環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況>第2部 各分野の施策等に関する報告>第1章 地球環境の保全>第1節 地球温暖化対策

第2部 各分野の施策等に関する報告

第1章 地球環境の保全

第1節 地球温暖化対策

1 問題の概要と国際的枠組みの下の取組

近年、人間活動の拡大に伴ってCO2、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、代替フロン類等の温室効果ガス(GHG)が大量に大気中に排出されることで、地球温暖化が進行していると言われています。特にCO2は、化石燃料の燃焼等によって膨大な量が人為的に排出されています。我が国が排出する温室効果ガスのうち、CO2の排出が全体の排出量の約91%を占めています(図1-1-1)。

図1-1-1 我が国が排出する温室効果ガスの内訳(2022年単年度)
(1)気候変動に関する政府間パネルによる科学的知見

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2021年8月から2023年3月にかけて公表した第6次評価報告書において、以下の内容を公表しました。

○観測された変化及びその原因

○将来の気候変動、リスク及び影響

○適応、緩和、持続可能な開発に向けた将来経路

(2)我が国の温室効果ガスの排出状況

2022年度の我が国の温室効果ガス排出量は、11億3,500万トンCO2換算でした(2022年度温室効果ガス排出・吸収量)。発電電力量の減少及び鉄鋼業における生産量の減少等によるエネルギー消費量の減少等から、前年度(11億6,400万トンCO2換算)と比べて2.5%減少しました。また、エネルギー消費量の減少(省エネ等)や、電力の低炭素化(再エネ拡大、原発再稼働)に伴う電力由来のCO2排出量の減少等から、2013年度の排出量(14億700万トンCO2換算)と比べて19.3%減少しました(図1-1-2)。

図1-1-2 我が国の温室効果ガス排出量

2022年度のCO2排出量は10億3,700万トンCO2(2013年度比21.3%減少)であり、そのうち、発電及び熱発生等のための化石燃料の使用に由来するエネルギー起源のCO2排出量は9億6,400万トンCO2でした。さらに、エネルギー起源のCO2排出量の内訳を部門別に分けると、電力及び熱の消費量に応じて、消費者側の各部門に配分した電気・熱配分後の排出量については、産業部門からの排出量は3億5,200万トンCO2、運輸部門からの排出量は1億9,200万トンCO2、業務その他部門からの排出量は1億7,900万トンCO2、家庭部門からの排出量は1億5,800万トンCO2でした(図1-1-3、図1-1-4)。

図1-1-3 CO2排出量の部門別内訳
図1-1-4 部門別エネルギー起源CO2排出量の推移

CO2以外の温室効果ガス排出量については、CH4排出量は2,990万トンCO2換算(2013年度比8.6%減少)、N2O排出量は1,730万トンCO2換算(同13.3%減少)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)排出量は4,610万トンCO2換算(同52.1%増加)、パーフルオロカーボン類(PFCs)排出量は300万トンCO2換算(同2.1%増加)、六ふっ化硫黄(SF6)排出量は210万トンCO2換算(同8.9%減少)、三ふっ化窒素(NF3)排出量は30万トンCO2換算(同77.6%減少)でした(図1-1-5)。

図1-1-5 各種温室効果ガス(エネルギー起源CO2以外)の排出量

2022年度の森林等の吸収源対策によるCO2の吸収量は5,020万トンCO2換算でした。

なお、各数値については、パリ協定下の透明性枠組みにおけるモダリティ・手順・ガイドラインに基づき、温室効果ガス排出・吸収量の算定方法を改善するたびに、過年度の排出量も再計算しているため、以前の白書掲載の値との間で差異が生じる場合があります。

(3)フロン等の現状

特定フロン(クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC))、ハロン、臭化メチル等の化学物質によって、オゾン層の破壊は今も続いています。オゾン層破壊の結果、地上に到達する有害な紫外線(UV-B)が増加し、皮膚ガンや白内障等の健康被害の発生や、植物の生育の阻害等を引き起こす懸念があります。また、オゾン層破壊物質の多くは強力な温室効果ガスでもあり、地球温暖化への影響も懸念されます。

オゾン層破壊物質は、1989年以降、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(以下「モントリオール議定書」という。)及び特定物質等の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(昭和63年法律第53号。以下「オゾン層保護法」という。)に基づき規制が行われています。その結果、代表的な物質の一つであるCFC-12の北半球中緯度における大気中濃度は、我が国の観測では緩やかな減少傾向が見られます。一方、国際的にCFCからの代替が進むHCFC、及びCFC・HCFCからの代替が進むオゾン層を破壊しないものの温室効果の高いガス(いわゆる代替フロン)であるハイドロフルオロカーボン(HFC)の大気中濃度は増加の傾向にあります。

オゾン全量は、1980年代から1990年代前半にかけて地球規模で大きく減少した後、現在も1970年代と比較すると少ない状態が続いています。また、2022年の南極域上空のオゾンホールの最大面積は、南極大陸の約1.9倍となりました(図1-1-6)。オゾンホールの面積は最近10年間の平均値より大きく推移しましたが、これはオゾン層破壊を促進させる極域成層圏雲が例年より発達したことなど、気象状況が主な要因とみられます。オゾン層破壊物質の濃度は依然として高い状態ですが、オゾンホールの規模については、年々変動による増減はあるものの、長期的な拡大傾向は見られなくなりました。モントリオール議定書科学評価パネルの「オゾン層破壊の科学アセスメント:2022年」によると、オゾン全量は、南極では2066年頃に1980年の値に戻ると予測されています。

図1-1-6 南極上空のオゾンホールの面積の推移
(4)気候変動枠組条約及び京都議定書について

国連気候変動枠組条約は、地球温暖化防止のための国際的な枠組みであり、究極的な目的として、温室効果ガスの大気中濃度を自然の生態系や人類に危険な悪影響を及ぼさない水準で安定化させることを掲げています。

1997年に京都府京都市で開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3。以下、国連気候変動枠組条約締約国会議を「COP」という。)で採択された京都議定書は、先進国に対して法的拘束目標達成に活用できる京都メカニズムについて定めています。2008年から2012年までの第一約束期間において、我が国は基準年(原則1990年)に比べて6%、欧州連合(EU)加盟国全体では同8%等の削減目標が課されました。これに対し、同期間の我が国の温室効果ガスの総排出量は5か年平均で12億7,800万トンCO2であり、森林等吸収源や海外から調達した京都メカニズムクレジットを償却することで京都議定書の削減目標(基準年比6%減)を達成しました。

2012年に行われた京都議定書第8回締約国会合(CMP8。以下、京都議定書締約国会合を「CMP」という。)においては、2013年から2020年までの第二約束期間の各国の削減目標が新たに定められました。しかし、米国の不参加や近年の新興国の排出増加等により、京都議定書締約国のうち、第一約束期間で排出削減義務を負う国の排出量は世界の4分の1にすぎないことなどから、我が国は議定書の締約国であるものの、第二約束期間には参加せず、全ての主要排出国が参加する新たな枠組みの構築を目指して国際交渉が進められてきました(図1-1-7)。

図1-1-7 世界のエネルギー起源CO2の国別排出量(2021年)
(5)パリ協定について
ア パリ協定採択までの経緯

2011年のCOP17及びCMP7では、全ての国が参加する2020年以降の新たな枠組みを2015年までに採択することとし、そのための交渉を行う場として「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」を新たに設置することに合意しました。

2015年、フランス・パリにおいて、COP21及びCMP11が行われ、全ての国が参加する温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みである「パリ協定」が採択されました。パリ協定においては、産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求することなどが設定されました。また、主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新することが義務付けられるとともに、その目標は従前の目標からの前進を示すことが規定され、加えて、パリ協定の下で世界全体の気候変動対策の進捗状況を5年ごとに評価すること(グローバル・ストックテイク)、各国が共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受けることなどが規定されました。そのほか、二国間クレジット制度(JCM)を含む市場メカニズムの活用、森林等の吸収源の保全・強化の重要性、途上国の森林減少・劣化からの排出を抑制する取組の奨励、適応に関する世界全体の目標設定及び各国の適応計画作成過程と行動の実施、先進国が引き続き資金を提供することと並んで途上国も自主的に資金を提供することなどが盛り込まれました。

パリ協定の採択を受けて、ADPは作業を終了しました。

イ パリ協定の発効

2016年4月にはパリ協定の署名式が米国・ニューヨークの国連本部で行われ、175の国と地域が署名しました。同年5月には我が国でG7伊勢志摩サミットが開催され、同協定の年内発効という目標が首脳宣言に盛り込まれました。同年9月には米中両国が協定を同時締結したほか、国連主催のパリ協定早期発効促進イベントが開催されるなど、早期発効に向けた国際社会の機運が大きく高まりました。そして同年10月5日には、締約国数55か国及びその排出量が世界全体の55%との発効要件を満たし、11月4日、パリ協定が発効しました。なお、我が国は同年11月8日に締結しました。

ウ パリ協定の実施

2016年11月、モロッコのマラケシュにおいて、COP22、CMP12及びパリ協定第1回締約国会合第1部(CMA1-1。以下、パリ協定締約国会合を「CMA」という。)が行われました。COP22では、パリ協定の実施指針等に関する交渉の進め方について、実施指針を2018年までに策定することなどが決定されました。

