環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第4章>第2節 能登半島地震からの復興に係る取組

第2節 能登半島地震からの復興に係る取組

2024年1月1日16時10分に石川県能登地方の深さ約15kmでマグニチュード7.6の地震が発生しました。この地震により石川県輪島市や志賀町で最大震度7を観測したほか、北海道から九州地方にかけて震度6強~1を観測し、石川県を中心に、多数の家屋倒壊、土砂災害等により甚大な被害が発生しました。

1 公費解体、災害廃棄物への対応

発災直後、新潟県、富山県、石川県の3県で避難所数は約480か所、約3万人が避難し(1月3日6時時点)、避難所には、食料・衣料等に加えて簡易トイレ等の生活必需品や、仮設トイレ等の避難所環境整備に必要な資材がプッシュ型支援により届けられました。使用済みの簡易トイレや、仮設トイレから回収したし尿については、廃棄物処理施設が被災し稼働を停止したため、収集運搬については、地元の廃棄物処理業者に加え、他の都道府県の自治体職員や廃棄物処理業者の応援を受けながら、広域処理が行われました。

今回の地震による被災家屋からの片付けごみ、全壊・半壊建物の解体に伴う災害廃棄物発生量は石川県内だけでも約410万トンと推計(2025年1月時点)されています。「公費解体・撤去マニュアル」の策定・改定や環境省・法務省連名の事務連絡の発出等により公費解体の申請手続等の円滑化・簡素化を被災自治体に周知したほか、災害廃棄物の知見・経験を有する環境省職員や、災害廃棄物処理支援員(「災害廃棄物処理支援員制度」に登録された自治体職員)等による技術的支援を行うとともに、災害廃棄物中部ブロック広域連携計画等に基づく応援自治体職員派遣により、公費解体の申請受付等の支援を行ってきました。また、解体工事の増加に伴い、各被災市町で仮置場の更なる確保を図るとともに、石川県と連携し、県外の処理先の確保のため、受入れ調整等に取り組み、輸送手段として車両輸送に加え海上輸送や鉄道輸送も活用し、県外・北陸外での広域処理を進めています。さらに、被災市町村の災害廃棄物処理に対し、「災害等廃棄物処理事業費補助金」による財政支援(補助率1/2)を行っており、損壊家屋等の解体・撤去において全壊家屋に加えて半壊家屋を特例的に財政支援の対象とするとともに、国庫補助の地方負担に対して95%の交付税措置を講じるほか、被災市町村の財政力に鑑みて災害廃棄物処理の財政負担が特に過大となる場合に、県が設置する基金を活用して地方負担額を特例的に軽減することにより、円滑・迅速な災害廃棄物処理に向けた支援を行っています。さらに、令和6年能登半島地震の復旧途上において令和6年9月20日からの大雨に続けて被災したことを踏まえ、当該大雨災害による災害廃棄物処理についても、その迅速・円滑な処理の観点から、特例的に、「特定非常災害」に指定された令和6年能登半島地震と同水準の支援を行うとともに、半壊以上の家屋等の解体を支援対象とすることとしました。

2 ペットを飼養する被災者の支援

環境省では、東日本大震災、熊本地震等での経験を踏まえ、2018年3月に「人とペットの災害対策ガイドライン」を策定し、災害時のペットの同行避難や避難所でのペットの受入れ体制の検討及び整備を推奨してきました。

令和6年能登半島地震では、ペットを飼養する被災者の救護・支援のため、避難所等での対策、被災ペットの一時預かり、仮設住宅での対策の3つを中心に対応を行いました。避難所等での対策については、避難所へのトレーラーハウス設置によるペット飼育スペースの確保等を行いました。被災ペットの一時預かりについては、公益社団法人石川県獣医師会が中心となって実施した、被災者のペットの一時預かりの体制構築や、ペットとはぐれた飼い主のための保護された犬猫の情報サイトを民間企業と連携して立上げるなどの支援を行いました。仮設住宅での対策については、石川県や市町に対し、ペット同居可能な仮設住宅の設置についての依頼や助言を行い、仮設住宅でのペット連れの入居が行われています。

3 創造的復興に向けた取組

(1)能登半島の自然資源を活かした創造的復興の推進

令和6年能登半島地震により、能登半島国定公園内において石川県等が整備した園地、歩道等の利用施設が多数被災し、その被害の規模は非常に大きなものとなりました。日本海側最大の半島である能登半島の変化に富んだ長い海岸線を有する能登半島国定公園は1968年に指定され、その海岸景観や自然環境は地域資源としても大変重要なものとなっています。環境省では、能登半島地域の早期の復旧・復興のため、石川県等が行う国定公園内で被災した利用施設の復旧について、補助率の嵩上げ等による支援を行っています。

また、2024年6月に公表された「石川県創造的復興プラン」において、能登の最大の魅力とも言える壮大な自然環境や農山漁村の原風景は、未来へと継承すべきかけがえのない財産であり、里山里海に育まれた多様な生物資源の適切な保全を図ることはもとより、地域資源としてその利活用を促進することとされています。環境省では、「石川県創造的復興プラン」に貢献するため、能登の豊かな自然や風土に触れ魅力を体験することができるロングトレイルの構想策定に向けた助言や、能登半島国定公園や周辺地域における地震に伴い生じた地形や景観資源の変化に関する情報収集等を行い、能登半島の豊かな自然資源を活かしたツーリズムと地域づくりの推進を支援しています。

さらに、能登半島は本州におけるトキの最後の生息地であり、石川県と能登の9市町は2022年に「トキと共生する里地づくり取組地域」の一つに選定され、トキの野生復帰を目指して生息環境や社会環境の整備を進めていましたが、令和6年能登半島地震により、奥能登を中心にトキの生息環境として重要な水田等が被災しました。

「石川県創造的復興プラン」では、そのリーディングプロジェクトとして「トキが舞う能登の実現」が掲げられ、その中でトキの定着に向けた生息環境整備やトキとの共生に向けた社会環境の整備、トキをシンボルとした地域活性化が位置付けられました。これを踏まえ、環境省では、能登半島を始めとした本州でのトキの野生復帰に向けた検討を加速化し、有識者により構成されるトキ野生復帰検討会にて、本州でのトキの野生復帰に向けた考え方や確認事項について整理したほか、本州における放鳥方針や、放鳥後のモニタリング方針についても策定しました。2025年2月に開催した同検討会では、石川県及び能登9市町におけるトキの野生復帰に向けたこれまでの各種取組や、能登地域におけるトキの放鳥計画等が評価・了承されました。これを受け環境省は、令和8年度上半期中をめどに石川県能登地域にてトキの放鳥を行い、野生復帰事業を展開していくことを決定しました(写真4-2-1)。

写真4-2-1 トキの飛翔

今後は、能登半島におけるトキの確実な放鳥と定着の実現に向け、放鳥個体の順化訓練や、放鳥候補地における餌場環境の整備、住民の保全意識向上に向けた普及啓発等の取組を、石川県や関係市町等と緊密に連携して進めていくこととしています。