環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第4章 東日本大震災・能登半島地震からの復興・創生>第1節 東日本大震災からの復興に係る取組

第4章 東日本大震災・能登半島地震からの復興・創生

第1節 東日本大震災からの復興に係る取組

2011年3月11日、マグニチュード9.0という日本周辺での観測史上最大の地震が発生しました。

この地震により引き起こされた津波によって、東北地方の太平洋沿岸を中心に広範かつ甚大な被害が生じるとともに、東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の事故によって大量の放射性物質が環境中に放出されました。また、福島第一原発周辺に暮らす多くの方々が避難生活を余儀なくされました。

環境省ではこれまで、除染や中間貯蔵施設の整備、特定廃棄物の処理、帰還困難区域における特定復興再生拠点区域及び特定帰還居住区域の除染や家屋等の解体、被災地の復興・再生に向けた事業を続けてきました(写真4-1-1)(図4-1-1)。

写真4-1-1 中田宏環境副大臣と勝目康環境大臣政務官の伊澤双葉町長との面会の様子
図4-1-1 事故由来放射性物質により汚染された土壌等の除染等の措置及び汚染廃棄物の処理等のこれまでの歩み

放射性物質による汚染からの環境回復の状況については、2024年12月時点の福島第一原発から80km圏内の航空機モニタリングによる地表面から1mの高さの空間線量率は、引き続き減少傾向にあります(図4-1-2)。

図4-1-2 東京電力福島第一原子力発電所80km圏内における空間線量率の分布

また、福島県及び周辺地域において環境省が実施しているモニタリングでは、河川、沿岸域の水質及び地下水からは近年放射性セシウムは検出されておらず、同地域の湖沼の水質について、2023年度は164地点のうち2地点のみで検出されました。

他方、東日本大震災からの復興・再生に向けて、引き続き取り組むべき課題が残っています。福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた取組を始め、環境再生の取組を着実に進めるとともに、自然再興・炭素中立・循環経済といった環境の視点から地域の強みを創造・再発見する未来志向の取組を推進していきます。

第4章では、主に帰還困難区域の復興・再生に向けた取組、福島県内除去土壌等の県外最終処分に向けた取組、復興の新たなステージに向けた未来志向の取組、ALPS(アルプス)処理水に係る海域モニタリング、リスクコミュニケーションの取組を概観します。

1 帰還困難区域の復興・再生に向けた取組

福島第一原発の事故後、原発の周辺約20~30kmが警戒区域又は計画的避難区域として避難指示の対象となりました。避難指示区域は、2011年12月以降、空間線量率等に応じて、三つの区域(避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域)に再編され、このうち、避難指示解除準備区域及び居住制限区域では、順次、除染等の事業が進められ、2017年3月までに面的な除染が完了し、2020年3月までには全域で避難指示が解除されました。帰還困難区域については、将来にわたって居住を制限することを原則とする区域とされ、立入が厳しく制限されてきましたが、空間線量率が低減してきたことなどを受けて、2017年に福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)が改正され、帰還困難区域内に特定復興再生拠点区域を設定し、除染等や避難指示解除を進められるようにする制度が整えられました。

そして環境省では、2017年12月から特定復興再生拠点区域の除染や家屋等の解体を進めてきました。特定復興再生拠点区域における除染は概ね完了しており(2024年12月末時点)、また、家屋等の解体の進捗率(申請受付件数比)は約89%です(2024年12月末時点)(図4-1-3)。

図4-1-3 特定復興再生拠点区域の概要(2025年3月末時点)

これらの取組を踏まえ、2023年11月までに6町村(葛尾村、大熊町、双葉町、浪江町、富岡町、飯舘村)における特定復興再生拠点区域全域の避難指示が解除されました(図4-1-4)。さらに、特定復興再生拠点区域外についても、2021年8月に「特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた避難指示解除に関する考え方」が原子力災害対策本部・復興推進会議で決定され、2020年代をかけて、帰還意向のある住民が帰還できるよう帰還に必要な箇所を除染し、避難指示解除の取組を進めていくこととしています。この政府方針を実現するため、「福島復興再生特別措置法」を2023年6月に改正し、特定避難指示区域の市町村長が避難指示解除による住民の帰還及び当該住民の帰還後の生活の再建を目指す「特定帰還居住区域」を設定できる制度を創設しました。環境省では、2023年12月から特定帰還居住区域の除染や家屋等の解体を進めています。