2018年12月、ポーランドのカトヴィツェにおいて、COP24・CMP14・CMA1-3が開催されました。COP24では、パリ協定の精神にのっとり、先進国と途上国との間で取組に差異を設けるべきという二分論によることなく、全ての国に共通に適用される実施指針を採択しました。採択された実施指針では、緩和(2020年以降の削減目標の情報や達成評価の算定方法)、透明性枠組み(各国の温室効果ガス排出量、削減目標の進捗・達成状況等の報告制度)、資金支援の見通しや実績に関する報告方法等について規定されました。パリ協定第6条(市場メカニズム)については、根幹部分は透明性枠組みに盛り込まれ、詳細ルールはCOP25における策定に向けて検討を継続することとなりました。

2019年12月、スペインのマドリードにおいて、COP25・CMP15・CMA2が開催されました。COP25では、COP24で合意に至らなかったパリ協定第6条の実施指針の交渉が一つの焦点となりましたが、合意に至りませんでした。

2021年10月より、英国のグラスゴーにおいて、COP26・CMP16・CMA3が開催されました。COP26では、全体決定である「グラスゴー気候合意」として、最新の科学的知見に依拠しつつ、パリ協定に定められた1.5℃に向け、今世紀半ばのカーボンニュートラル及びその経過点である2030年に向けて野心的な気候変動対策を締約国に求める内容のほか、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の逓減及び非効率な化石燃料補助金からのフェーズアウトを含む努力を加速すること、先進国に対して、2025年までに途上国の適応支援のための資金を2019年比で最低2倍にすることを求める内容が盛り込まれました。また、パリ協定第6条の実施指針について合意され、国際枠組の下での市場メカニズム(JCMを含む。)に関するルールが完成しました。二重計上の防止については、我が国が提案していた内容(政府承認に基づく二重計上防止策)が打開策となり、今回の合意に大きく貢献しました。この結果を踏まえて、その他、透明性枠組み(各国の温室効果ガス排出量、削減目標に向けた取組の進捗・達成状況等の報告制度)、NDC実施の共通の期間(共通時間枠)、気候資金等の重要議題でも合意に至り、パリ協定のルール交渉を終え、更なる実施強化のステージへと移りました。

2022年11月、エジプトのシャルム・エル・シェイクにおいて、COP27・CMP17・CMA4が開催されました。COP27では、「緩和作業計画」の策定、パリ協定6条の実施に必要となる事項についての決定、ロス&ダメージへの技術支援を促進する「サンティアゴ・ネットワーク」の完全運用化に向けた制度的取決めについての決定、特に脆(ぜい)弱な国を対象にロス&ダメージへの対処を支援する新たな資金面での措置を講じること及びその一環として基金の設置等が決定されました。また、全体決定である「シャルム・エル・シェイク実施計画」では、グラスゴー気候合意の内容を踏襲しつつ、緩和、適応、ロス&ダメージ、気候資金等の分野で、全締約国の気候変動対策の強化を求める内容が盛り込まれました。特に緩和策としては、パリ協定の1.5℃目標に基づく取組の実施の重要性を確認するとともに、2023年までに同目標に整合的なNDCを設定していない締約国に対して、目標の再検討・強化を求めることが決定されました(写真1-1-1)。

写真1-1-1 首脳級ハイレベル・セグメントでスピーチする岸田文雄内閣総理大臣

2023年11月、UAEのドバイにおいて開催されたCOP28・CMP18・CMA5においては、グローバル・ストックテイクが初めて行われ、パリ協定の長期目標の達成に向けて、世界全体ではまだ軌道に乗っていないことと、1.5℃目標達成のための緊急的な行動の必要性が強調されるとともに、2025年までの世界全体の排出量のピークアウトの必要性が認識されました。そのための具体的な行動として、全ての部門・全ての温室効果ガスを対象とした排出削減目標の策定(我が国は現行NDCで対応済み。なお、2022年度時点で既に約23%削減しており、着実に進捗。)、2030年までに世界全体での再生可能エネルギー発電容量を3倍及びエネルギー効率の改善率を2倍とすること、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の逓減の加速、エネルギーシステムにおける化石燃料からの移行、持続可能なライフスタイルと持続可能な消費・生産パターンへの移行等が合意されました。これらの成果を踏まえつつ、各国は2025年までに次期NDCを提出することが要請されています。

2 科学的知見の充実のための対策・施策

(1)我が国における科学的知見

気象庁の統計によると、1898年から2023年の期間において、日本の年平均気温は100年当たり1.35℃の割合で上昇しています。また、文部科学省と気象庁が2020年12月に公表した「日本の気候変動2020-大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書-」によると、20世紀末と比較した21世紀末の年平均気温が、気温上昇の程度をかなり低くするために必要となる温暖化対策を講じた場合には日本全国で平均1.4℃上昇し、また温室効果ガスの排出量が非常に多い場合には、日本全国で平均4.5℃上昇するとの予測が示されています。

また環境省は、気候変動が我が国に与える影響について、2020年12月に「気候変動影響評価報告書」を公表しました。

気候変動の影響については、気温や水温の上昇、降水日数の減少等に伴い、農作物の収量の変化や品質の低下、家畜の肉質や乳量等の低下、回遊性魚類の漁期や漁場の変化、動植物の分布域の変化やサンゴの白化、洪水の発生地点の増加、熱中症による死亡者数の増加、桜の開花の早期化等が、現時点において既に現れていることとして示されています。また、栽培適地の変化、高山の動植物の生息域減少、渇水の深刻化、水害・土砂災害を起こし得る大雨の増加、高潮・高波リスクの増大、海岸侵食の加速、自然資源を活用したレジャーへの影響、熱ストレスによる労働生産性の低下等のおそれがあると示されています。

(2)観測・調査研究の推進

気候変動に関する科学的知見を充実させ、最新の知見に基づいた政策を展開するため、引き続き、環境研究総合推進費等の研究資金を活用し、現象解明、影響評価、将来予測及び対策に関する調査研究等の推進を図りました。

加えて、2009年1月に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星1号機(GOSAT)(第6章第3節2(1)を参照)は、主たる温室効果ガスであるCO2とCH4の全球平均濃度の変化を継続監視し、2009年の観測開始から現在に至るまで季節変動を経ながら年々濃度が上昇している傾向を明らかにしました。さらに、2018年10月に打ち上げられた後継機となる2号機(GOSAT-2)は、全球の温室効果ガス濃度を観測するミッションをGOSATより継承するほか、新たな観測対象となるCOを観測する機能を用いて燃焼起源のCO2を特定することに貢献しており、今後も各国のパリ協定に基づく排出量報告の透明性向上への貢献を目指します。なお、水循環変動観測衛星「しずく(GCOM-W)」後継センサと相乗りし、温室効果ガス観測精度を飛躍的に向上させた3号機に当たる温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)は2024年度打ち上げを目指して開発を進めています。

また、宇宙空間では軌道上にある使用済みとなった人工衛星やロケット上段等のスペースデブリ(宇宙ごみ)の増加が問題となっています。環境省はGOSATがスペースデブリとして宇宙空間に滞留することがないようにするため、2020年3月にスペースデブリ化防止対策を検討する環境省内検討チームを立ち上げ、同年10月には「今後の環境省におけるスペースデブリ問題に関する取組について(中間取りまとめ)」を公表しました。現在GOSATは順調に運用を継続しており機能面での問題はありませんが、突然の機能停止等に備えて、軌道離脱・停波運用に向けた作業計画書作成の準備や関係機関との定期的な協議などを通じて、引き続き、スペースデブリ化防止のための検討・調整を進めていきます。

世界の政策決定者に対し、正確でバランスの取れた科学的情報を提供し、国連気候変動枠組条約の活動を支援してきたIPCCは、第6次評価サイクルにおいて1.5℃特別報告書(2018年10月公表)、土地関係特別報告書(2019年8月公表)、海洋・雪氷圏特別報告書(2019年9月公表)及び「2006年IPCC国別温室効果ガスインベントリガイドラインの2019年改良」(2019年5月公表。以下「2019年方法論報告書」という。)を公表し、2021年8月から2022年4月にかけて第6次評価報告書第1作業部会報告書、第2作業部会報告書及び第3作業部会報告書をそれぞれ公表しました。その後、2023年3月に第6次評価報告書の統合報告書が公表され、第6次評価サイクルは終了しました。これら報告書は、パリ協定において、その実施に不可欠な科学的基礎を提供するものと位置付けられています。我が国は、第6次評価サイクルの各種報告書作成プロセスに向けた議論への参画、資金の拠出、関連研究の実施など積極的な貢献を行ってきました。その一環として、2019年5月には、前述の2019年方法論報告書の採択を議論するIPCC第49回総会を京都市で開催しました。IPCCのインベントリガイドラインは、パリ協定の実施に不可欠な、各国による温室効果ガス排出量の把握と報告を支えるものですが、本報告書は、2006年に作成したガイドラインのうち、衛星データの利用や、改良が必要な排出・吸収カテゴリーに対する更新、補足及び精緻(ち)化を行ったものです。第7次評価サイクルにおいても、引き続き積極的な貢献を行う予定です。

さらに、我が国の提案により公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に設置された、温室効果ガス排出・吸収量世界標準算定方式を定めるためのインベントリ・タスクフォース(TFI)の技術支援ユニットの活動を支援し、各国の適切なインベントリ作成に貢献しています。第7次評価サイクルにおいても、我が国はTFIの共同議長を引き続き務めています。

