環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第3節 自然資源を活用した地域づくりのあり方

第3節 自然資源を活用した地域づくりのあり方

1 森林資源と「おもちゃ」

 昭和初期、民藝運動を興した柳宗悦は、鑑賞的な美術品と対置する「用の美」として知られる考え方を提唱しました。そこでは、暮らしの中で日常的に用いられてきたありふれた道具の、素朴でむだのない美しさを説いています。大量生産、大量消費という現代の社会経済の中では、この「用の美」の考え方に、当時とはやや異なる響きを感じ取ることができます。すなわち、ものを簡単に使い捨て、資源をむだにする生活の中に「用の美」があり得るのか、と問い直すことは、持続可能な社会のあり方の一端を問い直す作業でもあると考えられるのです。

 我が国では、日用品から伝統工芸品や文化財建造物にいたるまで、さまざまな用途に森林資源を利用してきました。木でできた「おもちゃ」も、積み木や人形をはじめ、多くの種類を見ることができます。「おもちゃ」は、日常生活の中で、こどもが直に手をふれ、心ゆくまで使い、たとえ使わなくなっても後生大事にされ得るものであるという点で、「用の美」を見いだし得るものと考えられます。

 「用の美」の考え方は、身近に手に入る自然資源を加工して利用されてきた日用品としての民具が、戦前にはすでに、徐々に失われつつあることに対する危惧の現れであったとも解釈することができます。「おもちゃ」をとりまく地域的な取組は、地域に暮らす人が自ら、その生活の中で、自然の恵みを直に手をふれながら利用するという、自然資源の持続的な利用の原点に立ち返ろうとするものかもしれません。


東京おもちゃ美術館の様子・百年玩具「漆塗りの積み木」

2 地域の共有財としての水資源(滋賀県高島市針江地区「かばた」の事例)

 滋賀県高島市針江地区の集落では、古くから今にいたるまで、地下水を生活用水として利用しています。地下水を利用している家庭では、湧水を上水として利用するための取水口を設けているほか、水源から湧出して外の水路に流れている水を自宅内部に取り込んで食器を洗うために利用し、それをまた水路に排水しています。このような洗い場を設ける場合、水源の上流部で利用された水を下流に住む者が利用することになるため、上流の家庭と下流の家庭できめ細かなコミュニケーションが必要となります。

 この集落においては「かばた」と呼ばれる地下水利用の施設が用いられ、これがコミュニケーションを成立させる要素となっています。現在でも、約110か所が使用されています。当該地区では、排水を汚さない暗黙のルールが互いの信頼のもとで有効に働いています。

 このような伝統的な集落の水資源管理によって、この集落では、古くからある「かばた」を備えた家屋がならぶ文化的な景観が維持されています。ただ、これらの家屋は日常生活を営む一般家庭のものであるにもかかわらず、この景観を見学しようとして多くの人が集落を訪れ、屋内の「かばた」をのぞき込むケースがあいつぎました。そのため、この集落では、見学のルールを自らつくり、住民自らが「かばた」の見学に訪れる人のガイドをしています。

 このように、地域の生活に必要な自然資源について、その価値を自ら見いだして理解し、自らのルールで適切に管理することによって、持続的に利用しつづけようとする努力は、自然資源の持続的な活用の観点からは、最も基本的で重要な行動原理であると考えることができます。


針江集落の様子と「かばた」