環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第3章 元気で豊かな地域社会づくり>第1節 震災からの復興に向けて

第3章 元気で豊かな地域社会づくり

第1節 震災からの復興に向けて

 復興構想7原則においては、被災地の広域性・多様性を踏まえ、地域の潜在力を活かし、技術革新を伴う復旧・復興を目指すことの重要性が指摘されています。これらの取組は、被災地に次の時代をリードする経済社会を実現する可能性を追求するだけではなく、日本経済の再生を目指すものでなければなりません。また、地域において「絆やつながり」を持ち続けることの重要性も指摘されています。

1 東北における再生可能エネルギーの導入

(1)再生可能エネルギーの導入ポテンシャル

 再生可能エネルギーの導入促進は、気候変動の緩和につながるだけでなく、自立分散型のエネルギー供給システムが構築されることによって、災害やエネルギーリスクに強い地域づくりを可能とするものです。

 環境省では、今後の再生可能エネルギー導入普及施策の検討のための基礎資料とすべく、「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」を平成21年度から実施しています。本調査の結果、各再生可能エネルギーの導入ポテンシャルは、非住宅系太陽光発電が1.5 億kW、風力発電については陸上が2.8億kW、洋上が16億kW、中小水力発電(河川部と農業用水路、3万kW 以下)が1,400万kW、 地熱発電が1,400万kWと推計されました。なお、これらの推計値は既開発分を含んだ値であることに留意が必要です。

 また、東北地方における再生可能エネルギーの導入ポテンシャルについても、推計が行われています。特に風力発電については高い導入ポテンシャルがあり、最大830億kWh/年の導入可能性(東北電力販売電力供給量と同程度)があると見込まれています。さらに地熱発電についても、九州等と並ぶ限られた適地であるとされています。


東北地方における再生可能エネルギーのポテンシャルについて

(2)再生可能エネルギーを活用した被災地の復興

 東日本大震災では、ライフラインが甚大な被害を受けました。ライフラインの復旧に向け、関係者の懸命な復旧作業が行われましたが、それでもなお、復旧には長い日数を要したため、多くの被災者が不便な環境での避難生活を強いられました。こうした状況の中、ペレットストーブや太陽光パネル等、自立分散型の暖房器具や電源の効果が示されたことで、ライフラインの途絶えた状況下での自立分散型の再生可能エネルギーの重要性が広く認識されました。災害に強い地域づくりという観点からも、公共施設等を始めとした避難所への自立分散型の再生可能エネルギーの導入が注目されています。

 奥州市では、山間部に残された林地残材と家庭から出る廃食油を収集し燃料化して、市内の温泉施設の電気や熱として活用しています。具体的には、林地残材はチップ化して木質ガスを抽出し、廃食油はバイオディーゼル燃料化しています。それらを混焼して、コジェネレーションシステムで電気と熱を作り、電気は施設内で使用し、熱は温泉の加温に使用して二酸化炭素を削減しています。


岩手県奥州市で導入されている木質バイオマスガス化コージェネレーションシステム

2 地域の森林資源を生かした復興の取組

 東日本大震災では多くの被災者が仮設住宅に避難せざるを得ない状況となり、現在でも11万人が仮設住宅における不便な暮らしを強いられています。多くの仮設住宅は、トタンや鉄などの金属を主な素材にした無機質なプレハブであり、長期間、日常生活を送ることは、居住性や快適性の側面からも良好とはいえないものです。この観点から、地域産材を利用した木造の仮設住宅が注目を集めています。

 岩手県住田町では、震災前から地域産材を使用した仮設住宅の開発が進められてきました。東日本大震災の発災後、住田町は、発災から2ヶ月半後には、この地域産材を使用した仮設住宅93棟を町内3団地に建設し、隣接する陸前高田市や大船渡市などからの被災者を受け入れました。


岩手県住田町における木造仮設住宅

 地域の人々が、自らが暮らす地域の森林資源の価値を見いだし、地場産業を再構築するためのたゆまぬ努力を続けてきた成果を、できる限り被災者支援に活用するという形で行動に移した点で、ボランティアやほかの自治体をはじめとする多くの人の共感を得ました。これが、人と人とを新しい絆で結び、地域の活性化に大きく貢献すると考えられます。

3 三陸地域の自然公園等を活用した復興の考え方

 中央環境審議会自然環境部会は、環境大臣から三陸地域の自然公園等を活用した復興の考え方について諮問を受け、各地域において環境省が開催した意見交換会の結果も踏まえ、平成24年3月9日に答申を取りまとめました。答申では、三陸復興国立公園の創設をはじめとしたさまざまな取組を通じて、森・里・川・海のつながりにより育まれてきた自然環境と地域のくらしを後世に伝え、自然の恵みと脅威を学びつつ、それらを活用しながら復興することを「国立公園の創設を核としたグリーン復興 -森・里・川・海が育む自然とともに歩む復興-」として、今後の復興の基本理念としています。そして、今後の具体的な取組として、以下の7項目を「グリーン復興プロジェクト」として位置付け、関係者と連携・協働して、国際的な情報発信も含めて推進していくことを提言しています。


震災前と変わらない陸中海岸国立公園の景勝地

 [1]三陸復興国立公園の創設(自然公園の再編成):陸中海岸国立公園を中核として、青森県八戸市の蕪島から宮城県石巻市・女川町の牡鹿半島まで及びその周辺の自然公園を対象に一つの国立公園として再編成し、自然公園の適切な利用を通じて地域振興を図り復興に貢献する。

 [2]里山・里海フィールドミュージアムと施設整備:再編成した国立公園における被災した利用施設の復旧・再整備を進めるとともに、自然の恵みや地域固有のくらしを伝えるための施設整備、自然の脅威を学ぶための場の整備を進める。また、国立公園を核として、周辺部の里山・里海、集落地を含めて一定のまとまりをもつ地域をフィールドミュージアムとして位置付け、面的にさまざまな資源を活用し、地域の活性化を進める。

 [3]地域の宝を活かした自然を深く楽しむ旅(復興エコツーリズム):農林水産業との連携、大震災の体験の語り継ぎや被災地域のガイドツアー、ジオツアー等と連携したエコツーリズムを推進し、滞在型の観光を進める。

 [4]南北につなぎ交流を深める道(東北海岸トレイル):地域の自然環境や地域のくらし、震災の痕跡、利用者と地域の人々等、さまざまなものを「結ぶ道」を長距離自然歩道として設定し、歩くスピードによる深い自然体験と、新たな気づきの場を提供し、滞在型の観光を進める。

 [5]森・里・川・海のつながりの再生:豊かな生態系を保護地域として保全することと、森・里・川・海のつながりの重要性等について、多くの人に体験を通じて深く理解してもらうことを進める。また、地震・津波の影響により干潟のような環境になっている場所や、地震・津波の影響を受けた干潟・アマモ場といった生態系について、地域の理解が得られた場合は、自然の回復力を助ける形での再生の取組を進める。

 [6]持続可能な社会を担う人づくり(ESD)の推進:自然環境の成り立ちや自然のメカニズム、森・里・川・海のつながり、地域のくらし、自然の脅威と防災や減災などをテーマに、持続可能な社会を担う人づくり(ESD:持続可能な開発のための教育)を進める。

 [7]地震・津波による自然環境への影響の把握(自然環境モニタリング):生物多様性保全上重要な地域において、地震・津波による自然環境への影響の調査、変化し続ける自然環境のモニタリングの継続、研究者等が収集した情報も含めた情報の集約、整理・公開、総合的な地震・津波の自然環境への影響の評価を進める。