国連気候変動枠組条約の目標を達成するための我が国の取組の一つとして、環境研究総合推進費による「気候変動影響予測・適応評価の統合的戦略研究(S-18)」等の研究を2023年度にも引き続き実施し、科学的知見の収集・解析等を行いました。これらの研究により明らかとなった知見は、IPCC等にインプットされることになります。

3 持続可能な社会を目指したビジョンの提示:低炭素社会から脱炭素社会へ

2020年10月26日、第203回国会において、我が国は2050年までにカーボンニュートラル、すなわち脱炭素社会の実現を目指すことを宣言し、第204回国会で成立した地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第54号)では、2050年カーボンニュートラルを基本理念として法定化しました。また、2021年4月22日の第45回地球温暖化対策推進本部において、2050年目標と整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けていくことを宣言しました。

2021年10月22日、2030年度削減目標を踏まえ、地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図る「地球温暖化対策計画」を改定し、閣議決定を行いました。また、同日、2030年度削減目標を記載した「日本のNDC」を第48回地球温暖化対策推進本部において決定し、国連気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)に提出しました。2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を2021年10月22日に閣議決定し、同月29日にUNFCCCに提出しました。

この戦略では、政策の基本的な考え方として、2050年カーボンニュートラル宣言の背景にある「もはや地球温暖化対策は経済成長の制約ではなく、積極的に地球温暖化対策を行うことで産業構造や経済社会の変革をもたらし大きな成長につなげる」という考えをしっかりと位置付けています。

また、エネルギー、産業、運輸、地域・くらし、吸収源の各部門の長期的なビジョンとそれに向けた対策・施策の方向性を示すとともに、「イノベーションの推進」、「グリーンファイナンスの推進」等の分野を超えて重点的に取り組む11の横断的施策についても記載しています。今後、ステークホルダーとの連携や対話を通じ、我が国は、この長期戦略の実行に挑戦し、世界の脱炭素化をけん引していきます。

グリーントランスフォーメーション(GX)実現への10年ロードマップを示していくという岸田文雄内閣総理大臣指示を踏まえ、2022年12月、GX実行会議において、GXの実現を通して、2030年度の温室効果ガス46%削減や2050年カーボンニュートラルの国際公約の達成を目指すとともに、安定的で安価なエネルギー供給につながるエネルギー需給構造の転換や我が国の産業構造・社会構造の変革を実現すべく「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」を取りまとめ、2023年2月に閣議決定を行いました。同年5月、第211回国会において、GX実現に向けて必要となる関連法である「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」及び「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(GX脱炭素電源法)」を成立させ、さらに、同年7月、「成長志向型カーボンプライシング構想」等の新たな政策を実行するため、GX推進法に基づき定められた「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)」を閣議決定しました。その後、GX実現に向けて、企業の予見可能性を高め、GX投資を強力に引き出すため、重点16分野における今後10年間の「分野別投資戦略」を取りまとめました。GX推進法及び同法に基づくGX推進戦略を踏まえ、脱炭素成長型経済構造移行債(GX経済移行債)を活用した先行投資支援と、成長志向型カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブを組み合わせつつ、重点分野でのGX投資を分野別投資戦略を通じ促進するなど、我が国のGXを加速していきます。

2021年5月、農林水産省において、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるための政策方針として「みどりの食料システム戦略」を策定しました。この戦略は、温室効果ガス削減やカーボンニュートラルの実現、生物多様性の保全にも寄与するものであり、2050年までに目指す姿として、農林水産業のCO2ゼロエミッション化等の14の目標を定めています。2022年6月には、2030年の中間目標を設定し、「農林水産省地球温暖化対策計画」等と併せて、CO2排出削減対策等を推進することとしています。

4 エネルギー起源CO2の排出削減対策

(1)産業部門(製造事業者等)の取組

2013年度以降の産業界の地球温暖化対策の中心的な取組である「低炭素社会実行計画」の2021年度実績について、審議会による厳格な評価・検証を実施しました。具体的には、目標達成の蓋然性を確保するため、2021年度に実施した取組を中心に各業種の進捗状況を点検し、2030年の目標達成に向けて着実に対策が実施されていることを確認しました。また、業界や部門の枠組みを超えた低炭素社会・サービス等による他部門での貢献、優れた技術や素材の普及等を通じた海外での貢献、革新的技術の開発や普及による削減貢献といった各業種の取組についても深掘りし、こうした削減貢献を可能な限り定量化することにより、貢献の可視化とベストプラクティスの横展開等を行いました。2023年3月末までに109業種が2030年を目標年限とする定量目標を設定しており、自主的取組に参画する業種の我が国のエネルギー起源CO2排出量に占める割合は5割を超えています。加えて、「地球温暖化対策計画」においても、「低炭素社会実行計画」を産業界における対策の中心的役割と位置付けており、政府の2030年度削減目標との整合性や2050年のあるべき姿を見据えた2030年度目標設定、共通指標としての2013年度比の二酸化炭素排出量削減率の統一的な見せ方等の検討を進めるなど、引き続き自主的な取組を進め、温室効果ガスの排出削減をより一層推進していきます。

需要サイドでの事業者による非化石エネルギーの導入拡大の取組を加速させるため、2022年5月にエネルギーの使用の合理化等に関する法律(昭和54年法律第49号)をエネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(以下「省エネ法」という。)に改正し、需要側における非化石エネルギーへの転換に関する措置を新設しました。この措置では、2023年4月からエネルギーを使用して事業を行う者に対し、その使用するエネルギーのうちに占める非化石エネルギーの使用割合の向上を求めることとしています。また、事業者の更なる省エネ取組を促すため、省エネ法に基づくベンチマーク制度の対象業種が拡大されました。

工場等に対して、CO2排出量削減余地診断に基づいたCO2削減計画の策定及び省CO2型設備へ更新するための補助を行いました。また、LD-Tech(先導的脱炭素技術)情報の収集とリスト化等の取組を行いました。

中小企業等におけるCO2排出削減対策の強化のため、省CO2型設備導入における資金面の公的支援の一層の充実や、中小企業等の省エネ設備の導入や森林管理等による温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして認証し、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度での排出量調整等に活用するJ-クレジット制度の運営、さらに建設施工現場における脱炭素化を目指し建設機械の抜本的な動力源の見直しを図るため、2023年10月から電動建機を対象としたGX建設機械認定制度を創設しました。

農林水産分野においては、「みどりの食料システム戦略」や「農林水産省地球温暖化対策計画」に基づき、緩和策として施設園芸等における省エネルギー対策、バイオマスの活用の推進、我が国の技術を活用した国際協力等を実施しました。

(2)業務その他部門の取組

エネルギー消費量が増加傾向にある住宅・ビルにおける省エネ対策を推進するため、省エネ法における建材トップランナー制度に基づき、断熱材・窓(サッシ、複層ガラス)等の建築材料の性能向上を図っており、2021年6月から、更なる性能向上を図るため、目標基準値の強化に向けた検討を行った結果、窓については2022年3月、2022年度を目標年度とする目標基準値について、2030年度を新たな目標年度として目標基準値を約40%引き上げることを決定し、断熱材については2022年10月、2022年度を目標年度とする目標基準値について、2030年度を新たな目標年度として目標基準値を約5%引き上げることを決定しました。2023年度の取組としては、窓について、これまで対象となっていなかった非木造の中高層住宅や大中規模建築物にも対象を拡大するべく、検討を開始しました。また、大幅な省エネ性能を実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指したビル(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル。以下「ZEB(ゼブ)」という。)の普及を進めるため、先進的な技術等の組み合わせによるZEB(ゼブ)の実証事業を行っているほか、外皮の高断熱化を行った上で、高効率空調機器の導入等によって、一定の省エネルギー基準を満たす改修を行う際に、その設備の導入に係る費用を補助する事業(脱炭素ビルリノベ事業)を、令和5年度補正予算に新たに盛り込みました。加えて、建材と一体となった太陽光発電設備の導入に係る費用を補助する事業(窓・壁等と一体となった太陽光発電の導入加速化支援事業)を、令和5年度補正予算に新たに盛り込みました。2022年6月の建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(平成27年法律第53号、以下「建築物省エネ法」という。)の改正により、2025年までに原則全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付けることとしました。加えて、省エネ性能が市場において適切に評価されるよう、建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度を強化し、告示に規定する省エネラベルを用いて表示するよう見直しました(2024年4月施行)。2023年9月には本制度のガイドラインを策定・公表し、同制度の周知を図っています。あわせて第三者評価BELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System)」の普及も促進しています。あわせて、再エネ設備導入促進のための措置として、市町村が地域の実情に応じて再エネ設備の設置を促進する区域を設定(2024年4月施行)できることとしました。2023年9月には本制度のガイドラインを策定・公表し同制度の周知を図っています。また、建築物等に関する総合的な環境性能評価手法(CASBEE)の充実・普及、省エネ・省CO2の実現性に優れたリーディングプロジェクト等に対する支援のほか、ビルオーナーとテナントが不動産の環境負荷を低減する取組についてグリーンリース契約等を締結して協働で省エネ化を図る事業に対する支援や、環境不動産の形成を促進するための官民ファンドの運営支援等を継続的に行いました。こうした規制措置強化と支援措置の組み合わせを通じ、2030年度以降新築される住宅・建築物について、ZEH(ゼッチ)・ZEB(ゼブ)基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることや、2050年に住宅・建築物のストック平均でZEH(ゼッチ)・ZEB(ゼブ)基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることなどを目指します。