図4-1-4 特定復興再生拠点区域の除染等の取組

2 福島県内除去土壌等の最終処分に向けた取組

除去土壌等の最終処分については、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法(平成15年法律第44号)において、中間貯蔵に関する国の責務として、福島県内除去土壌等の中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずることが規定されています。県外最終処分の実現に向けては、2016年4月に取りまとめた「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」及び「工程表」に沿って取組を進めています(図4-1-5)。

図4-1-5 中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略の概要

県外最終処分の実現に向けては、最終処分量を減らすことが鍵であり、復興再生利用(東京電力福島第一原子力発電所の事故による災害からの復興に資することを目的として、再生資材化した除去土壌を適切な管理の下で利用すること(維持管理することを含む。))等の取組が重要であることを踏まえ、福島県飯舘村長泥地区における農地造成実証事業(環境再生事業)や中間貯蔵施設内における道路盛土実証事業を実施し、再生利用を安全に実施できることを確認しています。また、2024年9月10日に国際原子力機関(IAEA)専門家会合の成果を取りまとめた最終報告書がIAEAから公表されました。本報告書においては、「再生利用及び最終処分について、これまで環境省が実施してきた取組や活動はIAEAの安全基準に合致している。」、「今後、専門家チームの助言を十分に満たすための取組を継続して行うことで、環境省の展開する取組がIAEA安全基準に合致したものになる。これは今後のフォローアップ評価によって確認することができる。」との結論が示されました。このような再生利用の実証事業等の取組の成果やIAEAの最終報告書、国内の有識者からの助言等を踏まえ、2025年3月に平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則(平成23年環境省令第33号。以下「放射性物質汚染対処特措法施行規則」という。)の一部を改正して除去土壌の復興再生利用基準を策定するとともに、同月に復興再生利用に係るガイドラインを公表しました。

最終処分の方向性の検討については、これまでに実証してきた減容技術等の評価を踏まえ、技術の組合せを検討するとともに、最終処分場の構造、必要面積等に係る複数選択肢を提示しました。また、最終処分に関する基準の検討については、2025年3月に放射性物質汚染対処特措法施行規則の一部を改正して除去土壌の埋立処分基準を策定するとともに、福島県外における除染により発生した除去土壌の埋立処分に係るガイドラインを公表しました。

全国民的な理解醸成等については、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現、復興再生利用の推進に向けて、その必要性・安全性等に対する全国民的な理解・信頼の醸成を図ること、特に地元自治体、地域住民等による社会的受容性の段階的な拡大・深化を図ることを継続的に進めることを目標としており、SNSの活用や飯舘村長泥地区や中間貯蔵施設に係る一般の方向けの現地見学会の開催、さらに大学生等への環境再生事業に関する講義、現地見学会等を実施するなどの若い世代に対する理解醸成活動も実施しています。

これまでの取組の成果を踏まえ、2025年3月に「復興再生利用の推進」「最終処分の方向性の検討」「全国民的な理解醸成等」を3本柱とする「県外最終処分に向けたこれまでの取組の成果と2025年度以降の進め方」を示しました。

除去土壌の再生利用等による最終処分量の低減方策、風評影響対策等の施策について、政府一体となって推進するため、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議が設置され、第1回が2024年12月に開催されました。議長である官房長官の指示に基づき、本会議において2025年春頃までに「再生利用の推進」「再生利用等の実施に向けた理解醸成・リスクコミュニケーション」「県外最終処分に向けた取組の推進」に係る基本方針を取りまとめるとともに、2025年夏頃までにロードマップを取りまとめ、各府省庁が一丸となって再生利用の案件を創出するべく、取組を進めていきます。

3 復興の新たなステージに向けた未来志向の取組

環境省では、福島県内のニーズに応え、環境再生の取組のみならず、自然再興、炭素中立、循環経済といった環境の視点から地域の強みを創造・再発見する「福島再生・未来志向プロジェクト」を推進しています。本プロジェクトでは、2020年8月に福島県と締結した「福島の復興に向けた未来志向の環境施策推進に関する連携協力協定」も踏まえ、福島県や関係自治体と連携しつつ施策を進めていくこととしています。

