ビルは“ゼロ・エネルギー”の時代へ

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ステークホルダー間の関わり

ZEBをつくり、適切に運用していくためには、オーナーやテナント以外にも様々なステークホルダーが協力する必要があります。
ここでは、ZEBの企画から運用・改修までの各ステップにおいて、各ステークホルダーに求められる取り組みについて解説します。

ZEBの各ステップで求められるステークホルダー別の取り組みの画像

参考:
BSCxA 建築設備コミッショニング協会, コミッショニングとは
エコチューニング推進センター, エコチューニングとは?特徴とメリット(事業者の方へ)
エコチューニング推進センター, エコチューニングとは?特徴とメリット(ビルオーナー、官公庁の方へ)

公共・民間オーナー

建物の企画から改修まで常に密接に関わり続けるオーナーには、各ステークホルダーをつなぐ中心としての役割が期待されます。

(企画)

ZEB化による様々なメリットと初期投資費用のバランス等を考えながらZEB化の検討を始めます。設計を始める前の企画段階でも、設計者やコミッショニング業者等の専門家と協力することで詳細なエネルギー性能について検討することができます。ZEB化には通常の建物の設計・施工とは異なるノウハウが必要となることもあるため、設計・施工を分離発注するか一括発注するかの選択も重要です。また、設計した性能を十分に発揮するためには運用方法の検討も重要です。公共建築物であれば、民間の運用ノウハウを生かしたPFI事業といった選択肢も考えられます。

(設計)

設計者からの提案でZEB化が実現するケースもあれば、オーナーの希望によってZEB化が実現するケースもあります。限られた予算の中でどこまでの性能なら実現可能か、設計者と相談しながら検討を進めることが重要です。

(売買・賃貸・契約)

社会的な環境意識の高まりから、今後建物の環境面やエネルギー面での性能を重視して入居先を選ぶテナントが増える可能性があります。テナント側の意識が変わっていった場合、環境認証制度などを取得しそれを積極的に情報公開することがテナント誘致に有利に働くようになることも考えられます。

(運用)

設計した性能を十分発揮するためには、適切な運用をしなくてはなりません。エコチューニングによって設備・システムの適切な運用改善を行うことで、大きな追加投資をせずにエネルギー消費量や光熱費を削減できる可能性があります。適切な運用をするためには、建物の運用状況を把握している運用業者や建物の利用者であるテナントと協力することが重要です。

(改修)

新築の建物でなくても、ZEB化改修や省エネ改修によって様々なメリットを享受することができます。テナントビルの場合、初期投資を負担するのがオーナーであるのに対し、光熱費削減等のメリットを享受するのが主にテナントであるという課題もありますが、グリーンリースのようにオーナーとテナントが協力することで、双方にとってメリットのある形で改修を進めることも可能です。

設計者

ZEBを実現するための技術的な専門家として、オーナーに積極的な提案や情報提供を行うことが期待されます。

(設計)

ほとんどのオーナーにとってZEBは馴染みの薄い概念であるため、ZEB化によるメリットも十分に理解されているとは限りません。設計者からの提案によってZEB化が実現したケースもあり、専門家である設計者からの提案はZEB化実現のために非常に重要です。

(運用)

設計した性能を十分発揮するためには、適切な運用をしなくてはなりません。適切な運用方法に関する情報提供や、運用実績の分析など、設計~竣工の間だけでなく、運用が始まってからも継続的にオーナーのサポートを行うことも重要です。

(改修)

既存の建物を改修し性能向上を行うには、オーナーや運用業者との運用データのやりとりや、施工業者との図面のやりとりなど、新築とは異なるノウハウが必要となります。また、実際の運用状況を考慮し、適切な設備のダウンサイジングを図るなど、新築時の設計にこだわることなく、改修の提案をすることが重要です。

施工業者

(施工、改修)

どれだけ性能の高い建物を設計しても、それが実現しなくては意味がありません。施工業者は設計者と綿密にコミュニケーションを取りながら、設計された性能を実現できるよう施工を行うことが求められます。また、複数のステークホルダーが協力し合うコミッショニングを行う上で、どのように性能を実現したか、実際にどの程度の性能が実現できたかを記録することも重要です。

仲介業者

(売買・賃貸・契約)

現在のテナントが建物を選択する際の基準は、駅からの近さや賃料、広さといった要素が主となっていますが、今後社会の環境意識が高まるにつれて、環境・エネルギー性能の高さを重視するテナントが増える可能性があります。そのような社会が実現した場合には、仲介業者は建物の環境・エネルギー性能に関する情報をオーナーからテナントへ仲介する役割も求められます。また、環境・エネルギー性能の高い建物のメリットを十分に理解し、テナントに対して説明していくことで、性能の高い建物を選択するテナントを増やしていくといった市場形成上の役割も期待されます。