更なる個別機器の効率向上を図るため、省エネ法のトップランナー制度においてエネルギー消費効率の基準の見直し等について検討を行っています。具体的には、2023年10月に、事業用変圧器の新たな省エネ基準を策定するために関係法令を改正しました。さらに、事業場等に対して、CO2排出量削減余地診断に基づいた脱炭素化促進計画の策定及び省CO2型設備へ更新するための補助を行いました。また、LD-Tech(先導的脱炭素化技術)情報の収集とリスト化等の取組を行いました。

(3)家庭部門の取組

上記の「(2)業務その他部門の取組」のうち、建材トップランナー制度や建築物省エネ法に基づく措置等を住宅においても実施するとともに、消費者等が省エネルギー性能の優れた住宅を選択することを可能とするため、CASBEEや住宅性能表示制度の充実・普及を実施しました。大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量を正味でおおむねゼロ以下とし、省エネ性能と住み心地を兼ね備えた住宅(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス。以下「ZEH(ゼッチ)」という。)の普及や高性能建材を導入した断熱リフォームの普及を支援しました。また、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて家庭部門の省エネを強力に推進するため、住宅の断熱性の向上に資する改修や高効率給湯器の導入などの住宅省エネ化への支援を強化する必要があることから、経済産業省、国土交通省及び環境省が実施する住宅の省エネリフォームのための補助制度をワンストップで利用可能(併用可)とし、補助事業の利便性の向上に努めることで、より一層の改修の促進を図っています。加えて、各家庭のCO2排出実態やライフスタイルに合わせたアドバイスを行う家庭エコ診断制度において、専門の資格を持った診断士による対面診断やWEBサービスによる「うちエコ診断」を実施、2011年度から2023年度までに約132万件の診断を行いました。

また、一般消費者に一層の省エネに取り組んでいただくことなどを目的として、エネルギー供給事業者が行う省エネに関する一般消費者向けの情報提供を評価・公表する制度(省エネコミュニケーション・ランキング制度)の運用を2022年度より本格的に開始しました。

行動科学の理論に基づくアプローチ(ナッジ(nudge:そっと後押しする)等)により、国民一人一人の行動変容を情報発信等を通じて直接促進し、ライフスタイルの自発的な変革・イノベーションを創出する、費用対効果が高く、対象者にとって自由度のある新たな政策手法の検証を行いました。具体的には、デジタル技術によりエネルギーの使用実態や環境配慮行動の実施状況等を客観的に収集、解析し、ナッジ等の行動科学の知見とAI/IoT等の先端技術を組み合わせたBI-Techにより、一人一人に合った快適でエコなライフスタイルを提案することで、脱炭素に向けた行動変容を促しました。例えば、電気やガスの使用量、自家用車や公共交通機関での移動距離等に基づいて個人のカーボンフットプリントが表示されるスマートフォン等のアプリケーションシステムを開発し、日々の環境配慮行動の実践を促したところ、予備的な実証実験では、カーボンフットプリントの表示のみでは効果が見られなかったのに対し、環境配慮行動の実施数についての目標を設定し、その達成状況を表示することで環境配慮行動の実践度合いが統計的有意に向上することが実証されました。環境配慮行動の実施数に応じて金銭的価値のあるポイントを付与することにより、さらに効果が高まることもまた実証されました。また、2017年4月には産学政官民連携の日本版ナッジ・ユニット(BEST)を発足し、2024年3月までに計32回の連絡会議を開催しました。活動の一つとして、ナッジ等の行動科学の理論・知見を活用した幅広い分野の社会・行政の課題解決に向けた取組を表彰する「ベストナッジ賞」コンテストを継続的に実施し、2023年度には従来の一般部門に加えて高等学校部門を新設しました。

(4)運輸部門の取組

省エネ法に基づき、輸送事業者に対して貨物又は旅客の輸送に係るエネルギーの使用の合理化、非化石転換に関する取組等を、荷主に対して貨物の輸送に係るエネルギーの使用の合理化に関する取組、非化石転換に関する取組等を推進しています。また、AI・IoTを活用した運輸部門における更なる省エネに向けた取組を進めるため、荷主・輸送事業者・着荷主等が連携してサプライチェーン全体の輸送効率化を図る取組や、車両動態管理システム等を活用したトラック事業者と荷主等の連携による輸送効率化、自動車整備事業者へのスキャンツールの導入による適切な自動車整備が行われる環境の整備を通じた使用過程車の実燃費の改善実証を支援しました。引き続き、運輸部門における省エネ等を進めていきます。

自動車単体対策としてはGX(グリーントランスフォーメーション)に向けて、自動車の燃費・電費の向上促進、車両の電動化・インフラに係る補助制度・税制支援等を通じた次世代自動車の普及促進等を行いました。また、環状道路等幹線道路ネットワークをつなぐとともに、ビッグデータを活用した渋滞対策等の交通流対策やLED道路照明灯の整備を行いました。さらに、改正された流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流総合効率化法)(平成17年法律第85号)に基づく総合効率化計画の認定等を活用し、環境負荷の小さい効率的な物流体系の構築を促進しました。そして、共同輸配送、モーダルシフト、大型CNGトラック導入、貨客混載等の取組について支援を行ったほか、物流施設への再エネ設備等の一体的導入の支援による流通業務の脱炭素化を促進する支援制度を創設しました。加えて、グリーン物流パートナーシップ会議を通して、荷主や物流事業者等の連携による優良事業の表彰や普及啓発を行いました。さらに、省エネ法のトップランナー制度における乗用車の2030年度燃費基準(2020年3月策定)に関して、モード試験では反映されない燃費向上技術の達成判定における評価方法について検討を行うとともに、重量車の2025年度燃費基準(2019年3月策定)に関して、2022年10月に新たに重量車の電気自動車等のエネルギー消費性能の測定方法を策定し、製造事業者等による重量車の電気自動車等を導入する取組について、評価方法の検討を開始しました。

鉄軌道分野については、2023年5月に公表した「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」の最終取りまとめにおいて、鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿を取りまとめ、「鉄道事業そのものの脱炭素化」、「鉄道アセットを活用した脱炭素化」、「環境優位性のある鉄道利用を通じた脱炭素化」の3つの柱に沿った取組を推進することとしました。あわせて、燃料電池鉄道車両の開発、鉄道車両へのバイオディーゼル燃料の導入等による脱炭素化を促進するとともに、省エネ車両や回生電力の有効活用に資する設備の導入を支援することにより、鉄軌道ネットワーク全体の省エネルギー化を進めました。

国際海運分野については、2023年7月に国際海事機関(IMO)において我が国の提案をベースとした「2050年頃までにGHG排出ゼロ」を新たな目標とするGHG削減戦略が全会一致で合意されました。IMOにおいて、この目標達成のための技術的手法と経済的手法を組み合わせたゼロエミッション船の建造を促す制度の検討が始まっており、欧州連合からは技術的手法として、燃料のGHG強度による規制制度を提案し、我が国からは経済的手法として、化石燃料船に対して課金することと、ゼロエミッション船に対してインセンティブを与えることを組み合わせた制度等を提案しているところであり、具体的な対策の策定を主導しています。加えて、2021年度より、グリーンイノベーション基金を活用して水素・アンモニア等を燃料とするゼロエミッション船の実用化に向けた技術開発・実証プロジェクトを行っており、アンモニア燃料船については2026年、水素燃料船については2027年の実証運航開始を目指しています。また、2023年11月には、アンモニア燃料船の社会実装に向けた取組を加速するため、温室効果の高い亜酸化窒素(N2O)の排出低減やアンモニア燃料補給時の安全対策等に資する開発をプロジェクトに追加しました。内航海運分野においても、船舶の省エネ・低脱炭素化を促進しており、荷主等と連携して離着桟・荷役等も含めた運航全体で省エネに取り組む連携型省エネ船の開発・導入、バイオ燃料の活用に向けた取組、省エネルギー性能の見える化(内航船省エネルギー格付制度(2024年3月末時点で172隻認定))を推進しています。また、2013年に策定した「LNGバンカリングガイドライン」については、LNG燃料船への燃料供給実績を踏まえ2023年6月に改訂版を公表しました。さらに、LNG燃料船、水素FC船、バッテリー船等の導入・実証に対する支援など船舶の低・脱炭素化に向けた取組を一層加速させています。

港湾分野については、我が国の産業や港湾の競争力強化と脱炭素社会の実現に貢献するため、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素・アンモニア等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進しており、港湾法(昭和25年法律第218号)に基づき港湾管理者が作成する港湾脱炭素化推進計画について、計画の作成に対する補助、助言等による支援を行いました。

