環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第3節 自然再興(ネイチャーポジティブ)

第3節 自然再興(ネイチャーポジティブ)

第1章で述べたとおり、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(以下「新枠組」という。)が採択されました。我が国では新枠組を踏まえ、2023年3月に新たな生物多様性国家戦略「生物多様性国家戦略2023-2030」(以下、「新国家戦略」という。)を閣議決定しました。

新枠組には2030年ミッションとして「ネイチャーポジティブ」(自然再興)の考え方が取り入れられました(図2-3-1)。このネイチャーポジティブは、愛知目標をはじめとするこれまでの目標が目指してきた生物多様性の損失を止めることから一歩前進させ、損失を止めるだけではなく回復に転じさせるという強い決意を込めた考え方です。新枠組の採択に先立ち、G7各国は2021年にイギリスで開催されたG7コーンウォール・サミットの首脳コミュニケの附属文書である「G7 2030年自然協約」でネイチャーポジティブにコミットし、COP15に向けた機運を高めてきていました。また、ネイチャーポジティブはいわゆる自然保護だけを行うものではなく、社会・経済全体を生物多様性の保全に貢献するよう変革させていく考え方であり、世界経済フォーラム(WEF)等、経済界からも注目を浴びています。

図2-3-1 昆明・モントリオール生物多様性枠組の構造

新国家戦略は「2030年ネイチャーポジティブ」の実現を目指し、「生態系の健全性の回復」や「ネイチャーポジティブ経済の実現」など、5つの基本戦略を掲げています。本節では、新国家戦略の概要とその実施のための代表的な取組を掲載します。

1 生物多様性国家戦略2023-2030の策定

(1)2030年ネイチャーポジティブに向けた5つの基本戦略

国内では、COP15第二部での新枠組の決定に先立ち、新たな生物多様性国家戦略の策定に向けた検討を2019年度から行ってきました。

2019年度から2021年度にかけては、新たな生物多様性国家戦略策定に向けた課題の洗い出しと取組の方向性を示すため、有識者からなる「次期生物多様性国家戦略研究会」が開催され、新たな生物多様性国家戦略策定に向けた提言となる報告書が2021年8月に取りまとめられました。

この報告書や、我が国の生物多様性や生態系サービスの現状の総合的な評価として2021年3月に公表した「生物多様性と生態系サービスの総合評価2021(JBO3)」、2021年1月に公表した「『生物多様性国家戦略2012-2020』の実施状況の点検結果」などを踏まえた、中央環境審議会での議論が2021年8月に開始されました。中央環境審議会では、自然環境部会の下に生物多様性国家戦略小委員会が設置され、7回の小委員会で議論が重ねられた後、2023年3月に開催された第46回自然環境部会において、新国家戦略の案を答申することが決定され、3月16日に武内和彦自然環境部会長から西村明宏環境大臣に答申書が手交されました(写真2-3-1)。これを受け3月31日に新国家戦略が閣議決定されました。

写真2-3-1 西村明宏環境大臣(右)に答申書を手交する武内和彦中央環境審議会自然環境部会長

新国家戦略は、新枠組に対応した戦略であり、「2030年ネイチャーポジティブ」を達成するための5つの基本戦略を掲げ、生物多様性損失と気候危機の2つの危機への統合的対応や、2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30目標」の達成等を通じた健全な生態系の確保や自然の恵みの維持回復、自然資本を守り活かす社会経済活動の推進等を進めるものとなっています。

また、各基本戦略には、あるべき姿(状態目標)及びなすべき行動(行動目標)を設定しました。これらは、新枠組で設定された4個のグローバルゴールと23個のグローバルターゲットにも対応しています。さらに、各行動目標別に政府が取り組む施策を整理しました。これらにより、基本戦略から個別施策までを一気通貫で整理した戦略となっています(図2-3-2)。