炭素中立に向けた施策としては、福島での自立・分散型エネルギーシステム導入に関する重点的な財政的支援を「脱炭素×復興まちづくり」推進事業として2021年度から継続して実施しており、2024年度は、計画策定補助を2件、設備導入補助を7件採択しました。さらに、2023年3月に設立した「脱炭素×復興まちづくりプラットフォーム」では、各テーマに応じた個別ワーキンググループを設置し、復興まちづくりと脱炭素社会の同時実現に向けた検討を進めています。

また、全国から集まった学生等が復興の現状や福島県が抱える課題を見つめ直し、若い世代の視点から情報を発信することを目的に、「福島、その先の環境へ。」ツアーを開催するとともに、福島の復興や環境再生の取組を世界に発信することを目的に、COP29にてブース展示を実施しました。

さらに、福島に対する風評払拭や環境先進地へのリブランディングにつなげるため、福島の未来に向けてチャレンジする姿を発信する表彰制度「FUKUSHIMA NEXT」におけるこれまでの受賞者の優れた取組を発信しました。

加えて、福島・環境再生の記憶の継承・風化対策として、未来を担う若い方々と一緒になって福島の未来を考えることを目的とした表彰制度「いっしょに考える『福島、その先の環境へ。』チャレンジ・アワード」を2020年度から引き続き実施しました(写真4-1-2)。

写真4-1-2 いっしょに考える「福島、その先の環境へ。」チャレンジ・アワードの表彰状授与式の様子(2025年3月)

さらに、2019年4月に福島県と共同策定した「ふくしまグリーン復興構想」を踏まえ、優れた自然環境を有する国立・国定公園の魅力向上や、自然資源、歴史や文化、景観、食、温泉等の地域資源を取り入れた国立・国定公園間を広域的に周遊する仕組みづくりなどの取組を進めています。また、これらにより、自然環境の保全と調和を図る適正な利用を推進し、交流人口の拡大を目指しています。2024年度は、尾瀬沼ビジターセンターにおける自然ふれあいイベントの開催や、裏磐梯ビジターセンターの改修工事の実施など、国立公園の魅力向上のための取組を行いました。

2025年3月には「福島、その先の環境へ。」シンポジウムを実施しました(写真4-1-3)。引き続き、福島県との連携をより一層強化しながら、未来志向の環境施策を推進していきます。

写真4-1-3 勝目康環境大臣政務官も参加した「福島、その先の環境へ。」シンポジウムの様子(2025年3月)

4 ALPS(アルプス)処理水に係る海域モニタリング

2023年8月に、多核種除去設備等処理水(以下「ALPS(アルプス)処理水」という。)の海洋放出が開始されました。ALPS処理水の海洋放出に当たっては、トリチウム以外の放射性物質について、安全基準を確実に下回るまで浄化されていることを確認し、取り除くことが困難なトリチウムについては、安全基準を十分に満たす濃度(1,500ベクレル/ℓ未満)まで海水で大幅に希釈した上で、処分を行うこととしています。

環境省では、環境中の状況を把握するため、「総合モニタリング計画」(2011年8月モニタリング調整会議決定、2025年3月改定)に基づき、海水や魚類、海藻類についてトリチウム等の放射性核種の濃度を測定しています(写真4-1-4)。特に放出開始後はモニタリングを強化・拡充し、以前から実施している時間をかけて精密な結果を得る分析(精密分析)に加えて、結果を1週間程度の短時間で得る分析(迅速分析)を高い頻度で実施しています。これらの分析の結果、人や環境への影響がないことを確認しています。

写真4-1-4 海域モニタリングの様子

これらのモニタリング手法の検討や結果に関する評価に当たっては、「ALPS(アルプス)処理水に係る海域モニタリング専門家会議」において専門家による確認・助言を受けることにより、科学的な妥当性を確認しています。

また、我が国の分析能力の信頼性を確認するため、2024年10月には分析機関間比較(ILC)の一環としてIAEA及び第三国分析機関の専門家が来日し、共同での海洋試料採取等を行いました。今後、IAEAにより、我が国、IAEA及び第三国における分析結果の比較・評価が行われます。なお、2023年に実施した分析機関間比較の結果では、IAEAにより、日本の分析機関の試料採取方法は適切であり、海洋環境中の放射性核種の分析に参加した日本の分析機関が、高い正確性と能力を有していると評価されています。さらに、2024年9月、我が国とIAEAとの間で、国際社会に対して更に透明性の高い情報提供を行っていく観点から、関係国の関心を踏まえ、IAEAの枠組みの下で現行のモニタリングを拡充することで一致しました。2024年10月及び2025年2月には、IAEAの枠組みの下での追加的モニタリングの一環として、IAEA及び第三国分析機関の専門家による海洋試料の採取が行われました(写真4-1-5)。

