い精製効果が認められた点、太陽電池モジュールから回収したSiセルに特有のAg、Pbなどの不純物に対し、比較的良好な精製効果が得られた点、工業化に適した3層での電解を実際に行ったうえ電流効率も示した点など、いずれも世界に先駆けた成果である。
環境負荷評価については、太陽光発電システムのLCA適用例は国内外で数多くある中で、特にリサイクルに着目してLCAを行った事例は世界的に見ても少ない。そのような中で、本研究は製造プロセスとリサイクルプロセスの組み合わせをLCAで評価するとともに、現実の時間軸を考慮しないLCAの限界を解決するために新たにMFAの適用も行った。以上の取り組みは世界的にも先進的であり、得られた結果も本研究で検討したプロセスを実社会に適用する際に貢献するものである。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RFf-1101(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
本研究で検討したプロセスに限らず、廃棄太陽電池からSiをリサイクルする上で問題となる充填剤(EVA:エチレンビニルアセテート)について、これまで定性的な議論に留まりがちであったところを実際のデータとして示した点は、今後太陽電池のリサイクルシステムを設計していくうえで有用なデータになると判断される。また、本研究で検討したプロセスの実用性は現時点で未知数だが、将来的に太陽電池リサイクルシステムの一部として利用されることになった場合は、本研究成果がその基礎的知見として活用されると期待される。
また、本研究のLCA結果を積極的に活用することで、関係する消費者、企業、自治体に対して、本研究で検討したプロセスの環境性能を定量的に示すことができ、本プロセスの実社会への導入を推進することが期待できる。また、本研究で開発したMFAは将来のSi廃棄量を予測することができ、この数値情報は、本技術に限らず類似技術を導入する際に不可欠な施設規模、施設量などの製造・リサイクル計画の基礎情報として貢献することが期待できる。

4.委員の指摘及び提言概要

 廃棄太陽電池の低コストリサイクル方法の開発という社会的ニーズの高い問題について新たな試みを行ったことは評価できる。最終目標とする純度には至っていないこと、またデータの解析が十分に行われていないことなど、今後の研究の拡大と進展が望まれる。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【RFe-1201】環境面を強化したポストMDGsの開発とその実現のための国際制度に関する研究(H24〜H24)
研究代表者氏名:蟹江 憲史(東京工業大学)

1.研究実施体制

(1)既存のMDGsの包括的評価と今後の方向に関する研究
(2)環境面を強化したポストMDGsの可能性に関する研究
(3)ポストMDGs実現のための持続可能な開発のガバナンスに関する研究

2.研究開発目的

研究のイメージ 2015 年に達成期限を迎えるミレニアム開発目標(MDGs)につづく国際目標としての持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)と、その実現に必要なガバナンスのための国際制度枠組み検討へむけ、本研究では、関連分野の研究者の学際的な研究体制、体系的な研究計画を立案することを目的とした。MDGs については、貧困レベル等の改善、先進国援助の増進、多様なステークホルダーの参加の促進等が評価される一方、そもそも途上国を主な対象とした開発に焦点を当てているため「持続可能な開発」の3つの側面(経済、環境、社会)に十分に対応していないとの評価もある。持続可能な社会構築には、環境、経済、社会面でバランスのとれた発展が必要だという前提のもと、MDGs 及びポストMDGs に関する国際論議動向を的確に把握し、今後の研究方針を検討する。


図 研究のイメージ        
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フィージビリティー検討という性格を踏まえ、国内検討委員会や、地球変化に関するガバナンスに関する国際研究プロジェクトIHDP 地球システムガバナンス・プロジェクトとの連携により、専門家を招致し、調査内容・結果のピア・レビューを行うといった手法を導入し、最新知見を収集した。
 本研究は現在進行中の国際政策過程に深くかかわるものであり、環境政策への高い貢献が期待できる。2012 年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)では既にSDGs の策定が合意されたことから、リオ+20 及びその後の過程において、国際・地域・国内といった多様なレベルにおける国際論議過程において、議論をリードしていくための今後の戦略研究に関する体制を構築した。これまで、MDGs の枠を超えた包括的目標の可能性を指摘する声はあったものの、MDGs という目標がその意思決定過程や実施過程に関する論議と一貫して包括的に論議・研究されることがなかった。本研究は、ポストMDGs と持続可能な開発の制度枠組みとを一貫してとらえることにより、アジェンダ設定から実施までを包括的にとらえることで、政策に貢献する的確な研究課題を同定した。

