環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第3章 持続可能な地域と暮らしの実現>第1節 地域循環共生圏の実践・実装

第3章 持続可能な地域と暮らしの実現

私たちの暮らしは、森里川海からもたらされる自然の恵み(生態系サービス)に支えられています。かつて我が国では、自然から得られる資源が地域の衣・食・住を支え、資源は循環して利用されていました。それぞれの地域では、地形や気候、歴史や文化を反映した、多様で個性豊かな風土が形成されてきました。そして、地域の暮らしが持続可能であるために、森里川海を利用しながら管理する知恵や技術が受け継がれ、自然と共生する暮らしが営まれてきました。我が国の文化は、自然との調和を基調とし、自然とのつきあいの中で日本人の自然への感受性が培われ、伝統的な芸術文化や高度なものづくり文化が生まれてきました。しかし、戦後のエネルギー革命、工業化の進展、流通のグローバル化により、地域の自然の恵みにあまり頼らなくても済む暮らしに変化していく中で、私たちの暮らしは物質的な豊かさと便利さを手に入れ、生活水準が向上した一方で、人口の都市部への集中、開発や環境汚染、里地里山の管理不足による荒廃、海洋プラスチックごみ、気候変動問題等の形で持続可能性を失ってしまいました。さらに、海外への資源依存や急速な都市化の進展、人口減少・高齢化等によって、人と自然、人と人とのつながりが希薄化し、従来のコミュニティが失われつつあります。

国全体で持続可能な社会を構築するためには、各々の地域が持続可能であることが必要です。各地域において、その鍵となる地域循環共生圏の実装を進め、経済社会システム、ライフスタイル、技術といったあらゆる観点からのイノベーションを創出しつつ、新たな成長を実現していきます。私たちの消費行動を含むライフスタイルやワークスタイルにおいても、価格重視ではなく環境価値の適切な評価を通じ、相対的に環境負荷が低い製品やサービスの積極的な選択や、より環境に配慮した製品やサービスの創出を促進し、新たな需要を生む好循環を形成することが重要です。また、限られた資源を有効活用することで、天然資源の利用及び加工による環境負荷の削減を実現し、大量生産・大量消費・大量廃棄型の生産や消費に代わる、持続可能で健康的な食生活やサステナブルファッションなど持続可能な消費に基づくライフスタイル、ウェルビーイングの在り方を示すことが重要です。さらに、地域ならではの自然とそこに息づく文化・産業を活かした持続的な地域づくり等を推進する中で、各地域の自然が有する価値を再認識し、人と自然のつながりの再構築、人間性及び感受性の回復、健康増進、子どもの健全な発育等を推進することも重要です。

第3章では、地域やそこに住んでいる人々の暮らしを、環境をきっかけとして豊かさやウェルビーイングにもつなげ得る取組をご紹介します。

第1節 地域循環共生圏の実践・実装

1 地域循環共生圏

地域循環共生圏は、地域資源を活用して環境・経済・社会を良くしていく事業(ローカルSDGs事業)を生み出し続けることで地域課題を解決し続け、自立した地域を作るとともに、地域の個性を活かして地域同士が支え合うネットワークを形成する「自立・分散型社会」を示す考え方です。地域の主体性を基本として、パートナーシップの基で、地域が抱える環境・社会・経済課題を統合的に解決していくことから、ローカルSDGsともいいます(図3-1-1)。

図3-1-1 地域循環共生圏の概念
(1)地域循環共生圏づくりプラットフォーム

地域循環共生圏を創造していくためには、地域のステークホルダーが有機的に連携し、環境・社会・経済の統合的向上を実現する事業を生み出し続ける必要があります。環境省は2019年度より、「環境で地域を元気にする地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業」を行い、ステークホルダーの組織化を支援する「環境整備」と、事業の構想作成を支援する「事業化支援」を行っています。さらにこの事業の中で、地域循環共生圏に係るポータルサイトの運用も行っており、「しる」「まなぶ」「つくる」「つながる」機会等を提供することで、全国各地におけるローカルSDGsの実践を一層加速させています。

事例:製炭による、捨てない経済循環と働きやすいシステムづくり(地域価値協創システム)

