Practice里海づくりの実践
里海づくりは、以下の5つのステップに沿って進めます。
事前準備(現状把握と課題整理)
活動の土台となる地域の「カルテ」を作る
地域の実態を正確に把握して課題を整理することは、里海づくりの目標を考える上での第一歩です。
里海の歴史と現状を知り、その地域が抱える課題と原因に応じた目標を掲げ、目標達成に適した活動を計画するためには、正しく現状と課題を整理・分析する必要があります。
現状把握の視点
自然環境
藻場・干潟の広がりや状態、動植物の生息状況、水質、底質、希少種や外来種の有無や生物多様性の程度、流域全体の物質循環機能を確認します。
社会環境
地域の歴史・文化的背景、人口動態、漁業・観光といった資源の利活用の状況、住民の意識や活動への参加状況を調査して、人と海との関わりかたを把握します。
調査方法
既存の文献・統計資料の活用に加え、漁業者や住民へのヒアリングによる生活者の知恵や地域の歴史的知見の収集と現地調査を組み合わせて実施します。
調査を計画する段階で、活動予定場所の下見や行政・地元漁協との事前調整を行い、調査や活動を実施する上での成約や条件を確認しておくことも重要です。
課題整理の手順
調査結果の整理
収集した自然環境や社会環境の情報を体系的に整理します。整理の際には図やフロー図も用いて、情報の関連性や地域の現状を包括的に把握できるようにします。
劣化要因の推定
現状を整理する中で判明した環境の悪化や資源の減少、社会的な問題などの原因を分析します。同時に地域社会の側面では、担い手不足や生活様式の変化による「人と海の関係の希薄化」の要因を分析します。
原因分析のための調査例
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水質が悪化している場合
陸域からの汚濁負荷の流入などを調査する
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藻場の縮小や劣化が見られる場合
埋立や水質の変化など、人為的な圧力の有無を調査する
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生物多様性や生物生産性が低下している場合
外来種の流入・増加や生息環境の改変が起きていないかを調査する
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人と海との関係が希薄化している場合
人口減少、高齢化、若者の流出など、その地域の社会的な問題を調査する
改善方法の検討
把握した現状や原因から、環境・資源・社会の各側面でどのような改善が可能か検討します。「何を守り・再生し・創出できるか」「資源をどう活用して循環させるか」「誰が参画して支えるか」という視点で改善の方向性を整理します。
改善方法の検討例
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水質が悪化している場合
下水処理の改善や、植林による土壌流出防止などの改善策を検討する
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藻場の縮小や劣化が見られる場合
藻場再生活動の可能性を検討する
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生物多様性や生物生産性が低下している場合
資源管理や栽培漁業の導入、地元消費の促進による好循環づくりを検討する
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人と海との関係が希薄化している場合
地域行事の復活や海洋教育の機会創出、他の地域の協力を得る仕組みづくりなど、地域の自主性を高めて多様な主体が参加できる方法を検討する
課題の抽出
現状と原因、改善方法を踏まえて、解決するべき課題をリストアップします。課題は環境面・経済(資源)面・社会面などカテゴリーごとに整理して、優先度や緊急度、取り組みやすさなどの観点で評価します。
目標設定と計画(将来像の策定)
地域が目指すべき姿を明確にし、具体的な設計図を描く
里海づくりを進めるためには、地域が目指すべき将来像を明確にして、具体的な目標を設定することが重要です。
目標設定にあたっては、地域の自然環境と社会環境の現状や特性を十分に踏まえたうえで、可能な限り定量的かつ具体的に設定することが求められます。数値目標は評価や改善の基準にもなり、順応的管理を行う際の指標になります。
「漁業者と観光事業者による連携」や「人材の受け皿の確保」など、数値目標ではない、具体的なアクションに関わる目標を設定することもあります。
目標の設定にあたっては初期の段階から関係者間で共有し、意見を丁寧に傾聴しながら進めていくことで、将来的な「地域のあるべき姿」を描く合意形成のプロセスとして位置づける必要があります。
目標の設定(KGI・KPI)
KGI(最終目標)
目指すべき将来像(望ましい里海の状態)を示すものです。
KPI(中間指標)
KGIの達成状況を可視化するための複数の指標です。「自然環境」「社会環境」「自治体の施策」「人手の関わり方」の観点から、可能な限り定量的な数値を設定します。
事業計画の策定
環境面、社会面、組織面の要素をバランスよく織り込みながら、いつ・どこで・誰が・何を行うかを明確に定めます。できるだけ定量的な目標値や数値指標を設定することで、客観的に成果を評価できるようにします。
