ビルは“ゼロ・エネルギー”の時代へ

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ZEB化のメリット

ZEBを実現することのメリットには、エネルギー消費量を削減することのほかにも様々なメリットがあります。具体的には、大きく以下の4つのメリットが存在しています。

  1. 1.光熱費の削減: エネルギー消費量の削減に伴い、建物の運用に係る光熱費を削減することができます。
  2. 2.快適性・生産性の向上: 自然エネルギーの適切な活用、個人の好みに配慮した空調や照明の制御などにより、省エネルギーを実現しつつ快適性・生産性を向上させることができます。
  3. 3.不動産価値の向上: ZEBのような環境・エネルギーに配慮した建物は、他の一般的な建築物と比較して不動産としての価値の向上、街としての魅力の向上などにつなげることができます。
  4. 4.事業継続性の向上: ZEBを実現することで、災害等の非常時において必要なエネルギー需要を削減することができ、さらに再生可能エネルギー等の活用により部分的にではあってもエネルギーの自立を図ることができます。

建築物を取り巻く関係者には、公共建築物のオーナー、民間建築物のオーナー、テナント(建物で働く人)、建物を訪れる人など、さまざまな立場のステークホルダーが存在します。ZEB化によって得られるメリットはその立場によって異なるものの、それぞれの関係者に対するメリットが存在しています。

1.光熱費の削減

仮に創エネ設備がなくても光熱費を約40~50%削減できる

50%省エネとなるZEB Readyを実現した場合、標準的なビルと比較して光熱費を大幅に削減することができます。例えば、延床面積10,000㎡程度の事務所ビルを想定すると、40~50%程度※1の光熱費の削減につながります。
この光熱費の削減によるメリットは、建物オーナーが主に使用する公共建築物や自社ビル等と、自らとは異なる入居者が主に使用するテナントビル等とで得られるメリットの範囲が異なってきます。具体的には、以下に示すようにテナントビルの場合にはオーナーとテナントとでそのメリットを分け合うことになり、オーナーとしての光熱費削減メリットは目減りしてしまいます。
そのため、テナントビルのZEB化を行う上では、光熱費の削減メリットだけでなく、その他のメリットも併せて考慮することが必要です。

※1標準ビル、50%省エネルギービルともに、延床面積10,000㎡程度の事務所ビルを想定し、一次エネルギー消費量から光熱費への換算を行いました。電力の換算については、2016年8月現在の東京電力・業務用電力(燃料費調整額・再生可能エネルギー発電促進賦課金含まず)の契約、都市ガスの換算については、東京ガス一般契約の基準単位料金を想定しています。なお、空調・換気・照明・給湯・昇降機のみを対象とし、全体の約3割を占めるOA機器等の消費電力は本試算には含みません。また、実際の光熱費削減量は人員密度や運用条件等によって変化する可能性があります。
出所)環境省、経済産業省、国土交通省、「ビルは“ゼロ・エネルギー”の時代へ。」

ZEB化による光熱費削減の試算の画像

公共建築物、自社ビルの場合

オーナー自らが建物を利用する公共建築物や自社ビルの場合、テナント専有部が存在しない(または小さい)※2ため、光熱費の削減分の多くはオーナーのメリットとなります。
仮に面積当たりの年間光熱費が2,000円/㎡であり、それを50%削減できるとすると、10,000㎡の事務所ビルでは年間1,000万円程度光熱費を削減することも可能です。創エネ設備を設置し、Nearly ZEB、『ZEB』を実現できれば、さらに光熱費を削減することも可能になります。

※2 テナントが入居している公共建築物、自社ビルもありますが、ここではテナントの専有部面積の割合が小さい建物を想定しています。

公共建築物、自社ビルの場合の光熱費削減イメージの画像

テナントビルの場合

テナントに専有部を貸し出すテナントビルの場合、共用部の光熱費削減分がオーナーのメリット、テナント専有部の光熱費削減分がテナントのメリットになることが想定されます。
仮に面積当たりの年間光熱費が2,000円/㎡、レンタブル比が65%という条件で、光熱費を50%削減できるとすると、10,000㎡のテナント事務所ビルでは、オーナーは500万円程度、テナントは1000万円程度光熱費を削減することも可能です。創エネ設備を有していれば、買電量が減少するため、さらに光熱費を削減することもできます。