図2-3-2 生物多様性国家戦略2023-2030の構造
(2)実施の強化

2020年までの生物多様性に関する国際目標であった愛知目標では各国の国別目標の設定に柔軟性が認められていたために、各国が設定する国別目標の範囲やレベルが必ずしも整合していなかったことが、完全に達成できた目標がなかった要因となりました。この反省を踏まえ、新枠組は愛知目標と比較して、世界目標の達成に向けた各国の取組の進捗状況を点検・評価するグローバルレビューの実施等のレビューメカニズムが大幅に強化されました。

また、新枠組の実施に当たっては、政府だけではなく地方公共団体などの多様な主体による取組やその参画も重要視されています。

これらを踏まえ、新国家戦略の推進においても、生物多様性国家戦略2012-2020と比較して、関連施策の実施状況を測る指標を大幅に増加させたほか、各状態目標及び行動目標の達成状況を測る指標を別途設定することとし、効果的・効率的な進捗評価をしやすくしています。また、評価を踏まえた指標や個別施策の見直しやグローバルレビューの結果等を踏まえた本戦略自体の見直しについても必要に応じて検討することとしています。

また、30by30目標をはじめとする新国家戦略の目標達成は、国の取組だけではなし得ず、地域が主体となった地域に根ざした取組が不可欠です。

地域に根ざした取組を進めるためには、地方公共団体が策定する生物多様性地域戦略の役割が重要です。各地方公共団体が新国家戦略を踏まえた目標設定を含め、地域の課題解決につながる生物多様性地域戦略を策定できるよう、マニュアルの提供や技術支援により、地域の伴走支援を進めていきます。

2 生態系の健全性の回復に向けて

私たちが、生態系から生み出される自然の恵みを将来にわたって享受していくためには、その源である生態系が健全であることが不可欠です。しかしながら、第1章で述べたように、陸と海の利用の変化や生物の直接的採取、外来種の侵入などの要因により、生物多様性や生態系サービスの状態は世界的に悪化しています。生態系を健全な状態にしていくためには、保護地域の指定・管理や希少種の保護等に加え、普通種が生息・生育する身近な自然環境を保全することを含め、生態系全体を俯瞰した視点が必要です。

本項では生態系の健全性の回復に向けた取組のうち、保護地域の拡充に加え、民間の取組等を活用してより広範な地域を保全する30by30目標達成に向けた取組や、我が国の生態系全体に影響を及ぼすおそれのある外来種対策について論じます。

(1)30by30目標の達成に向けた取組

新枠組では30by30目標が主要な目標の一つに位置付けられました。2030年までに30%を保全するという目標は明解で響きがよいだけではなく、多くの研究成果においても生物の絶滅リスクの低減や生態系の連結性の向上などの面で30%を保全する必要性が述べられてきたところです。また、2021年に開催されたG7コーンウォール・サミットで首脳コミュニケの附属文書として採択された「G7 2030年自然協約」でも、G7各国で30by30目標に向けた取組を進めることを約束するなど国際的な機運も高まっていました。

30by30目標は、生物多様性の損失を止め、人と自然の結びつきを取り戻す「ネイチャーポジティブ」実現のための鍵となることから、我が国では新枠組の決定に先駆け、国内の30by30目標の達成に向けた「30by30ロードマップ」を2022年4月に公表するとともに、取組をオールジャパンで進めるため、有志の企業、地方公共団体、NPO等で構成される「生物多様性のための30by30アライアンス」を発足しました。

我が国では、現在、陸地の約20.5%、海洋の約13.3%が国立公園等の保護地域に指定されていますが、その大部分は山岳地域に集中しています。国土全体の生態系の健全性を高めていくためには、里地里山のように人が手を入れることによって維持されてきた自然環境や、生物多様性に配慮した持続的な産業活動が行われている地域を活かしていくことが重要ですが、様々な土地利用の形態を考慮すると、法的な行為規制を伴う保護地域の拡張には限界もあります。