北海道オホーツク地域で活動する地域価値協創システムは、多様な人々が安心して働き暮らせる、分散型の自然共生社会を実現するため、連携した社会福祉NPOが核となり、地元の廃棄農作物や間伐材などの未利用資源を活用した製炭事業に取り組んでいます。作業には障がい者を雇用し、できあがったバイオ炭は農地にすき込んで土壌改良と炭素固定を図るなど、農業、環境、福祉の関係者がネットワークを形成しながら協働して取り組んでいます。さらに「SDGs実践セミナー」や「地域価値エコシステムセミナー」を開催して情報を発信し、地域循環共生圏づくりの輪を広げています。このように、今まで形成してきたネットワークを活用して金融機関、高校、商工会議所、行政といった多様な方を巻き込みながら、社会福祉と環境保全が融合した新たな地方創生ビジネスモデルで活動人口を増やすと共に、地域経済の活性化を目指しています。

製炭炉での製炭作業風景、廃棄野菜を炭化させたもの(=バイオ炭)

事例:里山整備副産物を利用した海洋資源保全に関するコンソーシアムの構築(ローカルSDクリエーション)

福井県丹南地域は豊かな山と海があり、環境保全やそれらを活用した交流体験活動が盛んです。ローカルSDクリエーションは、個々の小さな活動団体同士が互いに補完し合いながら、地域の自然資源を基盤に活動を持続していけるようなプラットフォームづくりを行っています。

荒廃竹林の整備では、「エコ・グリーンツーリズム水の里しらやま」が中心となり、不要になった竹を用いて魚礁を製作し、ダイビングショップと連携して海に設置、その効果をシュノーケリングにより観察するなど、里山から里海へフィールドを超えたつながりを形成します。あわせて、旅行会社などの協力を得ながら、一連の活動にアウトドアクッキング等も取り入れた「えちぜん里山体験ツアー」といった形で収益化することで環境活動として持続させることに繋げています。

竹林整備体験の様子、竹魚礁の設置風景

事例:人々の心と暮らしを支える水縄(みのう)連山SDGs(田主丸・未来創造会議)

福岡県久留米市田主丸町は、水縄(みのう)連山と筑後川を有する豊かな自然に囲まれ、神事・伝統行事などの日本文化が色濃く残る地域です。田主丸・未来創造会議は、多彩な農業とその暮らし・文化に愛着や誇りが持てる地域を目指しています。田主丸財産区と連携し、J-クレジットを活用して森林の価値向上を図ったり、神事・伝統行事の継承と活用(地域活性化や観光)のために、久留米市「筑後川遺産」への登録、動画「語る、田主丸。」の公開、ツアープログラムの試行をするなど、地域が抱える課題の解決を通した経済の活性化を目的に活動しています。また、同会議のオブザーバーでもある「くるめすたいる」は地域情報誌の発行により、同会議の活動を広く発信しています。

その一方で、令和5年7月の豪雨により田主丸町が大規模な土石流災害に見舞われたことを受け、同年11月に「里山とともに生きる暮らし~災害を体験して、300年前の教訓に学ぶ~」と題し、災害や里山について語り合う災害復興シンポジウムを開催しました。このシンポジウムでは、田主丸の災害の歴史を交えた里山と人のつながりについて講演が行われたほか、地元の方々が語り合う場が設けられ、被災時の心境だけでなく、これからの田主丸町について想いを共有する機会となりました。

災害復興シンポジウム「里山とともに生きる暮らし~災害を体験して、300年前の教訓に学ぶ~」、シンポジウムでの語り合いの場の様子
(2)グッドライフアワード

環境省が主催するグッドライフアワードは、日本各地で実践されている「環境と社会によい暮らし」に関わる活動や取組を募集し、表彰することによって、活動を応援するとともに、優れた取組を発信するプロジェクトです。国内の企業・学校・NPO・地方公共団体・地域・個人を対象に公募し、有識者の選考によって「環境大臣賞」「実行委員会特別賞」が決定されます。受賞取組を様々な場面で発信、団体間等のパートナーシップを強化することで、地域循環共生圏の創造につなげていきます。

コラム:持続可能な地域を未来へつなぐ「菜の花エコプロジェクト」の取組(愛のまちエコ倶楽部)

202件の応募から第11回グッドライフアワード環境大臣最優秀賞に輝いたのはNPO法人愛のまちエコ倶楽部です。「菜の花エコプロジェクト」は1998年に滋賀県東近江市から始まった、びわ湖のせっけん運動をルーツとしています。菜の花栽培を含む菜たね油の製造、そして、廃食油を回収しバイオディーゼル燃料の精製を行う、廃食油の地域内資源循環の取組です。2005年には、本プロジェクトの拠点である「あいとうエコプラザ菜の花館」が建設され、指定管理者であるNPO、市民、行政、専門家の協働で25年にわたって事業を継続しています。

