ビルは“ゼロ・エネルギー”の時代へ

ZEB普及目標とロードマップ

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ZEB普及目標とロードマップ

2050年カーボンニュートラルの実現に向けたZEB化の必要性

我が国は2020年10月に、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。また、2021年5月には地球温暖化対策推進法の一部を改正する法律が成立し、2050年までのカーボンニュートラルの実現が基本理念として規定されました。

カーボンニュートラルを実現する為には、業務部門(事務所ビル、商業施設などの建物)のCO2削減が重要です。業務部門からのCO2排出量は、2019年度時点で我が国全体の約2割を占めています。また、1990年度以降の経済成長(実質GDPが28%増加)に対して、産業部門からのCO2排出量は24%減少したにも関わらず、業務部門からのCO2排出量は48%増と大幅に増加しています。このように、業務部門は他部門に比べ増加が顕著であることから、徹底的な省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの活用によるCO2削減が我が国にとって喫緊の課題となっています。

こうした背景から、2021年10月に閣議決定された地球温暖化対策計画では、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減するという中期目標と部門別内訳が示されており、業務部門においてはエネルギー起源CO2排出量を同年度比51%削減するといった家庭部門の66%に次いで厳しい目標が設定されています。そして、建築物については「2050年のカーボンニュートラル実現の姿を見据えつつ、2030年に目指すべき建築物の姿としては、現在、技術的かつ経済的に利用可能な技術を最大限活用し、新築される建築物についてはZEB基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指す」ことが掲げられています。

我が国における部門別のCO2排出量の推移と2030年のCO2削減目標
日本の実質GDPと部門別CO2排出量の推移のグラフ日本の部門別CO2排出量と2030年のCO2削減目標の画像。出所)国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィス、日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」のデータを基に作成

ZEBの普及促進、業務部門の脱炭素化に向けては、これまでにも政府全体として様々な取り組みが実施されてきました。例えば、2015年12月に経済産業省資源エネルギー庁の傘下に設置された「ZEBロードマップ検討会」より公表された「ZEBロードマップ」ではZEBの現状と課題、及び対策の方向性が整理され、公表後も継続的にロードマップの改定が行われてきました。また、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、国土交通省・経済産業省・環境省の傘下に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策のあり方検討会」が、内閣官房の傘下に「国・地方脱炭素実現会議」が設置され、それぞれにおいて住宅・建築物における脱炭素社会の方向性、地域主体による公共建築のZEB化の促進等について議論が行われ、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」、「地域脱炭素ロードマップ」としてとりまとめられました。

ZEBの普及促進に関する主なロードマップ

会議体 発表資料 主な内容(3.については建築物に関わる内容のみを抜粋)
1 ZEBロードマップ検討会、ZEBロードマップフォローアップ委員会 2020年、2030年に向けたZEBの普及促進に関する取組・施策
2 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会 2050年カーボンニュートラルを見据えた、2050年、2030年に目指すべき住宅・建築物の姿
3 国・地方脱炭素実現会議 2050年カーボンニュートラルを見据えた、2030年までに集中して行う地方創生に資する省エネ建築物普及促進に関する取組・施策

「ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ」で掲げるZEB関連の目標・施策

ZEBの実現・普及に向けた現状と課題、並びにそれに対する対応策の方向性について検討することを目的として、2015年4月に「ZEBロードマップ検討会」が設置されました。本検討委員会では、2015年12月に検討結果をとりまとめた2030年度までのロードマップを公表しました。

このロードマップの内容を踏まえ、これまでに「ZEB設計ガイドライン・パンフレット」の整備の他、ZEBプランナー及びZEBリーディング・オーナー登録制度、各種実証・補助事業といった施策が講じられています。

その後、2016年7月には、当該ロードマップのフォローアップを行うことを目的として、「ZEBロードマップフォローアップ委員会(以下、「本委員会」という。)」が設置されました。本委員会では、ロードマップに係る課題と対応の方向性について継続的に議論を行っており、その成果を「ZEBロードマップフォローアップ委員会とりまとめ」として公表しています。