航空分野において、航空会社や空港会社による主体的・計画的な脱炭素化の取組を後押しすることが重要であり、航空法(昭和27年法律第231号)等に基づく「航空運送事業脱炭素化推進計画」及び「空港脱炭素化推進計画」の認定等を進めています。令和5年12月には成田、中部、関西、大阪国際空港の4空港の計画を、令和6年1月にはANAグループ、JALグループの2計画を初認定しました。航空機運航分野においては、国土交通省は2050年カーボンニュートラルの実現に向け、官民協議会の場などを活用して関係省庁や民間事業者と連携しながら、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の導入促進、管制の高度化等による運航の改善、機材・装備品等への環境新技術の導入に取り組んでいます。特にCO2削減効果の高いSAFについては、2030年時点の本邦航空会社による燃料使用量の10%をSAFに置き換えるという目標を設定しており、関係省庁が連携し、国際競争力のある価格で安定的に国産SAFを供給できる体制の構築や、国産SAFの国際認証取得に向けた支援等に取り組んでいます。空港分野においては、各空港において空港脱炭素化推進協議会を設置し、空港脱炭素化推進計画の検討を進めるとともに、空港施設・空港車両等からのCO2排出削減、空港の再エネの導入等に取り組んでいます。また、「空港の脱炭素化に向けた官民連携プラットフォーム」を活用し空港関係者等と情報共有や協力体制を構築するとともに、空港関係者の意識醸成や空港利用者への理解促進を図っています。

(5)エネルギー転換部門の取組

太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、バイオマス等の再生可能エネルギーは、地球温暖化対策に大きく貢献するとともに、エネルギー源の多様化に資するため、国の支援策により、その導入を促進しました。また、ガスコージェネレーションやヒートポンプ、燃料電池等、エネルギー効率を高める設備等の普及も推進してきました。さらに、二酸化炭素回収・貯留(CCS)の導入に向け、技術開発や貯留適地調査等を実施しました。

電気事業分野における地球温暖化対策については、2016年2月に環境大臣・経済産業大臣が合意し、電力業界の自主的枠組みの実効性・透明性の向上等を促すとともに、省エネ法やエネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(エネルギー供給構造高度化法)(平成21年法律第72号)に基づく基準の設定・運用の強化等により、2030年度の削減目標やエネルギーミックスと整合する2030年度に排出係数0.25kg-CO2/kWhという目標を確実に達成していくために、電力業界全体の取組の実効性を確保していくこととしています。これを受けて、2024年1月、政府としては、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会資源・エネルギーワーキンググループを開催し、電力業界の自主的枠組みの評価・検証を行いました。

さらに、経済産業省では2030年に向け安定供給を大前提に非効率石炭火力のフェードアウトを着実に実施するために、石炭火力発電設備を保有する発電事業者について、最新鋭のUSC(超々臨界)並みの発電効率(事業者単位)をベンチマーク目標において求めることとしています。その際、水素・アンモニア等について、発電効率の算定時に混焼分の控除を認めることで、脱炭素化に向けた技術導入の促進につなげていきます。

さらに、2030年以降を見据えて、CCSについては、「エネルギー基本計画」や「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」等を踏まえて取り組むこととしています。

5 エネルギー起源CO2以外の温室効果ガスの排出削減対策

(1)モントリオール議定書に基づく取組

2016年10月、ルワンダ・キガリにおいて、モントリオール議定書第28回締約国会合(MOP28)が開催され、HFCの生産量及び消費量の段階的削減を求める議定書の改正(キガリ改正)が採択されました。本改正を踏まえ、2018年6月に特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第69号)が成立し、キガリ改正の発効日である2019年1月1日に施行され、我が国を含む先進国はHFCの生産量及び消費量を2036年までに基準量比(2011~2013年平均値+HCFCの基準値の15%)の15%まで削減することとなりました。改正されたオゾン層保護法に基づき、我が国ではHFCの生産量及び消費量の割当てによる段階的な削減を進めています。

(2)非エネルギー起源CO2、CH4及びN2Oに関する対策の推進

農地土壌や家畜排せつ物、家畜消化管内発酵に由来するCH4及びN2Oを削減するため、「みどりの食料システム戦略」や「農林水産省地球温暖化対策計画」に基づき、地球温暖化防止等に効果の高い営農活動に対する支援を行うとともに、水稲栽培における中干し期間の延長や家畜排せつ物の適正処理等を推進しました。

廃棄物の発生抑制、再使用、再生利用の推進により化石燃料由来廃棄物の焼却量の削減を推進するとともに、有機性廃棄物の直接最終処分量の削減や、全連続炉の導入等による一般廃棄物処理施設における燃焼の高度化等を推進しました。

下水汚泥の焼却に伴うN2Oの排出量を削減するため、下水汚泥の焼却の高度化や、N2Oの排出の少ない焼却炉の普及、焼却を伴わない汚泥処理方法(コンポスト化等)の拡大を推進しました。

(3)代替フロン等4ガスに関する対策の推進

代替フロン等4ガス(HFCs、PFCs、SF6、NF3)は、オゾン層は破壊しないものの強力な温室効果ガスであり、我が国の排出量についてUNFCCC事務局に毎年報告しなければならないとされています。

代替フロン等4ガスの中でも、HFCsについては、冷凍空調機器の冷媒用途を中心に、CFC、HCFCからの転換が進行し、排出量が増加傾向で推移してきました。HFCsの排出の約9割は冷凍空調機器の冷媒用途によるものであり、機器の使用時におけるHFCsの漏えい及び廃棄時未回収が排出量に大きく寄与しています(図1-1-8)。

図1-1-8 代替フロン等4ガスの排出量推移

HFCsを含めた業務用冷凍空調機器に使用されるフロン類の排出削減に向けて、フロン類のライフサイクル全体にわたる対策を定めたフロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(平成13年法律第64号。以下「フロン排出抑制法」という。)において、フロン類製造・輸入業者及びフロン類使用製品(冷凍空調機器等)の製造・輸入業者に対するノンフロン・低GWP(温室効果)化の推進、機器ユーザー等に対する機器使用時におけるフロン類の漏えいの防止、機器からのフロン類の回収・適正処理等が求められています。また、機器廃棄時の冷媒回収率は長らく低迷しており、直近でも4割程度にとどまる状況を踏まえ、機器ユーザーの廃棄時のフロン類引渡義務違反に対して、直接罰を導入するなど、関係事業者の相互連携により機器ユーザーの義務違反によるフロン類の未回収を防止し、機器廃棄時にフロン類の回収作業が確実に行われる仕組みを構築するため、2019年にフロン排出抑制法が改正され2020年4月から施行されました(図1-1-9)。加えて、2021年10月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」においては、2030年に代替フロン(HFCs)を2013年比約55%削減し、フロン類が使用されている業務用冷凍空調機器の廃棄時回収率を2030年に75%まで向上させる目標を定めました。2023年度はウェブ等を活用した広報活動に加え、業務用冷凍空調機器の管理者及び建物解体業者、廃棄物・リサイクル事業者に対して改正フロン排出抑制法に係るオンライン説明会を開催し、改正法についてより一層の周知を行うとともに、都道府県のフロン排出抑制法担当部局への支援の一環として2021年度・2022年度の摘発事例の対応経緯の共有を行うなど、フロン類の更なる排出抑制対策も実施しました。また、冷媒のノンフロン化を推進するため、省エネ型自然冷媒機器の導入を促進するための補助事業等も実施しています。

図1-1-9 フロン排出抑制法の概要

また、特定家庭用機器再商品化法(平成10年法律第97号。以下「家電リサイクル法」という。)、使用済自動車の再資源化等に関する法律(平成14年法律第87号。以下「自動車リサイクル法」という。)に基づき、家庭用の電気冷蔵庫・冷凍庫、電気洗濯機・衣類乾燥機、ルームエアコン及びカーエアコンからのフロン類の適切な回収を進めました。

産業界のフロン類対策等の取組に関しては、自主行動計画の進捗状況の評価・検証を行うとともに、行動計画の透明性・信頼性及び目標達成の確実性の向上を図りました。

6 森林等の吸収源対策、バイオマス等の活用

土地利用、土地利用変化及び林業部門(LULUCF)については、パリ協定に則して、森林経営等の対象活動による吸収量について目標を定めています。具体的には、「地球温暖化対策計画」に基づき、森林吸収源対策により、2030年度に約3,800万トンCO2、都市緑化等の推進により、2030年度に約120万トンCO2、農地土壌炭素吸収源対策により、2030年度に850万トンCO2の吸収量を確保することとしています。

この目標を達成するため、森林吸収源対策として、「森林・林業基本計画」等に基づき、多様な政策手法を活用しながら、適切な造林や間伐等を通じた健全な森林の整備、保安林等の適切な管理・保全、効率的かつ安定的な林業経営の確立に向けた取組、国民参加の森林づくり、木材及び木質バイオマスの利用等を推進しました。

都市における吸収源対策として、都市公園整備等による新たな緑地空間を創出し、都市緑化等を推進しました。さらに、農地土壌の吸収源対策として、炭素貯留量の増加につながる土壌管理等の営農活動の普及に向け、炭素貯留効果等の基礎調査、地球温暖化防止等に効果の高い営農活動に対する支援を行いました。

加えて、ブルーカーボン生態系によるCO2吸収量の計測・推計に向けた検討を行うとともに、海藻が着生しやすい基質の設置や、浚渫(しゅんせつ)土砂や鉄鋼スラグを活用したCO2吸収源となる藻場等の造成等を実施しました。

7 国際的な地球温暖化対策への貢献

(1)開発途上国への支援の取組

途上国では深刻な環境汚染問題を抱えており、2018年に開催された世界保健機関(WHO)の大気汚染と健康に関する国際会議やIPCCの報告書等においても、地球温暖化対策と環境改善を同時に実現できるコベネフィット・アプローチの有効性が認識されています。我が国では2007年12月から本アプローチによる途上国との協力を進めているほか、国際応用システム分析研究所(IIASA)やアジア・コベネフィット・パートナーシップ(ACP)の活動支援を通して、アジア地域におけるコベネフィット・アプローチを促進しています。