菜の花栽培から精製された菜種油「菜ばかり」

コラム:おむすびを通じてお米の消費を拡大し、日本の農業に貢献する取組(イワイ)

1999年創業、環境負荷の軽減に配慮した「環境保全型農業」で栽培されたお米のみを使用しています。契約農家とは、変動する市場価格にとらわれず継続してお米を作れるよう固定価格で買取り、店内で手むすびしたおむすびを販売しています。また、定期的にお米の生産地域の子供たちに食育教室を実施し、日本の食事情や環境問題とともに、身近な地域のお米がおむすび権米衛を通じて世界中で高く評価されていることを伝えています。

特別栽培・無農薬米のみ使用した美味しいおむすびとして「おむすび権米衛」をブランディング

コラム:温泉で石油ゼロ!熱をフル活用するSDGs温泉旅館の取組(鈴の宿 登府屋旅館)

2010年に導入したヒートポンプは大浴場であふれた排湯を貯めて、熱交換により加温したものを館内の暖房や給湯へ供給することにより、石油の使用量がゼロになりました。また、2014年には車椅子ユーザー向けの館内バリアフリー化にも積極的に取り組んでいます。2023年からは捨てられていたユーカリや、温泉熱を活かしたサウナが完成するなど、温泉と旅館をSDGsの観点で見つめなおし、活動しています。

ヒートポンプ導入により温泉熱を活用している図

コラム:昔の暮らしにならい、環境になるべく影響を及ぼさず生きる-それを「現実的な選択肢」とする取組(そこそこ農園)

昔の暮らしにならい、できるかぎり生活全体が環境に影響を及ぼさないよう意識しながら、山里の古民家に住み、田畑を耕作し、他所からなるべく持ち込まず他所になるべく捨てず、近隣住民と協力しながら小さく生活しています。現代日本で波及するよう、究極を目指すのではなく「そこそこ」に誰にでもできる、難しい技術の要らない、楽しく無理のないところを目指し、こんな生活を選ぶ人が増えるようにと、体験希望者や取材を随時受け入れています。

昔の暮らしにならった「そこそこの暮らし」の素晴らしさを実践し発信中

事例:農業×観光×生物多様性保全で磨き上げる脱炭素型農村モデルづくり(福岡県うきは市)

2030年度までにネット・ゼロ実現を目指す脱炭素先行地域の一つ福岡県うきは市では、特産のフルーツ栽培を軸に脱炭素に取り組んでいきます。果樹剪定枝や放置竹林を木質バイオマスボイラーの燃料に活用するほか、バイオ炭を製造して農地の土壌改良と炭素貯留に活用します。また、「みどりの食料システム戦略推進交付金」を活用して有機農業・減化学肥料栽培の普及にも取り組み、農業の脱炭素化と併せて付加価値を高めることで他産地との差別化や持続可能な農業の振興を図っていきます。観光農園や道の駅では太陽光発電と蓄電池を導入し、観光用車両や農業用運搬車のEV化を進めます。新設する地域エネルギー商社(仮称)が再エネの調達や供給の中心を担うとともに、利益は省エネ診断事業等の地域課題解決や、生物多様性を学び保全する仕組みづくりに活用する計画です。

福岡県うきは市のいちごや梨等の観光農園の様子

事例:環境教育を通じた高校生による地域循環共生圏づくり(山口県立周防大島高等学校)

周防大島にある唯一の高校である山口県立周防大島高等学校では、島全体を学びの場とする「島じゅうキャンパス」のコンセプトの下、学校独自教科「地域創生」を設定し、多様なステークホルダーと連携しながら地域循環共生圏づくりに取り組む授業を展開しています。このうち普通科の科目「フィールドワークII」では、「政策アイデアコース」の生徒が地域の魅力を活かしつつ地域経済活性化等の課題解決を目指すエコツーリズム企画の考案や、島の環境資源であるニホンアワサンゴの保全を目指したクラウドファンディングの実施など、持続可能な地域づくりについて学習・実践しました。このように、学校自体がその地域づくりの中間支援機能を発揮しています。また、こうした取組も評価され、2026年4月(予定)に山口県立大学の附属高等学校となることが決まりました。