テナントビルの場合の光熱費削減イメージの画像

2.健康・快適性、知的生産性の向上

執務空間・居住空間の質が重視される社会に

駅からの近さや建物の新しさといった従来から存在する建物の価値に加え、近年は労働環境、労働生産性の向上に向けた働き方改革等の動きともあいまって、健康・快適性や知的生産性といった建物の中で働く人や居住する人、建物を訪れる人にとっての空間の質が重視される傾向が高まっています。
このような空間の質の向上による健康・快適性、知的生産性の向上効果を定量化し、メリットを金額換算するような研究もなされており、その効果は光熱費の削減よりも大きいと言われています。また、CASBEEウェルネスオフィスやWELL認証のように健康や快適性、知的生産性に焦点を当てた認証制度も作られており、空間の質を重視する傾向は今後ますます高まっていくと考えられます。
また、「1.光熱費の削減」では、テナントビルにおいては、オーナーにとっての光熱費の削減によるメリットは目減りしてしまうため、他のメリットと組み合わせて考えることの必要性について言及しましたが、例えば、健康・快適性、知的生産性の向上によるテナントビルオーナーのメリットとしては、質の高いビルを供給することでテナントを確保し、空室率の低下につなげることができるといったメリットが考えられます。
このように、オーナーとテナントの双方にメリットが存在することは、エネルギー消費量の削減と高い空間の質を兼ね備えた、ZEBのような建築物の普及に向けた好循環を生む大きな要因にもなっていくことが期待されます。

健康・快適性、知的生産性の向上による好循環のイメージ
健康・快適性、知的生産性の向上による好循環のイメージの画像

ZEBなら省エネと快適性の両立が可能に

「エネルギーを多く使用して快適性を確保する」、「快適性を損なってでも我慢してエネルギー消費量を減らす」といったように、建築物の設計・運用によっては、エネルギー消費量の削減と健康・快適性、知的生産性の向上はトレードオフの関係になってしまう可能性があります。
一方で、断熱・遮熱性能等の建物外皮の性能や、熱源設備等の性能が高いZEBであれば、エネルギー消費量を抑えながら、快適性や知的生産性といった居住空間の質をこれまで以上の水準に向上させることもできます。
また、このような省エネと快適性等との両立を図るための技術としては、例えば高性能断熱材や自然換気といった技術が挙げられます。(具体的な技術の例については「ZEBを実現させるための技術」を参照してください)

従来の建物とZEB化した建物のエネルギー消費量と快適性の比較の画像

3.様々な価値(企業価値、不動産価値、まちとしての価値など)の向上

環境・エネルギーに配慮した建物は賃料が向上することも

近年、SDGsESG投資といった企業の環境配慮行動に対して評価を行う機運が高まっており、実際にCDPやGRESBEといった評価スキームも存在しています。(詳しくは「社会的な評価」へ)
加えて、建築物の環境性能評価としては、CASBEEやLEED、BELSといった認証制度が存在し、ZEBのようなエネルギー性能の高い建物は、このような認証制度において高い評価を取得しやすくなります。
ESG投資において企業の評価がその価値(株価等)につながっていくように、建築物のエネルギー性能などに関する認証が建物の価値にもつながっています。具体的には、東京23区内に立地する事務所ビルにおいて、環境認証を取得しているビルは新規成約賃料にプラスの影響を与えるとの調査結果も発表されています※1。
建物オーナーにとっては、前述の光熱費削減効果や健康・快適性、知的生産性の向上に加え、賃料収入の増加によって、ZEB化にかかる初期投資費用を回収しやすくなります。
テナントにとっては、環境・エネルギーに配慮したビルに入居することが、企業評価スキームにおける評価を高め、企業価値の向上につながる可能性も考えられます。
さらに、環境・エネルギーに配慮した建物は街の顔として、地域の魅力的なまちづくりに貢献することにもつながります。

※1 ZEBロードマップ フォローアップ委員会,  ZEB設計ガイドライン【ZEB Ready・中規模事務所編】, 2018.4

環境認証の有無による新規成約賃料の差
環境認証の有無による新規成約賃料の差のグラフ

※ (株)ザイマックス不動産総合研究所「環境マネジメントの経済性分析」(2015)での研究をベースに、新規成約賃料を立地・規模・新しさ・スペック・成約時期・環境認証の有無で説明するヘドニックモデルを構築し、このモデルに標準的なオフィスビルの属性値を代入することで、環境認証の有無別の新規成約賃料を推定している。
※ 標準的なオフィスビル:都心3区に所在、延床面積5,000坪、地上階数12階、基準階面積250坪、最寄駅からの徒歩分数3分、築年数15年、OAフロアあり、個別空調あり、機械警備あり、未リニューアル
出所)ザイマックス不動産総合研究所

4.事業・生活・地域の継続性の向上

災害等の非常時におけるエネルギー自立性を向上させることにもつながる

建築物における防災という観点からは耐震性が重要であることは従来より認識されていますが、建物の機能を維持するためにはエネルギーが必要不可欠です。もし創エネルギー設備があれば、非常時でも一定のエネルギーを自給自足することができ、事業継続性の向上に役立ちます。また、創エネルギー設備を有していない場合であっても、断熱性能の高い外皮やエネルギー消費効率の高い設備などによって、建物機能の維持に必要なそもそものエネルギー需要を抑えることで非常時のエネルギー自立性の向上につながります。
建物で働き、暮らす人々にとって、もしもの時にも必要最低限の機能を維持できるエネルギーが確保されていることは、日々の生活を送る上での安心につながり、企業としての事業活動、市民としての生活の継続性を向上させることに加え、地域の防災拠点としても貢献することが可能になります。

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