このため、30by30目標を達成するためには国や地方公共団体だけではなく、民間の取組と連携していくことが必要であり、国立公園等の保護地域の拡充とともに、保護地域以外で生物多様性の保全に資する地域(Other Effective area-based Conservation Measures、以下「OECM」という。)を設定していくことが重要です。環境省では、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」として認定する仕組みを2023年度から開始します。例えば、企業の水源の森や都市の緑地、ナショナルトラストやバードサンクチュアリ、里地里山や森林施業地など、企業、団体・個人、地方公共団体が所有・管理する多様な場所が対象になります。2023年中に少なくとも100か所以上の認定を目指し、認定された区域は、保護地域との重複を除きOECMとして国際データベースに登録していきます。海域については、多面的な利用と生物多様性保全の両立が図られる海域をOECMとすべく、該当箇所の整理を進めていきます。

「30by30目標」が単なる数値目標ではなく、自然を守り、更に活用していくための重要な合言葉として、我が国の生態系の多様さを表現したものとなり、産民官が連携した取組促進の起爆剤となるよう、「生物多様性のための30by30アライアンス」を2022年4月に発足させました。400者以上に及ぶアライアンスの参加メンバーをはじめとした多くの事業者や民間団体、そして国民一人一人の力を結集し、産民官の取組によって、可能な限り多くの自然共生サイト認定地を広げていきます。

これらの自然共生サイトやOECM等の民間の活動を促進することで、良質な自然資本(ストック)形成を通じた持続可能な成長を推進し、生物多様性の保全のみならず地域活性化、国土保全、観光や農林水産業の振興などにつなげていくことが重要です。

(2)国立・国定公園総点検事業フォローアップ

30by30目標を達成するため、保護地域の更なる拡充のための取組として、2010年に実施した「国立・国定公園総点検事業」のフォローアップを2021年度から2022年度にかけて行いました。この中で、生態系や利用に関する最新のデータ等に基づき指定・拡張の候補地について再評価した上で、全国で14か所、国立・国定公園の新規指定・大規模拡張候補地としての資質を有する地域を選定しました。選定の結果、国立・国定公園の新規指定候補地として、前回総点検事業からの継続を含めた4地域(日高山脈・夕張山地(国立公園の新規指定)、野付半島・風蓮湖・根室半島(国定公園の新規指定)、御嶽山(国定公園の新規指定)及び宮古島沿岸海域(国定公園の新規指定))を選定しました。また、国立・国定公園の大規模拡張候補地として、新たに4地域(八幡平周辺(森吉山・真昼山地・田沢湖等)、奥只見・奥利根、能登半島、阿蘇周辺の草原)を選定しました。さらに、前回総点検事業で選定された国立・国定公園の大規模拡張候補地のうち、未了の6地域(知床半島基部、佐渡島、南アルプス、三河湾、白山、対馬)は継続することとしました。これらの候補地については、2022年度以降、基礎情報の収集整理を継続するとともに、自然環境や社会条件等の詳細調査及び関係機関との具体的な調整を開始し、2030年までに順次指定・拡張することを目指します(図2-3-3)。

図2-3-3 「国立・国定公園総点検事業」フォローアップにおいて選定された国立・国定公園の新規指定・大規模拡張候補地
(3)外来種対策の推進

外来種の脅威に対応するため、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号。以下「外来生物法」という。)に基づき、我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種を特定外来生物として指定し、輸入、飼養等を規制しています。しかし、外来生物法の施行後も特定外来生物の分布拡散や生態系等への被害の拡大が続いているほか、近年、人の生命・身体にも甚大な影響を及ぼすヒアリの国内での確認事例が増加し、専門家から我が国への定着の瀬戸際であると警鐘を鳴らされる等、外来種対策の強化が急務となっています。