計画時にはモニタリングや順応的管理の仕組みも考慮しておくことで、必要に応じて計画を見直せる柔軟性を持たせ、将来的な目標達成に役立てることができます。
資金源の例
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エコツーリズムや体験観光の開催
里海での自然観察会や体験学習ツアーを企画して、その参加費を活動資金にあてます。里海ガイドの育成や受け入れ態勢の整備もあわせて行うことで、地域の雇用創出にもつながります。
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特産品の開発・販売
里海で獲れた水産物や塩などをブランド化して、高付加価値商品として販売します。売上の一部を環境保全基金に積み立てる仕組みを作れば、利用と保全の好循環が生まれます。
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企業版ふるさと納税・CSR支援
地域の里海づくり活動に共感する企業から寄付金や協賛金を募ります。CSR(企業の社会的責任)やカーボンオフセットの一環として里海への投資を促し、資金面・人材面で協力を得ます。
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地域住民からの協力金・クラウドファンディング
地域説明会などで住民に呼びかけ、小口の協力金や物品の提供を募ったり、インターネット上でクラウドファンディングを実施したりして、資金と支援者を集めます。
里海づくりの実施(活動の展開)
策定した計画に基づき、多様な主体が現場で行動する
KGIやKPIを踏まえた里海づくりを着実に推進するためには、段階的かつ組織的に取組を進めることが重要です。活動で得た成果や課題を海洋教育や利活用に生かし、その結果得られた資金や知見を再び保全活動にフィードバックすることで、持続的な里海づくりを実現します。
現場活動(フィールドワーク)
ごみ回収や栄養塩管理といった物理的・科学的な対策に加え、藻場や干潟などの保全・再生・創出といった生物的な対策を組み合わせたフィールドワークを行います。
海洋教育・普及活動
学校教育や社会教育施設と連携し、地域住民や市民、次世代を対象とした自然観察会や体験学習を実施することで、里海の重要性の理解と将来の担い手育成を図ります。
地域資源の利活用
地産地消の推進や、漁業・観光と環境保全を両立するプログラムの実装などを通じて「ヒト・モノ・資金」を生み出し、海域環境の保全・再生・創出へ還元する好循環を作ります。
コミュニケーションと情報発信
里海づくりの推進には、内部コミュニケーションと外部への情報発信の両面から取り組むことが必要です。
内部コミュニケーション
定例会議や協議会、ワークショップなどによって、関係者間の情報共有と連携を強化します。他の地域の担当者とも協働することで、情報収集とあわせてネットワークを形成することも重要です。
情報発信
SNSやウェブサイトを活用する、ポスターやパンフレットなどの印刷物を公共施設に置く、環境省の「水辺の環境活動プラットフォーム」を活用する、などの手法で、活動の状況や魅力を広く伝えます。地域住民向けには体験イベントや学習会を開催することで、活動を理解してもらうとともに参画を促します。
モニタリング(進捗管理)
活動の効果を客観的なデータで確認する
里海づくりにおけるモニタリングの目的は、KGIやKPIに基づいた活動の進捗状況を把握し、計画が予定通り進行しているかを定期的に確認することです。常に現状を確認しながら、必要に応じて計画を見直していくことで、里海づくりの活動を適切に進めることができます。
継続的な観測
ステップ2で設定したKGI・KPIに基づき、同一地点で数年以上にわたる定期的な観測と記録を継続します。
順応的管理
得られたデータを用いて里海づくりの活動の効果や問題点を評価し、計画内容や実施手法を柔軟に調整していくなど、状況に応じた対応を行います。計画を策定する段階で評価や見直しのスケジュールを定め、定期的に検証する機会をあらかじめ組み込んでおくことも重要です。
透明性の確保
モニタリングの結果は成果を示す客観的な指標になります。行政報告や関係者間の情報共有を行う過程は里海づくりの持続的な改善や、計画の透明性・説明責任の向上にもつながります。
評価および見直し(改善と反映)
モニタリング結果を分析し、活動をアップデートする
里海づくりの評価は、自然環境と社会環境の両面から指標を選定し、多面的な効果も含めて総合的に実施します。モニタリングによる現状把握と、社会的な参画状況の把握を組み合わせることで、計画の進捗状況を明確にして、翌年度以降の活動に反映することが重要です。
自然環境の評価指標例
- 海浜や干潟における植物や生物分布
- 水質環境や底質環境
- 藻場の面積
- 底生生物の種数
- 魚介類の漁獲量
- 朝市、直売所、道の駅などで取り扱われている地域食材
社会環境の評価指標例
- 保全・再生を達成した面積
- 人手や住民の参画度合い
- 地域住民へのアンケート調査
- SNSやウェブサイトへのアクセス・書き込み件数
- 漁業者の収入や就業者数
評価指標を設定する際には、関係者間で共有しやすいことと、計測可能なものにすることの両方を大切にする必要があります。
指標の優先順位や重みづけについては、計画策定時の合意内容を尊重しながらも柔軟に調整できるようにしておきましょう。