写真4-1-5 IAEAグロッシー事務局長と第三国専門家が海水を採取する様子

引き続き、客観性・透明性・信頼性の高い海域モニタリングを徹底し、その結果を国内外に分かりやすく発信していきます。

5 リスクコミュニケーションの取組

(1)放射線健康影響に係るリスクコミュニケーションの推進

2017年12月に取りまとめられた「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」(復興庁事務局)に基づき、福島県いわき市に設置した「放射線リスクコミュニケーション相談員支援センター」が中心となり、福島県内における放射線不安対策として、住民からの相談に対応する相談員、自治体職員等への研修や専門家派遣等の支援を行っています。加えて、帰還した又は帰還を検討している住民を対象に、帰還後の生活の中で生じる放射線への不安・疑問について、車座意見交換会等を通じたリスクコミュニケーションを実施しています。また、福島県外においても、企業や学校、地域住民の要望に応じた研修会やセミナーを開催しています。

東京電力福島第一原子力発電所の事故後の健康影響について、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)では「放射線被ばくが直接の原因となるような将来的な健康影響は見られそうにない」と評価しています。また福島県「県民健康調査」検討委員会甲状腺検査評価部会においては、「先行検査から検査4回目までにおいて、甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」とまとめています。(甲状腺検査は各対象者に原則2年に1回実施しており、先行検査から本格検査(検査4回目)は2019年度までに実施された検査です。)

このように放射線の健康影響に係る科学的根拠に基づく知見は日々更新されていますが、適時に情報が届かないことで、不安や風評につながっていくおそれがあります。そのため最新の科学的知見を学びながら今の福島を知ることや、様々な情報にまどわされずに適正な判断力で情報を読み解く力を養うことを目的とした「ぐぐるプロジェクト」を2021年7月に立ち上げ、放射線の健康影響に関する正確な情報を全国に分かりやすく発信することで、不安や風評をなくしていく取組を推進しています(図4-1-6)。

図4-1-6 「ぐぐるプロジェクト」ロゴマーク

ぐぐるプロジェクトでは、全国各地でセミナーを開催するほか、学んだことを発信する場として作品コンテストも行っています。学んだ人が自ら発信することで、周りの人に伝わっていくこと、公募による新しい発想からよりよい情報発信につなげていくことを目指しています(図4-1-7)。

図4-1-7 ぐぐるプロジェクトの取組
(2)環境再生事業に関連する放射線リスクコミュニケーション

除染や中間貯蔵施設の整備、特定廃棄物の処理、帰還困難区域における特定復興再生拠点区域及び特定帰還居住区域の整備等の復興・再生に向けた事業を進めると同時に、放射線や地域の環境再生への取組等について分かりやすく情報を提供しています。また、環境再生プラザやリプルンふくしま、中間貯蔵工事情報センターを主な拠点とし、環境再生事業に関連する放射線リスクコミュニケーションに係る取組を実施しています。さらに、高い専門性や豊富な経験を持つ専門家の、市町村や町内会、学校等への派遣、Web等を活用した除染・放射線学習をサポートする教材の配布を実施しています。

2023年度は、放射線に係るリスクコミュニケーションとして、専門家派遣を83回実施しました。

(3)ALPS(アルプス)処理水に係る風評対策

ALPS(アルプス)処理水に係る風評対策のために、原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース(復興庁事務局)において「ALPS(アルプス)処理水に係る理解醸成に向けた情報発信等施策パッケージ」を取りまとめ、政府一丸となった取組を進めています。

この一環として、風評影響の抑制のため、環境省及び関係機関が実施する海域モニタリングの結果について分かりやすく一元的に掲載したウェブサイトを日本語、英語、中国語、韓国語で公開しています。このほか、モニタリング結果公表時の国内外の報道機関への発信やX(旧Twitter)による発信も実施するなど、国内外に広く情報を発信しています。

また、放射線に関する科学的知見や関係省庁等の取組等を横断的に集約した統一的な基礎資料に、ALPS(アルプス)処理水に関する情報を記載しています。

さらに、福島県内・外の車座意見交換会やセミナー等の場において、ALPS(アルプス)処理水に関する説明を行っています。