このため、2022年5月の特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の一部を改正する法律(令和4年法律第42号。以下「改正外来生物法」という。)により、ヒアリなど意図せず国内へ入ってきてしまう外来種への対策の強化、アメリカザリガニなど現状で規制がかかっていないが広く飼育されている外来種への規制手法の整備、地方公共団体など各主体との防除等の役割分担の明確化等による防除体制の強化を行いました。本改正を踏まえ、ヒアリ対策については、発見時の通報体制の整備等の対象事業者が取るべき措置について対処指針の告示等を行い、関係事業者との連携を強化し、ヒアリの国内定着を阻止していきます。アメリカザリガニやアカミミガメについては、飼養等に関する基準の策定を行っています。これと併せて、在来の生態系の本来の姿と現状、生き物を飼育することに伴う責任について、普及啓発を進めています。また、地方公共団体による特定外来生物の防除等について、交付金を新設するとともに、新たに特別交付税措置の対象としました。さらに、専門家の派遣等、財政的・技術的支援の強化を進めていきます。

コラム:アメリカザリガニ・アカミミガメの放出を防ぐ─普及啓発の強化─

改正外来生物法により、一部の規制がかからない形で特定外来生物(条件付特定外来生物)を指定することが可能となり、アメリカザリガニ及びアカミミガメを、2023年6月より条件付特定外来生物に指定することになりました。本指定により、両種の野外への放出等が禁止される一方、一般家庭では手続きなく、引き続き飼育等することができます。両種の野外への放出を防ぐためには、規制の内容だけではなく、水辺の生態系等へ大きな被害を与えること、最後まで飼い続けること(終生飼養)の重要性について、広く国民の理解を深めていくことが重要です。

そのため、環境系エンターテイナーのWoWキツネザル氏と連携し、自然環境局長も出演し、アカミミガメの終生飼養を促す動画を作成しました。また、アメリカザリガニの適切な飼い方等について伝えるイラストを作成しました。作成した動画やイラストは環境省SNSで発信し、子どもを含む幅広い人々へ向けた普及啓発を行いました。引き続き学校教育等の機会やSNSも活用しつつ更なる情報発信を行い、両種の野外への放出を防ぐ取組を推進していきます。

アカミミガメの終生飼養を促す動画

3 自然を活用した社会課題の解決

自然を活用した解決策(NbS:Nature-based Solutions)は、自然が有する機能を持続可能に利用し、多様な社会課題の解決につなげる考え方であり(図2-3-4)、第5回国連環境総会再開セッション(2022年3月)において「自然を活用して気候変動や自然災害を含む社会的課題に対応し、人間の幸福と生物多様性の両方に貢献するもの」と国連としての定義がなされています。湿地等の雨水貯留・浸透機能の確保・向上により洪水被害を緩和するといった生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR:Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)や都市内に樹林や草原を配置することにより都市域の高温を緩和し熱中症リスクを低減するといった生態系を活用した適応策(EbA:Ecosystem-based Adaptation)等も含む比較的新しい包括的な概念であり、COP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の目標にも位置づけられています。これらはいずれも自然の有する多機能性を活かすことで、気候変動や生物多様性、社会経済の発展、防災・減災や食料問題など複数の社会課題の同時解決を目指すアプローチとして注目されており、近年関心がより高まりつつある自然による癒しや人の健康への好影響等の波及効果も期待されています。NbSを地域で実践していくことは、地域の経済社会を活性化させ、自然を活かした豊かな地域づくりにつながるものであり、基本的な考え方や地域における実践手法を整理し普及を図っていきます。

図2-3-4 NbSの概念図

また、NbSの中でも、気候変動による災害の激甚化といった環境の変化と同時に、人口減少や高齢化、社会資本の老朽化といった社会状況の変化が進んでいる我が国において、自然が持つ多様な機能を活用して災害リスクの低減等を図るグリーンインフラやEco-DRRの取組を進めることは急務となっています。