途上国が脱炭素社会へ移行できるよう、我が国の地方公共団体が持つ経験を基に、制度・ノウハウ等を含め優れた脱炭素技術の導入支援を行う都市間連携事業や、アジア開発銀行(ADB)、国際連合工業開発機関(UNIDO)等と連携したプロジェクトへの資金支援を実施しています。

加えて、気候変動による影響に脆(ぜい)弱である島嶼(しょ)国に対し、気候変動への適応・エネルギー・水・廃棄物分野への対応に関する支援や、研究者によるネットワーク設立に向けた支援、国際熱帯木材機関(ITTO)への資金拠出を通じた、アフリカにおける食料生産と調和した森林経営の確立や東南アジアにおける持続可能な木材利用の促進の支援など、様々な取組を行っています。

森林の減少を含む土地利用の変化に伴う温室効果ガス排出量は世界全体の人為的な排出量の約2割を占めるとされており、2015年12月にCOP21で採択されたパリ協定においては、森林を含む吸収源の保全及び強化に取り組むこと(5条1項)に加え、途上国の森林減少及び劣化に由来する温室効果ガスの排出の削減等(REDD+)の実施及び支援を推奨すること(同2項)などが定められました。また、JCMの森林案件(REDD+、植林)を推進するため、実施ルールの検討及び普及を行いました。

政府全体の「インフラシステム海外展開戦略2025」(2022年6月改訂)の重点戦略の柱の1つである「脱炭素社会に向けたトランジションの加速」の実現に向けて、相手国のニーズも踏まえ、実質的な排出削減につながる脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援を推進し、相手国の脱炭素移行を進めるため、政策立案の上流からセクター別や個別案件等の下流までを一体とした政策支援を実施しています。

(2)アジア太平洋地域における取組

開発途上国の中には、気候変動影響に対処する適応能力が不足している国が多くあります。このため、我が国では、アジア太平洋地域において気候変動リスクを踏まえた意思決定と実効性の高い気候変動適応を支援するために構築した「アジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム」(AP-PLAT)を活用し、[1]気候変動リスクに関する科学的知見の情報共有、[2]政策意思決定用ツールの提供、[3]気候変動適応策実施のための能力強化等の取組を、地域内の各国や関係機関等との協働により推進しています。

また、様々な国際協力スキームや産官学に蓄積されてきた優れた適応ソリューションを活用し、気候変動影響評価ツールやビデオ教材などの開発を進めています。また、気候変動に脆(ぜい)弱な開発途上国に共通する喫緊の課題と多種多様な技術協力ニーズに応えるため、河川・沿岸防災、健康、水資源、食料安全保障、都市のレジリエンス、造礁サンゴ再生等による自然を基盤とした解決策(NbS:Nature-based Solutions)など様々な適応課題に対し、気候資金へのアクセス支援を中心に気候変動適応の技術協力を推進しています。

(3)JCMの推進に関する取組

環境性能に優れた先進的な脱炭素技術・製品の多くは、一般的に導入コストが高く、普及には困難が伴うという課題があります。このため、途上国等のパートナー国への優れた脱炭素技術・製品・システム・サービス・インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した排出削減・吸収への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国の削減目標の達成に活用するJCMを構築・実施してきました。こうした取組を通じ、パートナー国の負担を下げながら、優れた脱炭素技術の普及を促進しています。「地球温暖化対策計画」では、JCMについて、「官民連携で2030年度までの累積で、1億トン-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量の確保を目標とする」ことが定められています。また、2021年のCOP26での合意を踏まえ、環境省は「COP26後の6条実施方針」を発表しており、[1]JCMパートナー国の拡大と、国際機関と連携した案件形成・実施の強化、[2]民間資金を中心としたJCMの拡大、[3]市場メカニズムの世界的拡大への貢献を通じて、世界の脱炭素化に貢献しています。

2022年以降に新たに加わった12か国を含め、29か国とJCMを構築しており、(表1-1-1)これまでにクレジットの獲得を目指す環境省JCM資金支援事業や、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による実証事業を実施している他、従来の政府支援に加え、民間資金を中心としたプロジェクト組成を促進するため、2023年3月に「民間資金を中心とするJCMプロジェクトの組成ガイダンス」を策定、2024年3月には同ガイダンスを改訂し、民間事業者等による本ガイダンスの活用を促し、民間JCMの取組の普及を進めています。

表1-1-1 JCMパートナー国ごとの進捗状況
(4)短寿命気候汚染物質に関する取組

ブラックカーボン、CH4、HFC等の短寿命気候汚染物質については、その対策が短期的な気候変動緩和と大気汚染防止等他分野の双方に効果があるとして国際的に注目されており、2012年2月に米国、スウェーデン等により立ち上げられた「短寿命気候汚染物質(SLCP)削減のための気候と大気浄化のコアリション(CCAC)」に、2012年4月より我が国も参加しました。

2023年12月にはCOP28の場で64か国が賛同したグローバル・クーリング・プレッジが立ち上げられ、我が国を含む賛同国は、2050年までに冷凍空調機器関連の温室効果ガスの排出量を2022年比で少なくとも68%削減することのほかに、環境省が主導しているフルオロカーボン・イニシアティブ(IFL)等を通じ冷凍空調機器に充塡されたフロン類のライフサイクルマネジメントを追求することなどを誓約しました。

世界全体のメタン排出量を2030年までに2020年比30%削減することを目標とするグローバル・メタン・プレッジについて、我が国は、2021年9月の日米豪印首脳会合において参加を表明しました。我が国としては、「地球温暖化対策計画」に基づき、国内のメタン排出削減に取り組むとともに、国内のメタン排出削減の優良事例を各国と共有していくことなどのイニシアティブが期待されています。

8 横断的施策

(1)地域脱炭素の推進

2021年6月に開催した第3回国・地方脱炭素実現会議において「地域脱炭素ロードマップ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~」を策定しました。本ロードマップに基づき、地域脱炭素が、意欲と実現可能性が高いところからその他の地域に広がっていく「実行の脱炭素ドミノ」を起こすべく、2025年までを集中期間として、あらゆる分野において、関係省庁が連携して、脱炭素を前提とした施策を総動員していくこととしました。また、2023年7月に閣議決定された「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)」でも、地域金融機関や地域の企業等との連携の下、地域特性に応じて、各地方公共団体の創意工夫を活かした産業・社会の構造転換や脱炭素製品の面的な需要創出を進め、地域・くらしの脱炭素化を実現することが明記されました。

2050年を待つことなく2030年度までに、カーボンニュートラルと地域課題の解決を同時に実現する「脱炭素先行地域」については、2023年度までに4回の募集により73地域を選定しました。また2022年度に創設した「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」により、2023年度までに110の地方公共団体における脱炭素の基盤となる重点対策の加速化を支援しました。さらに、脱炭素化に資する事業の加速化を図るため、2022年10月に株式会社脱炭素化支援機構が設立され、2024年3月末までに15件の支援決定の公表がなされました。脱炭素化支援機構は、脱炭素に資する多様な事業への呼び水となる投融資(リスクマネー供給)を行い、脱炭素に必要な資金の流れを太く、速くし、経済社会の発展や地方創生、知見の集積や人材育成など、新たな価値の創造に貢献します。加えて、地域脱炭素の中核人材を育成するための地方公共団体の職員向けの研修、専門人材の派遣などの人的支援を行ったほか、脱炭素型の優れた都市開発を表彰しました。

(2)低炭素型の都市・地域構造及び社会経済システムの形成

都市の低炭素化の促進に関する法律(平成24年法律第84号)に基づく低炭素まちづくり計画がこれまで26都市(2023年12月末時点)で作成されました。また、都市再生特別措置法(平成14年法律第22号)に基づく立地適正化計画がこれまでに537都市(2023年12月末時点)で作成され、計画に基づく都市のコンパクト化を図るための財政支援を行うことにより、脱炭素に資するまちづくりを総合的に推進しました。

低炭素なまちづくりの一層の普及のため、温室効果ガスの大幅な削減など低炭素社会の実現に向け、高い目標を掲げて先駆け的な取組にチャレンジする23都市を環境モデル都市(表1-1-2)として選定しており、対象都市に対して2022年度の取組評価及び2021年度の温室効果ガス排出量等のフォローアップを行いました。

表1-1-2 環境モデル都市一覧

都市の低炭素化をベースに、環境・超高齢化等を解決する成功事例を都市で創出し、国内外に展開して経済成長につなげることを目的として、2011年度に東日本大震災の被災地域6都市を含む11都市を環境未来都市(表1-1-3)として選定しており、引き続き各都市の取組に関する普及展開等を実施しました。

表1-1-3 環境未来都市一覧

2023年度蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業により、IoT技術等を活用し、複数の再生可能エネルギーや蓄電池等を束ねて制御し安定した電力として供給する技術や、工場や家庭等が有する蓄電池や発電設備、ディマンドリスポンス等のエネルギーリソースを統合制御し電力の需給調整に活用する技術といった、いわゆるアグリゲーションビジネスの促進に向けた技術実証を行いました。また、2023年度系統用蓄電池等の導入及び配電網合理化等を通じた再生可能エネルギー導入加速化事業により、既存の系統線を用いることでコストを抑え、非常時には地域内の再生可能エネルギー等から自立的な電力供給する、いわゆる「地域独立系統(マイクログリッド)」の構築に向けて、2023年度は5件の計画策定支援を実施しました。