周防大島町 地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業(イメージ)、島じゅうキャンパス(イメージ)
ニホンアワサンゴの飼育の様子、考案した企画案を関係者等に発表している様子

事例:再生可能エネルギーを活用した地域振興について(山形県酒田市)

山形県酒田市には、県内の年間電力消費量の6割程度を発電する火力発電所が酒田港に立地しており、その周辺には、風力、太陽光、バイオマス等の多様な再生可能エネルギーの発電施設が整備されています。山形県沖は風況がよく、洋上風力発電の立地に適していることから、酒田港が洋上風力発電整備のための基地港湾として、また、運用や維持管理の際の港として活用されることや、再生可能エネルギー由来の電源を求める製造業等の誘致による地域振興も期待されています。2050年カーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギーの導入を進める一方で、地域の基幹産業である火力発電所の在り方は、関連産業を含めた経済活動や雇用に与える影響が大きいため注目されています。地域における持続可能な経済活動と脱炭素化の両立の実現にあっては、今後、地域の関係者がこれまで培った経験を活かした事業形態変更による新たな事業展開やリスキリング等の研修も含めて雇用機会を確保するなど、公正な移行を図ることが重要な鍵となり、そのモデルケースの一つになる可能性を秘めています。

エネルギー供給拠点を担う酒田港

事例:文化を継承し、新たな文化を創り出す~「銘仙」着物のアップサイクル~(Ay)

群馬県前橋市にあるAyは、創業者が大学生であった2020年に設立され、群馬県の文化や歴史を発信するという思いの下、群馬県の名産品である「伊勢崎銘仙」の着物をアップサイクルし、洋服や小物等の製品の企画、生産、販売を行っています。

銘仙は、発色の良さや抽象柄・幾何学模様等のモダンな柄が特徴の絹織物で、現在は職人の高齢化や市場の縮小等により、地域によっては生産が途絶えるなど、衰退の一途を辿っています。

銘仙の特徴を活かしたAyのアップサイクル製品は、製造工程を全て地元群馬県の工場で行い、また銘仙以外の生地も天然素材やサステナブルな素材を使用するなど、製品のライフサイクルにおける環境負荷への配慮だけでなく、製糸・織物業が基幹産業であった群馬県の歴史と産業の発信にもつながっています。

産業の衰退・生産者の減少等により、銘仙の生地の量は有限であるため、現在は銘仙の柄のデータ化等を行い、オリジナルの生地を開発して雑貨や現代風の浴衣を生産するなど、文化の保存と継承を超えて新たな文化を創り出し、発信することに挑戦しています。

伊勢崎銘仙、アップサイクル製品の写真

2 ESG地域金融

地域の金融機関には、地域資源の持続的な活用による地域経済の活性化を図るとともに、地域課題の解決に向けて中心的な役割を担うことが期待されています。このような環境・経済・社会面における課題を統合的に向上させる取組は、地域循環共生圏の創造につながるものであり、地域金融機関がこの取組の中で果たす役割を「ESG地域金融」として推進することにより、取組を深化させていくことが重要です。

(1)ESG地域金融実践ガイド3.0

環境省では、地域の持続可能性の向上や環境・社会へのインパクト創出等に資する地域金融機関の取組を支援し、事業の実施を通じて得られた知見や具体的な事例について取りまとめ、2024年3月に「ESG地域金融実践ガイド3.0」として公表しました。このガイドは、金融機関としてのESG地域金融に取り組むための体制構築や事業性評価の事例をまとめるとともに、事例から抽出された実践上の留意点や課題等について分析したもので、地域金融機関が参照しながら自身の取組を検討・実践する助けとなる資料となっています。

(2)地方銀行、信用金庫、信用組合等との連携

地域金融機関は地域循環共生圏の創造に向けて中心的な役割が期待されることもあり、地域の様々なセクターとの積極的な連携が図られています。地域金融機関との頻繁な意見交換や勉強会の開催のほか、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく情報開示の支援等を含めて各種の事業を通じて実際の案件形成・地域の課題解決をサポートしています。環境省は、2020年12月に一般社団法人第二地方銀行協会と「ローカルSDGsの推進に向けた連携協定」を締結しました。さらに、2022年6月には、一般社団法人全国信用金庫協会及び信金中央金庫と「持続可能な地域経済社会の実現に向けた連携協定書」を締結しました。こうした連携協定等に基づき、地域金融機関との連携の下で、地域脱炭素を始めとした施策を推進しています。