環境省では、Eco-DRRの適地を示す「生態系保全・再生ポテンシャルマップ」の作成・活用方策の手引きとその材料となる全国規模のベースマップを2023年3月に公開しています。これらの取組を通して、グリーンインフラやEco-DRRによる災害に強く自然と調和した地域づくりを促進していきます(図2-3-5)。

図2-3-5 生態系保全・再生ポテンシャルマップ

事例:関東地域エコロジカル・ネットワーク形成によるコウノトリ・トキの舞う地域づくり事業

自然を活用した地域づくりの一例として、「コウノトリ・トキの舞う関東自治体フォーラム」による取組があります。同フォーラムは、千葉県野田市、埼玉県鴻巣市、栃木県小山市が中心となり2010年7月に発足し、2022年4月時点で関東5県27市町が参加しています。

朝日に輝くコウノトリ

このフォーラムは、県域を越えた広域の自治体連携によるエコロジカル・ネットワークの形成と地域づくりのシンボルとなるコウノトリ・トキの野生復帰の取組を通じ、人と自然が共生する魅力的な地域づくりと、地域の自立的な発展に貢献していくことを目的に活動しています。

これまでに、野田市による8年連続のコウノトリの野外放鳥をはじめ、河川域(堤外地)での生息環境整備、水田域(堤内地)での環境保全型農業への取組等の様々な事業が着手され、これらの活動の成果として、ラムサール条約湿地「渡良瀬遊水地」の人工巣塔(小山市)において、コウノトリの野外繁殖が3年連続で実現しています。

2021年10月からは、荒川中流域の鴻巣市でもコウノトリの飼育が開始されるとともに、2022年8月には環境省による「トキとの共生を目指す里地」に本フォーラムの加盟自治体が選定され、コウノトリ・トキをシンボルとした関東圏の魅力ある地域づくりへの推進が、一層期待されています。

4 ネイチャーポジティブ経済に向けて

(1)ビジネスにおける主流化

気候変動分野では、その対策と経済活動との好循環を目指す動きが活発です。

生物多様性分野においても、TNFDによる自然資本に関する情報開示の国際的な動きに合わせて、企業が生物多様性に配慮した活動を実施するに当たり定量的な目標を設定するためのガイダンスを開発している、Science Based Targets for Nature(SBTs for Nature)などの動きがあります(写真2-3-2)。

写真2-3-2 第1回TNFD日本協議会会合(キックオフイベント)

TNFDは、「目標」の設定や測定において、SBTs for Natureが開発しているアプローチを取り入れ、科学的根拠に基づく自然に関する目標を設定することを推奨しています。

国内においては、現在環境省において「ネイチャーポジティブ経済研究会」を設置し、議論を行っています。具体的には、ネイチャーポジティブ経済の実現に当たっての課題や、その実現により生じるビジネスチャンス、各主体の役割等について、2023年度中に、ネイチャーポジティブ経済移行戦略(仮称)として取りまとめることを目指しています。

また、事業者が実際に生物多様性に関する取組を行うに当たり参考とできるよう、「生物多様性民間参画ガイドライン」の改訂版を2023年4月に公表しました。改訂版では、生物多様性に関する最新の動向(経営との関わり、昆明・モントリオール生物多様性枠組、国家戦略、目標設定、情報開示等)に加え、金融を含む事業者に関する生物多様性への依存と影響及びそれらを巡るリスクとチャンスについて解説しています。また、実際に取り組むに当たっての「基本的プロセス」を明確にし、プロセスごとに取組の内容を解説するとともに、定量的な影響評価・目標設定の方法と具体的な指標、情報開示の方法、情報開示に関する先進的な枠組みであるTNFD や、TNFDが参照することとしている目標設定に関する枠組み(SBTs for Nature)の例等も紹介しています。

(2)2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)

人間の暮らしを支える根幹である生物多様性を保全するには、単にその場の自然環境を守るだけでなく、生物多様性の恩恵を受ける社会全体で生物多様性の価値を理解し、守る行動をしていかなければなりません。