運用業者

(運用)

設計した性能を十分発揮するためには、適切な運用をしなくてはなりません。建物全体のエネルギー消費量などの運用状況を把握することのできる運用業者は、オーナーやテナントに対して運用改善の提案を行うことが期待されます。

(改修)

改修時も運用時と同じように、運用業者の方から運用実績に基づく提案を行っていくことが期待されます。

テナント

(売買・賃貸・契約)

ZEBのようなエネルギー性能の高い建物は、光熱費が安い、快適性が高いといったテナントが享受することのできるメリットが多くあります。また、近年のESG投資やSDGsなどといった企業の環境・エネルギー面への取り組みを評価する機運の高まりを踏まえると、どのような建物に入居しているのかということが、企業としてのエネルギー消費量を減らすという直接的なメリットに加え、性能の高い建物に入居していることをPRできるというようなメリットにもつながっていく可能性があります。

(運用)

設計した性能を十分発揮するためには、適切な運用をしなくてはなりません。建物全体を管理するオーナーや、日々の運用状況を把握できる運用業者と協力し、適切に建物を利用することで、エネルギー消費量や光熱費を削減しつつ、快適性の高い居住・執務空間を実現していくことが重要です。

(改修)

照明器具や空調設備などには耐用年数が存在し、故障・稼働停止には至らない場合であっても時とともに性能は劣化していきます。そのため、建物の設備は適切なタイミングで更新していくことが必要となります。このような設備更新を行うことは基本的にはオーナーの役割ではありますが、更新による効果(省エネ・光熱費低減)を享受するテナントも、オーナーと協力して改修を行うグリーンリースのような取り組みを進めていくことが重要です。

コミッショニング

企画~運用の各プロセスで情報を記録し、要求性能を実現する

建物の建築設備は一品生産のオーダーメイドであるため、画一的な性能を発揮する工業製品と異なり、実際の性能を確認して、“本来の性能”を発揮させることが非常に重要です。この建築設備の“本来の性能”を実現するためのプロセスのことをコミッショニングと言います。特にZEBの場合には、建築設備以外の建物外皮なども含めて多面的に性能を実現する必要があるため、企画・設計・施工・引き渡し・運用の各フェーズを通して、要求性能の明文化、要求性能を達成する記録の文書化、さらに関係者間でそれらを共有するといった一連のプロセス(コミッショニング)の実施が望まれます。

新築建物の場合は、企画・設計・施工・引き渡し・運用の各フェーズを通して、明文化された要求性能が実現されていることを検証します。

既存建物の場合は、運用実態を反映した要求性能を新たに作成し、それを達成するための調査・提案を行い、調整・改修によって要求性能が実現されていることを検証します。

コミッショニングの流れの画像

出所)BSCxA 建築設備コミッショニング協会, コミッショニングとは

エコチューニング

導入した設備・システムの運用改善等によって要求性能を実現する

エコチューニングとは、建物の快適性や生産性を確保しつつ、設備機器・システムの適切な運用改善等を行うことです。上述のコミッショニングでの項目でも述べた通り、ZEBを設計しても、適切な運用がなされていなければ十分な効果は得られません。上述のコミッショニングは企画~運用の各プロセスで記録・検証を行うという考え方ですが、エコチューニングは運用段階の改善に特化した考え方です。

既存設備・システムの運用改善等によって省エネを目指すため、初期投資の必要な大型最新設備の導入に頼ることがなく、既存建物でも比較的容易に取り組むことができます。

エコチューニング実行による効果の画像

出所)環境省、エコチューニング認定制度運営ガイドライン(第1版)を基に作成

グリーンリース

オーナーとテナントが共同出資して改修時の性能向上を実現

グリーンリースとは、ビルオーナーとテナントが協働し、不動産の省エネなどの環境負荷の低減や執務環境の改善について契約や覚書等によって自主的に取り決め、取り決め内容を実践することをいいます。

一般に建物を高性能化する場合、高性能化にかかる初期費用はビルオーナーが負担することとなります。しかし、テナント専有部が大部分を占めるテナントビルにおいて、光熱費削減による費用削減効果の多くはテナントが享受するため、投資回収の観点からオーナーが取り組みづらい状況となっています。そこで、オーナーとテナントが協力し、テナントの光熱費削減分の一部をオーナーに還元してもらうグリーンリース契約を結ぶことで、オーナーは確実に投資回収ができ、テナントも光熱費を一般的な水準よりも安く抑えることができるため、Win-Winの関係を築くことができます。

グリーンリース導入による効果の画像 出所)国土交通省、グリーンリース・ガイド

事例)環境省グリーンビルナビ、ビルオーナーによる取り組み事例

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