交通システムに関しては、公共交通機関の利用促進のための鉄道新線整備等の推進、環状道路等幹線道路ネットワークをつなぐとともに、ビッグデータを活用した渋滞対策等の交通流対策を行いました。

再生可能エネルギーの導入に関して、2013年10月に国内初の本格的な2MWの浮体式洋上風力発電を設置、2016年3月より運転を開始し、本格的な運転データ、環境影響・漁業影響の検証、安全性・信頼性に関する情報を収集し、事業性の検証を行いました。また、2016年度からは、洋上風力発電の更なる事業化を促進するため、施工の低コスト化・低炭素化や効率化等の手法の確立及び効率的かつ正確な海域動物・海底地質等の調査手法の確立に取り組みました。2020年度からは、浮体式洋上風力発電の実証を行った経験を活かし、事業性検証・理解醸成事業に取り組んでおり、2023年度には、「離島への浮体式洋上風力発電導入検討の手引き」を作成しました。

海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)(平成30年法律第89号)に基づく海洋再生可能エネルギー発電設備の整備促進区域(促進区域)の指定について、2023年10月に新たに「青森県沖日本海(南側)」及び「山形県遊佐町沖」の2海域を指定しました。現在、合計4.6GWの促進区域の指定をしており、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」で掲げている2030年までに10GWという案件形成目標の達成に向け、着実に進展しています。同年12月には「秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖」、「新潟県村上市・胎内市沖」、「長崎県西海市江島沖」における洋上風力発電事業者を、2024年3月には「秋田県八峰町及び能代市沖」における洋上風力発電事業者の選定を行いました。この結果、これまでに8か所(9海域)において洋上風力発電事業者を選定しています。また、洋上風力発電設備の設置及び維持管理に利用される港湾(基地港湾)について、これまで国土交通大臣が5港を指定し、整備を進めています。このうち、秋田港では整備が完了し、2021年4月に港湾法(昭和25年法律第218号)に基づき海洋再生可能エネルギー発電設備取扱埠頭に係る賃貸借契約を締結し、洋上風力発電設備の設置工事に活用されています。

地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業等により、地域防災計画に災害時の避難施設等として位置付けられた公共施設、又は業務継続計画により災害等発生時に業務を維持するべき公共施設に、平時の温室効果ガス排出削減に加え、災害時にもエネルギー供給等の機能発揮を可能とする再生可能エネルギー設備等の導入を支援しました。さらに、公共施設等先進的CO2排出削減対策モデル事業により、複数の公共施設等が存在する地区内で再エネ設備等を導入し、自営線等を整備、電力を融通する自立・分散型のエネルギーシステムを複数構築し、システム間において電力を融通することにより、地区を越えた地域全体でCO2排出削減に取り組む事業の構築を支援しました。さらに、農業分野にも再生可能エネルギーの導入を促すため、優良農地の確保を前提とした再生可能エネルギー発電設備を導入し、農林漁業関連施設等へその電気を供給するモデル事例を創出しました。

(3)水素社会の実現

水素は、利用時にCO2を排出せず、製造段階に再生可能エネルギーやCCSを活用することで、トータルでCO2フリーなエネルギー源となり得ることから、脱炭素社会実現の重要なエネルギーとして期待されています。また、水素は再生可能エネルギーを含め多種多様なエネルギー源から製造し、貯蔵・運搬することができるため、一次エネルギー供給構造を多様化させることができ、一次エネルギーのほぼ全てを海外の化石燃料に依存する我が国において、エネルギー安全保障の確保と温室効果ガスの排出削減の課題を同時並行で解決していくことにも大いに貢献するものです。

水素利用については、家庭用燃料電池(エネファーム)や燃料電池自動車(FCV)の普及が先行しており、導入拡大に向けた支援を行いました。また、水素の供給インフラについても、商用水素ステーションが整備中13か所を含めて全国174か所(2023年10月末時点)で整備されるなど、世界に先駆けて整備が進んでいます。さらに、燃料電池バス・フォークリフト等の産業車両への導入支援や水素内燃機関の技術開発実証など、水素需要の更なる拡大に向けた取組を進めました。

水素の本格的な利活用に向けては、水素をより安価で大量に調達することが必要です。このため、海外の褐炭等の未利用エネルギーから水素を製造し、国内に水素を輸送する国際水素サプライチェーン構築実証に取り組んでいます。また、製造時にもCO2を排出しない、トータルでCO2フリーな水素の利活用拡大に向けては、再生可能エネルギーの導入拡大や電力系統の安定化に資する技術として、太陽光発電といった自然変動電源の出力変動を吸収し、水素に変換・貯蔵するPower-to-Gas技術の実証にも福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)等において取り組んでいます。さらに、地域資源(再生可能エネルギー、副生水素、使用済みプラスチック、家畜ふん尿等)を活用した水素の製造、貯蔵、運搬、利活用の各設備とそれらをつなぐインフラネットワークの整備を通じた地域水素サプライチェーン構築を地域特性に応じて、様々な需給を組み合わせた実証モデルの構築を進めています。

一方、水素社会の実現には、技術面、コスト面、インフラ面等でいまだ多くの課題が存在しており、官民一体となった取組を進めていくことが重要です。このような観点を踏まえて決定された「水素基本戦略」(2017年12月再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議決定)では、水素社会実現に向けて官民が共有すべき方向性・ビジョンを示しています。さらに、2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」の中で、「国家戦略の下で、クリーンな水素・アンモニアへの移行を求める」ことが閣議決定されたことを受け、2023年6月に「水素基本戦略」を改定しました。民間企業が大規模なサプライチェーン構築のために予見性をもって投資をできるように、規制・支援一体で支援すべく、既存原燃料との価格差に着目した支援や、水素等の利用の拡大につながる供給インフラの整備支援を含む法整備の検討を進めており、具体化を急いでいます。

水素がビジネスとして自立するためには国際的なマーケットの創出が重要です。経済産業省及びNEDOは2023年9月に、「第6回水素閣僚会議」を開催し、23の国・地域・機関に参加いただきました。世界で加速する水素関連の取組について共有するとともに、東京宣言およびグローバル・アクション・アジェンダの進展の加速と拡大に向けた議長サマリーを取りまとめ、2030年に向けて水素需要量1億5,000万トン、そのうち再生可能及び低炭素水素需要量を9,000万トンとする追加的なグローバル目標を各国と共有しました。

(4)温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度

地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度により、温室効果ガスを一定量以上排出する事業者に、毎年度、排出量を国に報告することを義務付け、国が報告されたデータを集計・公表しています。

2021年の地球温暖化対策推進法の改正により、2022年度からは、省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)による報告を開始しました。原則デジタル化したことで、事業者の報告負担の軽減、公表までの期間が短縮されました。全国の13,284の特定排出者(特定事業所:14,915事業所)から報告された2021年度の排出量を集計し、2024年2月に結果を公表しました。今回報告された排出量の合計は6億1,358万トンCO2で、我が国の2021年度排出量の約5割に相当します。また、排出量算定・データ共有に係る企業ニーズの高まり等を踏まえ、算定・報告・公表制度の対象外である小規模排出企業も、排出量算定や削減取組情報を公表する機能を追加しました。

(5)排出削減等指針

地球温暖化対策推進法に基づき、事業者が事業活動において使用する設備について、温室効果ガスの排出削減等に資するものを選択するとともに、できる限り温室効果ガスの排出量を少なくする方法で使用するよう努めること、また、国民が日常生活において利用する製品・サービスの製造等を事業者が行うに当たって、その利用に伴う温室効果ガスの排出量がより少ないものの製造等を行うとともに、その利用に伴う温室効果ガスの排出に関する情報の提供を行うよう努めることとされています。こうした努力義務を果たすために必要な措置を示した排出削減等指針を策定・公表することとされており、2022年度の全面的な改定も踏まえ、排出削減等指針の利便性の更なる向上のため、先進的な対策リスト及び各対策の効率水準・コスト等のファクト情報を拡充しました。

(6)脱炭素社会に向けたライフスタイルの転換

2050年カーボンニュートラル及び2030年度削減目標の実現に向けて、国民・消費者の行動変容・ライフスタイル転換を促すため、2022年10月に発足した国民運動「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称を国民に広く募集を行い、2023年7月愛称を「デコ活※」に決定しました。(※二酸化炭素(CO2)を減らす(DE)脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む“デコ”と活動・生活を組み合わせた新しい言葉。)

愛称の決定に伴い、ロゴマークやメッセージ「くらしの中のエコろがけ」、国民の暮らしを豊かにより良くする具体的な取組として計13の「デコ活アクション」を決定したほか、組織(自治体・企業・団体)、個人単位で「デコ活宣言」の呼びかけを行い、1,977件(2024年3月時点。国・自治体:249件、企業:585件、各種団体:163件、個人:980件)のデコ活宣言をいただきました。

また、デコ活の開始と同時に発足したデコ活応援団(官民連携協議会)には、1,200者を超える自治体・企業・団体等の参画をいただき、このデコ活応援団とともに国民・消費者の豊かな暮らしを後押しするための官民連携プロジェクトを組成・実施・検討しました。