このような社会全体の取組を推進するため、2011年から2020年までの「国連生物多様性の10年」(UNDB)については、「国連生物多様性の10年日本委員会」(UNDB-J)が、愛知目標達成、生物多様性の主流化を目指して活動してきました。

2021年11月には、30by30目標を含む「ポスト2020生物多様性枠組(後の昆明・モントリオール生物多様性枠組)」等の国際目標や新たな国家戦略等の国内戦略の達成に向け、国、地方公共団体、事業者、国民及びNGOやユース等、国内のあらゆるセクターの参画と連携を促進し、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取組を推進するため、UNDB-Jの後継組織として「2030生物多様性枠組実現日本会議」(Japan Conference for 2030 Global Biodiversity Framework、以下「J-GBF」という。)を設立しました。

2023年2月に開催された総会では、J-GBF十倉雅和会長(経団連会長)から、ネイチャーポジティブの実現に向けた社会経済の変革を目指す、「J-GBFネイチャーポジティブ宣言」を発表しました(写真2-3-3)。

写真2-3-3 J-GBF総会にてネイチャーポジティブ宣言を掲げる十倉雅和J-GBF会長(右)と西村明宏環境大臣

これを受け、J-GBFでは、構成団体によるネイチャーポジティブ行動計画の策定、企業や国民の具体の行動変容を促す取組強化、様々なステークホルダー間の連携を促し枠組構築を図るための、総会及び各種フォーラム、イベント等の開催や普及啓発ツールの紹介等を行っていきます。

事例:MS&ADインシュアランスグループによる湿地再生の取組

自然の機能を活用して社会課題を解決するNbSの取組として、同グループは、自社の経営理念(ミッション)・事業戦略に基づき、球磨川流域の熊本県球磨郡相良村「瀬戸堤自然生態園」での湿地再生を実践しています。

九州地方に甚大な被害をもたらした2020年7月豪雨を受けて、熊本県が推進する「緑の流域治水」と連携し、熊本県立大学等の研究機関、地域コミュニティ等、産官学の様々なステークホルダーを巻き込み、同グループのサステナビリティ重点課題「地球環境との共生(Planetary Health)」に資する中長期的な取組として、「MS&ADグリーンアースプロジェクト」に位置づけられています。

「瀬戸堤自然生態園」は、上流の源頭部に位置する湿地を再生して貴重な生きものの棲息環境を整えると同時に、下流への雨水流下量の減少による洪水緩和の機能を有しています。また、周辺の樹林地の手入れとバイオ炭づくりによる脱炭素、そのバイオ炭の農地に埋設による台地の水はけの改善、ひいては雨水浸透を高め、防災減災につなげることや、そうした取組による農作物の付加価値化も視野に入れており、マルチベネフィットを生むポテンシャルを有しています。このようなフィールドでの実証は、専門家とのネットワークにより、自然が持つ多面的な機能に対するインパクト評価等の見える化や、産官学の連携を通じた地域におけるOECM推進のケーススタディとしても期待されます。

同グループはこうした活動を通じて、レジリエントでサステナブルな社会づくりに解決すべきリスクに関わる新たなソリューションのアイディアが生まれることを目指しています。

湿地再生の未来イメージ

このように、第2章では、炭素中立(カーボンニュートラル)、循環経済(サーキュラーエコノミー)、自然再興(ネイチャーポジティブ)の同時達成に向けた取組を見てきました。GXをはじめとするこれらの取組を加速させることで、持続可能性を巡る社会課題の解決と経済成長の同時実現により新しい資本主義に貢献し、将来にわたって質の高い生活をもたらす新たな成長につなげていきます。こうして、3つの同時達成を実現させることは、環境・経済・社会の統合的向上につながります。その統合的向上の鍵となるのが地域循環共生圏です。第3章では、地域循環共生圏の更なる進展をはじめとする持続可能な地域とくらしの実現について論じていきます。