■RFe-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/RFe-1201.pdfPDF [PDF234KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

 現行のMDGs は、貧困削減に係る国際社会の羅針盤的存在となっているが、全体を貫く理念が欠如しており、各目標に対するセクショナリズム的な対応が指摘されているところである。しかしながら、これまでMDGs そもそもの必要性や策定に係る意思決定プロセス等の研究はあまり見られない。また、MDGs の枠を超えたより包括的な目標の可能性に対する指摘はあったものの、SDGs のような「持続可能は開発」を根幹とし、環境、経済、社会の3つの側面を包括的に捉えた体系的な研究はあまり実施されてきていなかった。本研究は、こうした背景を鑑み、現行のMDGs の包括的評価を行うとともに、ポストMDGs の策定プロセスに対して、新たな課題および残された課題、また、環境面を強化した目標をより効果的に組み込むための方策の検討を実施した。また、Nature発表論文にあるように、持続可能な開発概念に地球の制約を取り込むことの必要性を指摘するとともに、新たな定義づけを行ったことの科学的意義は非常に大きいと考える。こうした研究の結果、より体系的かつ包括的なポストMDGs の基盤となりうる判断基準を明らかにした。
 さらにMDGs に関しては、目標がその意思決定過程や実施過程に関する論議と一貫して包括的に論議・研究されることがなかったことが重要な欠点と考えられるが、本研究では、ポストMDGs と持続可能な開発の制度枠組みとを一貫してとらえることにより、アジェンダ設定から実施までを包括的にとらえ、目標実現のためにはグローバル・レベルからローカル・レベルに至る重層的ガバナンスのインタラクションを取り上げる必要があることから、研究対象を国家及び国際機関に限らず、インフォーマルな制度やネットワーク、あるいはパートナーシップの在り方にも視野を広げたことにより、より効果的な今後の目標の在り方及び実施メカニズムの在り方について更なる研究課題を同定した。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RFe-1201(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
 本研究は、これまでの国内外のプロセスへのインプットを活かすとともに、ポストMDGs に係る国際動向を把握し国際的なワークショップ等を開催することで、日本及びアジア地域が先導的役割を期待されている分野を明らかにするとともに、リオ+20及びポストMDGs関連プロセスに対する日本政府(特に外務省及び環境省)のポジション確立のためにインプットを実施した。また、本研究の結果により、こうしたプロセスに対して、MDGsのレビューや既存の持続可能な開発指標等に関して、理論的根拠のある提案を行うための根拠となる基礎を構築し、今後の研究課題を同定した。本研究ではIHDP の国際研究ネットワークと連携をとった研究を実施したことから、国際的研究の文脈においても国際リーダーシップを発揮したと言え、今後続くS-11プロジェクトへの国際的関心を高めた。
<行政が活用することが見込まれる成果>
SDGsに関する政府間オープン・ワーキング・グループ等の国際論議プロセスに向けて、SDGsに関する検討会及び日本政府(主に環境省)の対処方針作成への貢献が期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

 国際的に注目される重要なテーマについて、多方面からの検討を行い、重要な知見の整理を行っている。また、我が国で担当している外務省、環境省に対してもここでの議論・とりまとめが提供され、政策策定にも寄与している点は高く評価出来る。あえて言えば、既存の知見の集約、整理の域にとどまっているほか、既に国連で始まっているSDGsの作業にどのようにコミットしたのか不明である。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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