さらに、国民・消費者の行動変容・ライフスタイルの転換を促進し、脱炭素につながる新しい豊かな暮らしと、我が国の温室効果ガス削減目標を実現するために必要な方策・道筋を示す「くらしの10年ロードマップ」を策定しました。

(7)J-クレジット、カーボン・オフセット

国内の多様な主体による省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用等による排出削減対策及び適切な森林管理による吸収源対策を引き続き積極的に推進していくため、カーボン・オフセットや財・サービスの高付加価値化等に活用できるクレジットを認証するJ-クレジット制度の更なる活性化を図りました。J-クレジットの対象となるプロジェクトの拡充により、制度の円滑な運営を図るとともに、認証に係る事業者等への支援やクレジットの売り手と買い手のマッチング機会を提供するなど制度活用を促進するための取組を強化しました。特に、2023年11月には肉用牛へのバイパスアミノ酸の給餌によるメタン・一酸化二窒素削減に関する新規方法論を追加し、新規技術を含めて方法論を拡充しました。2024年3月末時点で、J-クレジット制度の対象となる方法論は70種類あり、これまで59回の認証委員会を開催し、省エネ・再エネ設備の導入、森林管理や農業分野に関するプロジェクトを608件登録し、また登録プロジェクトから、累計597回の認証、累計844万トンCO2のクレジット認証をしました。J-クレジット制度の活用により、中小企業や農林業等の地域におけるプロジェクトにカーボン・オフセットの資金が還流するため、地球温暖化対策と地域振興が一体的に図られました。また、カーボン・クレジットの取引の流動性を高めるとともに、適切な価格公示を行うことで、脱炭素投資を促進する観点から、東京証券取引所によるカーボン・クレジット市場が2023年10月に開設し、J-クレジットの取引が開始されました。

「カーボン・オフセット」とは、市民、企業等が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、排出削減・吸収量(クレジット)の購入や、他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動の実施等により、排出量の全部又は一部を埋め合わせるという考え方です。2023年12月より、国内で信頼性の確保されたカーボン・オフセットの取組を促進するため、国内でのオフセット取組の状況、オフセットに関連する国際動向やガイドライン策定、文書の分かりやすさ等の観点から、『我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)』及び『カーボン・オフセットガイドライン』の改訂を行う検討会を立ち上げました。

(8)金融のグリーン化

脱炭素社会を創出し、気候変動に対して強靱で持続可能な社会を創出していくには、必要な温室効果ガス削減対策や気候変動への適応策に的確に民間資金が供給されることが必要です。このため、ESG金融等を通じて環境への配慮に適切なインセンティブを与え、資金の流れをグリーン経済の形成に寄与するものにしていくための取組(金融のグリーン化)を進めることが重要です。

詳細については、第6章第2節を参照。

(9)地域の中小企業の脱炭素化支援

2050年ネットゼロ達成に向けて、中小企業は、我が国の企業数の約9割、雇用の約7割、GHG排出量のうち約2割程度を占めており、中小企業によるGHG排出量の削減に向けた取組や脱炭素経営の促進は重要となります。その際、普段から地域の中小企業との接点を持っている地域金融機関や商工会議所を始めとする経済団体等のプッシュ型支援が効果的となります。他方で、企業の脱炭素経営の取組ステップ(「知る」「測る」「減らす」)のうち、各支援機関によって得意とする支援メニューの取組やステップが異なることから、地域ぐるみでの脱炭素経営支援体制を構築することが有効となります。こうした状況を踏まえ、地域金融機関・商工会議所等の経済団体等と地方公共団体が連携した、地域ぐるみでの中小企業に対する脱炭素経営支援体制の構築を図る地域のモデル事例の構築を行い、2024年3月に支援体制構築のステップを整理した「地域ぐるみでの支援体制構築ガイドブック」を公表しました。

(10)排出量・吸収量算定方法の改善等

国連気候変動枠組条約に基づき、温室効果ガスインベントリの報告書を作成し、排出量・吸収量の算定に関するデータとともに条約事務局に提出しました。また、これらの内容に関して、条約事務局による審査の結果等を踏まえ、その算定方法の改善等について検討しました。

(11)地球温暖化対策技術開発・実証研究の推進

地球温暖化の防止に向け、革新技術の高度化、有効活用を図り、必要な技術イノベーションを推進するため、再生可能エネルギーの利用、エネルギー使用の合理化だけでなく、民間の自主的な技術開発に委ねるだけでは進まない多様な分野におけるCO2排出削減効果の高い技術の開発・実証、窒化ガリウム(GaN)やセルロースナノファイバー(CNF)等の新素材の活用によるエネルギー消費の大幅削減、地域資源循環を実現する触媒、燃料電池や水素エネルギー、蓄電池、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)等に関連する技術の開発・実証、普及を促進しました。

農林水産分野においては、「農林水産省地球温暖化対策計画」及び「農林水産省気候変動適応計画」に基づき、地球温暖化対策に係る研究及び技術開発を推進しました。

温室効果ガスの排出削減・吸収技術の開発として、農地土壌の炭素貯留能力を向上させるバイオ炭資材等の開発、東南アジアの小規模農家のための経済性を備えた温室効果ガス排出削減技術の開発、畜産分野における温室効果ガスの排出を低減する飼養管理技術等の開発を推進しました。

また、地球温暖化緩和に資するため、農地土壌の炭素貯留ポテンシャルの評価とそれに貢献するメカニズムに関する研究、炭素貯留能力に優れた造林樹種を効率的に育種する技術の開発、針葉樹樹皮から化石由来プラスチックの代替品として利用できる樹脂原料等の開発を推進しました。

農林水産分野における温暖化適応技術については、高温に強い品種や温暖化に適応した生産技術の開発に取り組み、また、高温環境に適した品種・品目への転換、適応技術の普及や、流木災害防止・被害軽減技術、発生リスクの上昇が予想される赤潮の被害軽減技術等の開発を推進しました。

9 公的機関における取組

(1)政府実行計画

政府における取組として、地球温暖化対策推進法に基づき、自らの事務及び事業から排出される温室効果ガスの削減等を定めた「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画(政府実行計画)」を2021年10月に閣議決定しました。この計画では、2013年度を基準として、政府全体の温室効果ガス排出量を2030年度までに50%削減することを目標とし、太陽光発電の導入、新築建築物のZEB(ゼブ)化、電動車の導入、LED照明の導入、再生可能エネルギー電力の調達等の措置を講ずることとしています。

各府省庁は温室効果ガスの削減に取り組み、調整後排出係数に基づき算出した場合、2022年度は基準年度である2013年度に比べ23.4%(速報値)の削減を達成しています。

また、公共部門等の脱炭素化について、関係府省庁間の緊密な連携を確保し、必要な検討や取組の円滑な実施を図るため、「公共部門等の脱炭素化に関する関係府省庁連絡会議」を2023年9月に設置しました。

さらに、この計画に基づく取組に当たっては、2007年11月に施行された国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約の推進に関する法律(平成19年法律第56号)に基づき、温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約を実施しました。

(2)地方公共団体実行計画

地球温暖化対策推進法に基づき、全ての地方公共団体は、自らの事務・事業に伴い発生する温室効果ガスの排出削減等に関する計画である地方公共団体実行計画(事務事業編)の策定が義務付けられています。また、都道府県、指定都市、中核市及び施行時特例市は、地域における再生可能エネルギーの導入拡大、省エネルギーの推進等を盛り込んだ地方公共団体実行計画(区域施策編)の策定が義務付けられているほか、その他の市町村においても区域施策編の策定が努力義務とされています。さらに、市町村が、住民や事業者などが参加する協議会等で合意形成を図りつつ、環境に適正に配慮し、地域に貢献する再生可能エネルギー事業を促進する区域を定める、「地域脱炭素化促進事業制度」が設けられています。加えて、2023年4月から「地域脱炭素を推進するための地方公共団体実行計画制度等に関する検討会」を開催し、地域脱炭素化促進事業制度の施行状況等を踏まえ、地域共生型再エネの推進を中心に、地域脱炭素施策を加速させる地方公共団体実行計画制度等の在り方について議論を行いました。地方公共団体や民間事業者等に対するヒアリングも行い、2023年8月に取りまとめを公表しています。

環境省は、地方公共団体の取組を促進するため、地方公共団体実行計画の策定・実施に資するマニュアル類の公表や、「自治体排出量カルテ」を始めとした、温室効果ガス排出量の現況推計に活用可能なツールを提供しているほか、地方公共団体職員向けの研修を実施しています。2023年度は、当該マニュアル・ツールの改定に加え、地域における再生可能エネルギーの最大限の導入を促進するため、「地域脱炭素実現に向けた再エネの最大限導入のための計画づくり支援事業」を通じて、地方公共団体における再生可能エネルギーの導入計画の策定や円滑な再エネ導入のための促進区域設定等に向けたゾーニング等の取組支援を実施しました。

地球温暖化対策推進法に基づき、引き続き都道府県や指定都市等において、地域における普及啓発活動や調査分析の拠点としての地域地球温暖化防止活動推進センター(地域センター)の指定や、地域における普及啓発活動を促進するための地球温暖化防止活動推進員を委嘱し、さらに関係行政機関、関係地方公共団体、地域センター、地球温暖化防止活動推進員、事業者、住民等により地球温暖化対策地域協議会を組織することができることとし、これらを通じパートナーシップによる地域ごとの実効的な行動変容を促進する取組の推進等が図られるよう継続して措置しました。