ZEBの実現・普及に向けたロードマップ
ZEBの実現・普及に向けたロードマップの画像 経済産業省資源エネルギー庁「ZEBロードマップフォローアップ委員会とりまとめ」(2018年5月)

また、2021年4月には、2020年目標の達成を含めた現状や、2020年度の本委員会の活動により得られた公共建築物のZEB化に向けた取組、広報施策の強化に関する成果についてのとりまとめが「ZEBの更なる普及促進に向けた今後の検討の方向性等について」として公表されました。本報告では、ZEBの普及の現状として2020年目標は達成できている一方で、今後ZEBの普及推進策をを検討する際には、2030年度目標のみならず2050年のカーボンニュートラルも考慮に入れる必要があるとされています。

「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ」で掲げるZEB関連の目標・施策

2050年カーボンニュートラルの実現という野心的な目標の達成に向けて、バックキャスティングの考え方により2030年、2050年を見据えた住宅・建築物におけるハード・ソフト両面の取組と施策の立案の方向性を議論することを目的として、2021年4月に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策のあり方検討会」が設置されました。2021年8月に公表されたとりまとめでは、2030年、2050年に目指すべき住宅・建築物の姿(あり方)とそれを踏まえた省エネ対策の進め方が示されました。

2030年に目指すべき住宅・建築物の姿として、「新築される住宅・建築物についてはZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されているとともに、新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入されていること」が掲げられました。また、カーボンニュートラルの実現を目指す2050年の目指すべき住宅・建築物の姿としては、「ストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されているとともに、その導入が合理的な住宅・建築物における太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となること」とされました。

上記の目指すべき姿の実現に向けて、2030年までの省エネ対策強化の進め方として①省エネ性能の底上げ(ボトムアップ)、②省エネ性能のボリュームゾーンの引き上げ(レベルアップ)、③より高い省エネ性能を実現する取り組みの促進(トップアップ)、の3つの方針が示されました。このうち、ZEBに関連する内容としては、以下のロードマップのとおり、①のボトムアップの一環として中大規模建築物については遅くとも2030年までに省エネ基準をZEB基準の省エネ性能に引き上げ・適合義務化することの他、②のレベルアップの一環として2022年度に建築物省エネ法に基づく誘導基準や低炭素建築物等の認定基準をZEBレベルに引き上げること、が掲げられています。

国や地方自治体等の公的機関は、こうした取り組みを率先的に実施していくと共に、既存ストック対策としての省エネ改修や太陽光発電設備の設置などを推進することとされています。

脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ
脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップの画像 出所)国土交通省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会 とりまとめ」(2021年8月)を基に一部加筆

「地域脱炭素ロードマップ」で掲げるZEB関連の目標・施策

2030年度削減目標及び2050年カーボンニュートラルという野心的な目標を達成するためには、国と地方の協力によって国全体で取り組むことが不可欠です。そこで、特に2030年までに集中して行う取組・施策を中心に、地域の成長戦略として進める脱炭素の工程と具体策を示した「地域脱炭素ロードマップ」が「国・地方脱炭素実現会議」で2021年6月に策定されました。

本ロードマップでは、2021年からの5年間を地域脱炭素の対策強化の集中期間として、政策を総動員して取り組みを加速することとされています。具体的には、2030年までに以下に示す脱炭素の基盤となる8つの重点対策を全国で実施することを掲げています。

このうち、ZEBに関連する対策としては、①屋根置きなど自家消費型の太陽光発電を導入すること、③公共施設など業務ビル等において省エネを徹底し、更新や改修時にZEB化を推進すること、④住宅・建築物の省エネ性能等を向上することが挙げられています。国は法令に基づく制度の施行、ガイドラインの策定や人材・技術・情報・資金の積極的支援により、地域におけるこれらの重点対策の実施に協力するとしています。

地域脱炭素ロードマップの重点対策(赤字がZEB関連対策)
地域脱炭素ロードマップの重点対策の画像 出所)内閣官房「地域脱炭素ロードマップ」(2021年6月)より作成
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